数日間入院した患者におけるサル痘発症:曝露された医療従事者の感染リスク評価

はじめに
2022年に流行が確認されたサル痘は、2022年1月1日から10月30日までで、109の国・地域から77,264人の累積感染者数と、36人の累積死亡者数を記録しました(WHO発表)。サル痘は天然痘に似た皮膚病変が特徴的ですが、感染者の中には皮膚病変がほとんどない非典型的な症例もあります。このため、診断が遅れ医療従事者への曝露リスクが高まる可能性があり、現に医療従事者への感染例も報告されています。
今回ご紹介する論文は、サル痘の診断が遅れた入院患者に適切な個人防護具(PPE)を使用せずに曝露された医療従事者群の転帰を報告したものです。

症例
41歳男性が角結膜炎で救急外来(ER)を受診後、救急病棟に10時間入院、その後、一般外科病棟の個室で48時間過ごしました。感染症科の受診でサル痘が指摘され、適切な予防策を講じて感染症病棟に転棟しました。

接触状況
当該のサル痘患者をケアした医療従事者の接触について、PPEの使用状況を調査しました。ケアした可能性のある医療従事者は合計44人特定されました。これらの医療従事者はすべてサージカルマスクを着用していました。うち17人は患者や排泄物との直接の接触がなく、サージカルマスクを着用していたため、フォローアップ対象から除外されました。また、1名は休暇中であり、連絡が取れませんでした。

感染状況
サル痘患者と接触しフォローアップ対象となった26人の医療従事者が発症予防としてのワクチン接種を勧められました。特に11人は適切なPPEを着用せずに患者と密接に接触していたため、ワクチン接種を勧奨されましたが、2人はワクチン接種を辞退しました。
21日間の追跡調査が終了した時点で、26人のうち1人もサル痘の発症はありませんでした。これは、医療現場でサル痘ウイルスに曝露された医療従事者は、十分な接触予防策や空気予防策がない場合でも、感染する危険性が低いことを示唆しています。

評価
今回の世界的な大流行により、サル痘は密接な接触によって広がることが明らかになりました。とはいえ、医療従事者の曝露を抑えるには、標準予防策とサル痘の早期発見が最も重要であり、医療施設は医療従事者の曝露に対応する準備を整えておかなければなりません。
医療現場における感染リスクのある接触者にワクチンを接種すべきかどうかは、議論が必要です。この報告に登場する2人のワクチン拒否者は、いずれもサル痘を発症していません。実際、曝露された医療従事者にサル痘が感染したという報告は1例しかなく、これは曝露の6日後に天然痘ワクチンの単回接種を受けた高リスクの接触者でした。曝露後の予防措置の効果は、おそらく遅れると低下するため、リスク評価と曝露後予防は速やかに実施する必要があります。
衛生水準の高い医療施設では、医療従事者がサル痘に感染するリスクはおそらく低いと推察されます。2022年の世界的な大流行の経験の蓄積に基づいて、医療従事者に対するリスク評価方法を開発または改善する必要があります。
 
感想
サル痘ウイルスの近縁種である天然痘ウイルスは、感染者の呼気や水疱に直接的あるいは間接的に接触し、天然痘ウイルスが粘膜に曝露すると感染が成立します。空気感染するまでの感染力はないといわれていますが、飛沫感染は容易に成立し、エアロゾル感染も状況によっては起こりえます。これに比べてサル痘は、もとともサルやウサギ、プレイリードッグなどで発症し、ヒトの感受性は低いとされてきました。サル痘ウイルスの動物からヒトへの感染例は、感染動物による咬傷、感染動物の血液・体液・皮膚病変(発疹部位)との接触によって発生し、かなりのウイルス量を曝露しないと発症しません。
これはヒトからヒトへのサル痘ウイルスの感染でも同様な機序が推察され、サル痘感染者との性行為など、かなり濃密に接触し、大量のサル痘ウイルスが粘膜に曝露されない限りは発症することが少ないと評価できます。
つまり、本論文にもあるように、医療従事者がサル痘患者と接触する程度では感染が成立しにくいということは明白です。しかし、長時間のケアが必要な場合には、曝露するウイルス量が多くなることが予想され、患者と医療従事者の双方のサージカルマスクの着用、ケア後の手指衛生は必須といえます。

Fortuitous diagnosis of Monkeypox in a patient hospitalized for several days: risk assessment and follow-up for exposed healthcare workers.
(J Hosp Infect. 2023 Jan:131:244-246. doi: 10.1016/j.jhin.2022.11.002.)


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