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Bob Brookmeyer and Friends / Bob Brookmeyer

今回はトロンボーン奏者Bob Brookmeyer1964年録音のリーダー作「Bob Brookmeyer and Friends」を取り上げてみましょう。

64年5月25~27日 30th Street Studio, NYC録音 同年リリース Columbia Label Produced by Teo Macero
tb)Bob Brookmeyer ts)Stan Getz vib)Gary Burton p)Herbie Hancock b)Ron Carter ds)Elvin Jones
1)Jive Hoot 2)Misty 3)The Wrinkle 4)Bracket 5)Skylark 6)Sometime Ago 7)I’ve Grown Accustomed to Her Face 8)Who Cares

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素晴らしいメンバーよる絶妙なコンビネーション、インタープレイ、インプロヴィゼーション、珠玉の名曲を取り上げたモダンジャズを代表する名盤の一枚です。Bob Brookmeyer名義のアルバムですがStan Getzとの双頭リーダー作と言って過言ではありません。 BrookmeyerとGetzはこれまでにも何枚か共演作をリリースしており、代表的なところでは「Recorded Fall 1961」Verve labelが挙げられます。知的でクールなラインをホットに演奏する二人、Brookmeyerの方は作編曲に長けており、それらを行わなかったGetzですが良いコンビネーションをキープしていました。Getzは膨大な量のレコーディングを残していますが、実は自己のオリジナルやアレンジが殆どありません。優れたヴォーカリストが歌唱のみ行い、演奏の題材はピアニストやアレンジャーに委ねるのと同じやり方で、Getzほどのサックス演奏が出来ればまさしくヴォーカリストと同じ立ち位置で演奏する事が出来たのです。ほかにテナー奏者ではStanley Turrentineが同じスタンスで音楽活動を行なっており、大ヒットナンバーSugarが例外的に存在しますがあれ程の存在感ある音色、ニュアンスでサックスを吹ければ作編曲をせずとも名手として君臨するのです。

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Brookmeyerがバルブトロンボーンを用いて演奏するのは有名な話です。ジャズ界殆どのトロンボーン奏者がスライド式のトロンボーンを使っているので彼一人異彩を放っていますが、かつてトロンボーンの名手J. J. Johnsonはそのテクニックに裏付けされた高速フレージングから、わざわざアルバムジャケットに「バルブトロンボーンに非ず」との注記まで付けられたほどで、スライド式の方が動きが大きいためコントロール、ピッチ等、楽器としての難易度が高いのですが、トロンボーンならではのスイートさや味わいを表現する事が出来、それが魅力でもあります。難易度を排除した分バルブ式の方がよりテクニカルな演奏が可能という事なのですが、Brookmeyerは決してテクニカルな演奏をせず朗々と語るタイプで、彼の演奏からはいわゆるトロンボーンらしさが薄れて端正さが表現されており低音域のトランペット、フリューゲルホルンの様相を呈しています。若い頃にピアノ奏者としても活動していたので、トロンボーンの音程や操作性にある程度のタイトさ、カッチリしたものを求めていたがためのバルブ式の選択でしょうか?真意のほどを知りたいところです。

リズムセクションのメンバーについて触れてみましょう。Herbie Hancockは言わずと知れたMiles Davis Quintetのメンバー、このレコーディングの前年63年に入団しました。すでに3枚のリーダー作をBlue Noteからリリース、4作目になる名作「Empyrean Isles」を録音する直前でした。この頃から既に素晴らしいピアノプレイを聴かせていて端々にオリジナリティを感じさせますが、未だ確固たるスタイルを確立するには至っていません。ブラインドフォールド・テストでこの頃のHerbieのソロを聴かされたら逆に、「Herbieに影響を受けた若手ピアニストの演奏か?」と判断してしまうかも知れません(笑)

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Ron CarterもMilesバンドに在団中で、前任者の名手Paul Chambersのある意味音楽的進化形として、Milesの音楽を推進させるべくリズムの要となり演奏しました。更にそのステディな演奏を評価され当時から数々のセッションやサイドマンとしても大活躍でした。

Elvin JonesはJohn Coltrane Quartetのドラマーとしてリーダーから絶対の信頼を受け、やはりColtraneの音楽を支える屋台骨として素晴らしい演奏を繰り広げました。個人的にはColtraneの音楽はElvinが存在したからこそ成り立ったと思います。Getzとは本作録音の直前、5月5, 6日に共演を果たしています。「Stan Getz & Bill Evans」Verve label ベーシストにRon Carterも参加、本作の前哨戦と言える充実したセッションです。

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Gary Burtonはこの時若干21歳!新進気鋭の若手としてGeorge Shearingのバンドを皮切りに丁度Getzのバンドに加入した頃です。ヴィブラフォンという楽器のパイオニアとして数多くのリーダー作を発表しました。その彼も昨年引退宣言を発表し、現役から退いたことは耳新しいです。Brookmeyerとは62年9月Burtonの2作目にあたる(録音時19歳です!)「Who Is Gary Burton? 」で共演していますが、既に素晴らしい演奏を聴かせています。

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それでは収録曲に触れていきましょう。1曲目BrookmeyerのオリジナルJive Hoot、Elvinのハイハットプレイから始まり、ヴィブラフォンによるイントロが印象的、トロンボーンとテナーによるテーマのアンサンブル、効果的なブレークタイム、ダイナミクスの絶妙さ、各楽器の役割分担、曲の構成も凝っていてオープニングに相応しい明るく軽快なナンバーです。Getzも自分のカルテットのライブでよく演奏していました。「Stan Getz & Guests Live at Newport 1964」にも収録されています。

