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Stan Getz Quartet At Birdland 1961

今回はStan Getzのエアチェック録音をCD化した作品「Stan Getz Quartet At Birdland 1961」を取り上げてみましょう。
1961年11月11, 18日(#5~9)録音 Birdland, NYC. Fresh Sound Records, Spain 2012年リリース
ts)Stan Getz p)Steve Kuhn b)Jimmy Garrison ds)Roy Haynes mc)Symphony Sid Torin
1) Airegin 2)Wildwood 3)Where Do You Go? 4)Autumn Leaves 5)Jordu 6)Where The Sun Comes Out 7)Yesterday’s Gardenias 8)Woody’n You 9)Jumpin’ With Symphony Sid

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Getz絶好調、共演者の人選、演奏も素晴らしく、選曲もジャズファンを納得させるライブ盤です!58年頃から60年末までの欧州滞在を終えて帰国後音色やフレージングもたくましく成長し、翌62年から始まるBossa Novaへの参入の直前(実際は61年中に既にギタリストCharlie Byrdとのコラボレーションで「Jazz Samba」制作に向けてトライし初めていたようですが)、ジャズのスインガーとしての本領発揮時期です。当時のAMラジオのエアチェック録音にも関わらず、24 bit digital remasterで的確に音響処理され、かなりの音質、バランス、セパレーションにまで向上しています。
昔のエアチェック録音をレコード、CD化したものの殆どは耳を凝らし、平面的でこもった音の塊の奥の方から、その演奏自体を引っ張り出すかのように抽出して聴く感じでした。本作のクオリティは技術の進歩か、エンジニアのセンス、腕前でしょうか、それら全てのなせる技なのかも知れません。
digital remasterとは例えて言うならば音を平面的に捉え、不要な部分を消しゴムで消すように消去もしくは濃さを薄くし、逆に必要な部分の色彩を色濃く加筆したり色自体を変えたり、陰影部分を配置する作業です。エンジニアはその対象となる音楽の詳細、内容を技術的よりも音楽的、芸術的に把握しておく必要があり、手腕が問われる作業です。ディストリビュートしたスペインのFresh Sound Recordsは他にも未発表録音や長らく廃盤になっている作品を数多く再発し、またヨーロッパ、アメリカの若手ミュージシャンの新録音も積極的に制作している意欲的なレコード会社です。
CDジャケットも本作は異なりますが、多くの作品にはデジパック(厚紙の台紙にプラスティック製のトレーを張り合わせた仕様)を採用し、昔のレコードジャケット風レトロ感、高級感を出しており、さらにジャズだけではなくオールディーズ・ポップスやロックの名盤の再発をも手がけているので、音楽全般に対する愛情、情熱、敬意を感じます。

当時おそらく週一度Birdlandからのライブをラジオで生放送していたのでしょう、録音が2週に分かれていて各々ほぼ30分づつの演奏時間になっています(当然30分番組だった事でしょう)。他にもたくさんの演奏が残されていると思いますが、61年のNYCでのライブ演奏ならば間違いなく宝の山、リリースを望みます。

Steve KuhnとGetzはこの頃よく共演しており、この作品の僅か4ヶ月前61年7月6日に交通事故で夭折したベーシストScott LaFaroを迎えた録音もあります。前年60年にはJohn Coltraneと同じNYCのJazz Gallaryで共演を果たし音楽的成長を感じさせる時期でのGetzとの共演です。Roy Haynesもこの後レギュラー・ドラマーとして何度かギグに迎えられる事になり、コンサートではGetzも敬意を払った紹介をHaynesにしています。Jimmy GarrisonはここでもOn Topの素晴らしいビートを聴かせており、短期間LaFaroの後釜を務めますがこの直後Coltraneカルテットのレギュラーに迎えられる事になります。Getz自身も楽器をSelmer Super Balanced ActionからMark 6に替え、マウスピースもOttoLink Slantにしています。音色が太く逞しくなったのは彼の奏法が一層洗練され、渡欧での経験を踏まえ音楽に対するイメージが変化した事と、更にハードウエアの変更に起因すると考えています。

