見出し画像

Randy Waldman / UnReel

今回はピアニスト、アレンジャー、作曲家のRandy Waldmanの2001年発表リーダー作「UnReel」を取り上げてみましょう。Concord Label

アメリカを代表するアニメ、映画音楽の主題曲を題材に取り上げ、これまたアメリカ音楽シーンを代表するジャズミュージシャン、ジャズ系スタジオミュージシャンを一堂に集め、リーダー自身の華麗なるアレンジとピアノ演奏のもとb)John Patitucci ds)Vinnie Colaiutaとのリズムセクションをベースに曲毎にゲスト・ミュージシャンが目まぐるしくフィーチャリングされ、全編極上のジャズ演奏に仕上がっています。さながらディズニーランドのアトラクション、ブロードウェイミュージカル、ハリウッド映画、ラスヴェガスのカジノの如きお客様を必ずや満足させるアメリカンなエンターテイメント性と、ゴージャスで優れた音楽性とが見事に融合している作品です。

画像1

画像2

1)The Jetsons 2)My Favorite Things 3)Leave It to Beaver 4)Bali Hai 5)Schindler’s List 6)Hawaii Five-O 7)America 8)Mannix 9)Ben Casey 10)Raider’s March 11)Forrest Gump 12)Maniac

Randy Waldmanのバイオグラフィーを紐解いてみましょう。55年9月8日Chicago生まれ、5歳からピアノを始め、神童の誉れ高く既に12歳で地元のピアノ店でデモ演奏を行っていたそうです。21歳でFrank Sinatraのピアニストに大抜擢されツアーに出ました。その後The Lettermen, Minnie Riperton, Lou Rawls, Paul Anka, George Bensonといったアーティストのバンドでもツアーし、80年代には作曲アレンジの能力を買われてGhostbusters, Back to the Future, Beetlejuice, Who Framed Roger Rabbitといった映画のサウンドトラックを手がけ始め、83年にはThe Manhattan Transfer、85年Barbra Streisandに提供したヴォーカル・アレンジでGrammy賞を受賞しています。その後も快進撃は止まらずForrest Gump, The Bodyguard, Mission: Impossibleといった映画の音楽、Michael Jackson, Paul McCartney, Celine Dion, Beyonce, Madonna, Whitney Houston, Ray Charles, Quincy Jones, Stevie Wonder, Kenny G…といったアーティストたちとのコラボレーションも実現し、音楽制作、現場面でのアメリカを代表するミュージシャンの一人になりました。Waldmanは日本ではあまりその存在を知られておらず、それはひとえにリーダーとしての活動が目立たないからですが、本作の申し分ない出来栄えでしっかりと狼煙を上げる事が出来ました。因みに98年リリース第1作目の「Wigged Out」も本作と同じコンセプトでの演奏です。

画像3


前作から内容、編成的に格段にヴァージョンアップした本作、Waldmanは制作サイドの音楽家ではありますがジャズミュージシャンたるべく(アレンジャー、プロデュサー業が忙しいとピアノを弾く事が疎かになりがちです!)、日々の精進を怠らず(ジャズマンでいるためにはここが大切です!)音楽性を磨き上げ、いつもとは真逆の立場で自身のピアノプレイを全面的にフィーチャーしています。アメリカ人であったら誰もが知っているアニメ、映画音楽のナンバーを何の外連味もなく堂々と取り上げて演奏する事が出来るのも、裏方としてアメリカ音楽界を支えてきた立場ならではなのかも知れません。何しろWaldmanはピアノがメチャメチャ上手いです!以前触れたことのあるピアニスト、アレンジャーのJan Hammerに通じるところがある音楽性を感じます。何をやらせても器用な人なのでしょう、トランペッターとしても活躍し、本作でもホーンセクションでのアンサンブル演奏を担当しています。更には航空機とヘリコプターのパイロットでもあり、03年にはBell OH-58ヘリコプターでのスピード記録を樹立しています。

画像4


左がWaldman、右は盲目の世界的テノール歌手Andrea Bocelli

画像5

Bell OH-58ヘリコプター

それでは収録曲を見て行くことにしましょう。1曲目The Jetsons、アメリカで62年から63年まで、間が空き85年から87年まで計99話TV放送され、日本でもNHKで63年から「宇宙家族」というタイトルで毎週放送されました。超ハイテク化された未来社会、宇宙で生活する家族の日常を描いたアニメーション、僕自身たぶんリアルタイムでは見ていないと思いますが、再放送では何度も視聴し「未来社会の文明はこんなに凄いんだ!」と本気で感じた覚えがあります(笑)。

