見出し画像

Live In Montreux / Chick Corea

今回はChick Coreaがリーダーとなったオールスター・カルテットでの1981年7月15日、Montreux Jazz Festivalのライブを収録した作品「Live In Montreux」を取り上げてみましょう。

p)Chik Corea ts)Joe Henderson b)Gary Peacock ds)Roy Haynes
1)Introduction 2)Hairy Canary 3)Folk Song 4)Psalm 5)Quintet #2 6)Up, Up and… 7)Trinkle, Tinkle 8)So In Love 9)Drum Interlude 10)Slippery When Wet / Intro of Band

画像1

画像2

Coreaの着ているTシャツのロゴが可愛いです。さすがはMad Hatter!
アルプスの雪山を背景にしたRoy Haynesのタンクトップ姿もGood !
録音から13年後の94年にCoreaが主宰するレーベルStretch RecordsからCollector Seriesとしてリリースされました。ディストリビュートがGRP Labelになります。

メンバー良し、バンドの演奏テンション申し分なし、インタープレイ切れっ切れ、演奏曲目理想的、録音状態秀逸、オーディエンスのアプラウズ熱狂的と、名演奏の条件が全て揃い、それが実現したライブ作品です。Montreux Jazz Fes.では昔からコンサートを収録した名作が数多く残されています。スイスの高級リゾート地での真夏の演奏は、演奏者も聴衆も自ずとボルテージが上がるのでしょう。

70年代のCoreaは72年代表作「Return to Forever」を皮切りに数々の名作をリリースしました。「The Leprechaun」「My Spanish Heart」「The Mad Hatter」「Secret Agent」「Tap Step」、同時進行的にGary BurtonとのDuo諸作、自身のソロピアノ連作、フュージョンやロック寄りにサウンドが移行した、バンドとしてのReturn to Foreverでの作品群等、八面六臂の活躍ぶりを示しました。事の始まりとして68年ジャズピアニストとしての真骨頂を聴かせた「Now He Sings, Now He Sobs」(Roy Haynesがドラム)、以降実はアコースティック・ジャズの演奏はあまり聴かれませんでした。

画像3


時代がフュージョン全盛期だったのもありますが、78年「Mad Hatter」収録曲でJoe Farrell, Eddie Gomez, Steve Gaddというメンバーによる、その後も度々取り上げる事になる重要なレパートリーにして4ビートの名曲、Humpty Dumptyの演奏でアコースティック・ジャズへの回帰を一瞬匂わせ、同年同メンバーでフルアルバム「Friends」を録音、81年2月FarrellがMichael Brecker に替わり「Three Quartets」を録音し、ジャズプレーヤーとしての本領を発揮しました。当時我々の間でもFarrellの替わりにMichaelが入って演奏したらさぞかし凄いだろうと噂し、まさかの実現に驚いた覚えがあります。

画像4

画像5

画像6


以上の流れを踏まえた上での本ライブ盤になりますが、前作Three Quartetsがメンバー4人全員音楽的に同じベクトル方向を向いていて、例えばタイムの正確さ、シャープさ、リズム・グルーヴ、サウンドの方向性、バンドの一体感等、極論ですが言うなればデジタル的アコースティック・ジャズの様相を呈しているのに対し、本作はいわば正反対、参加プレイヤーのアナログぶりは感動的ですらあります!Joe Henderson、そしてRoy Haynesですから!

そういえばこの2人の共演をピアニストAndrew Hillの63年Blue Note第1作目リーダー作、「Black Fire」で聴くことができます。浮遊感に満ち、超個性的かつジャズの伝統に則ったHillの楽曲を2人実に的確にサポートしています。

画像7

Joe Hen79年作品「Relaxin’ at Camalliro」80年「Mirror, Mirror」自己のリーダー2作にCoreaを迎えて好演奏を聴かせています。本作ライブの実現はこれらの作品が引き金になっているのかも知れません。

