移動型空気清浄機による室内エアロゾル伝播の抑制効果: 前臨床観察試験

はじめに
新型コロナウイルスの感染経路に関して、WHOとCDCは感染者由来のエアロゾルによって感染が広がるとしています(注: 2024年にWHOはエアロゾルという単語ではなく、感染性呼吸器粒子; IRPという概念を使い始めています)。特に換気が不十分な状況や狭域な空間での感染が多いと報告されています。そのような環境でのエアロゾル感染を軽減するには、換気が重要となります。適切な換気は機械を使った工学的な管理が必要です。既存の施設を改修することなく、設置するだけで室内のエアロゾル対策が可能となる移動型の空気清浄機は、利便性が高く、多くの医療施設で導入されています。しかし、空気清浄機の有用性はあまり評価されていませんでした。
今回ご紹介する論文は、移動型空気清浄機によるエアロゾル濾過の有効性を評価したものです。
 
方法
個室の病室を含む試験室内のエアロゾルの濾過率を定量化するため、様々な移動型空気清浄機と空調設備を用いて、エアロゾルを経時的に測定しました。
 
結果
移動型空気清浄機は、エアロゾルの除去に非常に効果的でした。移動型空気清浄機を設置した小部屋では、空調設備のみの部屋に比べて5倍速くエアロゾルが除去されました。個室病室は優れた換気量(約14回/時)を有し、20分でエアロゾルを除去し、2台の空気清浄機を追加した場合では、濾過時間は3倍早くなりました。

考察
安価な移動型空気清浄機は換気の効果が高いため、入院患者室や個人防護具の着脱ステーションなど、医療環境における小規模で密閉された空間での使用を検討する必要があります。建物の空調設備によるエアロゾル感染の低減に限界がある場合、移動型空気清浄機は特に重要です。

感想
新型コロナウイルスに限らず、病原性のある微生物をヒトの周囲から除去してしまえば、感染性は低下します。ノロウイルスやクロストリディオイデス・ディフィシルなどでは、患者周囲の環境を次亜塩素酸ナトリウムなどで消毒しますが、新型コロナウイルスの場合は、環境よりも空気中に飛散しているウイルスを取り除くことが重要です。
新型コロナウイルス対策としてはN95マスクの着用が効果的です。しかし、N95マスクが着用できない入院患者や医療従事者も存在します。高性能な空気清浄機は空気中のウイルスを除去する可能性があり、本研究でもそれが示唆されています。病室への空気清浄機の設置は、N95マスクが着用できない人を新型コロナウイルスから防御する可能性が高いと推察されます。
多くの医療施設や高齢者福祉施設などでの高性能な空気清浄機の設置は、新型コロナウイルス対策として有効でしょう。今後の普及に期待します。

Effectiveness of portable air filtration on reducing indoor aerosol transmission preclinical observational trials.
J Hosp Infect. . 2022 Jan:119:163-169. doi: 10.1016/j.jhin.2021.09.012.

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