ChatGPT o1 pro modeとo1・4oの比較〜文学作品をもとに〜
1. 概要
2024年12月上旬、OpenAIが新たに提供を開始した「ChatGPT o1 pro mode」は、月額およそ3万円(200ドル)という高額設定ながら、高度な生成能力や分析力を特徴とし、ユーザーや研究者の間で注目を集めつつあります。従来の「o1」や「4o」と比較して、このo1 pro modeが実際にどの程度優れているのか、単純な機能紹介だけでは判断しにくいのが現状です。そこで本稿では、文学作品という複雑で多面的なテキストを用いることで、これら3つのモード間にどのような差異が現れるのかを具体的に探ってみたいと思います。
比較対象として選んだのは、国際的な評価を受ける韓国人作家ハン・ガンさんの著作『別れを告げない』(작별하지 않는다)です。この作品は、深い内面性や独特の詩的感性で読者を魅了し、その背後にある歴史的・社会的な背景も含め、高く評価されています。今回は、韓国語で記されたこの作品の表紙画像を「入力情報」とし、その上で各モードに対して、作品の魅力を解説する出力を求めました。
このような手法を採用する理由は、文学テキストが読解能力や言語的創造性のみならず、文化的・歴史的文脈への理解力も要求するためです。単純な質問応答では明確になりにくい、微妙なニュアンスや含意、作品世界がもたらす独特の余韻などが試されます。そして、この点こそが、3つのモデル間で性能差が浮き彫りになる可能性を秘めています。
本稿は、いわば「高度化する生成AIモデルを文学を通して検証する試み」であり、さらに「高額なプロモードに投資する価値はどれほどあるのか」という問いかけともなっています。以下では、3種類のChatGPTモデルから得られた出力を比較・検証し、それぞれがどのような視点、深度、表現力をもって『別れを告げない』の魅力を描き出すかを明らかにしていきます。
2. 比較結果
以下は、提示された「o1 pro mode」と「o1」「4o」の出力内容を比較し、3つの具体的な違いを整理した例です。
情報量・分析の深さ
o1 pro mode:
歴史的・社会的背景(光州事件、韓国社会のトラウマなど)や、ハン・ガン作品全体におけるテーマ的な位置づけなど、より広い文脈から作品を分析しています。作品が孕む倫理的問題や詩的空間の構築など、抽象度と深度の高い評価が見られます。o1・4o:
o1と4oも作品の魅力や歴史的背景に言及していますが、o1 pro modeほど踏み込んだ議論ではなく、記述はやや要約的・簡潔なものとなっています。
関連作品やテーマの広がり
o1 pro mode:
ハン・ガンの代表作や、韓国現代文学シーンでの位置づけ、他作品(『少年が来る』など)との関連性について詳細に触れ、作者全体の作風・主題との比較考察がなされています。o1・4o:
o1では一部、ハン・ガンの他作品(『菜食主義者』『少年が来る』)に触れていますが、o1 pro modeほど多層的な比較は行われていません。4oにいたっては、作者作品群への比較的な広がりは控えめで、やや一般論に留まります。
読者への思索的な呼びかけの強度
o1 pro mode:
別れや喪失をめぐる従来の価値観を問い直し、読者が深く考え続けることを促すスタイルがより顕著です。倫理観や人間存在の在り方、記憶と痛みの持続性といった抽象的な問題への踏み込みが強く、読後の思索的余韻へと導く解説が含まれます。o1・4o:
o1と4oも作品の意義や読後の余韻に触れていますが、o1 pro modeに比べると「読者を深く揺さぶる哲学的問いかけ」という点での言及はやや弱く、魅力がより分かりやすい形で整理されています。
3. 入力
以下が、表紙の画像です。
4. 出力
4-1. o1 pro mode
『別れを告げない』の魅力について(もしご存知であれば)
