題詠100首(2017)

2017-001:入
草むらに指をさし入れ突っついてゆくフキントウ八つ九つ

2017-002:普
どの野にも普通に生(お)うる草花に愛でられるあり駆除されるあり

2017-003:共
「鹿どもは山の貴重な花も食う」共生という実りの遠し

2017-004:のどか
「銃による捕獲」の入る里山に鹿はのどかに草を食(は)むらん

2017-005:壊
「里山が壊れなければかくあらじ」いつまでだって仮定表現

2017-006:統
ヒトの手の入る前へは戻らざり統べる秩序はヒトを許さじ

2017-007:アウト
里山へ分け入るせめて今だけはアウトサイドに生きる者たれ

2017-008:噂
噂では「令」という字は佐藤氏の中で候補の一つであった

2017-009:伊
何かしら失敗をした玉子焼き!? 黙って食べた母の伊達巻

2017-010:三角
塩昆布(しおこぶ)と梅を刻んで混ぜ込んだ母のテッパン三角むすび

2017-011:億
札束が湧くかのようなネット記事「あなたもなれる億万長者」

2017-012:デマ
「デマ」もまた「ガセ」が辿っているように「フェイク」の陰に消えてゆくのか

2017-013:創
月毎に仲間と開く読書会 創造的な「読み」の体験

2017-014:膝
リハビリを続ける父母が口にする「膝関節が楽に動く」と

2017-015:挨拶
挨拶を返したことのない者にこそ丁寧な言葉をかける

2017-016:捨
ガチガチの我執を捨ててその先にある我ならぬ我になりたし

2017-017:かつて
現に今いる者よりもかつていた者たちのいるはずの世を恋う

2017-018:苛
言の葉が我にはなべて苛烈にて人の世ならぬ世を夢にみる

2017-019:駒
木曽駒の宝剣岳の鎖場で背筋を抜けた山巓の風

2017-020:潜
繰り返し潜水してはアカエイを追っていたとう 父の終戦

2017-021:祭り
若干の浮薄さのある明朗さこの改元の祭りを愛す

2017-022:往
ひとつでも誇れるものがあるならば往生するも楽しかるらん

2017-023:感
神経が耐えられぬのだ感覚が麻痺した挙句...「傍若無人!」

2017-024:渦
「大丈夫」「間違ってない」「これでいい」洗濯槽の渦を見ながら

2017-025:いささか
セミプロの自負あればこそ言えるなり「水墨と書をいささか・・・」と父

2017-026:干
趣味というより依存症日が差せば干さずにおかぬ掛・敷布団

2017-027:椿
「カメムシ(椿象)」の漢字表記を知るまさにこの心境を椿事と言うらん

2017-028:加
つん読に一冊をまた加えたりホーキング氏の最後の著作

2017-029:股
四股を踏みハッと短く息を吐き山に入りゆく老いし杣人(そまびと)

2017-030:茄子
鼻歌が自然ともれる「さぁできた!」『トマトと茄子の甘味噌炒め』

2017-031:知
名の知らぬ草木を見つめさえずりをただ聞く杣の道をゆく孤よ

2017-032:遮
眼前のこの光景に遮れ背後の異界見る能わざり

2017-033:柱
築五十五年の家のいくつもの柱のキズは概ね昭和

2017-034:姑
里芋の一種だろうと思ってた聞き得なかったおせちの慈姑(くわい)

