【小説】アレ 第18話
伝説として語り継がれる、秘境の滝に辿り着いた。
コンパスを見ると回転し続けている!
「壊れたんかな?」
見ていると止まった!
指針が示す方角に向いて歩いた。
崖の中腹に岩穴がある。
人工的に造られた感じには見えず、自然に出来たものだと思う。
薄気味悪いが入ってみた。
何者かが生活していた形跡がある。
焚き火をした後、切っ先のない包丁、アルミ製の鍋、
ボールペンまであった。
過去にここで人が暮らしていた!
何年間も手付かずのまま、放置された状態に見て取れる。
傍に綺麗な湧水がある。日当たりもいい。
ぼくは岩穴を住処にした。
岩穴の壁に正の文字を書き始めて、初めて気持ちのいい朝を迎えた。
ターラララ、タッタ、タン! 脳に宿屋の効果音が鳴った。
いつものように秘境の滝に向かった。
冷たい水に打たれて邪念を払い除け、猫騙しの練習に没頭した。
次に滝業だ!
激しく流れる水に打たれて、自然と向き合い、自然を相手に自分と戦った。
自然の川には石や木などが流れてくる。当然、滝の上から物が落下してくる可能性もある。
頭の中で核が弾けた……辛いトレーニングが苦にならない!
髪は逆立ち、炎のファイターが頭に流れた。
いくぞ! スクワット1万回、腹筋2万回、腕立て伏せ3万回、ダァー。
拳を突き上げた。
滝壺に何か浮かんでいる。なんだ、あれは? 人だ、誰だ、あれは、ぼくだ! 急いで自分のもとに向かった。ぼくは滝壺で目を覚ました。滝壺に大きな流木が浮遊している。この流木がぼくを襲ったに違いない。奇跡的に瘤だけで済んだ。
人間の能力は計り知れない。体の細胞が生きようとするたびに人間は強くなると聞く。
体外離脱を体験して生還したぼくは、自分でも信じられない技術を習得していた。脳内物質を自由にコントロールすることで、本来人間が兼ね備えている潜在能力の開放を可能にした。
次に実戦だ!
手始めに獰猛な猪を相手に迎えた。
「こい、コノヤロウ!」
前足で土を蹴って、猪突猛進、突っ込んで来た!
強烈タックルを避けると猪は立木に激突! 弱った猪にコブラツイスト。
暴れる猪の動きを完全に止めて、アームブリーカーで腕を粉砕した。
野生の怖さはここからだ。よろめき起き上がった!
素晴らしい。リスペクトだ!
ジャーマンスープレックスでとどめを刺した。
馬鹿になれ! 熊と相撲を取った時は、強烈なぶちかましに土俵際まで追い込まれたが、ナックルパートで応戦、延髄切りで息の根を止めた。
ぼくは無駄な殺生はしない。食べるためだけの狩猟、弱肉強食という自然の摂理を山と動物から学んだ。生き残る。或いは死ぬ。身を以て生存競争の厳しさを実感した。
これで最後だ。
戦わなくてはならない相手がいる。
こいつに会うためにここに来たと言っても過言ではない。
迷信ではなかった。この山の主を倒さなくてはならない。
強くなればやって来る。
戦う資格があれば自ずと現れる。
その読みに間違いはなかった。
時は熟した。
待ちわびた相手が悠然と近づいてくる……
強烈な体臭が鼻から脳天に突き抜けた。
巨大な野獣が目の前に立ちはだかった。
♪ 栄光への戦い・生か死かが流れ出した。
つづく
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