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Tones, Shapes and Colors / Joe Lovano

今回はテナーサックス奏者Joe Lovanoの1985年リーダー作「Tones, Shapes and Colors」を取り上げたいと思います。

85年11月21日Jazz Center of New York Cityにてライブ録音  Label: Soul Note Engineer: Kazunori Sugiyama Producer: Giovanni Bonandrini
ts, gongs)Joe Lovano p)Kennny Werner b)Dennis Irwin ds)Mel Lewis
1)Chess Mates 2)Compensation 3)La Louisiane 4)Tones, Shapes and Colors 5)Ballad for Trane 6)In the Jazz Community 7)Nocturne

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現代ジャズシーンを代表するテナーサックス奏者の一人、Joe Lovanoの初リーダー作になります。レコーディング時32歳、比較的遅咲きのデビュー作ですがその分確固たる個性を発揮しています。参加メンバーはピアニストに盟友Kenny Werner、ベーシストは堅実なプレイで数多くのミュージシャンに愛されていたDennis Irwin、ドラマーにかつてのボスであるMel Lewisを迎え、外連味のないストレートアヘッド・ジャズ、王道を行く素晴らしい演奏を聴かせています。リリースはイタリアの名門レーベルSoul Noteから。いつの頃からか米本国よりも欧州や日本のレーベルの方が米国のジャズに理解を示し、若手発掘や才能あるアンダーレイテッドなミュージシャンの紹介に尽力しています。

Ohio州Cleveland出身のLovanoは父親であるテナーサックス奏者Tony “Big T” Lovanoに子供の頃からサックスの奏法はもちろん、スタンダードナンバーの演奏のノウハウ、ギグに於けるミュージシャンにとって必要なマナー、心構え、それこそ仕事の見つけ方まで徹底した手ほどき、いわゆる英才教育を受けました。6歳からアルトサックス、11歳で持ち替えたテナーサックスをその後メインの楽器としていて、彼の愛器Selmer Super Balanced Action Silver Platedは父親から譲り受けた楽器だそうです。その後BostonのBerklee音楽院で学び、卒業後はオルガン奏者Jack McDuff, Lonnie Smithらのバンドを足掛かりにWoody Herman, Mel Lewisのビッグバンドで活躍し、その名を知られるようになりました。Lonnie Smith75年録音の作品「Afro-Desia」にてすでに確固たる個性を聴かせています。

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この作品で聴かれるLovanoのフレージングやアイデア、タイム感は十分今日の彼のスタイルに通じますが、テナーの音色、特に彼独自の極太感が異なります。現在の彼のセッティングはマウスピースのオープニングが10★、リードが4番と超弩級ワールドクラスですが、「Afro-Desia」75年当時はおそらくもっとオープニングの狭いマウスピースを使用していたと思われます。音色やサウンドが後年よりもコンパクト、小振りな印象、極端な話Lavanoスタイルに影響を受けた別のテナー奏者による演奏のように聴こえてしまうからです。付帯音、雑味感、エッジの密度からリードの厚さは変わらないと推測することも可能です。巨大なオープニングのマウスピースを吹きこなす事で得られる音色の太さは、結果演奏に強力な存在感をアピールします。「ぶっとさ」がテナーサックスの魅力の一つであるのは言うまでもありませんが、しかし吹きこなすためには尋常ではないエアーと圧力、洗練された奏法、何より体力が必要になります。まさにLovanoのガタイの良い、恵まれた体格こそが彼の音色を生み出す原動力なのでしょう。いつの頃から巨大オープニングでワールドクラスの音色になったのかはおいおい検証したいと思いますが、個人的にはこのような比較によりオープニングによるサウンドの明らかな違いを発見することが出来るのは、大変興味深い事です。

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その後LovanoはPaul MotianのトリオでBill Frisellと独自の演奏を繰り広げます。Frisell, Lovano共に浮遊感溢れるラインの構築に対する美学に、ある種の同一性を感じさせます。82年リリースのMotian Bandの作品「Psalm」はBilly Drewes, Ed Schullerらをゲストに迎え全曲Motianのオリジナルをプレイした意欲作です。

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同じくギタリストJohn Scofieldとのコラボレーションも見逃す訳には行きません。89年録音Scofieldの作品「Time on My Hands」、同じく90年「Meant to Be」、いずれもギター、サックス「変態型」フレージングの大御所達による「危ない」ストレートアヘッド作品群です(笑)。両作ともカルテット編成ですが、前者がCharlie Haden〜Jack DeJohnette、後者がMarc Johnson〜Bill Stewartとタイプの違うリズムセクションを使い分けた形ですので、印象も随分と変わり、一層John Sco〜Lovanoラインを楽しむことが出来ます。

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父親Tonyとのテナーバトルをフィーチャーした86年「Hometown Sessions」も興味深い作品で、親子の音楽的嗜好(志向)の同一性を垣間見ることが出来ます。Tonyもかなりタフなマウスピースのセッティングを感じさせる、息子と音色のテイストが良く似た豪快なテナートーンの持ち主です。