画像8

画像9

それでは収録曲に触れて行きましょう。1曲目CoreaのオリジナルHairy Canary、「Three Quartets」CD化に際して未発表追加テイクで収録されているナンバーです。Coreaのリリカルで端正なタッチのイントロから演奏が始まります。曲のフォームとしては12小節のブルース、キーはCメジャーです。1コーラス目でJoe HenいきなりオーギュメントのG#音をロングトーン、エグく飛ばしてます!超ハイテンションでのJoe Henフレーズの洪水状態!Coreaのバッキングも実に活き活きと、テナーの演奏を受けつつ振りつつ、時に付かず離れず仕掛けています!フロントのソロに対してどんなバッキングを行えば演奏が引き立つかを熟知したサポートに徹していて、更にシンコペーションを多用したバッキングのリズムの位置が完璧なので、バンドのビートが活性化されています。4ビートは裏拍が命ですから。2’36″でのバッキングフレーズ、3’41″で演奏したフレーズを3’55″で再度HaynesとPeacockリズム隊全員ユニゾンで仕掛ける辺り、3人顔を見合わせてニヤリとした事でしょう!しかし実はこれ0’59″に端を発しているのです!Haynesのスピード感あるシンバルレガート、バスドラムの絶妙なアクセント、スネアやタムの全く的確なフィルイン、なんというグルーヴ感でしょう!全てが自然発生的、ドラムを叩かず音楽を奏でている真のジャズドラマーです。Peacockの堅実なWalking Bassがバンドの屋台骨になり、他のメンバーに思う存分演奏の自由さを与えています。ベースソロ後ピアノとドラムの1コーラス・バースが何コーラスかトレードされますが、PeacockはHaynesの複雑なドラムソロから、コーラス頭へのリズム提示を躊躇している風を感じますが、Coreaが絶妙なアウフタクトを演奏し確実に呼び込んでおり、他のプレーヤーを誘導できるCoreaのタイム感につくづく素晴らしさを感じてしまいます!ラストテーマ前の同じくシャウトコーラス(2ndリフ)のフレーズが難解なため、今度はHaynesの演奏にリズム提示への躊躇を感じます!
2曲目も「Three Quartets」に追加テイクで収録されているCoreaのオリジナルFolk Song、カッコいい曲ですね!前曲よりもストレートに演奏されています。とは言え先発Coreaの曲想に合致したリズミックなソロ、Joe Henのテナーの王道を行きつつも至る所にトリッキーなJoe Henフレーズを散りばめたスインギーなソロ、それにしても6’33″位から始まるリズミックで変態的なフレーズ、一体この人のフレージングセンスはどうなっているのでしょう?背筋がゾクッとするインパクトです!
3曲目CoreaのオリジナルPsalm、イントロでピアノの弦を弾いてパーカッシヴなサウンドを聴かせつつ、最低音の連打、様々な音色の表現、音量のダイナミクス、壮大なイメージを描いています。本当にこの人はピアノが上手いですね、マエストロ!曲自体はミディアムテンポのマイナーチューン、テーマ後Joe Henの先発ソロが始まります。比較的早い段階でCoreaがバッキングをやめ、Joe Henを放置状態。ピアノのバッキングはコード感、リズムの提示、そして時としてインプロビゼーションの起爆剤になり得ますが、演奏しないのもそれはそれで音楽表現のひとつです。「Go ahead, Joe !」とばかりのCoreaの意図を汲みアグレッシヴに盛り上げています!イントロ部分で饒舌に語った関係かCoreaの本編でのソロは殆ど無く、テナーのフィーチャー曲になりました。
4曲目もCoreaのナンバーQuintet #2、ピアノとテナーのメロディがユニゾンやハーモニー、対旋律に変化していく様が実にCorea的な美しいワルツです。ライブでこれだけのアンサンブルと美の世界を構築するのは並大抵な集中力では実現出来ません!このバンドの底力を感じる演奏です。Peacockのベースソロがリリカルで美しいです。
5曲目はPeacockのナンバーUp, Up and…、Corea自身のライナーノーツによるとこの曲は「Lyricism, Impressionism, Peacockism」とあります。アップテンポのスイングになってからのCoreaとJoe Henのソロは、表現すべき音楽がしっかりと見えている者だけが成しうる次元の演奏です!
6曲目はThelonious Monkの傑作ナンバーTrinkle, Tinkle、本作中白眉の演奏です。ちなみに本ライブの直後11月にHaynes, Miroslav Vitousとレコーディングした「Trio Music」の作品後半がMonk特集、ユニークなMonkナンバーを7曲も演奏していますが、このTrinkle, Tinkleは収録されていません。

画像10


いかにもMonkishなピアノのイントロからテーマが始まります。メロディのこのウネウネ感はJoe Henの演奏、フレージングや彼のオリジナルInnner Urgeにも共通したものを感じます。イヤ〜、ここでのJoe Henのソロの物凄さと言ったら!!水を得た魚のようとはこの事、どんなにか長くでも聴いていられる位に没頭してしまいます!ソロを煽る3人のバッキングもスゴイです!テナーソロ終了後に一節吹いたフレーズにも反応してしまうCoreaのソロに替わりますが、Joe Henのソロに華を持たせたのか、意外と短めに切り上げていますがPeacockのソロのバックでCoreaパーカッション的に色々な音を発しています。その後のピアノトリオ3者の絡み具合ってこれは一体何?後は無事にラストテーマを奏で大団円です。
7曲目はもう一つのハイライトCole PorterのナンバーSo In Love、実は冒頭のピアノ・イントロが1分近く編集され短くなって途中からの収録になります。恐らく収録時間の関係でのカット、コンプリートになるテイクが収録されたCDがこちら「Chick Corea Meets Joe Henderson / Trinkle – Tinkle」、曲名も同じ作曲者ですがI’ve Got You Under My Skinとミスクレジットされていて、いかにもBootleg盤らしいです。ですが演奏本編の方は特に編集の跡はなく、Joe Henの史上に残る大名演を聴くことができます!ソロが終わる時の8小節間Haynesが実に長い大きなドラマチックなスネアのフィルインを入れ、次のコーラス頭にアクセントが入り的確にテナーソロを終えさせている辺り、Haynesの音楽性の懐の深さをまざまざと感じてしまいます。「Joeのソロはこのコーラスで終わるようだから、一丁景気よくぶっ飛ばしてやるぜ!デーハなフィルインみんな気に入ってくれるかな〜?」みたいな下町の横丁のオヤジ的考えでしょうか?(謎)

画像11


8曲目は前曲So In LoveからHaynesのドラムソロに突入したDrum Interlude、9曲目Slippery When Wetのテーマのリズムを提示してからSlippery ~ 本編に入りますが、ここでもテープ編集が施され短い演奏になっています。編集前の演奏はかなりフリーキーな領域にまで到達していますが、やはり収録時間の関係でしょう、そしてやや冗長感も否めなかったのか、テーマ部分だけが上手い具合にドラムソロ後に加えられた形になっています。ジャズの名演奏にはテープ編集が効果的に用いられている場合がある好例です。Coreaのメンバー紹介のアナウンスがやや遠くから聴こえるのが、大会場でのコンサートを表しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?