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Nancy Wilson/Cannonball Adderley

今回はボーカリストNancy Wilsonとアルトサックス奏者Cannonball Adderleyの作品「Nancy Wilson/Cannonball Adderley」を取り上げてみたいと思います。CannonballのバンドにWilsonがゲスト参加した形でボーカルとその歌伴、クインテットの演奏と、ゴージャスに楽しめる構成に仕上がっています。今回はボーカリストNancy Wilsonとアルトサックス奏者Cannonball Adderleyの作品「Nancy Wilson/Cannonball Adderley」を取り上げてみたいと思います。CannonballのバンドにWilsonがゲスト参加した形でボーカルとその歌伴、クインテットの演奏と、ゴージャスに楽しめる構成に仕上がっています。

Recorded: June 27, 29 and August 23 – 24, 1961 Producer: Tom “Tippy” Morgan, Andy Wiswell Label: Capitol Records
vo)Nancy Wilson(tracks 1,3,5,7,9,11) as)Cannonball Adderley cor)Nat Adderley p)Joe Zawinull b)Sam Jones ds)Louis Hayes
1)Save Your Love for Me 2)Teaneck 3)Never Will I Mary 4)I Can’t Get Started 5)The Old Country 6)One Man’s Dream 7)Happy Talk 8)Never Say Yes 9)The Masquerade Is Over 10)Unit 7 11)A Sleepin’ Bee

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レギュラー活動展開中のCannonball Adderley Quintetに歌姫Nancy Wilsonを迎え入れた形で(ボーカリストとの初共演作です)、1962年リリースの際レコードでは歌伴とインストを交互に配置した曲順に並び、両者が対等でバランスの取れた作品という認識でした。Nancyのチャーミングでスインギーなボーカルと、名門Cannonball Adderley Quintetの演奏を交互に楽しめる、しかも曲順や選曲のバランスが絶妙に取れていて、一挙両得感が半端ありませんでした!このようなレイアウト作品はあまり無かったので、本作といえば演奏よりも(もちろん素晴らしいですが!)歌〜演奏〜歌〜演奏という曲順が印象的でした。ところが93年CDで再発された際には歌伴がメインになった形で前半ボーカル、後半インストとはっきりセパレートされた形に成りました。曲順は今更ながらに大切ですね、この並びでは全く印象の異なる作品に変わってしまい、残念ながら味気なさを覚えました。リリース当時のレコードにも「A program of swinging vocals and instrumental by Nancy Wilson / The Cannonball Adderley Quintet」と同格にクレジットされていましたが、もっとも再発時はCannonball没後から20年近く経過し彼の存在感も薄れつつあり、一方Nancyの方は未だ現役ボーカリストとして活動中だったので、レコード会社としては彼女をメインに持って来ざるを得なかったのでしょう。

本作は58年から63年まで5年間在籍していたRiverside Label契約中真っ只中にCapitol Recordからリリースされました。Riverside以降は同Capitolに移籍したので、先駆けという事になります。精力的に作品をリリースし、Riversideから17作品、Capitolから本作を含めて20作品を発表し、いずれでもあの素晴らしい音色を披露しています。

Nancy Wilson/Cannonball AdderleyとNancy Wilson/George Shearingをカップリングさせたアルバムもリリースされています。Shearing作品の方の正式タイトルは「The Swingin’ Mutual」、こちらは彼のQuintetに同じくWilsonがフィーチャーされた形の60年録音作品で、いわゆる「シェアリング・サウンド」のノーブルな響きがNancyのボーカルをバックアップする歌伴演奏と、インストが同様に交互に配されたアルバムです。という訳でNancy繋がりの別作品のカップリングになりますが、ジャケットはいかにも3者が共演しているかのような表示、レイアウトなので、これでは羊頭狗肉、誇大広告です(笑)。

