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(改訂版b)マインド・コントロールのひとつの「型」、人を騙す手法のグルーミング。-性的行為などを目的としたグルーミング、エントラップメント、ラブボミングを仕掛けやすい風土(雰囲気)の国、日本。被害認識を妨げ、組織は被害を揉み消し、握り潰す。そして、サディスティックな性的行為が、被害者の回復を困難にする-

※現在、(改訂版b)として、改訂作業をしています。


* この『レポート』では、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けた性暴力(性犯罪)を説明するにあたり、その特質上、“ターゲット(狙いを定めた者/獲物)”、“捕食者”など、被害を受けられた方には違和感、嫌悪感を覚える可能性のある表現をしています。1
 また、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けた関係性での「性的サディズム」にもとづく性的行為を示したり、性的虐待・性暴力被害後の「再演(投影性同一視)」「性的自傷」を説明したりする中で、性暴力被害者にとって、幾つかトラウマ反応をもたらすトリガー(ひきがね/きっかけ)となる得る表現があります。2
 加えて、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」は、マインド・コントロール手法のひとつの「型」のひとつであり、人が、人の心をコントロール(管理)する“手口(方法)”をどのように学び、身につけるのかという視点を立つと、第1に、a)国として国民に対し実施した『教育勅語』にもとづく思想・イデオロギー教育の役割を担った「道徳教育」、b)満州事変(日中戦争)・太平洋戦争時、あるべき家庭教育を国が定め、国家が家庭での教育を統制する」と定めた『戦時家庭教育指導要綱』にもとづく「皇民化教育」を実施した行為、第2に、第1のa)b)を進めるために重要な役割を担った「家制度」の家父長に与えた親権行為として『子どもを懲戒する権利(民法822条)』、つまり、親(家父長)の子どもに対する「懲戒」、「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」を加える行為が、その“解”となり、第1のb)の満州事変(日中戦争)・太平洋戦争に、日清・日露戦争、第1次世界大戦に従軍した兵士(帰還兵)と第2は、性的行為を目的に「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛ける人(加害者)の属性となり得る「パラフィリア」としての「性的興奮のパターンの確立」に深いつながりがあります。3
 その“解”に加え、第1のb)と第2が「パラフィリア」としての「性的興奮のパターンの確立」をもたらすことは、日本が、世界に類を見ない児童虐待大国、痴漢大国、レイプ大国、管理売春(性的搾取)大国、児童ポルノ大国、特殊詐欺大国であることとつながっています。4
 この両者を繋ぐのが、マインド・コントロール手法のひとつの「型」としての「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」ある(3文の第1と第2で、その“手口(手法)”を学び、身につける)ことから、第1と第2の政策は、明治以降の日本の法律、日本の政治にもとづきます。5
 日本国民が、新興宗教・カルト教団、スピリチュアル(霊的・精神世界)勧誘に対し無警戒で、脆弱な理由でもある日本の政(まつりごと)は、古くから農耕・信仰(スピリチュアル(霊的・精神世界))と深くつながり、新政府軍(明治政府)が、「現人神(この世に人間の姿で現れた神としての「天皇」)」のもとで国造り(『大日本国憲法』と『教育勅語』の制定』)を進め、権力構造を構築したことを踏まえると、明治以降の日本社会が、新興宗教・カルト教団と“同質構造”であり、その要因は、日本政府、日本の政治にあることを説明する必要があると考えます。6
 つまり、この『レポート』では、かなりのページを日本社会の特性と深くかかわる政治的な話に費やしています。7
 そして、多くのページを費やしている『はじめに。』は、この『レポート』の“総論”に位置づけています。8
 
* この『レポート』内の『別紙1b』『別紙2b』『別紙3b』『別紙4b』という記述は、『別紙1b DV/性暴力被害者の私にかかわるすべての人たちに7つのお願い+α』、『別紙2b DV・虐待・性暴力被害。慢性反復的トラウマ体験に起因する後遺症』、『別紙3 DV行為による恐怖。その支配の構造と仕組みと加害者の属性と特性』、『別紙4b「DV・虐待行為としての暴力」の規定と適用される法律』のことで、DV(デートDV)/虐待/性暴力被害を立証するレポート『被害の事実と後遺症、その経過』の記述を補完する解説書です。9


はじめに。1
 日本では、数多くの表面化していない暗数の性的虐待(近親姦)、レイプが存在するが、把握できている調査結果を踏まえると、『別紙1b』の「3-(1)13人に1人、8人に1人」の9文で示しているように、性交を伴うレイプの74.4%は、顔見知り、つまり、よく知っている人による犯行である。2
 顔見知り、よく知っている人の「内訳」は、父母・祖父母・叔父叔母・いとこが11.9%、配偶者・元配偶者が9.4%、そして、友人や知人(学校の教職員、先輩、同級生、クラブやサークル指導者や仲間、職場の上司や先輩、同僚、取引先の関係者)が53.1%となっている(同10文)。3
 この「性交を伴うレイプの74.4%を占める顔見知り、つまり、よく知っている人による犯行(レイプドラッグを混入し意識を失わせたり、飲酒させ泥酔させたりする行為を含む)」の“手口(手法)”のほとんどは、ⅰ)の親しさを装い、手懐け、断り難い状況をつくりだす「グルーミング(grooming)」、ⅱ)ことばでの威圧や借りをつくらせるなどの圧力(パワーハラスメントなど)により、不平等・非対等な関係を巧みに築き、抗(あらが)えない状況に追い込んで、性行為などに持っていく罠を仕掛ける「エントラップメント(entrapment)」、ⅲ)短期間に猛烈なアプローチ(過剰で、頻繁な愛情表現、甘く優しいことば、プレゼントなど)をし、まるで、相手が自分のことを「ひとめぼれ」したように見せかけ、恋愛関係(状況)に持って行く「ラブボミング(love bombing)」である。4
 重要なことは、このⅰ)グルーミング、ⅱ)エントラップメント、ⅲ)ラブボミングという“手口(手法)”は、マインド・コントロール手法のひとつの「型」ということである。5
 つまり、“ある目的”を達成するために、狙いを定めた人に嘘(偽り・架空のつくり話など)をついて騙したり、権威を利用したりして、「心(感情/気持ち)をコントロール(管理、支配)」する“手口(手法)”であることから、“ある目的”は、性的行為(性暴力/性犯罪)に限られたものではなく、“ある目的”は多岐にわたる。6
 しかも、「2-⑥「感受性訓練」の「型」と「手法」」で示しているように、心理学、行動科学の応用として、ア)「マーケティング」としての販売・販売促進方法、イ)「目標管理」、「CDP(キャリアデベロップメントプログラム/Career Development Program)」の人事評価・能力開発の運用方法、ウ)リーダーのマネジメント手法(モチベーションアップ)に活用される。7
 心理学、行動科学を“悪用”すると、マインド・コントロール手法のひとつの「型」である「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」の“手口(手法)”となり得る。8
 つまり、マインド・コントロール手法のひとつの「型」である「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」の“手口(手法)”は、日常的に接したり、おこなったりしているアプローチであることから、その特徴は、仕掛ける者(加害者)の“悪意”を認識できない(見破ることができない)と、抗(あらが)うことは困難ということである。9
 しかも、日本政府は、126年間、親が子どもに対し「懲戒する」こと、つまり、「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)を加える」ことを認め、全体主義的な学校教育は、子どもをコントロール(管理・支配)する手法であり、仕掛けであることから、日本で生まれ、日本の学校教育に慣れていると、マインド・コントロール手法のひとつの「型」である「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」に対し、無警戒で、無防備になる。10
 日本の学校教育は、世界的に稀で、独得な集団主義である。11
 その独特な集団主義の日本の学校教育で重視するのは、学ぶ楽しさではなく、生徒らしい生徒になること、心をひとつにし、一致団結することである。12
 教師が、児童を「生徒らしい生徒にする」、「心をひとつにし、一致団結させる」には、他国から軍隊的と指摘されるように、上下関係、支配と従属関係のもとで、コントロール(管理/指導・命令)する必要がある。13
 つまり、日本の学校教育・指導方法は、マインド・コントロール手法のひとつの「型」としての「エントラップメントそのもの」であることから、学校や職場、取引先などのコミュニティにおける「ハラスメント」、そして、「エントラップメント」に抗(あらが)うことは困難である。14
 そして、所属するコミュニティにおける「性行為を伴うセクシュアルハラスメントの被害」は、この「はじめに。」の4文中段のⅱ)の「エントラップメント」を仕掛けた性暴力(性犯罪)に該当し、日本では、この性暴力(性犯罪)に対し、「対価型セクシュアルハラスメント」と表現し、阪神淡路大震災や東日本大震災などの被災地、避難所で多発する性暴力も「対価型性暴力」と表現する。15
 「対価型セクシュアルハラスメント」は、「労働者の意に反する性的な言動に対して、拒否や抵抗をしたことにより、その労働者が解雇、降格、減給される、労働契約の更新が拒否される、昇進・昇格の対象から除外される、客観的に見て不利益な配置転換をされるなどの不利益を受けること」と“規定”しているが、名称の「対価」の意味は、「他人に財産・労力などを提供した報酬として受けとる財産上の利益を得ること」である。16
 つまり、「不利益を受ける」との“規定”に対し、真逆の「利益を得る」を意味する“対価”と表現している。17
 そのため、「不利益」を受けた被害者が、「対価を得ている(利益を得ている/徳としている)」との解釈(認識)をもたらし、この解釈(認識)は、被害者非難(2次加害)の要因となっている。18
 被災し、不便を強いられる生活環境で、シングルマザー、ひとり暮らしの女性に加え、配偶者の夫や親やきょうだいなどを失くしたり、家や財産を失ったりした女性に狙いを定め(ターゲットにし)、「食料や生活物資を与える」、「被災した家の片づけ、行方不明の家族を探すのを手伝う」などといい、接近したり、女性が人前で声をあげることに対し「恥ずかしいこと」と教え込まれている日本では、満員の電車やバスなどでの痴漢被害と同様に、大声で「助けて!」とあげ難い“避難所”という状況を利用したりして、性的行為を強要したり、同意ない性行為(レイプ)に至ったりする卑劣な性暴力(性犯罪)に対し、“対価”と表現することは看過できない。19
 しかも、加害行為に至る男性は、避難所のリーダーであったり、ボランティアにきている人であったり、知人であったりするなど、この「はじめに。」の2文、同3文で示している「顔見知り」「よく知っている人」で、しかも、「助けてもらえて有難い」と不便な生活であってもがまんし、耐えることを当然と考える人の多い日本の“避難所”では、ステレオタイプ的に、「同じ被災者で支え合い、助け合っているときに性暴力(性被害)は起きるわけがない」と認識し、被害を訴えたとき、「いま、同じ被災者同士で支え合い、助け合っているときに、被害を口にすべきでない」、「多数の行方不明者がいて、猶予ない捜索が続いている状況で、被害にかかわっている暇はない(後回し)」と被害を握り潰し、黙殺する力が働く(風土(雰囲気)がある)。20
 被害を受けた女性が、声をあげ難いだけでなく、被害後、「私は、性行為に応じて“対価(見返り)”を得た」と苦しめると思いを馳せることができる人なら、“対価(見返り)”などと表現できないはずだ。21
 しかし、信じられないことに、パワーハラスメント・セクシュアルハラスメント、性暴力の専門家と称する人たちが、被害者にとって不利益となり得る「対価型セクシュアルハラスメント」「対価型性暴力」という表現を平然と使い続けている。22


 「ステレオタイプ」とは、多くの人に浸透している固定観念やイメージ、思い込み、概念、思考の型のことであり、人の「男らしさ」「女らしさ」などの認知は、生まれ育つ家庭環境、コミュニティ、国や地域で、就学前の3-5歳までにつくられ、「ステレオタイプ」的な固定観念、イメージ、思い込みとなる。23
 子どもは、自分が育つ家庭、国や地域、自分が所属する保育園や幼稚園などが、どのような価値観でものごとを見たり、捉えたり、考えたり、行動したりするかを見たり、聞いたり、話したりして、自分がその価値観に適応できているかを常に確認しながら、「ステレオタイプ」をつくりあげていく。24
 「性差の固定観念」をもたらすのは、いうまでもなく、子どもが生まれ育つ家庭環境、コミュニティ、国や地域で、ここに、強い影響を及ぼすのが、絵本、童話(昔話)、テレビなどのメディア(番組の構成、内容)、ドラマ、映画、ゲーム、アニメ、漫画、書籍、ビデオ映像、学校園での授業や行事(コミュニティを含む)などが加わる。25
 生活する国の「ジェンダーバランスの不均衡」は、その国の新聞社や雑誌社、テレビ会社などが注目するテーマに大きな影響を及ぼし、とりあげる記事や番組の内容に明確に表れ、その国の人々のステレオタイプを構築し、人々の価値観を醸成する重大な役割を果たしている。26
 そして、権力に利用され、意図的に、自由にコントロールできるという側面を持ち、日本はこの傾向が顕著に高い。27
 生活する国で、無意識下で(自然に)構築される「ステレオタイプ」としてのジェンダー観は、人生に多大な影響を及ぼす。28
 例えば、日本で、「父親がサラリーマン(公務員を含む)で、母親が専業主婦(第3号被保険者)」の家庭で、第1子の長女として生まれた女児に、3年後、第2子の長男(弟)ができると、跡継ぎでない女児を生んだ母と長女の自身に対する反応と異なり、父母、祖父母、親族が「家の跡継ぎができた。家も安泰」と大喜びし、贔屓(差別)されるのを見たり、聞いたり、察したりすることで、男性でなく女性である自己の存在価値まで歪め、自己の存在の否定につながったり、自身の女性性の受け入れにまで影響を及ぼし、女性性の否定につながったりする。29
 この問題は、「性的マイノリティ(性的少数者)」を表す総称である「LGBTQ」と深くかかわる。30
 「LGBTQ」とは、Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー/性自認が出生時に割りあてられた性別とは異なる人(性同一性障害))、QueerやQuestionning(クイアやクエスチョニング)の頭文字をとったことばであるが、医学的な「性同一性障害(T)」と「性的マイノリティ(性的少数者)」という括りで表現する社会学的アプローチ(差別・排除という人権問題)の「LGBTQ」は、一括りにして論じることには問題がある。31
 「性同一性(gender identity)」は「性自認」とも表現され、自分自身のジェンダー(性)について感覚として深く経験したアイデンティティのこと、つまり、自分の性別をどのように認識しているかを示す概念であり、「性的嗜好(sexual preference)」は、人間の性的行動において、なにに性的に惹かれるのかという好みのことで、個人の自発的な選択を示唆する表現である。32
 つまり、T(性同一性障害)は、「性同一性」「性自認」の範疇、「LGBQ」は「性的嗜好」の範疇である。33
 「アイデンティティ」とは、自分が自分であること、さらにはそうした自分が、他者や社会から認められているという感覚のことで、日本では、「自我同一性」、「存在証明」とも訳され、a)差別・排除、b)DV(デートDV)、c)児童虐待(面前DVを含む)、d)性暴力、e)いじめ、f)(教師や指導者などによる)体罰、g)ハラスメントなどの暴力被害(人権侵害被害)は、この「アイデンティティ」を破壊する。34
 「パラフィリア」としての「性的興奮のパターンの確立」が、思春期前期(10-12歳)前の6-8歳を踏まえると、乳児-8歳前の「アイデンティティ」を脅かしたり、破壊したりする可能性の高い暴力被害(人権侵害被害)は、g)を除く、a)b)c)d)e)f)で、日本社会は、子どもの「アイデンティティ」、つまり、「性同一性」「性自認」を脅かしたり、破壊したりする危険に満ちている、つまり、日本社会は、子どもの「性同一性(性自認)」に深刻な影響をもたらす危険に満ち溢れている。35
 “長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被害体験”という意味では、a)のコミュニティとしての差別・排除、c)の家庭内での児童虐待(面前DVを含む)が、もっとも「アイデンティティ」を脅かしたり、破壊したりする。36
 この「アイデンティティ」が破壊され、「性同一性(性自認)」に揺らぎが生じた結果が、「性的嗜好」となる。37
 つまり、「性同一性(性自認)」は出生時に確定していて、「性的嗜好」は出生後に「アイデンティティ」が脅かされたり、破壊されたりした体験が影響している、つまり、後天的である。38
 したがって、社会学的アプローチとしての「性的マイノリティ(性的少数者)」として、「性同一性(性自認)」と「性的嗜好」を一括りとして論じるのは無理がある。39
 そして、未手術な「性同一性障害」の人と、出生後に「アイデンティティ」が脅かされたり、破壊されたりした体験にもとづき、「性的嗜好」ではなく、「性自認(性同一性)」としてのトランスジェンダーを称する人を「性的マイノリティ(性的少数者)」として同一視、一括りとして論じるのは大きな問題がある。40
 例えば、男性の「女装癖」、女性の「男装癖」は、「性的嗜好」であるが、「性自認(性同一性)」としてのトランスジェンダーとして論じることは問題である。41
 「性的嗜好」としての「女装癖」「男装癖」は後天性で、「パラフィリア」としての「異性装障害(Transvestic Disorder)」を意味することから、メディアや専門家と称する人たちは、「性自認(性同一性)」としてのトランスジェンダー(T)として論じるべきではない。42
 「異性装障害」の人の多くは、異性の服装を着したり、着している状況を想像したりすることに対し、ア)性的に興奮し、イ)異性装を止められないことに苦痛を覚えているが、「1.身繕い(グルーミング)とアタッチメント、βエルドルフィンの働き」で示しているように、「苦痛」を覚えると高い脳内麻薬「βエルドルフィン」が分泌されることから、依存(中毒)性が高い。43
 そして、「性同一性障害」は、受精後の脳の発達プロセスの「脳のオス化(男性化)」と深く関係している。44
 受精後の脳とからだはすべて女性(メス)で、その後、性器がオス化(男性化)される胎児とメス(女性)のまま留まるのかに別れる。45
 性器がオス化(男性化)されると、男性ホルモンの分泌が活発になり、その男性ホルモンの“分泌量”の多さにより、脳がオス化(男性化)するか、メス(女性)のままなのかが決まる。46
 少し医学的な説明をする。47
 「睾丸」からは男性ホルモンが、「卵巣」からは女性ホルモンがより多く生産し、同時に、「睾丸」から少量の女性ホルモンが、「卵巣」から少量の男性ホルモンが生産される。48
 「副腎」は、他のホルモン(コルチゾールなど)を分泌する一方で、より少量の性ホルモンを生産し、卵巣や睾丸がつくる性ホルモンを補う。49
 男性ホルモン「テストステロン」は、「性分化」に重要な役割を果たす。50
 性別は、「男性用」と「女性用」の2種類の性染色体が「キメ手」として、二者択一で選ばれたところからはじまり、その後、男と女をつくりあげる何段階もの要素があり、それぞれの段階で、男になるか女になるかの選択が行われ、それが積み重なってひとりの人ができあがる。51
 全体としてどちらの比重が大きいかで、総合的に見て、男女の別が生じる。52
 例えば、女性型の赤のベースに、男性ホルモン「テストステロン」の青がプラスされていくと考えると、青が少ないと赤地が多く残され、青が多くなると紫がかり、もっと多くなれると真っ青になる。53
 つまり、「赤(女性)→紫→青(男性)」となり、程度の差はあるけれども、誰もが紫がかったニュアンスが含まれた部分を持っていて、そのウエイトがどちらを向いているかで、出生後、「性同一」が異なる、つまり、「性自認」に違いが生じる。54
 これが、「性同一性障害」を発症するメカニズムである。55
 イギリスのエセックス大学の同研究チームのチュースデー・ワッツ博士は、「性的指向は子宮内で決定され、浴びる男性ホルモンの量やホルモンに各自のからだがどう反応するかで異なることが研究からうかがえる。」、「より多くのテストステロンに触れた人は、バイセクシュアル、または、ホモセクシュアルになる可能性が高い。」と述べている。58
 「ホモセクシュアル(homosexual)」は、日本では男色(ゲイ)を指してきたが、本来、男性、女性それぞれの同性愛の総称である。59
 母親と胎盤でつながっている胎児は、レポート『妊娠時のDV被害。-胎児は濃度の高いコルチゾールを曝露し、中枢神経系の機能障害として先天性の発達障害、出生後の精神疾患を発症-』で詳述しているように、薬、アルコール、カフェイン、ニコチン(ニコチン)などの化学物質を分解したり、体外に排出したり仕組みが整っておらず、しかも、胎児-出生後6ヶ月は、血液脳関門が未成熟なことから、上記化学物質の影響を受けたり、コルチゾールに曝露したりすることから、中枢神経系(脳と脊髄)の発達・成長を妨げられるリスクを抱えている。60
 「テストステロン」の分泌は、胎生16日より開始され胎生19日にピークに達し、出生前後の期間(周生期)に、テストステロンに曝露した脳はオス型に分化し、テストステロンが作用しなかった脳はメス型に分化するが、芳香族炭化水素に属する有機化合物で、ベンゼンの水素原子のひとつをメチル基で置換した構造を持ち、シックハウス症候群や化学物質過敏症の原因物質のひとつで、脳機能障害や男性機能にかかわるホルモン分泌低下をひき起こす「トルエン(toluene)」に曝露すると、精巣機能の低下をひき起こし、テストステロン濃度の減少をもたらす。61
 つまり、胎児が「トルエン」に曝露すると、性分化に大きな影響が及ぶ。62
 胎児期に「コルチゾール」、「トルエン」などに曝露し、「テストステロン」の分泌量が低下すると、性分化が損なわれ、出生後、「性同一性障害」を発症する高いリスクがあり、「LGBQ」の“性的嗜好”は、「3-➃被虐待体験と「パラフィリア」、「性的興奮のパターン」の確立」で示している出生後の被虐待体験などの要因が深くかかわる。63
 そして、生まれ育つ家庭環境、コミュニティ、国や地域の「ジェンダーバランスの不均衡」は、“性差の固定観念”はいうまでもなく、後天的な男性性、女性性を決定するパワーを持つ。64
 親や社会の子どもへの一方的な抑圧(コントロール(管理))が、多くの精神的な障害に深くかかわり、その多くは遺伝ではなく、後天的につくられ、それは、性自認にも及ぶ。65
 ここでは、「性自認」に及ぶ例として、タイの「カトゥーイ(ニューハーフ)」をとりあげる。66
 タイの「カトゥーイ(ニューハーフ)」で学べるのは、親に生まれた性を否定(拒絶)され、育つダメージの深刻さである。67
 タイの農村部では、「貧困なうえに高く売れるようにと、男児を女児として育てることが少なくなかった」ことが、仏教徒の国に、先天的な「性同一性障害」とは異なる多くの「カトゥーイ」を生みだした。68
 「高く子ども売るために、生まれてきた男児を女児として育てる」という親の暴挙(意志)は、男児の心(精神)も、後天的に女性化させるだけの強烈な破壊力を持つ。69
 この後天的(強制的)に、親から女性化させられた「カトゥーイ」の多くは、20歳前に性別適合手術(陰茎反転法など)を受け、長期的に大量のホルモン剤を服用する。70
 性別適合手術を受け、大量のホルモン剤を服用することになった「カトゥーイ」は、25-26歳を超えると40-50歳ぐらいの一般人に見間違うほど老けて見えるほど、からだにダメージが表れる。71
 タイの平均寿命(2016年(平成28年))が75.5歳(男性71.8歳、女性79.3歳)である一方で、「カトゥーイ」の平均寿命は35-40歳といわれる。72
 つまり、生まれてきた男児に対し、親が、“女性として生きることを強制する”行為は、その男児の性そのものを破壊し、大量のホルモン剤の投与はからだを蝕み、寿命をも奪う深刻な虐待行為である。73
 この「生まれてきた男児に対し、親が、“女性として生きることを強制する”アプローチ」は、いうまでもなく、マインド・コントロール手法である。74
 つまり、マインド・コントロール手法のひとつの「型」としての「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」の手口(方法)には、想像を絶する影響力があることを理解する必要がある。75
 自身の内面と向き合う「精神世界」では、間違ったやり方で踏み込むと怖い側面があり、新興宗教・カルト教団では、スピリチュアル(霊的・精神世界)の勧誘・傾倒のプロセスでは、“怖い側面”を悪用し、マインド・コントロールを仕掛ける。76
 例えば、仏教の「坐禅」には、線香が燃え尽きる45分間、(丹田)呼吸に集中する曹洞宗の“坐禅”、師と弟子で問答を行う臨済宗の“坐禅”があり、後者では、「自らを深く思考する(内観)ことから、現実との区別ができ難くなるリスクがある」ことから、必ず、ひとりでは行わず、師が立ち合う。77
 「警策」と呼ばれる棒で肩を叩くのは、「師が弟子に内観から現実(こっちの世界)に戻ってきなさい!」と合図を送る行為である。78
 人の脳には、なにかを深く思考(没頭)したり、なにかにのめり込んだりすると、別人格をつくるように、別現実の世界をつくり、その別世界に入り込むとそこからでられ難くなったり、現実のもとの世界と区別でき難くなったりする特性がある。79
 新興宗教・カルト教団では、スピリチュアル(霊的・精神世界)では、「師(教祖、指導者)は、弟子(信者、勧誘者)に対し、内観から戻ってこないように管理(コントロール)」する。80
 「カトゥーイ」をつくる親も、内観(女性)から現実(男性)に戻ってこないように管理(コントロール)する。81


 日本には、15文-22文で示した“対価型”のように、意図的に、被害者が被害を訴え難くする(口封じにつながる)「不適切な表現(造語)」が数多く存在し、また、レポート『(改訂版)主体は親で子どもは客体と位置づける「共同親権制度改正案」-「子の意見の尊重(子の意思表明権)」の不記載は、「子の最善の利益」を脅かす-』で示しているように、a)昭和60年(1985年)、国際連合(以下、国連)加盟国の日本は、期限ぎりぎりで『女性差別撤廃条約(女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約)』を批准・締結した日本政府は、同年5月、『男女雇用機会均等法』の制定に追い込まれたが、極右・超保守政権は、「女性は家に」との基本姿勢として、『第3号被保険者制度(サラリーマン・公務員の妻で、国民年金を払わなくても受給できるが、結婚後、専業主婦であり続ける必要がある(専業主婦化政策))』を導入し、『男女雇用機会均等法』を無力化したり、b)国連の「女性差別撤廃委員会(女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(以下、女性差別撤廃条約)の採択により、批准・締結国が同条約に準じ、法の制定、法の改正にとり組んでいるかを監視する機関)」からの是正勧告に対し、その都度、『配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(以下、配偶者暴力防止法)』を「改正」し、対応したように見せているが、実際は、同法の適用を限定し、同法に準じた「保護命令の発令数」を半数に減少させたりしている。82
 「保護命令の処理数(認容(保護命令発令)、却下、取下げなど)」は、平成20年(2008年)にはじめて3千件(3,143件)を超え、平成27年(2015年)までの8年間は3千件前後で推移していたが、「改正新法(平成25年(2013年)6月16日)」として成立した『配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(配偶者暴力防止法)』が、平成26年(2014年)1月3日に施行され、平成28年(2016年)12月13日に『共同養育支援法(父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等の促進に関する法律案)』が、「親子断絶防止議員連盟(現.共同養育支援議員連盟)」の自由民主党総会で承認されると急激に減少に転じた。83
 平成28年(2016年)が2,632件(前年比88.62%)、平成29年(2017年)が2,293件(前年比87.12%)、平成30年(2018年)が2,177件(前年比94.94%)、平成31年/令和元年(2019)年が1,998件(前年比91.78%)、令和2年(2020年)が1,855件(前年比92.84%)、令和3年(2021年)が1,732件(前年比93.37%)、令和4年(2022年)が1,453件(前年比83.89%)と、毎年1割前後、減少している。84
 この令和4年(2022年)の1,453件は、平成27年(2015年)の2,970件の48.92%に過ぎず、8年間で、保護命令の申立て数は、実に1/2に減少している。85
 しかも、直近の3年間の「保護命令」の申立てに対し、「保護命令」が発令された件数は、令和2年(2020年)が1,465件(78.96%)、令和3年(2021年)が1,335件(77.08%)、令和4年(2022年)が1,111件(76.46%)と申立てた1/4は発令されていない。86
 この令和4年(2022年)の1,111件は、「保護命令」の発令数がもっとも多かった平成26年(2014年)の2,528件の43.95%である。87
 このことが意味するのは、ナショナリズムで復古主義、極右・超保守の日本政府は、「同法にもとづく保護命令を発令し難くする(DV被害者の身の安全を保障(担保)しない)ため、「同法の無力化」を目論んで(狙って)、法改正(新法制定)した」という事実である。88
 つまり、日本政府は、本位に沿わない法の制定、法の改正にあたっては、意図的に、致命的な欠陥のある不備な状態で国会を通し、成立させる。89
 にもかかわらず、日本では、専門家と称する人やフェミニストたちは、まるで日本政府の意向を汲んだように、この深刻な問題を指摘したり、声をあげたりしない。90
 つまり、日本の社会システム(法制度を含む)は、ナショナリズムで復古主義、極右・超保守の日本政府の意向、政治姿勢が顕著に反映され、問題があっても専門家は指摘することなく、見て見ぬふりで、しかも、その状況に国民は無関心である。91


