人間現役(仮)四
あの頃のヨウダイと言えば確かに変だった。私達はポン中なりに独自のルールを作って共有持していた。ただこの所そのルールすらをヨウダイは破っている感じがした。勘繰りなのかもと思い何度もスルーしていたが、流石に挙動不審な彼にルール無視の真相について何度か問い詰めた事も有ったが、喧嘩になるだけで事実は曖昧になっていた。
ルールその1、ポンプでの打ち込みは辞める。
ルールその2、きな粉(脱法パウダー)はやらない。
ルールその3、ヨレたら草を吸う事。
ルールその4、お金に困ったら相談する事。
この決め事の大体は頭がおかしくならない様にする為に決めた凄く大切な事だ。ルール4に関しては追い詰められての自殺やトンズラ、揉め事を避ける為のルールだったし、二人の人としての尊厳を守る為に絶対ルールとして決めていた。
「最近ヨウダイの様子おかしかったけん、その女が噛んでる気がするたい確認してくれ」
兄さんはヨウダイをかなり可愛がっていた。それに私はヨウダイをただのポン中やらどうでも良い人間だとこれまでに思った事は一度も無かった。
((もしかしたら脅されてるとか?今既に殺されそうなのかも...))
「わかりました、電話してみてどう言う訳か聞いてみます。」
私は兄さんとの電話を切った後ようこの番号を調べた。
携帯の中のやり取りは基本メールで行われていたのでアドレスはわかるのだが電話番号がわからない。"ようこ"と言う名前をキーワードに検索をかけてみたりしたが、例の携帯からは何も出てこなかったのでもうひとつの携帯をその名前で検索する事にした。ビンゴ、3件ヒットした。
3件中1件はアドレス帳、もう2件はショートメールだった。
『ようこちゃんにもこっちの携帯教えとくな ヨウダイより』
『電話出てー』
これちゃうか?と思い電話番号を自分の携帯に打ち込んでふと思う。
「これ人違いやったらめっちゃヤバいやつやろ...」
と言うのもヨウダイは色々な"姉さん連中"に可愛がって貰っていた。現にさとかさんもその一人で、その"姉さん"の大体がかなりややこしい人だった。この業界の姉さんはその辺のチンピラを100倍ヤバくした感じの人が多く、人脈把握出来ないレベルで危険と言うかその辺はミスったら拐われるはず。笑
それに関係のない人だった時、兄さんにもヨウダイにも迷惑がかかってしまうはずでめちゃくちゃ悩んだ結果、兄さんからの頼みでもあるし、私自身も真相を知りたかったので腹を括り、喧嘩腰は一旦置いておいて普通に"確認の"電話を入れる事にした。
結構鳴らしたと思う。数コール鳴らしたらスナックで声を潰してしまった大ママみたいな声の女性が出た。
『はぁーい、どちらさんですかぁ?』
『あの、夜分にすみません。大変失礼ですが、私、ヨウダイとお付き合いさせて貰ってる者で、そちらにヨウダイ行ってませんか?連絡が取れず探してまして...』
ブチッと電話が切れた。
これはおかしいと思い、もう一度かけてみた所今度はすぐに出て、切られる。
それを何度か繰り返したが、数回このやり取りを行いやっと喋ってくれた。
『しつこい!なんやねん!』
『すみません、重々承知の上でお電話させて頂いてます。こちらもヨウダイの兄貴分に頼まれてかけてますんで話聞いてください。』
ここまで話したら相手の女性が一層鬼の様にキレ始めた。
『あんたぁ⁉︎別れたって言うてたやん‼︎なんやねん‼︎お前の女から電話来てんぞ‼︎』
この言葉は電話の先に居るであろうヨウダイに向けられていた。この人が"ようこ"と言う人で間違いない。
私は別れたって何の話やねんと思いながらも電話口に耳を押し当てて、その先のヨウダイの些細な変化を聞き取ろうと必死に齧り付いた。
ようこさんはきっと暴れているのだろう大きな音が鳴り止まない。が、よく耳を澄ますと物音の中微かにヨウダイの声が聴こえる。
『痛いって...!!ちゃうねん...これから言うから、間違いやから、ごめんって...!!』
確かにそう聞こえる。
私は捨てられたのかと膝から崩れ落胆した。が、ここは気丈に振る舞うべきだと思い必死に涙を堪え、電話口に『もしもし?』と繰り返す。
『ちょっとまって、今こいつとかわるから』
ようこさんが電話を代わろうとしている。でもヨウダイが嫌がってるのが聞こえる。
『別れるなら今目の前ではよ言えや‼︎』
そうようこさんに怒鳴られやっと電話口に出たヨウダイは
『ごめん、また話すから待ってて』
するとようこさんが
『はよ別れる言えや!!』
ガンッ!!!!
ヨウダイが殴られているのが音でわかる。
『俺からかけ直すからここには電話せんといて』
そう言われ電話が切れた。
何度か掛け直そうか考えたけど馬鹿らしいのと悔しいので世界がグルグル回ってなにもかんがえたくなかった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?