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田中碧「想像した場所へ行ける」 スマホに書いた目標と点を取る「イメージ」〈AERA〉


日本代表として、カタール大会で初めてワールドカップ(W杯)の舞台に立った田中碧選手。「W杯で点をとる」という目標はノートやスマホに書き、ロッカールームでもその言葉を見直し、試合に臨んだという。AERA 2023年2月13日号の記事を紹介する。 

 ――インタビューは2022年12月、帰国後に行われた。大会を通じて、一番心に残ったことは何だったのだろうか。
田中碧(以下、田中):やっぱり、勝ったときですかね。試合が終わって、終了のホイッスルが鳴った瞬間。ああやってみんなで喜ぶシーンって、サッカーチームにおいて、あんまり多くあることではないんです。  
たとえば、普段のリーグ戦でもそうですが、ピッチに立つ人間と立てない人間がいる。試合で満足する結果を得られた選手とそうでもない選手が、一緒の感情で喜ぶのはなかなか難しいんです。でも、W杯ではそんなことは関係なく、国を背負って戦い、全員で喜ぶことができる。勝ったドイツ戦とスペイン戦の2回のホイッスルの瞬間は、今までのサッカー人生にないうれしさがありました。
「あの26人で戦えて、幸せだったな」と思えた。  大会期間中、初戦のドイツ戦の前にあったミーティングで、川島永嗣選手が「この大会は、ここにいる26人でしか挑めない」と言ってくれたことがありました。優勝経験国のドイツ、スペインと同じ組に入り、周囲からは「このグループは厳しい」とか、「けが人が相次いでいる」とか、いろいろ言われるかもしれない。でも、歴史を変えられるのはこのメンバーだし、信じられるのはこの26人だけだ、と言われた。

■どこで得点をとるか  

この26人を信じて戦う、前に進もう、という言葉がすごい心に突き刺さった。自分のように、初出場の選手たちはプレッシャーを感じすぎることもなく、のびのびとプレーできた。改めて、幸せなチームだったと思います。
――W杯では3試合に出場し、負ければ敗退が決まるスペイン戦で、決勝トーナメント進出をたぐり寄せる決勝点も決めた。振り返れば、18年9月のJリーグのデビュー戦、21年10月のW杯アジア最終予選の豪州戦のように、大事な「節目」で得点を決めてきた。
田中:W杯で得点を決めるというのは、自分が描いていた未来だったので、実現できたのはよかったです。自分もたまに、(結果が出ることに)びっくりしますけど(笑)。結構、イメージ通りなんですよ。
自分のなかで、「どこで得点をとるか」というのは大切にしているんです。もちろん、サッカー選手なので毎試合とれればいいですけど、そう簡単にはいかない。そのなかで、どの試合にパワーをかけるか。  
例えば、「W杯で点をとる」という目標は、日課でつけているノートや、スマホに書いてきた言葉でもありました。スペイン戦の前のロッカールームでもその言葉を見直し、試合にのぞみました。
僕は本気で、最後まで自分が点をとれると信じてやっている。それは自分の武器かなと思います。

■本を読むこと増えた

サッカー選手は一試合一試合で、人生が変わります。嫌な世界ですけど、そのために準備を積み重ねています。ずっと「このW杯で得点をとる」というのは考えていたし、描いていたこと。W杯の初戦は緊張しましたけど、やっている最中はそんなに考えなかった。終わってみれば特別感はありますが、すぐに過去のものになるでしょうし、4年後はまたすぐ、やってきます。
――決して「感情を表に出すタイプではない」と語る。
印象的なのは、自らの立ち位置を冷静に把握していることだ。大会期間中も、移動の合間によく本を読んでいたのだという。一体、どんな本をどんな意識で読んでいるのだろうか。
田中:毎日、何時間も読んでいるわけじゃないです(笑)。でも、寝る前や時間があるときは読んでいます。  
読むのは、小説ではなく、人の考えや知識が書かれている本が多いです。最近は松下幸之助さんの『道をひらく』。あとは稲盛和夫さんの本とか……。  読み始めたのは高校生のころです。最初は知識の本でした。自分のプレーの幅を広げたいなと思って、食事や栄養や睡眠についての本を読んでみたんです。読んでどんどん情報が入ってくる感覚が好きでした。1千円ちょっと払うだけで、人の考えていることを知れるのがいいなって。そこから本を買うことや読むことが増えましたね。  
よく、サッカー人生のターニングポイントを聞かれるのですが、そういうのはあんまりないんですよね。基本的には、読書も含めて、毎日やっていることが積み重なって成果が出るという感覚なんです。それが、日本代表に入る、代表で試合に出る、とかちょっとずつ上のステージで花開いていく。  
僕は結構、物事を長期的に考えられるタイプだと思っています。今がうまくいかなくても、1年後、2年後、うまくいくだろうなと。そんなに焦ったりすることがないんです。

■できることを増やす

――サッカーを始めてから続けてきた成功体験がある。例えば、中学3年のとき、所属していた川崎フロンターレの下部組織では1学年上に三笘薫(ブライトン)らがいた。高校生の練習に参加したが、全く歯が立たなかったという。だが、数カ月も経たないうちにレギュラーをつかみ、卒業するときには背番号10を背負った。
田中:最初は何もできなかった。悔しさはありましたよ。近所の公園で、めちゃサッカーの練習して。でも、高いところにいけばいくほど自分は1番下から始まる、というのはそのころからある感覚です。悔しい経験はするけど、そこに慣れようとして、どんどんできることを増やしていく。結局、「自分が想像しているところにいくだろうな」という感覚はあるし、いい意味でゆっくり考えられる。そこはほかの人と違う部分かもしれません。
――W杯の決勝トーナメント1回戦では、目標だった「日本初の8強」にたどりつけず、クロアチアにPK戦で敗れた。悔しさはもちろんある。試合後、「次は化け物になってここに戻ってきたい」とコメントを残した。決意は固かった。

■次の4年が楽しみ

田中:個人のレベルでは、満足いくものはないです。帰りの空港で歩きながら、(堂安)律とも話した。「4年後、俺らでやるしかないな、俺らで勝たせよう」って話をしたんです。  
彼とは同い年なんですが、僕らは東京五輪でスペインに負けて、悔しい経験をした。W杯では、その五輪世代が何人もいたので、あの悔しい思いを共有できた。  
負けてよかったとは思いませんが、東京五輪でも今回のW杯も、この「負け」を肯定的なものにしていかないといけないと思っています。
――1歩ずつ、階段を上ってきたサッカー人生。その視線はすでに、4年後に向かっている。
田中:目指しているのは、自分が試合に出ていたら勝てる選手。貢献度も安心感という意味でもです。4年後は、年齢的にも一番いい時期になると思うので、そこに向かっていく4年間は楽しみです。この悔しい気持ちが、次の4年間、頑張るためのものになるだろうから。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

#記事 #15 #田中碧




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