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andyとrockと小山田壮平とカツヲ

ヘイ! みんな!元気かい?オイラの名前はカツヲだ!
最近よぉ〜、某ウイルスちゃんが暴れちまってるからよぉ〜、どこへも行けねんだわ。
ホントは遠くへ行きたいってのによぉ。ただ綺麗な空が見たいだけなのによぉ。
具体的にはあそこだな。あそこに行きたいんだ。なんて名前だったかな。あれだよあれ、ドロップキャンディーの雨が降るところだよ。ジャイ、、、ジャイ、、、なんだっけ、、?

ところでよぉ、映画のジャイアンってかっこいいよなぁ。いつもの意地悪キャラから急に頼りがいのあるヤツになりやがって。「FOLLOW ME!」だなんて言ってすごい速さで駆け抜けて行っちまう。
一時期はオイラもあんな男になりたいと思ってたよ。でもそれは大昔の話さ。少し前はそうだな、見つからなかったボールのような、とにかくそんなものになりたかったことがあったんだ。

あれはオイラが16の時だった。
音楽が世界を変えるんだ、って信じて疑わなかった高校生のオイラは、高円寺や、真っ赤なコーラの空き缶が転がった井の頭公園で路上弾き語りをしていた。
そしたらどっかの事務所のスカウトマンに刺さっちまったみたいなんだ。
それからトントン拍子に話が進んで、中学の時に作った歌で小さな音楽番組に出演することになったんだよ。
そりゃぁその時は嬉しかったさ。
でも気づいたら、いつの間にか音楽を辞めちまってた。
そうだな。異国の地の、夢のような世界に飛び込んだ様は、まるでトランジットインタイランドって感じだったよ。それなのに直ぐに引退しちまってよぉ。トランジット"インタイ"ランドだけにな!ガハハハハハハ!!!ハハハハハ!!ハハハ!ハハ…………んでな、音楽番組に出てからな、色々な人に話しかけられたり、遊びに誘われたりするようになったんだ。
それは同じ高校の友だちだけでなく、同じ中学だった友だち、更にはあまり話したことの無い人だったり。仕舞いには、リンリンリンと家の錆色の固定電話がなってオイラのことを呼んでるんだよ。
そりゃあもう辟易したさ。
空っぽの空の向こうに約束ばかりが増えていくんだ。
誰にも見つけられない星になりたくて仕方なかったさ。
誰も自分に触れないでいてくれる世界で、自分の大好きな歌だけを絶唱していたかったさ。
でもそんな世界はないみたいなんだ。
他の人には見えない光を纏うことなんか不可能みたいなんだ。
それはオイラがギターを辞めちまうのには十分なものだったんだ。

ギターを辞めちまったオイラは、公園の柵の陰でくたびれた鈍色のセミみたいな顔をしていたと思う。
毎日わけも分からないまま5限が終わるのを待ってよぉ、5時のサイレンが鳴ったら、真上でギラギラ光る無色のポラリスを眺めながら帰るんだ。
そんなあるとき聞こえたんだ。「今すぐに抜け出しておいで 灰色の教室の窓の外へ」っていう声がな。
それからオイラが学校に行かなくなるまではあっという間だったな。

学校に行かなくなってから数週間の事はほとんど覚えちゃいない。抜け殻の街の隅の部屋でひとり、ただ毎日太陽が昇って沈むのを眺めてたんだ。
そんな生活をしてると昨日のこともさっきのことも全部忘れちまうんだ。そんな具合で今が何月何日かなんて分からなくなってしまう。
それでもよぉ、そんな腐ったオイラを見てもよぉ、夕食のテーブルで家族は何も言わずにただ黙ってくれていたんだ。母親も疲れているはずなのに毎日美味しい料理を作って、ただオイラと一緒にご飯を食べるんだ。
それは愛だったと思う。
そこに会話はなかったけれど、そんなもの要らなかったんだ。