 「超保守」とは、自国のことを極端に優れていると考えている人たちのことで、超保守派、右翼、極右、国粋主義者、タカ派、排外主義者、右派と表現される。92
 「極右(far right, extreme right)」、「急進右翼(radical right)」、「超右翼(ultra-right)」とは、過激な保守主義、超国家主義、権威主義の傾向がある政治思想で、民族主義的傾向も示し、「極右」は、ファシズム、ナチズム、ファランギズムの経験を表現するために使われ、「極右政治」は、これまで、集団に対する弾圧、政治暴力、同化の強制、民族浄化、大量虐殺をひき起こしてきた。93
 現代的な定義には、ネオ・ファシズム、ネオナチ、オルタナ右翼、人種至上主義、その他の権威主義、超国家主義、排外主義、外国人嫌悪、神権主義、人種差別主義、同性愛嫌悪、トランスフォビア、反動的な見解を特徴とするイデオロギーや組織が含まれる。94
 「保守」とは、「いままでの伝統や文化や考え方、社会を維持していく」、「昔からのやり方に従うのがあたり前だ!」との考えで、その考えに従い行動する人を「保守派」といい、同じ「保守」であっても、「人権」を背景にした「個人」の意思を尊重する他国(世界の圧倒的多数の国々)の「保守」と、「(儒教思想にもとづく)道徳観」を背景にした「家」「集団(組織)」の意思を尊重する日本の「保守」はまったく異なる。95
 同じ「保守」であっても、日本の「保守」は世界的に異質で、独得といえる。96
 「左派(左翼)」は、通常、より平等な社会を目指すための社会変革を支持する人たち(層)のことであるが、太平洋戦争敗戦後の日本では、地政学上、「安保闘争(左翼や新左翼の運動家が参加した反政府・反米運動)」を踏まえ、「資本主義」と「共産主義」「社会主義」の対立構図であったことから、日本には、「保守」と「左派」の構図はあるが、「保守」と正当な「リベラル」の“構図”は存在しない。97
 “これまで”の「(儒教思想にもとづく)道徳観」を背景にした「家」「集団(組織)」の意思を尊重する「保守」に対し、“これから”は『人権法』の“柱石”である『世界人権宣言』に沿い、「人権」を背景にした「個人」の意思を尊重する社会に変えて行こうと考え、行動する人が、「リベラル」である。98
 つまり、「リベラル」は、「人権」を前提に、「よい考えがあれば、たとえ急でも、古い昔からのやり方は捨てて、一からやり直そう」と考える人たちを指す。99
 誤認している人が少なくないが、「フェミニスト=男性嫌悪」ではない。100
 「フェニミスト」とは、男女の区別なく、「女性の権利を認め、男女平等を志向する人」のことで、男性・女性どちらか一方の権利を主張するものではない。101
 「特定の価値観を排除する」ことはしないが、その“前提”は、「男女平等」、つまり、「人権」にもとづくので、「特定の価値観」が男女平等ではない、人権に反する価値観に対し、同意するものでない。102
 「家制度(家父長制)」の浸透には、「儒教思想(男尊女卑)」と一般市民が寺請制度(檀家)の中で説法として慣れ親しんだ「仏教」の教えに加え、「愛国心醸成」の意図が込められた『道徳教育(思想・イデオロギー教育)』が不可欠で、その『道徳教育』はいまに至るまで続いている。103
 そのため、日本では、『世界人権宣言』にもとづくグローバルスタンダードな「人権」とは真逆に位置する価値観、つまり、正当な「リベラル」は育ち難い環境にある。104
 同様に、日本の「フェニミスト」には、「人権」とは真逆の価値観である儒教思想にもとづく道徳観に縛られている人が一定数存在し、グローバルスタンダードな『世界人権宣言』の第1条前段「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。」に反する「フェニミストといえないフェニミスト」が多数存在する。105
 太平洋戦争(日本の侵略戦争)に敗戦から79年、日本の政治は、ナショナリズムで復古主義、極右・超保守の政党、政治家が担い続けている(令和6年(2024年)10月15日現在)。106
 日本国民(若者)が、日本政府に「No!」の声をあげたのは1度だけである。107
 それは、いまから64年前の昭和35年(1960年)5月、安倍晋三元首相の母方の祖父である岸信介元首相が、『日米安保条約改定案』を強行採決したことで過激になった「大規模デモ運動(安保闘争)」である。108
 昭和47年(1972年)の「連合赤軍集団リンチ事件」を経て起こした「あさま山荘立てこもり事件」で、ほとんどの若者は学生運動から退き、社会問題と距離を置き、政治に無関心になっていった(令和6年(2024年)10月15日現在)。109
 それは、日本の若者(当時18-28歳は、現在70-80歳)は、「三無主義(無気力、無関心、無責任)」、「ノンポリ学生(ノンポリティカル(nonpolitical)の略」、「ことなかれ主義」などの造語ができるほどであった。110
 日本で社会運動がなくなったのは、「大規模デモ運動(安保闘争)」「学生運動」に参加していた若者の価値観は、儒教思想(男尊女卑)にもとづく「家制度(家父長制)」を支持するナショナリストで復古主義、保守的であったからで、1970年代、ベトナム戦争が泥沼化し、アメリカではじまった反戦運動、ウーマンリブ運動(女性解放運動)は欧州諸国で活発化したが、日本では、一部の女性による市民活動に留まった。111
 このとき、日本のメディアは、「ウーマンリブ運動(女性解放運動)」に参加する女性たちを、「ヒステリック」などと揶揄し、侮蔑・卑下し、日本の人たちの圧倒的多数は、そのメディアに協調した。112
 「ナショナリスト」とは、「ナショナリズム」を信奉する者を指す。113
 「ナショナリズム」とは、自己の所属する民族のもと形成する政治思想や運動を指す用語で、国家主義、国民主義、国粋主義、国益主義、民族主義とも呼ばれる。114
 「ナショナリズム」の民族主義と「超保守」の自国のことを極端に優れているとの認識が結びつくと、自分の人種が最上であると考え、他の人種を見下し、公平に扱おうとしない「レイシスト(人種差別主義者)」として、苛烈な「ヘイト(憎悪)スピ-チ」に至る。115
 さらに、2015年(平成27年)の研究では、「性差別的な態度が強い男性は、男女の平等を促進するメッセージを読んだあと、女性に対してさらに攻撃的になった」ことが示されている。116
 つまり、性的な攻撃性を持つ男性は、男女平等や暴力防止のメッセージに逆らう行動をとる傾向が高くなる。117
 その理由として、性差別的な態度が強い男性、性的な攻撃性を持つ男性は、「自分には望む女性と性交渉をする権利があると認識している」ことをあげられる。118
 女性に向けられるこの性差別がいきつくと、女性を狙った殺人「フェミサイド」になる。119
 フェミサイドとは、「女性であることを理由に、男性が女性を殺害する」ことを指す。120
 その「フェミサイド」の背後には、「ミソジニー」が存在する。121
 ミソジニーとは、「女性に対する憎悪、嫌悪、差別意識」のことである。122
 家制度(家父長制)を背景にした家族観に馴染み、内助の功、良妻賢母を求める保守的な価値観が色濃く残る日本社会には、自分がミソジニーであることを隠したり、女性を臭いものとして蓋をしたがったりする男性が数多く存在する。123
 この人たちは、国連加盟国として、日本が、『女性差別撤廃条約』、『子どもの権利条約』にもとづき制定を余儀なくされた『児童虐待防止法』、『配偶者暴力防止法』などで、「女性と子どもが獲得してきた権利」を疎ましく、鬱陶しく、忌々しく思っている人たちと合致する。124
 アメリカでは「インセル」ということばが生まれたが、このことばは「不本意な禁欲主義者」を意味し、「俺が、恋愛やセックスをできないのは女が悪い」と女性を逆恨みして、憎悪を募らせる“一部”の男性を指す。125
 このインセルと呼ばれる“一部”の男性は、「男には、恋愛やセックスをする権利がある」、「女にケアされて性欲を満たされる権利がある」、「その権利を不当に奪われている」という強い被害者意識を持っている。126
 この被害者意識は、「女が悪い!」と女性に対する責任転嫁、逆恨みにつながり、それが、女性に対する暴力行為に表れる。127
 アダルトビデオ(AV)で、“わからせ”、つまり、「調子に乗った女、生意気な女、いうことをきかない女は、懲罰として、レイプされてあたり前の存在」である“前提”で、「男の凄さをわからせられる、屈服させられることに女は興奮し、喜び、期待している」という“演出”があるが、この背景にあるのは、『別紙1 DV/性暴力被害者の私にかかわるすべての人たちに7つのお願い+α』の「5.レイプ神話」で示している「レイプ神話」で、日本では、この「レイプ神話」を信じている人たちが少なくない。128
 いま、「極右」の動きがざわざわしている欧州諸国の人たちは、ナチスドイツが招いた侵略戦争・ユダヤ人の大量虐殺の反省から「ナショナリズム」「極右」「超保守」の政党・政治家の台頭には眼を光らせ、「これ以上は危険だ!」というラインが近づくと、抑制する力が働くが、太平洋戦争(日本の侵略戦争)に敗戦後も、「ナショナリズム」「極右」「超保守」の政党・政治家が政権を担い続けている日本は極めて異質で、極めて危険な国家であるが、その抑止となっているのが、『日本国憲法』の「9条(戦争放棄・戦力不保持・交戦権否認)」の存在である。129
 しかし、その日本は、安倍晋三政権以降、「専守防衛原則」を捨て、「集団的自衛権」を行使し、「敵基地攻撃能力」を具現化し、“再軍備”と武器輸出で懐を潤す道を歩み、『日本国憲法』を改正し、戦前のナチスドイツの『全権委任法』、戦前の大日本帝国の『国家総動員法』に匹敵する「緊急事態条項」の新設を目論んでいる。130


 そこで、この『レポート』で伝えたいことは、主に、3つである。131

 第1は、マインド・コントロール手法のひとつの「型」である「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」は、人を騙し、人を欺き、人の弱みにつけ込んだり、権威を利用したりして、人の金品を奪ったり、性的関係を強いたりする目的(狙い)で行使するが、この“テーマ”は、単なる性暴力、ハラスメント、デートDV(デートDV)、いじめ、詐欺などの被害、あるいは、加害という当事者(個人)の問題ではなく、人権・社会問題であり、それは、日本政府の政治姿勢と深いつながりがあることである。132
 この視点は、日本の儒教思想にもとづく「道徳教育」に慣れ親しんできた人には違和感を覚えるかも知れないが、「社会のあり方」を考えさせるグローバルスタンダードな「人権教育」を実施している欧米諸国では、あたり前の切り口である。133
 グローバルスタンダードな「社会のあり方を考えさせる人権教育」とは、ア)物事の構造、仕組み、つくりに起因する問題を把握し、イ)その問題解決につながる社会変革を考える過程で、ウ)自らの権利を知り、エ)権利の主体(自らの役割を果たす主体)として、社会変革を実現するための行動につながるように導いていくものであり、儒教思想のもとで、「個々人の心を育む」ために実施されている日本の「道徳教育」の対極にある。134
 もうひとつ、グローバルスタンダードな「人権教育」と日本の「道徳教育」は対極にある理由は、日本の「道徳教育」の基礎となる儒教思想の“男尊女卑”は、『世界人権宣言』の第1条前段「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。」に反するからである。135


 平成12年(2000年)に制定された『人権教育及び人権啓発の推進に関する法律』の第2条では、「人権教育は、人権尊重の精神の涵養を目的とする教育活動である」と定義し、「人権啓発とは、国民の間に人権尊重の理念を普及させ、及びそれに対する国民の理解を深めることを目的とする広報その他の啓発活動(人権教育を除く)をいう」と規定している。136
 問題は、この法律における人権教育や啓発は、「個人の精神を涵養し、理解を深めていくこと」と規定していることである。137
 つまり、この法律は、「個人の精神」と“人柄”“心がけ”に重点を置いている。138
 したがって、この法律で実施される「人権教育」は、「道徳教育」を意味する。139
 人権に関する問題は、道徳では解決できない。140
 なぜなら、人権に関する問題は、個々人の心の問題ではないからである。141
 学校の「人権教育」でとり扱われるテーマの「いじめ問題」、その虐める行為の背景にある「差別・排除」について考えてみる。142
 『日本国憲法』の第14条にあるとおり、差別は、政治的、経済的、または、社会的関係において発生する。143
 ところが、日本社会、あるいは、学校教育において、この「差別・排除」という問題は、「道徳」として、人の“思いやり”“優しさ”“心がけ”といった心の問題として扱う。144
 つまり、「道徳」の授業は、「個人の心のありよう」を問題としている。145
 一見すると、個人の道徳性のあり方から差別・排除問題などの社会的な課題に対応していくことには効果があるように見える。146
 さまざまな差別問題は、常に具体的である。147
 ある特定の誰かに起こる問題であり、そこでは、個人的な、ある人とある人との狭い範囲の関係のあり方が問われる。148
 しかし、そうした視点だけでは、「差別・排除」について十分に考えることはできない。148
 なぜなら、差別・排除は、個人的な「人間関係」を超えた、より広い社会関係の中で起きるからである。149
 道徳教育では、「狭い関係性」にばかり注意が集まり、その関係の中に、社会的に仕組まれたより広い構造的課題が凝集していることを考えることができない。150
 つまり、「心のあり方」を問題とする道徳の枠組みでは、この社会的な構造は問い難い。151
 例えば、いじめなど人を傷つけてはいけないことを教える「命の授業」は、個々人の「心のあり方に問題がある」として、個々人の「道徳観の育成による解決」を試みる。152
 平成26年(2014年)7月、女子生徒が高校の同級生を殺害し「人を殺してみたかった。」と供述した「佐世保同級生殺害事件」が発生し、例年5月-7月のうち1週間を「命を大切にする心や思いやりの心の育成」を目的にした“命を大切にする教育”を10年間続けてきた長崎県の教育関係者に衝撃が走った。153
 この「命を大切にする教育」は、平成16年(2004年)6月におきた小学校6年生の女子児童が同級生を殺害したショッキングな「佐世保小6女児同級生殺害事件」をきっかけに、市内の小中学校で「命の尊さ」を学ぶとり組みを続けてきたものである。154
 この「命の尊さ」を学ぶとり組みは、長崎平和公園や原爆資料館を見学したり、佐世保空襲の体験者を招いて話を聞いたりすることで生命の尊さや戦争の悲惨さを学ばせようとするものである。155
 その中で、悲劇が繰り返されたことに対し、長崎県の教育関係者はショックを受けた。156
 敢えて苦言を呈すると、長崎県の教育関係者は、この10年間続けてきた命の尊さを学ぶとり組みが、成長した子どもたちの人を傷つける行為の減少につながってきたのか」を検証してきたのだろうか? 157
 検証の結果、人を傷つける行為は減少している中で、悲劇が繰り返されショックを受けたのであれば、ある程度、教育関係者の葛藤は理解できる。158
 この殺傷事件前の平成24年(2012年)の長崎県14歳-19歳人口1万人あたり少年犯罪の検挙数は62.56人(503人)で全国25位、また、非行発生率は、命の尊さを学ぶ授業がはじまる前の昭和60年(1985年)24.98で全国24位、平成2年(1990年)21.13で全国27位と順位はわずかに下回り、非行発生率は少し改善した(全般的にほぼ横一線)状況が続いているように、命の尊さを学ぶ10年間のとり組みが少年犯罪を減少させる相関性(因果関係)を確認することはできない。159
 つまり、いじめ問題、非行など少年犯罪は、「道徳教育」にもとづく「個々人の心のありよう」にフォーカスする限り、解決に至る方向性を示すことはできず、「人権教育」にもとづく、人権・社会問題としてとり組む必要がある。160
 しかし、10年間にわたり、「命を大切にする教育」にとり組んできた長崎県の教育関係者は強いショックを受け、無力感にうちひしがれた。161
 長崎県に限らず、「命の授業」の多くは“思いやり”“優しさ”といった個々人の「心のありよう」にフォーカスして実施、つまり、道徳教育の一環として実施している。162
 日本では、明治政府が制定した『教育勅語』にもとづく「教育制度」で実施されてきた「道徳」の授業、昔話(絵本、童話)などに組み込まれた「道徳観」により、日本国民の隅々まで根づいていることから、ア)差別・排除だけではなく、DV(デートDV)、児童虐待、性暴力(緊急避妊薬、中絶薬の導入を含む)、いじめ、(教師や指導者などによる)体罰、ハラスメントなどの暴力(人権侵害)問題に加え、イ)暴力被害に起因する精神疾患(PTSD、その併発症としてのうつ病、解離性障害など、ウ)リストカット・OD(大量服薬)、過食嘔吐などの自傷行為、エ)アルコール・薬物、ギャンブル、セックス依存などのさまざまな後遺症を含む)、オ)新興宗教・カルト教団、スピリチュアル(霊的・精神世界)への勧誘・傾倒、詐欺(悪徳商法)被害、カ)貧困、進学、就職(性風俗業界での就労を含む)、キ)ひとり親家庭、ヤングケアラーとしての生活などの社会問題も、すべて、「個々人(特定の家庭、特定の職場、特定の学校)の心のあり方の問題」、つまり、「個人の問題」と捉え、論議され、対策が講じられる。163
 繰り返しになるが、個々人の心の問題として道徳観に訴える限り、これらの問題は、解決できない。164
 そして、これらの「人権侵害(暴力)問題」「社会問題」に対する課題を個々人の心の問題として認識したままで、法を制定したり、法改正に至ったりすると、「法律」が限定的であったり、「法律」の解釈に抜け道があったり、「法律」が「社会システム」として機能しなかったり、「法律」が時代や現状にそぐわないまま放置されていたりする事態を招く。165
 まさに、日本のいまの現状を示している。166
 日本の人権や権利に関する教育の問題は、時に法律がそうであるように、個人の価値観や道徳性の涵養へと都合よく(容易に)置き換えられている。167
 さらに、こうした人権・社会問題に対する道徳的なアプローチ、つまり、個々人の「心のもちよう」による解決、個人的関係の中での解決というアプローチは、自己救済(自助)を強調し、国などの公的機関がしなければならない諸施策を免責する危険性を孕んでいる。168
 国としての自助(自己救済)の政治姿勢は、国や公的機関には非(責任)はなく、それは、個人の問題(自己責任、自業自得)と片づけるのに役立つ。169
 社会が、「自己責任」、「自業自得」と個人の問題と片づけることができると、国や公的機関の不備に対する問題は表面化しない。170
 つまり、自助(自己救済)は、国や公的機関には、とても都合がいい。171
 一方で、本来、国や公的機関がしなければならないことを、個人の努力や民間機関の仕組みでなにかを成し遂げたときには、国(政権、政党、政治家)は褒め称え、まるで「感動ポルノ」のように政治利用する。172
 「感動ポルノ(Inspiration porn)」とは、主に、身体障害者が健常者に同情・感動をもたらすコンテンツ(懸命になにかを達成しようとする場面)として消費されることを批判的に表現するものである。173
 「まじめで、頑張り屋」、「清く、正しい障害者」など特定のステレオタイプなイメージを押しつけられた障害者や、余命宣告者などの同情を誘いやすい立場の人を使い、視聴者を感動させようとする「お涙頂戴」のコンテンツを指す。174
 「感動ポルノ」においては、障害を負った経緯や障害による負担・障害者本人の思いではなく、積極的、前向きに努力する姿(障害があってもそれに耐え、負けずに、乗り越えようと頑張る姿)がクローズアップされる。175
 しかも、紹介されるのは、常に、「テレビ受け」する身体障害者に限られ、一見、健常者と判別困難である精神障害者・発達障害者がとりあげられることはまずない。176
 問題は、日本では、政治利用されていることを認識せず、「話を聴いてもらえた」「支援を約束してくれた」と傾倒してしまうほど、国民が、政治、人権・社会問題に対し、無防備で、脆弱ことである。177


 「日本社会の根底にある問題」には、四方を海に囲まれた日本という国の成り立ちと日本神話にもとづき「神武創業(神武天皇の時代に戻れ!)」を倒幕スローガンとした新政府軍(明治政府)以降の国造り、つまり、政治姿勢、政治のあり方が深く関係している。178
 日本の政(まつりごと)は、農耕と信仰と結びつき、その信仰は、「スピリチュアル(霊的・精神世界)」とつながり、この「スピリチュアル(霊的・精神世界)」は、日本人には、お祓い(厄払い)、参拝(お参り)として、日本人には馴染み深く、生活の一部であり、そして、除霊を信じる人も少なくない。179
 この「日本人には馴染み深く、生活の一部になっている」、「信じる人も少なくない」ことは、金品の搾取、性的行為を目的に、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けるうえで、心理的障壁(防衛機制)をとり除く重要な役割を果たしている、つまり、無警戒な状況をつくりだしている。180
 つまり、お祓い、除霊は、「グルーミング」を仕掛けるアプローチのひとつで、このアプローチに心理的障壁(防衛機制)が働かず、無警戒な状況は、直接、被害につながる。181
 明治政府の強烈な思想・イデオロギー教育(道徳教育など)により、ⅰ)日本人が“日本神話”にもとづく「現人神(この世に人間の姿で現れた神としての「天皇」)」を受け入れたことは、ⅱ)「現人神(天皇)」を頂点とする“垂直的な階層構造”のもとで、上位者に価値(利益)が集中する“権力の偏重”をもたらし、同時に、「スピリチュアル(霊的・精神世界)」と国家運営の結合をもたらした。182
 それは、カルトと“同質構造”の国造りである。183
 また、“垂直的な階層構造”のもとで、上位者に価値(利益)が集中する“権力の偏重”のひとつが、家父長に絶対的な権力を与えた「家制度」である。184
 日本では、ⅲ)「武家」において、儒教思想にもとづく「相手との関係性(上下関係、強弱関係)で、二人称の人称代名詞を使いわける」という独特の「言語(日本語)」を生みだしたが、ⅳ)ⅰ)ⅱ)の社会構造と儒教思想にもとづく“武士道(封建社会における武士階級の倫理・道徳規範、価値基準の根本をなす体系化された思想一般)”の流れを汲む「精神論」は、被害を受けた人が、被害を訴え難い空気感をつくり、2次加害となる言動をもたらしている。185
 ⅴ)ⅰ)ⅱ)の社会構造とⅲ)儒教思想にもとづく上位者に対する過剰な配慮(忖度)は、その被害そのものを揉み消し、握り潰すモチベーション(動機)となり、一方で、その様子(状況)に対し、傍観・見て見ぬふりをする社会を構築した。186


