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LIVE備忘録 vol.15 【気分】

『早稲田祭 2023』at WASEDA ARENA SUMMIT


今年度に入り、忙しい日々が続いている。
化学系研究室に配属された大学4年生には平日に休みなどなく、休日はバイトであっという間に消えていく。
前期は教育実習に行き、院試を終え、研究室生活に戻るまでの間、現実逃避のためにたくさんバイトをしたくさん遊びに行っていた。
研究室生活に復帰すれば、また忙しい毎日。
忙しい、といいつつ、疲労に打ち勝てずにサボったり。

そんなこんなで、なかなか平日に行われるライブに行く機会を得れず、遠征できるほどまとまった休みも取れずに過ぎてゆく。


鬱屈とした気持ちのままTwitterを眺めていると目に入ったライブ情報。



やっと行けそうなライブだ。
実に5月の小山田壮平以来6ヶ月ぶりのライブ。
カネコアヤノのライブに至っては2月末以来約8ヶ月ぶり。


この1年間でカネコアヤノバンドは大きく変わった。

1年半前にBobが抜けて、繊細なドラムからパワフルなドラムに変わった。
伴って、より感情を爆発させたような曲が増えた。

そして半年前に本村拓磨が抜けた。10数年共にした仲間がカネコアヤノバンドから去った。


最後に行ったカネコアヤノのライブ。まだ本村さんが居た時だ。
自分のコンディションが過去最悪レベルだったが、とてつもなく良かった。
元からある楽曲には多彩なアレンジがなされいた。
もちろん、アレンジされることが良い、という訳では無いが「ライブ感」みたいなものがひしひしと伝わってきていた。



ライブは良い。精神衛生に良い。
楽しむために生活リズムを整えるし、ビジュアルも。


11月5日。
季節に似つかわしくない朗らかな温かさの中、4年ぶりの文化祭フル開催に盛り上がる早稲田大学に入る。
寄り道をする素振りも見せずライブ会場へ向かい、大学生の波に乗って会場へ入る。



広い。6000人キャパのアリーナの前面にバンドセット。


12時きっかりに暗転し、坂下ひかり(Dr.)、林宏敏(Gt.)、飯塚拓野(Ba.)、そして黒い衣装に身を包んだカネコアヤノが下手から現れる。


1曲目は“気分”。
力強かった。
カネコアヤノのファルセットが響き、少し不安定な心に寄り添うような歌詞。
そして特徴的な拍の変化。
間奏で爆発するように歪み、ラスサビではいつも以上に叫ぶ。
少し不安定な心にあるモヤモヤを許せずに叫ぶ。
ゆったりとしたテンポの中に熱が響く。


“車窓より”は、オルゴールのようなギターの音から始まる落ち着いた曲だ。
でも曲が進むにつれてやや力強さを増していく楽器の響きに、あぁ変わってしまったんだな、と思った。
カネコアヤノの歌声にリバーブがかかり、互いに追いかけるように響く。
2021年の日本武道館からは明らかに変わっていくバンド。
でもそれはどうでもいいんだ。



3曲目は“爛漫”。
良かったな。
一二を争うほど好きな曲で、いつもボーッと過ぎ去ってしまうのだが今回はしっかり覚えている。
心の様を知られてたまるか。
誰にも見せない顔があって、情熱があって。
わかってたまるか。
力強いドラムと歪んだギターの音色が押し寄せる。


軽快なドラムが鳴り、跳ねるようなギターが追いかければ、会場のボルテージは明らかに上がる。
爽やかな朝の街並みを気ままに散歩するようにリズムが変わる“さよーならあなた”は、ライブ定番曲だ。
綺麗なアルペジオからアウトロに入れば、白のセットアップに白いギターのギタリストが、爆発するように弾け飛ぶ音色を奏でる。


飯塚拓野が跳ねるベースを鳴らし、3人の準備を待つ。あ、これは“エメラルド”だ。
カネコアヤノと林宏敏の二人が向かい合い、イントロを奏でる。
伸びやかなファルセットがサビで響いたと思えば、2番の途中でカネコアヤノの弾き語りのようになり、直後に色々な音が爆発する。

“エメラルド”っていう題名の曲に「焼肉」が入ってるのってなんだか面白いな。

なんてくだらないことを考えているうちに、ピシッと曲は終わった。


カネコアヤノの歌声から始まれば“季節の果物”。
アウトロで盛り上がって静かになって盛り上がって。
そんな抑揚のついたアレンジから続いたのは“予感”。

何度でも言うけれど、『タオルケットは穏やかな』があまりにも好きだ。

タオルケットは穏やかな


なんだか今までのアルバムの歌詞は、

カネコアヤノが“カネコアヤノ”をスクリーンに写して色付けしている

ような感じがあった。
主観ではあるんだけど1歩引いた主観というか。なんだかひとつ隔たりがあった。
限りなくカネコアヤノの見ている景色、感情に近いが、完全に一致しているような印象は受けなかった。
しかしこのアルバムは、そのようなクッションを取り払ってカネコアヤノ自身をさらけ出しているように感じる。
もちろんそこに見える憂鬱と乱暴さが少し怖かったりもする。

作曲面では、林宏敏のギターが今までよりも前に出てきて、明らかにそれぞれの楽曲に印象的な色をつくっている。
前アルバム『よすが』(というより今までのアルバム)とは明らかに別物で、新生カネコアヤノだな、と思う。


“退屈な日々にさようならを”が始まればもうライブもクライマックス。
2021年の武道館で聴いて以来、あまりにも大切な曲すぎていつも放心状態になってしまう。
思えば初期で唯一のシューゲイザー的楽曲。
一変して、ゆったりと“りぼんのてほどき”を歌う。
大きな会場に伸びやかな歌声が響く。


最後は“わたしたちへ”。
爆発していた。
そうか、カネコアヤノはシューゲイザーバンドになったんだな。
そんな簡単な言葉でまとめてしまいたくは無いけれど、一過性のブームが支配する波の中に居るたくさんの大学生の前で、芯の部分ではずっと変わらない自分を。変わりたくて、変われなくて。
でもやっぱり変わりたくて、そんなわたしたちがつくる音楽を。これからのわたしたちが作る音楽の形を宣言しているようだった。

何小節も繰り返されるアウトロでは、爆発する音の波が押し寄せていた。


ありがとうございます。
呼んでくださってありがとうございます。
最後まで楽しんで!

not 原文ママ

そう言って観客席にピックを投げたカネコアヤノは、下手に去っていった。


アンコール無く終わったこともあり、観客は少しふわふわしながらも、その圧倒的なエネルギーに清々しい顔をしているようだった。

当のカツヲも清々しい気持ちで爆速で早稲田を去り、浮ついた心で16時からのバイトに向かったが、あまりにも心が満たされすぎていて今年一楽しく働くことが出来た。

そして、家に帰れば“さよーならあなた”のリードギターをコピーすることに決めるとそのまま夜更かしをしてしまったような気がするが、ヘイ ベイベ、たまにはいいでしょ。



※加筆修正します。





[セットリスト]
1. 気分
2. 車窓より
3. 爛漫
4. さよーならあなた
5. エメラルド
6. 季節の果物
7. 予感
8. 退屈な日々にさようならを
9. りぼんのてほどき
10. わたしたちへ


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