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Merry-Go-Round / Elvin Jones

今回はElvin Jonesの1971年録音リーダー作「Merry-Go-Round」を取り上げてみましょう。

1)Round Town 2)Brite Piece 3)Lungs 4)A Time For Love 5)Tergiversation 6)La Fiesta 7)The Children’s Merry-Go-Round March 8)Who’s Afraid…
71年2月12日(#8)、12月16日(#1~7)録音、72年リリース Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ Recording Engineer: Rudy Van Gelder Producer: George Butler Blue Note Label 参加メンバーは曲毎に紹介します。

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68年から73年の5年間でElvinはBlue Note Labelに於いて計10作のリーダー作をリリースしました。本作はその中の1枚で、Elvin本人の演奏自体はいずれの作品でもクリエイティヴさを聴かせていますが、参加ミュージシャンにより内容や作品の出来具合に差が生じているように感じます。他の作品が比較的小編成で王道のコンボジャズを聴かせているのに対し、本作は曲によってフロント楽器のメンバーを変えて様々なテイストを表現しています。そしてどの曲も演奏時間が短くコンパクトで、コアなElvinや更にはColtraneファンには物足りなさを感じさせますが、多くの聴衆へのアピールを考えるとダイジェスト的な演奏の方が耳に入り易く、ある種Elvinの最もポップな作品集と言えましょう。

全8曲の演奏中71年12月16日に録音された7曲がメインで、8曲目に収録されている同年2月12日録音の1曲は前作に該当する「Genesis」の残りテイクです。レコーディングメンバーも被っているので一応の統一感はありますが、プロデューサーのGeorge Butlerが「Elvin, 今回の録音は曲数十分にあるけれど、全体の収録時間が30分を切っていて28分しか無く、作品としてリリースするには短いんだ」「Yeah George, じゃあこの前リリース(同年9月)したGenesisに入りきらなかった曲があったろ?あれを入れれば事足りるんじゃないか?」「おお、そうだねElvin, that’s a great idea!」と言うようなやり取りがあったかどうかまでは知る由もありませんが、結果Frank Fosterのアルトクラリネットをフィーチャーした、また他とは毛色の変わったナンバーを作品に追加し、バリエーションが増えた形になりました。

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1曲目’Round Town<Dave Liebman(ts)Steve Grossman(ts)Joe Farrell(ts)Yoshiaki Masuo(g)Jan Hammer(el.p)Gene Perla(el.b) Elvin Jones(ds)Don Alias(congas)>

Gene Perla作曲の’Round TownはLiebmanとGrossmanのテナーコンビをフィーチャーしたジャズロック風のナンバー、Farrellはホーン・アンサンブル要員として参加、そして前年71年渡米したばかり、我らが増尾好秋氏のギターワークも随所に聴かれます。Liebman, Grossmanを擁した翌72年録音「Elvin Jones Live At The Lighthouse」はElvinのリーダー作中最高傑作の誉れ高い大名盤ですが、ここでの演奏はそのプレヴューとなります。

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冒頭のテナーソロはGrossman、レコーディング時20歳になったばかりですが堂々とした風格、テナーの音色の凄み、フレージング、タイム感、こんな事が出来る若僧、一体何者でしょう?続くLiebmanのソロにも彼らしいテイストをしっかりと聴く事が出来ます。オープニングに相応しい身の詰まった軽快なナンバーです。

2曲目Brite Piece<Dave Liebman(ss)Steve Grossman(ss)Joe Farrell(ss)Jan Hammer(p)Gene Perla(b)Don Alias(congas, oriental bells)>