 儒教思想の「儒教」は、高等学校の授業で学ぶ『漢文』の「孔子いわく、…」、つまり、「論語」のことで、「諸子百家」とは、中国の「春秋戦国時代(紀元前770年に周が都を洛邑(成周)へ移してから、紀元前221年に秦が中国を統一するまで)」の学者・学派の総称である。187
 「諸子」とは、孔子・老子・荘子・墨子・孟子・荀子などの人物を指し、これらの儒学者のことば(教え/論語)は、江戸時代の人口の7%に過ぎなかった「武家」の教育の根幹であるが、紀元前の中国社会(春秋戦国時代)の「男尊女卑(男を尊び女を卑しめる)」が際立っている。188
 明治政府は、ア)明治22年(1889年)、「神格化(現人神(この世に人間の姿で現れた神))した天皇」を主権とする『大日本国憲法』を制定し、続けて、イ)明治23年(1990年)、教育の基本方針・国民道徳の基準を定めた『教育勅語』を制定し、ウ)「軍国化(富国強兵、国民皆兵)」を進めるための“税制改革(「家」を基軸とした制度設計)”に不可欠な「家制度(家父長制)」を浸透させるための「道徳教育」として、江戸時代、寺請制度(檀家制度)のもとで経、説法、説話などを介し仏教の教えを学んできた一般市民に対し、特権階級であった「武家」の教育の根幹であった「儒教思想」を教え込んだ。189
 教育の基本方針・国民道徳の基準を定めた『教育勅語』にもとづく家庭教育(子どもに対するしつけ・教育)を進めるために、家父長に、『家族法(民法)』で「親権行為(民法820条(子どもに監護や教育をする権利義務)、民法821条(居所指定権/子どもの居所を定める権利)、民法822条(懲戒権/子どもを懲戒する権利)、民法823条(職業許可権/子どもの就職について許可をする権利)、民法824条(財産管理権/財産を管理する権利)、同条(契約などの法律行為を代理する権利)」を定めた。190
 結果、日本は、軍国化とともに、「儒教思想」にもとづく「家制度(家父長制)」を軸とする「男尊女卑社会」が構築された。191
 「日清戦争(明治27年(1894年)7月-明治28年(1895年)3月)」、「日露戦争(明治37年(1904年)2月-明治38(1905年)年9月)」を経て、軍事国家化が進んだ日本は、イギリスとの「日英同盟」を口実に、大正3年(1914年)8月、第1次世界大戦(大正3年(1914年)7月-大正7年(1918年)11月)に参戦し、青島のドイツ基地を攻撃、南洋諸島を占領、昭和4年(1915年)には中国政府に対し『21ヶ条要求』を提出、山東省での権益を認めさせ、昭和6年(1917年)には、地中海に艦隊を派遣するなど、連合国に加わった日本は、戦後の『パリ講和会議』に出席、大陸での利権の確保を目指し、ロシア革命に干渉するシベリア出兵に至った。192
 昭和6年(1931年)9月、日本の関東軍が柳条湖事件を契機に中国軍との戦闘に突入、満州を占領し、昭和7年(1932年)に「満州国」を建国すると、国際的非難が強まり、国際連盟から脱退、国内では、より軍国主義的傾向が強まり、同年5月15日、井上日召の影響を受けた海軍青年将校が、陸軍士官学校生徒や愛郷塾生らと協力し、内閣総理大臣官邸・立憲政友会本部・日本銀行・警視庁などを襲撃し、犬養毅首相を暗殺した「5・15事件」で政党政治が終わりを告げた。193
 井上日召(井上 昭)は、「日蓮主義運動」の思想的系譜に連なり、戦前、右翼テロリスト集団「血盟団」を指導し、戦後、右翼団体「維新運動関東協議会」、右翼団体「護国団」を指導したテロリストである。194
 「日蓮主義運動」は、戦後の「創価学会」に先駆け、戦前に「王仏冥合」「法国冥合」「立正安国」を主張し、「国立戒壇」の建立による仏教的な政教一致による日本統合(一国同帰)と世界統一(一天四海皆妙法)の実現による理想世界(仏国土)の達成をめざした仏教系宗教運動である。195
 日本軍の華北侵略により日中関係はさらに悪化し、昭和12年(1937年)、日中戦争に突入し、いわゆる「満州事変(日中戦争)」は、昭和20年(1945年)8月15日、日本が太平洋戦争(日本の侵略戦争)に敗戦するまで続く15年戦争であった。196
 この間、昭和17年(1942年)5月7日、文部省は、「あるべき家庭教育を国が定め、国家が家庭での教育を統制する」と定めた『戦時家庭教育指導要綱』を発表、昭和18年(1943年)度からは「女子中等学校・国民学校」などに「母親学級」の開設を奨励し、母親に対し“軍事国家としてのあるべき家庭教育”を学び、実行させた。197
 それは、「国民は、国家のために身を捧げる」ことを求める「皇民化教育」であった。198
 この「皇民化教育」は、日本(大日本帝国)の統治地域の朝鮮や台湾などに加え、沖縄で実施した日本語の常用、神社の建設や参拝、日の丸の掲揚、君が代の斉唱など、強制的な同化教育で、「軍官民共生共死思想」として、沖縄戦における集団自決につながった。199
 「沖縄戦」における一般住民の「集団自決」は、「皇土防衛」「国体護持」作戦の犠牲であることから、沖縄戦は、天皇制を守る戦いであった。200
 『教育勅語』『戦時家庭教育指導要綱』「皇民化教育」は、天皇を「神聖にして侵すべからず」と神格化(現人神(この世に人間の姿で現れた神))し、国民に対し、「自らの生命を喜んで天皇に捧げる」という思想・イデオロギーを受けつけた。201
 安倍晋三元首相が会長となり発足させた「親学推進議員連盟(「親学」を主導するのは、自由民主党の母体のひとつである日本最大の超国家主義・極右主義団体「日本会議」で、「日本会議」役員の多くは、同じく自由民主党の母体のひとつ「神道政治連盟」の役員を兼務)」が立法化を目指した肝いりの政策が、この満州事変・太平洋戦争時の『戦時家庭教育指導要項』と同質の『家庭教育支援法案』である。202
 この「はじめに。」の197文前段で「あるべき家庭教育を国が定め、国家が家庭での教育を統制する」と定めたのが『戦時家庭教育指導要項』と示しているが、この安倍晋三元首相の肝いりの『家庭教育支援法案』は、この趣旨に準じたもので、家父長主義的な思想にもとづき、男女共同参画や性の多様性を否定している「統一教会(現.世界平和統一家庭連合)」に共鳴した内容になっている、つまり、「統一教会(現.世界平和統一家庭連合)」の“教義”そのものである。203
 この「あるべき家庭教育を国が定め、国家が家庭での教育を統制する」の“統制”は、いうまでもなく、コントロール(管理)を意味するが、国家がコントロール(管理)するだけではなく、家父長(親)が子どもをコントロール(管理)することにつながる。204
 家父長(親)、全体主義的な教育機関である日本の学校園の保育士・教師などにコントロール(管理)された子どもは、人をコントロール(管理)する術(手口/方法)、つまり、マインド・コントロール手法のひとつの「型」である「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」の手口(方法)について、身を持って、学び、身につける(学習体験)。205
 第3次安倍晋三政権は、強い反対を受け、『家庭教育支援法案』の国会提出を見送ったが、その『家庭教育支援法』の成立(実現)のために、日本最大の超国家主義・極右主義団体「日本会議」が主導し、令和5年(2023年)4月1日に『子ども家庭庁』を発足させ、「日本会議」とともに自由民主党の母体のひとつであるカルト教団「統一教会(現.世界平和統一家庭連合)」と深い関係にある右翼団体「日本財団」は、令和4年(2022年)6年15日(同5年(2023年)4月1日施行)、『こども基本法』を成立させた。206
 『地方議会では、同じ趣旨の『家庭教育支援条例』を制定させ、いま、日本は、再軍国化に向けて、とても危険な状況に至っている。207
 『教育勅語』『戦時家庭教育指導要項』「皇民化教育」の内容は知らなくても、ア)自らを犠牲にしてでも、会社のため、組織のため、学校のため、恩師のためと自己犠牲をいとわない、「壊れても死んでもかまわない」とケガを負うほど頑張ることをいとわない、結果、休暇をとらない、長時間労働・低賃金に不満をいわない日本人の価値観、イ)学校園の行事で、親宛に「育ててくれて、ありがとう」「産んでくれて、ありがとう」などと感謝の気持ちを手紙に書かせるなど、親の孝行を善とし、強要する日本人の儒教思想にもとづく道徳観など、身近な至るところに、『教育勅語』の“教え”が行き届いている。208
 海外の人が、日本人の特性を示す「礼儀正しい」「親切」「勤勉」「盾突かない」「規律的」などは、『教育勅語』『戦時家庭教育指導要項』「皇民化教育」の“教え”が、いまも国民にひき継がれていることを意味し、日本人の“美徳”とされ、この日本人の特性は、“国民性”と呼ばれるほど、無自覚な価値観であり、行動規範となっている。209
 権力者には「盾突かず」、賞賛し、褒め称え、辛抱し、忖度するなど、「忠義」に徹する。210
 一方で、権力者が、「盾突かず」、賞賛し、褒め称え、辛抱し、忖度するなど、「忠義」に徹することを求めるとき、それに応じられないときの「叱責(懲戒)」、つまり、「しつけ(教育)と称する体罰」は、その“対象”が、交際相手や配偶者であればDV(デートDV)、子どもであれば児童虐待、生徒間や職場などであれば、いじめ、(教師や指導者などによる)体罰、パワーハラスメントという暴力(人権侵害)行為につながっている。211
 この権力者には「盾突かず」、賞賛し、褒め称え、辛抱し、忖度するなど、「忠義」に徹するといった“行動規範”から外れる者(「徴兵検査」の通らず国の役に立てなかったり、国の姿勢に反発したりする者)、例えば(現代では)、病気や障害を負い働けない者、学校に通学しない者、親に心配をかけたり、親の面倒をみたりしない者、社会が定めた枠組みから外れる者、権力者に従順ではなく、逆らったり、意を唱えたりする者などに対し、非常ともいえる冷酷な態度をとったり、時に残忍な行動に至ったりするのも日本人の特徴である。212
 ここにも、戦前に叩き込まれた『教育勅語』『戦時家庭教育指導要項』「皇民化教育」の影響が示されている。213
 日本人の圧倒的多数が支持している「精神論」は、儒教思想にもとづく“武士道(封建社会における武士階級の倫理・道徳規範、価値基準の根本をなす体系化された思想一般)”の流れを汲んでいる。214
 ただし、平安時代中期から続く武家社会における“武士道”は、日露戦争、満州事変・太平洋戦争(日本の侵略戦争)において、「3-①テロリズム。「現人神(天皇)」のもとでの「玉砕」「自爆」」で示しているように、“玉砕・自爆戦法”をとる軍部のもとで、「情緒主義」と結びつき、歪んだ「精神論」「根性論」に育ち(至り)、いまに続いている。215
 「情緒主義」は、「各々の道徳判断は、信念ではなく一種の感情の表現であり、そうした表現を通じて相手の感情に訴えるための道具である、つまり、道徳判断は、個々人の好みや感情の表明に過ぎない」との立ち位置であり、非認知主義、表現主義の一形態と見なされ、口語的には“万歳・くたばれ説”として知られている。216
 つまり、非科学的で、エビデンス(証拠、根拠、裏づけ)は無視する。217
 非科学的で、エビデンス(証拠、根拠、裏づけ)は無視する「情緒主義」は、新興宗教・カルト教団、スピリチュアル(霊的・精神世界)と相性がいい。218
 「情緒主義」と結びつき、歪んだ「精神論」「根性論」は、暴力被害を「苦しい!」「助けて!」と訴える人に対し、「もっと大変な思いをしている人がいる」と話しをすり替え、「頑張れ!」と励ましのことばで、「苦しい!」「助けて!」の声を無視したり、「頑張り(努力)が足りない!」「だから女はダメなんだ!」などと非難、侮蔑・卑下することばを浴びせたりするなど、その歪んだ「精神論」「根性論」が支配するコニュニティでは、被害を訴え難くし、被害を黙殺する(揉み消し、握り潰す)。219



 家庭内で、「武家」において、儒教思想にもとづく「相手との関係性(上下関係、強弱関係)で、二人称の人称代名詞を使いわける」という独特の「言語(日本語)」に示されているのは、婚姻した女性が、一方の配偶者の夫を「旦那」「主人」と表現する呼称で、この呼称は、「家制度(家父長制)」をそのままひき継いだもので、上下関係、主従関係を示している。220
 「主人」の反対語は「下女」「下男」で、「主人」の対義語は、「令室」である。221
 「主人」「令室」は、ともに、相手を敬う表現である。222
 しかし、日本社会では、女性は、夫を敬う表現である「主人」を使う一方で、男性は、妻を敬う表現である「令室」を使うことはない。223
 つまり、男尊女卑の「家制度(家父長制)」のもとで、妻(女性)を敬う表現は存在しない。224
 「旦那」とは、サンスクリット語の仏教語ダーナに由来し、“与える”“贈る”といった「ほどこし」「布施」を意味し、もともと僧侶に用いられてきたことばである。225
 その後、一般にも広がり、「パトロン」のように“生活の面倒をみる人”“お金をだしてくれる人”という意味として使われてきた。226
 妾が生活の面倒を見てくれる人のことを「旦那様」、奉公人が生活の面倒を見てくれる人、住み込みで仕事を与えてくれる人のことを「旦那様」、「ご主人様」と呼ぶようになった。227
 この妾や奉公人が使っていた呼称を、夫婦間の呼称として使うことは、夫婦間で上下関係、主従関係が存在していることを意味する、つまり、「家制度(家父長制)のもとでは、「嫁という概念、妻という立場が、家庭の中、夫婦の間において、妾や奉公人と同等の扱いであった」ことを意味する。228
 そして、「律令制」に由来し、他国になく、世界で唯一の『夫婦同姓制度(民法750条、戸籍法74条1号)』のもとで、令和3年(2021年)に婚姻した夫婦の501,138組のうち「夫の名字」を選択したのが476,088組(95.0%)であり、その一定数で、女性自らが、配偶者である夫の対し、「主人」「旦那」との呼称を使用している。229
 「律令制」に由来し、他国になく、世界で唯一の『夫婦同姓制度(民法750条、戸籍法74条1号)』は、『世界人権宣言』の第1条の「人は、尊厳と権利とについて平等」に反する(違反する)として、国連の「女性差別撤廃委員会」は、『女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(以下、女性差別撤廃条約)』の批准・締結国(昭和60年(1985年)6月25日)である日本政府に対し、繰り返し改善勧告をだしている。230
 いまから32年前の平成3年(1991年)、法務省の法制審議会民法部会(身分法小委員会)は、「婚姻制度等の見直し」の審議を行い、その5年後の平成8年(1996年)2月、法制審議会が答申した「民法の一部を改正する法律案要綱」では、「選択的夫婦別氏制度(選択的夫婦別姓制度)の導入」を提言している(令和6年(2024年)10月15日現在)。231
 この答申を受け、法務省は、平成8年(1996年)と平成22年(2010年)に「改正法案」を準備したが、日本政府は、いずれも国会に提出していない。232
 令和2年(2020年)12月、閣議決定した『第5次男女共同参画基本計画』では、この「夫婦の氏に関する具体的な制度のあり方」について、「司法の判断も踏まえ、更なる検討を進める」と見解を示しているが、依然として、日本政府は、「民法の改正」にとり組んでいない。233
 つまり、法制審議会の答申を受け、「改正法案」を準備しても、政府が、「改正法案」を成立させる意思がなければ、幾らでもお蔵入りさることも容易にでき、逆に、政府肝入りの「法案」であれば、強行採決に持って行くことができる。234
 また、「人工妊娠中絶に配偶者の同意が必要」な国は、203ヶ国の中で、日本、台湾、インドネシア、トルコ、サウジアラビア、シリア、イエメン、クウェート、モロッコ、アラブ首長国連邦、赤道ギニア共和国の11ヶ国・地域に留まり、192ヶ国は、「配偶者同意の規定」は存在しない。235
 日本では、明治2年(1869年)に『堕胎禁止令』が公布され、明治13年(1880年)の『刑法』の制定で、『堕胎罪(刑法212−216条)』として犯罪となり、現在の『刑法』にひき継がれた。236
 一方で、太平洋戦争に敗戦直後の昭和23年(1948年)に制定された『母体保護法』による一定の条件を満たすことで人工妊娠中絶が可能となり、同年に施行された『優生保護法』において、日本は、人工妊娠中絶の実質的合法化したが、それは、戦前の優生思想にもとづくものであった。237
 『優生保護法(昭和23年(1948年)-平成8年(1996年))』は、優生思想・優生政策上の見地から不良な子孫の出生を防止することと、母体保護という2つの目的を有し、強制不妊手術(優生手術)、人工妊娠中絶の合法化、受胎調節、優生結婚相談などを定めていたが、これは、優生思想にもとづく国民の資質向上を目的とし昭和15年(1940年)に制定された『国民優生法』を踏襲したもので、いまから28年前の平成8年(1996年)の法改正で、「優生思想にもとづく部分は障害者差別である」として削除され、『母体保護法』に改められるまで、日本では、戦前から戦後に至る56年間、「優生思想にもとづく優生手術」が実施された(令和6年(2024年)10月15日現在)。238
 このことは、日本の産婦人科などの医師が、優生思想にもとづく優生手術(人工妊娠中絶手術)を実施してきた、携わってきたことを意味する。239
 そして、令和6年(2024年)7月3日、最高裁判所大法廷は、「本法の各優生条項が『日本国憲法』の13条(すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする)、14条(すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない)に違反していた」とする判決を下した。240
 その日本は、避妊をめぐる政策は極めて「保守的」で、平成5年(2023年)4月、「経口中絶薬」を承認したが、これは、1988年(昭和63年)、世界で初めて「経口中絶薬」が導入されてから35年経過している。241
 日本で、この「経口中絶薬」の承認が遅れた背景にあるのが、人工妊娠中絶を「女性の罪」とする『堕胎罪(刑法212−216条)』、そして、日本政府の「優生思想」の存在である。242
 その日本では、『別紙1b』の「3-(4)避妊に応じず、間違った避妊法で妊娠、膨大な中絶数の実態」で示しているように、平成28年度の厚生労働省の調査によると、全国の人工妊娠中絶の総件数は、168,015件となっている(同82文)。243
 これは、1日、約450件の人工妊娠中絶がおこなわれていることになる(同83文)。244
 約16.5万件のうち1.4万件(8.49%)が20歳未満の未成年者で、19歳が6,111件ともっとも多く、18歳が3,747件である(同84文)。245
 人工妊娠中絶実施率(女子人口千対)は6.5%で、年齢階級別では、18歳は6.3%、19歳は10.2%、20-24歳は12.9%、25-29歳は10.6%となっている(同85文)。246
 15歳未満の190人の女性が、人工妊娠中絶を受けている(同86文)。247
 日本では、「避妊に応じない(同意のない性行為、レイプを含む)」という性的暴力のもとで、望まない妊娠をし、人工妊娠中絶に至っている現状が存在する(同87文)。248
 また、日本の「生涯未婚率(50歳時の未婚率)」の上昇について、国立社会保障・人口問題研究所『人口統計資料集(2023年)改訂版』では令和2年(2020年)に男性が約28%、女性が約18%と過去最高を記録しているが、内閣府男女共同参画局が実施している調査(平成27年(2015年))によると、恋愛結婚87.9%、見合結婚5.3%で、「恋人として交際した人がいない」と回答した20歳代-30歳代の独身の女性は24.1%、独身の男性は37.6%(交際経験がない20歳代の男性は4割近い)となっている。249
 日本では、調査に時間差はあるが、a)1年間の「人工妊娠中絶実施率(女子人口千対)」は6.5%、年齢階級別では、18歳は6.3%、19歳は10.2%、20-24歳は12.9%、25-29歳は10.6%と高い一方で、b)「生涯未婚率(50歳時の未婚率)」は、20歳代-30歳代の女性の24.1%と高く、以下で示すように、c)男性の不倫率は、世界平均よりも20ポイント以上高く、d)婚姻している夫婦間での「セックスレス率」も高いなど、その構図は“いびつ(歪み、異常)”な様相を呈する。250
 令和4年(2023年)12月、マッチングアプリ「Healmate」を運営する「レゾンデートル」が、20歳代-50歳代の既婚者男女4,000人を対象にインターネットで実施した『セックスレスに関する実態調査』では、約7割の夫婦がセックスレス傾向を示し、約4割が完全なセックスレスであり、その状況は、「結婚3年未満」で示され、「結婚3年未満」の51.8%がセックスレス傾向を示し、同21.9%が完全にセックスレスであるとの調査結果を発表しているが、「日本の夫婦のセックスレス率の高さ」は、多くの調査で明らかにされている。251
 その要因で、女性が性行為を拒む要因のひとつが、「夫婦間における家事(育児・介護看護・家事)時間の偏り」と「その偏りに起因する疲労」である。252
 平成28年(2016年)の『社会生活基本調査(総務省)』によると、ア)「乳幼児がいない共稼ぎ夫婦の家事(育児・介護看護・家事)の時間」は、妻の平均時間が226分(3時間46分/15.69%(226分/1440分))であるのに対し、夫の平均時間は16分(1.11%(12分/1440分))で、夫は妻の7.08%、14.13分の1、特に、家事時間は妻が208時間(3時間28分/14.44%)で、夫は12分(0.83%)で、妻の5.77%、17.33分の1と大きな差がある。253
 残業時間を考慮せず、1日の労働時間をともに7時間(420分)と仮定すると、残り17時間(1020分)から家事(育児・介護看護・家事)時間を引くと、女性の残り時間は794分(13時間14分)、男性の残り時間は1004分(16時間44分)となり、男性は女性よりも210分(3時間30分)長くなる。254
 続けて、イ)「乳幼児がいる共稼ぎ夫婦の家事(育児・介護看護・家事)の時間」は、妻の平均時間が414分(6時間54分/28.75%)であるのに対し、夫の平均時間は68分(1時間8分/4.72%)で、夫は妻の16.43%、6.09分の1、特に、育児時間は妻が186分(3時間6分/12.92%)であるのに対し、夫が20分(1.39%)で、夫は妻の10.75%、9.3分の1と大きな差があり、「妻は、仕事をしながら、平均で1日7時間近くを家事や育児」に費やしている。255
 ア)と同様に、女性の残り時間は606分(10時間6分)で、ア)と比べて188分(3時間8分)短くなり、男性の残り時間は952分(15時間52分)で、ア)と比べて52分短くなり、男性は女性よりも346分(5時間46分)長くなり、その差は、ア)に比べ、136分(2時間16分)長い。256
 子どものいる共稼ぎ夫婦では、労働時間7時間に家事(育児・介護看護・家事)時間を加えた残り時間は、女性は、男性よりもア)で210分(3時間30分)、イ)で346分(5時間46分)短い。257
 男性は、女性よりも、女性よりも長くからだを休めたり、友人と遊んだり、趣味に興じたりすることができる、つまり、男性は、女性よりも、疲労をとったり、リフレッシュしたりするための時間を確保できる。258
 日本社会が、この「ジェンダーの不均衡」を容認している価値観(結婚観)の背景にあるのは、この『レポート』で繰り返し説明している「明治政府が構築した儒教思想にもとづく「家制度(家父長制)」において、武家の女性が求められた女性の自己犠牲なくして成り立たない「内助の功」「良妻賢母」」である。259
 また、「子どもの出産を機にセックスレスになる」ことが少なくないが、産後1ヶ月は、子宮内に雑菌が入り込んで感染症にかかりやすく、子宮が元の位置に戻ろうと、収縮を繰り返している時期の性行為は、女性のからだへの負担が大きくなり、産科医は、「この時期のセックスは控えるように」と助言する。260
 また、女性は出産のタイミングで、大量の「オキシトシン」が分泌されるが、この「オキシトシン」には、愛情を注ぐ子どもを外敵から守るために、他の人に対し排他的、攻撃的になる働きがあり、授乳中、母乳の分泌を促す「プロラクチン」は、性欲を減退させる。261
 つまり、女性は、人類の生存戦略として、出産し、子どもに授乳している間は、性欲は減退し、同時に、夫であっても、異性を避けるようにできている。262
 一方で、猿人から分化し、何十万種ともいわれるサピエンスを凌駕してきた「ホモ・サピエンス(Homo sapiens;人類)」の生存戦略として、出産後子育てに従事する5年間は次の子どもを妊娠しないチンパンジーと違い、600万年という年月をかけて毎年出産できるように進化した。263
 700万年前の北アフリカ、乾燥化により熱帯雨林が縮小しできたサバンナでは、人類の祖先は木から下りて暮らし、二足歩行するようになったが、サバンナは、熱帯雨林に比べて食物が少ないにもかかわらず、肉食獣など敵が多く、その中で、小さな子どもを抱えて移動するのは危険であった。264
 熱帯雨林で暮らす類人猿(人に似た形態を持つ大型と中型の霊長類)では、子育てするのはもっぱらメス(雌)であるが、サバンナにでたサピエンスのメス(雌)にとって、安全な場所で待つ子どもと自分のために食べ物を運んでくれるオス(雄)は、重要な存在であった。265
 そこで、人類史の中でもっとも大きな問題であった子育てをするために、サピエンスのメス(雌)は、子育てにオス(雄)をひき入れた。266
 一方のオス(雄)には、自分の子どもの生存率が上がる利点があった。267
 結果、チンパンジーなどと同様に、「複オス(雄)複メス(雌)の群れ」の中に、サピエンスでは、さらに小さなユニットである複数の「家族」が共存し、しかも、特定の異性に強い愛着(アタッチメント)を持つコミュニティ(社会)がつくられた。268
 さらに、サバンナでの生活で、肉食獣に襲われるリスクが高く、生存率が低下したサピエンスは、人類生存の戦略として、毎年出産して、多くの子どもを残すようになった。269
 出産後子育てに従事する5年間は次の子どもを妊娠しないチンパンジーと違い、猿人から分化したホモ・サピエンス(人類)は、600万年という年月をかけて、毎年出産できるように進化したのである。270
 出産後10年以上の歳月をかけて大脳をゆっくりつくりあげる、つまり、育児期間が長いホモ・サピエンス(人類)が、育児中に次の子どもを妊娠し出産することを可能にしたのが、女性同士が育児と労働を助け合い、そこに、男性が育児に加わる「共同養育」というシステムである。271
 この「共同養育システム」は、ホモ・サピエンスが出現してから、実に、20万年の歳月をかけてつくりあげたものである。271
 ホモ・サピエンス(人類)は、進化の過程で、「共同養育(保育)」するようになった。272
 しかも、コミュニティで子育てをし、生き残る確率をあげたことで、狩猟、農耕の生産性を向上させることができ、さらに、ホモ・サピエンス(人類)の生存率をあげた。273
 つまり、ホモ・サピエンス(人類)の女性は、出産し、子育てするには、ア)近親者で構成されるコニュニティ(家族)の中で、女性同士が育児と労働を助け合い、イ)そこに、男性が、育児に加わることで成り立つようにプログラミングされている。273
 ホモ・サピエンス(人類)の女性は、核家族、あるいは、ワンオペレーションで出産・育児ができるようにはプログラミングされていないことから、出産・育児に対するフォロー体制の整っていないいまの日本では、「産後うつ」の症状が顕著になり、しかも、その症状が重篤化、深刻化しやすい。274

