題詠100首(2019)
2019-001:我
おとうちゃんにいちゃんときにおかあちゃん母は呼ぶなり我に向かいて
2019-002:歓
湧き上がる歓喜の泉年末に何度聴いても枯れることなく
2019-003:身
見せられる身体(からだ)目指して言い聞かす結果に強くコミットするぞ
2019-004:即
猫の背を撫でおれば「にゃー!」手の甲に浮く爪の痕即ちイタイ
2019-005:簡単
「カイゴ(介護)」とう簡単な語彙耳慣れて口にするにも三拍で済む
2019-006:危
転倒の危険は常にどこにでもあるトイレまで母を導く
2019-007:のんびり
平日の昼の銭湯のんびりと老若男子の裸を眺む
2019-008:嫁
「嫁さんを何でもらわぬ?」「嫁さんをなんでもらった?」話は終わる
2019-009:飼
ウサギチャボ飼育係はもういない小学校に小屋は残るも
2019-010:登
消費税十パーセントになるんです竹下登総理大臣
2019-011:元号
元号がまもなく変わる前の日とあまり変わらぬ次の日であれ
2019-012:勤
言い訳を差し挟まずに近況を伝えられるは勤め人ゆえ
2019-013:垣
物心ついた時から剪定の行き届きたる生垣と見ゆ
2019-014:けんか
怒鳴り合い取っ組み合ったけんかさえ父と呼ばれる人おればこそ
2019-015:具
AIに置換されざる能力が具わるものと思うて生きん
2019-016:マガジン
大根やネギに付録のマガジンは消費税率何パーセント?
2019-017:材
歯車やネジと同じで人材を数えるときは一つ二つか
2019-018:芋
味噌汁の芋がらのあの食感を今しつぶさに思い出したり
2019-019:指輪
君のために指輪を選ぶ限りなく生暖かきピジョン・ブラッド
2019-020:仰
失われゆくものはみな上にゆくそれゆえ人は天を仰ぐか
2019-021:スタイル
「凹凸を膝で吸収しきれないっ!!」フリー・スタイル・スキー・モーグル
2019-022:酷
幼きが酷(むご)い仕打ちで殺されぬ人死してのち人は動きつ
2019-023:あんぱん
ニッポンの創意工夫の象徴がここにあるなりあんぱんを食う
2019-024:猪
猪鍋(ししなべ)を未だ食したことがないいずれ機会があると思うも
2019-025:系
みんなから文系っぽいと言われますどっちっぽくても構いませんが
2019-026:飢
飢え飢えて飢え極まりて人肉を喰らいて生きた者の末なり
2019-027:関係
介護するされるではなく限りある苦楽を共に生きる関係
2019-028:校
聞こえくる...「下校時刻になりました…」サンサーンスの「白鳥」静か
2019-029:歳
代替わりすればしだいに絶えにけり往来年賀中元歳暮
2019-030:鉢
野放図に広がった枝鉢植えのこんなクロマツどうすれば 父
2019-031:しっかり
スタッフに支えられるもしっかりとした足取りで帰りくる母
2019-032:襟
ワイシャツの傷んだ襟を切り取って丸首シャツに直したる母
2019-033:絞
絞り染め手描き友禅大層な桐の箪笥が...あるわけもない
2019-034:唄
三匹の雀が何ぞ鳴き交わすあるいは古き手毬唄など
2019-035:床
二人して行った貴船の川床で君はビールに酔いつぶれたり
2019-036:買い物
歯が二本しかない母が食えるもの買い物はまずそこに始まる
2019-037:概
二人とも概ね達者です母はしばらく入院してましたけど
2019-038:祖
道祖神を巡り歩けばその村の古き形が見えてくるなり
2019-039:すべて
欧米はすべての道に名があるとMさんは言う事実だろうか
2019-040:染
感染を防止するべく病棟へ立ち入ることの禁止されたり
2019-041:妥
産廃をなぜこの場所に埋めるのか妥結するのは困難にして
2019-042:人気
夕焼ける研究棟に人気(ひとけ)なし今日は夜通しデータをとる
2019-043:沢
沢筋にしばらくゆけば渓谷の底の岩場をいつか歩ける
2019-044:昔
その昔いやもっと前この辺は縄文人の集落だった
2019-045:値
健診を繰り返すたび面白くない方向へ数値は動く
2019-046:かわいそう
比較的小さき者の一人にてかわいそうとは言われたくなし
2019-047:団
みたらしの餡が好きな母頬張って団子自体はポンと吹き出す
2019-048:池
カメがいた幾匹もいた池にいた小学校の敷地にあった
2019-049:エプロン
いつも身に着けているから作業着と思わずにいた母のエプロン
2019-050:幹
どうすれば丈は短く幹太く育つのだろう父のクロマツ
2019-051:貼
独り身はつらくはないが不便なり背中に湿布を貼れないこととか
2019-052:そば
憧れはそばを肴に酒を飲むそんな姿が似合う男か
2019-053:津
湖のある山間(やまあい)の街の中いくつか残る「津」のつく地名
2019-054:興奮
酒癖の悪しき男よ興奮しまくし立て泣き道路に寝たり
2019-055:椀
中世の椀や須恵器の素っ気なさ縄文土器は「盛り」の祭りよぉ
2019-056:通
便通がありホッとする幾たびか腸閉塞を病んだ父ゆえ
