サンテック意見差控の件
サンテックの2024年3月期決算に対して、監査人の清和監査法人が「意見差控」をした件についての第三者調査委員会報告書を見ていたら、知り合いがいることもあり、とても切なくなって気持ち悪い文章を書きだしてしまった。
https://www.nikkei.com/nkd/disclosure/tdnr/20240903580362/
会計監査契約というのは、1年に3回「好きだよ」と言い、1年に1回は「愛してるよ」と言わなければいけないという契約なんだな(四半期なくなった、とかは置いといて)。
「愛してるよ」は期末決算に付される「適正意見」。
監査法人側としては、そんなに愛していないなあ、最近デートしても楽しくないしなあ、嘘ついてるっぽいなあ、と思っていても、まあお金くれるしな、ということでなんとか折り合いをつけて年に1回は「愛してるよ」と言うように努力するものです。
被監査会社側も、そんなに愛されなくてもいいなあ、と思いつつ、言われないと上場維持できないって現実がありますから、言ってもらうように努力するものです。
ところで会計監査の「意見差控」ってのは、「愛してると言いたいけど言えない」ってやつで、「不適正意見」は「もう嫌い!」ってやつ。「限定付適正意見」ってのは「あの部分だけ直してくれれば好きなんだけど…..」ですね。
今回は、サンテックもしくは清和監査法人にはその努力が足りなかったのでは、という報告書になっています。
清和監査法人がなぜストレートに愛を囁けなかったかと言うと、
結構大きい赤字の出る工事があることがバレちゃったから。赤字工事があることが分かっているのならば先に引当金を計上しないといけねえ。なのにサンテックはそれを「ちゃんと」言ってくれなかった。
「ちゃんと」というのが会計上はまた難しくて。
恋人の愛の証明には愛の言葉を囁けばいいけれど、会計にはエビデンスがいる。引当金は見積りが必要で常に曖昧さがつきまとうので、エビデンスの裏には説明がいる。説明は説得力を伴わないといけない。論理的な言葉を積み重ねないといけない。それが会計監査における愛の技法。
どうやらサンテックはそれを怠ったようだ。
赤字工事であることは社内では薄々みんな気づいている。赤字だったら、引当金の計上が必要で、その結果、二期連続営業赤字となり、固定資産減損の可能性が出てくる。更に繰延税金資産の取り崩しにも論点は波及する。
もっと深刻なのは、過年度遡及修正が必要かもしれない点だ。過去数年の有価証券報告書の修正なんて考えるだけで吐き気がする。
あー、もう考えたくない。みんな核心には触れず、時間が過ぎていく。
そもそもサンテックには長年付き合った恋人がいた。
いまいち優柔不断なサンテックに、40年もじっくりと伴走してくれていた恋人が。元カレはジェントルだ。「もしかして足が痛いんじゃないの?あそこで休めるよ。あ、そうだきっとイタリアンが食べたいんだよね。近くにいい店知ってるよ。」と。
最悪、ちょっと情報足りなくても勝手に補足してあげたりしてたのかも。この数字をこっちに持ってくれば、ほら赤字じゃなくなりますよね♡みたいな。優しい♡(これは完全な私の妄想です)。
つまり元恋人に甘やかされていた。
しかし清和監査法人は監査Z世代。フェミニズム思想も叩き込まれていて、監査人と被監査会社は対等。愛を証明するためには、まず被監査会社がエビデンスを提出するべきという考え方。
ちょっと冷たいと思っちゃうかもね。
「元カレはちゃんとあっちから毎日連絡くれたのに。
毎回お店も決めてくれた。バッグも持ってくれたし家の前に怪しい男がいたらすぐに助けに来てくれた。
今回の彼氏、冷たいんですけど。」
「まじかよ。なんでも男にやってもらおうとしている女じゃん。
毎日連絡とか無理だし、どの店に行きたいとかちゃんと意見が欲しい。
怪しい男を見かけたらまず自分で警察に連絡したりするのが合理的でしょ。
新しい彼女、重いんだよね。」
こういうことですよね。
けれども、蜜月関係はなるべく続けましょうというのがビジネスの世界での不文律だと思うので、相性が悪くともなんとかするのがまっとうな大人だと思います。
最後のサンテックの気持ちを勝手に妄想させていただく。
「だって全然連絡くれないじゃない。あの日だって会うのかどうか当日になってもわからないし、お店の案もくれないし、最終的には当日も連絡くれなかったじゃない。
だから、私勝手に一人で行ったわよ!」
結局サンテックは監査意見無しで有価証券報告書を提出するという決断に出ます。その重大さに気づいていなかったらしい。
でもそれはほんとかねえ、とも思う。
恋愛関係だとお互い意固地になってしまってそういう破局を迎えることはある。けれど、悲しいけどこれってビジネスなのよね。
別れてもいいけれど、それは監査報告書付き有価証券報告書を提出してから。
現場に居た訳ではないので、どちらも批判はできないけれど、なんだか切ないなあ、という気持ちです。
飲んでる場でこの話をされたら、もうちょっとなんとかならんかったのかね、お似合いだったのに、と言っちゃいそう。
また、「元カレが優しすぎたのもいけないんだよ」と言い出す人が必ずいる。恋人関係の場合、元カレが悪かったとしても責任は追及されないけれど、この場合、前任監査人の責任はどうなんでしょうね。だって過年度修正って話になっているわけだし。
もしかして。もしかしてだけど、元カレに迷惑をかけたくないという心理が働いたってことは?いや、ないよね。ないと信じたい。
全般的に気持ち悪い文章になってしまいましたが、言いたいことは
新しい世代の監査の形ってのはこういうことで、そしてまあそれが正しいんだろうな、ということです。
基本的に冷たい関係になるのです。
昭和の男としてはちょっと寂しいけどね。