考察【女性の出世と道徳心】

日本の会社で女性の管理職は少ない。なぜか。

素朴に考えられてきた理由は、出産・育児のブランクだ。
母になり子を育てている間は仕事に全力を尽くすことができない。保育園やイクメンのおかげで負担が減っても大変なことに変わりない。仕事をセーブするのは女性の方だという認識は男女関係なく暗黙のルールになっている。

出産の多くは女性が希望しなければ行われない。母になりたいと思う女性がいて初めて子どもが産まれる。多くの女性は母になりたいという希望を叶えようとすれば、出世が難しくなることは理解していても、母になるという選択をしている。それだけの魅力や本能的な希望があるということだ。

つまり現状、母という選択肢を捨ててまで出世したいと考える女性は多くない。仕事はしていても、母親業に重きを置いていることが多く、仕事漬けの男性と張り合って出世するのは不可能に近い。また多くの女性が出世と天秤にかけて母を選択するので、企業側もそれを想定した人事戦略をとる。

大多数の女性の希望と、企業内の出世基準の相互作用によって女性の出世は難しくなっている。というのが一般的な理由だろう。

ただ、私はもっと根本的で精神的な理由に気づかせてもらった。

子供の頃に見聞きした昔話には大抵、いいおじいさんと悪いおじいさんがいる。ヒーローと悪役がいる。学校は何が良いことで何が悪いことか教える場所だ。人間関係の中で様々な「程度」というものも学ぶだろうが、基本的に教科書や授業には〇か×しかない。良いか悪いかの二元論だ。そしてその根拠は自分にある。社会や学校のルールと照らし合わせながら、自分の価値観で良いか悪いか、するかしないかを決めていく。

しかし、会社やビジネスの場はそうではない。会社にとって利益かどうかという会社の価値観で、同じ事象でも時と場合に応じて◎も×も空欄もある。グレーゾーンと必要悪の世界だ。

そして会社で出世していくためには、自分の価値観と会社の価値観をすり合わせていかなければならない。その時、男性は無理矢理にでも合わせることができるが、女性にはできない。なぜなら、男性には選択肢がないからだ。仕事を頑張り出世することが唯一無二の成功で幸せだと信じている。実際、出世してお金をもてば大概のものが手に入る。しかし、女性は違う。仕事を頑張り出世しても手に入るのは仕事だけだ。結婚するためには別の努力も必要で、母になろうと思えばまた更に労力がかかる。

女性の場合、自らの道徳観と異なる会社の価値観を全面的に受け入れることのリターンが明らかに小さいのだ。ゆえに会社に合わせるのは就業時間内だけで、プライベートの充実も考える女性が多いのではないだろうか。ドラマや映画の「恋も仕事も頑張る女性」が支持されるのはそういうことだろう。

それでも学歴が高く、男性と対等に関わってきた総合職の女性などは出世を目指して会社に合わせ、仕事に精を出すかもしれない。しかし、周囲の女性から会社の価値観への疑問や不満を聞けば完全に会社に合わせることが難しくなり、それが同僚であれば仕事をふることにも気を遣うようになってしまう。気持ちがわかるからこそ、どちらにも振り切れない。また、プライベートを重視する彼女たちがキラキラした生活を送っているのに対して、若いのに仕事漬けでもったいないという思考が内からも外からも出てくる。(女性の旬を勝手に決めつけられているせいだ)
こういった男性にはない余計なストレスの中で、出世欲やモチベーションが下がってしまうのではないだろうか。
そして、出世できなくとも「私は自分の価値観で正しいことを正しいと言える人間だ」という部分は守られる。これは子育てにも生きるだろう。

つまり、女性が出世しないのは育児というライフイベントを優先するからではなく、自らの幸せと将来を考えた上で純真な道徳心を大切にするからではないだろうか。

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