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土木技術者はスタートアップに向いてない。それでもMalmeが土木×スタートアップを始めた理由

はじめまして、Malmeの高取です。

「土木技術者によるスタートアップ」を掲げて立ち上がったMalmeは、創業から丸3年が経過しました。そろそろ私達の自己紹介も兼ねてNoteを書いてみようと思います。今後、定期的に発信していきますので、オモシロいと思ってくれた方は"いいね"をもらえると、励みになります。

初回は、タイトルの通り、Malmeが土木×スタートアップとして立ち上がった理由についてです。なぜ、一見スタートアップとは縁遠そうな土木業界出身者で、スタートアップを立ち上げたのか。

その信念と私達なりの勝ち筋を、説明していきます。


まずはいきなり結論から。

1. 土木技術者はスタートアップに向いていない。だがそれでいい。

土木技術者はスタートアップには向いていない。これは後にも詳しく書きますが、揺るがない事実だと思います。こう言うと悪いことのように聞こえるかもしれませんが、イノベーションを起こし"変革する"ことが使命のスタートアップと、インフラを"変わらず"護り引き継いでいくことが使命の土木業界で、互いに相容れない部分があるのは至って自然なことです。

ただ、両方の世界を覗いたことのある私には、一つの仮説があります。それは、スタートアップ的な組織、あるいはスタートアップ的な経営手法が今後数年で大きく様変わりしていくということ。そして様変わりした先の「新時代のスタートアップ」において、土木技術者が活躍する可能性が拡がっていくのではないか、という仮説です。

つまり「土木技術者は従来のスタートアップには向いていない。だがそれでいい」というのが今回の主張であり結論です。なぜなら、私たちが目指すのは従来のスタートアップではない。私たちは従来の価値観の外にある『新しいスタートアップ』を創ろうとしているから。以下で詳しく説明していきます。

2. 従来のスタートアップが求めていたもの

多分これを読んでくれている人の中には土木業界の方も多いと思うので、まずは「スタートアップ」という抽象的な言葉の意味から、目線を合わせておきます。

スタートアップとは、世の中に見つかっていない、あるいは見つかっていてもまだ充分に拡がっていない市場・顧客ニーズをいち早く捉え、そのニーズに応える新しいプロダクトやサービスを世に出すことで急成長を目指す企業のことです。いわゆる"潜在的ニーズ"を見つけ、ある種ヤマを張る形でビジネスを展開するので、提供する製品・プロダクトがウケなければすぐにでも事業は破綻します。しかしそれが一度ハマれば非連続的に事業が伸びていくので、企業自体も成長するし、なにより世の中に新しい価値観を持ち込むことで業界の変革(イノベーション)に立ち会えるといった魅力があります。

そんなスタートアップでは、限られた人材リソースで、資金が尽きる前にイノベーションを起こさないといけない。だから完璧さよりもスピード感が求められるし、安定成長よりもリスクを取ったチャレンジの方が奨励されます。例えば以下のようなスキルが重要と言われます。

  • イノベーション力:新しいものを産み出す力。現状の維持・強化ではなく、非連続で新しいものを産み出す発想力。技術革新や新しいビジネスモデルを創造する能力など。

  • リスクを取る力:急激な成長を目指すため、確実性よりもスピードが重視される。多少のリスクを負ってでも前に突き進む力、リスクを恐れず挑戦し続けるマインドセットなど。

  • 主体性:人材が少ないため、上司の指示を待たず、自ら率先して行動し、問題を見つけて解決する人材が重宝される。自分の役割を自ら決め、その結果にコミットし自主的なアクションを起こす力。

  • 変化を受け入れる力:変化が激しく、予測不可能な状況に頻繁に直面するため、新しい状況や課題に柔軟に対応し、迅速に適応できる柔軟性と適応力が求められる。

3. スタートアップから見た土木技術者の強みと弱み

続いて、土木技術者の強みと弱みを以下に見ていきます(私の主観だけでなく、異業界の人達の意見も含めた一般的な見解にしたつもりです)

土木技術者の”強み”

  • 素直さ :土木技術者は基本的に誠実で、他者の意見を素直に受け入れる姿勢がある。チームワークを重視し、個人技よりも集団としての成果の方を重んじる。

  • 高貴なマインドセット :公共の利益を考える姿勢や社会貢献の意識が高い。社会課題の解決に関心の高い人が多い。

  • プロジェクトマネジメント力:複雑なプロジェクトを計画・実行する能力に長けている。長期的な視点での問題解決やプロジェクト管理が得意。

土木技術者の”弱み”

