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The Cape Verdean Blues / The Horace Silver Quintet Plus J. J. Johnson

今回はピアニスト、作曲家、バンドリーダーHorace Silver1965年録音の作品「The Cape Verdean Blues」を取り上げてみましょう。

65年10月1日、22日Rudy Van Gelder Studio、Engineer : Rudy Van Gelder Producer : Alfred Lion Blue Note Label
tp)Woody Shaw ts)Joe Henderson tb)J. J. Johnson p)Horace Silver b)Bob Cranshaw ds)Roger Humphries
1)The Cape Verdean Blues 2)The African Queen 3)Pretty Eyes 4)Nutville 5)Bonita 6)Mo’ Joe

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多作家Horace Silver、その中でも60年代を代表する傑作アルバムです。大ヒットした「Song For My Father」の次作になりますが、そのヒットを音楽的に払拭して良くぞここまでの斬新な作品を作り上げました!参加メンバー、収録曲ともに大変充実したモダンジャズの名盤の一枚に数えられる作品です。基本的にはトランペット、テナーサックスをフロントに擁したクインテット編成ですが、レコードのB面、4曲目から6曲目はJ. J. Johnsonのトロンボーンを加えたセクステット編成になり、より重厚なアンサンブル、密度の濃い演奏を聴くことができます。

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Horaceの父親(「Song For My Father」のジャケ写の方です)がアフリカ大陸北西沖に浮かぶ旧ポルトガル領カーボベルデ(ケープベルデ、僕が高校の地理で習った時にはカポベルデと表記されていました)諸島出身です。レコードのライナーノーツ冒頭に記載されていますが①Horaceの幼少時代によく父親がポルトガル語でカーボベルデの民謡を歌ってくれた ②ブラジルのリオ・デ・ジャネイロを訪れた際、友人のドラマーDon Um Romao(パーカッション奏者としてWeather Reportに72~74年在籍していました)にサンバのリズムを習った ③アメリカの古き良きファンキーなブルースを愛して止まない、以上3点にHorace自身がインスパイアされてCape Verdean Bluesを書いたそうです。2曲目のThe African Queenもアフリカ西海岸Ivory Coast出身のミュージシャンPierre Billonに紹介されたアフリカの幾つかの民謡にインスパイアされて書かれました。この作品の楽曲はハード・バップの延長線上にありますが、独特のエキゾチックさと相俟って他の作品には無いエスニック・フレーバーがちりばめられているのはこのためです。

メンバーにも触れてみましょう。トランペッターWoody Shaw、この録音当時若干20歳!この作品では既に知的かつオリジナリティに溢れ、アグレッシブでありながらリリカル、デリカシーさを痛感させる素晴らしいプレイ、個性的な音色を聴かせています。大物の風格を湛えたニューカマーの登場です。同世代のトランペッターFreddie HubbardやRandy Brecker、Charles Tolliver、Eddie Hendersonらと一線を画する独自のスタイルをこの時点で確立させていたのは驚異的、Horaceとはこの作品が初共演となります。テナーサックスJoe Hendersonは前作からの留任になりますが、本作に於いても最重要キーパーソン、彼の演奏無しにはこの作品の抜群のクオリティはあり得ません。絶好調ぶりを本作中遺憾なく発揮しています。WoodyとJoe Henのコンビによる演奏はこの後ほかでも聴かれ、例えば本作の2日間に渡る録音65年10月1日と22日の直後、11月10日にオルガン奏者Larry Youngの名作、Elvin Jonesを擁したカルテット編成での「Unity」(因にBlue Noteカタログ番号も一つ次の4221)が同じくBlue Note Labelで録音されています。僕個人もこの二人がフロントの作品を目にしたら思わず手に取ってしまうでしょう。彼らの参加作にハズレはありません。両者の演奏が互いに化学反応を起こし、各々一人づつの演奏時に比べて何倍ものスイング感をバンド全体を巻き込みながら引き出すのです。のちにJoe Henのリーダー作、Woodyの諸作にお互い参加し合い、当時の混沌としたジャズシーンの最先端を行く超個性的な演奏スタイルの二人、さぞかし気が合い切磋琢磨しつつ、陽気でハイテンションのJoe Hen、寡黙で思考型Woodyのコンビで演奏していたのではないでしょうか。

