見出し画像

【小説】アレ 第41話


 試合当日、会場は熱狂するファンで溢れた。俺の心臓は高鳴り、緊張感が全身を包んだ。リングに立ち、サクラ仮面と対峙する瞬間が近づいていた。


(プロレス中継)

「世紀の一戦、いよいよ始まります! えぇ、関係者の情報によりますと、本物のサクラ仮面の額には三日月型の傷跡があるということが判明しました。これまでチャンピオンが戦ってきた相手はすべて偽者だったのです。しかしチャンピオンのガメラ松井はなぜ、ここまで執拗にサクラ仮面との戦いを熱望してきたのでしょうか? ガッツリ石松さん」
「サムタイムときどき」
「記者会見では小競り合いが勃発し、あわや乱闘寸前というシーンもありました。そして両者からは、KOという強気な発言も飛び出しました。そのあたりについて、どう思われますか?」
「OK牧場」
「なるほど、ゴングです!」

『カーンッ!』

「さぁ、始まりました。いったいどんな試合を見せてくれるのか? そしてサクラ仮面を名乗るレスラーは果たして本物なのでしょうか? おーっと、両者組み合ってからフィンガーロック! 力任せに腕をねじ上げるガメラ松井。力比べではチャンピオン松井に軍配が上がったようですが、ここでサクラ仮面の頭突きが炸裂! ゴツンというものすごい音がしました。チャンピオンの松井がもうフラフラです! 驚きです。ここから何が飛び出すのか? 無限の可能性を秘めているサクラ仮面。延髄蹴りー、倒れたチャンピオンに今度は逆エビ固めならぬ、桜エビ固めだー、チャンピオン危なーい。ボキボキと骨の砕ける音が実況席まで聞こえそうなくらい反り返っています。おそらくは立てないでしょう。『もう、立つんじゃない!』たっ、立ちました! ガメラ松井、ものすごい根性です。ダメージはかなり残っていると思われます。目はほとんど開いていませんが、口をポカンと開けています。意識はあるのでしょうか?」

 試合が始まると、サクラ仮面は驚異的なテクニックとスピードで俺を圧倒した。会場はその強さに騒然となった。俺は何度も立ち上がろうとしたが、サクラ仮面は容赦なく攻撃を続けた、うん。

「お前は俺の敵ではない!」

 サクラ仮面はリング上で俺に忠告した。しかし、俺の意地がそれを許さなかった。俺は再び立ち上がり、戦い続けた。

「ガメラ松井が空手チョップを繰り出しますが、まったくスピードがありません。これでは当たりません。ここでサクラ仮面が大きな松井の体を持ち上げ、垂直だ! 高く飛び上がって落下、脳天をマットに叩き付ける、桜バスター……、しかし、何者かがクッションになるように割って入ってきました! 一体何者でしょうか?」

つづく
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?