でもある時よぉ、朝起きて台所に行くと、冷蔵庫の前で急にこの生活が何だかつまらなくなっちまったんだ。その時はちょうど、オレンジの太陽が何だか恋しくなっちまった頃でもあったからよ、久しぶりに外に出て散歩してみたんだ。
オイラはどこかで音楽を求めていたんだろうな。
オイラの足は、路上のフォークシンガーを求めて西荻窪へ向かっていた。
なんの巡り合わせだろうな。歩いていたら、どこからともなくギターの音が聞こえてきたんだ。その音に導かれるままにさまよっていると、そこはゴールデンキウイが安売りされているフルーツ屋の向かいだった。
カウボーイみたいなだせぇハットを被ったティーンエイジのシンガーが、「愛してやまない音楽を どこまでも鳴らそうぜ兄弟」って歌ってやがるんだ。
トワイライトに照らされたはなたれ小僧が、3分間にも満たないその歌を、喉をからしながら叫んでやがるんだ。
ギターを辞めてからモノクロだったその世界のなかで、そこだけがフルカラーで輝いてやがったんだ。

それから、家までの帰り道で一人で見上げた空に見つけたポラリスは、何でもない顔してオイラを新しい旅に誘っているように、虹色に輝いてやがるんだよ。
この星に比べたらオイラなんてちっぽけなもんさ、って気づけたんだ。
そしてオイラの視界に薄い膜が張って星がよく見えなくなった時、「あぁ満たされた」って思ったんだよな。
もうそんな夜は眠れなくなるもんだ。
部屋の隅でホコリ被っていたギターを取り出して夜通しかき鳴らしてやった。
そして窓から見えるあの雲が真っ赤に焼けた頃にオイラは「よし、学校に行こう」と決意していたんだ。

そんで大学に行き、就職して、今は社会人3年目。休みの日には決まってベロべロックンローラーになってるオイラは、絶賛恋愛中だ。
お相手は、去年の中学の同窓会で再会したゆうちゃん。
当時から誰よりも美しくてしなやかだった彼女だが、10数年経ってさらに美人になってて、そりゃもう、、、なぁ。純白の頬に純血を通わす彼女はさながら天使のようで。
それに比べてオイラは純粋な瞳を失っちまって。
いっそこんなことになるのならば、オイラに話しかけてきてくれなければ良かったのに、彼女は「久しぶり!」って声をかけてきやがったんだ。
オマケに「また"あの歌"聴かせてよ!一緒に歌おうよ!」って微笑みかけやがるんだ。
そうだよ。"あの歌"ってのはオイラが音楽番組に出たときに歌った歌だ。
オイラが中学のときに作って、何度もゆうちゃんと一緒に歌った"あの歌"だ。
オイラがギターを辞めてから誰一人として触れてこなかった"あの歌"だ。
もうこれからは歌っちゃダメだ、とさえ思って封印してた"あの歌"だ。
そんな歌を彼女は、そよ風に揺れるひまわりみたいな笑顔でリクエストしたんだ。
そりゃもう、、、オイラはその透き通る瞳にすいこまれてしまったよ。そのとき、オイラの耳には風の音が届かなくなったんだ。
こんなにも走り出したい気持ちになったのは久しぶりだったよ。

それからゆうちゃんとは何度も出かけたさ。
でもよぉ、暴君ウイルスちゃんがオイラと彼女の外出を阻むのさ。
そんで、いつもオイラは雨の中散歩に出かけて、住み慣れたこの街でなかなか会えない彼女と歩いている想像をしたりするんだ。
彼女が恋の悩みを友だちに打ち明けていたらどうしよう、だなんて思っちまったりするんだ。
でもよぉ、オイラは彼女のまなざしを忘れられないんだ。
だからこうして今日も走っているんだ。

気づけばこの前開けたばっかの安いウイスキーが無くなっちまいそうだ。こうやってベロべロックンローラーは完成されるんだなぁ。
このまま飲み続けていたら、いずれゆうちゃんに電話をかけて、まるで酔ってない振りをしながら、彼女への愛の叫びを伝えてしまうかもしれない。でもそれはあまり良くないことぐらいオイラでも分かってるよ。
いったん酔いを覚ましに洗面台に行きたいが、ちょっと眠くなってきたなぁ。
丁度いい。
ゆうちゃんにイタ電をする前に寝てしまおう。
おやすみ。






※全てフィクションです。


ご覧の通りカツヲは小山田壮平及び、彼の紡ぐ音楽を愛しています。大きめの鯨くらい好きです。ALはまだあまり追えてないですが、これからもandymori愛、そして小山田愛を垂れ流していくと思います。期待して待っててね。


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