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トロンボーン奏者J. J. Johnsonは既に大御所的な存在感での客演、レコードのタイトルにも敬意を表されたクレジットがなされています。60年代一世を風靡していたArt Blakey And The Jazz Messengersの3管編成がトランペットFreddie Hubbard、テナーサックスWayne Shorter、そしてトロンボーンCurtis Fullerに対抗するにはJ. J.の参加を仰ぐしかなかったでしょう。多かれ少なかれ人選にはその意識があったと思います。J. J.の豪快な音色とソロ、的確なアンサンブル・ワークで本作レコードのB面はJazz Messengersに引けを取らないどころか、むしろ凌ぐ内容を聴かせています。「僕はずっとJ. J.を自分のバンドに使いたかったけれど、なかなかスケジュールが合わなかったんだ。」とHoraceの発言しています。更に「今回彼と一緒に演奏出来たのは良かった。彼は素晴らしいミュージシャンだけでなく、仕事を共にする上でとても協力的な人物だった。我々バンドのメンバーはとんでもない刺激を彼から受けたよ」と手放しで褒めています。共演の念願叶ったのがこの作品の成功の一因でもあると思います。

ベーシストBob Cranshawは堅実でステディなベースワークから数多くのミュージシャンのサポートを務め、本作でも実に素晴らしいon topなプレイを聴かせています。後年交通事故により背中を痛めアップライトベースを弾くことが困難になり、エレクトリックベースにスイッチしましたが継続的に演奏活動を行い、知られるところではかのSonny Rollinsのレギュラー・ベーシストとして永年その存在感をアピールしました。ドラマーRoger Humphriesも前作からのHoraceとの付き合い、スイングビートも素晴らしいですが、ラテンがまた実に的確、リズムの美味しいポイントでビートを繰り出しグルーヴしています。職人技ドラマーの代表格の一人です。リーダーHorace Silverは自身のオリジナルを5曲提供し作曲の才能をますます開花させ、ピアノプレイも相変わらずのマイペースぶりを披露し、転びそうな、つんのめった独特のリズム感により一聴彼だと分かる個性を十二分に発揮しています。
ところでレコードジャケットに写っているアフリカ系の美女は一体誰でしょう?前作「Song For My Father」に自分の父親の写真を掲載したくらいですから、今回もかなり近しい存在の女性だと思われます。緑豊かな広葉樹の中に佇む女性本人も緑色の服装、おまけに緑色っぽい帽子まで着用しています。ひょっとしたら収録曲The African Queenに肖っているのかも知れませんね。

1曲目表題曲のThe Cape Verdean Blues、何とオリジナリティに溢れた曲でしょう!管楽器のメロディがピアノのバッキングとコール・アンド・レスポンス形式になっています。サンバのような、カリプソのようなリズムはカーボベルデとブラジル、アメリカの古典的なブルースが合わさったものなのでしょうが、Horace独自のセンスが光っています。ピアノ奏者Don Grolnickのアルバム「Medianoche」でも取り上げられ、Michael Breckerがソロを取っていますが、リズムセクションの醸し出す雰囲気からか、Grolnick自身のコンセプトなのか、原曲でのおどろおどろしい感じはなく、寧ろスッキリした明快な演奏に仕上がっています。

