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Mingus at Carnegie Hall / Charles Mingus

今回はベーシストCharles Mingusの74年リーダー作「Mingus at Carnegie Hall」を取り上げてみましょう。ジャムセッションを収録したライブレコーディング、レコードのAB両面1曲づつ各々20分以上長尺の演奏になりますが、起伏に富んだストーリーが聴き手を全く飽きさせません。

Recorded: January 19, 1974 at Carnegie Hall, New York City Label: Atlantic Producer: Ilan Mimaroglu, Joel Dorn Executive Producer: Nesuhi Ertegun
b)Charles Mingus tp)Jon Faddis as)Charles McPherson ts, as)John Handy ts)George Adams ts, stritch)Rahsaan Roland Kirk bs)Hamiet Bluiett p)Don Pullen ds)Dannie Richmond
1)C Jam Blues 2)Perdido

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本作のライブレコーディングを収録した元々のコンサート「Charles Mingus and Old Friends in Concert」はNew York City MidtownにあるCarnegie Hallで74年1月19日土曜日の夜に行われました。40年以上前とは言え、入場最低料金$4.50とは随分安かったです。コンサートの最初のセットはCharles Mingusのニューグループによるもので、tp)Jon Faddis, ts)George Adams, bs)Hamiet Bluiett, p)Don Pullen, ds)Dannie RichmondそしてMingusのベース、6人編成のメンバーで行われました。レコードジャケットにはFaddisの名前もGuest Artistとして記載されていますが、これは誤記になります。演奏曲目はMingusのPeggy’s Blue Skylight, Celia, Fables of Faubus、加えてDon PullenのBig Aliceの計4曲。こちらのセットの演奏も録音されているでしょうから「The Complete Mingus at Carnegie Hall」の様な形でリリースされる日が来るかも知れません。後半のセットはゲストとしてJohn Handy, Rahsaan Roland Kirk, Charles McPherson3人のサックス奏者が加わった形で演奏されました。Mingusのライブでは必ず取り上げる彼のオリジナルや彼特有のバンドアンサンブルが無く(ソロの後ろで管楽器によるバックリフのアンサンブルが聴かれますが、その時々メンバーの即興によるものでしょう)、管楽器全員に延々とソロを回すジャムセッション形式で演奏が行われています。単にリハーサルや打ち合わせをする時間がなかったためなのかも知れませんが、結果歴史に残る素晴らしいパフォーマンスを繰り広げました。演奏曲目はMingusが心底から尊敬するDuke Ellingtonのナンバーから、セッションで日常的にもよく取り上げられるC Jam Blues, Perdidoの2曲。セッションの選曲にさえも自身の音楽性を反映させており、Mingusの音楽表現へのこだわりを感じさせます。MingusとEllingtonの共演作が残されています。62年9月録音「Money Jungle」、ドラマーにMax Roachを迎えたピアノトリオ、Mingusはいつも以上にハイテンションにプレイし、3人で素晴らしい演奏を繰り広げています。

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帽子を被ったオシャレなEllington,サスペンダーのMingus,迷彩服姿(?)のRoachが異彩を放っています。
Old Friendsと言うくらいで、本作はMingusと過去に於いて共演を果たしているミュージシャンたちとの演奏になります。ニューグループの方は若手が中心でNew Friendsということになりますが、メンバーとの関わりについて触れてみましょう。ドラマーDannie RichmondはMingusの片腕、女房役として57年録音の名作「The Clown」からMingusの78年ラストレコーディングまで30年以上、殆どの作品で共演を果たしています。素晴らしいセンスのドラミング、ビート感、Mingusの音楽的要求に確実に答えられる柔軟性、何より強面、自我の表出の激しいMingusと永年私生活でも支障なく付き合える包容力と忍耐力(笑)を持ち合わせています。

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ピアニストDon Pullenは前作73年「Mingus Moves」からの共演になり、個人的にMingusの特に優れた作品と認識している74年「Changes One」「Changes Two」にも参加、演奏のキーパーソンとなっています。R&Bからビバップ、フリーフォームまで幅広いスタイルを網羅した演奏は本作で共演しているテナー奏者George Adamsと絶妙のコンビネーションを発揮、両者共同名義による作品も多くリリースされています。

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そのGeorge AdamsもPullenと同じく「Mingus Moves」からの共演になります。同様に「Changes One」「Changes Two」にも参加、やはりAdamsの快演無しには名作「Changes」2作は成り立ちませんでした。Mingus Bandで互いに切磋琢磨した間柄から、79年George Adams〜Don Pullen Quartetの結成は必然のなせる技なのでしょう。

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トランペッターJon Faddisとは72年Lincoln Centerで行われたMingusビッグバンドの作品「Charles Mingus and Friends in Concert」で初共演、その後同年7, 8月に小編成のバンドで欧州ツアーをしました。持ち前のハイノートを駆使したプレイは多くのビッグバンドやスタジオワークで重用される一方、アドリブ奏者としても非凡な演奏を聴かせます。

