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Eastern Rebellion 2 / Cedar Walton

今回はピアニストCedar Walton1977年録音の作品「Eastern Rebellion 2」を取り上げてみましょう。

77年1月26, 27日録音 Studio: C.I. Recording Studio, New York City, NY Label: Timeless Engineer: Elvin Campbell Producer: Cedar Walton
p)Cedar Walton ts)Bob Berg b)Sam Jones ds)Billy Higgins
1)Fantasy in D 2)The Maestro 3)Ojos de Rojo 4)Sunday Suite

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Cedar Waltonはピアノソロ、トリオからカルテット、クインテット、ビッグバンドまで様々な編成で作品をリリースしていますが、個人的にはテナーサックス・ワンホーンによるカルテットが最もWaltonの個性を発揮出来るフォーマットと考えています。本作の約1年前、75年12月に録音された前作「Eastern Rebellion」も本作同様全曲Cedar Waltonのオリジナル、アレンジを演奏している佳作、名手Sam JonesとBilly Higginsを擁したカルテット編成、ただテナーサックスが本作参加のBob BergではなくGeorge Colemanになり、彼の参加はこの作品のみに留まります。Waltonは本作にてBob Bergというニューヴォイスを得て、以降自己の音楽を推進させることが出来たように思います。Waltonの書く楽曲のメロディライン、その音域、コード感、全体的なサウンドがテナーサックス、特にBergの個性的な(エグい!)音色や吹き方に合致していると感じるのです。他のテナー奏者の音色、アプローチでは物足りなさを覚え、また別な管楽器が加われば確かにアンサンブルのサウンドは厚く、ジャズ的なゴージャスさが増すと思いますが、ワンヴォイスでの凝縮されたソリッドさがむしろWaltonの音楽性に合っていると感じています。

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本作録音と同じ77年の10月、同一メンバーでDenmarkのCopenhagenにあるライブハウスJazzhus MontmartreにCedar Walton Quartetとして出演、この時の演奏を収録したSteepleChase Labelからリリースの3部作「First Set」「Second Set」「Third Set」はこのカルテットの魅力を余す事なく捉えたと言って過言ではない、本当に素晴らしい内容のライブ・アルバムです。「Eastern Rebellion 2」録音から8ヶ月余、この間にかなりの本数のギグをこなしてCopenhagenに赴き、演奏を結実させたと推測することが出来、バンドが発展〜成熟していく様をこれらの作品を通して垣間見ることが出来ますが、これは我々ジャズファンとして大きな喜びです。

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First Set裏ジャケットの写真です。このBob Bergのワルぶりと言ったら!

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Eastern Rebellion(ER)4まで同一ジャケットでの連作となり、Curtis Fullerが参加してQuintet編成でER3を、キューバ出身のトランぺッターAlfredo “Chocolate” Armenterosがさらに加わりSextet編成でER4をリリースしましたが、その後85年BergがMiles Davis Band加入のために抜け、Ralph Moooreを迎えてのカルテット編成に戻り以降3作を発表しています。Sam Jones亡き後はER4からDavid Williamsがベーシストの座に座りました。Eastern Rebellionというバンド名義の他にCedar Walton Quartet(Quintet)の名前でも作品を多くリリースしていて、両者の区分はよく分かりません。ちなみにWaltonは多作家で48作ものアルバムをleader, co-leaderの形でリリースしています。

Waltonのテナーサックス・ワンホーンでの演奏はJohn Coltraneの59年Giant Steps Alternate Takes(Giant Steps録音としては初演)のレコーディングに端を発しているように思います。この時25歳の若きWaltonは伴奏のみでの参加、難曲のソロを取らせて貰えなかった訳ですが、以降リーダー作では事あるごとにテナーサックスをフロントに迎え、思う存分ブロウさせています。Coltraneとの共演で培われた(刷り込まれた?)、ソロを構築する論理的タイプのテナーサックス奏者の伴奏、その魅力に取り憑かれたピアニストの、一貫したミュージックライフと僕は捉えていますが如何でしょうか。