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トロンボーン、テナー、ヴィブラフォン、ピアノとコンパクトな長さながら聴きごたえあるソロが続きますがピアノソロの途中のブレーク、勢い余ったHerbieのソロでタイムがラッシュし少しだけ音符が詰り、ブレークの着地点が一瞬ずれたのをベース、ドラムとも絶妙に「お〜っと!」とばかりに受け止め、リカバーしました。Herbie自身も瞬時様子見をしつつ、何事もなかったように復帰しています。
2曲目はお馴染みErroll GarnerのMisty、ピアノのイントロ後Getzのテーマ奏ですが何でしょう、この素晴らしいサブトーンの音色は!めちゃめちゃピアニシモで吹いていて管の中を空気が通り抜ける音さえも聴こえる音色、Getzは本当にバラード奏法が上手いと今更ながらの再認識です。そしてGetzのサブトーンとElvinのブラシの音色がとても良く似ていて区別がつきません!ピアニシモで吹いてビブラートがかかると更に類似度アップです!
通常この曲はEフラットで演奏されますがここでは全音低いDフラットに移調されています。その分オリジナルキーよりも低く重厚に聴こえますが、むしろこのキー自体の特徴かも知れません。Body & SoulやStardustもDフラットで曲のムードが確立しているからです。テナーとトロンボーン二人のフィーチャリングでした。
3曲目はBrookmeyerのオリジナルThe Wrinkle、ベースのパターンというか裏メロディ的なパターンが印象的、テーマでのシャッフルっぽいリズムでのElvinのドラミングが冴えています。ブレークタイムを効果的に生かした構成は演奏を活性化させています。Burton, Getz, Herbie, Brookmeyerと淀みなくスインギーなソロが続きますがElvinとCarter、シャープでいながら強力タップリとしたシンバルレガートと、On Topベースのスイングビートのコンビネーションの良さが光ります。短いながらもしっかりと主張のある独特のElvinのソロを挟んでラストテーマです。
4曲目もBrookmeyerのオリジナルBracket、前曲よりもいささかテンポの速いスイングナンバー、Carterのベースラインが実にスインギーです!Brookmeyer~Getzとソロが続き、Getzのフレーズを巧みに受け継ぎHerbieのソロに繋がります。ソロイストの強力なアドリブラインに敢えて殆ど何もせずリズムを繰り出すElvinとCarter、ヒップなプレイです!でもよく聴くとシンバルレガート時にスティックの先端チップが様々な当たり方をするのか、させているのか、色々な音色が聴こえます。その後Elvinとの4バース、2nd Riffも交えつつエンディングに向かいます。Elvinのソロ、目新しいフレーズは聴かれないのですがいつもフレッシュな感覚に満ちていて常に音楽的なのです。
5曲目、今度はHoagy CarmichaelのナンバーからSkylark、ここでもメロディ奏の先発はGetz、サビをBrookmeyerが担当、Getzがオブリを入れています。その後のAメロはBurtonが主導しつつGetzのオブリを活かそうとしてメロディを演奏しているように聴こえます。その後ソロはダブルタイムフィールでBrookmeyer~Getzと続きます。Coltrane Quartetのバラード演奏はアドリブに入ると必ずダブルタイムフィールになりますが、ひょっとしたらここでもElvinが率先していたのかもしれません。この曲もフロント二人のフィーチャリングとなりました。
6曲目はワルツナンバーSometime Ago、ここでのElvin、Carterは積極的に攻めています!フロント二人でメロディをハーモニーを交えつつ同時に演奏したり、同時にソロを取ったりとクインテットならではの醍醐味を聞かせていますが、リズム隊が先かフロントが先か、相乗効果で熱い演奏に仕上がっています。
7曲目は再びバラードで映画My Fair LadyからのナンバーI’ve Grown Accustomed to Her Face、このメンバーでのバラード奏だったら何曲でも聴いていたいです!Brookmeyerが初めにメロディを演奏しGetzはオブリ担当、ここでもGetzのサブトーンがElvinのブラシと区別がつき辛い瞬間が多々あります。Getzのソロ後フロント二人の演奏が同時進行し、シンコペーションのフレーズを合わせたり、またHerbieがバッキングで面白いサウンドを出したりと聴きどころ満載です。Wes Montgomery 62年月録音「 Full House」収録の同曲、ギターソロで演奏されていますがこちらも素晴らしい出来栄えです。この当時流行っていた曲なのかも知れませんね、多くのジャズメンに愛奏されていました。

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8曲目レコードの最後を飾るのはGershwinのナンバーからWho Cares、トロンボーンのメロディからイントロ無しで始まります。ソロの先発はGetz、Elvinお得意の三連譜が多発されたドラミングにGetzもインスパイアされブロウしていますが、相乗効果でここでのリズムセクション実に盛り上がっています!特にElvinは63年のヨーロッパツアーでのColtrane Quartetの演奏を彷彿とさせる、アグレッシヴかつ繊細なドラミングを聴かせています。

本作は収録曲のいずれもがコンパクトなサイズの中にも様々なストーリーが込められているバランスの取れた演奏です。プロデューサーTeo Maceroの采配が光る作品に仕上がっていると思います。

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