画像6


子供心にここでのテーマソングにワクワクした記憶があり、本作での演奏を初めて聴いた時に何だか懐かしさを感じました。近未来を暗示させる無機的なラインとひょうきんさを感じさせるメロディの混在がアニメの雰囲気をより明確にしています。
原曲のアレンジにかなり忠実に、超アップテンポのスイングビートで演奏されますが、オリジナルよりもリズム、アンサンブルのスピード感が際立ち、シャープさがたまりません! tp)Lew Soloff, Waldman sax)Dave Boruff tb,b-tb)Bob McChesneyたちの多重録音によるホーンセクションによりビッグバンド・サウンドに仕上がっています。ソロの先発はWaldman、端正でブライトなピアノタッチ、シャープなリズム感、理知的なソロラインはさすがユダヤ系ミュージシャン、とっても好みのタイプです!そしてフィーチャリング・ソロイストは我らがMichael Brecker、「The Jetsonsのテーマ曲でソロを取るなんて面白そうだね!子供の頃によくTVで観たな〜」というようなMichaelの会話が聞こえて来そうなくらい、ハーフテンポでのテーマの提示感、途中に入るホーンのアンサンブルとの絡み具合等、演奏を楽しみながらもチャレンジャブルなアドリブを聴かせています。リズムセクションとはダビング無しの生演奏、レスポンスが半端ありません!オープニングに相応しい軽快でインパクトのある演奏です。
2曲目は映画The Sound of Musicの主題曲My Favorite Things、数多くのミュージシャンが、それぞれ腕によりを掛けたアレンジでカヴァーしていますが、こちらも実にユニークな仕上がりになっています。この演奏のみベーシストがDave Carpenterにチェンジし、Studio City String Orchestraのストリングス・アンサンブルが加わります。印象的なベースラインの後、変拍子を効果的に生かしたピアノによるメロディ、フィーチャリング・ヴァイブ奏者Gary Burtonのメロディ、Carpenterによるメロディ奏と続きヴァイブ・ソロになります。ソロでは変拍子は用いられてはいませんが、コード進行にハイパーな代理コードがてんこ盛りです!ストリングスの響きがソロと絡み合い、その後の饒舌なピアノソロにも効果的に使われ、ベースパターンに乗った形でドラムソロ、ラストテーマはピアノとヴァイブによるアンサンブルで締め括られます。曲の持つリリカルなムードを的確に引き出したアレンジに仕上がっています。

画像7


3曲目はアメリカのTVドラマLeave It to Beaverの同名テーマ曲。57年から63年まで放送されました。50年代Californiaの典型的な中流家庭での、日常の出来事を題材にしていてBeaverは小学生の主人公、日本では確か民放で「ビーバーちゃん」というタイトルで平日夕方再放送していたように記憶しています。

画像8


ここではWaldmanのピアノとホーンセクション担当Bob McChesneyのトロンボーンソロをフィーチャーしています。Waldmanはもちろん、McChesneyも大変流麗なソロを聞かせています。
4曲目は49年のミュージカルSouth Pacificから、名作詞作曲コンビRichard Rodgers ~ Oscar HammersteinⅡの名曲Bali Hai、South Pacificは58年映画化され01年TVドラマとしても放送されました。

画像9


またもや印象的なリズムパターンによるマーチのリズムでMcChesneyのトロンボーン・メロディ、スイングのリズムでWaldmanのピアノソロ、そしてMichael Sembelloのギターとスキャットによるソロ〜大変密度の濃い演奏です!ラストテーマ後はリズムパターンを再利用でのドラムソロ、いや〜最後まで寸分の隙もないアレンジ、演奏です!
5曲目は93年Steven Spielberg監督による映画Schindler’s Listから同名曲。Branford Marsalisのソプラノサックスがフィーチャーされ、Studio City String Orchestraが加わります。こちらのアレンジも実に意欲的、Waldamanはまさにアレンジに対するアイデアの宝庫、泉のごとく湧き出ています!PatitucciのベースソロもWaldmanのコンセプトを的確に把握しつつ華麗に行われています。Branfordの音色は録音の関係かいつもと多少異なっていますが、メロウな吹き回しで自身のスタイルと曲想を上手く合致させています。