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バリトン奏者Hamiet BluiettはFaddisと共に72年の欧州ツアーに同行したのが付き合いの始まり、その後は付かず離れずのスタンスで彼と75年まで共演していました。Mingusの元を離れた後76年には、満を持して自己の初リーダー作「Endangered Species」をリリースすることになります。

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ゲストサックス奏者一人目Charles McPhersonは文字通りのOld Friend、62年頃からの共演歴になります。Bootlegの「The Complete 1961-1962 Birdland Broadcasts」でその最初期の演奏を聴くことが出来ます。Mingusのアルバムには10数作参加している古参のひとりです。

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ゲストの二人目John Handyは本ライブでテナーとアルトの両方を曲によって吹き分けています。マルチリード奏者として知られていますがMcPhersonよりも更に古く59年「Jazz Portraits: Mingus in Wonderland」からのOld Friend、主に60年代初頭に演奏を重ね、本作では久しぶりの共演になります。

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そして三人目のOld Friendは本作の裏番長、いや真の主役と言っても良いかも知れないRahsaan Roland Kirk、本作ではテナーサックスをメインに誰よりも長く、誰よりも派手に巧みにソロを取り、自分の世界をとことん、これでもかと表現しています。Mingusとは前記のBootleg盤の61年テイクと、同じく61年「 Oh Yeah」で共演していますが、それ以来13年振りの共演はMingusから絶大な信頼を得ていたのでしょう、手が付けられない状態になるまでソロプレイを放置されています(笑)!

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メンバーが全て出揃いました、それでは演奏について触れて行きましょう。1曲目C Jam Blues、ピアノトリオでまず1コーラステーマが演奏され、続いて管楽器総動員6管によるユニゾンでテーマが1コーラス演奏されます。MingusとRichmondが繰り出すビートは実にスインギー、ベースの音色が極太です!ソロの先発はJohn Handyのテナー、Handyはアルト奏者というイメージがありましたが、この音色を聴く限りアルト奏者のテナーの音ではなく、テナー奏者のものです。スタイル的にもCharlie ParkerではなくSonny Rollinsやホンカーのテイスト、John Coltraneのスパイスも感じさせます。合計15コーラスを演奏し、1コーラスクッション的に次の演奏者探しに費やされます。Bluiettのバリトンが次なるソロイスト、最低音域からフリークトーンを用いた高音域までレンジを広く網羅したソロを聴かせます。フリーフォームを中心にしたアヴァンギャルドな内容の語り口、さすがDavid Murray, Oliver Lake, Julius Hemphillらを擁したWorld Saxophone Quartet(メンバーの変遷はありましたが)のメンバーです。 9コーラスを演奏した後今度はGeorge Adamsのテナーにスイッチします。いきなりアウトしたフレージングから始まりますが、この人の音色には何とも言えない独特の色気、艶があるので思わず聴き入ってしまい、彼の世界に引きずり込まれます。フリーキーなフレージングの連続に、リズムセクションも7’03″辺りからMingusのオリジナルに良く用いられる8分の6拍子(6/8)のリズムに変わって行きます。1コーラスの後ドラムはもう少し6/8リズムを続けたかったフシが伺えましたが、Mingusがきっぱりとスイングに戻しました。PullenのバッキングもAdamsに同調して、おそらく肘打ちや拳骨を駆使したクラスター・サウンドを聴かせますが、彼の手が絆創膏だらけだった写真を見た事があり(爆)、流血するほどの格闘技ファイター的なピアノ奏法です!AdamsもHandyと同じく15コーラスを演奏、盛り上がり切った現場は根こそぎAdamsに持って行かれ、ペンペン草さえも生えていないような荒涼とした大地です(笑)!そこにRahsaan Roland Kirkがスネークインして来ました。これだけの世界を作られた後にソロを行うのは誰でも辛いと思うのですが、Kirkは一向に意に介していない模様、落ち着き払い堂々とした登場ですが、2コーラス目で先ほどのAdamsのソロのフリーキーな部分を、見事なまでにそっくりマネしているではありませんか!耳の良いプレイヤーならではのフェイクですが、さぞかしAdams本人は勿論、メンバーも驚いたことでしょう!さて、ソロの掴みはOK、続いてRollinsのAlfie’s Themeを引用します。Kirkのフレージングは様々なテナープレーヤーの要素を研究したフシが伺えますが、かなり高度な音使いをさり気なく用いており、更に加えて10’55″から聴かれる特殊な運指とその奏法によるマルチフォニックス(重音)をサーキュラーブレス(循環呼吸)で長時間吹き続ける、11’43″からトリルを用いつつ延々とお得意のサーキュラーブレス、ダブルタンギングを多用したフレーズ、12’35″からはColtraneのA Love Supremeのテーマ引用、12’46″からはベンドとグロートーンを同時に用いたIllinois Jacquet風ホンカー・テイストのブロウ、13’15″からは一転して音色も変えながらのビバップ・テナー、例えるならばDexter Gordon風のテイストでのソロ、13’36″から再びサーキュラーブレスでギネスブックものの信じられない長さでアヴァンギャルドなフレージングのオンパレード、オルタネートフィンガリング、フリークトーン、マイクロフォンから(わざと?)遠ざかり、近づくエフェクト、ありとあらゆるサックスの特殊奏法のオンパレードにより、何と24コーラスを吹き遂げました!!その後1コーラスが次のソロイストに引き継ぐためのクッション的にリズムセクションので演奏され、Faddisのソロになります。冒頭のフレージング、そうですよね、こんなフレーズでも吹かないと演奏を始められないですよね(笑)。Dizzy Gillespieのテイストを感じさせるミュート・トランペットによる8コーラスのソロが聴かれます。ソロイストの最後はMcPhersonのアルト、実に正統派Parkerスタイルを端正に、クールに12コーラス聴かせます。1コーラスのクッションを置いてラストテーマに戻りますが、あれだけ盛り上がってしまった演奏はそう容易くエンディングを迎えることは出来ません!場外乱闘的が始まりました!Kirkがサーキュラーブレスで吹き続けるF#の音(#11th)がドローンのようにずっと鳴り響きますが、ここでは本編では吹かなかったstritchも用いて、2本同時に演奏しているように聴こえます。各人様々なフリートークを重ねています!4分以上続き満場のアプラウズを受けてとうとうFineです。