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ちなみにCannonball次作品、62年1月NYC Village Vanguardでのライブ盤「The Cannonball Adderley Sextet in New York」から文字通り管楽器奏者が一人増えたセクステット編成になり、サウンドが一層厚くなります。ひょっとしたら61年8月頃Art Blakey & the Jazz MessengersがやはりCurtis Fullerを加えての3管編成にヴァージョンアップしたのに倣ったのかもしれません、「Artのバンドがフロント一人増やして随分評判良いようだぜ、バンドの音も見栄えも良くなるし、我々もいっちょ増員しようか」という具合に兄弟で話し合い、Yusef Lateefがテナー他フルート、オーボエでの参加、63年には同メンバーで名盤「Nippon Soul」を東京でライブレコーディング、64年頃からCharles Lloydにメンバーチェンジし、以降もコンスタントに3管編成で演奏活動を続けます。

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それでは演奏曲に触れて行きましょう。1曲目バラードでSave Your Love for Me、ピアノとベースのユニゾンのラインにコルネットとアルトサックスのアンサンブルが加わり、Nancyのボーカルが始まります。素晴らしい声質ですね!ピッチやタイム感、抑揚の付け方、イントネーション、アーティキュレーション、シャウトした時の声の張り方、トーンの使い分けなど、申し分ありません。女性ジャズボーカリスト御三家であるElla Fitzgerald, Sarah Vaughan, Carmen McRaeたちに比べると、声の成分にややハスキーさ、雑味感が不足気味に聴こえますが、その分ポップスやR&Bのジャンルで通用する持ち味と成り得ます。Nancyは56年にビッグバンドのボーカリストとして活動開始、Cannonballの誘いで59年NYCに進出し同年12月22歳にしてCapitol Recordに「Like in Love」をレコーディング、翌年リリースとなり幸先の良いスタートを飾りました。本作への布石は成されていた訳です。

