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絵本探求講座 第4期、第3回講座を終えて

2023年11月12日(日)絵本探求講座 第4期(ミッキー絵本ゼミ)第3回講座の振り返りをします。


第2回ゼミに引き続き、今江 祥智氏を取り上げたいと思った。

課題の翻訳者から見る絵本

*選書理由

心やさしいライオン君の成長と友情を描いた人気シリーズ『ごきげんなライオン』は、9冊出版されている。シリーズ1冊目は村岡 花子訳、2冊目が晴海 耕平訳、3.4冊目が今江 祥智訳、5~9冊目が今江 祥智・遠藤育枝共訳。文体など翻訳の面から比較したいと思った。
※このシリーズの作者、ルイーズ・ファティオ氏と画家のロジャー・デュボアザン氏はご夫婦。

今江 祥智訳『ごきげんなライオンしっぽがふたつ』         『THE HAPPY LION ROARS』

作:ルイーズ・ファティオ
絵:ロジャー・デュボアザン
訳:今江 祥智
出版社:BL出版 2009年9月新装復刊
原書 1957年発行
訳:今江 祥智
出版社:佑学社 発行年不明

*あらすじ

いつもご機嫌なのに、元気がないライオン君。そんなある日、町に小さなサーカスがやってきた。そこでライオン君が一目ぼれ…。

*翻訳に注目して読む

・題名『THE HAPPY LION ROARS』 ”ROARS””しっぽがふたつ”と訳されている。
・冒頭は…
The Happy Lion was most unhappy, that was easy to see.
No one knew why, but there he was, refusing his food, looking most of the time sadly up to the sky, sighing.

【直訳】ハッピー・ライオンはとても不機嫌だった。
誰もその理由を知らなかったが、彼は食べ物を拒み、悲しそうに空を見上げ、ため息をついていた。
【今江訳】いつもごきげんなライオンくんなのに、これはまたどうみても ごきげんななめのようす。なんにもたべずに 空(そら)を 見(み)あげては、ためいきをつくばかり。いったい、どうしたのかな・・・
今江氏らしいと思った訳
 And he patted him on the head,…
【直訳】そして彼の頭を撫で、…
【今江訳】ライオンくんのおつむを ポンと たたいて…
wrestle
【直訳】レスリングをする
【今江訳】すもうをとる
 "Even the tiny mouse comes to gather my crumbs in company with Mrs. Mouse.He is not alone.
【直訳】「小さなネズミも、ネズミ夫人と一緒に私のパンくずを集めに来る。彼は一人ではない。
【今江訳】「ぼくのおこぼれを たべにくる ちびねずみだって、おくさんづれだぞ。みんな みんな だれかといっしょ。
When the Beautiful Lioness saw the Happy Lion, she closed her eyes. No, not quite,
just so she could watch him through one tiny, tiny slit.
So the Happy Lion watched the Beautiful Lioness and the Beautiful Lioness watched the Happy Lion.

【直訳】美しい牝ライオンが幸せなライオンを見たとき、彼女は目を閉じた。 いや、そうではない、
小さな小さなスリットからライオンを見るためにね。
幸せなライオンは美しい牝ライオンを、美しい牝ライオンは幸せなライオンを見ていた。
【今江訳】王女(おうじょ)さまは 目(め)をとじた。といっても、すっかりじゃなくて うす目(め)をあいて、ちゃんとライオンくんを見(み)ていた。ライオンくんも 見(み)かえし、おたがい 見(み)つめあっていたわけだ。

…and while François watched the ring, the Happy Lion watched the Beautiful Lioness.
What he said to her no one heard, I guess.