2017-035:厚
湖に厚い氷が張ったなど子どもは信じようともしない

2017-036:甲斐
独り身も髪白ければ甲斐性がどうのこうのと説く者はなし

2017-037:難
草刈りの区割り議案で紛糾す気難しさの増した自治会

2017-038:市
近刊の歌集・句集の大方は我がリクエスト市立図書館

2017-039:ケチャップ
てんこ盛り 残りご飯で母がよく作ってくれたケチャップライス

2017-040:敬
敬虔な無神論者を訪ねきて説きて帰りぬ「神のはからい」

2017-041:症
理由なき怒りがひとを遠ざける極度の潔癖症を装い

2017-042:うたかた
うたかたは恋に掛かりておのずからダニエル・ダリューが導かれたり

2017-043:定
ひとは死に家は朽ちるが定めにて枯れては茂る草に埋もれる

2017-044:消しゴム
未来から不確実さや漠とした不安を除くための消しゴム

2017-045:蛸
蛸壺の奥処(おくか)へ消えてゆくごとし親の介護を引受し子は

2017-046:比
比類なき経歴はなく歳だけはくっているのの社会的価値

2017-047:覇
那覇行きの船に話せしひとなりき恒星で埋め尽くされた空

2017-048:透
サングラスを透かして見遣る夏の雲先祖の誰を神は作りしか

2017-049:スマホ
スマホとう高い玩具を持たざれば地味に不便をかこつ日常

2017-050:革
つん読の取捨選択をなすための革命戦士に今日もなれざり

2017-051:曇
隔たった時の長さに息を吐く頭を押さえつける曇天

2017-052:路
六道の旅路険しき百年の孤独のむしろ耐えがたきかな

2017-053:隊
隊列を乱せば叱り限りなく個を希釈する運動会は

2017-054:本音
問うなかれ何が本音かなど知らぬ突き動かされ介護するのみ

2017-055:様
お袋の便秘ひとつにおろおろとなんたる様(ざま)か介護者のわれ

2017-056:釣
カッコウの初鳴きを聞くこの年の釣鐘草の淡い紫

2017-057:おかえり
「おかえり」とデイより帰る父母(ちちはは)に応えて我も「おかえりなさい」

2017-058:核
これからを令和時代の中核をなす子どもら見守りたまえ

2017-059:埃
塵埃にまみれたとても罪びとになりたら自死をしてはならない

2017-060:レース
キンキンに冷やしておいたタンカレースペシャルドライジンがしみるゼ

2017-061:虎
虎杖(いたどり)を採りに行ったりもらったり ひとは老いたりまたは去りたり

2017-062:試合
試合とか試験だとかは「試す」のだ自分自身を そして克つのだ

2017-063:両
ウグイスがさえずっている 両親をどこかへ連れていってあげたい

2017-064:漢
銀漢と呼ぶべき大河 川べりに足を浸して涼みたけれど

2017-065:皺
この皺は逃げた回数かもしれぬ鏡に映る男の顔の

2017-066:郷
快晴の空の彼方よなにがしの郷(さと)に隠棲する身を想う

2017-067:きわめて
何人が日傘男子にデビューしたUV指数「きわめて強い」

2017-068:索
岸壁に誰を見送るのでもなし 係留索が巻き取られゆく

2017-069:倫
タレントに戯画化されたる我を見る 結婚・不倫・薬物使用

2017-070:徹
まず三日それができたらもう三日三日単位の初志の貫徹

2017-071:バッハ
塔頭が日照雨(そばえ)に濡れていたグランバッハ京都に君とまどろむ

2017-072:旬
耽溺す旬の筍づくし膳 宝の山の麓に生きる

2017-073:拗
繁茂する雑草(あらくさ)どもの執拗さ刈る抜くちぎるで対抗するも

2017-074:副
赤味噌を熱湯に溶き白米を副菜にして玄米を食う

2017-075:ひたむき
ひたむきに生きるよりない何一つあんまりうまくいかないけれど

2017-076:殿
山上の修験の寺の神楽殿雨を含める風の吹き抜く

2017-077:縛
我が心ながら術なし滾々(こんこん)と湧く妄想に縛られている

2017-078:邪魔
わが心には鬼が棲む父母(ちちはは)の介護が時に邪魔くさくなる

2017-079:冒
父のせき母のくしゃみに一憂す普通感冒侮りがたし

2017-080:ラジオ
真夜中のラジオを聴かぬ人間に大人とやらになってしまった

2017-081:徐
徐(おもむろ)に身を乗り出してラスボスが意見を言いぬ 自治会終わる

2017-082:派
クラスでも社会に出ても派閥には属さなかった?・・・属せなかった!

2017-083:ゆらゆら
数杯のジョッキビールにゆらゆらと...逝ってしまった人は戻らぬ

2017-084:盟
盟友と呼びたしたとえ熱情を死ぬまで君が知らないとても

2017-085:ボール
両親の眠りの深くなる深夜 ひとりの時間 飲むハイボール

2017-086:火
ありありと生を映して灼熱の玉が震える線香花火

2017-087:妄
破戒居士酒を飲みては声高に妄語を放つ放ち重ねる

2017-088:聖
その辺の聖人君子なんかより女性に遠し 我を崇めよ!

2017-089:切符
到着の時刻はおろか駅名も記載されざる片道切符

2017-090:踏
意識下の何かをきっと呼び覚まし立ち竦(すく)ませる踏切の音

2017-091:厄
誰よりも厄介なヤツ このオレはなんでこんなに動けないんだ!

2017-092:モデル
プラモデル 戦艦・空母・戦闘機・戦車・帆船・ランボルギーニ

2017-093:癖
何につけ「最悪だぁ」が口癖のひとを眺めてこころ動かじ

2017-094:訳
誤解から「言い訳するな!」と激昂せし中学教師をいまも許さじ

2017-095:養
歳が歳なのだから日々養生しゆっくり暮らせ親父お袋

2017-096:まこと
熱かりき たったひとつの「まこと」のみ信じて散った者らを愛す

2017-097:枠
額縁が買えず木枠に打ち付けたとう若き日の父の自画像

2017-098:粒
焼きたての全粒粉のバケットの野性がガンと脳を突き上ぐ

2017-099:誉
借金を残して逝った君ゆえに毀誉褒貶の未だ別れる

2017-100:尽
かにかくに百個の題を詠み尽くす令和元年七月十日

(寄り道コース)

2017-101:轢
元朝(がんちょう)に遭いたる猫の轢死体降りたる霜が幽かに光る

2017-102:鼎
与野党が鼎立せんかもう二党どこか大いに躍進すべし

2017-103:スパナ
スパナなどをつまみ出しては眺めいる酒のあてなる工具ボックス

2017-104:欅
欅坂上の空には幾羽ものツバメが滑る縦横に舞う

2017-105:饒
昨今の気象を憂う 図書館に饒村 曜(にょうむら よう)氏の本を手にとる

2017-106:鰆
晩年の従兄の記憶病室の献立表に見た「鰆」の字

2017-107:蠱惑
虹色に背を輝かす蠱惑的なる小虫(こむし)アカガネサルハムシ

2017-108:嚢
いつ誰に見られたのかと冷汗をかく四字熟語「酒嚢飯袋(しゅのうはんたい)」

2017-109:而
飲んでいた向き合うことを避けていた古来而立(じりつ)呼ばれる歳に

2017-110:戴
「謹んで頂戴」をしてばかりいる旬の野菜をひとのこころを

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