画像10


6曲目は68年から80年までアメリカでTV放送された刑事ドラマHawaii Five-Oの主題曲、人気を博した長寿番組で日本でも70年に一部が放送されました。Randy Brecker, Gary Grantのトランペット、Boruffのサックスがフィーチャーされます。いやいや、ここでEddie HarrisのFreedom Jazz Danceを持ち出してくるとは!!バッチリと融合し、物凄くイケてます!アレンジ・センスに脱帽です!先発ソロはRandy、いつもの変態ラインの中にパターン提示も聴かれます。ピアノソロを経てラストテーマへ、曲想は次第にFreedom Jazz Dance色の方が濃くなり、エンディングは何とFreedom Jazz Danceで終了、見事に曲が乗っ取られました!

画像11


7曲目57年ミュージカルWest Side StoryからAmerica、Leonard Bernstein作曲の名曲です。ここではまた意表をついたイントロからベース〜ピアノのメロディ奏、この曲を熟知しているアメリカ人もこのアレンジには驚いた事でしょう!フィーチャリングはMcChesneyのトロンボーンとPatitucciのベース、テナーのErnie Wattsです。Wattsのフレージングは僕にとっていつも謎ですが、テナーの音色は本当に素晴らしく、美しく楽器を鳴らしていると思います。テナーとトロンボーン2管のアンサンブルを従えたドラムソロ、エンディングも意表をついています。

画像12


8曲目Mannixは67年から75年まで米CBS系でTV放送されていた探偵モノの番組名、その主題曲です。日本で放送されたことは無いようです。作曲はスパイ大作戦の音楽で有名なArgentine出身のLalo Schifrin、Lew Soloffのフリューゲルホルン、Waldmanのピアノがソロを取ります。Kevin Clarkのギターが良い味付けをしているのが印象に残りました。

画像13


9曲目は61年から66年までアメリカで放送されたTVドラマBen Casey、同名主題曲です。総合病院の脳神経外科に勤務する青年医師ベン・ケーシーを主人公に、病院内での医者と患者との交流を通じて医師としての成長を描き、当時高い評価を得たメディカルドラマです。62年から日本でもTV放送され、なんと最高視聴率50%以上を記録しました。僕も随分と再放送を含め見たように思います。幾重にも捻られたイントロから耳馴染んだテーマが始まりますがオリジナルよりもかなり速いテンポ設定、これまた一筋縄では行かないアレンジです。そういえばタイトル画面にあった「♂ ♀ * † ∞」は「男、女、誕生、死亡、そして無限」という意味だそうで、子供には全く理解不能でしたが、今更ながらに深いものを感じます。因みに漫談家で白衣を着用し、怪しい医学用語を多用する芸風のケーシー高峰、彼の芸名はここから拝借したそうです(笑)
Tom ScottのテナーサックスがフィーチャーされPatitucci, Colaiutaの素晴らしいソロも聴かれます。

画像14


10曲目は監督Steven Spielberg、製作George Lucas、主演Harrison Ford、音楽John Williamsによる名作映画Indiana Jones, Raiders of the Lost Arkから主題曲Raiders March。原曲の旋律はよく聴かないと認識できない程にリアレンジされています。Waldmanのブリリアントなピアノの音色がメロディ奏にとても合致しており、フィーチャリング・ギタリストMichael O’NeilのソロとWaldmanのソロが良いバランス感を聴かせます。

画像15


11曲目Robert Zemeckis監督、Tom Hanks主演の映画Forrest Gumpの主題曲をここではWaldmanソロピアノで演奏しています。美しく明快なピアノタッチ、ラグタイムやスイング時代のテイストを交えつつ、底抜けに明るくハッピーエンドに仕上げています。

画像16


12曲目ラストに控えしは83年アメリカで公開された映画Flashdanceの挿入曲Maniac、作曲者Michael Sembello自身のギター奏、中性的なヴォーカルを全面的にフィーチャーしています。この曲のみフュージョン色が強い仕上がりになっており、Waldmanの演奏スタンスもいつものプロデューサー、アレンジャー的に前に出ずサポートに回っています。

画像17


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?