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Lovanoの演奏はもちろん自己のリーダーバンドでその個性をしっかりと発揮しますが、サイドマンにおいては絶妙なバランス感を伴いながらリーダーの個性、音楽性を確実に踏まえつつ自己主張を遂げています。New Yorkのジャズシーンを始めとして多くのミュージシャンに彼の演奏が重宝されていますが、彼ほど自身の個性と他者との融和、そのブレンド感が見事なテナーサックス奏者は存在しません。かつてのMichael Breckerが演奏スタイルは全く異なりますが、よく似た立ち位置にいました。2014年作品Tony BennettとLady Gagaの共演作「Cheek to Cheek」収録1曲目Anything Goes、Lovanoのソロが上記のコンセプトを踏まえ、更にトーンとフレージングのエグさを通常よりも増量した(笑)、短いながらも素晴らしい内容です!歌伴の間奏でここまでやって良いのでしょうか?でも結果オーライ、Bennett, Gagaたちの唄を確実に引き立てています!

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本作のレコーディング・エンジニアであるKazunori Sugiyama〜杉山和紀氏は米国を中心に活動しBlue NoteやColumbia, 日本のDIWレーベル等に900枚以上の録音作品を手掛けている、海外で活躍する日本人エンジニアを代表する一人です。ここでもアンビエントの奥行きを感じさせる、各楽器の音像がクリアーに収録されつつバランスの取れた、素晴らしいライブレコーディングを実現させています。

それでは収録曲について触れて行きましょう。1曲目Kenny Werner作曲のChess Mates、比較的テンポの速いユニークな構成と雰囲気を持った、いかにもWerner作の佳曲です。95年リリース、ボーカリスト鈴木重子さんの初リーダー作「Premiere」のプロデューサー、アレンジャーがWernerでした。リリース時彼女の歌伴を出身地の浜松で行い、Wernerのアレンジした譜面で収録のスタンダード・ナンバーを演奏しましたが(残念ながらWerner自身は不在でした)、難解な中にもユニークでユーモア溢れるセンスを感じ、「かなり普通ではない」Wernerの音楽性を垣間見る事が出来ました。

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Lovanoのタイトなタイムと、スインギーなリズムセクションのグルーヴが実に合致して冒頭からスリリングな演奏を聴かせています。楽器のコントロール、Lovano実に申し分ありません!Mel Lewisのステディなドラミングが演奏をグッと引き締めています!インタールード後の、ちょっと危ない雰囲気のWernerのプレイもとても好みです。
2曲目もWernerのオリジナルCompensation、日本語では「償い」になりますが、誰ですか?テレサテンの曲で知っているよ?なんて言っている人は(笑〜僕でした)。John Coltraneのオリジナル曲Naimaと、短3度と4度進行から成るColtrane ChangeとがWernerのテイストにより高次元で合体した名曲です!叙情的なイントロからテーマに入りソロの先発はWernerから、作曲者ならではの曲の構造を把握した緻密な演奏が聴かれます。続いてIrwinのベースソロ、Vanguard Jazz Orchestraのベース奏者を長年担当した名手でもあります。続いてのLovanoのソロも実に巧みに難しいコード進行をトレースして盛り上がっています。そのままラストテーマに入り、美しくもジャズの情念を迸らせる名演奏はFineになります。
3曲目La Louisiane はLovanoのオリジナル、触ると火傷をしそうなくらいに熱いジャズスピリットを満載した幾何学的メロディの曲です。テーマからそのままLovanoのソロになり、リズムセクションと一体化してとことん、フリーフォームに突入してまで盛り上がっていますが、テナーがインタールード的にテーマを演奏し、さあピアノソロに行こう、とする矢先に何故かフェードアウトです。
4曲目はLovanoのオリジナルにして表題曲Tones, Shapes and Colors、ユニークな構成のナンバーです。クレジットにはLovanoがGongsを演奏していることになっていますが、テナーと同時にGongsが鳴っているのでおそらくLewisが叩いているのでしょう。パーカッションも聴こえています。基本的にテナーの独奏、部分的にGongsやパーカッションが加わる形で演奏されています。Tones〜Lovanoにしか出せない素晴らしい音色、Shapes〜一定のリズムがずっと流れている形態、Colors〜グロートーンも交えた様々なテナーの色彩感、タイトルはこれらの事を意味しているのでしょうか?
5曲目WernerのオリジナルBallad for Trane、前出CompensationのようにColtraneの音楽パーツを用いて作曲されたナンバーと異なり、あくまでWernerのColtraneに対する敬愛の念からイメージして書かれた曲のように聴こえます。美しいメロディライン、尊敬するジャズ史上最高のテナー奏者へのレクイエム、饒舌にしてこの上なくリリカルなWernerのピアノソロ、LovanoのサウンドからはColtraneのオリジナルWelcomeでの演奏を感じました。総じて崇高さを湛えた極上のバラードプレイです。
6曲目はLovano作In the Jazz Community、アップテンポのスイングナンバーです。ここでもLovanoは実に流暢なアドリブソロを展開しており、この時点で確実に個性を確立しています。続くWernerも全く同様に自分のスタイルをしっかりと聴かせています。
7曲目ラストを飾るのはやはりLovanoのオリジナルNocturne、前出のバラードとはまたテイストが異なりテナー、ピアノともにソロのアプローチに違いが現れています。

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