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それでは収録曲を見て行きましょう。1曲目Sonny Rollinsの名曲Airegin、ご存知Nigeriaの綴りを逆にしたタイトル、バンド用語ですね。フェードインして演奏が始まるのは司会のSymphony Sidのオープニングmcが入っていてそれを消去したためでしょう。この頃Getzがレパートリーとして度々取り上げていましたが、ここでの演奏が実に素晴らしいのです!61年の演奏とは思えないほどのフレージング、テンションの用い方、アイデア、スピード感、コンパクトなサイズの中に起承転結、意外性、またGetzのソロの前半のアグレッシヴな部分で一切バッキングを行わないKuhnの美学、これはColtraneとの共演から学び取ったに違いありません。
ピアノソロ後のドラムとのバースにもGetzのクリエイティヴさは損なわれず、Haynesとの絶妙なやり取り、それにしてもここでの演奏内容のコンテンポラリー性は、数年後の世界からタイムマシンで時代を遡ったGetz自身が演奏しているかの如き閃きを聴かせています。
2曲目はアルト奏者Gigi GryceのナンバーWildwood。Art Farmerの「Work Of Art 」に収録されています。前曲とは一転してリラックスした演奏に終始しており、Getzの音色、メロディの吹き方も随分と異なります。

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3曲目はAlec Wilder作のWhere Do You Go?、Getzはこういったミステリアスなムードを湛えたバラードを良く取り上げます。
4曲目はお馴染みAutumn Leaves、枯葉ですがGetzはいつもこの曲を原曲とは異なるCマイナーで演奏しています。ソロの先発のKuhnはいつもよりBill Evansのテイストを感じさせるスタイルで演奏しています。続くGetzは1曲目の好調さが引き続いている、61年らしからぬ数年後の近未来のテイストで演奏を行なっています。

以上が61年11月11金曜日のテイク、5曲目から1週間後の18日のテイクになります。番組のオープニングを飾るべくSidのmcが入り演奏が始まります。5曲目Duke JordanのJordu、こちらもバンド用語タイトルですね。Horace SilverのEcarohも同じセンスの曲名です。マイナーの曲調中、サビに7thコードの4度進行が用いられていますが、難易度の高いチェンジにも関わらずGetzはさすが巧みなアプローチを聴かせています。ベースソロの後ろでシンコペーションのリフをGetzが吹き、その後ドラムとのバースが始まりますが、かなりHaynesのドラミングのフレージングにインスパイアされているのではないかと推測され、斬新なアプローチが聴かれます。
6曲目Getz自身の曲紹介によるHarold ArlenのWhen The Sun Comes Out、こちらも3曲目のバラードに通じるテイストを感じさせます。いつもながらGetzのダイナミクスの素晴らしさに感銘を受けます。
7曲目Yesterday’s Gardenias、前曲の雰囲気を一掃する明るい曲調のミディアムスイングです。
8曲目Dizzy Gillespieの名曲、Woody’n Youは「Woodyと貴方」ですがWoodyとはクラリネットの名手にしてビッグバンドのリーダー、Woody Hermanの事だそうです。貴方とは誰の事なのかは判りません。この曲も当時のGetzのオハコの一曲です。難しいマイナー7th ♭5thのコード進行の処理の仕方が実に的確です。
ここでは通常よりも早めのテンポで演奏され、毎度ながらいつもと違った語り口で見事にソロを展開させています。
9曲目はLester Youngの書いた、当夜の司会 Symphony Sidに捧げられたブルース・ナンバーJumping’ With Symphony Sid、Lester本人のバージョンよりも幾分早めに演奏されています。フィナーレにふさわしくGetz吹きまくっています!演奏はまだまだ続いたようですが放送時間の関係でアナウンスが入り、カットアウト?フェードアウト?で終了です。

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