 ここでの補足説明の最後は、日本の「不倫率の高さ」と「異性間性交渉未経験の高さ」、そして、「CSW(性産業に従事する女性)の多さと女性を買う男性の多さ」についてである。275
 五十嵐彰、迫田さやか著『不倫-実証分析が示す全貌(中公新書/2023年)』によると、6,651人を対象にインターネットで実施された調査では、ア)「いままで不倫をしたことがない」と回答した男性は1,809人(53.28%)、女性は2763人(84.86%)、イ)「いまはしていないが、過去に不倫をしていた」と回答した男性は1,346人(39.65%)、女性は429人(13.18%)、ウ)「現在、不倫をしている」と回答した男性は240人(7.07%)、女性は64人(1.97%)、イ)ウ)の合計で、男性1,586人(46.7%)、女性493人(15.1%)が「婚外性交渉(不倫)の経験があった」という結果になっている。276
 また、一般社団法人「日本家族計画協会家族計画研究センター」がインターネットで実施し、20歳-69歳の男女5,029人から有効回答を得た『ジャパン・セックスサーベイ2020』では、「不倫を経験した」と回答した男性は67.9%、女性は46.3%で、「現在、不倫している」と回答した男性は41.1%、女性は31.4%であった。277
 この2つの調査結果を踏まえると、不倫経験のある男性は、上限値で78%、下限値で45%、不倫経験のある女性は、上限値で46%、下限値で15%となるが、平成3年(1991年)に小学館から創刊された女性向けファッション誌「Oggi」が、30歳代の女性150人に実施したアンケート調査(2017年Oggi8月号)では、「Yes」と40%が回答し、その不倫相手は、上司が42%、先輩が13%、同僚が11%、仕事関係が7%、元彼が6%、その他が21%となっていること、加えて、性風俗店(デリバリー型を含む)勤務を不倫と捉えていないと考えられることを踏まえると、女性の下限値15%は非現実的で、下限値が40%、上限値は46%より高く50%以上と考えるのが妥当と考える。278
 これらの数値は、世界的な不倫率は、男性で25%前後、女性で約20%前後であることを踏まえると、男性の上限値78%、下限値45%、女性の上限値50%以上、下限値40%という日本の不倫率は、極めて高く、異常ともいえる。279
 この「日本の夫婦のセックスレス率の高さ」、「日本の不倫率の高さ」と関係していると類推でき、重要な視点となるのが、夫婦間で使われる呼称として、二人称である夫に対し「パパ」「お父さん」、二人称の妻に対し「ママ」「お母さん」と呼び合うことである。280
 この呼称は、本来、いうまでもなく、「パパ・お父さん=父親」、「ママ・お母さん=母親」は、子どもから見た、つまり、子どもが親に対し使用する呼称(二人称)である。281
 この「親と子どもとの関係性で使われる呼称を、夫と妻との関係性に持ち込む」という呼称の使い方は、子どもの友人や子どもを介した知人(例えば、同級生の親)に対し、「・・ちゃん(くん)のパパ(お父さん)」「・・ちゃん(くん)のママ(お母さん)」と呼び合うことにも示されるが、「相手との関係性(上下関係、強弱関係)で、二人称の人称代名詞を使いわける言語(日本語)」の中でも、異質で、異常でさえある。282
 血のつながりはないとしても、「パパ」「お父さん」と呼ぶ男性と、「ママ」「お母さん」と呼ぶ女性との性行為は、その呼称だけで捉えると「近親姦」になる。283
 「パパ(お父さん)」「ママ(お母さん)」と呼び合う夫婦間でセックスレスになるのは、至極あたり前のことである。284
 したがって、疑似的とはいえ、本能的に、「近親姦」となり得る性行為を避ける行動が「セックスレス」であり、日本の異常ともいえる不倫率の高さに示される「不倫行為」である。285
 後者の「日本の異常ともいえる不倫率の高さ」と深く関係するのが、a)“性的行為”を目的に仕掛ける「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」であり、b)長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験してきて、「カラカラに乾いたスポンジのような渇望感、心の中にぽっかりと空いた大きな穴のような空虚感、底なし沼のような寂しさ」を示す「見捨てられ不安」を抱えた人が欲する“渇望”にもとづく行動として、「6-④PTSDの「解離」と「再演」、「性的自傷」に対するケア」で示している「再演(投影性同一視)」としての「アタッチメント形成のやり直し」である。286
 一方で、意図的に(敢えて)、“「パパ(お父さん)」「ママ(お母さん)」と子ども”という疑似的な関係性のもとで性行為に及ぶ行為(実際の性行為で、一方がこの呼称を使う)は、疑似的な近親姦となり、「パラフィリア(性的倒錯・性嗜好障害)」の問題となってくる。287
 性風俗店(デリバリー型を含む)の相手、不倫相手との性行為において、この疑似的な近親姦に及ぶことも少なくなく(性風俗店(デリバリー型を含む)では、SM行為などとともにメニュー化されている)、加えて、日本ではロリータコンプレックスがマジョリティー(多数派)になっているといわれ、日本の男性にもっとも売れている「アダルトグッズ」が“幼女の女性器”を模した「スジマン」、「初々しい妹」というオナニーホールで、月にそれぞれ数万個の販売をあげ、都内のダッチワイフ専門店では一体数10万円もするシリコン製で身長140cmの幼児体型のダッチワイフが年間数百体も売れていることを踏まえると、日本男性の精神的な未発達さ、ペドファリア傾向は猶予ない状況にある。288
 ペドファリアの定義は、「2-①一部のペドファリアの性犯罪と「グルーミング」」の16文-17文で示しているように、a)性的対象が3歳-13歳未満の児童で、b)「幼児期期(3-6歳)」、「学童前期(6-10歳)」、「思春期前期(10-12歳)」のいずれかを主ゾーンとし、c)ペドファリアにとって、その時期の体型(成長度合い)が重要なファクターで、ア)幼児体型を好む者、イ)学童児体型を好む者、ウ)第2次性徴前の体形を好む者に分かれ、この主ゾーンを破ることはほぼない。289
 この「はじめに。」の249文で、「恋人として交際した人がいない」と回答した20歳代-30歳代の独身の女性は24.1%、独身の男性は37.6%(交際経験がない20歳代の男性は4割近い)となっている。」と記述しているが、国立社会保障・人口問題研究所が実施する『出生動向基本調査(2021年6月)』では、「独身者で、交際相手がいない(異性の友人/恋人、婚約者のいずれもいない)」と回答した女性は64.2%、同男性は72.2%、男女ともに3人に1人は「特に異性との交際を望んでいない」と回答している。290
 その6年前の『出生動向基本調査(2015年)』では、18歳-39歳の成人における「異性間性交渉未経験の割合」は、女性が24.6%、男性が25.8%で、30歳-34歳では、女性は11.9%、男性は12.7%、35歳-39歳では、女性が8.9%、男性が9.5%で、25歳-39歳の男性では、無職・定収入、短時間就労・非正規雇用と異性間性交渉未経験に有意な関連性が認められた。291
 イギリス、アメリカ、オーストラリアの同様の調査結果は、ア)イギリスで実施されたNatsal-3研究(2010年-2012年「(平成22年-平成24年))では、「生涯を通じて異性の性交渉パートナーがいない」と回答した女性は、16歳-24歳で19.8%、25歳-34歳で2.6%、35歳-44歳で0.5%、同男性は、16歳-24歳で19.8%、25歳-34歳で5.2%、35歳-44歳で1.5%、イ)アメリカで、2006年-2008年(平成18年-平成20年)に実施された「National Survey of Family Growth」では、18歳以降に異性の性交渉パートナーがいない」と回答した女性は、20歳-24歳で12.6%、25歳-29歳で3.4%、30歳-34歳で1.9%、35歳-39歳で0.9%、同男性は、20歳-24歳で14.4%、25歳-29歳で3.8%、30歳-34歳で3.1%、35歳-39歳で1.4%、ウ)オーストラリアの全国代表性のある研究結果(2012–2013年(平成24年-平成25年))では、「膣性交渉の経験がない」と回答した女性は、16歳-19歳で40.0%、20歳-29歳で10.9%、30歳-39歳で1.2%、同男性は、16歳-19歳で35.0%、20歳-29歳で9.6%、30歳-39歳で1.8%となっている。292
 この「はじめに。」の291文の日本の数字と同292文のイギリス、アメリカの数字を比べると、「日本の異性間性交渉未経験の割合の高さは、突出している」が、一方で、日本は、「2-②「管理売春」とグルーミング、エントラップメント、ラブボミング」の74文後段「日本人によるアジアでの児童買春やヨーロッパ諸国で流通している「児童ポルノ」の8割が日本製と指摘され、・・」、同83文前段「日本の性風俗産業は2兆-6兆円といわれているが、「東京は、タイのパタヤをしのぐアジア最大の赤線地域」として知られ、・・」と示しているように、世界に類を見ない「児童ポルノ大国」、「管理売春(性的搾取)大国」であり、同時に、『別紙1b』の「4-(2)痴漢」の23文「痴漢の被害経験のある女性の729人は、アンケートに回答した女性の35.1%で、3人に1人が被害にあっている。」と示しているように、「性犯罪(性暴力)大国」という側面があり、この対比構造は際立っている。293
 日本の性風俗産業は2兆-6兆円といわれるが、『令和3年における風俗営業等の現状と風俗関係事犯の取締り状況等について(令和4年4月/警察庁生活安全局保安課)』では、令和3年(2023年)の性風俗関連特殊営業(店舗型性風俗特殊営業・無店舗型性風俗特殊営業・映像送信型性風俗特殊営業・電話異性紹介営業)の届出数(営業所等数)は3万2,349件(前年比283件(0.9%増))で、その内訳は、ア)店舗型性風俗特殊営業が7,215件(前年比187件(2.5%減))、イ)無店舗型性風俗特殊営業が2万2,021件(前年比184件(0.8%増))、ウ)映像送信型性風俗特殊営業が2,935件(前年比294件(11.1%増))、エ)電話異性紹介営業が178件(前年比8件(4.3%減))となっている。294
 主にファッションヘルス・性感ヘルス・ソープランド・精悍マッサージ店に勤務するCSW(Commercial Sex Worker;性産業に従事する女性)と事業主449名に対するインタビューアンケート結果をまとめた『厚生労働科学研究費補助金【エイズ対策政策研究会事業】HIV検査の受検勧奨のための性産業の事業者に関する研究(分担)研究報告書(性産業に従事する事業者と女性従業員の実態調査・受検勧奨法的解釈)』では、ア)CSW以外の仕事に就いている人は55.17%(227人)で、その内訳は、パート・アルバイトが20.7%(51人)、主婦12.7%(31人)、常勤雇用8.0%(20人)で、イ)平均年齢は39.23歳で、はじめてCSWになった年齢は平均29.4歳(17歳-59歳の幅がある)、ウ)平均従事年数は6.7年(0.5ヶ月-30年の幅がある)、エ)動機は、生活費が53.9%(242人)、自身の借金返済30.2%(135人)、預金25.0%(112人)、学費20%(90人/45-49歳がもっとも高く21.4%(19人))などで、オ)労働日数は週平均3.95日で、労働時間は平均7.6時間、カ)1日に対応する客数は約2.58人(449人では約1158人/日、同約422,823人/年)で、キ)平均月収は31万2211.96円(1.5万円-2千万円の差がある)で、ク)コンドームなしの膣性交3.4%(15人)・肛門性交2.3%(10人)・フェラチオ89.5%(402人)・口腔内への射精24.8%(111人)・素股82.5%(370人)、オーラルセックス時のコンドーム使用は2.3%(10人)、ケ)性感染症発症歴は64.58%(290人)、早期発見のためのHIV抗体検査経験は17.15%(77人)である。295
 ア)イ)エ)の総計29,414店舗が営業していると仮定し、a)2兆円を割ると、1店舗の売上げは6,799.4万円、b)同6兆円で割ると、1店舗の売上げは2億398.4万円となり、平均的なデリバリー型店舗の基本料金60分18,000円で割ると、a)年間客数は3,777.49人、1日客数10.35人、b)年間客数11,332.47人、1日客数31.05人となり、この「はじめに。」の295文「・・、オ)労働日数は週平均3.95日で、労働時間は平均7.6時間、カ)1日に対応する客数は約2.58人(449人では約1158人/日、同約422,823人/年)、・・」を踏まえると、1週間営業するには、少なくとも2人の在籍が必要で、1日約2.58人をあてはめると、a)では、1店舗に9.07人の在籍、b)では、1店舗に27.23人の在籍となる。296
 したがって、ⅰ)ア)イ)エ)の総計29,414店舗に在籍しているのは、a)の2兆円であるときは266,785人、b)の6兆円であるときは800,943人となり、ⅱ)このa)b)には、日本国籍以外の女性が一定数含まれていると想定され、仮に80%が日本国籍所有者と仮定すると、a)は213,428人、b)は640,754人となる。297
 ここに、ⅲ)この「はじめに。」の295文「・・、ア)CSW以外の仕事に就いている人は55.17%(227人)で、その内訳は、パート・アルバイトが20.7%(51人)、主婦12.7%(31人)、常勤雇用8.0%(20人)で、・・」をあてはめると、a)では、CSW以外の仕事に就いている人は146,185人、パート・アルバイトは30,467人、主婦は18,693人、常用雇用は11,775人、b)では、同353,503人、パート・アルバイトは71,054人、主婦は44,895人、常用雇用は28,280人となる。298
 次に、ⅳ)平成20年(2008年)の20歳-49歳の女性数2,397.8万人を30年で割ると1学年の女性数は79.3万人となり、この「はじめに。」の文で、「・・、ウ)平均従事年数は6.7年(0.5ヶ月-30年の幅がある)、・・」を踏まえ、平均従事年数6.7年とⅱ)をあてはめて計算すると、20歳-49歳の女性に占める風俗店勤務経験者は、a)では、24.94人に1人(6.7年×79.3万人÷21.3万人)、b)では、8.29人に1人(6.7年×79.3万人÷64.1万人)となる。299
 続けて、ⅴ)20歳-49歳でCSW以外の仕事しながら性風俗店勤務経験者は、a)では、CSW以外の仕事に就いている人は36.39人に1人(6.7年×79.3万人÷14.6万人)、パート・アルバイトは177.10人に1人(6.7年×79.3万人÷3万人)30,467人、主婦は279.64人に1人(6.7年×79.3万人÷1.9万人)、常用雇用は442.76人に1人(6.7年×79.3万人÷1.2万人)、b)では、CSW以外の仕事に就いている人は15.01人に1人(6.7年×79.3万人÷35.4万人)、パート・アルバイトは74.83人に1人(6.7年×79.3万人÷7.1万人)30,467人、主婦は118.07人に1人(6.7年×79.3万人÷4.5万人)、常用雇用は183.21に1人(6.7年×79.3万人÷2.9万人)となる。300
 そして、「2-②「管理売春」とグルーミング、エントラップメント、ラブボミング」の同83文後段「・・、「東京は、タイのパタヤをしのぐアジア最大の赤線地域」として知られ、世界中で、日本への「セックスツーリズム」が組まれている。」と示しているように、中国における旧正月の春節には多くの観光客が訪日し、10人のうち2-3人が性風俗店を利用し、春節以外にも、中国の連休のときには、デリヘル(派遣型のファッションヘルス)に中国人客が押し寄せたり、ヨーロッパ客を増えたりしているが、「性風俗店の客全体に占める外国人の割合は10%程度」といわれている。301
 したがって、この「はじめに。」の296文で示しているように、a)年間客数は3,777.49人、b)年間客数11,332.47人であることから、c)ア)イ)エ)の総計29,414店舗の年間客数は、a)で111,111,090.86人(1億1,111.1万人)の90%で1億人、b)333,333,272.58人(3億3,333.3万人)の90%で3億人となり、a)の1億人は、平成20年(2008年)の20歳-69歳の男性総数4,142.5万人の2.41倍、b)の3億人は、同7.24倍に該当する。302
 この「はじめに。」の308文で「これまでの生涯で、性的産業のサービスを利用したことがある」と回答した女性は4.0%、男性は48.3%で、男性がよく利用するサービスは、ソープランドが30.6%、コールサービス(ファッションヘルス・デリバリーヘルス)が27.1%、ピンクサロンが19.5%となっている。」に準じると、20歳-69歳の男性総数4,142.5万人の48.3%は2,000.8万人となり、a)の1億人は、5.0倍、b)の3億人は、14.99倍となる。303
 つまり、単純計算では、20歳-69歳の日本の男性の48.3%は、a)1年間で5.0回、b)同14.99回、性風俗店の客、つまり、女性を買っていることになり、女性を買う総額は、平均的なデリバリー型店舗の基本料金60分18,000円では、a)で90,000円/年、b)で269,820円/年となり、ソープランドが30.6%とあるので、価格は高級店・大衆店で8万円-2.5万円と幅があるが、中級店の4万円で計算すると、a)で200,000円/年、b)で599,600円/年となる。304
 この「はじめに。」の291文、292文で示した「世界的に見て、突出して高い日本の異性間性交渉未経験」は、「パラフィリア」としての「ペドファリア」に加え、この「はじめに。」の31文-81文で示している「T(トランスジェンダー/性同一性障害)」、「LGBQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、クイア・クエスチョニング)」がかかわってくる。305
 令和5年(2023年)2月、東京大学大学院医学系研究科が、20歳-49歳の男女8000人に対してオンライン調査を実施した結果(より加速化する性的活動の不活発化が明らかに-全国調査から明らかになる我が国における性的活動の実態-)が、「Journal of Sex Research」に掲載され、女性の82.9%が異性愛者、同10.0%が無性愛者、男性の87.4%が異性愛者、同6.9%が無性愛者で、女性の15.3%、男性の19.8%が、「これまで、あらゆる形態の性交渉(膣、肛門、口腔内)をした相手がいなかった」と回答している。306
 女性ではバイセクシャルが5.5%、ホモセクシャル(レズビアン)が0.9%、男性ではバイセクシャルが3.4%、ホモセクシュアル(ゲイ)が2.0%で、回答者の割合がもっとも高かったのは、男女ともに20歳-29歳で、女性は14.7%、男性11.1%、以降、年齢があがるとともに減少した。307
 そして、「これまでに、ポルノグラフィーを利用したことがある」と回答した女性は35.5%、男性は84.1%、「週3回以上ポルノグラフィーを利用している」に対する回答は20歳代がもっとも多く、女性で6.5%、男性で34.8%、また、「これまでの生涯で、性的産業のサービスを利用したことがある」と回答した女性は4.0%、男性は48.3%で、男性がよく利用するサービスは、ソープランドが30.6%、コールサービス(ファッションヘルス・デリバリーヘルス)が27.1%、ピンクサロンが19.5%となっている。308
 注視したいのは、日本では、使う表現で回答に影響があるかも知れないが、東京大学大学院医学系研究科が実施するアンケートであっても、「これまでの生涯で、性的産業のサービスを利用したことがある」と“利用”と表現し、“買った(購入した)”と表現していないことである。309
 アダルトビデオ(AV)業界は、いま、年間1,000億円の売り上げがあり、アダルトビデオ(AV)には、レンタルとセルビデオ(個人購入)の2種類があり、1ヶ月で約3,000本が市場に出回っているといわれている。310
 この「1ヶ月で約3,000本」という数字は、1日で100本のアダルトビデオ(AV)が製作されている。311
 日本には、250社以上(個人事務所から契約女優500人を超える大手プロダクションまで)のAVプロダクション・AV事務所があり、1万人程度のアダルトビデオ(AV)に出演する女優がいるといわれ、ひとりで出演する「単体女優」は1万人のうち7%程度の約700人で、そのほとんどは2-3年で辞めているといわれている。312
 このアダルトビデオ(AV)業界の大手各社は、2000年代後半までに動画配信事情を開始し、平成25年(2013年)1月には、女性向けアダルトサイトもでき、スマートフォンの普及で、アダルトビデオ(AV)視聴も増大した。313
 この平成22年(2010年)を起算点に、令和5年(2023年)までの13年間で、アダルトビデオ(AV)に出演した女優(2年在籍)を単純計算すると、65,000人の女性がアダルトビデオ(AV)に出演し、「単体女優」は4,550人ということになる。314


 ⅵ)ⅰ)ⅱ)は、神道(スピリチュアル(霊的・精神世界))を背景とした新興宗教・カルト教団と“同質構造”であり、日本という国家が、その“同質構造”であることを受け入れている日本国民は、神道(スピリチュアル(霊的・精神世界))を背景とした新興宗教・カルト教団の勧誘・活動に対し、心理的障壁(防衛機制)は働かず、無警戒で、無関心である。315
 つまり、日本社会は、第1次世界大戦後のナチスなどの台頭で凄惨な第2次世界大戦を経験し、「極右・超保守勢力の動き」に顕著な警戒感を示し、抑止力が働く欧米諸国と異なり、太平洋戦争(日本の侵略戦争)に敗戦後の日本政治が、神道(スピリチュアル(霊的・精神世界))、新興宗教・カルト教団、極右政治団体と一体的な関係にある、つまり、日本政府の思想・イデオロギーが、ナショナリズムで復古主義、極右・超保守であることに対し、無関心で、無警戒である。316
 そして、日本政府、日本の政治と深くつながる神道(スピリチュアル(霊的・精神世界))、新興宗教・カルト教団の勧誘・洗脳、金品の奪取の“手口(手法)”が、マインド・コントロール手法のひとつの「型」である「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」である。317
 こうした国家的・社会的な背景にもとづき、日本は、世界で類を見ないほど、人を騙し、人を欺き、人の弱みにつけ込んで、人の金品を奪ったり、性的関係を強いたりする目的(狙い)で、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けやすい“風土(雰囲気)”を備え、同時に、仕掛けられたときに抗う(あらがう)ことができない脆弱な傾向を示す。318
 そして、日本人が、このマインド・コントロール手法のひとつの「型」である「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」の“手口(手法)”をどのように学び、習得するかの“解”は、第1に、明治23年(1990年)、教育の基本方針・国民道徳の基準を定めた『教育勅語』を制定し、特権階級であった「武家」の教育の根幹であった「儒教思想」で教え込み、続けて、満州事変(日中戦争)・太平洋戦争(日本の侵略戦争)下の昭和17年(1942年)に、「あるべき家庭教育を国が定め、国家が家庭での教育を統制する」と定めた『戦時家庭教育指導要綱』のもとで進めた「国民は、国家のために身を捧げる」ことを求める「皇民化教育」、「女子中等学校・国民学校」などに「母親学級」の開設を奨励し、母親に対し“軍事国家としてのあるべき家庭教育”を学び、実行させた、つまり、強烈な思想・イデオロギー教育が実施されたこと、第2は、日本政府が、明治29年(1896年)の制定から令和5年(2023年)12月施行(削除)までの126年間、「子どもを懲戒する権利(民法822条)」、つまり、5-6世代の育児で、「親が、子どもに対し、しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)を加える」ことを認めてきたことに示される。319
 国が、国民に対し思想・イデオロギー教育を徹底したり、親が子どもに「懲戒」、「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」を加えたりすることは、国が国民を、親が子どもをコントロールする(支配・管理する)、つまり、「いうことをきかせる、指示に従わせる。いうことに従わない、支持したとおりにできない、期待に応えられないと罰を与える」ことを意味し、その“やり口”は、「マインド・コントロール手法そのもの」である。320
 つまり、国が国民に対し思想・イデオロギー教育を徹底したり、親が子どもに対し、「懲戒」「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」を加えたりすることは、国民や子どもに、マインド・コントロール手法のひとつの「型」である「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を学ばせ、身につけさせる(学習させる)。321
 国民や子どもが学び、身につけることは、マインド・コントロール手法のひとつの「型」である「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛ける実践的な“手口(手法)”であり、また、仕掛けられたときには、“抗(あらが)う術(すべ)はない(なす術がない)”ことである(学習した無力感)。322
 さらに、重大な問題として、6-8歳前の子どもに対し、「懲戒」「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」を加えること、つまり、子どもの長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験は、思春期前期(10-12歳)前の子どもに「パラフィリア(性的倒錯/性嗜好障害)」の「性的興奮のパターンの確立」をもたらす。323
 この「6-8歳の子どもに、被虐待体験に起因するパラフィリア(性的倒錯/性嗜好障害)の性的興奮のパターンの確立をもたらす」ことは、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛け、性的行為・性犯罪に及ぶ加害者を生みだす(養成する)役割を果たしている。324
 したがって、子どもに対し、長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験をもたらさない法整備が整っていたり、戦争や紛争による戦禍に子どもを巻き込んだりしない国家では、a)6-8歳の子どもに、被虐待体験に起因するパラフィリア(性的倒錯/性嗜好障害)の性的興奮のパターンの確立をもたらしたり、b)マインド・コントロール手法のひとつの「型」である「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛ける実践的な“手口(手法)”を学び、身につけたり、逆に、仕掛けられたときには、“抗(あらが)う術(すべ)はない(なす術がない)”ことを学んだり、c)a)b)に起因する「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛け、性的行為・性犯罪に及ぶ加害者を生みだしたりするリスクが低くなる。325
 この視点に立つと、ⅰ)「3-①テロリズム。「現人神(天皇)」のもとでの「玉砕」「自爆」」の44文で示しているように、日本の「対米英宣戦布告」直前、昭和16年(1941年)12月8日に、日本海軍がハワイ真珠湾に集結していたアメリカ太平洋艦隊へ奇襲総攻撃をかけた「真珠湾攻撃」から僅か1年1ヶ月後の「第1次バターン半島の戦い(昭和17年(1942年)2月)」で“玉砕”して以降の3年6ヶ月間、戦地では“玉砕”し続け、連日の空爆を受け、沖縄戦で玉砕(集団自決)を強い、広島市と長崎市に原子爆弾を投下されるなど、戦禍に子どもを巻き込み、ⅱ)日露戦争直後の明治29年(1896年)の制定から令和5年(2023年)12月施行(削除)までの126年間、「子どもを懲戒する権利(民法822条)」、つまり、5-6世代の育児で、「親が、子どもに対し、しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)を加える」ことを認めてきたことを踏まえると、「はじめに。」の325文のa)b)c)について、高いリスクを抱える国家であることがわかる。326
 その日本が、世界に類を見ないほどの痴漢、レイプ(性暴力)、ハラスメント、いじめ、管理売春(性的搾取)、児童ポルノ、詐欺、新興宗教・カルト、占い・スピリチュアル(霊的・精神世界)への傾倒などの加害・被害大国である背景には、日本が、日清・日露戦争、第1次世界大戦、満州事変(日中戦争)・太平洋戦争に従事した軍人・軍属、66都市の空爆(原子爆弾投下を含む)被災者、沖縄戦の生存者敗戦時海外に残留し、帰国した日本人の多くが、暗数の「砲弾ショック/戦闘トラウマ(PTSD)」を発症していたことを起因とする家庭内での児童虐待、DVの存在がある。327
 つまり、日本が、世界に類を見ないほどの痴漢、レイプ(性暴力)、ハラスメント、いじめ、管理売春(性的搾取)、児童ポルノ、詐欺、新興宗教・カルト、占い・スピリチュアル(霊的・精神世界)への傾倒などの加害・被害大国であることと、世界に類を見ない児童虐待・DV大国であることは密接な関係にある。328
 そして、日本政府が、「第1次バターン半島の戦い(昭和17年(1942年)2月)」で“玉砕”後、直ちに敗戦を受け入れていたと仮定すると、3年6ヶ月間、“玉砕”戦法で軍人が亡くなったり、「砲弾ショック/戦闘トラウマ(PTSD)」を発症したりすることもなく、66都市の空爆(原子爆弾の投下を含む)被災はなく、沖縄戦の玉砕(集団自決)がなく、スウェーデンが、第2次世界大戦が終戦してから34年後、いまから45年前の1979年(昭和54年)に、世界で初めて「体罰禁止」を法制化したのに続いて、日本政府が、「体罰禁止」を明記した『児童虐待防止法』の制定と『民法822条(子を懲戒する権利)』を削除する政策を実施していれば、いまの日本のような、ここまでひどい児童虐待・DV、痴漢、レイプ(性暴力)、ハラスメント、いじめ、管理売春(性的搾取)、児童ポルノ、詐欺、新興宗教・カルト、占い・スピリチュアル(霊的・精神世界)への傾倒などの加害・被害大国になっていない(令和6年(2024年)10月15日現在)。329
 しかし、平成6年(1994年)4月22日に批准・締結、国連加盟国として、158ヶ国目に、『児童の権利に関する条約(以下、子どもの権利条約)』を批准・締結した日本政府は、平成12年(2000年)、『児童虐待の防止等に関する法律(以下、児童虐待防止法)』の制定・施行を余儀なくされたが、この『児童虐待防止法』の“適用”は、『民法822条(子どもを懲戒する権利)』が令和4年(2022年)に削除・施行されるまでの22年8ヶ月間、極めて限定的で、機能しないダブルスタンダードの姿勢を貫いてきた。330
 しかも、1979年(昭和54年)にスウェーデンが世界で最初に体罰を禁止してから41年後の令和2年(2020年)4月1日、日本政府は、『児童虐待防止法』を改正し、世界で59ヶ国目に「体罰を禁止した」が、『民法822条(子どもを懲戒する権利)』の削除を見送った。331
 つまり、日本は、2年8ヶ月間、『児童虐待防止法』で「体罰を禁止」した一方で、『子どもを懲戒する権利(民法822条)』を認めていた。332
 この「はじめに。」の330文「22年8ヶ月間、極めて限定的で、機能しないダブルスタンダードの姿勢」とは、a)『児童虐待防止法』にもとづき警察や児童相談所が介入する児童虐待事案は、「ネグレクト」と重度の熱傷や裂傷、後遺症の残る脳挫傷などの傷害を負い(強度は関係なく『傷害罪(刑法204条)』を適用し、刑事事件化されたり、病院が同法に準じ、警察・児童相談所に通報したりした「身体的虐待」が“主”で、b)親権者の「懲戒」、つまり、「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」のほとんどは対象外としてきたことである。333
 つまり、日本政府の意向で、b)の被虐待体験をしている子どもたちは、保護されず、家庭での生活を余儀なくされてきた。334
 しかも、c)18歳未満の児童、例えば、「2-②管理売春」とグルーミング、エントラップメント、ラブボミング」の39文前段「トー横キッズ(東京都新宿区歌舞伎町の新宿東宝ビル周辺の路地裏に集まり、たむろをする若者の集団)」、「グリ下キッズ(大阪府大阪市中央区道頓堀のグリコサインの下に集まり、たむろする若者の集団)」と呼ばれる家庭が安全でない子どもたち、つまり、暴力がある家庭環境で暮らし、「思春期後期(12-15歳)」辺りに成長した子どもが、家に帰りたく(居所が)なく、繁華街に集ったり、家出をしたりする子どもたち」が、警察に補導されると、子どもを安全な施設などに保護するのではなく、日本の強力な「親権制度(民法820条-同824条)」にもとづき、加害行為に及ぶ親が待つ家に帰す(戻す)。335
 この状況は、『子どもの権利条約』の19条で規定している「子どもが両親のもとにいる間、性的虐待を含むあらゆる形態の身体的、または、精神的暴力、傷害、または、虐待から保護されるべきである」に反している。336
 ところが、主体は親で、子どもは客体に位置づけている日本の強力な「親権制度(民法820条-同824条)」に慣れ親しんできた日本社会の価値観(モノサシ(判断基準))は、『世界人権宣言』、「人権条約」の『子どもの権利条約』、『女性差別撤廃条約』の対極に位置し、この重大で、深刻な条約違反であると声をあげる人はほとんどいない。337
 しかも、日本の一部の専門家(児童精神科医を含む)と呼ばれる人たちは、「abusu」と「maltreatment」の和訳を持ちだし、「児童虐待」は、前者の「親の権限の濫用(abuse)」を指し、後者の「親による不適切な子どもの扱い(maltreatment)/マルトリートメント(不適切な養育)」は、“児童虐待ではない”と主張し、親の子どもに対する「懲戒」、つまり、「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)を加える行為」を擁護(容認)するが、平成25年(2013年)に厚生労働省が示した『子ども虐待の手引き』では、「諸外国で一般的に使われている「マルトリートメント(不適切な養育)」という概念が、日本の児童虐待に相当する。」と規定(定義)している。338
 この解釈が、グローバルスタンダードな児童虐待の“定義(規定)”であるように、「親による不適切な子どもの扱い(maltreatment)/マルトリートメント(不適切な養育)」は、“児童虐待ではない”」との主張(考え)は間違いで、自分(たち)に都合よく解釈した“婉曲”に他ならない。339
 儒教思想に基軸とする「道徳観」が行動規範となっている日本社会は、人権意識が著しく低いが、国連で、昭和23年(1948年)12月10日に採択された『世界人権宣言(Universal Declaration of Human Rights)』は、「人権法」の“柱石(すべての人民にとって、達成すべき共通の基準)”で、国際社会は、この『世界人権宣言』にもとづき、「いかなる理由があっても、人に危害(暴力)を加えることは、人権を侵害することに他ならない」との立ち位置である。340
 日本の映画やドラマでは、友人や仲間が、「本気でやれ!」と行いを改めさせたり、気合を入れたりするときに殴ったり、親がいうことをきかなかったり、過ちを犯したりした子どもを叩いたり、感情を爆発させ、胸倉をつかんだりするシーンがあたり前のように描かれ、しかも、その役を演じるアイドルに対し、「キャー、格好がいい!」と声をあげることも少なくないが、「人権」を重視する国際社会では、「どのような関係性(相手が誰)」であっても、「いかなる理由」があっても、暴力行為には、警察が関与する。341
 メディアでは、生放送中に「番宣」で、女性アナウンサーに実体験させたり、女性雑誌で特集記事を載せたりするほど一世を風靡した「壁ドン」「頭ポンポン」は、人権を侵害するハラスメント行為、暴行行為である。342
 これらのことを問題視しない(できない)日本のメディア、フェニミスト、日本社会は、「人権」を重視する国際的な視点に立つと異常といえる。343
 日本では、例えば、平成29年(2017年)1月1日、職場でのセクシュアルハラスメント防止対策を強化する『改正男女雇用機会均等法』を施行したり、令和2年(2020年)4月1日、「体罰を禁止」した『改正児童虐待防止法』を施行したりすると、メディアなどが一斉に、“どこまで”なら、セクシュアルハラスメントにあたらないのか、体罰にあたらないのか?などと“線引き”“尺度(基準)”を話題にするが、『世界人権宣言』に準じた「人権」を重視する国際社会では、暴力行為に対して、「許される」「許されない」、「耐えられる」「耐えられない」、「ここまでなら」「これ以上は」などという“線引き”“尺度(基準)”は、いっさい存在しない。344
 つまり、『世界人権宣言』に準じた「人権」を重視する国際社会では、「この程度なら許される(大丈夫だろう)」、「一定の条件下であれば、許される(加害しても問題はない)」、例えば、性暴力(性犯罪)事案であれば、「被害者の“性別”“年齢”“態度”“言動”“姿勢”“立場”“服装”“職業”、そして、“場所”“状況(シチュエーション)”であれば、加害は許される」との自分に都合のいい自己解釈、つまり、自身の加害行為を「否認」、「矮小化」、「合理化」する“解釈”は存在しない。345
 自身の加害行為を「否認」、「矮小化」、「合理化」する“解釈”、つまり、加害行為を正当化しようとする言動に対し、グローバルスタンダードな「人権」を重視する成熟した社会では、「なんらかの理由(ある条件)があっても、暴力を行使しない人が多い。」、「あくまでも暴力行為を選択しているのは、加害者自身である。」、「したがって、“ある条件下”を持ちだし、自身の暴力行為を正当化しようとする試みは、加害者自身に都合のいい考え(自分勝手な解釈)でしかない。」、「つまり、暴力行為を選択した責任は、100%加害者にある」と解釈する。346
 この考え方、ものごとのモノサシ(判断基準)は、性暴力だけでなく、差別・排除、DV(デートDV)、児童虐待、いじめ、(教師や指導者などによる)体罰、ハラスメントなどの暴力行為(人権侵害行為)、詐欺などの不法行為すべてに適用される。347
 つまり、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられ、金品を奪われたり、性的関係を強いられたりした被害者には非はなく、責任は100%加害者(仕掛けた者)にある。368