Liebman作曲のBrite Piece、自身のダークな曲想のオリジナルが多い中、珍しく明るい曲風なのでネーミングされたのでしょう。「Live At The Lighthouse」CDリリース時の未発表追加テイクにも収録されています。ソプラノサックス3管によるアンサンブルはかなり珍しいですが、3人ともソプラノのヴァーチュオーゾ、大変エグいサウンドが聴かれます。部分的に時折テナーに持ち替えてアンサンブルしているのでは、と錯覚してしまいますが、多分Grossmanの音色があまりに太くてテナーのように聴こえてしまうのでしょう。ソロの先発はHammer、素晴らしいタイム感とブリリアントなピアノのタッチ、溢れ出るアイデア、若干23歳のチェコスロバキア出身のピアニストです。有名な話ですが68年ソ連による首都プラハ侵攻(プラハの春)をきっかけに20歳で渡米、バークリー音楽院で学び、John McLaughlin Mahavishnu Orchestraを始めとして数々のミュージシャンと活動しました。続くLiebmanのソプラノソロは実に「楽器が上手い」と感じさせる演奏で、後年自身の独自のカラーを発揮するようになるとサウンドがより整理され、音楽的なプレイヤーへと転身して行きます。

3曲目Lungs<Jan Hammer(p)Gene Perla(b)Elvin Jones(ds)Don Alias(congas)>

Hammerのピアノをフィーチャーしたトリオにコンガが加わった編成での超高速演奏♩=300、凄まじいドライブ感です!Hammerが渡米してアメリカ始め世界の音楽界で活躍したのはプラハの春がもたらした逆の功績かも知れません。タイトルLungsとはHammerのニックネーム、ElvinとPerla、Aliasの鉄壁のリズムに支えられ猛烈にスイングしています。Elvinの実にたっぷりとした1拍の長さと疾走するビート、躍動するリズムに気後れするどころか果敢に、いや全く対等に若者は演奏しています。Elvin, Perla, Hammerの3人で1枚アルバムがリリースされています。75年録音「Elvin Jones Is On The Mountain」PM Label 時代を反映してシンセサイザーやエレクトリック・ピアノが多用されていますが、たまたま電気楽器を用いているだけで、内容はアコースティック・ジャズの範疇です。何しろElvinのドラミングですから!

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4曲目A Time For Love<Joe Farrell(fl)Yoshiaki Masuo(g)Chick Corea(p)Gene Perla(b)Elvin Jones(ds)>

Farrellのフルートを全面的にフィーチャーしたバラードです。ピアノがChick Coreaに代わり、再びギター増尾氏が加わります。ピアノ、ギターのバッキングが混在する形ですが二人互いを聴き合い、決してぶつかったりtoo muchにはなりません。Liebmanのフルートも良いですがこういったスイートなバラードではFarrellに敵いません。しっとりとしたテーマ奏の後、ソロでいきなり倍テンポのスイングになりますがこれはColtrane Quartetのやり方、僕自身はバラードで倍テンになるのはバラードを演奏する意味が無いと昔から感じています。しかも僅か8小節間にも関わらず。ラストテーマの後のエンディングはElvinがマレットに持ち替えてアクセントを付けFineです。

5曲目Tergiversation<Chick Corea(el.p)Jan Hammer(el.p)Gene Perla(b)Elvin Jones(ds)Don Alias(congas)>

Perlaのオリジナル、CoreaとHammerふたりのエレクトリック・ピアノを同時にフィーチャーしたユニークな編成での演奏、ミステリアスなムードを湛えつつ、ムチャクチャカッコ良いです!ブレークが多く曲の構成も凝っており、Elvinのブラシワークでのフィルインをたっぷりと楽しめます。スティック時よりも音量が小さいためElvin独特の唸り声も同時にしっかりと楽しめます(笑)。スティックを使用したアップテンポでの大胆且つダイナミックなドラミングに反し、ブラシでの繊細さ、シンバルの絶妙さ、スネアの音色の美しさは同一人物のプレイとは俄かには信じられません!Elvinのドラミングは音楽の森羅万象を網羅しています。

6曲目La Fiesta<Joe Farrell(ss)Dave Liebman(ts, ss)Steve Grossman(ts)Pepper Adams(bs)Chick Corea(p)Gene Perla(b)Elvin Jones(ds)Don Alias(congas)>

