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Free for All / Art Blakey and The Jazz Messengers

今回はArt Blakey and The Jazz Messengersの64年録音「Free for All」を取り上げてみましょう。

1964年2月10日録音 @Van Gelder Studio, Englewood Cliffs Engineer: Rudy Van Gelder Producer: Alfred Lion Blue Note Label / BST 84170
ds)Art Blakey tp)Freddie Hubbard ts)Wayne Shorter tb)Curtis Fuller p)Cedar Walton b)Reggie Workman
1)Free for All 2)Hammer Head 3)The Core 4)Pensativa

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Blakeyの圧倒的なドラミングがまとめ役となり、バンドメンバー一丸となってライブレコーディングの如き、いやそれを上回るほどのテンションで演奏が盛り上がっています。Art Blakey and The Jazz Messengers(JM)のひとつの頂点と言って過言ではありません。オールスターズのメンバーですが、音楽監督も務め、メンバー異動があっても不動であったWayne Shorterの参加が注目されます。Benny Golsonの後釜でShorterが加入したのがスタジオ録音では60年3月録音の「The Big Beat」から(59年末には既に在団していました)、前任者Golsonの音楽監督も的確でしたが、Shorterが引き継いだ事によりJMのサウンドがぐっと引き締まり、以降の音楽的方向性も定まりました。

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Lee Morgan, Shorterのフロントラインでライブ盤も含め、7作が彼らを擁したクインテットでのJMです。61年6月録音の「!!!!!Impulse!!!!!Art Blakey!!!!! Jazz Messengers!!!!!!」(何というタイトルでしょう!)からトロンボーンにCurtis Fullerが加わり、黄金のラインナップ、3管編成のJMが形作られました。

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61年10月録音「Mosaic」では3年余り在団したMorganが離れ、新しいトランペット奏者にFreddie Hubbardが加入します。

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ピアニストCedar Waltonが加わったのが62年3月録音のライブ盤「Three Blind Mice」、62年10月録音のやはりライブ盤「Caravan」からベーシストにReggie Workmanが参加し、このメンバーでのJMが稼働し始め、合計6作をリリースしました。個人的にこの頃の作品のクオリティが特に高いと感じています。

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ですが蜜月状態も長きに渡り続くことはありませんでした。ShorterはJMに足掛け4年在団しましたが、「Miles in Berlin」64年9月Miles Davisクインテットに引き抜かれたため、バンドは時計の大切な歯車が欠けた状態に陥りました。同時に個性の強いミュージシャンの集合体であったJM(このバンドに限ったことではありませんが…)は、Shorterが音楽監督である以前にバンドのムードメーカーであり、リーダー、メンバーの仲介役として欠かせない存在であった事でしょう。その彼の不在は極論バンドの衰退〜崩壊を意味します。同時期にWaltonとWorkmanの退団もありました。多くのテナー(アルト)奏者がその後JMに去来しましたがShorterの代役は誰にも務まりませんし、務まりようがありません。One and Onlyな個性を強力に放ちつつも常に自然体、その存在自体が特異なものでありながらもサイドマンとしてリーダーの音楽性を確実に踏まえつつ、自己の音楽性も反映させるバランス感。これらは彼の音楽面、人間関係全てに当てはまる事なのでしょう。このようなテナー奏者、ミュージシャンは他にその存在を知りません。JMはShorterロス後、作品毎にメンバーチェンジを繰り返しながら音楽シーンが混沌とした60年代、70年代をバンド自体メンバーが定まらず、ずっと混沌としていた事に乗じて(笑)乗り切り、80年代以降Wynton Marsalis, Branford Marsalis, Terence Blanchard, Donald Harrison, Bobby Watsonたちサックス奏者の参加で再生したのです。

