題詠100首(2020)
2020-001:君
四君子の「竹」で挫折す密やかなライバル心を父にいだくも
2020-002:易
開いている金庫なれども安易には開けるなという家訓が残る
2020-003:割
割り勘にすると言い張り電卓を睨む目つきに心冷めゆく
2020-004:距離
ジョギングの距離をネットで調整すヨンテンニイイチキロメートルに
2020-005:喉
喉頭に炎症あれば「処方した薬はすべて飲んでください」
2020-006:鋭
空間を鋭利な翼(よく)で切り裂いて離陸してゆくF15J
2020-007:クイズ
雑学やクイズに凝っていた頃よライトを浴びるなどと思わず
2020-008:頑
いいかげんお前を論破してやると息むおのれの頑固さを知る
2020-009:汁
駅前の洋食店のビフテキの肉汁啜る我ハンニバル
2020-010:なぜ
この道をなぜ選んだか理解せりクロ・ミケ・トラの猫にまみえる
2020-011:域
草むしりする人々のざわめきを聞くのみ今朝は隣の地域
2020-012:雅
「優雅なるご趣味なれども短歌など定年すぎに嗜みなさい!」
2020-013:意地悪
この脳が意地悪せよと唆すセロトニンやらドーパミンやら
2020-014:客
冬枯れた野を見下せる我が生は常に「客(かく)」なる者の裔(すえ)なり
2020-015:餌
横たわり口をあぐあぐする母にちぎったパンを給餌するなり
2020-016:グラス
ひび割れたワイングラスに捻じくれて映る悪鬼が我れを見つめる
2020-017:境
同じ県されどかつての国境(くにざかい)形ばかりの石碑建つなり
2020-018:位
知りたがるSNSよ言っておく位置情報を尋ねてくるな
2020-019:立派
「金のなる木」だけであろう他の鉢はすべて立派に…往生された
2020-020:梅
立ち枯れるほど梅の木を刈り込んだ母の所業を寛恕されたし
2020-021:冊
二冊までなら許せるが我ながら三冊同じ本を買うとは
2020-022:自慢
脳天気だったと思う自慢気にカラオケマイクを握ってたころ
2020-023:陥
陥った袋小路を外部から引き裂く者を待ち望むなる
2020-024:益
我が生を益するほどの才ありや才を見出す才のなければ
2020-025:あなた
こなたには右顧左眄(うこさべん)する男ありあなた世界を羨みて佇つ
2020-026:岩
山頂に坐すといわれる岩塊に滴る水を父母に与えん
2020-027:慰
ジン、ウォッカ、テキーラ我れをいかにして慰撫するべきかそれが疑問だ
2020-028:刷
大脳と筋肉はまだ刷新が可能らしいがこれがなかなか
2020-029:オープン
いつだって新装開店オープンのはずなんだって我々だって
2020-030:建
植えられて切り倒されていく木々よ建てては壊すビルのごとくに
2020-031:芝居
台本はないことにして格差とう舞台の上の群像芝居
2020-032:委
図書委員ばかりしていた記憶あり小中高でつごう六回
2020-033:虐
家計簿や日記をつけるかのように飲酒・喫煙あるいは虐待
2020-034:頃
「町内のご意見番を十分に喋らせた頃合図するから…」
2020-035:為
政治には近づくなとう大叔父は為替相場でしくじったらし
2020-036:撮
何を撮る? 野鳥を撮ると張り切って雀ばっかり追いかけている
2020-037:あべこべ
あの世とはあべこべらしい冬が夏上が下…なら南半球?
2020-038:私
アタシでもわたしでもなく私(わたくし)と言える大人に僕はなりたい
2020-039:威
強引に短絡的に欲動が弾ける! 威力業務妨害
2020-040:スパイ
スパイスが11次元で絡み合う古民家カフェのカレーセットよ
2020-041:拒
忘れられるより友だち拒否されるほど意識されたのはうれしい
2020-042:司
へいわの「わ」に「つかさ」と書いて「か・ず・し」です「佐藤和司
をどうぞよろしく」
2020-043:個
漱石の『私の個人主義』を読むKindle版をダウンロードし
2020-044:施
あちこちにつぎを施し履いてきたこの靴下はもう眠らそう
2020-045:攻
「いつの日か攻めに転じて…」などという野心をよそに松を手入れす
2020-046:わいわい
町内の役員決めでがやがやし会費の多寡でわいわいしたり
2020-047:溢
堤防が切れ泥水が溢れ出す躊躇なく容赦のなく配慮なく
2020-048:殴
殴打して事が成るならヒトとうはそうするだろう人を選んで
2020-049:兼
兼業を認めるという通達を引き裂きながらデスクへ向かう
2020-050:削
削っても盛っても似ない級友の頭部を粘土で作りたりし日
2020-051:夫婦
警察を呼ぶこともなし 夫婦とは? 赤の他人が家にいるとは?
