漂白消毒剤ワイプへの着色剤添加による医療センターでの清拭・消毒効果向上

はじめに
入院患者からクロストリジウム・ディフィシル(CD)やノロウイルスが検出あるいはアウトブレイクした際には、次亜塩素酸ナトリウムによる患者周辺環境の清拭・消毒が推奨されています。環境の清拭・消毒は実施者による均一性・確実性が問題になることがあり、清拭・消毒の効果が担保されにくい課題があります。
今回ご紹介する論文は、次亜塩素酸ナトリウム製剤(原文では漂白消毒剤と記載)に青色を着色することによって(青色は経時的に消失)、対象表面の清拭・消毒残しをなくし、視覚的なフィードバックとパフォーマンスを向上させるための新しいアプローチです。
 
方法
Highlight(Kinnos, Brooklyn, NY)は薬液が吐出される際に青色のインジケータ液が混入される装置を附属した漂白消毒剤です。Highlightの効果を検証するために、781床の学術医療センター(Hackensack University Medical Center, Hackensack, NJ)で2021年7月から2021年8月まで前向き試験を実施しました。3つの異なるフェーズ、①コントロールフェーズ(n = 39)、②Highlight介入フェーズ1(n = 66)、③Highlight介入フェーズ2(n = 14)を設け、効果を検証しました。①では日常的に使用されていた漂白消毒剤ワイプを、②、③はHighlightで環境の清拭・消毒を実施しました。消毒効果の判定は蛍光マーカー(FM)の除去とATP発光量測定の両方を用いました。FMは完全に除去されたサンプルを「合格」とし、ATP測定は相対光度単位以下150RLUを合格としました。
 
結果
①ではFM不合格率が15%(41/232)と、②、③の4.5%(25/560)より高くなりました。ATP測定による比較でも①の不合格率が3.6%(14/390)と②、③の2.5%(20/790)より高い傾向を示しました。両者ともに2回目の介入③で不合格率が0%となりました。

図  コントロール、Highlight1、Highlight2の各フェーズにおいて、蛍光マーカー(FM)除去(VeriClean)およびATP発光量測定(3M Clean-Trace)により清拭・消毒効果を評価。グラフ各フェーズにおける不合格率を示す。

考察
今回の検証は、消毒剤を着色することで、清拭・消毒効果が改善されたことを実証しました。FMの除去とATP測定によって清拭・洗浄の失敗率を低減することに成功し、環境衛生の実践における継続的なフィードバックとトレーニングの重要性が強調されました。

感想
清拭・消毒の効果は実施者がどれだけ適正に行うかがポイントです。不適切な清拭・消毒はアウトブレイクの早期集結を阻害し、患者や病院経営にとっても悪影響をもたらすでしょう。本研究は次亜塩素酸ナトリウム製剤を着色することで、環境のどこが清拭・消毒されたかを視覚的に実施者へ認知させることにより、適正性が向上することを示唆しています。着色剤も時間経過とともに無色になるため、医療現場が受け入れも容易と推測されます。このような製品が普及すれば、患者や病院経営だけなく、現場の実施者にとっても確実に清拭・消毒しているというモチベーションの向上に繋がる可能性があります。

A multiphase intervention of novel color additive for bleach disinfectant wipes improves thoroughness of cleaning in an academic medical center
(Am J Infect Control. 2022 Apr;50(4):469-472. doi: 10.1016/j.ajic.2021.11.002.)


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