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それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目はShorterのオリジナルにしてタイトル曲Free for All、Randy Breckerがこの曲のタイトルをもじってFree Fallという曲を書いています。曲想は全く異なりますがストレートアヘッドなアップテンポの佳曲、Randy, MichaelのBrecker兄弟実は大のJMファン、父親の影響で聴いていたジャズのレコードの1枚が本作なのでしょう。かつてMichaelと話をしていて話題がジャズレコードになりました。「タツヤがモダンジャズ史上最も重要と思うアルバムは何だろう?」僕には予てからの想いがあったので、すかさず「MilesのKind of Blueだね」と答えると、「Don Grolnickが同じ意見だったよ。それは興味深いね、確かにKind of Blueも重要な作品だと思うよ」Michaelらしい人の話を尊重しつつ、控え目に自分の意見をさらっと述べる物言いです。そして僕も「Michaelにとっての最重要アルバムは何?」と尋ねると、彼もすかさず「Art BlakeyのFree for Allだね」との返答がありました。その時にはあまりピンと来なかったので理由を特に尋ねることはしませんでした。アルバムの存在を知っており聴いた事はありましたが、Michaelが最重要と挙げるほどの意義を正直感じなかったのです。しかし今回Michaelのプレイや彼のテイストに想いを馳せながら繰り返し聴き直し、本作の有り得ないエネルギー、テンションの高さ、他のジャズアルバムにはない独特のパッションを感じ取る事が出来ました。僕が未聴だけなのかも知れませんが、スタジオ録音でこれだけの盛り上がりを聴かせ、かつ繊細さと緻密さを併せ持つ作品は他にないでしょう。ミュージシャンの結束の強さに加え、各々が個性を100%発揮しつつもあくまでリーダーの掌の中で、主役Blakeyの表現願望を実現するための名脇役が勢揃いです!この辺りをMichaelがプッシュする理由のひとつと推測しました。
Free for All、テーマメロディに十分休符、スペースがあり、Blakeyがフィルインを自在に入れられるようにとの、作曲の時点でShorterの音楽的配慮を感じます。それにしても凄まじいまでのBlakeyのナイアガラロール!明らかに50年代よりもヴァージョンアップしたドラミングです!ドラマーが曲のテーマを演奏する場合、まずリズムキープ、そしてより大切なのが曲に対するカラーリング〜色付けです。メロディやキメをしっかりと映えさせるための、ドラミングによるオブリガート、この作品でのBlakeyの色付けはテクニカル的にも音楽的にも彼にしか成し得ないアートの表出です。ソロの先発は作曲者自身、彼でしか響かす事のできない独特のテナーサウンド、フレージング、良きところでバックリフが入りますが、ソロはまだまだ続きます!もっと後にバックリフが挿入されても良かったかも知れません。感極まったメンバーの掛け声も何度か聴かれますが、これも演奏の一部と解釈できます。続いてのトロンボーン・ソロ、Blakeyを始めとするバックのピアノトリオのテンションはキープされそのままトランペット・ソロに入ります。それにしてもHubbardの吹く8部音符の端正さ、リズムのスイートスポットをドンピシャに押さえたタイム感、スインガー振りにはいつもながら敬服してしまいます!トロンボーンの時には演奏されなかったバックリフがちょうど良いところで入ります。Hubbardのソロにはリズム隊を刺激する要素があるのでしょう、Blakey大暴れの巻です!その後ピアノのソロになると思いきや、ごく自然にドラム・ソロになります。Blakeyが一瞬「あれっ?オレのソロ?」と言った風情でソロを叩き始めるのに何だか可愛らしさを感じます。もしくはテープ編集がなされてピアノソロをカットしている節が伺えなくもありません。14年日本発売のSHM-CDにはこの曲の2ndテイクが収録されていますが、演奏の途中でBlakeyのドラムセットが壊れてしまい、プロデューサーのLionが途中で演奏を止めさせたそうです。そりゃあこんなに激しく叩きまくっていれば楽器も悲鳴をあげて壊れもしますぜ(爆)

2曲目もShorterのオリジナルHammer Head、トンカチのような頭の形をしたシュモクザメの事ですが、デクノボウ、のろまの意味もあるそうです。こちらもバンマスに心ゆくまでカラーリングを施して貰うべく、メロディにリズミックな部分と対比的に休符を配した曲想に仕上がっており、シャッフルのリズムが更にBlakeyのドラマー魂を刺激して素晴らしいビートを繰り出しています。この曲もShorterがソロの切り込み隊長を努めます。Waltonのバッキングも的確でいて刺激的、バンド全体もMoanin’を彷彿とさせる伝統的JMスタイルの演奏です。続くHubbard実に良く楽器が鳴っています!Fullerも曲想に沿うべく健闘しています。1曲目でソロが無かった分、Waltonの左手のコードワークを含めてプレイがフレッシュです。以上がレコードのSide A、Shorter色で占められていました。

3曲目からのSide BはHubbardコーナーになります。彼のオリジナルThe CoreはCongress of Racial Equality=民族平等会議、公共施設における人種差物の廃止を主な活動目的にしている団体、こちらに捧げられたナンバーです。Workmanの短いベースのイントロはかつて在籍していたJohn Coltrane Quartetの演奏を彷彿とさせるもの、リズムセクションのみ〜ホーンを伴ったその後のイントロ〜テーマ奏、4度のインターバルのメロディもさりげに挿入され、実にカッコ良いです!こちらもShorterが再びソロの先発、イヤ〜ここでのソロもイってます!フリーキーな領域まで達し、シングルタンギングを生かしたバックリフとの絡み具合もGoodです!続くHubbardのソロから急に曲目がLove for Saleに変わってしまいました(爆)!この引用フレーズ後のソロの展開も実に熱く、ジャズスピリット満載のフレージングです!リズムセクションも大変な盛り上がりをキープしています。トロンボーンソロではまた違ったバックリフが聴かれ、細やかな対応を示しています。ラストテーマを迎え、エンディングにはヒューマン・フェイドアウトが施されています。

4曲目はピアニスト、コンポーザーClare FischerのオリジナルPensativa、こちらをHubbardがアレンジしました。Fischerオリジナルの演奏はBud Shankがメロディをクールに演奏しているブラジリアンなボサノバ・ナンバー(Fischer自身は米国人ですが)、こちらはホットなジャズ・テイスト満載のヴァージョンに仕上がっています。Hubbard本人特に気に入っていたようで自己のアルバム65年録音「The Night of the Cookers」でLee Morganを迎え、2トランペットで再演しています。

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Hubbardのブリリアントから燻んだ音色、音量の強弱ppからffまでを使い分けての多彩なメロディ奏、男の色気を十二分に感じてしまいます。実は曲の構成、キー、コード進行いずれも難易度が超高いのですが、豊かなイメージを伴って、いとも容易くソロを取っており、スペースの取り方も素晴らしいですね!間(ま)を歌っているが如きです。このソロを受け継ぐShorterもいつになくメロウに、彼なりの独特な美学に基づいたメロディアスなアドリブを聴かせています。HubbardのセンスをしてShorterに別な語り口をさせたのでしょう、きっと。後ろで感極まり騒いでいるのはBlakeyですね、多分。彼はShorterの演奏、人柄が大好きですから!続くWaltonの端正なソロも素晴らしいのですが、Hubbard, Shorterふたりの真のジャズジニアスに比較すると些か物足りなさを感じます。その後ラストテーマへ、コーダではホーンセクションによるアンサンブルにピアノのオブリガートが絡みます。

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