部品設計から見た自動車業界について

皆様ご安全に。多々良です。

気が付いたら私もVtuberやってて雫ラボとかいうよくわかんない工学講座やってました、初回40分ですよ40分、要領が悪いんだよなあ……。

さて、今回は雫ラボ出張版というか復古版というか。NOTEで少し工学の話をしていこうと思います。それも本業の話。

多々良は自動車業界の部品製造をやってる会社で設計をしてます。部品と言っても山ほどあるんですけど……(※1)まあざっくりいうと「大き目な」部品を作ってます。

自動車業界は多重請け構造になってまして。上からTier1、Tier2、Tier3って行きます。で、下層から買い取った部品を組み立てて上層に渡していきます。Tier1はもうそのまま完成車メーカーに売ってしまうようなメーカーのことですね。多々良はここなんですね。

ただ、上層な分面倒なことも多いわけです。先ほど自動車の部品は山ほどあるといいましたが、完成車メーカーがこれをすべて面倒見れるわけがないんですね。じゃあどうするかというと……「Tier1に保証」させます。区画内の部品でのトラブルはお前たちのせいやぞということにするんですね(マジで取引の時そういうこと言ってくる)

軽く恐怖なんですよね。だから徹底した調査、解析、実物試験をやっていくわけです。その結果を反映して設計が行われる。

ただですねー納期ってものがありまして。基本的に自動車の中身は2.3年で入れ替わるものなんですね。そうすると「徹底した検証」と「商品としてのサイクル」が矛盾してくるわけです。そうなるとTier1の観点でも0からすべてを検証することは難しくなります。

じゃあどうするかというと「変化点管理」をします。専門用語だとDRBFM(デザインレビューベースドオンフェイルアーモード)とかだったかな、機能不全に陥る可能性のある変更点に議論を絞って検証を積んでいきます。こうやって「いかに検証項目を減らすか」というのが一種の腕の見せ所になります。

ここで問題になるのが、様々なパラダイムシフトです。自動車業界は今CASEを始めとして「前例のない」車を作ろうとしてます。そうすると以前まで無視できていた検証項目が復活してしまうんです。一方で商品としてのモデルチェンジのサイクルは止められない、むしろ増やしたい。(変更できるイベントを多く持っていないと規格統合などのイベントに対応できない)、もちろん安全性は担保したいから検証も省略できない。これ結構詰んでるんですよ。

ではどうするか。今Tier1の一部は完成車メーカーの「先行開発請負」みたいなことやってます。6年先とかを見据えて(ほとんど青写真しかないですよね)前々からコンセプトレベルで試作品を作ったり評価結果を報告したりしてます。当然それだけの工数を取られます。試作用の部品屋を使ったりするので量産時に工程能力などを引き継ぐこともできません。何より本来製造業は「量産品の売値に利益率のっけて稼ぐ」稼業なので量産確定前に工数とられると「工数分の補填があってもぶっちゃけ損」なんですよ。それでもやらないと新しい受注が取れないので泣く泣くやってます。実質値下げみたいなものです。(まあ先行開発しないならしないで別のネタで値下げ迫られるんで手間ですめばまだマシという見方もあります)

あとは手間を省くためにCAE解析を使う向きもあります。実験の前にコンピュータでシミュレーション掛けるわけです……多々良はこれ結構よくやってるんですが、肌感覚で言わせてもらうと「答え合わせにしかならない」です。色々専門用語とかあるんですけど、結局「最初のセッティングってどうなってるの?」ってことが良くわかってないとゲームと大差ないです。そしてそれって長年やった人ですら「なんとなく」でしかわかってないんですよ。私トヨタ自動車ぶっちゃけあんまり好きじゃないんですけど(値下げうるせえから)、3現主義って絶対だよなーってよく思います。曰く“現場”“現物”“現実”、どんな環境でどんな実物があってどういう結果になるか。そこを押さえてないと存在しない不良を予測したり予期できたはずの不具合を見逃したりします。要するに年季の長い人の言うことが絶対になります。それはそれでクソなんすけどね、まあ何かあったら責任取ってもらうからいいや。

