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Odean Pope Saxophone Choir / Locked & Loaded featuring Michael Brecker, James Carter, Loe Lovano

今回はテナーサックス奏者Odean Pope, 2004年録音のリーダー作「Locked & Loaded」を取り上げてみましょう。サックス奏者が合計9名、うちテナー奏者が5名、アルト奏者が3名、バリトン奏者が1名から成るOdean Pope Saxophone Choirにゲスト出演でMichael Brecker, James Carter, Joe Lovanoの凄腕テナーマン3名が曲毎に加わるという、サックス奏者合計12名の大編成を収録したライブ作品です。ライナーノーツをOrnette Colemanが執筆しているというオマケまで付いています。

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The Odean Pope Saxophone Choir / Tenors: Odean Pope, Elliot Levin, Terry Lawson, Terrence Brown, Seth Meicht Altos: Jullian Pressley, Louis Taylor, Robert Langham Baritone: Joe Sudler Piano: George Burton Bass: Tyrone Brown Drums: Craig Mclver Recorded Live At The Blue Note, New York, December 13~15, 2004
Michael Brecker featured on tracks 2 & 5; James Carter, track 7; Joe Lovano, tracks 3 & 6; Odean Pope; tracks 1 & 5; Jullian Pressley, Louis Taylor, track 4.

リーダーのOdean Popeというテナー奏者を紹介しておきましょう。38年10月24日South Carolinaで生まれ、10歳の時に家族でPhiladelphia移住、若い頃にRay BryantやJymie Merrittに師事し同地で演奏活動を始めました。優れたジャズミュージシャンが多く住むPhiladelphiaにはLee Morgan, Clifford Brown, Benny Golson, McCoy Tyner, Jimmy and Percy Heath、そしてJohn Coltraneが身近な存在で、とりわけColtraneと親交があり、ColtraneがMiles Davisのバンドに加わるために当地を離れNew Yorkに向かう際、参加していたJimmy Smithのバンドの後釜にPopeを選んだそうです。Popeの演奏からは60年代中頃のColtrane的な要素を感じます。様々なミュージシャンとギグをこなし、James Brown, Marvin Gaye, Stevie WonderといったR&B畑でのバックバンド演奏も行っていました。60年代はオルガン奏者Jimmy McGriffやMax Roachのバンドで演奏活動を行い、特にRoachとは長期間演奏を共にして来日も果たし、作品も多数残しています。70年代からは本作と同じ編成のサックス奏者9名とピアノトリオから成るSaxophone Choirを率いており、彼のライフワークと言えましょう。Popeも多作家で今までに20作以上のリーダー作をリリース、編成としてはサックス・ソロからデュオ、トリオ、カルテット、サックス・クワイアまで、様々なメンバーと多彩に演奏しています。本作では収録曲の全てをアレンジ、Coltraneのオリジナル2曲以外は自身の作曲になります。

楽器の編成上、中低音域での重厚なアンサンブルが特徴のこのサックス・クワイア、さぞかしライブで聴いたらサウンド的にもヴィジュアル的にもインパクトがありそうです。ここにMichael, Lovano, Carterがソロイストで加わり文字通り「テナーサックス祭り」を繰り広げているのです!

特記すべきはMichael Breckerにとって晩年の演奏になり、本作のミックスダウンを行っていた2005年に難病である骨髄異形性症候群を発症、DNAタイプの合致する骨髄を移植するしか抜本的な治療法がなく、そのドナーを世界中に募っていました。ルーマニアをルーツにするMichaelのDNAは特殊なもので、あいにく家族を始め他の誰ともDNAが一致せず、最後はMichaelの娘Jessicaの細胞を移植して得た小康状態で、遺作となった06年8月録音名作「Pilgrimage」を録音しました。音楽家としての執念の結晶といえる名演奏、最後の力を振り絞り成し遂げたのです。病床で全曲書き上げたMichaelのオリジナルの素晴らしさも堪能する事が出来る作品です。