本作の目玉、Coreaの名曲La Fiestaの登場です!実はこの演奏はLa Fiestaの初演にあたり、Corea自身の「Return To Forever」録音の約2ヶ月前に行われました。曲自体のアレンジ、構成の完成度としては既に完璧、更にこの演奏ではLiebman, Grossman, Pepper Adams達による3管編成のサックス・アンサンブル(今では信じられない凄いメンバーでのホーンセクションです!)が施され、大変ゴージャスな仕上がりになっています。後年La Fiestaがビッグバンドのアレンジで良く演奏されたのは、この演奏が基にあったからでしょう。「 Return ~」同様Farrellのソプラノサックスがフィーチャーされており、美しい音色、メロディ、スペースが短いために凝縮された展開ですが素晴らしいソロを披露しています。それにしてもElvinとAliasが織りなす8分の6拍子のグルーヴといったら!「Return~」が中南米の祭り(Fiesta)ならばこちらは間違いなくアフリカ大陸の祭りをイメージさせます。CoreaのソロとElvinのドラミングの織りなすリズムはグルーヴ・マスター同士にしか成し得ない崇高な世界、この時期CoreaはElvinのバンドに出入りしており、互いに惹かれるものがあったと思います。通常この手の演奏は開始時に比べて終了時にはテンポが速くなっていますが、全く変化していません!流石です!そうそう、いくらボスElvinの仕事とはいえソロが回って来ない Grossmanがホーンセクションで大人しくしている訳がありません(汗)。もともとテナーの音色に倍音がとても豊富なので録音時マイク乗りが大変良く、バックのアンサンブルであるにも関わらずGrossmanの音だけが前に出る傾向にありますが、曲が始まった頃は比較的静かだったのがだんだんと音量が大きくなり、本人更に業を煮やした結果か、5’16″~20″はメチャメチャ大音量でセクション・アンサンブルを吹き始め、Farrellの音を掻き消さんばかりの状態になりました。レコーディング・エンジニアRudy Van Gelderが慌てて録音のフェイダーを下げた節が伺えます。でもGrossmanはFarrellの演奏、人柄を認めていたようです。Farrellが逝去した86年1月、直後に来日したGrossman本人にその旨を僕が伝えたところ驚き、その後天を仰ぎ、謙虚に哀悼の意を表していたのが印象的でした。

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7曲目The Children’s Merry-Go-Round March<Joe Farrell(piccolo)Dave Liebman(ss)Steve Grossman(ss)Pepper Adams(bs)Jan Hammer(glockenspiel)Gene Perla(b)Elvin Jones(ds)>

Elvinの奥方Keiko Jonesのオリジナル、以降のElvin Bandの重要なレパートリー曲になりました。Elvinのマーチングドラム、実に素晴らしいですね!色っぽさも感じさせ、彼のスネアドラムを聴いているだけでワクワクしてしまいます!こんな事が出来るドラマーは他にはいません。Farrellのピッコロ、Hammerのグロッケンシュピール演奏も功を奏しています。「Live At The Lighthouse」ではテーマのアンサンブルの後ドリアンスケール・ワンコードで延々とアグレッシヴなソロが続き、Coltraneの世界をGrossman, Liebmanふたりが分担して表現していましたが、ここでは割愛、テーマのみの演奏になっています。この曲の雰囲気が余りにも他の収録曲と違和感があるので、ジャジーなテイストを表現すべく触りだけでもテナーソロが欲しかったところです。

8曲目Who’s Afraid…<Joe Farrell(ts, ss)Dave Liebman(ts, ss)Frank Foster(alto clarinet)Gene Perla(el.b)Elvin Jones(ds)>

Frank Fosterのオリジナル、前述のようにこの曲のみ約10ヶ月前のセッションからのテイクになります。コードレスのジャズロックテイストでFosterのアルトクラリネット(思いの外バスクラに近い音色です)にPerlaのエレクトリック・ベースがユニゾンでメロディを演奏し、FarrellとLiebmanのアンサンブルが絡み、その後Liebmanのソプラノがスネークイン、Fosterの演奏の後ろでフリーキーなソロを次第に取り始めます。割とナゾの演奏ですが、様々なタイプの曲を収録した本作にはむしろ良いアクセント的なテイクになったと思います。

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