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2曲目The African Queen、メロディ自体はペンタトニック・スケールから出来ているシンプルなものですが、ダイナミクスが半端ではありません!これだけの構成、一体どのようなアフリカの民謡に影響を受けたのか、原曲を聴いてみたいものです。ソロの先発Joe Hen、フォルテシモ時にオーヴァー・トーンやフリーク・トーンを駆使して盛り上げていますが、最後はBen Websterばりの低音のサブトーンでうまくまとめています。現代の耳ではこれらの特殊奏法は比較的当たり前に聴こえますが、65年当時では驚異的なテクニックでした。Joe Henの斬新さを改めて感じます。Woodyもお得意の4度のインターバル・フレーズやハイノートでバッチリ対応しています。
3曲目Pretty Eyes、伝統的なジャズワルツですが後半にグルーヴが8分の6拍子っぽく変わるのがドラマチックです。フロントの二人、Horace共々良いソロを取っています。
4曲目Nutville、いよいよJ. J.を加えた3管編成での演奏開始です!そしてこの曲の演奏は本作のメインイベントでしょう。
ベースパターンも印象的なアップテンポの変形マイナーブルース、斬新なホーンのハーモニー、ラテンとスイングが交互に入れ替わる実にカッコ良い曲です。端正なリズム、グルーヴで演奏が繰り広げられています。先発はJ. J.、極太でコクのあるトロンボーンの音色は他の人では絶対に真似できません!後半2コーラスにバックグラウンドのアンサンブルが入り、合計4コーラス演奏しています。続くWoody、スネークインしてソロが始まります。2コーラス目の冒頭でMichael Breckerお得意のフレーズに良く似たラインが出てきますが、Michaelもこのソロがひょっとしたらヒントになっているかも知れません。と言うのも実は兄のRandy BreckerはWoodyのソロをコピーして研究していたそうで、The Brecker Brothers Bandのレパートリーである「Return Of The Brecker Brothers」収録のAbove And Belowという彼のオリジナルでは、曲のメロディラインにWoodyのフレーズのアイデアを用いたと言われています。バックグラウンドのアンサンブルなしで3コーラス演奏しています。20歳の若者が取るクオリティのソロではありませんね。構造的なアドリブの中にも豊かなニュアンス、色気も感じさせつつ、クールさの中にも物凄いテンションです!続くJoe HenはJ. J.と同様に4コーラスソロをとっていますが、いや〜本当に素晴らしい内容です!Joe Henフレーズのオンパレードですが、何しろ彼のストーリーテラーぶりに感動してしまいます。ソロの構築の仕方、意外性、ダイナミクス、3〜4コーラス目に出てくるバックグラウンド・アンサンブルにもソロが呼応しているように聴こえます。そしてテナーサックスのエグエグな音色の素晴らしさ!この頃の彼の楽器のセットアップですがテナー本体はSelmer Mark6、56,000番台。マウスピースは同じくSelmer Soloist、オープニングはDかE、リードは多分La Voz Mediumです。映像や写真を見るとマウスピースSelmer SoloistはShort Shank、Long Shank両方使っていました。Van Gelderの巧みな録音技術でJoe Hen、その素晴らしい音色が一層輝いています。Horace節炸裂のピアノソロの際のバックグラウンド・アンサンブルでJoe Henのテナーが3管の中で一番良く聴こえています。小気味よいほどに巧みなドラムソロの後にラストテーマ、コーダを経てFine、大団円で演奏終了です。

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5曲目BonitaはPretty Eyesと何処か似た曲、エキゾチックなムード満載です。Horace56年録音の作品「Six Pieces Of Silver」収録曲のEnchantmentを発展させた曲、と本人解説しています。確認してみましたがそう聴けば聴こえない事もない、程度tです。ピアノソロ後のJoe Henのソロが実に曲想に合致していますが、続くJ. J.のソロもJoe Henの意思を受け継いだかの如き素晴らしい展開を聴かせ、Woodyのソロでしっかりと3管のソロリレーを終結させています。

6曲目作品ラストを飾るのはJoe HenのオリジナルMo’ Joe。ここでは管楽器3人の個性がよく表れたソロのオーダー、更にピアノ、ベースとハードバップ・セッション的にソロが繰り広げられています。Horaceは前作でも同様に彼のオリジナル曲The Kickerを取り上げていましたが、Joe Henのソングライティングに敬意を表していたのでしょう。ここでは3管編成のアンサンブル、ハーモニーがとても生きています。Mo’ Joe、The Kickerの2曲とも約2年後67年8月10日に同じくtp, ts, tbの3管編成で、改めてJoe Hen自身のリーダー作に於いて録音しています。「The Kicker」Milestone Label 68年1月リリース

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