そんな自動車業界ではありますが……まあ私が入ったのは偶然というか一社目の人事の悪意なんですが……働いてて本気で嫌かというとそこまで嫌いでもないです。新しい物つくってるなーって感覚はそれなりに楽しいですし、検証もやることさえ決まってれば、あと納期がムチャクチャでなければ悪くはないです。なので能力的には向いてはいるんだと思います。一方で息の長い業界ってこともあって細かなところで配慮がないですね。真っ当な社会人っていう結構稀有な人材しか受け入れる余地がないです。多分今後このあたりで行き詰るだろうなあと思ってます。多々良みたいな「9割ぐらい半分寝てて1割で急にバリバリ動き出す」タイプには風土が向いてないんですね。常にコンスタントにミスなく、というか自分の責任にならないように立ち回ることを求められます。私なんかから言わせるとそれ仕事ごっこだと思うんですけど……あとはとにかく指導や指示が下手糞。今までは見て覚えろ程度の変更しかなかったんでしょうが、今後自動車ってモノ自体の意義が再設定されていくときに「とりあえず前例みといてー」ではダメなんですよ。今回の案件はこの前例は使える、この例は条件が違うから使えないみたいな丁寧なより分けをしていかないと無駄に手戻りが出ますね。というか出てますね。今の会社で扱ってる案件だと多々良はこのあたりを結構詰めます。おかげで面倒な奴と思われてる節は大いにありますが……見て学べるような時代ではないんですよ。こういう考え方をしている、したい、材料はこれを使いたいと指示側がかなりクリアなイメージを提示しないと絶対に終わらないし、終わったとしても再現性と拡張性がないです。というか再現性と拡張性のない世代が指示側に回ってる疑惑がありますね。ここでさっきの「年季の入っている人の言うことが絶対」って部分の悪い要素が出てくるんですよ。最初から「あー手戻り出るな、出ない前提の日程引かれてるけど」という軽い絶望を覚えながら日々業務をやっていくわけで、そりゃ毎日愚痴も出るわ。

そんなわけでボチボチ話を締めます。要するに作る商品の立ち位置が変わっていくと作り方も変わっていくし、受け入れるべき人間の性質も変わっていくわけです。一方で組織は硬直性があるので、しばらくは「優秀って聞いてて採用したけど君は使えないねえ」みたいなケース多いと思います。総てを満足できるような素晴らしい人材って本当に一握りしかなくて、能力を求めればだいたい社会性が死んでるっていうのが多々良の常識なんですが(というかその程度のトレードオフがないともっと上の企業に引き抜かれるので)社会性だけで生きてきた連中が生き残りをかけてイジめてくると思います。適当に休んで自分の領域をかっちり固めて生きていきましょう。さもないと便利に使い倒されて脳壊されます。まあベンチャーでもないかぎりどこでも一緒だと思いますけどねー。

というわけで理系の現実的な働き口としてよく紹介される「自動車業界製造業設計」の紹介でした。我こそは模範的な社会人であるという自信のある方はどうぞ。一方で「物作るのは好きなんだけど会社の規則や慣習でがんじがらめになるのはなあ」みたいな人はぶっちゃけ向いてません。あんまり候補に入れない方がいいです。そういう人の方がいい仕事しますけど使いつぶされるだけなんで……。ま、他の働き口の候補がないんで(特に製造業はフリーランスとかで生きていけないので)しょうがなく多々良はやっています。以上です。

あ、リンク張っておきます。よろしければどうぞ。

※1 トヨタ自動車公式HPより引用すると、ネジとかの小さい部品まで含めるとおよそ3万個程度らしいです。ただしトランスミッション周りの部品がやや多いので電気自動車になると部品点数減るかもと言われていたりもします。

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