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8グラムの呪縛を解き放つ


8グラムだ。お前にはそれくらいがお似合いだ。これは私が、自分を許すためのストーリー。



今日も私は8グラムを量る。限られた量を、8グラムずつ消費する。どれくらいの間、そうしていただろうか。ある時ふと思う。なぜ8グラムにしていたのだったかと。


もう記憶も定かではない。ただ、もったいないという気持ちがあったことは確かだ。なんといっても10グラムとの差は2グラムある。2グラムが4日あれば8グラム、それで1日分になってしまうのだ。


そしてそう、10グラムだ。家で使う時は、もったいないとも思わずに10グラムなのだ。なぜ家では10グラムなのに、持っていくのは8グラムなのか。


合理的な理由があったとは思えない。ただなんとなく、始めに決めたことを惰性で守っていただけではないか。そのことに、だんだん意識的になっていく。


人は、ただ最初にそう決めただけのことを、律儀に守ろうとすることがある。言葉を選ばずに言うと、呪縛と言ってよいかもしれない。しかしそこに理由がないのだと気づくことで、呪縛から解き放たれていくのである。



だんだんと、8グラムを超えても許せるようになっていった。ある時は8.2グラム。次の日は8.4グラム。時にまた8グラムに戻ったりしたが、その後で9グラムになることもあった。


そして現在。
9.6グラムの豆を持って出かけることもある。10グラムを超えることはないが、10グラムに迫る豆を持っていくようになった。



1日10グラム、これも実は呪縛かもしれない。しかしこれはよいのだ。もったいない精神と折り合いをつけた結果の、一杯に使う10グラム。ここにはきっちり理由がある。


もはや家でも、持参先の会社でも、同じだけの豆を消費してコーヒーを淹れる。10グラムから生まれる一杯にひととき意識を奪われ、のち、お仕事に励むのである。




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