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オブリガードをはじめの8小節Natがミュートで、次の8小節をCannonballが行いますが、アルトの音の物凄い事!pp程度のごく小さい音で吹いているのが分かりますが、倍音成分があまりにも豊富なために強力にマイク乗りが良く、むしろとても大きな音、メチャメチャ鳴っているように感じられます。低音域のサブトーンもテナーサックスと勘違いしてしまうほどの極太さ!伴奏者のソロはなく、Nancyのボーカルのみをフィーチャーした形にしたのは、この後にたっぷりとインストの演奏が控えているためでしょう。
2曲目はNatのオリジナルTeaneck、軽快なテンポによるスインギーなナンバーです。コルネットとアルトのユニゾンによるテーマは音の分厚さを通常よりも感じさせますが、Cannonballのサックスとでは至極当然のアンサンブルです。ソロの先発はCannonball、ブレークから飛ばしています!ソロに入るや8分音符のドライヴ感がたまりません!そしてこの音色の魅力と言ったら!鼓膜からジワッと身体の隅々にまで倍音が浸透し、体液と一体化するが如き快感!(何のこっちゃ?)バッキングのJoe Zawinullも端正なアプローチが印象的ですが、後年のWeather Reportでの演奏やスタイルは想像もつきません。彼は59年にBerklee College of Musicに入学のため故郷Austria Wienから渡米、しかしたった一週間在籍しただけでMaynard Fergusonから仕事のオファーがあり、そのまま米国でミュージシャンの世界に入りました。コルネットを吹くNat、トランペットよりも丸くハスキーな音色は自身の個性を表すのにうってつけの楽器選択です。Zawinullソロの終わりにラストテーマを迎えますが、エンディングのキメも意外性がありレギュラーバンドならではの創意工夫を感じます。名手Sam Jonesのon top感、Louis Hayesの柔軟でタイトなグルーヴから成るリズム隊の好サポートを得てCannonball Quintetの真骨頂と相成りました。
3曲目はFrank LoesserのナンバーでNever Will I Mary、ピアノトリオが活躍するイントロを経てボーカルが登場します。情感豊かに歌詞の内容を噛みしめるように歌うNancy、その後ろでリズミックなホーンのアンサンブルや管楽器各々のオブリガードも聴かれます。ソロはCannonball、短い中にもストーリーとメッセージ性、歌をしっかり表現しています。また彼のタンギングの強力な確実さから、つくづく滑舌の良さを感じてしまいます。アンサンブルとボーカルの一体感が印象的な演奏です。
4曲目はCannonballをフィーチャーしたI Can’t Get Started、夢見心地のアルトサックスが深遠なバラードの世界へと誘います。少し早めのテンポ設定、アレンジされたイントロから始まりますが、実に豊潤な低音域のサブトーン、ビブラートの使い分け、半音進行のⅡーⅤでの巧みで音楽的に高度、それでいてオシャレな音使い、One & Onlyな独壇場サックスプレイは音楽表現の全てを確実に把握して、あらゆる点で過不足なくかつ重厚さを伴って歌い上げています。テーマ奏の後はZawinullのソロが始まります。Austrian man in New York、いまだ自己のスタイルを模索中ではありますが、探究心旺盛な彼は試行錯誤を繰り返し、次第に自己の音楽表現のターゲットを絞って行きました。Cannonballがサビから復帰、前出時よりも饒舌に、ブリリアントにブロウしています。短いcadenza後のエンディングにはこれまた凝った構成のコード進行が設けられています。
5曲目はNatのオリジナルThe Old Country、Nancyの歌う歌詞をCurtis Lewisが書いていますが、こちらは哀愁を帯びた名曲です。スタンダード・ナンバーばかりではなく、メンバーのオリジナルに歌詞を付けたものを収録するのは良いですね!ピアノのイントロからホーンの短いアンサンブルに続き、姫の登場です。さりげないアンサンブルが随所に挿入され曲のムード作りに貢献しています。こう言った曲想だとNancyの歌声はやや明るめに聴こえ、歌唱にもダークさがもう少し欲しいところです。そこをまさに挽回すべく、Cannonballのソロが暗明るい(くらあかるい)テイストで切り込んできます!何と雰囲気に合致しているのでしょう!Zawinullのソロを経てホーンセクション、ボーカルが入ります。アウトロはイントロの再利用が成されています。Keith Jarrettが85年Paris録音の作品「Standards Live」で取り上げており、この曲をどのように演奏すれば良いのかを熟知しているかの如き、こちらも素晴らしい演奏に仕上がっています。

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6曲目はZawinullのインスト・ナンバーOne Man’s Dream、マイナー調で50年代の雰囲気をたたえたナンバーですがプラスワンの味付けが良い感じです。先発Cannonballのソロはここでも絶好調!というかサックスの音色が超素晴らしければそれだけで名演奏に成り得てしまうのでは、と思わせます。改めてCannonballのソロのフレージング、方法論を鑑みると、そこには全くCharlie Parker臭がしません。やはりBenny Carterの流れを汲むスタイルと実感しました。