  • 変化に弱い:土木技術者は通常、計画された手順に沿って進めることに慣れている。そのため、頻繁な環境変化への対応に不得手な人も多い。

  • リスクが取れない:リスクを回避する傾向が強く、リスクを取って大胆に行動するスタートアップの文化とは相反する側面がある。

  • 主体性が弱い:指示を待って行動する傾向があり、自ら進んで問題を発見し解決する能力が求められるスタートアップでは、主体性に欠けることがある。

一応弁解しておくと、これらはあくまで一般的な傾向を指しているだけで、業界の中でも強み弱みは人によって違うと考えています(当たり前だけど)

このように、土木技術者は素直かつ高貴な気質で、堅実なプロジェクト管理能力や、長期的な視野に立った問題解決能力を持っています。一方で、スピード感、変化への対応、リスク感度、主体性等といった、およそスタートアップに求められそうな要素については"ひと通り弱い"というのが、私の見方です。

このように書くと、一見、土木技術者がスタートアップ界隈でその真価を発揮するのは難しそうに見えるかもしれません。だけどそんなことはない。そう思う理由を次に示していきます。

4. 従来のスタートアップ的成長は果たして正しいか

そもそも、従来のスタートアップ的成長は、企業成長の形として本当に正しいのでしょうか。

いま日本に根付くスタートアップ文化のほとんどは、スタートアップ先進国であるアメリカの、もっと言うとシリコンバレーで確立された成長理論が輸入されてきたものです。曰く「真っ逆さまに落ちる飛行機の中で、針に糸を通すような緻密さで事業を創り、それが墜落する前に事業を完成させ急浮上させよ」といった、スピードとリスクテイクを全肯定した主張が度々展開されてきました。確かにそうした起業(事業)方針は、イノベーションを産む目的だけ考えると理想なのかもしれません。ゼロイチを産む瞬間だけに集中するのならそうした組織が筋肉質で合理的だろうし、その結果成功した企業も、海の向こうでは多いのだろうとは思います。

ただ私は、この文化をそのまま日本に持ち込むことに甚だ疑問を感じるのです。このシリコンバレー的なスタートアップ戦略を全うしようとした日本企業を色々と見聞きしてきたが、当初の思惑どおりに成長しきった例があまりに少なすぎます。私自身、他のスタートアップで働いた経験もあるし、有難いことに最近はいろんな企業の内情を聴かせてもらえる機会にも恵まれました。しかしそこで聴く内容は、一時期栄華を誇ったスタートアップの多くが解散するような話や、ゼロイチの事業開発フェーズは抜けても実質成長が停まってしまうリビングデッド状態のベンチャーの話がほとんどです。また事業が順調に成長していても、組織が急成長する過程で多くの離職者が出たり、内部での仲違いが生じたりする話は枚挙にいとまがありません。どの企業も、事業が成長し切る前に組織的課題や踊り場問題(※急成長していた事業の上昇ペースが一時的に鈍化し、事業停滞する現象のこと)にぶつかり、組織崩壊を招いてドロップアウトを続出させています。そしてスタートアップ界隈には、そうした組織崩壊を必要な成長痛のように語り、むしろそれを良しとする向きも一定数あるように見えます。それは些か、私達日本のスタートアップ界隈が、米国の手法を妄信してしまってはいないか。そう思えてならないのです。

このスタイルに日本企業が合わないと思う理由として、一つには日本人の気質的なもの、一つには我が国の雇用流動性の低さなど、様々な要因が挙げられます。その議論はそれはそれで複雑なので、ここでは深ぼることはしません。ただ一つ私なりの主張と書くとすれば、他国の経済悪化やAI等を始めとした技術動向変化を理由に日本に再びスポットライトが当たろうとしている昨今、日本人は日本人の肌に合ったスタートアップ的成長をいまこそ志向すべきだということです。

ではこれからの日本式スタートアップに求められる要素とは何でしょうか。

5. これからのスタートアップに求められるものは、土木技術者が持っている

日本人に相応しいスタートアップの形とは何か。そもそも、スピード、リスクテイクという2つの要素では我々は海外には勝てません。日本人という人種の成り立ちや、私達の過去の成功体験を振り返ってもこの事実は多分揺るがないでしょう。しかし、イノベーションを志向する以上その2つの要素を否定することはできません。スピードなくして他社には勝てないし、リスクを取らないと新しい発見はないことは自明です。なので、我々が本来不得手なスピード・リスクテイクについては、苦手であることを受け入れてなんとか他国に置いていかれることのないよう喰らいつくしかありません。

