邦楽ロック日本語論争についての考察
70'初頭、邦楽ロック黎明記。
70'代初頭、輸入品であったロックを英語で演るか、
はたまた日本語で演るか。論争がおこりました。
今では、どうでもいい事が真面目に議論されました。
シェキナベイベーの内田裕也氏を中心に、
グループサウンズ、モップスの鈴木ひろみつ氏
ミッキー・カーチス氏等が英語派。
日本語派として、はっぴいえんどの大滝詠一氏。
ただ…これにはちょっとした問題があり、内田裕也氏としては、日本の芸能界を席巻していた「歌謡曲」に対して、メディアを通し、メインストリームへの脱却を目指すために日本語ロックへ議論をふっかけアピールしたのではないかと疑念が湧きます。また内田裕也氏は裏方にまわり後押しする立場に移行した時期とも重なり、邦楽ロックとはなんぞやと言う定義さえ作りたかったのではないかとも思われます。
対する日本語派の大滝氏は全く気にせず、日本人に向けて歌うのだから日本語で歌うのは当たり前、「やりたい」と言う純粋な想いから、日本語でトライしたいと主張。
そんな背景があり、論争は始まりました…
2回目の議論
はっぴいえんどの松本隆氏も合流。
ここでもはっぴいえんどとしては、どちらでも構わないと言う立場を変えない。
それも当然で、英語派が一方的に論争をふっかけたと言う意見もあった事も事実で、特にURCレコード(主にフォーク系のアーティストの作品をリリースしていたレーベル)のアーティストが雑誌の投票にて上位を占め、英語派のアーティストが虐げられていたと感じていたと言う一因もありました。
議論とは名ばかりで、両者の間には温度差がかなりあったと言うざるを得なかったと思います。
英語派の功績
内田裕也氏率いる「フラワー・トラベリン・バンド」はカナダでデビュー。アトランティックレーベルと契約し、チャートインを成し遂げた。
また、竹田和夫率いるクリエイションは1976年、2ndアルバム『クリエイション・ウイズ・フェリックス・パパラルディ』をリリースする。このアルバムはアメリカでは『FELIX PAPPALARDI & CREATION』としてリリースされ、同年7月より、パパラルディを加えたメンバーで、キッス、ジョニー・ウィンターなどと共に全米ツアーを行った。
矢沢永吉 キャロル
72'衝撃のデビュー。
フジテレビのリブヤングと言う番組で見ました。
革ジャン、リーゼントと言う外見で音楽的には誤解もありましたが、リバプール時代のBeatlesだった。矢沢永吉氏はBeatlesだった。
話は逸れましたが、日本語と英語のちゃんぽん。また、あの独特の巻舌。その事で洋楽に日本語を乗せる方法を編み出したと思います。
キャロルの活動はたった3年…
たったの3年での功績は素晴らしい。もちろん現在も現役バリバリである事は周知の通りです。
サザンオールスターズ
78'テレビ番組のザ・ベストテンのスポットライトのコーナーで出演。偶然にもリアルタイムで視聴。
桑田佳祐氏の音楽は「和洋折衷」巻舌と英語、日本語のちゃんぽんは前出の矢沢永吉氏と同じですが、桑田氏は更に「拗音」「促音」の多様(ゃ、ゅ、ょ、等の小さいひらがな)により、洋楽に日本語を乗せました。例…ちょいと…等
また、桑田氏は口語体、文語体さえ混在させ、長唄、落語等の日本文化を取り入れていた。また、日本語で英語っぽい単語…例えば、「Cry」「位」…「Try」「つらい」…等、似たような音で歌詞を書き、英語っぽく歌う事で音に乗せていく。洋楽のサウンド重視の楽曲制作は後出のアーティストに影響を与えました。
蛇足ですが、「チャコの海岸物語」のチャコは飯田久彦さん。ミーコは弘田三枝子さんの事。桑田佳祐さんはその頃の事にも精通されています。
宇多田ヒカル
宇多田ヒカルさんの事を例に出せば何となく理解しやすいかとも思います。歌詞の割り方が日本的ではないのです。元々、あちらで育った事もあり、洋楽で育ったと言っても過言では無い宇多田氏。リズムボックスにあわせて楽曲を作成したとも言われております。
デビュー曲の「Automatic」を例に上げます。
「な、なかいめの、べ、るで、じゅわき の」様に意味が分からなくなるまでの譜割り、当時はかなり、話題になりましたが、この手法は宇多田ヒカルさんが初めてではありません。
はっぴいえんどの「颱風」ではもっと変な譜割りです。
四辺は俄かにかき曇り
窓の簾を洌たい風が
ぐらぐらゆさぶる
正午のてれびじょんの天気予報が
台風第二十三号の
接近を知らせる
あたりはにぃー わかにかー きくもりぃー まどのすー だれをーつめたいかぜがー ぐーらぐーら ゆさぷる
片手に歌詞カードを持ちながらでなくては何を歌っているのか、意味さえもわからない程の譜割り。そんな試みをしていたのです。
楽曲制作、技術
日本語での洋楽制作は、ほとんどのアーティストが曲先で制作します。当然の事だとは思われますが、そこには曲だけでは無く、リズム、アレンジ等も含まれます。そこに日本を当てはめていく。日本語での音をサウンドに乗せる作業になっていきます。ここで「母音」が重要になってきます。日本語の母音は5個。あ・い・う・え・お この5個の音が伸ばされます。例えば「愛は〜」と歌えば、伸ばされる部分は「あいはあ〜」の最後の「あ」になる。しかしながら、日本語の発音では、ほとんどがはっきりしたものになるので、音が固く、リズムに乗らなくなります。そこで、「巻舌」「英語バース」「拗音、促音」「鼻濁音」また、テクニックとして「拍」をずらしたりもします。更に、歌詞をはっきり歌わない事も含まれ、「あなた」「は(あ)なた」の様に曖昧な発音により、洋楽サウンドに近づける様にしたりもします。
対して「詞先」は曲にバリエーションを持たせるには良い方法です。また、メッセージを伝えるにも「詞先」が良いとされます。単語のイントネーションが正しくできる事、字余りにならない事等。しかしながら、洋楽サウンドとはかなり外れた物になりがちです。
他にも様々なアーティストが様々な方法でチャレンジしています。
※英語の母音は日本語の約5倍とも言われています。曖昧で微妙な音、また、一つの音符に1音ではなく、一つの単語をのせる事が出来る英語とでは、日本語を洋楽に乗せるのはかなり至難の技が必要になってくる事でしょう。
果たして誰が?