【直訳】…フランソワがリングを見ている間、ハッピー・ライオンは美しいライオネスを見ていた。
彼は、彼女に何を言ったかは誰にも聞こえなかった。
【今江訳】フランソワくんが サーカスを見(み)ている あいだじゅう、ライオンくんは また、王女(おうじょ)さまの おりのまえに ぺたり。
ライオンくんは、いったい なにを はなしたのかな。

  1. 表紙の絵からも恋のお話かなと想像してしまう題名。意訳

  2. はじめに佑学社からでている。題名の「しっぽがふたつ」という文字が強調され、「ごきげんなライオン」という文字が小さく表示されている。

  3. 主人公the Happy Lion→ライオンくん。飼育係の息子のフランソワ→フランソワくん

  4. 「~だった」「~していた」と、文体がシンプル。

  5. 小学1年生で習う漢字使用。フリガナがついて読みやすい。

  6. 体言止めがよく使われている。強い印象が残こる。

  7. 語り掛けるように、物語が進んでいる。

  8. 「おつむ」「すもうをとる」「どっさり」「おこぼれ”」など言葉にレトロ感がある。

  9. 声に出して読んだ時、メリハリがあって読みやすい。

村岡花子訳『ごきげんならいおん』『THE HAPPY LION』

訳: 村岡 花子
出版社: 福音館書店 1964年発行
原書 1954年発行

*あらすじ

ある日、ライオンの檻の鍵が開いていたので、初めて外へ出かけたら、町は大騒ぎに…。

*翻訳に注目して読む

・題名『THE HAPPY LION』”HAPPY”ごきげんなと訳されている。
・冒頭は…
There was once a very happy lion.
His home was not the hot and dangerous plains of Africa, where hunters lie in wait with their guns.
【直訳】昔、とても幸せなライオンがいた。
彼の故郷は、ハンターたちが銃を持って待ち構えるアフリカの暑くて危険な平原ではなかった。
【村岡訳】いつもごきげんな  らいおんが  おりました。
この らいおんは、もうじゅうがりの ひとたちが、てっぽうをもってまちぶせしている、あの あつい おそろしい アフリカに すんでいるのではありません。

  1. 題名は、シリーズ名にもなっている。ライオンのキャラクターをうまく表現している。ライオンの魅力が感じられ、ライオンが楽しそうで幸せそうな様子を想像させる。

  2. 主人公the Happy Lion→らいおん。飼育係の息子のフランソワ→フランソワ。

  3. 「~おりました」「~です」「~ます」「~ました」と、文体が丁寧。

  4. 一文がとても長い。原文に忠実な訳。

  5. 全てひらがなで書かれていて読みにくい。「フランソワ」だけカタカナ。

  6. 「のっしのっし」「だんだん  だんだん」「そろりそろり」等オノマトペが使われている。

  7. 「よろい戸」「目をつむって」「どっさり」「よこちょうから」など言葉にレトロ感がある。

晴海耕平訳『三びきのごきげんばライオン』       『THE THREE HAPPY LIONS』

訳: 晴海 耕平
出版社: 童話館  2005年発行
原書 1959年発行
訳:今江 祥智
出版社:佑学社 発行年不明

*あらすじ

ライオン夫婦に赤ちゃんが生まれ、飼育員の息子と同じ名前をつける。夫婦は、息子に出来る仕事を考える。お金持ちの奥さんにもらわれた後、サーカスのライオンになるが、優しいので元の動物園に帰される…。

*翻訳に注目して読む

原書が手に入らず、原書との比較ができなかった。
・冒頭は…
【晴海訳】フランスの ちいさなまちの動物園(どうぶつえん)に、
一ぴきの  ごきげんなライオンがいました。
それから、二ひきの  ごきげんなライオンになりました。
二ひきだと、一ぴきよりも  もっとごきげん。だって、ほら、
二ひきだと  こんなふうに  なかよしになれるんですから。
また、それから・・・ある日(ひ)・・・
三びきの  ごきげんなライオンになりました。
三びきと、二ひきよりも  もっとごきげん。

  1. 題名『THE THREE HAPPY LIONS』は「ごきげんなライオン」を活かしながら、ストレートに訳されている。漢字とカタカナが入っている。

  2. 今江祥智訳も存在することがわかった。『ぼうやで三びき  ごきげんなライオン』 今江訳は、「ぼうや」を物語の舞台として明確に提示し、それが物語の核心をなすことを示唆している。晴海訳は具体的な情報がない代わりに「三びきのごきげんなライオン」が注目され、物語の中心であることが示唆されている。