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それでは収録曲に触れていきましょう。1曲目Epitoneの冒頭で奏でられるアンサンブル、さすがサックス・クワイア9管編成のサウンドは分厚く、編成上聴いたことのない斬新なハーモニー感です!途中リーダーPope自身のテナーもフィーチャーされますがマルチフォニックスによる重音奏法やサーキュラーブレス(循環呼吸)奏法も聴かせ、Roland Kirkをイメージさせる濃厚な音楽性を披露しています。音色的にはやはりColtraneのテイストが感じられ、使用マウスピースはおそらくColtrane派テナー奏者御用達のOtto LinkのMetalでしょう。サックス・アンサンブルは強弱のダイナミクス、音の切り方、アタックの付け方、ピッチ感とも大変良く揃っていて素晴らしく、微に入り細に入り徹底的にリハーサルを積んでいるように感じられます。オープニングに相応しい哀愁を伴ったメロディを有する佳曲です。
2曲目は同名のアルト、フルート奏者に捧げたその名もPrince Lasha、彼はEric Dolphy, Elvin Jones, McCoy Tynerらとの共演歴があります。Michael Breckerを大フィーチャーしたアグレッシヴなアップテンポのモーダルなスイングナンバー。いやー、テンポが早くなるとサックス・クワイアのエグさが一層際立ちますね!ステージ上サックス奏者9人の熱い眼差しを背後から痛いほど感じつつ、Michaelは一心不乱に、ハードにブロウします!このレコーディング時には病でそろそろ体調に異変をきたしていた頃かも知れませんが、微塵も感じさせないプレイです!ソロ中に演奏されるバックリフもメチャイケてます!ドラムソロを挟んでラストテーマが演奏されますが、Michaelを含めたサックス奏者10名のフリークトーンとリズムセクションのクラスターによるエンディング、一体何の大騒ぎでしょうか?これまた聴いたことがない音のカオスです
3曲目CisはJoe Lovanoのテナーをフィーチャーした同じく哀愁系のミディアム・スイング・ナンバー、アルトのメロディ奏が美しく響きます。ここでのアカペラによる複雑で緻密かつ正確なアンサンブルを聴くと、Popeはセクションに参加せずにステージ前に出て指揮をしている可能性もあります。Lovanoも9人のサックス奏者の眼差しを受けつつ、ごんぶとの音色でLovano節を朗々と歌っています。
4曲目はColtrane作の美しいバラード・ナンバーCentral Park West、作者自身はソプラノで演奏しており60年録音「Coltrane’s Sound」に収録されています。主旋律を奏でるアルトの音域を敢えてフラジオを用いた高音域に行かないように途中から下げているようにも聴こえます。テーマ後のソリのアンサンブルもユニークなラインから成っています!フィーチャリングはJullian PressleyとLouis Taylorの2人のアルト奏者、彼らもColtraneスタイルのプレイヤーで流暢な演奏を聴かせます。サックス・クワイアの美しいハーモニー、サウンドも特筆もの、アレンジも個性的で聴きごたえ十分です!

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5曲目は再びColtraneのオリジナルでColtrane Time、これまたアップテンポのエグいナンバー、変態系(笑)メロディとアンサンブルの後ソロ先発はMichael、ドラムとのデュオで曲のモチーフを生かしつつフリーキーにソロを発展させていますが、Michaelには珍しいほどに徹底したフリーフォームでのアプローチは「殿、ご乱心を!」状態、そしてまさにColtraneの曲だから、ソロの終盤Michaelの音色もColtraneライクに変化しています!その後Popeのアカペラソロがスタート、ここでもマルチフォニックス、サーキュラーブレス、さらにオーヴァートーンも用いて彼独自の世界を作り上げています。Michaelの時と同様サックス・クワイアのアンサンブルが入りつつ、モチーフを用いて2人のバトルに突入です!互いを聞きながらのソロの応酬を踏まえ、次第に白熱、とうとう2人とも完璧にイッちゃいました(笑)!ドラムソロでテーマのモチーフを提示しラストテーマに入ります。
6曲目Terrestrialは再びJoe Lovanoをフィーチャーしたナンバー、やはりマイナー調のメロディが哀愁を誘います。フリーフォームでのソロとインテンポでのクワイアのメロディ奏との対比による構成になっています。後半のLovanoのアカペラソロからラストテーマに突入する部分が実に美しいです。エンディングのフェルマータのなんと長い事!まだ続いてます!
7曲目ラストを飾るのはJames CarterをフィーチャーしたラテンのナンバーMuntu Chant、Carterの独壇場です!この人も実にサックスが上手いですね!でも相当変態だと思いますが(笑)、MichaelとLovanoよりも録音上でのサックスの音像が引っ込んでいるのが残念ですが、演奏中殆どずっと鳴っているクワイアのアンサンブルも一因かも知れません。この人もサーキュラーブレス使いですね!フラジオ、マルチフォニックス、64分音符の超高速プレイ、ダブル〜トリプル・タンギング、超絶テクニック技のデパートの感があります。Popeのやりたい事をヴァージョンを格上げし、全て代弁していると言っても過言ではありません。エンディングはサックス・クワイア全員でのサーキューラー・ブレス大会!教祖を筆頭とした何かの集団のようにまで感じてしまいました(爆)!




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