ただそこに喰らいついた先、スピードとリスクテイクが一定身を結んだ先の企業成長において求められる要素に目を向けると、私達の勝ち筋が見えてきます。つまり、企業としての一つの目標(ミッション・ビジョン・バリューと言ってもいい)を掲げ、やることが定まった先には、その目標に向かって足並み合わせて突き進む統率力、実行力、そして素直さが明確な差別化要素になってくるのではないか、ということです。そしてその強みは、おそらく、スピード・リスクテイク信仰が強かったゼロイチフェーズにおいても優位性を発揮するものと考えています。これが、土木とスタートアップの2つの業界を見てきた私が持っている仮説であり、土木技術者というペルソナがスタートアップでも真価を発揮できると信じる理由です。

たとえばGAFAMのような有名企業でも、ここ数年、スキル偏重の採用基準から、素直さや誠実さといったヒューマニティを重視する採用に変わりつつあり、その採用基準の変更に彼ら自身も苦戦していると聞きます。また、最近の技術革新、特に直近のAIの発展により、事業を立ち上げるときのスピードの出し方やリスクテイクの方法が180度変わってしまった。いまや海外のスタートアップも、(一部の分野は除き)最早スピードやリスクテイクでは勝負していないように見えます。いま私達が勝負しているのはむしろ、どの分野の課題に喰らいつくか、あるいはどのような未来の実現に賭け続けるかといった、粘り強さ(stickiness)なのではないでしょうか。

日本人がスタートアップをやるのなら、日本人の強みを活かしましょう。それは、カルト的な素直さ、やると決まったらやり切る統率力と団結力、プロジェクトの実行能力です。そしてそれを強く持っているのは、他でもない土木技術者ではないでしょうか。

新しいスタートアップの成長手法として、「素直・誠実な人間」から構成されるスタートアップを提案します。そして、土木技術者が持つ高貴な精神、プロジェクト管理能力、なにより「素直さ」は、この新しいスタートアップにとって理想的な要素であり、イノベーションを産みだすだけでなく、より持続可能で社会に貢献できるビジネスモデルの構築に一役買うものだと考えています。

6. まとめ~スタートアップに興味ある土木技術者に向けて~

土木技術者が従来のスタートアップに向いていないという見方は確かに一理あります。しかし、スタートアップそのもののあり方を見直すことで、私達技術者が活躍できる新しいスタートアップの輪郭が見えてきます。素直さや誠実さ、高貴なマインドセットを持つ土木技術者が、その強みを発揮することで、持続可能で社会に貢献できるスタートアップを創り出すことができると考えています。

土木技術者が持つ強みを最大限に活かすことで、新しいスタートアップの確立を目指す。私達Malmeは、そう決めました。

最後に、スタートアップ業界に関心を持ってくれている土木技術者の方へ。

確かに、貴方が素晴らしい技術者であればあるほど、スタートアップに入った最初は少なからず戸惑うでしょう。短い人で数カ月、長い人だともしかすると数年単位で苦しむかもしれません。私自身も、界隈に飛び込んで半年ぐらいはもがいたし文化の違いに苦労しました。しかし、その過程で得られる教訓や経験は他に代えがたいものだったし、その暗闇を抜けた先に、見たことがない眩しい景色が待っていることは保証します。

そしてもし本当にチャレンジする気があるのなら、記憶に留めておいて欲しいことがあります。それは、スピードやリスクテイクは業界柄苦手であることを自認して地道に克服する覚悟を持つこと。そして、過去の経験をアンラーンする癖をつけること。まずはスタートとリスクを楽しむ心がないとスタートアップは務まりません。これを、じっくり時間を掛けてもいいから克服する。また土木技術者がスタートアップで活躍するには、従来の方法や考え方を捨て、新しいアプローチを学ぶ必要があります。いわゆる「アンラーン(unlearn)」と呼ばれるものです。過去の成功体験や慣習にとらわれず、新しい状況に適応する覚悟があるか。チャレンジする前に、いま一度、自分に問い質してみてください。貴方のキャリア選択の助けになれば幸いです。

私達Malmeが考える「新しいスタートアップ」、その中核を土木技術者が担うことで、ドボクがもっと面白く、そしてドボクから日本の勝ち筋が見えてくると信じています。



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