2020-052:冗
冗長なあれやこれやをひとしきり話しきらなきゃうんと言わない
2020-053:掌
まだバスに車掌のいた日隣には母が座って我れは子どもで
2020-054:がらくた
お宝かがらくたなのかこの家になんだかんだと居座るヒトは
2020-055:譲
地元では住所いらずの家なりき取り壊されて分譲されぬ
2020-056:処
大学にメフィストフェレス処世術学科のなきを遺憾に思う
2020-057:ソプラノ
変声期前が懐かしソプラノで小田和正を口ずさんでた
2020-058:峰
「峰(ほう)」のつく雅号の多し数万を払いて我れも「峰」にならんか
2020-059:招
無所属を貫き常にカーストの外にてあれば招かれざき
2020-060:凶
「運がつく」「運の尽き」など「運」という天の吉凶微妙繊細
2020-061:まじめ
これほどの技術を習得するほどのまじめさあらばと嘆くら鑑識
2020-062:催
催馬楽を鑑賞したり脳内に喜多郎のあのシンセサイザー
2020-063:幽
生者より幽冥界に逝きたりし人に会いたき日々の増えたり
2020-064:父
我々のためとう父の心情がようようわかりかけてぞきたり
2020-065:一
「そんなことするのはほんの一部です」実は多くの願望なりや
2020-066:硬
硬水をできればコントレックスを携えてゆくボルダルングジム
2020-067:デビュー
いつデビューしたのだったか「題詠」に休み休みて今日に至りぬ
2020-068:緊
歌会では緊張しつつ技(ぎ)を評す同時に心(しん)に理解を示し
2020-069:裸
裸木に幾十万のLED骨を装飾するかのごとく
2020-070:板
甲板にひとけの消えた豪華船みなの元気をただただ祈る
2020-071:能
能力の不足はあった手を抜いたことはなかった! 課長代理よ
2020-072:𠮷
その昔出会ったひとは「吉」ではなく「𠮷」が正しと念を押したり
2020-073:採
目についた小石があると拾うくせ趣味は岩石採取と言いぬ
2020-074:せめて
好き嫌いアレルギーなしせめてこのグッドニュースを活かし生きたい
2020-075:擦
注意しているのだけれどちちははが擦過傷など負わないように
2020-076:充
飲んでいることを隠そうともせずに充血させた眼でねぶるがに
2020-077:武器
体制に命をかけてNOを言う武器となせるか我が短詩型
2020-078:添
用心し添付ファイルを開かないお前にメールするのはよそう
2020-079:内
客であるまれ人である集団の内にいるより外を選んだ
2020-080:擁
公営の団地から出る初めての市会議員として擁立せん
2020-081:札
生前の姿を浮かべ丁寧にお札(さつ)の皺を伸ばして入れる
2020-082:秒
うるう秒その瞬間を待ちいたり電波時計をじっと見つめて
2020-083:剤
落ち着きを取り戻せたり二週間安定剤に余分ができて
2020-084:始末
出ていった住人の後始末せり勝手に行ってしまったヤツの
2020-085:臭
老醜を恥じいてせめて加齢臭などの届かぬ距離を保たん
2020-086:造
まん丸く酔いたい夜は醸造酒あんころ餅のようにやわっと
2020-087:栽
盆栽についてネットで図書館で調べておりぬ父に代わって
2020-088:しばらく
ヒーローは遅刻するのがセオリーか「しばらく」と言い「待たせたな」とう
2020-089:里
里に住み里に生きいるあの頃はあんなに里を出たがったのに
2020-090:植
枯れるまで育てる気概ないのなら庭木一つも植えるべからず
2020-091:呪
思春期に自分にかけた「俺なんて…」なんて呪縛が未だ解けざる
2020-092:タッチ
コピー機のタッチパネルの反応が悪いこの場で分解したし
2020-093:属
釣り糸に針をつけざる旅人と語らん無所属の者どうし
2020-094:錠
さあ今朝も錠ではなしに「鍵を開け」「昇りたる日」の「粒子」を浴びん
2020-095:俗
戒名に用いる文字と金額の多寡とう俗な対話をしたり
2020-096:機嫌
父母(ちちはは)のデイより帰りくるときの機嫌の良さが我れの救いぞ
2020-097:詐
限りなく詐欺師に近し金持ちになる方法がメールで届く
2020-098:鈍
神経の過敏さ故に「根」もなし「運」にかけよう「運」・「鈍」・「根」の
2020-099:任
リハビリの小休止時に「任せたぞ」父のつぶやき重たかりけり
2020-100:詠
あと十首詠めとゴールが退いていく気持ちせり「寄り道コース」
(寄り道コース)
2020-101:一輪
ありふれた花束にせり一輪の真紅の薔薇を贈りあぐねて
2020-102:両輪
両輪をなしてないとは言わぬただ医療三角介護は四角
2020-103:三輪
三輪山に登拝いたし六根に倭国(やまとのくに)を染み込ませたし
2020-104:四輪
下りたる黒い氷の曲がり角四輪駆動でも止まらざり
2020-105:五輪
我々はオリンピックを成功に導くだろう五輪にかけて
2020-106:七輪
七輪で高いサンマを焼いたとて猫もカラスも集まって来ぬ
2020-107:九輪
相輪を念頭にしてググったら九輪塔なる多肉植物
2020-108:大輪
岩陰に咲く白き花、人の手を煩わせたる大輪の花
2020-109:大車輪
人間よ今の今こそ「新型」に大車輪で立ち向かおう
2020-110:吊り輪
遠くない未来に吊り輪より落つる親しきひとの住まう奈落に
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