 このレポートで伝えたいことの第2は、令和5年(2023年)7月13日施行の「刑法改正(性犯罪規定の見直し)」のポイント、性的虐待・性暴力に適用できる法の解釈を正確に伝えることである。369
 この「はじめに。」の3文に示している「性交を伴うレイプの53.1%を占める友人や知人(学校の教職員、先輩、同級生、クラブやサークル指導者や仲間、職場の上司や先輩、同僚、取引先の関係者)」の一定数は、ア)レイプドラッグで意識を失わせたり、イ)アルコールで泥酔させたり、ウ)「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けたりした犯行である。370
 この「はじめに。」の370文のア)イ)にウ)を加えた性犯罪に対し、軍国化が進む日本で、a)「日清戦争(明治27年(1894年)7月-明治28年(1895年)3月)」を経て、明治31年(1898年)に『家族法(民法1,050条のうち725条以降の第4編「親族編」、第5編「相続編」)』を公布・施行し、「家」の家父長に「親権行為(民法820条-同824条)」を与え、b)「日露戦争(明治37年(1904年)2月-明治38(1905年)年9月)」を経て、明治40年(1907年)4月24日に公布、明治41年(1908年)10月1日に施行された日本の『刑法』は、満州事変(日中戦争)・太平洋戦争に敗戦後もほぼそのまま継承され、改正することなく、対応してこなかった。371
 つまり、軍事化が進み、戦争下で制定された『家族法(民法)』『刑法』を継承した日本社会は、いまに至るまで、軍事化が進み、戦争下にあった価値観、刑罰のモノサシ(判断基準)を継承し続けていたことを意味する。372
 そして、日本国民は、このことに対し、問題視し、反対の声をあげることもなく、ただ受け入れてきた。373
 それが、性犯罪に対する法律で、主に、『強制わいせつ罪(刑法176条/13歳以上の者に対し、暴行、または、脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。)』と、『強姦罪(刑法177条/暴行、または、脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、3年以上の有期懲役に処する。13歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。)』である。374
 「有期懲役」とは、期間の定まっている懲役のことで、1ヶ月以上20年以下の期間と規定がある、つまり、『強姦罪』の「3年以上の有期懲役」は「3年以上20年以下」という意味である(2025年、懲役刑と禁固刑が「拘禁刑」に統合されることから、以降、「有期拘禁刑」に名称が変更される)。375
 この日本の『強制わいせつ罪(刑法176条)』『強姦罪(刑法177条)』の“規定”に対し、ⅰ)平成15年(2003年)8月、「女性差別撤廃委員会」は、『女性差別撤廃条約』の批准・締結国である日本政府に対し、「ドメスティック・バイオレンスを含む女性に対する暴力の問題に対し、女性に対する人権の侵害としてとり組む努力を強化する」こと、特に、女性差別撤廃委員会は、a)『配偶者暴力防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)』を拡大し、様々な形態の暴力を含めること、b)強姦罪の罰則を強化すること、c)近親姦を個別の犯罪として刑罰法令に含めること、…(中略)…を要請、ⅱ)平成16年(2004年)2月、「児童の権利委員会」は、『子どもの権利条約』の批准・締約国である日本政府に対し、a)少女の婚姻最低年齢を少年の最低年齢にまでひきあげること、b)性交同意最低年齢をひきあげることを勧告、ⅲ) 平成20年(2008年)10月、「国際人権(自由権)規約委員会(市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)」は、批准・締結国の日本政府に対し、a)『刑法177条の強姦罪』の定義の範囲を拡大し、近親姦、性交以外の性的暴行、男性に対する強姦が重大な犯罪とされることを確保すべきである、b)抵抗したことを被害者に証明させる負担をとり除き、強姦や他の性的暴力犯罪を職権で起訴するべきである。c)児童の正常な発達の保護と児童虐待の防止を目的として、少年と少女の性交同意最低年齢を13歳とされる現状のレベルからひきあげるべきであると勧告、ⅳ)平成21年(2009年)8月、「女性差別撤廃委員会」は、最終見解(勧告)として、「女性差別撤廃条約」の批准・締結国の日本政府に対し、a)被害者の告訴を性暴力犯罪の訴追要件とすることを刑法から撤廃すること、b)身体の安全及び尊厳に関する女性の権利の侵害を含む犯罪として性犯罪を定義すること、c)強姦罪の罰則をひきあげること及び近親姦を個別の犯罪として規定することと要請、ⅴ)平成22年(2010年)6月、「児童の権利委員会」は、締約国である日本政府に対し、男児であれ女児であれ、強姦の被害者すべてに同様の保護が与えられるよう刑法改正を検討することを勧告(最終見解)、ⅵ)平成26年(2014年)7月、「国際人権(自由権)規約委員会」は、委員会による前回の勧告(平成20年(2008年)10月、同委員会による最終見解上記ⅲ))に沿い、批准・締約国である日本政府に対し、『第3次男女共同参画基本計画』で策定したように、a)職権による強姦及び他の性的暴力の犯罪を訴追し、b)1日も早く性交同意年齢をひきあげ、c)強姦罪の構成要件を見直すための具体的行動をとるべきであると勧告とするなど、日本の性犯罪規定に対し、国連は、11年間、速やかに是正することを繰り返し求めてきた。376
 ⅵ)の最終勧告から3年後の平成29年(2017年)3月7日、110年ぶりに「刑法改正(性犯罪を厳罰化/平成29年(2017年)7月13日施行)」を行ったが、日本政府が対応(部分的を含む)した勧告は、ⅰ)-b)c)、ⅳ)-a)c)、ⅲ)-a)の5勧告で、見送った(是正勧告に従わなかった)のは、ⅰ)-a)、ⅱ)-b)、ⅲ)-b)c)、ⅳ)-b)、ⅴ)、ⅵ)-a)b)の8勧告、達成率は38.46%、未達成率は61.54%である。377
 日本政府が「性犯罪の厳罰化」とした「刑法改正」により、性犯罪の「親告罪」はとり除かれるなどしたが、例えば、『強姦罪(刑法177条)』が改められた『強制性交等罪』は、「13歳以上の者に対し、暴行、または、脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。」「13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。」と規定されたが、日本政府の考える“厳罰化”は、『強姦罪』の「3年以上の有期懲役」を「5年以上の有期懲役」と“2年の増加”で、上限の有期懲役、つまり、「20年以下」には変更がない。378
 新設された近親姦に対する『監護者性交等罪(179条2項)』の規定は「18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、第177条第1項の例による。」とあるので、刑罰は、「5年以上の有期懲役(20年以下)に処する。」となる。379
 『暴行罪(刑法208条)』の規定は「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役、もしくは、30万円以下の罰金、または、拘留、もしくは、科料に処す。」で、『傷害罪(刑法204条)』の規定は「人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役、または、50万円以下の罰金に処する。」であり、『強姦罪/強制性交等罪(刑法177条)』には罰金・拘留・科料がないことから十分に“厳罰”と解釈し、それは、新設された近親姦に対する『監護者性交等罪(179条2項)』についても同様で、『強姦罪/強制性交等罪(刑法177条)』の“成立要件”である「暴行、または、脅迫を用いて」の規定に縛られずに適用できることから、十分に“厳罰”と解釈している。380
 これが、「日露戦争」の直後の明治41年(1908年)10月1日に施行してから110年後の日本政府、国会議員の性犯罪、レイプ、近親姦に対する認識である。381
 それから6年間、この状況を放置し、加害者を守り、被害者を増やし続けた日本政府は、令和5年(2023年)6月16日、「刑法改正(性犯罪規定の見直し/令和5年(2023年)7月13日施行)」を行い、日本政府が対応した勧告は、ⅱ)-b)、ⅲ)-c)、ⅵ)-b)の3勧告で、「刑法改正(性犯罪の厳罰化)」の5勧告を併せて8勧告、見送った(是正勧告に従わなかった)のは、ⅰ)-a)、ⅳ)-b)、ⅴ)、ⅲ)-b)、ⅵ)-a)前段の5勧告、達成率は「性犯罪規定の厳罰化」「性犯罪規定の見直し」の2回の法改正で61.54%、未達成率は38.46%である。382
 ⅵ)-a)前段の勧告、つまり、「職権による強姦及び他の性的暴力の犯罪を訴追し、‥」との勧告については、『不同意性交等罪(刑法177条)』の成立要件のh)「経済的、または、社会的な地位にもとづく影響力によって受ける不利益を憂慮させる(憂慮している)」が一部該当し、平成29年(2017年)1月1日、職場でのセクシュアルハラスメント防止対策を強化する『改正男女雇用機会均等法』を施行し、対応したように見せている。383
 このⅵ)-a)前段の勧告、つまり、「職権による強姦及び他の性的暴力の犯罪」は、マインド・コントロール手法のひとつの「型」である「エントラップメント」を仕掛けた性犯罪を意味する。384
 しかし、この勧告は、「犯罪として訴追」としていることから、『改正男女雇用機会均等法』において、「職場でのセクシャルハラスメント防止対策の強化」とはまったく次元が違う是正勧告である。385
 にもかかわらず、日本政府と国会議員は、多くの識者は、これで十分に対応したと認識している。386
 令和5年(2023年)6月16日、「刑法改正(性犯罪規定の見直し/令和5年(2024年)7月13日施行)」で、ⅰ)『強姦罪/強制性交等罪(刑法177条)』では、「暴行または脅迫を用いること」、『準強姦罪/準強制性交等罪(刑法178条2項)』では「人の心身喪失もしくは抗拒不能に乗じること」としていたものが、『不同意性交等罪(刑法177条)』、『不同意わいせつ罪(刑法176条)』などへの変更・統合に伴い、被害者が「同意しない意思を形成し、表明し、もしくは、まっとうすることが困難な状態にさせる」、または、「その状態にあることに乗じて性交した場合」と変更されたが、この「意思を形成し、表明するのが困難」が、これまで放置されてきた「睡眠薬やアルコールの影響等で意思決定が困難になる」ことを想定したものであり、同条の“成立要件”としての「8号」の「経済的、または、社会的な地位にもとづく影響力によって受ける不利益をさせること、または、それを憂慮していること」が、「教師から生徒、スポーツの指導者から選手に対する行為」を想定し、規定したものであるが、法制審議会では、これを、「性的グルーミング」と表現した。384
 この「性的グルーミング」は、令和5年(2023年)7月13日施行の刑法改正(性犯罪規定の見直し)に向けた国会質疑で、『グルーミング罪』の新設を求めた人たちが、“ある目的”を「性犯罪に限定したグルーミング」として捉え、使用した表現で、一般的な表現ではなく、しかも、「経済的、または、社会的な地位にもとづく影響力によって受ける不利益をさせること、または、それを憂慮していること」の規定は、「グルーミング」ではなく、「エントラップメント」である。385
 いまから62年前、北朝鮮への帰国事業が1シーンとして収められている映画『キューポラのある街(昭和37年(1962年)4月8日公開)』では、この「レイプドラッグ」、つまり、「飲み物に粉末の薬を入れられる集団レイプ未遂」の1シーンも描かれている。386
 スポーツ選手に対する「ドーピング検査(採取した検体(尿や血液)禁止物質などが入っているか否かを調べる)」が、いまから58年前、『キューポラのある街』が公開されてから4年後の昭和41年(1966年)にサッカー、自転車競技の各世界選手権で導入され、国際オリンピック委員会が、スポーツにおいて禁止する物質のリストを定め、昭和43年(1968年)のグルノーブル冬季オリンピック競技大会、メキシコ夏季オリンピック競技大会で導入したことを踏まえると、この昭和43年(1968年)には、「レイプドラック」を科学的な検査による使用薬物判定は、「技術的に可能」であった(以上2文、令和6年(2024年)10月15日現在)。387
 この視点に立つと、日本政府、国会議員、警察機関は、このレイプドラックによるレイプの刑法適用に対し、55年間、できることをしなかった、つまり、放置してきた(見て見ぬふりをしてきた)。388
 また、血中アルコール濃度を確認する方法は、昭和5年(1930年)にスウェーデンで確立され、昭和12年(1937年)、アメリカのインディアナ大学が、呼気からアルコトールを検知する「アルコール量測定器」を開発し、第2次世界大戦中の1940年代には、呼気に含まれる血中アルコール濃度を直接計測できるようになり、検問で検査結果がわかるようになった。389
 日本で、「呼気1ℓに対し0.24mg以上の状態での運転を禁止した」のは、いまから64年前の昭和35年(1960年)年に制定された『道路交通法』によることから、この時点で、警察は、呼気による血中アルコール濃度を直接計測できるようになっていた(令和6年(2024年)10月15日現在)。390
 『準強姦罪/準強制性交等罪(刑法178条2項)』の成立要件の「人の心身喪失もしくは抗拒不能に乗じること」に該当する可能性があるのは、「酩酊極期」「泥酔期」「昏睡期」で、ア)千鳥足になる、なんども同じことを話す、呼吸が速くなる、吐き気、嘔吐が起こる「酩酊極期」の血中アルコール濃度は0.16-0.30%(160-300mg/dl)で、イ)まともに立てない、意識がはっきりしない、言語がめちゃめちゃになる「泥酔期」の血中アルコール濃度は0.31-0.40%(310-400mg/dl)で、ウ)揺り動かしても起きない、呼吸抑制から死亡に至る「昏睡期」の血中アルコール濃度は0.41%以上(410mg/dl以上)である。391
 アルコールの分解速度は体質、体重、体格、性別、体調など個人差があるが、1時間で分解できる純アルコール量は4-9gで、例えば、25度の焼酎に換算したときの量に対し、アルコールの分解に要する時間は、25mlで1時間、50mlで2時間、75mlで3時間、100mlで4時間、200mlで8時間、300mlで12時間であることを踏まえると、目が覚め、レイプされたと気づいてから、警察に被害を訴えたときに、血中アルコール濃度を測定すれば、容易に、何時間前の血中アルコール濃度を類推することができる。392
 にもかかわらず、被害者が頼りにする日本の警察、そして、弁護士は、63年間、「心身喪失」「抗拒不能」の立証は困難で、逆に、「心神喪失」「抗拒不能」であるがゆえに、レイプなのか、同意のある性交なのかを判断できないと『被害届』の受理さえも拒んできた(“推定無罪”の原則もあり、起訴できないとの判断を下し、同法の適用を見送ってきた)。293
 それだけではなく、日本社会特有の問題として、レイプドラック・アルコール摂取によるレイプ被害者に対し、「被害者にも落ち度があり、責任がある」との認識にもとづくことばで、2次加害を加えてきた。394
 この「2次加害」は、この「はじめに。」の345文で、「『世界人権宣言』に準じた「人権」を重視する国際社会では、「この程度なら許される(大丈夫だろう)」、「一定の条件下であれば、許される(加害しても問題はない)」、例えば、性暴力(性犯罪)事案であれば、「被害者の“性別”“年齢”“態度”“言動”“姿勢”“立場”“服装”“職業”、そして、“場所”“状況(シチュエーション)”であれば、加害は許される」との自分に都合のいい自己解釈、つまり、自身の加害行為を「否認」、「矮小化」、「合理化」する“解釈”は存在しない。」と示しているように、日本社会特有のものである。395
 次に、ⅱ)平成29年(2017年)7月13日施行の「110年ぶりの刑法改正(性犯罪を厳罰化)」、令和5年(2023年)7月13日施行の「刑法改正(性犯罪規定の見直し)」における法改正には、「遡及性(過去に遡って、影響・効力を及ぼす)」はなく、性犯罪が行われたときの「法」が適用となる、つまり、『旧法』の成立条件、量刑、公訴時効が適用されることである。396
 つまり、わかり難いが、例えば、a)平成29年(2017年)7月12日以前は、『強制わいせつ罪(刑法176条)』、『強姦罪(刑法177条)』、b)令和5年(2023年)7月12日以前は、『強制わいせつ罪(刑法176条)』、『強制性交等罪(刑法177条)』、『監護者性交等罪(同179条2項)』、『監護者わいせつ罪(同179条1項)』、c)令和5年(2023)7月13日以降は、『不同意わいせつ罪(刑法176条)』、『不同意性交等罪(刑法177条)』、『監護者わいせつ罪(同179条1項)』、『監護者性交等罪(同179条2項)』の適用となる。397
 そして、この「はじめに。」の3文に示している「性交を伴うレイプの74.4%を占める父母・祖父母・叔父叔母・いとこ、配偶者・元配偶者、友人や知人(学校の教職員、先輩、同級生、クラブやサークル指導者や仲間、職場の上司や先輩、同僚、取引先の関係者)からの性的虐待・性暴力被害のほとんどが、マインド・コントロール手法のひとつの「型」である「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けた“関係性”のもとで行使されるが、a)この加害者が“顔見知り”であることが要因となり、『別紙1b』の「4-(4)性的虐待・レイプ」の80文、81文で示しているように、自身が性的虐待・性暴力被害を受けたと気づくまでに時間を要する顕著な傾向があり、加えて、b)性的虐待・性暴力被害を受けた人のほとんどが、『別紙2b』で示しているように、ア)被害後に、ASD(急性ストレス障害)、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、その併発症としてのうつ病、パニック障害、解離性障害、身体表現性障害などの後遺症を発症したり、イ)その性的虐待(他の身体的虐待、心理的虐待、ネグレクトも含めて)が、長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験は、より深刻なC-PTSD(複雑性心的外傷後ストレス障害)、解離性同一性障害(多重人格)を発症したりする。398
 この「はじめに。」の398文のa)の状況は、ア)被害者自身が、同b)ア)イ)の後遺症の原因が、性的虐待・性暴力被害にあると認識できるまで時間を要することから、治療の開始に時間がかかり、トラウマの固着をもたらし、予後が芳しくない大きな要因となり、同時に、イ)同a)の状況は、自身が性的虐待・性暴力被害を受けたと認識したときには、既に、公訴時効に至っていて、事件化できなかったり、損害賠償金の請求ができなかったり要因となっていることが少なくない。399
 そこで、この「はじめに。」の398文のb)-ア)の被害後の後遺症の発症に対し、『強姦罪/強制性交等罪/不同意性交等罪(刑法177条)』、『強制わいせつ罪/不同意わいせつ罪(刑法176条)』、『強姦致傷罪/強制性交致傷罪(刑法181条2項)』などとは別に、『傷害罪(刑法204条)』を適用できる(判例)ことを知ることは、性的虐待・性暴力被害者には、重要な意味を持つ。400
 つまり、この「はじめに。」の398文のb)に対する同400文の後遺症に対し、『傷害罪(刑法204条)』を適用できるという視点は、「公訴時効(除斥期間)の起算点」に大きな影響を及ぼす。401
 この「はじめに。」の400文の後遺症に対し、『傷害罪(刑法204条)』を適用するときの「公訴時効(除斥期間)の起算点」は、ア)被害者が、自身の体調(心身)不良の原因が、ASD、PTSD、うつ病、パニック障害、解離性障害、身体表現性障害などの症状(発症)で、その発症・症状の原因が暴力被害であることがわかったとき、イ)被害者が、自身の体調(心身)不良に対し、受診し、医師に暴力被害を話し、診断された疾患の原因は暴力被害によると判明した(診断を受けた)ときとなる(判例)。402
 このとき、例えば、性暴力被害に適用される『強姦罪/強制性交等罪/不同意性交等罪(刑法177条)』、『強姦致傷罪/強制性交致傷罪/不同意性交致傷罪(刑法181条2項)』『強制わいせつ罪/不同意わいせつ罪(刑法176条)』、『強制わいせつ致傷罪//不同意わいせつ致傷罪(刑法181条1項)』が公訴時効に至っていたとしても、それとは別に、性暴力被害後に発症した後遺症(後遺障害)に適用できる『傷害罪(刑法204)』が公訴時効に至っていない可能性がでてくる。403
 したがって、性的虐待・性暴力などの暴力事案では、a)ASD、PTSD、その併発症としてのうつ病、パニック障害、解離性障害、身体表現性障害などの後遺症(後遺障害)に対する正確な医学的な知識とともに、b)適用される法の理解(条文だけではなく、判例を踏まえた正確な理解)が重要となる。404
 この「はじめに。」の404文のa)の「ASD、PTSD、その併発症としてのうつ病、パニック障害、解離性障害、身体表現性障害などの後遺症(後遺障害)に対する正確な医学的な知識」については『別紙2b』で、同b)の「適用される法の理解(条文だけではなく、判例を踏まえた正確な理解)」については『別紙4b』で詳述しているが、この『レポート』では、「4.刑法改正で加えられた「グルーミング」を意図した規定」、「5.暴力被害の後遺症に適用できる『傷害罪』、「公訴時効」の起算点」では、その一部を引用しまとめた。405


 このレポートで伝えたいことの第3は、性的行為を目的に、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられた性的関係(性暴力/性犯罪)を断ち切ったあとの治療(マインド・コントロールを解くなどを含む)の視点である。406
 人を騙し、人を欺き、人の弱みにつけ込んで、人の金品を奪ったり、性的関係を強いたりする目的(狙い)で、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛ける者(加害者)のモチベーション(動機)となる思考・行動特性は、“人の支配・管理”であることから、その目的が性的行為であるときには、「パラフィリア」としての「性的サディズム」にもとづく暴力的、凌辱的、残虐的な性的行為の被害が少なくない。407
 問題は、「1.身繕い(グルーミング)とアタッチメント、βエルドルフィンの働き」で示しているように、被害者にとって、加害者の「性的サディズム」にもとづく暴力的、凌辱的、残虐的な性的被害による傷み(痛み)や苦しみであっても、被害者の脳では、依存性(中毒性)の高い脳内麻薬「βエルドルフィン」の影響を受け、「快感中枢(中脳にある「A10神経核」)」はその強烈な刺激(苦痛)を覚えることである。408
 そして、この生物としての「グルーミング(身繕い)」は、アタッチメント形成の重要な役割を果たしている。409
 「母子分離」、つまり、「自己と他の境界線の分離」を確定させる3歳までの「長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験」によりアタッチメント形成の確立に問題が生じると、「カラカラに乾いたスポンジのような渇望感、心の中にぽっかりと空いた大きな穴のような空虚感、底なし沼のような寂しさ」を示す「見捨てられ不安」をもたらし、その後、成長し、「思春期(前期10-12歳/後期12-15歳)」を向かえる年代になると、親から与えられなかった「グルーミング(触れ合い)」を“渇望”し、他者に求めるようになる。410
 この「グルーミング(触れ合い)」の“渇望”を埋める他者とのかかわり方は、親から安心・安全を与えられる「グルーミング(触れ合い)」ではなく、自身が体験してきた「被虐待体験」と同じ“束縛(支配・管理)”となりやすく、“束縛(支配・管理)”するか、“束縛(支配・管理)”されるかは、その関係性におけるパワー(力関係)による。411
 そして、「長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験」をしてきた人の多くに認められる「見捨てられ不安」に起因する「親から与えられなかった「グルーミング(触れ合い)」を“渇望”する傾向がある人は、ある“目的”が性的行為であったとしても、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」に対し、著しく無警戒で、無防備であり、その被害は長期化、深刻化しやすい。412
 人の脳は、「性的サディズム」にもとづく暴力的、凌辱的、残虐的な性的行為を受けたとき、その苦痛を和らげるために脳内麻薬「βエルドルフィン」が分泌され、「快感中枢(中脳にある「A10神経核」)」はその強烈な刺激(苦痛)に反応するが、ア)「長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験」をしてきた人の脳は、既に、その被虐待体験により、「快感中枢(中脳にある「A10神経核」)」はその強烈な刺激(苦痛)を覚え、脳内麻薬「βエルドルフィン」がもたらす鎮静、気分の高揚、幸福感を覚えていることから、イ)「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられた関係性で、「性的サディズム」にもとづく暴力的、凌辱的、残虐的な性的行為を受けたときには、“燻り続けていた(眠っていた)残り火”にボッと火がつくように目覚めてしまう。413
 ここで、重要なことは、a)人の脳は、性的行為というよりも、暴力的、凌辱的、残虐的な行為がもたらす傷み(痛み)や苦しみに対し、「快感中枢(中脳にある「A10神経核」)」が反応したり、「βエルドルフィン」が分泌されたりすることであり、この両者は、その覚えた反応を繰り返し求める特性があること、b)その人の「快感中枢(中脳にある「A10神経核」)」は、甘い食べ物、激辛の食べ物を同じ「刺激」として反応するように、性的行為による気持ちよさ(刺激)と傷み(痛み)や苦しみ(刺激)を区別できず、同じ「刺激」と認識することを正確に知ることである。414
 なぜなら、脳の働きに対する正確な知識がない人が、被害の相談に応じたり、カウンセリングに応じたり、治療に応じたりしたときには、無知(知らないこと)による無理解が、2次加害をもたらすからである。415
 しかも、この被害の相談、カウンセリング、治療にあたる行政機関・支援機関の職員、カウンセラー(臨床心理士、公認心理師など)、医師(精神科医など)、そして、教職員・指導者、聖職者などが、無自覚な被虐待体験者であったり、自身の被虐待体験に無治療で、その被虐待体験がもたらすリスクに対し無自覚であったりしたとき、被害者が、自身が受けた「性的サディズム」にもとづく暴力的、凌辱的、残虐的な性的行為を語る内容(被害内容をまったく話せない被害者と、無感情で、ポルノ小説を淡々と読みあげるように被害内容を話す被害者と分かれる)に対し、性的に興奮し、性的行為(加害行為)に至ることもある。416
 「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられた関係において、加害者(仕掛けた者)の「性的サディズム」にもとづく性的行為(性暴力)を一定期間、慢性反復的(常態的)に受け続けた被害者には、“到底、受け入れられない”と嫌悪感を覚えられるかも知れないが、a)この脳内麻薬「βエルドルフィン」の働きには、ア)鎮静、気分の高揚、幸福感をもたらすだけではなく、イ)高い依存性(中毒性)があり、しかも、b)脳の「快感中枢(中脳にある「A10神経核」)」は一度覚えた強い「刺激」が薄まると、同じ強い「刺激」を繰り返し求め続ける特性(依存(中毒)をもたらす)がある。417
 つまり、a)人の「快感中枢(中脳にある「A10神経核」)」は、激辛食品や過度に甘い食品を食べたり、過激なゲームやギャンブルに興じたり、ポルノを鑑賞したり、アルコール・薬物を摂取したり、リストカット・大量服薬(OD)・過食嘔吐などの自傷行為に至ったり、性的サディズム、性的マゾヒズム、ペドファリア(小児性愛)、窃視症(のぞき、盗撮)、窃触症(さわり魔、痴漢)、露出症などの「パラフィリア(性的倒錯/性嗜好障害)」にもとづく性的行為(性暴力/性犯罪)に至ったりするなどの“強い刺激”を「うまみ」として覚え、その刺激反応が収まる(枯渇する)と、その強烈な刺激を要求する特性があり、しかも、b)ア)a)の行為などで傷み(痛み)、苦しみ(止めたいけれど、止められない状況を含む)を覚えると、脳内麻薬「βエルドルフィン」が分泌され、イ)この「βエルドルフィン」が分泌で得られる鎮静、気分の高揚、幸福感を繰り返し欲求する特性がある。418
 長期間、慢性反復的(常態的、日常的)に苛烈な被虐待体験をしてきた子ども(人)が、虐待行為のない穏やかな状況が続くと耐えられなくなり、意図的に(敢えて)、イラつかせたり、怒らせたりして、虐待されるように持って行く行動に至るのは、この「はじめに。」の418文のa)、b)-ア)イ)の特性にもとづく。419
 残酷な話であるが、同じ状況が、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられた関係において、加害者(仕掛けた者)の「性的サディズム」にもとづく性的行為(性暴力)を一定期間、慢性反復的(常態的)に受け続けた被害者にも示される。420
 つまり、性暴力被害者であっても、脳の「快感中枢(中脳にある「A10神経核」)」が、「性的サディズム」にもとづく暴力的、凌辱的、残虐的な性的行為による強烈な刺激を「うまみ」として覚え、その強烈な刺激(「性的サディズム」にもとづく暴力的、凌辱的、残虐的な性的行為)を欲求する。421
 このことが、性暴力被害の後遺症として発症したPTSD、その併発症としてのうつ病、パニック障害、解離性障害などの治療とは別に、被害者を苦しめることになり、被害後の回復を困難にする要因となる。422
 適切な治療などにより、正確な知識を得られないと、この「はじめに。」の417文-421文に示した人の脳の特性により、「自身は穢れた、汚れた、はしたない」と自己否定、自己批判を強めていくことも少なくない。423
 被害者が、「自身は穢れた、汚れた、はしたない」と自己否定、自己批判を強めるだけでなく、絶望感を覚えたとき自死リスクが高まる。424
 しかも、『別紙1b』の「1.DV/虐待/性暴力被害者の私にかかわるすべての人たちに7つのお願い」の30文「「ストレス耐性」が、大人の脳(青年期後期(18-22歳)以降)と10歳代の脳で、顕著な違いを示すことである。」、同31文「人は、ストレスを感じると、脳内で「THPホルモン」が分泌される。」、同32文「この「THPホルモン」は、不安を抑えるブレーキの役割を果たす。」、同33文「しかし、10歳代の脳では、「THPホルモン」は逆にアクセルとなり、不安を増幅させてしまう。」と示しているように、長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験をしてきた人が、10歳代に、再被害として、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられた関係性で、「性的サディズム」にもとづく暴力的、凌辱的、残虐的な性的行為を繰り返され、「自身は穢れた、汚れた、はしたない」との自己否定が絶望感をもたらしたとき、「THPホルモン」の働きで自死に向けたアクセルを踏んでしまうリスクが高まる。425
 つまり、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられた関係性で、「性的サディズム」にもとづく暴力的、凌辱的、残虐的な性的行為を繰り返された被害者の相談対応、治療のあり方は、被虐待体験をしているのか、いないのか、10歳代なのか、20歳代以降なのかで異なる。426
 加えて、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられた関係性のもとで、一定期間、慢性反復的(常態的)に「性的サディズム」にもとづく暴力的、凌辱的、残虐的な性的行為を繰り返された被害者に対する相談対応、治療(被害者自身の理解を含む)には、少なくとも、「6-④PTSDの「解離」と「再演」、「性的自傷」に対するケア」で示している程度の「再演(投影性同一視)」「性的自傷」の理解は不可欠である。427
 したがって、被害者が、性的行為を目的に、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられた性的関係のもとで、「性的サディズム」にもとづく暴力的、凌辱的、残虐的な性的行為を繰り返し受けているときには、ア)性暴力被害の後遺症として発症したPTSD、その併発症としてのうつ病、パニック障害、解離性障害などの治療の加え、イ)マインド・コントロールを解くアプローチ、ウ)脳の快感中枢(中脳にある「A10神経核」)が覚えた「性的サディズム」にもとづく暴力的、凌辱的、残虐的な性的行為に対するケアとしてのアプローチ、加えて、エ)イ)を起因とする「再演(投影性同一視)」「性的自傷」に至っているときには、その治療としてのアプローチ、オ)イ)の性的行為で、覚醒剤や違法薬物、危険ドラッグなどを使用して変性意識状態になり(キメて)、性交(セックス)し、強い快感がもたらす「キメセク」を経験させられているときには、覚醒剤や違法薬物、危険ドラッグの摂取に対する治療が必要となる。428
 残念ながら、日本の精神医療の現実は、この「はじめに。」の428文のア)の「性暴力被害の後遺症として発症したPTSD、その併発症としてのうつ病、パニック障害、解離性障害などの治療」に対してさえ不十分である。429

