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Joe Henderson / Double Rainbow – The Music Of Antonio Carlos Jobim

今回はテナーサックス奏者Joe Hendersonの95年リリース作品「 Double Rainbow – The Music Of Antonio Carlos Jobim」を取り上げて見ましょう。
Suite Ⅰ JOE/BRAZ/JOBIM 1.Felicidade 2.Dreamer(Vivo Sonhando) 3.Boto 4.Ligia 5.Once I Loved(Amor Em Paz)
Suite Ⅱ JOE/JAZZ/JOBIM 6.Triste 7.Photograph 8.Portrait In Black And White[A.K.A. Zingaro] 9.No More Blues(Chega De Saudade) 10.Happy Madness 11.Passarim 12.Modinha
Track1~5 1994年11月5、6日Clinton Recording Studio NYC録音 ts)Joe Henderson p)Eliane Elias g)Oscar Castro-Neves b)Nico Assumpcao ds)Paulo Braga
Track6~12 1994年9月19、20日Oceanway Recording LA録音 ts)Joe Henderson p)Herbie Hancock b)Christian McBride ds)Jack DeJohnette

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Joe Henは91年Verve Labelに移籍し、翌92年に発表した第1作目「Lush Life: The Music Of Billy Strayhorn」が同年グラミー賞を受賞し、陽の当たり辛いカルト・テナー急先鋒から太陽光燦々のメジャー路線を歩み始めました。
この作品はVerve Label企画モノ+ Joe Henの第3作目にあたります。前作はMiles Davisに因んだ93年発表「So Near, So Far (Musings For Miles)」です。

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こちらの作品も素晴らしい内容で、60年代Milesのバンドに一時期参加していたJoe Henならではのトリビュートです。大手レコード会社が有する企画力、その企画を推進するスタッフ、市場のニーズに対する情報収集力を駆使し、Joe Henをフィーチャーした優れた作品を製作しようと言う情熱がこの作品を含めたVerveの一連のシリーズから伝わってきます。この他の作品も挙げておきましょう。

97年リリース「Joe Henderson Big Band」
Joe Henの一連の個性的なオリジナルや、かつて録音した「Without A Song」「Chelsea Bridge」等のスタンダード・ナンバーをジャズの伝統に根ざしつつもsomething newを加味したゴージャスなアレンジ、ビッグバンドの精鋭達やJoe Hen所縁のChick Corea、Freddie Hubbard、Al Foster等の超豪華なメンバーを迎えて緻密に、大胆に演奏しており、彼のテナーサックスのエッセンスが凝縮された演奏になっています。Joe Henファンのみならずビッグバンドファンをも唸らせる内容の作品に仕上がっています。

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同じく97年リリースでVerve最終作にして彼の最後のリーダー作「Porgy And Bess」
過去様々なミュージシャンがGeorge Gershwinの書いたこのオペラを取り上げていますが、ここではギターにJohn Scofield、Chaka KhanとStingをボーカルに迎え、Joe Henしか成し得ない歌劇を聴かせています。

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「Double Rainbow」に話を戻しましょう。実はリリースされる前にJoe HenがBossa Novaを、Jobimの曲を演奏すると言う触れ込みを耳にし、違和感を感じました。「Bossa NovaってStan Getzのオハコでしょ?あの音色でないと雰囲気が出ないのでは…」こちらの作品のGetzの音色が僕には支配的でした。64年リリース「Getz / Giberto」、因みにこの作品からBossa Novaが始まりました。

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「ガサガサ、シューシュー、ホゲホゲ」と付帯音の宝庫Stan Getzのテナーサックス、この音色がBossa Novaの雰囲気を決定付けました。Joe Henの音色でのBossa Novaは一体どうなるのだろう?興味津々で本作CDを聴きましたが、いやいや、全くの杞憂でした(汗)。Joe Henの音色、タイム感、フレージング、音楽性でまた新たなBossa Novaが構築されているのです!
この作品はちょうどレコードのA面B面の様に2つに分かれており、A面=SuiteⅠ はブラジルのミュージシャンとのコラボレーション、本場ブラジルのグルーヴで演奏を繰り広げています。Oscar Castro-Nevesのアコースティック・ギターの気持ち良さといったら!そしてEliane Eliasのピアノ演奏がブラジル一色に終わらせず、ジャジーなテイストを加味させているのがポイントです。Suite Ⅰのラストを飾るのが5曲目Oscar Castro-NevesとDuoで演奏しているOnce I Loved、この曲の新たな名演が生まれました。
B面=Suite ⅡはHerbie Hancock、Christian McBride、Jack DeJohnette達とのカルテット、ジャズメンによるBossa Novaですがこれがいずれも強力な演奏です!それにしてもMcBride、DeJohnette2人のタイム感、一拍の長さ、ビート感いずれもが酷似していて、何千年もの間地中深く何百何千メートルも根を生やしている縄文杉のような安定感です。6曲目TristeのJoe Henのソロは些か遠慮気味に聴こえたのですが、「さあHerbie、この後の落とし前を頼むよ」とばかりにJoe Henに肩を叩かれたのか、続くHerbieのソロがとことんイってます!「Herbie Hancockの演奏の後にはペンペン草も生えない」とは誰かの名言ですが、言い得て妙、まさしくその通りの演奏です!人のバンドでこんなに盛り上がった凄い演奏をしても良いのでしょうか??このHerbieのソロで思い出したのがヴィブラフォン奏者Bobby Hutcherson66年録音のリーダー作「Happenings」の1曲目、Aquarian MoonでのHerbieのソロです。

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こちらも他人の作品でリーダーを喰ってしまう演奏の最たるものですが、メチャメチャかっこ良いソロです。こんなことが許されるのも、きっと演奏の素晴らしさ以上にHerbieの人柄が皆んなに愛されているからなのでしょう。
9曲目No More BluesはBossa Novaならぬ、なんとスイングのリズムで演奏されています!これには驚きました。それにしても名曲はどんなリズムで演奏しても名曲です。通常キーはD minorですが全音下のC Minorで、曲の前半部分のマイナーキーの部分をオープンにしてソロを取っています。
アルバムのラストに演奏されるのはChristian McBrideのベースと全編スイングのリズムで演奏するModinha。哀愁を帯びたメロディがエピローグに相応しい雰囲気を醸し出しています。


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