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もう一作、Waltonがサイドマンで参加したテナーサックス・ワンホーンの作品を挙げておきましょう。Steve Grossmanの85年録音リーダー作「Love Is the Thing」(Red)、Waltonの他David Williams, Billy Higginsというメンバー(Cedar Walton Trioですね)で、ウラEastern Rebellionとも言うべき名作です。Grossman本人も会心の出来と自負していました。

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それでは収録曲を見ていきましょう。1曲目Waltonのオリジナルになる名曲Fantasy in D、Jazz Messengers(JM)ではUgetsuというタイトルで63年NYC Birdlandのライブ盤がリリースされ、JMの最盛期を収録した名盤にこの曲が収められました。タイトルは雨月物語から名付けられましたが、レコーディングの数ヶ月前に日本ツアーを終えたJM、バンドを大変暖かく迎え入れてくれた日本の聴衆へ敬意を表してWaltonがタイトルにしました。東洋的な要素と西洋音楽の融合、East Meets Westの具体的な表れです。Fantasy in Dのタイトルの方はこの楽曲のキーがDメジャーに由来する、Dの幻想ですね。イントロの16小節は曲のドミナント・コードであるA7のペダル・トーンを生かしたセクション、Higginsの軽快なシンバルワークがバンドを牽引しますが、この音色はZildjian系ではなくPaiste系のシンバルならではのものと考えられます。スピード感とタイムのゆったりさ、柔らかさが同居する実に音楽的な素晴らしいレガートです!Waltonのピアノ・フィルもこれからこの曲に起こるであろう豊かな音楽の事象をプレヴューするかの如き、イメージに富んだものです。続くテーマ部分では対比するかのようにストップタイムを多用した、コード進行の複雑さを感じさせずに美しくスリリングなメロディが演奏されます。テーマ後のヴァンプ部分からごく自然にBergのソロが始まります。イヤー、何てカッコ良いのでしょう!この時Berg若干25歳!表現の発露とイマジネーション、音楽的な毒、ユダヤ的な知性と情念が絶妙にブレンドされたテイストです!この曲のコード進行に対するラインの組み立て方を研究し尽くし、しかし策には溺れず、即興の際の自然発生的な醍醐味を全面に掲げて熱くブロウしています。Waltonのバッキングは絶妙に付かず離れずのスタンスをキープしつつ、Bergの演奏をサポート、また時には煽っています。Higginsは決して出しゃばらずに且つ的確なフィルイン、スネアのアクセントを入れ、奏者への寄り添い感が半端ありません!同様にSam Jonesのベース、Higginsのプレイとの一体感は申し分なく、一心同体とはこの様な演奏を指すのだろうと納得させられます。Bergのフレージング中、盛り上がりの際に用いられる高音域から急降下爆撃状態、若しくは最低音域から「ボッ」、「バギョッ」とスタートする上昇ラインで用いられるLow B音、この曲のキーに全く相応しいのです!この頃のBergの楽器セッティングですが、本体はSelmer Super Balanced Action、マウスピースはOtto Link Florida Metal、恐らく6番くらいのオープニング、リードもLa Voz Med.あたりと思われます。続くWaltonのソロも素晴らしい!と思わず右手を握りしめて親指を垂直に立て、そのスインガー振りを讃えたくなります。シンコペーションを多用した、ジャズ的な音使いとメロディアスなラインとのバランスがこれまた堪りません!かの村上春樹氏をして「シダー・ウォルトン~強靭な文体を持ったマイナー・ポエト」と言わしめるピアニスト。常にフレッシュな感性に満ちた演奏を聴かせます。3’39″でクリスマスソングのSleigh Rideのメロディを引用するあたり、なかなかのお茶目さんです!4’38″で同じメロディが浮かび、もう一度はマズイと打ち消した節も感じられますが(汗)。その後ラストテーマへ、エンディングは再びイントロと同様にA7のヴァンプがオープンになり、テーマの1, 2小節目のコード進行を用いてFineに辿り着きます。終わるのが惜しいくらいの内容を持った名演奏です。