2019-057:カバー
自転車にカバーをかける自転車にカバーをかけて未だ乗らざり
2019-058:如
濃密で圧倒的な 死者が今ここにいるかの如き感覚
2019-059:際
去り際に何も言わんとしていない単に欠伸をかみ殺したり
2019-060:弘
閏年に逆打ちすれば会えるらし弘法大師同行二人
2019-061:消費
この年も正視に堪えず恵方巻消費しきれず廃棄されたる
2019-062:曙
山際が白く泡立ち曙を待ち望みたる眼を眩ませる
2019-063:慈
君はあのマザーテレサに触れたのか慈愛に満ちた小さき御手に
2019-064:よいしょ
「せーの」とか「よっ」とか「よいしょ」という音(おん)は介護現場でよく使われる
2019-065:邦
異邦人意識は去らぬとも無理に合わせることはないと思える
2019-066:珍
珍しいわけじゃないけど目についた石ころ今も拾って帰る
2019-067:アイス
温泉と火山と地熱発電の国を訪ねんアイスランドを
2019-068:薄
薄氷をわざと踏み割りながらゆくシャリシャリという音を聞きたさに
2019-069:途
タクシーに乗った途端にわかるなり「ああこの臭い絶対に酔う」
2019-070:到
ネコがゆく雨樋をゆく あるはずだ前人未到は身近にきっと
2019-071:名残り
名残り雪? 卯月初めの牡丹雪落ちてはとけず積もり始める
2019-072:雄
「雄渾」という水墨画 山肌を昇れる靄は龍の吐息か
2019-073:穂
猫バスか単なる風の悪戯か規則正しく稲穂が転ぶ
2019-074:ローマ
温泉に肩まで浸かりつつ思う古代ローマの末裔なりと
2019-075:便
十二時間乗るべき便が遅延してサントリーニの夕陽見れざり
2019-076:愉
本当にバンクシーなら愉快なり まあ落書きの是非はともかく
2019-077:もちろん
もちろんさ布団干すのは趣味だもの 水切りかごやスポンジなども
2019-078:包
厳重に梱包されたボール箱 米・野菜・文(ふみ)そして小遣い
2019-079:徳
徳川の世界に誇る戦なき二百年を越す治世なりけり
2019-080:センチ
ヒグラシは父母の恋しと鳴くという夏の夕べのセンチメンタル
2019-081:暮
新しき時代を謳いあげんとす日暮れを描くも「印象 日の出」
2019-082:米
「日に三度食べる飯より米が好き」言いたる人を未だ忘れず
2019-083:風呂
「のんびり」と「ローマ」で既に詠みたりき詰まる所がただの風呂好き
2019-084:郵
郵便が届いたようだ誰だろうどこからだろう 未だにときめく
2019-085:跳
10分と続かなかった跳ねる跳ぶ阿波の踊りの連に加わり
2019-086:給料
介護者における給料 心地よく父母が過ごしてくれさえすれば
2019-087:豊
新鮮な驚きだった豊田市を他社の車で走れるなんて!
2019-088:喩
食欲の有無大便の状態はバイタルに次ぐ明日への隠喩
2019-089:麺
細麺の縮れた麺のゆく秋の限定メニュー酸辣湯麺
2019-090:まったく
迷惑を掛けたことなどないという彼をまったく理解できない
2019-091:慎
慎重に言葉を選び本心を隠す心理に分け入ってみん
2019-092:約束
約束は果たせそうだねベネチアは防潮堤で守られたから
2019-093:駐
「細長い駐車場かっ!」とツッコミを入れたいほどの車列があった
2019-094:悟
愛しいと思えば思うほど遠い 孤独なんだと悟るんだろう
2019-095:世間
匿名や個の孤立から見えてくる世間体とう抑止の力
2019-096:撫
量感がなくとも色が白くとも髪を梳きいる大和撫子
2019-097:怨
地震飢餓火災風災行間には私怨の念を籠めた長明
2019-098:萎
胃壁まで縮こまるとは萎縮性胃炎宿痾の友となりたり
2019-099:隙
日常のふとした隙に思う「ああ 彼より年が上になった...」と
2019-100:皆
言霊と遊んでいたい逝く日まで 一切衆生悉皆成仏
2019-101:平成
舵取りは平成生まれに任せよう 面舵取舵ヨーソロー!
2019-102:昭和
戦争の昭和を生きた二人なり神戸の男厚木に女
2019-103:大正
大衆を熱狂させた大正のグラビアモデルアインシュタイン
2019-104:明治
近代人なれば恋愛すべしとう明治の呪縛いまに繋がる
2019-105:慶応
討つ者も討たるる者も若かりき慶応の世の何がええのじゃ
2019-106:万延
一年で改元された万延に結晶化した花の生涯
2019-107:応仁
応仁の有漏路(うろじ)を生きた狂客は今日もどこのキャバクラにいる
2019-108:延暦
延暦寺の出身にして選良の...うちのお寺は浄土宗なり
2019-109:天平
五部浄(ごぶじょう)よ顰(ひそ)めた眉は天平の大人どもへの澄んだ怒りか
2019-110:大化
藤原の末裔として鎌足の初舞台たる大化寿ぐ
2019-111:令和
新しき言霊を受く遠からず令和とう手話の生まれるならん
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?