韓国人作家ハン・ガン(한강)は『菜食主義者』をはじめ、『ギリシャ語の時間』や『少年が来る』などで国際的評価を得た作家であり、その作品群は深く内面に根差した感性と、社会的痛み、記憶、喪失といったテーマを繊細に掘り下げる特徴があります。『別れを告げない』(「작별하지 않는다」)にも、以下のような魅力があるといえます。
別れと喪失に対する新たな視点:
「別れを告げない」というタイトルからもわかる通り、この作品は「別れ」や「死」、「喪失」を従来のような決定的・終止符的なものとして扱わず、人間関係や思い出が形を変えて持続するあり方を描き出します。別れが「行為」や「イベント」ではなく、「連続する状態」として捉えられ、読者は従来の別離観を問い直すことを促されます。ハン・ガン独特の詩的な文体:
ハン・ガン作品の特徴の一つである「詩的で余韻のある文体」がここでも存分に発揮されています。彼女は細密な描写と空白(沈黙)のバランスを巧みに操り、比喩的表現や感覚的ディテールを通じて、読者の心に深く染み込むイメージを喚起します。言葉にならない感情やトラウマ、喪失の記憶が、美しくも痛ましいイメージで浮かび上がります。歴史的・社会的背景との共鳴:
ハン・ガンは韓国社会や近現代史を背景として、人間の内面性や倫理的問いを浮かび上がらせることが多い作家です。『別れを告げない』もまた、特定の社会的・歴史的文脈(たとえばセウォル号沈没など、韓国社会を揺るがした出来事)の痛みや追悼のモチーフを下敷きとしており、読者は個人的な喪失感情と社会的な悲劇が交錯する地点を目撃します。物語世界は特定の歴史事件を明示的に語らない場合でも、読者が韓国現代史や社会的悲劇を想起することで、作品が生み出す感情の深みは増幅されます。普遍的な人間性への問い:
「別れを告げない」という主題は、特定の国や時代を超え、人間が避け得ない「死」や「別離」という普遍的な問題に迫ります。そこには哀悼や慰め、内面的癒しの可能性、または癒えない傷を抱えながら生きる術など、読者が自らの経験と重ね合わせて考えられる余地があり、読む者によって多様な読みが可能です。
総じて『別れを告げない』は、ハン・ガン特有の繊細な文体と深い思索的テーマを通し、別離や喪失をめぐる固定的な価値観や常識を揺るがし、読後に静かな余韻と問いかけを残す、非常に魅力的な作品といえるでしょう。
4-2. o1
「別れを告げない」の魅力(ご存知の場合):
ハンガンは『菜食主義者』や『소년이 온다(少年が来る)』などで知られる韓国現代文学を代表する作家の一人であり、その作品はしばしば暴力、喪失、傷跡、人間の内面性などの重く繊細なテーマに迫ります。『別れを告げない』においても、以下のような魅力が際立っています。
過去と現在の交錯する記憶:
この作品は、韓国現代史に刻まれた痛ましい出来事(たとえば光州事件など)や、それに伴う個人的・集合的なトラウマ、喪失された命や声なき存在を背景としているとされます。物語は、明確な別れや区切りを設けられないまま現在へと影を落とす「過去」と、目に見えぬままに絡みつく「記憶」を扱います。過去と現在の狭間で語り手がたどる思考や情念は、読者を深い思索へと誘います。別れを拒む姿勢が生む倫理的・詩的空間:
「別れを告げない」という行為は、単なる情緒的な執着ではなく、過去の犠牲者や失われた存在への、忘却しない・軽んじないという倫理的な立ち位置を示唆します。その態度は、暴力や理不尽を「終わったこと」として片付けず、痛みや悲しみを抱え続け、そこから倫理観や人間性を問い直す詩的な空間を読者の中に生み出します。独特な言語表現と内面描写の深み:
ハンガンの文体は繊細でありながら、非常に詩的かつ内省的です。彼女はしばしば、喪失された声なき者たちを言葉で呼び戻す試みを行います。特定の登場人物や状況を越え、より普遍的な人間存在の痛み、言葉にならぬ叫びをすくい上げる表現は、読者に静かでありながらも大きな衝撃を与えます。歴史的・社会的文脈と個人の感情を巧みに融合:
歴史的トラウマは公的記憶として語られがちですが、ハンガンはそこで見落とされる個別的な悲しみや愛、そして「別れを告げられなかった」無数の存在に光を当てます。社会的コンテクストと個人の内面世界が密接に絡み合い、その総体として人間社会の在り方が問われる点が、この作品の深い魅力といえます。
これらの点から、『別れを告げない』は、単純なストーリーを越えて、人間の記憶、倫理、そして表現不可能な痛みと向き合う文学的挑戦として高い評価を受け、読む者に強い余韻を残す作品となっています。
4-3. 4o
魅力について:
「別れを告げない」(작별하지 않는다)は、ハン・ガンの作品の中でも深い哲学的・詩的なテーマを扱っており、以下のような点で魅力的だとされています。
人間の感情の深淵な探求
ハン・ガンは別れや喪失という普遍的なテーマを通じて、人間が抱える痛みや希望を描いています。この作品では、愛や死といったテーマが静かに、しかし鋭く語られます。詩的で美しい文体
ハン・ガンの特徴である詩的な表現が随所に見られます。読み手を包み込むような描写が、物語に深みを与えています。個人と歴史の交錯
彼女の作品では、個人的な物語が歴史的・社会的な背景と結びついています。この作品もまた、個人の体験を通じて社会や歴史について考えさせる構造となっています。生と死の意味の探求
「別れを告げない」は単なる別れの物語ではなく、存在そのものの意味、生きることの儚さと美しさについて深く考えさせられる作品です。静寂の中の力強さ
この作品は大きな感情を爆発させるというよりも、静かに、しかし力強く読み手に訴えかけてきます。その静寂の中に潜む力強さが、多くの読者に感動を与えます。
5. おわりに
本稿では、月額3万円(200ドル)という高額な「ChatGPT o1 pro mode」を従来の「o1」や「4o」と比較し、その違いを文学作品『別れを告げない』を素材に浮き彫りにする試みを行いました。その結果、o1 pro modeは、他の2モードに比べてより豊かな背景知識や深い考察を示し、歴史的・社会的文脈をより明確に掘り下げ、読み手に思索的な問いかけを投げかける能力に秀でていることが明らかになりました。特に、ハン・ガンという作家の創作世界を広い文脈から位置づけ、作品が内包する抽象的なテーマや普遍的な倫理的課題への深い洞察を提示する点で、o1 pro modeは他を凌駕していました。
一方、o1や4oも作品の魅力を一定程度的確に言語化し、人間の内面性や社会的背景との繋がりを指摘するなど、要約力や基本的な説明能力を十分に備えています。しかし、その深度や解釈の広がり、読後の思索を促す強い呼び水としての役割については、o1 pro modeが一段上であることがわかりました。簡潔でわかりやすい魅力の紹介を求めるなら、o1や4oでも事足りるかもしれませんが、作品世界の奥行きや隠された文脈、さらには読者個々の思考をより深く揺さぶる表現力を求めるのであれば、o1 pro modeに投資する価値は考慮に値するでしょう。
こうした比較から浮かび上がるのは、生成AIモデルが、同一の入力情報からでも異なる層を抽出し、異なる「読み」を提示できるという事実です。特に、文学作品のような多層的なテキストは、モデルの言語能力だけでなく、隠れたコンテクストや文化的知見を引き出す力、その知見をもとに読者へ問いを投げかける能力が試されます。o1 pro modeのような「上位」モデルは、コストの高さを差し引いても、その豊穣な出力を通じて、改めて人間と言語、歴史、文化をつなぐ媒介者としての役割を果たし得る可能性を示唆しています。
本稿が示した比較結果は、まだ限られた一事例であり、すべての領域やタスクにおいて同様の差異が見られるとは限りません。しかし、少なくとも文学的な対象領域では、o1 pro modeという「有料アップグレード」の価値が一面明らかになりました。今後はさらに多様な題材やジャンルで検証することで、生成AIモデルが「文学」という、人類が何千年にもわたって育んできた精神的営為をどのように理解し、表現し、読者へと還元できるのか、その可能性と限界をより鮮明にしていくことが求められるでしょう。