子殺しの末

子殺しの末

tatacuuc
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掴む動作で抵抗が無い。
知っている。
一所に留まることは無い音の雄弁さ。
いくつ見殺しにしたのか。身勝手な憂鬱や、ひと時の云々で体内の子をいくつ殺したのだ。

それは待ってはくれないし追いかけても来てくれない。
身勝手さに愛想を尽かしたはずの私の手からこぼれた音は私に愛想を尽かした。
何様のつもりだ。
音は私の前を速足で歩き、私の後ろを勝手に歩く。
一度たりとも歩みを同じくしたことは無かった。

私は自分の腹を殴って死産。
犠牲を悼みつつまた新たな子に手を出そうとし、それがコントロール下にないと知り、
自分を親だと勘違い、その所業に危機を覚えていない。

その閃きは私のものではない。お前が勝手に来たのだ。
今理解した。だから俺から離れないでくれ。俺を見捨てるな。
これからも俺はお前を殺し墓も掘らず新しい命を我が物顔で待つだろう。
だが俺のものでいろ。頼むから俺から去るな。

今の俺に音はもったいない。
要るのなら人間性も喉もお前に捧げる。だから空気に溶け込み俺から見えないお前は俺に触れろ。
粗末にはしない。形が無くなるまで壊してやるから俺だけに懐け。
俺のこの痛みをお前は知る由もないが、俺もお前の痛みなど知らないしお前に痛みは無い。
俺だけがお前を望み俺だけがお前の為に働いている。
それでいい。お前は俺を足蹴にしないし俺の都合で表れてもくれない。
だがそれでいい。そのままでいいから俺の目に触れろ。

お前が消えた俺は意味もなく鍵盤を叩き太鼓を撫でそこになにもない、なにもないを作り出す。
それに俺が耐えられると思うな。
かくなる上はお前の墓を掘り起こし、素手で掴んだお前もろとも死んでやる。

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