では、はたして誰が初めに洋楽に日本語を乗せたか?と言うことですが、やはり一般的には「はっぴいえんど」と言われていますが、本当にそうでしょうか?
今は昔、洋楽ポップスをカヴァーした時代がありました。
ザ・ピーナッツ、弘田三枝子、森山加代子、田代みどり、尾藤イサオ、坂本九、等々…彼らはただ、訳詞を歌っただけでは無く、洋楽サウンドに日本語を乗せるため、日本語を曖昧に発音したり、フライング気味に歌い出ししたり、洋楽の雰囲気を出す為に様々な努力がありました。
はっぴいえんどの罪
現在では、英語で歌おうと日本語で歌おうと正解は無いと思っています、英語でも日本語でもどちらでも歌ったとしても構わないのです。また、それが正解であろうと思います。
ただ、「はっぴいえんど邦楽中心史」には疑問を持っています。確かに邦楽に日本語を乗せた功績は間違いありません。誰も否定はしないと。ただ、時代がそうさせた感も否めない。当時はロックと言えば、ギターバンドのハードロックが主流で、アメリカのソフトロック、フォークロックはロックとしては認識されずに、はっぴいえんどか導入したバッファロースプリングフィールド等はマイナーな存在として人気もいまいちでありました。
もし、日本語論争ではっぴいえんどが敗北していたら(勝負なんかないのだけど)邦楽は英語で歌われ、世界進出もかなり容易に出来ていたのかも知れません。アメリカでチャートインしたのは、数少なく、ビルボード1位の坂本九さんが最高で、ピンクレディーが最高位37位 アルバムでは「LOUDNESS」「YMO」「BABYMETAL」位でしょうか? X JAPANやB'z等は…誰も聴かれていないのが事実です。
はっぴいえんどの元メンバーの細野晴臣氏は解散後、YMOで海外進出を成し遂げましたが、インスト、英語で行いました。もし、はっぴいえんどの方法論で言えば、日本語でまた、日本の文化で海外進出を行ったはずではないのか?また、モップスは吉田拓郎氏が作った「たどり着けばいつも雨降り」がヒットしたのも主張とは逆でした。
海外進出と現在の邦楽
日本の音楽業界はアメリカに次いで世界第二位の規模です。この意味が理解できるでしょうか?海外進出しなくても、日本だけで活動しても成り立つのです。ここ数年、韓国のK-POPと言われるジャンル。BTSが代表です。韓国の人口は日本の約半分。となれば輸出も視野に入るのも当然です。国内だけではビジネスにはなり得ません。韓国のK-POPの緻密な輸出計画は素晴らしいものです。が、しかし、音楽を芸術の一環と考えるのであれば、少し残念な思いもあります。本来「良いもの」が支持されますが、実際はそうでもないのです。市場を調査し何が支持され、どの様に売れば売上が上がるか。人気作家を選択し、イメージを作り上げ、そして販売していくのです。悪い言葉で表現すれば、「不味いものも美味い」と言って食べさせる事も可能になります。誤解もしないで欲しいのはBTSがそうだと言ってるのではありません。彼等の努力は素晴らしい物があります!
ビルボードチャート…今、一番信頼される音楽チャートですが、ここにも問題が隠されています。日本では「オリコン」オリジナルコンフィデンスが音楽チャートを牽引していましたが、数年前より、ビルボードが取って代わりました。何故なら、CDの販売数が激減し、その集計だけでは信頼生が無くなってきたのです。ビルボードではYouTubeの再生数、Twitterでのツイート数等、直接販売売上とは違う数値が加味されています。Google 、Twitterで「ビルボード対策」で検索してみて下さい。驚きの事実が表示されます。
さて、日本の現状ですが、英語バースを使用するアーティストがいなくなってきています。あれだけ、先人達が編み出した方法を使用しなくなってきています。多分、ヒップホップやラップの影響が大きいのでは無いかと思われます。韻を踏んだり、ビートに言葉を乗せることで、1つの音符に1つの音を乗せることを打破したとも言えます。一方でONE OK ROCKの様に英語歌詞だけで勝負しているバンドがも存在します。
最後に
多くのミュージシャンが様々なやり方で勝負しています。その勝負しているミュージシャンを応援したいと思います。確かに箸にも棒にもかからないミュージシャンも存在するのは事実です。安易な道を選ぶ者、流行りの音を使う者、現実存在します。ですから、まわりの雑音に耳を傾ける事なく、自分自身の耳を鍛えて「本物」を聞き分けて頂きたいと切に願っています!
ありがとうございました。
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