【詩】熱帯夜
コンクリートの無感覚に打ち込まれる
身元不明のリベット、鈍痛
人工の憂い顔に燃え移った
炎陽の思い出し笑い
扇風機のタイマーが切れる
立ちはだかる鬼瓦のように、凪
熱せられた夜の蜜に覆われた身体を
浅い眠りが吸いに来る
開胸するには物足りない味のようだ
あるものすべてがふて寝をはじめて
無いものだけが這いずり回る
我が物顔の、放し飼いの、寂しがり屋の
隣家の室外機が唸る
遅れて届いた回覧板のように、微風
記憶の抽斗を開けてゆく
誰にも気づかれないように
またあなたへの償いの言葉を
漁り始める
夜の暑さだけが唯一 執拗に 生真面目に
茹だりそうな現実を 説明してくれる
月の存在をすっかり忘れて
星の慰めもまるで届かず
オロオロと詫びるミノムシ
熱帯夜
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