 この「はじめに。」で、この『レポート』で伝えたいことを3つあげたが、その「第1」の中で示した「児童虐待大国の日本が、性暴力大国、性的搾取(管理売春)大国、児童ポルノ大国、詐欺被害大国である」ことの“主要因”として、日本政府が、126年間、親権行為として、「子どもを懲戒する権利(民法822条)」を削除しなかったこと、つまり、「親が、子どもに対し、しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、身体的虐待)を加える」ことを認めてきたことをあげている。430
 その結果、『別紙1b』の「2.女性と子どもが人権を獲得するまでの遠い道のり」の66文「平成29年(2017年)、子ども支援の国際的NGO「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」が全国2万人の大人を対象に実施した「子どもに対するしつけのための体罰等に関する意識調査」では、実に68.2%の親が、子どもを叩くことを容認し、子育て中の家庭の70.1%が、過去にしつけ(教育)の一環として体罰を加えていた。」、同67文後段「・・、「体罰は、決してすべきではない」と回答した43.3%の一定数が、「お尻を叩く」、「手の甲を叩く」などの身体的虐待を「体罰」と認識していないことである。」、同68文「このことは、日本社会では、少なくとも国民の70%が「虐待の加害者」であり、同時に、「虐待の被害者」である、つまり、「長期間、慢性反復的な被虐待体験をしてきた人」であることを意味する。」と示しているように、日本で生活する圧倒的多数の人たちは、いまだに、子どもに対する「懲戒」、「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)を加える」ことを容認している。431
 このことは、日本で生活する圧倒的多数の人たちは、育児で、「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」、心理的虐待のひとつである「スケアード・ストレート(恐怖によるコントロール)」を行使しない育児の方法を知らないという深刻で、無自覚な問題を抱えている。432

 そこで、この「はじめに。」の最後に、「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」、心理的虐待のひとつである「スケアード・ストレート(恐怖によるコントロール)」を行使しない育児のあり方について、「盲導犬の育成」を例えに説明したいと思う。433
 盲導犬になるには、人とゆるぎない信頼関係ができあがっている必要がある。427
 盲導犬の候補となる赤ちゃん犬は、1歳(大型犬なので人の12歳に相当)になるまで、里親のもとで、愛情をたっぷり注がれて育つ。434
 「愛情たっぷり」というのは、“甘やかして、育てる(過保護)”“過剰に干渉して、育てる(過干渉)”という意味ではない。435
 過保護、過干渉は、子どもを支配・束縛する行為で、子どもの生きる力、子どもの意思決定権を奪う。436
 意思決定できない(判断できない)盲導犬に、人は命を委ねることはできない。437
 したがって、「愛情たっぷり」で、大切なことは、里親(養育者)と犬との信頼関係を築けるように育てるということである。438
 人と犬との信頼関係を築くために、養育者(里親)には、盲導犬の候補となる赤ちゃん犬に対し、「人」は、わたし(犬)に安全と安心をもたらしてくれる、つまり、「わたしを決して傷つけたりしない」、「わたしを決して裏切ったりしない」、「家族としてのわたしを尊重し、大切にしてくれる存在である」ということを、しっかりと心に刻み込むように接することが求められる。439
 里親には、「叩いて、躾ける」、「怒鳴って、躾ける」、「否定・批判することばを使い、躾ける」、「罰を与えて、躾ける」という虐待行為は認められていない。440
 これらの虐待行為は、犬に、人は“わたし”に危害を加え、裏切り、信頼できない存在であるとの思いを育む。441
 赤ちゃん犬を1歳(人の12歳に相当)になるまで育てる(人でいえば乳幼児期、思春期(前期10-12歳/後期12-15歳)に入るまでのプロセスに該当する)中で、叩いたり(身体的虐待)、怒鳴りつけたり、否定・批判することばを浴びせたり(以上、心理的虐待)、食事を抜く、散歩に連れて行かないなどの罰を与えて従わせようとしたり(前者は身体的虐待、後者は心理的虐待)する虐待行為は、犬は、人を信じられない存在と学ぶ。442
 つまり、犬は、人は自分に危害を加える危険な存在と認識し、人を信頼しない。443
 盲導犬は、1歳(人では、思春期(前期10-12歳/後期12-15歳))までに、里親のもとで「人は信頼できる」と心に刻み込んでいるからこそ、その後の厳しい訓練に耐え、目の不自由な人の命を守る高い技術を身につけることができる。444
 人との信頼関係を築き、人を信用し、厳しい訓練を乗り超えてきた盲導犬だからこそ、目の不自由な人が安心して身を委ね、命を預けることができる。445
 それは、お互いを信頼できる、信用できるかかけがえのない存在と認め合い、尊重し合う(リスペクトする)ことができなければ、成り立たない関係性である。446
 養育者を「親」、犬を「子ども」と置き換えてみると、このことが教えてくれる意味は、実に重い。447
 盲導犬が里親のもとで暮らす1歳、人では思春期前期(10-12歳)にあたる小学校6年生-中学校1年生までに、子どもが、「人は、大人は、教師・指導者、同級生などの仲間・友人、そして、社会は、信頼できる」と心に刻み込むことができると、子どもが成長し、自立し、厳しく、険しい道のりであっても、人生を生き抜くことができる。448
 盲導犬を育成するプロセスは、親としてどう子どもに対し、教師・指導者として生徒に対し、経営者・幹部社員として社員に対し、向き合ったらいいのか、人とのかかわり方について実に多くのことを教えてくれる。449
 この根底を脅かし、覆すのが、盲導犬の里親に禁止されている「叩いて、躾ける」、「怒鳴って、躾ける」、「否定・批判することばを使い、躾ける」、「罰を与えて、躾ける」という虐待行為である。450


はじめに。
1.身繕い(グルーミング)とアタッチメント、βエルドルフィンの働き
 ① グルーミング。アタッチメント形成の確立とストレス反応に影響
 ② 「βエルドルフィン」の依存性と性的興奮のパターンの確立の関係
2.マインド・コントロール手法とのひとつの「型」とグルーミング 
 ① 一部のペドファリアの性犯罪と「グルーミング」
 ② 「管理売春」とグルーミング、エントラップメント、ラブボミング
 ③ マインド・コントロール、洗脳のプロセス
 ④ マインド・コントロールを仕掛ける者の基本となる4つの「型」
 ⑤ 新興宗教・カルトの勧誘や詐欺商法の「型」
 ⑥ 「感受性訓練」の「型」と「手法」
3.被虐待体験とグルーミング・エントラップメント型性暴力(性犯罪)
 ① テロリズムとスピリチュアル。「現人神(天皇)」のもとでの「玉砕」「自爆」
 ② スピリチュアル(霊的)と結びつく被虐待体験者の不可思議体験
 ③ 被虐待体験と「パラフィリア」、「性的興奮のパターン」の確立
 ④ 126年間続いた「子どもを懲戒する権利」
 ⑤ 心理的虐待、スケアード・ストレートとエントラップメント
 ⑥ いじめ、グルーミング・エントラップメントを仕掛けやすい風土
 ⑦ 「いじめの4層構造」で読み解く「ジャニーズ性的虐待事件」
4.刑法改正で加えられた「グルーミング」を意図した規定
5.暴力被害の後遺症に適用できる『傷害罪』、「公訴時効」の起算点
6.深刻な後遺症をもたらす性的サディズムにもとづく性被害
 -快感中枢が覚えた「うま味」。手放せない暴力行為で得られる「うまみ」と「苦痛」に分泌される脳内麻薬「βエルドルフィン」の働き-
 ① 加害者属性の11分類と「エントラップメント」の性的サディズム
 ② 暴力行為。依存性(中毒性)をもたらす高揚感、征服感
 ③ 苦痛を和らげる「βエルドルフィン」が幸福感をもたらし依存性に
 ④ PTSDの「解離」と「再演」、「性的自傷」に対するケア


1.身繕い(グルーミング)とアタッチメント、βエルドルフィンの働き 1
 「はじめに。」の4文で示しているa)グルーミング、b)エントラップメント、c)ラブボミングは、同5文で示しているように、マインド・コントロール手法のひとつの「型」であり、その“目的”は、「性的行為」であったり、「詐欺行為」であったりする違いがあるが、共通しているのは、「2.マインド・コントロール手法とのひとつの「型」とグルーミング」の各節で示しているように、狙いを定めた人(ターゲット)を騙したり、権威を利用したりする技法(手法)の「型」である。2
 「はじめに。」で、ア)「日本は、世界に類を見ない児童虐待大国である」こと、イ)その「親が、子どもをコントロール(管理・支配)する行為である「懲戒」、「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」は、子どもに、マインド・コントロール手法のひとつの「型」である「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」の“手口(手法)”を学び、身につけさせることにつながり、ウ)1年の歳の差で先輩・後輩という上下関係が生まれる儒教思想社会の日本は、ある目的を持って、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けやすく、エ)その日本では、ある“目的”を達成するために、人を騙したり、権威を利用したりする手口(手法)、つまり、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」に対し、心理的障壁(防衛機制)は働き難く、無警戒で、無防備、抗(あらが)うことは難しく、しかも、オ)「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を容易に仕掛けられると訴えることは困難で、しかも、被害を訴えると揉み消されたり、握り潰されたりしやすい風土(雰囲気)が備わっていると述べた。3
 この「1」の3文のエ)「ある“目的”を達成するために、人を騙したり、権威を利用したりする手口(手法)、つまり、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」に対し、心理的障壁(防衛機制)は働き難く、無警戒で、無防備、抗(あらが)うことは難しい」に対する理解には、動物の身繕い(哺乳類「毛繕い」/鳥類「羽繕い」)を意味する「グルーミング」に対する理解が欠かせない。4
 
 
① グルーミング。アタッチメント形成の確立とストレス反応に影響 5
 「動物の身繕い(グルーミング)」は、からだの衛生や機能維持などを目的とする行動である。6
 この「動物の身繕い(グルーミング)」は、a)自分自身に対して行う「セルフグルーミング(自己グルーミング)」、b)他の個体に対して行う「社会的グルーミング(相互グルーミング)」に区別され、人(ホモ・サピエンス)の「社会的グルーミング(相互グルーミング)」は、ア)成長時の家族の愛情の経験(子どものアタッチメント形成の確立)、イ)人間関係の満足の増大、ウ)信頼関係の構築に大きな影響をもたらし、エ)つがい形成の役割を果たす。7
 人の成長・発達過程において、子どもが、親から良好な「相互グルーミング(社会的グルーミング)」を受けなかったり、足りなかったりすると、アタッチメント形成の確立に問題が生じる。8
 人の成長・発達過程において、親から良好な「相互グルーミング(社会的グルーミング)」を受けなかったり、足りなかったりして、「アタッチメント形成の確立に問題を抱えている人」が、第3者から、ある“目的”を達成するために、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられると抗(あらが)うことは困難となる。9
 一方で、人の成長・発達過程において、子どもが、親から良好な「相互グルーミング(社会的グルーミング)」を受けなかったり、足りなかったりして、アタッチメント形成の確立に問題を抱えている人が、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けたターゲットから得られる満足感、高揚感、優越感は「うまみ」となり、脳の快感中枢の働き(依存性(中毒性))として、その行為を繰り返す。10
 このことが、繰り返し被害にあったり、逆に、繰り返し加害行為に至ったりする主要因となっている。11
 親の子どもに対する「グルーミング(触れ合い)」が増加すると、子どもの「セロトニン」と「甲状腺刺激ホルモン(TSH)」の濃度が変化し、「グルココルチコイド受容体(GR)」を増加させ、この受容体数の増加は、「副腎皮質ステロイド」の分泌への負のフィードバックに影響し、異常な生理学的ストレス反応に対する望ましくない副作用を防ぐ重要な役割を果たす。12

 
 以下の医学用語の説明は、少し専門的になります。13
 「ステロイドホルモン(steroid hormones)」は、「生殖腺」や「副腎」でコレステロールから合成され、それらのホルモン分子の構造は脂質で、それらは、細胞膜に達すると容易に内部に通過し、細胞核へ到達する。14
 「ステロイドホルモン」は、その機能から、「性ホルモン(タンパク同化ホルモンを含む)」、「糖質コルチコイド」、「鉱質コルチコイド」などに分類されているが、多義的な作用を持ち、ステロイドホルモンはみな、生体のエネルギー利用を助ける方向に作用し、ア)血糖値の上昇、イ)水分の保持、ウ)気分の高揚などの作用を持つことから、a)副腎皮質の機能不全、b)副腎皮質を制御する「下垂体」の機能不全により、ステロイドホルモンが不足すると、全身の倦怠感などが表出する。15
 レポート『妊娠時のDV被害。-胎児は濃度の高いコルチゾールを曝露し、中枢神経系の機能障害として先天性の発達障害、出生後の精神疾患を発症-』で説明している「環境ホルモン(内分泌撹乱物質)」は、このステロイドホルモンの受容体と結合し転写を阻害したり、不適切なときに促進したりして、生体に悪影響を及ぼす。16
 「セロトニン」は、『別紙2b』の「1-(5)-①セロトニン」の4文-5文で示しているように、脳(心)の安定に欠かせず、この「セロトニン」が不足すると「うつ病」を誘発し、副交感神経の働き(リラックスする)を損ない、交感神経と副交感神経(以上、自律神経)のバランスを崩す。17
 自律神経の不調は、呼吸、消化、体温調節、ホルモン分泌などさまざまな機能に影響を及ぼし、体調不調を招く(同6文)。18
 「セロトニン」が不足すると、「うつ病」を誘発するだけではなく、恐怖や不安のコントロールが効かなくなり、混乱を招き、動悸や呼吸困難などの「身体化障害(身体表現性障害)」の症状をみせる「パニック障害」をひきおこしたり(同7文)、「同-(1)PTSD、その併発症のうつ病発症メカニズム」で示しているように、「セロトニン」は、PTSD、強迫性障害などを発症させたりする。19
 また、注意力散漫で多動、感情をコントロールし難いなどの症状をみせる「ADHD(注意欠陥多動性障害)」も、胎児期の脳幹形成期のセロトニンの分泌に影響がでたことが発症原因のひとつとされている(同-(5)8文)。20
 この「セロトニン」は、「1-(6)-①ストレスが腹痛をもたらすメカニズム」の36文-37文で示しているように、90%は腸に存在し、2%が脳に、8%が血小板に存在する。21
 「セロトニン」は、「トリプトファン」という必須アミノ酸から「5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)」を経て合成され(同38文)、このとき、「腸内細菌」が、「トリプトファン」の代謝にかかわっている(同39文)。22
 「甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone;TSH)」は、「視床下部」の下にある「脳下垂体」から分泌される「甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)」により分泌が促され、「甲状腺ホルモン」のネガティブフィードバックにより分泌が抑制される。23
 「甲状腺ホルモン」はまた、「視床下部(脳下垂体)」に働きかけ、「甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン」の分泌を抑制する。24
 この「甲状腺ホルモン」は、血液の流れに沿い、心臓、肝臓、腎臓、脳などの臓器に運ばれ、からだの新陳代謝を盛んにするなどの重要な働きを担っている。25
 「甲状腺ホルモン」が少なすぎると、代謝が落ちた症状が表出し、「甲状腺機能低下症」を発症する。26
 この「甲状腺機能低下症」の症状として、無気力、疲労感、むくみ、寒がり、体重増加、動作緩慢、記憶力低下、便秘などがあり、症状が重篤化すると、傾眠、粘液水腫性昏睡と呼ばれる意識障害をきたす。26
 また、「甲状腺ホルモン」は、代謝の調節以外にも、妊娠の成立や維持、子どもの成長や発達に重要なホルモンで、「甲状腺機能低下症」は、月経異常、不妊、流早産、妊娠高血圧症候群などと関連し、胎児、乳児、小児期の成長や発達の遅れとも関連する。27
 「グルココルチコイド」とは「副腎皮質ホルモン」のひとつで、糖質、タンパク質、脂質、電解質などの代謝、免疫反応、ストレス応答の制御にかかわるなど生体のホメオスタシス維持に重要な役割を果たしている。28
 「脳下垂体前葉」から分泌される「副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone;ACTH)」により生合成が調節される。29
 「グルココルチコイド」は、「グルココルチコイド受容体(GR)」、「ミネラルコルチコイド受容体(MR)」の2つの核内受容体を介して遺伝子の転写を制御することにより作用し、いずれの受容体も「中枢神経系(脳と脊髄)」に幅広く存在する。30
 副腎皮質ホルモンのひとつ「皮質ステロイド(コルチコステロイド;corticosteroid)」は、糖質、タンパク質、脂質、電解質などの代謝や免疫反応などに関与する重要なホルモンである。32
 ストレス負荷によりからだの神経・内分泌制御機構が働くことで、「コルチコステロイド」の分泌が亢進し、ストレス応答の制御にかかわる。33
 「皮質ステロイド(コルチコステロイド)」は、「グルココルチコイド」と「ミネラルコルチコイド」の2つに大別され、前者は、副腎皮質の束状帯の細胞で、後者は、球状帯の細胞でつくられる。34
 霊長類において、「グルココルチコイド」の中でもっとも生理作用が強いものが、ストレスホルモン「コルチゾール」である。35
 ストレス(危機)に伴う「グルココルチコイド(コルチゾール)」の分泌亢進(胎児期のコルチゾール曝露を含む)は、さまざまな脳の機能障害をひき起こすが、その脳内反応には、「副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)」、「ノルアドレナリン」「セロトニン」などのモノアミン系、グルタミン酸などの興奮性アミノ酸、サイトカインなどが関与し、これらの制御には、「HPA(視床下部-脳下垂体-副腎皮質)機能」に加え、その上位に位置する「海馬」や「前頭前皮質」のグルココルチコイド受容体を介したフィードバック機構が重要な役割を担っている。36
 「グルココルチコイド受容体(GR)」は、脳内の幅広い領域に分布するが、多く認められる部位は、大脳皮質のⅡ/Ⅲ層やⅣ層、頭頂葉や側頭葉の連合野と視覚野においてはⅣ層、前嗅核、嗅結節の錐体細胞、梨状葉の錐体細胞、嗅内野、海馬のCA1とCA2の錐体細胞、歯状回の顆粒細胞、扁桃体の中心核、分界条床核、視床の外側背側核、後外側核、内側膝状体、外側膝状体、視床下部では内側視索前野、前腹側室周囲核、室傍核小細胞性領域、弓状核、腹内側核、背内側核、腹前乳頭体核、脳幹では台形体核、青斑核、背側縫線核、小脳の顆粒細胞層である。37
 一方の「ミネラルコルチコイド受容体(MR)」は、脳内のかなり限られた領域にのみ分布し、海馬のCA1、CA2、外側中隔野、内側・中心扁桃体、大脳皮質Ⅱ層、小脳、脳幹の一部の神経細胞である。38
 「甲状腺刺激ホルモン」の受容体は、Gタンパク質結合型であり、甲状腺の上皮細胞に発現する。39
 「ホメオスタシス(生体恒常性)」とは、人が、からだの外から受ける環境や内部の変化にかかわらず、からだの状態、つまり、体温、血糖、免疫を一定に保つことである。40
 ホメオスタシスを維持するには、からだの呼吸、循環、排泄、食物摂取の機能が正常でなければならないが、危機(ストレス負荷)は、このホメオスタシスの維持を危うくする。41
 「ASD」や「PTSD」、その併発症としての「うつ病」などを発症すると、このホメオスタシスの維持、つまり、体温、血糖、免疫を一定に保つことが危うくなる。42

 
 親の子どもに対する「グルーミング(触れ合い)」が少ない(足りない)と、子どもの「グルココルチコイド受容体(GR)」は増加せず、異常な生理学的ストレス反応に対する望ましくない副作用を防ぐことができない。43
 人(ホモ・サピエンス)と遺伝子が近く、多くの共通点を持つ、群れをつくって生きるサル科の生態学、文化生態学は多くのことを教えてくれる。44
 そのひとつに、残酷な実験であるが、「ニホンザルの子どもを親からひき離して育てるとどうなるのか?」を調べたものがある。45
 人(ホモ・サピエンス)において、生まれたばかりの乳児が、親に抱かれ、授乳を受けないと死んでしまうことは誰にでもわかる。46
 親に授乳を拒絶されたり、存在を否定されたりするなど「拒絶のメッセージ」を受けた生まれたばかりの乳児は、ミルクを与えても、自ら飲むのを拒む、つまり、生きようとしないことがある。47
 同様に、親代わりとなる飼育員が、手袋などをし、肌(皮膚)を触れず(肌を通した触れ合い(グルーミング)をすることなく)にミルクを与えても、まもなく死んでしまう。48
 この授乳期に、人の手でミルクを与えて育てた(生き残った)子どものサルに、続けて、大きなしゃもじのような板で餌を与え、肌が触れ合うこと(グルーミング)なく育ったサルは、その後、ア)群れに入れずに、ひとり孤立してしまうグループと、イ)群れのサルにケンカを仕掛け、トラブルをおこすグループに分かれた。49
 そして、ウ)なんのケアも受けることなく餌だけ与えて育てたサルは、自分に子どもができたとき、子どものケアがあまりできなかったり、子どものケアをしなかったりした。50
 この「1」の49文のア)イ)、同50文のウ)の傾向は、そのまま、人の社会行動にあてはまる。51
 これらのことは、子どもの成育歴で、親の「グルーミング(触れ合い)」がいかに重要であるかを示し、「ネグレクト(育児放棄)」により、親からの「グルーミング(触れ合い)」がなかったり、少なかったりすると、「母子分離」ができずに育つ、つまり、「自己と他の境界線の分離」ができず、「自己(一人称)と他(二人称)の境界線があいまい」なまま成長し、対人関係として極端に近くなったり、極端に遠くなったりすることと、親になったときの「ネグレクト(育児放棄)」につながっていること、つまり、虐待の世代間連鎖の高いリスクを示している。52
 子どもが、社会的な刺激を受けながら成長するとき、脳では神経細胞同士が接続し、「グルタミン酸」などの神経伝達物質のやり取りが行われる。53
 「グルタミン酸」は、体内で合成できる非必須アミノ酸の一種で、リラックス成分であるGABAを生成し、アンモニアを解毒し、尿の排出を促進したり、脳の機能を活性化したりする働きがある。54
 ラットを使った研究では、「隔離されて育ったラットの脳は、社会行動に重要な領域である「内側前頭前野」では、「コルチゾール」の増加により、神経細胞同士の接続部にグルタミン酸を受けとるたんぱく質が移行し難くなる」、「細胞の骨格を制御する物質の作用で、脳の神経回路の形成異常や強い攻撃性につながる」ことが明らかになっている。55
 これらの実験結果は、親の子どもに対する「グルーミング(触れ合い)」の多い、少ないが、子どものアタッチメント形成を確立に大きな差(違い)をもたらし、異常な生理的ストレス反応にも大きな差(違い)が生じ、後々、コミュニティ・社会生活で、さまざまな障害をもたらすことを意味する。56
 この「1」の56文の「コルチゾールの影響で、脳の神経回路形成に異常が生じ、強い攻撃性を示す」のは、『別紙2b』の「3-(3)虐待行為の分類と虐待行為で損傷を受ける脳の部位」で示している「被虐待体験と関係する脳の部位の萎縮」とその影響による「易刺激性」「易興奮性」に該当するが、人が、出生後、人の暴力性、攻撃性(暴力的な反社会的行動)を目覚めさせるか、目覚めさせないかは、『別紙2b』の「3-(9)攻撃性と関係。「MOMA遺伝子」を活性化させる被虐待体験」で示しているように、暴力性、攻撃性と関係のある「MOMA遺伝子」の“スイッチ”を入れる体験、つまり、長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験、戦争や紛争による被虐殺体験(目撃しやすい生活環境を含む)が大きく影響する。57
 つまり、成育歴で、長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験、戦争や紛争による被虐殺体験(目撃しやすい生活環境を含む)をしなければ、暴力性、攻撃性と関係のある「MOMA遺伝子」の“スイッチ”が入らず、眠ったまま成長するかの姓が高くなる。58
 子どもに異常な生理的ストレス反応を与える典型例は、長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験と戦争や紛争による被虐殺体験(目撃しやすい生活環境を含む)であり、成育歴で、こうした体験をしてきた子どもは、「相互グルーミング(触れ合い)」を“渇望”する特徴がある。60
 この長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験してきた人の特徴としての「相互グルーミング(触れ合い)」の“渇望”は、「カラカラに乾いたスポンジのような渇望感、心の中にぽっかりと空いた大きな穴のような空虚感、底なし沼のような寂しさ」を示す「見捨てられ不安」を抱えた人が欲する“渇望”のことである。61
 この“渇望”にもとづく行動は、「6-④PTSDの「解離」と「再演」、「性的自傷」に対するケア」で示している「再演(投影性同一視)」としての「アタッチメント形成のやり直し」と位置づけられる。62
 「グルーミング(触れ合い)」を受けた人の脳は、「βエルドルフィン」の放出が促進される。63
 また、脳内麻薬といわれる「βエルドルフィン」は、人が痛みや苦しみを覚えたときにも分泌される。64
 例えば、「ランナーズ・ハイ」は、マラソンなどの長距離走で苦しい状態が一定時間以上続くと、脳内でその苦しいというストレスを軽減するために「βエルドルフィン」が分泌され、鎮静、気分の高揚、幸福感がもたらされる状況を指すが、その苦しいマラソンなどの長距離走を習慣的に続けるのは、脳内麻薬「βエルドルフィン」には、依存性(中毒性)があるからである。65
 乳幼児期・児童期の子どもは、親との触れ合い(グルーミング)を求め、その親との触れ合い(グルーミング)で幸福感を覚え、安心し、リラックスすることができる。66
 一方で、乳幼児期・児童期に、親との触れ合い(グルーミング)がなく(少なく)、安心とリラックスを得ることができなかった子どもは、親の代わりとなる大人(多くは年の離れた人)に対し、安心感から得られるリラックスを求め続ける。67
 このことが要因となり、ア)自身が乳幼児期・児童期だったときの親の年齢に近い人との交際(配偶者の有無は関係ない)を繰り返したり、イ)自身が乳幼児期・児童期にきょうだいがいたときには、交際相手である親の年齢に近い人に配偶者と子どもがいる構図が必要であったりする。68
 前者の一定数、後者は、不倫関係となる。69
 援助交際、パパ活の一定数は、このア)イ)の構図にもとづく。70
 金銭の授受やブランド品のプレゼントという対価に対し、(友人や知人に見せびらかしたり、自慢したりすることで承認欲求は満たされることはあるが)、この関係性に対し、脳の報酬系(快感中枢)が高揚感、幸福感を覚えなかったり、一時的であったりすることが、精神的な不安定をもたらす。71
 結果、精神安定剤・睡眠導入剤が手放せなくなったり、「グルーミング(触れ合い)」を求め、稼いだ金銭をホストなどに貢いだりする要因となる。72
 こうした構図を利用し、悪意(作為)を持って性的関係を持って行くのが、手口(手法)としての「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」である。73
 性的行為を目的に、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられた被害者にかかわるとき、この「1」の66文-68文の理解に加え、この『レポート』に記述している基礎的な知識の有無は、この「1」の69文の「不倫関係」、同70文前段の「援助交際」「パパ活」の捉え方に大きな違いをもたらす。74
 それは、性的行為を目的に、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられた人を、a)「性暴力被害にあった人」と捉えるか、「被害者と認識せず、「不倫で、性暴力に該当しない」と捉えるか、b)トラウマ体験の「再演(投影性同一視)」「性的自傷」と捉えるか、金銭目的の「売春」と捉えるかなど、“雲泥の差”として示される。75
 そして、性的行為を目的に、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられた人が、この「1」の75文のa)b)の後者、つまり、「不倫で、性暴力に該当しない」と捉えたり、金銭目的の「売春」と捉えたりする人に対し、被害を打ち明けたり、相談したりすると、心ないことばで非難されるなどの2次加害を受けることになる。76
 その要因は、ものごとの“モノサシ(判断基準)”となる価値観(思想・イデオロギーを含む)に加え、無知(知らないこと)による無理解である。77
 また、子どもが、頭痛や腹痛、発熱などで体調不良のときに、親になでられたり、抱きしめられたりすることで、体調が回復したり、回復に向かったりするのは、この「1」の11文と12文で示しているように、「セロトニン」と「甲状腺刺激ホルモン(TSH)」の濃度を高め、「グルココルチコイド受容体(GR)」を増加させ、異常な生理学的ストレスに対する適応をもたらす「グルーミング(触れ合い)」が、「βエルドルフィン」などのホンモン物質の分泌、免疫系が活発に働くからである。78
 さらに、長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験の有無、つまり、「異常な生理的ストレス反応に生じる大きな差(違い)」は、自然災害や事故、火災にあったときに、ASD(急性ストレス障害)を発症したときに、ASDの症状が継続し、PTSDの発症に至ったり、そのPTSDの症状が重篤化し、併発症としてのうつ病、パニック障害、解離性障害などを発症したり、次々と発症するさまざまな身体表現性障害の症状に苦しんだりするリスクにも大きな差をもたらす。79
 つまり、人の成長・発達過程において、子どもが、親から良好な「相互グルーミング(社会的グルーミング)」を受けなかったり、足りなかったりすることは、その後の人生で、「単回性トラウマ(心的外傷)」となり得る自然災害や事故、火災にあった人たちであっても、後遺症を発症したり、しなかったり、回復したり、しなかったり、重症・重篤化したり、しなかったりするなど、顕著な差をもたらす。80
 鎮静、気分の高揚、幸福感をもたらす脳内麻薬「βエルドルフィン」の分泌を促進する「相互グルーミング(触れ合い)」は、親子の関係に留まらず、親密な人との緊張緩和の役割を果たす。81
 
