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夏の夜

狭い廊下を伝う生まれたての怪談
賤しい大人の膝小僧がそっと撫でられる

網戸の細かい穴の数だけ与えられた煩わしさ
覗き覗かれ 塞ぎ塞がれ

過去へと渦巻く蚊取り線香の恍惚
佳境に入った家蚊の生涯

葬られたブラウン管からナイター中継の幻
アンチ巨人の亡父の怒号 金縛りにあう瓶ビール

丸大豆醤油に染まった木綿豆腐の残像
三角コーナーに枝豆の若緑 愚痴る蛇口

仮死する縁側憐れんで 啜り泣く団扇
寝汗となって発泡酒の昇天
無断欠勤する自省 徘徊する読経 

帰らぬ人の独白が下座敷に充満して
表では小望月と雑草たちの明るい密談

己の比喩に縋る文士を尻目に
枕元で腐敗をはじめる未完成の詩

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