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2曲目がPerdido、C Jam Bluesの白熱した演奏で全参加者全員すっかりと吹っ切れたようです!テンポは先ほどよりも早く設定されており、ソロの一人目は再びHandy、今度はアルトを携えての登場になりますが、早めにソロを終えて落ち着いてしまおうという目論見か、それとも周りのミュージシャンがHandyに敬意を払って先発を勧めたのか、何れにせよいきなり別人のようにアグレッシヴなアプローチを聴かせます!フラジオ音も多用しつつのソロはやはりParkerの語法を感じることは出来ず、どちらかと言えばモーダルな、テナー奏者としてのスタイルを感じます。当然リズムセクションの演奏も一層熱気を帯び始め、Richmondのドラミングが特にイっています。4コーラスを演奏しBluiettのソロになりますが、彼の演奏も委細構わずの姿勢をより感じさせ、ハードに、ファンキーに、やはり4コーラスを演奏しています。そしてKirkの登場です。C Jam Bluesでの熱気を他所にクールにまず1コーラスを演奏し、2コーラス目途中からいきなりターボ全開、サーキュラーブレスで倍テンポ吹き捲り、オーディエンスはKirkの演奏が再び自分たちを音の異次元空間へいざなってくれるのだろうと、期待に満ちた熱いエールを送ります!それにしてもサーキュラーブレスとは管楽器奏者が複数参加するライブ・パフォーマンスでは確実に全てを制する飛び道具、いや破壊兵器になりますね!Pullenのバッキングも途轍もない次元まで登り詰めているので、彼の両手が心配です!聴衆のリクエストに完全に合致した超ハイパーなソロ、笑っちゃう位の物凄さを計9コーラス演奏しています。続いてMcPhersonの登場、原曲のメロディを挿入しつつ端正さはしっかりとキープしてホットなソロを4コーラス聴かせています。Adamsのソロにその後引き継がれますが、彼もタガが外れたかのように初めからフリー・アプローチ祭りの様相を呈しています!素晴らしい音色、楽器コントロール巧みさ、演奏盛り上げに対してのバリエーションの豊富さは実に見事。ですが同じテナー奏者同士の比較はやむを得ません、やはりKirkの方が役者が何枚も上のように感じてしまいます。5コーラスを演奏した後Faddisがオープンでトランペットソロ、ここでは一層Gillespieのカラーを聴かせるソロに徹して5コーラスを吹いています。その後Pullenのソロがバーニング!1曲目演奏時間24分強、ここでも既に18分以上が経過、ホーンズのソロに圧倒されつつ長い間出番を虎視眈々と狙っていたのでしょう!ストロングなピアノタッチ、手の方よりも鍵盤やピアノの弦の方の損傷を心配するのは取り越し苦労ですね(笑)。Perdidoの2ndテーマが演奏されますが、冒頭のテーマ演奏時サビでアルトでソロを取っていたHandy、後テーマのサビではテナーでソロを吹いています。エンディングではこちらもテナーとstritch用いたKirkのドローンが演奏され、参加者全員演奏の残火をいとおしんでいるかのようにブロウしていますが、前曲よりもあっさり目に曲を終えています。

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