PCR検査抑制論にみる、無知と政治的党派性の融合による愚かさについての考察と自戒

問題提起:PCR検査抑制論とは何か

「コロナ対策には、全ての人がいつでもPCR検査を受けられるようにすべき」という主張をする人達がいます。ですが、後述するようにこのような対策は百害あって一利なしの誤った対策です。

当然、多くの医師はそこのことを知っているので、PCR検査を徹底的に行うことに反対し、マスクの着用とワクチン接種の推進を優先すべきと主張しました。
日本政府、自民党は、医師達の主張の方を採用し、結果的に日本のコロナ対策は世界的にも優秀と称賛されることになりました。

PCR検査抑制論とは、PCR検査拡大を主張する人達が、自分達に反対する医師や自民党を「PCR検査を抑制している」と批判する論調のことです。

彼らは、医師や日本政府が悪意や無能によりPCR検査を抑制していると信じており、自民党の責任を追及したり、医師を人殺しと罵倒したりもしています。

説明:どうしてPCR検査をむやみにしてはいけないのか?

例えば、ベイズの定理の教科書である「続・わかりやすいパターン認識」の例題1.2を見てみましょう。
1000人に1人が感染する病気があったとします。
検査Aを行えば、感染している人は98%の確率で陽性反応が出ます。
ですが、感染していなくても1%の確率で陽性反応が出ます。(感染していないのに陽性反応が出ることを擬陽性といいます)
さて、もしある人がこの検査Aにより陽性になったとして、この人が実際に感染している確率はどれくらいになるでしょうか?

さて、問題の解法は本を見ていただくとして、答えは約9%です。
98%の検査精度を持つ検査でも、陽性反応者の91%は確率的には感染していないのです。

何故、このような低い確率になってしまったかというと、それは事前確率が低いからです。
つまり事前に1000人に1人しか感染していない確率の低い状態で検査すると、検査精度が極めて高くてもほとんど信用できない結果しか出ないのです。

それでは世の中の検査は全て信用できないものなのでしょうか?
いいえ、それは違います。
事前確率を高めることで、検査結果の正しさは飛躍的に向上します。
世の中に実際の検査は事前確率を高めた上で行われており、十分に信頼できる結果を得られています。

では、事前確率を高める為には何をすればいいでしょうか?
それは事前に感染している可能性が高そうな人を対象に検査すればいいのです。
事前に感染していそうな人を絞り込むには、医師の診察が必要です。
つまり検査とは医師の判定とセットになって、はじめて信頼できるものとなるのです。

PCR検査についても同様のことが言えます。
全ての人にいつでも検査を受けさせれば、事前確率の低さゆえに、検査で陽性になった人の多くが実際には感染していない擬陽性である可能性が高くなります。

医師の診察により検査対象者を絞り込んでからPCR検査を行うことで、信頼できる検査結果が得られますが、コロナ禍において医師は多忙を究めました。
彼らの貴重な労働力を、国民全員の検査に浪費することは現実的には不可能なことです。

よって、もし「誰でもいつでもPCR検査」を強行すれば、それは必然的に医師の判断を伴わない事前確率の低い検査にならざるをえません。
このような検査の何が問題であるかを知る為には、実際にそれを行った中国を見れば分かります。

中国は徹底したPCR検査と陽性者の隔離を行いましたが、感染拡大はいつまでも収まらず、経済活動が停止し、その悪影響は今も残り続けています。
その挙句に、コロナ拡大が収まらないまま、国民の反発によりPCR検査による隔離政策は終わりました。

残念ながら彼らの努力は無駄なものでした。
徹底したPCR検査は、多くの感染していない人を陽性者として隔離して、社会活動を停滞させただけでした。
一方で、信頼性の低い検査では、実際に感染している人が陰性反応を出して無感染者とみなされ野放しになりました。
感染していない大量の擬陽性者に人権無視の隔離を行い、感染している偽陰性者を放置して感染拡大を防止できない。
それが中国のPCR検査拡大の結末でした。