 
② 「βエルドルフィン」の依存性と性的興奮のパターンの確立の関係 82
 脳内麻薬「βエルドルフィン」の特性は、依存性(中毒性)である。83
 例えば、人の指や手の繊細な動きでなでられる、つまり「グルーミング(触れ合い)」を受けるイヌ、ネコ、ウサギ、リスなどのペット、馬や牛など家畜がうっとりし、幸福感に満たされた表情や態度を示すのは、自身や同種による通常の「グルーミング(身繕い)」では得ることができない“気持ちよさ”を覚えるからであるが、このとき、人に懐いたペットや家畜の脳では、「βエルドルフィン」が分泌されている。84
 ペットや家畜が人に懐き、人から繊細な「グルーミング(なでられる)」を繰り返し求めるようになるのは、“脳内麻薬”と呼ばれる「βエルドルフィン」には中毒性・依存性があるからである。85
 つまり、性的行為を目的とし、マインド・コントロール手法のひとつの「型」である「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられ、「性的な触れ合い(グルーミング)」を受けると「βエルドルフィン」が分泌され、その「性的な触れ合い(グルーミング)」が、意に反したり、強要されたり、苛烈だったりして傷み(痛み)や苦しみを覚えると「βエルドルフィン」が分泌される。86
 「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられた性的行為が、暴力的、凌辱的、残虐的であったとしても、自身の意思ではコントロールできない脳内麻薬「βエルドルフィン」の依存性(中毒性)の特性により、「性的な触れ合い(グルーミング)」を求める脳がつくられる。87
 「6-④PTSDの「解離」と「再演」、「性的自傷」に対するケア」で示している「再演(投影性同一視)」、つまり、「アタッチメント形成のやり直し」として、自身が乳幼児期・児童期だったときの親の年齢に近い人との交際、不倫、援助交際、パパ活で、「カラカラに乾いたスポンジのような渇望感、心の中にぽっかりと空いた大きな穴のような空虚感、底なし沼のような寂しさ」を満たす(βエルドルフィンの分泌)ことできても、それは一時のことで、直ぐに、強烈な寂しさに襲われ、再び、βエルドルフィンの分泌を求め、底なし沼のような寂しさを埋めるてくれる相手を探し、性的関係に至る。88
 この問題の理解には、「6-④PTSDの「解離」と「再演」、「性的自傷」に対するケア」で示しているように、性暴力被害者の解離と「再演(投影性同一視)」、「性的自傷」の理解が必要となる。89
 人が生まれ、成長する過程で構築される対人関係に重要な役割を果たす親の子どもに対する「グルーミング(触れ合い)」による「アタッチメント形成の獲得の有無・程度」は、人の心のメカニズムを悪用し、ある目的を達成する、つまり、人を騙したり、権威を利用したりする「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」などのマインド・コントロール手法に対する“対応”“結果”に大きな差をもたらす。90
 この視点に立つと、児童虐待大国の日本で生まれ、育っている人には、これらの仕掛けに抗(あらが)うことは非常に困難であることを理解できると考える。91
 「児童虐待大国の日本」との表記に違和感を覚える人も少なくないかも知れないが、「はじめに。」と「3-⑤126年間続いた「子どもを懲戒する権利(民法822条)」」で示しているように、グローバルスタンダードな児童虐待の定義にもとづくと、「懲戒」、つまり、「しつけ(教育)と称する体罰」は、程度、頻度に関係なく、身体的虐待、心理的虐待に他ならず、「はじめに。」の319文で示しているように、いまだに、日本で生活する圧倒的多数は、この「懲戒」「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」を容認している。92
 「児童虐待行為」としてのネグレクト、身体的虐待、性的虐待、心理的虐待を受ける(以上、「しつけ(教育)と称する体罰」を含む)と、からだが覚える痛み、精神的な苦痛(苦しみ)に対し「βエルドルフィン」が分泌され、その強烈な刺激(傷み(痛み)と苦痛)を覚えた脳の快感中枢は、その強烈な刺激(傷み(痛み)と苦痛)を求め続ける、つまり、依存(中毒)性を示す。93
 しかも、6-8歳までに体験した強烈な刺激み(痛み)と苦痛をもたらすネグレクト、身体的虐待、性的虐待、心理的虐待としての「行為」は、「3-➃被虐待体験と「パラフィリア」、「性的興奮のパターン」の確立」で示しているように、性的サディズム、性的マゾヒズム、ペドファリア(小児性愛)、窃視症(のぞき、盗撮)、窃触症(さわり魔、痴漢)、露出症などの「パラフィリア(性的倒錯/性嗜好障害)」としての「性的興奮のパターンの確立」をもたらす。94
 この「パラフィリア(性的倒錯/性嗜好障害)」としての「性的興奮のパターンの確立」は、思春期前期(10-12歳)に達する前の6-8歳ころに(小学校1-3年生までには)発達を終える。95
 その「性的興奮のパターンが確立」されると、その多くは一生続く。96
 つまり、性的行為を目的に、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛ける「パラフィリア」は、6-8歳ころには(小学校1-3年生までには)、マインド・コントロール手法のひとつの「型」である「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」により得られる「性的興奮のパターン」を確立させている。97
 この「パラフィリア(性的倒錯/性嗜好障害)」としての「性的興奮のパターンの確立」の“主要因”は、「はじめに。」の57文、60文で示しているように、ア)長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験と、イ)戦争・紛争地で生活したり、戦闘に巻き込まれたり、被虐殺体験(人が人を殺すのを目撃する体験)をすることである。98
 日本政府は、「はじめに。」で示しているように、その“主要因”となる「親権行為」として、「子どもを懲戒する権利(民法822条)」を令和4年(2022年)12月16日に削除・施行するまでの126年間、認めてきた。99
 「はじめに。」の248文、「3-⑤126年間続いた「子どもを懲戒する権利(民法822条)」」、「3-⑥心理的虐待、スケアード・ストレートとエントラップメント」で示しているように、親の子どもに対する「懲戒」、つまり、親が子どもに対し「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」を加える行為は、「親が、子どもをコントロールする(支配・管理する)」、つまり、「いうことをきかせる、指示に従わせる、罰を与える」ことで、その“手口(やり口)”は、「マインド・コントロール手法そのもの」である。100
 つまり、日本政府が126年間にわたり認めてきた親権行為として、親が子どもに対し、「懲戒」「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」を加えることは、子どもに、マインド・コントロール手法のひとつの「型」である「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を学ばせ、身につけさせる(同28文)。101
 子どもが学び、身につけることは、マインド・コントロール手法のひとつの「型」である「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛ける実践的な“手口(手法)”と、仕掛けられたときには、“抗(あらが)う術(すべ)はない(なす術がない)”ことである(同29文)。102
 そして、子どもに「懲戒」を加える、つまり、子どもに「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」を加えることは、子どもの「アタッチメント形成の確立」を損ない、「分離不安」「見捨てられ不安」を抱えさせる。103
 「分離不安」「見捨てられ不安」を抱える人の特性は、「自己と他の境界線が曖昧」なまま成長し、思春期前期(10-12歳)前の3-4年生辺りで「二人称」を獲得できず(二人称がわからず)、すべての主語が「一人称」となることである。104
 身体的虐待(懲戒、しつけ(教育)と称する体罰を含む)や性的虐待を加えられた子どもは、「自己」という境界線をいつも他人から犯されることから、自己と他人という境界線をなくし、結果、他人との適切な距離感がわからず、極端に離れるか、極端に近いかのどちらかの行動パターンとなる。105
 この「自己と他の境界線がない(あいまい)」な状況は、乳幼児期の一人称の世界観を意味し、思春期前期(10-12歳)に入る前の8-9歳(小学校3年生-4年生)になり、二人称の世界観(社会性)を身につけていく中で、他の人との会話、行動に違いが生じ、二人称の世界観、言語を中心とした社会性を身につけはじめた子どもと一人称のままの世界観に留まり続ける子どもとの齟齬をもたらす。106
 そのため、対人関係で、葛藤が生じやすく、トラブルに至ったり、巻き込まれたりしやすくなる。107
 この被虐待体験により、「自己と他の境界線がうちたてられない(自己と他の境界線がない/あいまい)」のまま成長すると、ア)人を信用できない、イ)社会的に孤立する、ウ)他の人の感情を読むことができず、対人関係に軋轢、葛藤が生まれる、エ)釣り合いのとれた見解が持てない、オ)他の人を自分の味方につけることができないなどの傾向を示す。108
 ここに、「6-①加害者属性の11分類と「エントラップメント」の性的サディズム」で示しているように、サイコパス(精神病質者/反社会性人格障害(パーソナリティ障害))の特性が加わると、自己の利益のために人を「利用」し、人を「操作」するのが基本行動となる。109
 主語は一人称、自己中心的な世界観で、敵か味方か、好きか嫌いかといった極端な二元論(二者択一)でものごとを捉え、自分に従わない者(絶対服従を誓わない者)、俺に屈しない者、俺に媚びを売らない者に対しては、「俺の敵」、「奴は嫌い」と認識し、徹底的に、冷徹に排除する(こきおろし、誹謗中傷し、叩きのめす)人が、マインド・コントロール手法のひとつの「型」としての「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛け、人の物を奪ったり、強制的に性的関係を構築したりする、つまり、人をコントロール(管理・支配)する。110
 日本で生まれ、親から「懲戒」、「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」を加えられて育った5-6世代の人たちは、その成育歴で、マインド・コントロール手法のひとつの「型」である「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」の要素を体験し、学び、身につけている一方で、親から「懲戒」、「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」を加えられ、親に絶対服従、あるいは、従順に育った人は、マインド・コントロール手法のひとつの「型」である「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられることに抗(あらが)えず、極めて脆弱である。111
 しかも、「はじめに。」で示しているように、1年の歳の差で先輩・後輩という上下関係が生まれる儒教思想社会の日本では、ある目的を持って、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けやすく、逆に、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を容易に仕掛けられると、助けを求めたり、被害を訴えたりすることは困難で、しかも、被害を訴えると揉み消されたり、握り潰されたりしやすい。112
 儒教思想社会の日本には、こうした風土(雰囲気)が備わっている。113


2.マインド・コントロール手法とのひとつの「型」とグルーミング 1
 新興宗教・カルト、スピリチュアルの勧誘では、最初は正体を隠し、宗教色・スピリチュアル(霊的)色を表にださない。2
 外国語、ボランティア、自己啓発セミナー、心理学、ヨガ、ゴスペル、テニス、サッカーなどさまざまなダミーサークルをつくり、近づく。3
 掲示板やブログなどのSNSに、2004年(平成16年)にFacebook、2006年(平成18年)7年にTwitter(X)、平成23年(2011年)にLINEがサービスに加わると、勧誘方法は、「路上、本屋、電車やバスでの声かけから、Facebook、Twitter(X)、LINE、InstagramなどのSNSに変わったが、典型的な誘導の手口(手法)は変わっていない。4
 その典型的な誘導の手口(手法)は、最初のステップとして、例えば、SNSに「ゴスペルが好き」と投稿している若者を見つけ、カルト信者が「いいね」ボタンを押し、ゴスペルサークルを装い、「一緒にやらないか?!」とコメントを送る。5
 こうしたコメント(DM)のやり取りをしたあと、サークルに誘い、仲良くなり、信頼関係を築いていく。6
 そして、次のステップとして初めて、「宗教である」ことを明かす。6
 この新興宗教・カルト、スピリチュアルの勧誘(誘導の手口(手法))は、「グルーミング」である。7
 最近では、このSNSを使った誘導の手口(手法)を使い、「子育て支援」「貧困支援」「経営者の異業種交流会」などと称し、極右・超保守団体の「日本財団」「日本会議」(統一教会(現.世界平和統一家庭連合))などが子育て世代、青年経営者をとり込んでいるが、自身が加入しているグループ・コミュニティが、極右・超保守団体の「日本財団」「日本会議」、「統一教会(現.世界平和統一家庭連合)」などのカルトの関係機関であると知らないことも少なくない。8
 同様に、イスラム過激派などの組織もこのSNSを使った誘導の手口(手法)を使い、仲間をとり込んでいる。9
 昨日(令和6年(2024年)9月13日)、1960年代-1970年代に、暴力による共産主義体制の実現を目指してゲリラ活動を展開してきた過激派組織「中核派」の学生組織「中核派全学連」は、はじめての女性の委員長を発表したが、「中核派全学連」もSNSを駆使したPR活動を活発に行っている。10
 つまり、SNSでは、新興宗教・カルト教団、スピリチュアル、ナショナリズムで復古主義な極右・超保守、左派が、子育て・貧困支援、異業種交流、サークル・自己啓発、健康食品・サプリなどを隠れ蓑に活発な勧誘合戦を展開している。11
「グルーミング」は、性暴力(性犯罪)を目的だけに仕掛ける手口(手法)ではなく、加害者(グルーミングを仕掛ける者)が、ある目的を持って選定したターゲット(狩りをする相手)に対し、「親しさを装い、手懐ける手法」のことで、マインド・コントロール手法の「型」のひとつである。12



① 一部のペドファリアの性犯罪と「グルーミング」 13
 「パラフィリア(性的倒錯/性嗜好障害)」のひとつ「ペドファリア(小児性愛者)」の一部は、性的行為(性犯罪)を目的として選定したターゲット(狩りをする相手/3歳-13歳未満の児童)に対し、「親しさを装い、手懐け、断り難い状況をつくりだし(グルーミング)」て、犯行に及ぶ。14
 アメリカで著名な性犯罪の研究者で、アメリカでの性犯罪対策の根拠となっているのが、ジョナサン・エイブルの「未治療の性犯罪者は、生涯に平均して380人の被害者に対し、延べ581回の加害行為をしている」との研究結果である。15
 「未治療の性犯罪者」の“性犯罪者”とは、主に、小児(3歳-13歳未満の児童)を狙う「ペドファリア」を指し、治療に至っていない者で、同じペドファリアであっても、「幼児期期(3-6歳)」、「学童前期(6-10歳)」、「思春期前期(10-12歳)」のいずれかを主ゾーンし、ペドファリアにとって、その時期の体型(成長度合い)が重要なファクターなる。16
 つまり、ペドファリアは、「幼児体型を好む者」、「学童児体型を好む者」、「第2次性徴前の体形を好む者」に分かれ、ペドファリアは、この主ゾーンを破ることはほぼない。17
 そのため、ペドファリアの「グルーミング」の「優しさを装い、手懐け、断り難い状況に持っていくアプローチ」は、そのゾーンごとに異なる。18
 欧米社会では、小児(3歳-13歳未満の児童)を狙ったペドファリアの犯罪が発生したときには、前歴リストなどから対象となったゾーンに沿った(行動科学の1分野「プロファイリング」にもとづく)捜査が進められる。19
 ただし、日本人を含むアジア人は、18歳前後になっても欧米人に比べ幼児体形で、顔も幼く見えることから、アジア人は、13歳以上であっても、欧米人のペドファリアの対象となっている。20
 また、ジョナサン・エイブルの研究結果以降、直接やりとりが可能(チャット機能搭載)なオンラインゲーム、SNSが劇的に発達・普及したにより、「生涯に平均して380人に対し、延べ581回の加害行為」という数字は大幅に増加することとなっている。21
 日本の刑務所で一部の性犯罪者を対象に実施している『性犯罪者処遇プログラム』の参加者に対し、この「加害したのは380人ですか?」と問うと、「「その3倍(約1,200人)はしている。」と回答したり、この回答に同意したりしていた。」と報告されていて、この数字が、いまの日本の実態を指している。22
 こうした小児(3歳-13歳未満の児童)を狙う遂行者としてのペドファリアが仕掛けるのが、親しさを装い(菓子、ゲームなどで興味を惹いたり、道を尋ねたりするを含む)、手懐け、断り難い状況をつくりだす「グルーミング」である。23
 こうした性犯罪者(ペドファリア/欧米諸国では「捕食者」と表現します)のターゲット(狙い)が小児(3歳-13歳未満の児童)であることから、その行為を「チャイルド・グルーミング」と表現する。24
 しかし、手法としての「グルーミング」は、マインド・コントロール手法の「型」のひとつであることから、児童・大人に関係なく、「グルーミング」を仕掛ける(親しさを装い、手懐け、断り難い状況をつくりだす)ことが可能で、小児性の性犯罪を対象としていない。25
 つまり、この「グルーミング」を仕掛けるターゲット(標的)は、児童(子ども)、成人(大人)に関係なく、また、手法としての「グルーミング」を仕掛ける者(加害者)についても、成人(大人)、児童(子ども)に関係はない。26
 子どもは、親が一方の配偶者や子ども(自分を含む)をコントロールする(暴力で支配する)家庭で暮らし、育つと、つまり、親が、人が「グルーミング(触れ合い)」を求める(渇望する)メカニズムを利用する手口(手法)を見て、聴いて育つと、その手口(手法)を学び、習得する。27
 子どもは、親がいうことをきかないと子どもを叩いたり、菓子など与えない罰を与えたりする(拒絶)一方で、いうことをきくと喜んだり、菓子などを与えたりする(受容)、いわゆる飴と鞭と比喩される「ダブルバインド」に示される限定的な愛情の示し方などを見て、聴いて、人をコントロールする“術”を学び、習得する。28
 そのため、人をコントロールする“術”を学んだ就学前の児童は、同じ児童に対し、稚拙ながらも“性的行為に及ぶ”“家来(配下)にする”ことを目的とした「グルーミング」「エントラップメント」を仕掛けることは十分に可能で、多くの被害が報告されている。29
 「ごっこ遊び」は2-3歳になると認められるが、人をコントロールする“術”を学んだ就学前の児童の「お医者さんごっこ」には、“性的行為”を目的とした「グルーミング」の要素が認められる。30
 ただし、児童の“性的行為”を目的とした「グルーミング」には、自身の性的虐待体験の「再演」が関係している。31
 『児童虐待の防止等に関する法律(以下、児童虐待防止法)』、『児童福祉法』に準じ、一時保護された児童が暮らす「児童養護施設」は、上級生、あるいは、先に入居している先輩による「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けた性暴力が頻発し、問題になっているが、一時保護されていない長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験をしている児童においても、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けた性暴力、仕掛けられた性暴力被害は数多く発生している。32
 その性暴力の多くは、「いじめ」として処理されている。33
 「1」の31文に「上級生、あるいは、先に入居している先輩」と記述しているが、1年の歳の差で先輩・後輩という上下関係が生まれる儒教思想社会である日本や大韓民国(韓国)では、このマインド・コントロール手法のひとつの「型」としての「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けやすい風土(雰囲気)が備わっている。34
 つまり、マインド・コントロール手法のひとつの「型」としての「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」の理解には、仕掛ける者(加害者)と仕掛けられる者(被害者)が所属するコニュニティ(国、地域、学校、会社、サークルなど)の風土(雰囲気)が大きく影響している、つまり、個人の問題ではなく、人権・社会問題であるという視点が欠かせない。35
 また、“スカートめくり”と呼ばれる性暴力(強制わいせつ/不同意わいせつ)が行われても、「子どもの真似ごと」「性的いたずら」と表現するなど、日本社会は、被害者には性暴力でしかない性的行為を矮小化し、問題視しない傾向(見て見ぬふりをする/放置する)が顕著である。36
 この“スカートめくり”には、女児(女性)が嫌がったり、逃げたりする姿や態度、声に対し歓喜し、高揚感、爽快感を得るという「快感中枢」が関与し、依存性(中毒性)を伴う「性的サディズム」が関係するなど、その行為以上に深刻な問題が絡んでいる。37