  3. 主人公the Happy Lion→ごきげんなライオン。ライオンの息子フランソワ→フランソワ。飼育係の息子のフランソワ→フランソワくん。

  4. 「~です」「~ます」「~でした」「~ました」の文体。

  5. 小学高学年で習う漢字使用。フリガナがついて読みやすい。

  6. 「乳母車」「兵隊さん」「おなわりさん」「においかぐわしい」など言葉にレトロ感がある。

  7. 語り掛けるような文体で、ごきげんなライオン家族の表情(目の向き)と訳があっている。

課題絵本に対するミッキー先生の講評

  • 時代性・翻訳の賞味期限について…改訳することによって、読みやすくする。話題になる。『源氏物語』のような古典文学でも改訳ある。原文は、勝手に直せない。例えば『君たちはどう生きるか』(吉野 源三郎 著)は、コミック化・アニメ化され、アダプテーションというジャンルにして媒体を変えている。

  • 『ピーターラビット』の英語の文体が古いため、現代のイギリスの子どもたちは読みにくいと感じているかもしれない。しかし、日本語の場合、改訳することで、日本の子どもたちにより受け入れられる。日本語版の方が生き延びたりする。翻訳の賞味期限があることによって、改訳しやすいというメリットがある。

  • いつ出版されたかも大事だが、訳者が何年生まれの人か?ライフステージの中でいつ訳したか?どういうバックグラウンドの人か?どこの出身か?ということを考えることも大切。

  • 分析ではうまく説明できないが、他の人にまねができないその人のライティングスタイルがある。文体に影響を与える。今江氏の講談調(『すてきな三にんぐみ』)

まとめ

・同じ主人公が登場するのに、訳者によって文体が違うと物語全体の印象が変わると感じだ。主人公の呼び方、表記の仕方も違った。「ライオンくん」「らいおん」「ごきげんなライオン」それぞれ声に出して読んだ時、顕著に感じた。村岡訳は、なんとなくのんびりした上品さを感じる。忠実に英訳されているが、一文が長く、とても読みにくかった。
今江訳は、ライオンを君呼びして、とても親近感を感じた。今江訳も晴海訳もテンポよく読みやすかった。ライオン家族の表情にピッタリの語り掛ける文体に引き込まれた。ロジャー・デュボアザン氏が描くライオンが、とても人間的な表情に富んでいる。気取らない画風で、ライオンの上機嫌と言った雰囲気が溢れていて、見る者の心を開放してくれる。これが原文を尊重しながら、子どもに寄り添った訳なのかなと思った。
・第2回リフレクションでミッキー先生から、次のようなコメントをいただいた。「今江さんの訳で気になるのは『ぼちぼちいこか』『すてきな3にんぐみ』とそれぞれの絵本の結末、つまり落ちをタイトルにしてしまっているところです。わかりやすいと同時に、絵本の作品世界を規定してしまっている一面もあるので、うまいと感心すると同時に、作者の意図より訳者の意図が前面に出ている気もしています。」この視点で、題名を見てみると、今江氏の題名は、結末が分かりやすい題名だなと感じた。『ごきげんなライオンしっぽがふたつ』『ぼうやで三びき  ごきげんなライオン』 
・この絵本は、カラーとモノクロが交互になっている。カラーセパレーションという版画的な手法で作られている。フルカラーにすると印刷代がかかるからだ。『翻訳絵本と海外児童文学との出会い』(松居直著)に書かれていて、ご苦労が伺えた。レトロ感があるので、言葉のセレクトの配慮もされているのかと思ったが、訳者は結構お歳であることが分かった。(村岡氏は1893年生、今江氏は1932年生、晴海氏?)
・翻訳には、賞味期限があることが分かった。漢字や古めかしい表現だけでなく、ジェンダーや差別的な表現にも気を配る必要がある。翻訳は時代とともに進化し、単語や表現も変わることがある。
・絵本の翻訳に必要なものは、絵をよく見る力や日本語の理解力、そして適切な言葉選びやリズムの考慮が挙げられる。特に子供向けの絵本では、絵との整合性や子供が理解しやすい表現が重要だ。原文を尊重しつつ、子供に寄り添った訳だ大切だということがわかった。

【参考文献】
『翻訳絵本と海外児童文学との出会い』松居直/ミネルヴァ書房  2014年
『ベーシック絵本入門』生田美秋・石井光恵・藤本朝巳 
ミネルヴァ書房  2013年




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