弟Natはおそらく兄Cannonballの事を心底尊敬していたでしょう、兄弟でミュージシャン、バンドを組み、長年共演できる関係を保つためには、弟の兄に対するリスペクトが不可欠です。日本でも日野皓正、元彦兄弟が有名ですが、元彦氏が心から兄を尊敬し、自身もその兄と共演を保てるように一生懸命に練習、研鑽したと仰っていました。「俺ら兄弟が共演出来ているのは音楽的レベルが同じだからなんだ」と言う言葉が印象に残っています。Adderley兄弟は圧倒的な兄の音楽性がバンドの表看板であり、兄の演奏を決して喰わない弟のごく自然体の控え目さ、加えて確実なアンサンブル能力、作曲面での貢献が兄弟の関係を均衡の取れた、円満なものにしています。裏看板Natのソロに続きますが、超個性的ではないものの決して破綻せず常に安定走行、時として兄の影武者になり演奏を上手く纏める能力も持ち合わせています。Natのソロ後Cannonballが主体となったホーンのメロディが挿入されZawinullのソロに移ります。2ndリフがピアノソロ後に入りますがこちらもメチャメチャ素晴らしい!ラストテーマを迎え、エンディングに凝る事の多い当バンドらしく(笑)、聴き応えのあるアンサンブルを演奏しています。
7曲目はRichard Rodgers, Oscar Hammerstein Ⅱ名コンビによるナンバーHappy Talk。おそらくアレンジはZawinullのペンによるものでしょうが、ここでもその才が光ります。イントロはリズムセクションのペダルポイントの上で、ミュートを用いたNatのフィル、タイトル通りの雰囲気でボーカルが入って来ます。随所に施されたアンサンブル、オブリガードが実に魅惑的です!こちらはレコードのB面1曲目に該当し、短い演奏ながらボーカルとアンサンブルの密度の高いやり取りを聴かせていて、裏面のオープニングに相応しい演奏になりました。エンディングではコルネットとリズム隊がキメを共有しアンサンブルを聴かせつつ、Cannonballがソロを取りますが例えばキメにもう1管加わり、ハーモニーが厚くなればゴージャスさが倍増した事でしょう。煌びやかななサウンドを常に念頭に置いているCannonball、この辺の事情も3管編成に増強された理由の一つだと考えています。
8曲目NatのオリジナルNever Say Yes。ベースの印象的なパターンに始まり、Miles Davisの61年作品「Someday My Prince Will Come」をイメージさせるミュート・サウンドでテーマが演奏されます。Hayesのブラシワークも見事ですね。引き続きのNatのソロ、これはもうMilesそのもの、瓜二つ状態、兄がMilesのバンドに在籍していたのもあり影響を受強くけているのでしょうが。本作レコーディング時はまだ「Someday My 〜」はリリースされていませんでしたが、Milesのライブやコンサート、旧作でのプレイから自ずと吸収していたのでしょう。続くCannonnballのソロには男の色気と余裕、ユーモアを感じ、ここでも僕自身はうっとりとさせられてしまいます!ピアノソロ後再びMilesの登場、いや(汗)、Natのテーマ奏で締め括られます。

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9曲目The Masquerade Is Overは切なさを表現したバラード、切々と訴えかける歌唱にホーンが加わらず、本作中唯一ピアノトリオだけをバックにした演奏で、彼女のネイキッドの魅力を引き出しました。エンディングは感極まったシャウトを聴くことが出来ます。
10曲目Sam JoneのオリジナルUnit 7、Cannonball Bandのテーマソングとしても知られ、本演奏が初演となります。よく練られた構成とメロディからJonesの代表曲に挙げられますが、他にもBlues for Amos, Seven Mindsといった名曲を書いています。ソロの先発はCannonnball、切り込み隊長は果敢に立ち向かい、スインギーでグルーヴィー、迫力ある素晴らしい演奏を聴かせます。サビの細かいコード進行では案の定手練れの者を演じていますが、Cannonball自身のオリジナルである「Cannonball Adderley Quintet in Chicago」収録Wabashも、半音進行から成るⅡーⅤの連続部分では巧みにアプローチしており、大きく豪快に歌うソロの中にも繊細さを盛り込むことが出来る、バランスの取れたプレイヤーなのです。Nat, Zawinullとソロは続きラストテーマへ。

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11曲目はHarold Arlenの名曲A Sleepin’ Bee、魅力的な佳曲です。ピアノのイントロの後、ベースとボーカル二人で演奏が始まりドラム、ホーン、ピアノと加わります。Nancy屈託のない明瞭な発声による歌唱で曲の持つムードを表現します。Cannonballはメロディを交えながらこちらもスインギーなソロを展開します。それにしても楽器を見事に鳴らしていますね!サブトーンと上の音域とが全てイーヴンです。ラストはイントロと同様にベースと二人になり、Jonesがエンディングを締め括ります。

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