芸術家は自分の作品のテーマくらいは勉強してほしいと思ったことについて

基本的に私は芸術家を尊敬しています。
人類の歴史の主役は芸術家であり、どんな優れた政治家、科学者、企業家も、軍人も、歴史の脇役に過ぎないと思っています。
芸術家以外は歴史の中で忘れ去られ、消えていくだけです。
もちろん芸術家自身も忘却の彼方に消えていくでしょうが、芸術家の作品だけは人類の歴史の最後まで残るでしょう。
人類史の目的は優れた芸術を生み出す為にあるとさえ私は信仰しています。
その芸術を生み出す主体である芸術家へ私が抱く尊敬は、とても深いものです。

その上で、言いますと、芸術家の不勉強には呆れてしまうことが多々あります。
作品のテーマとして社会批判を語りたがるわりには、政治も経済も歴史も科学も知らず、無教養を無様に晒しているだけの芸術家が沢山います。

もちろん、芸術家は自分の専門分野の知識や技能を身につけるのが最優先なので、政治も経済も歴史も科学も知らないのは悪い事ではありません。
逆に、私も芸術のことはほとんど知りません。
自分の専門分野についてだけ詳しければ、他の分野の知識がないことを恥じる必要はありません。

ですが、自分の作品のテーマについて、何らかの社会問題を選ぶのならば話は別です。
せめて自分の作品のテーマについてだけは、政治も経済も歴史も科学も知らない芸術家といえども勉強すべきです。

少年の心の闇をテーマにした作品が、少年犯罪の増加を嘆いていました。
ですが、実際には戦後に少年犯罪は減少の一途をたどっています。
私はこの芸術家に対して言いたいことがあります。
少年犯罪を作品のテーマにするならば、少年犯罪について勉強してください。

福島をテーマにした作品が、福島が放射能汚染されていると言っていました。
ですが、実際には福島の汚染レベルは問題ないことが証明されています。
私はこの芸術家に対して言いたいことがあります。
放射能を作品のテーマにするならば、放射能について勉強してください。

資本主義をテーマにした作品が、安倍首相の金融緩和による貧富の差の格差拡大を批判していました。
ですが、金融緩和によるインフレは、金持ちの資産を減らし、労働者の実質賃金の向上をもたらし、格差を是正する政策です。
私はこの芸術家に対して言いたいことがあります。
経済を作品のテーマにするならば、経済について勉強してください。

私は決して高度なことは要求していません。
自分が何を作っているかを理解しないまま作品を作るべきではないという、単純で当然な主張を述べているに過ぎません。

自分の語るテーマの意味さえ理解しないまま雄弁に社会を批判し、他人から承認されたいという浅ましい欲望だけが先行している3流以下の芸術家もどきが、厚顔無恥なことに自分のことを社会を正しく見ている芸術家だと信じています。

幸いなことに、最近の日本国内の若い芸術家については、この悪しき傾向を見る機会が減りました。
新進気鋭の若手や芸術系大学院の卒業作品の素晴らしさには感嘆するばかりです。
純粋に技能の粋を凝らした超絶技巧の作品、自分の経験や内省を他者に伝える作品、視覚的に圧倒される工夫に満ちた作品、きちんと専門書を読み込んでテーマに向きあった作品。いずれも素晴らしい作品でした。
彼らは尊敬できる芸術家たちです。

一方で、テレビやニュースに登場する芸術家には、まだまだこの手のタイプが幾らでもいます。
彼らが私のささやかな要求を満たすことは永遠にないでしょう