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森の間


 地下室から、聞きなれない音がする。

 タッタッタ…
 彼は薄暗い階段を下りた。
 地下室の隅、湿度が高くて空気が重い。

 プルプル…
 手にした懐中電灯の光が不安定に揺れる。

 ぐにゃぐにゃ…
 無数の何かが地面や壁を這っている。

 ザッザッザツ…
 彼は恐怖で逃げ出した。


 ゴー…
 それらは彼に向かって迫って来る。

 ハアハア…
 彼は力の限り走る。

 ジトッ…
 汗で肌が湿っている。

 べちょ…ねちょ…ぐにゃ…
 その音は大きく近づいて来る。

 サッ…
 振り返ると、彼はその場から動けなくなった。

「うわぁあああ!」

 彼の目の前に現れたのは、無数の目を持つ存在だった。その目は彼をじっと見つめ、身体を包み込むように迫って来た。叫ぼうとするが、声は出ない。やがて暗闇は彼を完全に飲み込んだ。

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