日本のPCR抑制を批判している人達の主張が通れば、日本も同様の惨状を迎えたことでしょう。

批判:無知ゆえの過ちは恥ではないが、無知と政治的党派性の融合による愚かさは恥である

このようにPCR抑制を拡大することの弊害は明らかですが、一般の人の多くはベイズの定理を知りません。
だからPCR検査拡大の危険性に気がつかないのは仕方ないことだと思います。

ですが、私はそれでもPCR検査抑制論を唱える人を愚か者と批判したいと思います。
何故なら、彼らは医師を人殺しと罵倒し、政府がPCR検査を拡大しないのは「コロナ感染をわざと放置しているからだ」という陰謀論を唱えるなど、目に余る愚行を繰り広げたからです。

彼らがそのような愚行に走った原因は、無知と政治思想が融合したからだと私は考えています。
今回の場合、そのような暴論を吐く人の多くは立憲民主党や共産党、れいわなどの支持者でした。
他にはワイドショーの司会をしている芸能人や、マンガ特攻の拓の作画を担当されていた所十三氏などの多くのクリエイターにも、その手の人が多くみられました。
彼らの共通点とは「自民党は悪である」という先入観があったことです。

何か自分の思惑と違うことをした人がいた時、自分が無知ゆえに間違っている可能性を考えることができず、悪い奴らが悪意をもって妨害していると思い込んでしまうのです。

強い先入観が正しい判断を下すのを邪魔しています。
そして政治的党派性ほど、この先入観を強化するものは他にありません。

ただ、無知なだけならば反省すれば許されますが、無知と政治的党派性の融合により正義感に燃えて「悪人は死ね」などと誹謗中傷したり、政府の正しいコロナ対策を妨害して被害を拡大させれば、取り返しのつなかい罪となります。

自戒:明日は我が身

しかも、恐ろしいことに本人はなかなか自分の政治的党派性に気がつくことができません。

以前に私がPCR検査拡大を批判した時に、この手の党派性に憑りつかれた人が、私に対して「党派性でものを言うな」と言ってきたことがありました。
自分がその最たる例であることに気がついていないのは、滑稽でもあり、恐ろしくもありました

人は全ての分野の専門家になることはできません。
私はたまたま数理科学で博士号を取得した人間だったのでベイズの定理を知っていましたが、他の多くの分野については無知な素人です。
ほぼ100%の確率で、私はPCR検査抑制論と同レベルの無知ゆえの暴論を吐いているにちがいありません。

他人の愚行を見て、我が身の振舞いも気をつけたいと強く思いました

追記:典型例を目撃したので紹介します

ネットで、あるマンガ家さんの呟きを見て、典型的なPCR検査抑制論者なので、記事の内容を補強する為に紹介したいと思います。

晒す目的はないので、特定を避ける為に、呟きを要約して書くと以下のようになります。

  • オタク趣味の人は反ワクチンにはハマらないという研究成果が出た

  • 「PCR検査をするな」という意見に同調していた人々にも、同じ方法で調査してほしい

PCR検査をしていない人達を調べれば、ネトウヨや自民党支持者だと判明するに違いないと暗にほのめかしています。

このような書き方をするということは、ワクチンの効果を認める見識はあるようですが、PCR検査拡大の危険性を理解できるほどの知識はないようです。

知識不足は責めるべきことではありませんが、この方も政治的な偏見から正しい知識を得ることができないでいます。
「自分と異なる政治思想の人間は愚かな人間である」という思い込みを抱いているので、聞く耳を持つことはないでしょう。

PCR検査拡大を主張する人は非科学的な反ワクチン側の人間でありますが、この方が自分を正義側と信じている限り、それを自覚することはできません。

このマンガ家さんは移民をテーマにしたマンガを描き、政府批判をことあるごとにしている人権派で、とても良いマンガを描かれる人ではありますが、政治的偏見による愚かさからは無縁ではいられなかったようです。