見出し画像

稲垣えみ子×山口祐加トークイベント「これからの家事の話をしよう」【著者に会いに行く】

ここ1.2年、刊行記念のトークイベントに行くのが楽しいです。2023年に読んだ中でそれぞれかなりつぼだった2冊の著者が共演するという個人的に超豪華な「これからの家事の話をしよう」でおふたりのお話を聴いてきました。会場は東京・西荻窪の今野書店です。

先に読んだのは、稲垣えみ子さんの「家事か地獄か」。タイトルが少し大袈裟かな?と思いつつ、読み終わってみると、なるほどと哲学的な納得感がありました。
大企業に勤めていたけれど50歳で早期退職。もう給料は振り込まれないのだととにかくお金の不安があったけれど、家事をすることでいろんな悩みから解放されていく過程が描かれていきます。
電気なし、ガスなし生活中の稲垣さん、さすがにそれをそのまま倣うことはできないけれど、稲垣さんが現実に行動して発見していったことが、じわじわと伝わってくる、今の時代の生活の哲学を感じさせられる内容で、すでにマイ家事にも良き効果、現れています。


*・*・*・*・*・*・*・*・*
まもなく還暦の私はこれから自分の肉体がどんどん衰えていく現実に向き合わざるをえないと思っていたんだが、本当にそうなのか。実は私には本来ちゃんとあるのにほったらかしにして見向きもしてこなかった黄金の資源がたくさんあって、それを一つ一つ開発していったなら、むしろ衰えるものより開発するものが多いのではないか?老いがどーのとか心配してる暇があったら、まだまだやるべきことはあるんじゃないのかね?(「家事か地獄か」より)
*・*・*・*・*・*・*・*・*


ポジティブ❗️同い年のせいもあるのか、無意識の部分を言語化してもらったように思う部分もあり、モノだけでなく思考の整理の一端も担ってくれた一冊でした。生きてきた中で知らないうちに自分の中に積み上がっていた固定観念を手放し、手を動かすことを通して、自分の生物としての感覚を取り戻し、自分の中に新たな発見があると教えてもらいました。私自身、親から独立してから気づくと30年、決してインスタにあげるようなキラキラライフではなくても、やはり積み上がってきている私だけの家事力みたいなものがあるのだと思えるようになりました。

そして最終章は、家事の視点から現代社会を俯瞰した内容となっていて、タイトルは、「総理、家事してますか」

稲垣さんの書籍を読んだ山口祐加さん、この最終章を読み、これだ!と膝を打ったのだとか。家事してる人は老後2000万とか言い出さないはずで、その漠然としたしんどさがわからないのは家事をしていないからではないか、この本を国会で配ってほしいと思ったそうです(賛成!)。そしてぜひ稲垣さんとお話ししたいと伝手をたどって実現したのが今回のイベントになったそうです。


さてその山口祐加さんの著書、「自分のために料理をつくる」は、"自炊料理家"という肩書きの山口さんが、実際に料理を習いに来た人たちの様々な悩みに寄り添い語り合いながら一緒に料理を作っていくドキュメンタリーです。


*・*・*・*・*・*・*・*・*
著者のもとに寄せられた「自分のために料理が作れない」人々の声。「誰かのためにだったら料理をつくれるけど、自分のためとなると面倒で、適当になってしまう」。そんな「自分のために料理ができない」と感じている世帯も年齢もばらばらな6名の参加者を、著者が3ヵ月間「自炊コーチ」!その後、精神科医の星野概念さんと共に、気持ちの変化や発見などについてインタビューすることで、「何が起こっているのか」が明らかになるーー。「自分で料理して食べる」ことの実践法と、その「効用」を伝える、自炊をしながら健やかに暮らしたい人を応援する一冊。(今野書店の紹介文から抜粋)
*・*・*・*・*・*・*・*・*


山口さんは1992年生まれの32歳。多忙な両親のもとで育ち7歳の頃から料理を始めたそうです。そんな話をすると、周りからは「すごいね」と言われ、普通に家事やってるだけなのにと思っていたそう。そして料理が好きになり大人になると食関係の仕事に就き、料理を人に教えるようになって気になったのが、料理してるしできてるのに習いに来て、自分は料理ができないと思い、日々料理に一定の義務感や負担感を持っている人が多かったことでした。
そして、自分は料理の中には、仕事でも仕事でなくても自分のやりたいことをやって楽しく生きていくためのヒントや可能性があるのではないかと感じてきたのに、なぜそんなふうに感じてしまうんだろうと疑問を持つようになったそうです。

*・*・*・*・*・*・*・*・*
自分なりに精一杯やったけれど、今日の体力気力ではこれしか作れなかったとき、ズボラ手抜きでごめんね、とつい口から出てしまう。それは謙遜のようにみえて、実は少しずつ自分を傷つけていることになっていないかな。今日できる精一杯のことをやったのだから、今日も何とか頑張った!で十分のはずです。(「自分のために料理をつくる」より)
*・*・*・*・*・*・*・*・*

料理家としてレシピ本を出し、こうして本屋でイベントしているという身ではあるけれど、本当は料理本は何冊もいらないとおっしゃる山口さん。小さじ1でも1.5でもどっちでもいいんですよ、と。自分が手を動かして作ったことで得られるささやかな達成感、どうやったらおいしくなるかと考え工夫してみる楽しさ、手をかけたことがすぐに結果として表れ、食べてみて自分の好みかどうかを感じ、次の機会に活かせること。これらの体験は自分で作ったときにしか得られないもので、その中で好みや体調など自分の体に耳を傾け自分のために料理を作る。大人になって自立するというのは、そうやって自分が自分の世話係になることなのではないかという山口さんのお話に、ふっと肩の力が抜けていくのを感じました。

気になる本の著者さん同士がつながって、直接話を聞けたことは、それぞれの本の良さがより大きく広がって本当にラッキーでした。
山口さんは、自分が言い出しっぺだからと、最初にテキパキと自己紹介をされ、またノートを持参して稲垣さんのお話を何度もメモされていた姿が印象的でパワフルな方。
稲垣さんは生活に余計なものがないのをまさに具現化されたボディで体にも余計なものはついていなくて、軽やかでさわやかな方でした。

対談の最初に、親子のような年齢ですね、という話があったくらい世代が異なるおふたりでしたが、会話は非常に噛み合っていて、共通の強い思いがあるのを感じました。それは、「家事をそれぞれの手元に取り戻して自分で自分を幸せにする自分になろう」というメッセージ。私自身、ライフステージの変化の時を迎えつつある今、おふたりの著書を読み、お話を伺って、自分の考えや思いに耳を澄ませて試行しながら、家事を楽しんでやっていこうと励まされる時間になりま
した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?