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2曲目はThe Maestro、一転してゆったりとしたテンポでピアノが美しいメロディを奏でます。ドラムもブラシでリズムをキープしていましたがスティックに持ち替え、スインギーなレガートを聴かせ始めます。テナーが加わりラテンのリズムになり、がらっと雰囲気が変わります。その後はBergの独壇場を聴くことが出来ます。この頃のBergは以降に比べ音符の長さが幾分短く、8部音符はまだしも16分音符はかなり詰まった様に聴こえますが、リズムセクションがその全てを包容しているので音楽的に何ら問題はありません。コンパクトですがしっかりとストーリーを持ち合わせた巧みな演奏です。
3曲目のOjos de Rojo、スペイン語表記ですが英語ではEyes of Red、アップテンポのラテンのリズム、イントロのシンコペーションのメロディに続きヴァンプの印象的なパターン、メロディがこれまたグッと来るドラマチックな構成の名曲です。Higginsがシンバルのカップ部分を叩いたり、0’41″辺りでさりげなくクラーベのリズムを叩いたりと、カラーリングが巧みで、無駄な表現が皆無と言って良いでしょう。全ての音に意味がありそうです。Jonesのベースもラテンのグルーヴが強力で、Fantasy in DではHigginsがリズムの司令塔の役目を果たしていましたが、この曲に於いては最も支配的な演奏を聴かせます。ソロの先発はWalton、ベース、ドラムの好サポートに支えられ素晴らしいソロを聴かせます。ヴァンプを挟みBergがこれまた内に秘めた炎を熱く燃やします。多くのユダヤ系テナー奏者はマイナー調を演奏する際に独特のパッションを表現しますが、Bergも例外ではありません。ヴァンプ後ラストテーマ、イントロのメロディを再演しFマイナー・ワンコードになりますが、テナーのフィルインがサムシング・ニューをもたらそうと健闘しています。ここまでがレコードのSide Aになります。
4曲目はレコードのSide Bを占め約18分にも及ぶSunday Suite、リズムセクションによるラテンの軽快なリズムに始まり、陽気なテナーのメロディがあたかも日曜日の清々しい朝を感じさせます。印象的なシンコペーションのメロディが続きこれらが繰り返された後、短3度上がったメロディ、その後フェルマータし、ピアノの美しい独奏がかなりの長さ演奏され、一転してミディアムスロー・テンポでテナーによるダークで物悲しいメロディ、その雰囲気を受け継いだ統一感のあるソロが聴かれます。せっかくの日曜日なので外出しようとしたのが土砂降りの雨にでも見舞われたのでしょうか?(笑)引き続きパート4とでも言えるアップテンポのスイング・ナンバーがメチャメチャカッコいいピアノのイントロから開始です!まさにこのバンド向け、ぴったりのメロディ、サウンドのモーダルなナンバーです!それにしても日曜日に一体何が起きたのでしょうか?(爆)、問題提起感が凄いですね。アドリブはC Dorianワンコード、いわゆる一発で行われ、ソロの先発はWalton、巧みなフィンガリング、フレージングにピアノの上手さを感じますが、練習を披露しているかの様なソロの部分にはちょっとばかり残念さを覚えます。続くBergのソロはまさに水を得た魚、このテンポで巧みにストーリーを語るのは本当の実力者です!ピアノのバッキングがBergを煽るべくイってます!個人的にはドラムにも、もっと茶茶を入れて貰いたかったところですが。テナーソロに崩壊の兆しが見えたところでHigginsのフリードラムソロに突入、様々なアプローチを巧みに駆使して名人芸を聴かせます。ラテンのリズムを繰り出して冒頭の「日曜日の清々しい朝」セクションが演奏され、Sunday SuiteはFineです。

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