② 「管理売春」とグルーミング、エントラップメント、ラブボミング 38
 「グルーミング」を仕掛けた結果としての「管理売春」の典型例は、「トー横キッズ(東京都新宿区歌舞伎町の新宿東宝ビル周辺の路地裏に集まり、たむろをする若者の集団)」、「グリ下キッズ(大阪府大阪市中央区道頓堀のグリコサインの下に集まり、たむろする若者の集団)」と呼ばれる家庭が安全でない子どもたち、つまり、暴力がある家庭環境で暮らし、「思春期後期(12-15歳)」辺りに成長した子どもが、家に帰りたく(居所が)なく、繁華街に集ったり、家出をしたりする子どもたちに狙いを定めた大人たちが、“話のわかる大人(兄貴、先輩)”を演じ(親しさを装い)、手懐け、断り難い状況をつくりだし、「性的搾取(援助交際など管理売春)に持って行く行為である。39
 そこで、“性的搾取”を目的にした「人身取引」の“手口(手法)”を例に見ていきたいと思う。40
 それは、a)恋愛感情を利用し、他人との援助交際を強要したり、b)借金をするように仕掛け、借金返済のために売春を強要したり、c)児童を管理下に置き、性的サービスを強要したり、d)パスポートをとりあげられ、強制労働させたりするものである。41
 では、性暴力(性犯罪)を目的とした「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」の“手口(手法)”の「型」について、「1-②」の41文のa)b)c)で見ていく。42
 
a) 恋愛感情を利用し、他人との援助交際(管理売春)を強要する 43
ア) SNSで男性と知り合い、連絡をとり合い、交際がはじまると、将来の結婚を匂わせる話をするようになる。44
イ) 交際相手から「金に困っている」という話がでて、「別れないと約束する」、「俺が大事なら、他の男と援助交際するしかない」と、金を要求してくる。45
ウ) 交際相手が“女性”になりすまし、SNSで買春を呼びかける。46
 女性は、交際相手からスマートフォンを通じて常に見張られ、多くの見知らぬ男との援助交際(管理売春)をさせられる。47
エ) 将来の結婚を信じ、交際相手に援助交際で得た金をわたすが、実際は、交際相手の遊行費に使われてしまう。48
 
b) 借金をするように仕掛け、借金返済のために売春を強要する 49
ア) 知り合いに誘われてホストクラブに行き、楽しい時間を過ごす。50
 その後も癒しと安らぎを求めて、ホストクラブに通ううちに金がなくなり、代金をツケ払いにするようになる。51
イ) ツケを支払えなくなると、店のオーナーから、売春をして借金を返済するよう脅され、指示されるままホテルで待機させられる。52
ウ) 幾ら借金をしたのか(借金残高が幾らなのか)を知らされないまま、毎日、指定した相手に売春をさせられる。53
エ) ノルマを課され、受けとるのはホテル代と少額の生活費のみである。54
 「借金の返済が終わっていない!」といわれ続け、長期間にわたり大金を搾取される。55
 
c) 児童を管理下に置き、性的サービスを強要する 56
ア) 店舗から「イベントを手伝ってほしい」とSNSに投稿し、子どもの目に留まらせる。57
 SNSで目にした子どもは、軽い気持ちで応募し、そして、待ち合わせの場所に向かう。58
イ) 待ち合わせ場所には、車が待っていて、別の場所に移動する。59
 車で移動した場所につくと、服を着替えさせられ、「男性客にからだを触らせる仕事だ。」と説明を受ける。60
 帰る手段もなく、いうことをきくしかない。61
ウ) 勤務中は、出入り口に鍵をかけられ、欠勤や遅刻をすると過酷なペナルティを科される。62
 「家族や学校にバラさらす」と脅されているので、誰にも相談できない。63
エ) 休みなく働かされる。64
 辞めたくても、店長から「厳しいペナルティがある」と脅され、辞めさせてもらえない。65
 長時間労働で、気力や体力が失われ、逃げだす意欲も力は残っていない。66
 また、イ)の「からだを触らせる仕事」の過程で、その様子を撮影し、「写真(映像)がある、晒されたくないだろ!」と脅され、止めることを許さない“やり口(手口)”を踏まえると、借金返済や家計補充の目的ではじめた性風俗店勤務(無店舗のデリバリー型性風俗)で客(仕組んだ)との性交、出会い系サイトで知り合った人との性交、「宿カレ」との性交、交際相手や交際相手を含めた複数の相手との性交(デートDV/デートレイプ)を撮影され、性風俗店(無店舗のデリバリー型性風俗)で働くことを強要(管理売春)されたり、止めることを許されなかったりする状況は、このc)と同じである。67
 a)の「恋愛感情を利用し、他人との援助交際(管理売春)を強要する」の「恋愛感情を利用」は、「ラブボミング」を仕掛けられることもあるが、その多くは、家庭に暴力(両親間(マムズボーイフレンドを含む)のDV行為、自身に対する児童虐待行為)があるなど、家庭に帰りたくない(子どもにとって、家が安心できる場でない)との理由で「宿カレ」によるデートDV(デートレイプを含む)の延長線上にあり、薬物が使用されたり、性感染症に罹患したり、望まない妊娠に至ったりする大きなリスクを抱える。68
 一方で、a)のイ)の後段(「交際相手から「金に困っている」という話がでて、‥」以降)とウ)を除くと、「結婚詐欺」の典型的なパターンで、「デートDV」の一類型である。70
 そして、このa)と深くつながりのあるb)の「借金をするように仕掛け、借金返済のために売春を強要目的」に狙われやすいのが、「1-②」の39文で示した家庭に暴力(両親間(マムズボーイフレンドを含む)のDV行為、自身に対する虐待行為)があるなど、家庭に帰りたくない(いたくない)との理由で家出をしたり、ある特定の場所に集い、たむろしたりしている児童、例えば、「トー横キッズ(東京都新宿区歌舞伎町の新宿東宝ビル周辺の路地裏に集まり、たむろをする若者の集団)」、「グリ下キッズ(大阪府大阪市中央区道頓堀のグリコサインの下に集まり、たむろする若者の集団)」と呼ばれる子どもたちが該当する。71
 そして、c)の「児童を管理下に置き、性的サービスを強要」は、「児童ポルノ」の問題とつながっている。72
 以下、少し政治的な説明を含む。73
 性を売買している、性を商品としている、つまり、金銭を介しての性行為は、金の力を持ち込んだパワーの行使に他ならないという認識が極端に低い日本社会は、平成8年(1996年)にストックホルムで開催された「第1回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議」において、日本人によるアジアでの児童買春やヨーロッパ諸国で流通している「児童ポルノ」の8割が日本製と指摘され、厳しい批判にさらされることになった。74
 その背景にあるのが、「安保闘争」を踏まえ、「総括」と称し大量リンチ殺害事件後にあさま山荘事件を起こした連合赤軍、中核派の他、爆弾事件、時限式発火装置などで放火事件を繰り返した過激派、暴力団などの活動資金となったポルノ写真、ブルーフィルムが、生産設備、流通の整備などを背景に、大量生産が可能となり、1970年代末-1980年第初頭に「ビニール本」、昭和56年(1981年)以降、アダルトビデオ(AV)が市場に出回るようになったことである。75
 特に、「暴力団」は、過激化した「安保闘争」を抑えるために、安倍晋三元首相の母方の祖父岸信介元首相が、右翼団体「日本財団」の創始者である笹川良一らとともに、カルト教団「統一教会(現.世界平和統一家庭連合)」を母体とする「国際勝共連合(共産主義に勝利するための国際連盟)」を創設した戦後最大のフィクサーと呼ばれた児玉誉士夫を頼り、「大規模デモ運動(安保闘争)」を押さえ込むために暴力団と手を組んだ経緯、そのポルノの資金が政治資金となっていた経緯があり、日本政府は、この問題を放置し続けてきた。76
 日本には、麻薬や違法薬物に対する規制の甘さ・刑罰の軽さ、ギャンブル依存の温床となっているパチンコ・スロットマシンなどの無規制さなどに通じる、同様の政権・政党と業界との密接で、強固な関係性が多々あり、その関係性が、政治的判断に影響を及ぼしている。77
 昭和60年(1985年)6月25日に『女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(以下、女性差別撤廃条約)』、1994年(平成6年)4月22日に『子どもの権利条約』を批准・締結している日本政府は、「児童ポルノの8割が日本製」と厳しい批判にさらされ、「援助交際(買春)」が社会問題となる中で、漸く、平成11年(1999年)11月1日、『児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(児童ポルノ禁止法)』を施行させたが、「単純所持禁止」を盛り込んだ改正案が衆議院で可決成立したのは、実に、施行から15年を経た平成26年(2014年)6月(平成27年(2015年)7月15日適用)である。78
 日本では、「児童ポルノ」の製造は表現の自由であり、所持するのも自由だという考えがあるが、それは、子どもの犠牲のうえに成り立っている。79
 つまり、c)の「児童を管理下に置き、性的サービスを強要する状況」を容認しているのは、日本政府の姿勢、日本社会そのものの価値観・考え方が色濃く示されたもので、日本政府、日本社会は、この問題を規制することなく、放置し続けている。80
 そして、この“性的搾取”を目的にした「人身取引」の手口(手法)としての「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」というマインド・コントロール手法のひとつの「型」は、新興宗教・カルトの勧誘、スピリチュアル・占い商法、「マッチポンプ」と呼ばれる詐欺商法(霊感商法/悪徳商法/結婚詐欺)の手口(型)とほぼ同じである。81

 日本は、世界に類を見ないほど性的行為を“目的”とした「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けやすい社会的な風土を備えている背景には、女性を買う、男性を買う、子どもを買う、つまり、買春行為に寛容である(人身売買に加担している認識が欠落している)ことと無関係ではない。82
 日本の性風俗産業は2兆-6兆円といわれているが、「東京は、タイのパタヤをしのぐアジア最大の赤線地域」として知られ、世界中で、日本への「セックスツーリズム」が組まれている。83
 「セックスワーク」の背景にあるのは、預貯金も仕事もなく、直ぐに収入を得られる側面があることを踏まえると、日本は、直ぐに収入を得られる「セックスワーク」をしなければ生活することができない女性が数多く存在する、女性の貧困率が高い国であるという現実である。84
 日本では、自覚できていない人が多いが、日本は、いまから28年前の平成8年(1996年)、1人あたりGDPはG7で2位、世界17位であったが、25年後の令和3年(2021年)になると、1人あたりGDPは、G7では最下位で世界37位、物価変動の影響を除いた日本の実質経済成長率は約1.6%、世界157位と散々な状況である。85
 一方で、日本と同じ主要先進国(G7)では、イギリスが7.4%、フランスが7.0%、アメリカが5.7%などと大きく成長している。86
 1人GDPは、世界17位(平成8年(1996年))であったのが、G7では最下位で世界37位(令和3年(2021年))に転落、GNP世界2位(昭和43年(1968年)-)からGNP世界3位(平成22年(2010年))に転落しても、なんとか令和5年(2024年)までGNP世界3位を維持できたのは、「低賃金」、「長時間労働」で穴埋め、辻褄を合わせてきたからである。87
 その日本は、「子どもの7人のうち1人が貧困」で、「ひとり親世帯貧困率」は50.8%、これは、主要41ヶ国の中で4番目に高く、G7ではもっとも高く、改善の見通しはまったく立っていない。88
 なぜなら、「1-②」の85文で示しているように、日本の実質経済成長率は約1.6%、世界157位と散々たる状況だからだ。89
 経済成長が見込まれない中で、平成24年(2012年)に発足した第2次安倍晋三政権は、成長戦略の“柱”としていちづけたのが、「インバウンド(inbound)/外国人の旅行客)の増加」である。90
 しかも、その日本政府は、「セックスツーリズム」を組んで訪れる外国人をもてなす(性的サービスを整え、提供する)必要があると認識したうえで、この問題を放置し、梅毒感染者を増加させた。91
 その後、準備を進めたのが、カジノ政策(カジノ特区構想)である。92
 つまり、日本政府は、外貨を稼ぐ政策として、セックス(セックスツーリズム)とギャンブル(カジノ)を日本の目玉商品に設定した。93
 そのため、日本政府は、世界中で、日本への「セックスツーリズム」が組まれていること、子どもが接することができる場所(配布、求人広告街宣車の運行などを含む)に「性風俗専門とした求人情報」が溢れていることに対し規制することはなく、また、セックスを提供しなければ生活できない人を減らす努力をしない(貧困対策を講じない)。94
 しかも、日本政府の意向を踏まえたナショナリストで極右・超保守団体の末端部隊、そして、暴力団の末端組員は、「セックスを提供しなければ生活できない少女たち」を支援する機関を激しく中傷、苛烈な妨害活動を展開している。95
 この様相は、『ポツダム宣言』の受諾から13日後に、「進駐軍将兵をセックスでもてなす」ことを目的とした国策売春組織「慰安所」を開設した日本政府の政治姿勢と酷似する。96
 後述する「40万人の占領軍上陸」を「外国人の旅行客」と置き換えると、日本政府の政治姿勢が見えてきて、「慰安所」に慰安婦(女性)を紹介・斡旋する業者(帰還兵(復員兵)を中心とした愚連隊・暴力団)と性風俗店に女性などを紹介・斡旋する業者(暴力団、半グレ(悪質なホストを含む)、中国マフィアなど)との構図が見えてくる。97
 例えば、イギリスでは、広告業界の団体が運営する「広告基準協議会(ASA)」が、有害な性的表現やジェンダーステレオタイプを描く広告(看板サイト、新聞、ポスター、オンラインなど)を調査・規制している。98
 「ジェンダーステレオタイプが描かれた広告」とは、「女性が料理している一方で、男性はテレビを見たり、ゲームをしたりして寛いでいる様子を描いた広告」など、役割分業で性別を表現した広告は調査・規制の対象となる。99
 こうした規制は、その国の社会風土と政治姿勢が明確に示される。100
 欧米諸国から見ると、日本社会は規制のない無法地帯である。101
 日本の人たちが、交際相手や配偶者が、ポルノショップ(性風俗店)に出入りする、つまり、買春することに対し、「裏切り」ではなく、「容認する(見て見ぬふりをする)」ことは、欧米諸国では考えられないことである。102
 欧米諸国が、交際相手や配偶者が買春することを自身に対する「裏切り」と捉えるのは、人権意識そのもので、「裏切り」と捉えない多くの日本人には、この人権意識が備わっていない。103
 明治政府以降、日本は儒教思想社会をつくりあげてきたが、その儒教思想は男尊女卑であり、グローバルスタンダード(国際連合(国連)の「世界人権宣言」にもとづく)な「人権」とは真逆に位置づけられる。104
 日本社会が女性を買う、男性を買う、子どもを買う、つまり、買春行為に対し肝要であること、つまり、見て見ぬふりをすること、日本政府が規制することなく放置し続けることは、日本社会のセックス認識そのものを明確に示している。105
 そして、日本社会の性暴力(性犯罪)に対する認識を決定づける。106
 買春行為に寛容な日本政府の姿勢は、性犯罪に対する刑罰の軽さと、限定的な性犯罪の適用要件に示され、しかも、日本社会は、性犯罪に至った者に対し、不起訴に持って行くための示談を容認している。107
 弁護士の「性犯罪に至った者に対し、不起訴に持って行くための示談」に持っていく手口(手法)には、「裁判になると、公衆(傍聴人)の前で、そのときの状況を話さなければならなくなりますよ。そんなツラい体験を避けるためにも、‥」と被害者を気遣うことばを投げかける(親身になっている姿勢をアピールする)が、目的は、起訴(刑事事件化)を回避することなので、そのことばは脅しの意味を持つ、つまり、被害者の“弱み”につけ込み、コントロールする「グルーミング」+「エントラップメント」の最初のプロセスが使われる。108
 同じ“手口(手法)”は、加害者の代理人の(加害者と委任契約を締結した)弁護士、被害者が相談した弁護士、そして、被害者が相談した警察官、被害者が相談した行政や支援機関の職員にも認められる。109
 問題は、これらの人たちに共通しているのは、自身の発することば、姿勢が、相談に訪れた被害者に、性暴力(性犯罪)に及んだ加害者が仕掛けた「グルーミング」「エントラップメント」と同じであることを自覚していないことである。110
 その要因となっているのは、「2-⑤心理的虐待、スケアード・ストレートとエントラップメント」で示しているように、日本社会では、子どもに対する“しつけ”として、日常的に「スケアード・ストレート」が使われていることである。111
 以下、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けた性暴力(性犯罪)を容認する(見て見ぬふりをする)日本の性認識に大きな影響を及ぼした日本の政治姿勢である。112

(用語説明。極右・超保守・保守、左派、リベラル、ナショナリスト、ミソジニー) 113
 「超保守」とは、自国のことを極端に優れていると考えている人たちのことで、超保守派、右翼、極右、国粋主義者、タカ派、排外主義者、右派と表現される。114
 「極右(far right, extreme right)」、「急進右翼(radical right)」、「超右翼(ultra-right)」とは、過激な保守主義、超国家主義、権威主義の傾向がある政治思想で、民族主義的傾向も示し、「極右」は、ファシズム、ナチズム、ファランギズムの経験を表現するために使われ、「極右政治」は、これまで、集団に対する弾圧、政治暴力、同化の強制、民族浄化、大量虐殺をひき起こしてきた。115
 現代的な定義には、ネオ・ファシズム、ネオナチ、オルタナ右翼、人種至上主義、その他の権威主義、超国家主義、排外主義、外国人嫌悪、神権主義、人種差別主義、同性愛嫌悪、トランスフォビア、反動的な見解を特徴とするイデオロギーや組織が含まれる。116
 「保守」とは、「いままでの伝統や文化や考え方、社会を維持していく」、「昔からのやり方に従うのがあたり前だ!」との考えで、その考えに従い行動する人を「保守派」といい、同じ「保守」であっても、「人権」を背景にした「個人」の意思を尊重する他国(世界の圧倒的多数の国々)の「保守」と、「(儒教思想にもとづく)道徳観」を背景にした「家」「集団(組織)」の意思を尊重する日本の「保守」はまったく異なる。117
 同じ「保守」であっても、日本の「保守」は世界的に異質で、独得といえる。118
 「左派(左翼)」は、通常、より平等な社会を目指すための社会変革を支持する人たち(層)のことであるが、太平洋戦争敗戦後の日本では、地政学上、「安保闘争(左翼や新左翼の運動家が参加した反政府・反米運動)」を踏まえ、「資本主義」と「共産主義」「社会主義」の対立構図であったことから、日本には、「保守」と「左派」の構図はあるが、「保守」と正当な「リベラル」の“構図”は存在しない。119
 “これまで”の「(儒教思想にもとづく)道徳観」を背景にした「家」「集団(組織)」の意思を尊重する「保守」に対し、“これから”は『人権法』の“柱石”である『世界人権宣言』に沿い、「人権」を背景にした「個人」の意思を尊重する社会に変えて行こうと考え、行動する人が、「リベラル」である。120
 つまり、「リベラル」は、「人権」を前提に、「よい考えがあれば、たとえ急でも、古い昔からのやり方は捨てて、一からやり直そう」と考える人たちを指す。121
 「家制度(家父長制)」の浸透には、「儒教思想(男尊女卑)」と一般市民が寺請制度(檀家)の中で説法として慣れ親しんだ「仏教」の教えに加え、「愛国心醸成」の意図が込められた『道徳教育(思想・イデオロギー教育)』が不可欠で、その『道徳教育』はいまに至るまで続いている。122
 そのため、日本では、『世界人権宣言』にもとづくグローバルスタンダードな「人権」とは真逆に位置する価値観、つまり、正当な「リベラル」は育ち難い環境にある。123
 太平洋戦争(日本の侵略戦争)に敗戦から79年、日本の政治は、ナショナリストで復古主義、極右・超保守の政党、政治家が担い続けている。124
 日本国民(若者)が、日本政府に「No!」の声をあげたのは1度だけで、いまから64年前の昭和35年(1960年)5月、安倍晋三元首相の母方の祖父である岸信介元首相が、『日米安保条約改定案』を強行採決したことで過激になった「大規模デモ運動(安保闘争)」である。125
 昭和47年(1972年)の「連合赤軍集団リンチ事件」を経て起こした「あさま山荘立てこもり事件」で、ほとんどの若者は学生運動から退き、社会問題と距離を置き、政治に無関心になっていった(令和6年(2024年)8月31日現在)。126
 それは、日本の若者(当時18-28歳は、現在70-80歳)は、「三無主義(無気力、無関心、無責任)」、「ノンポリ学生(ノンポリティカル(nonpolitical)の略」、「ことなかれ主義」などの造語ができるほどであった。127
 日本で社会運動がなくなったのは、「大規模デモ運動(安保闘争)」「学生運動」に参加していた若者の価値観は、儒教思想(男尊女卑)にもとづく「家制度(家父長制)」を支持するナショナリストで復古主義、保守的であったからで、1970年代、ベトナム戦争が泥沼化し、アメリカではじまった反戦運動、ウーマンリブ運動(女性解放運動)は欧州諸国で活発化したが、日本では、一部の女性による市民活動に留まった。128
 このとき、日本のメディアは、「ウーマンリブ運動(女性解放運動)」に参加する女性たちを、「ヒステリック」などと揶揄し、侮蔑・卑下し、日本の人たちの圧倒的多数は、そのメディアに協調した。129
 「ナショナリスト」とは、「ナショナリズム」を信奉する者を指す。130
 「ナショナリズム」とは、自己の所属する民族のもと形成する政治思想や運動を指す用語で、国家主義、国民主義、国粋主義、国益主義、民族主義とも呼ばれる。131
 「ナショナリズム」の民族主義と「超保守」の自国のことを極端に優れているとの認識が結びつくと、自分の人種が最上であると考え、他の人種を見下し、公平に扱おうとしない「レイシスト(人種差別主義者)」として、苛烈な「ヘイト(憎悪)スピ-チ」に至る。132
 さらに、2015年(平成27年)の研究では、「性差別的な態度が強い男性は、男女の平等を促進するメッセージを読んだあと、女性に対してさらに攻撃的になった」ことが示されている。133
 つまり、性的な攻撃性を持つ男性は、男女平等や暴力防止のメッセージに逆らう行動をとる傾向が高くなる。134
 その理由として、性差別的な態度が強い男性、性的な攻撃性を持つ男性は、「自分には望む女性と性交渉をする権利があると認識している」ことをあげられる。135
 女性に向けられるこの性差別がいきつくと、女性を狙った殺人「フェミサイド」になる。136
 フェミサイドとは、「女性であることを理由に、男性が女性を殺害する」ことを指す。137
 その「フェミサイド」の背後には、「ミソジニー」が存在する。138
 ミソジニーとは、「女性に対する憎悪、嫌悪、差別意識」のことである。139
 家制度(家父長制)を背景にした家族観に馴染み、内助の功、良妻賢母を求める保守的な価値観が色濃く残る日本社会には、自分がミソジニーであることを隠したり、女性を臭いものとして蓋をしたがったりする男性が数多く存在する。140
 この人たちは、国連加盟国として、日本が、『女性差別撤廃条約』、『子どもの権利条約』にもとづき制定を余儀なくされた『児童虐待防止法』、『配偶者暴力防止法』などで、「女性と子どもが獲得してきた権利」を疎ましく、鬱陶しく、忌々しく思っている人たちと合致する。141
 アメリカでは「インセル」ということばが生まれたが、このことばは「不本意な禁欲主義者」を意味し、「俺が、恋愛やセックスをできないのは女が悪い」と女性を逆恨みして、憎悪を募らせる“一部”の男性を指す。142
 このインセルと呼ばれる“一部”の男性は、「男には、恋愛やセックスをする権利がある」、「女にケアされて性欲を満たされる権利がある」、「その権利を不当に奪われている」という強い被害者意識を持っている。143
 この被害者意識は、「女が悪い!」と女性に対する責任転嫁、逆恨みにつながり、それが、女性に対する暴力行為に表れる。144
 アダルトビデオ(AV)で、“わからせ”、つまり、「調子に乗った女、生意気な女、いうことをきかない女は、懲罰として、レイプされてあたり前の存在」である“前提”で、「男の凄さをわからせられる、屈服させられることに女は興奮し、喜び、期待している」という“演出”があるが、この背景にあるのは、『別紙1 DV/性暴力被害者の私にかかわるすべての人たちに7つのお願い+α』の「5.レイプ神話」で示している「レイプ神話」で、日本では、この「レイプ神話」を信じている人たちが少なくない。145
 いま、「極右」の動きがざわざわしている欧州諸国の人たちは、ナチスドイツが招いた侵略戦争・ユダヤ人の大量虐殺の反省から「ナショナリズム」「極右」「超保守」の政党・政治家の台頭には眼を光らせ、「これ以上は危険だ!」というラインが近づくと、抑制する力が働くが、太平洋戦争(日本の侵略戦争)に敗戦後も、「ナショナリズム」「極右」「超保守」の政党・政治家が政権を担い続けている日本は極めて異質で、極めて危険な国家であるが、その抑止となっているのが、『日本国憲法』の「9条(戦争放棄・戦力不保持・交戦権否認)」の存在である。146
 しかし、その日本は、安倍晋三政権以降、「専守防衛原則」を捨て、「集団的自衛権」を行使し、「敵基地攻撃能力」を具現化し、“再軍備”と武器輸出で懐を潤す道を歩み、『日本国憲法』を改正し、戦前のナチスドイツの『全権委任法』、戦前の大日本帝国の『国家総動員法』に匹敵する「緊急事態条項」の新設を目論んでいる。147


(『ポツダム宣言』の受諾から13日後に開設。国策売春組織「慰安所」) 148
 日本社会が、「管理売春(性的搾取)」に寛容であることには、明治政府が儒教思想社会(男尊女卑)を構築したことと、その後の日本政府の政策と深い関係がある。149
 太平洋戦争(日本の侵略戦争)の敗戦から僅か2日後の昭和20年(1945年)8月17日、組閣された東久邇内閣の国務大臣に就任した近衛文麿は、警視総監の坂信弥に「直ちに、米軍相手の売春施設をつくるように。」と命じた。150
 それは、2週間後に40万人の占領軍上陸を控える中で、日本政府は、「国策売春組織」、すなわち、「特殊慰安施設協会(RAA)」を設立し、敗戦直後の日本で、真先にとり組み、開業させたのが「慰安所」である。151
 「慰安」とは、本来、セックスを意味することばではなく、心をなぐさめ、労をねぎらうことを意味する。152
 武家の妻と女性に求められたのは、儒教思想(女性蔑視)にもとづく女性の自己犠牲なく成り立たない「内助の功」「良妻賢母」として、家父長である男性とその客人を「もてなす作法(おもてなし)」は、「慰安」そのもので、明治政府が進めた「軍国化(国民皆兵、富国強兵)」に不可欠な“税制改革(「家」を基軸にした制度設計で、いまも「税制度」「社会保障制度(年金制度)」にひき継がれている)”を進めるために構築した「家制度(家父長制)」にひき継がれた。153
 この武家における家父長に対する「もてなし」には、セックスも含まれ、いまだに、この「女性は、男性を性的に慰安する(性的にもてなすのが務め)」との考えが、日本の男性と女性のセックス観に大きな影響を及ぼし、人権尊重としての「性交同意」という概念が馴染まない大きな背景となっている。154
 一方で、日本政府、RAAが、「進駐軍将兵の慰安」として、なによりも重視したのが、「進駐軍将兵をセックスで満足させる」こと、つまり、「セックスでもてなす」ことであった。155
 この日本政府の進駐軍の慰安、つまり、「進駐軍将兵をセックスで満足させる(セックスでもてなす)」という日本の政治姿勢は、太平洋戦争(日本の侵略戦争)敗戦から79年経過したいまも、アメリカ兵によるレイプ事件などに対する日本政府の政治姿勢にそのまま示されている。156
 この「日本の女性を占領した国の男性に差しだす」というやり口は、日本政府、日本軍だけの話ではなく、満州から本国にわたる前に捕虜となった中国軍、ロシア軍の「捕虜収容所」において、民間人も同じことをしている。157
 それは、「捕虜収容所」で、結婚前の女性や夫が存命の女性を守るという名目と自身の苛烈な拷問から逃れるために、ロシア兵の慰安役として、戦争で夫を亡くした女性を生贄として差しだした(意図的に、ロシア兵にレイプさせた)ことである。158
 ロシア兵に生贄として差しだした人たちは、ロシア兵にレイプされ、絶望的な状況にうちひしがれ、傷心している隙に、ロシア兵からその女性に対し、セックス(レイプ)とひき換えに与えられた少し多めの食料(ジャガイモなど)を奪った。159
 しかも、帰国を果たしたあと、その女性たちを蔑(さげす)んだのは、ロシア兵に女性を生贄に差しだしたり、そのおかげで、ロシア兵からのレイプや拷問から逃れることができたりした人たちだった。160
 日本人には、「一部の者を犠牲にしてでも、守りたい者を優遇する文化(大義のためには犠牲は仕方がない/誰かに責任をとらせて切り捨て、一件落着にする)」が根づいている。161
 日本人の特性は、「礼儀正しい」「親切」「勤勉」「盾突かない」「規律的」などの表現で示されることが少なくないが、この表現で示される特性は、権力のある人には「盾突かず」、賞賛し、褒め称え、辛抱し、忖度するなど、「忠義」に徹する儒教思想にもとづいている。162
 一方で、日本人には、こうした“行動規範”から外れる者、例えば、病気や障害を負い働けない者、学校に通学しない者、親に心配をかけたり、親の面倒をみたりしない者、社会が定めた枠組みから外れる者、権力者に従順ではなく、逆らったり、意を唱えたり、特筆すべき能力のある者、そして、行動規範を身につけていない(外見だけで、そのように見える)外国人などに対し、非常ともいえる冷酷な態度をとったり、時に残忍な行動に至ったりする特性も併せ持つ。163
 つまり、日本人は、“行動規範”から外れる者に対し、差別的で、排除的である一面がある。164
 日本人は、“行動規範”から外れる者に否定・非難・侮蔑・卑下することばを浴びせたり、攻撃的な行動に至ったりすることに対し、極めて寛容で、同調傾向が高い。165
 話を戻す。166
 太平洋戦争(日本の侵略戦争)に敗戦直後の日本は、「左側通行から右側通行に替えるには、全国に設置されているバス停を移動させる必要があり、いまの日本にはその金はない」と「GHQ(正確には、連合国軍最高司令官(マッカーサー)=SCAP(Supreme Commander for the Allied Powers)に付属する組織である総司令部(General Headquarters)のことであるので「連合国軍最高司令官総司令部」)」に回答するほどの財政難だった。167
 にもかかわらず、日本は、霞が関、つまり、外務省・内務省・大蔵省・運輸省・東京都・警視庁などの主要官庁が動き、3300万円(現在の価格に換算すると10億円を超える)をだし、進『ポツダム宣言』の受諾から13日後、駐軍将兵向けの「慰安所」を開設した。168
 このときの座長役は、大蔵省主税局長の池田勇人(のちの首相、在任日数1575日で8位、「宏池会(現.岸田派)」の創設者)である。169
 この池田隼人は、首相時の1960年代に「所得倍増計画」を打ち立てる一方で、「3歳までは母の手で育てるべき」といういわゆる「3歳児神話」を広め、育児に専念する母親を理想とする価値観を庶民にも浸透させた。170
 この政治姿勢は、高度成長期の日本で、「結婚した女性の専業主婦化政策」につながった。171
 欧米諸国における「母親が育児に専念できる時代」は、第1次オイルショック(昭和48年(1973年))、第2次オイルショック(昭和53年(1978年))ともに終わったが、日本社会では、女性の社会進出は進まなかった。172
 なぜなら、ナショナリストで復古主義、極右・超保守政党の自由民主党政権が、女性に対し、戦前の「家制度(家父長制)」のもとでの女性の自己犠牲なくして成り立たない「内助の功」「良妻賢母」を求めた、つまり、「女性に家庭責任を負わせる」と誘導したからである。173
 国際連合(国連)が、『女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(女性差別撤廃条約)』を採択した昭和54年(1979年)、自由民主党は、『日本型福祉社会』という論文を発表し、「女性が、家庭機能として家庭責任を担い、夫が仕事に専念できるようにするのが日本のよさ」と述べて、昭和60年(1985年)、日本が『女性差別撤廃条約』を批准・締結し、同年5月、『男女雇用機会均等法』を制定する一方で、サラリーマン・公務員の妻で、専業主婦なら国民年金を払わなくても受給できる『第3号被保険者制度』を発足させ、同法を実質的に無力化させ(無機能にし)、結婚した女性の「専業主婦化」を促進した。174
 日本では、フェニミストも、当事者の女性でさえ「問題だ!」と声をあげないが、女性と生を受けただけで、年金受給年齢になったときに受けとれる年金受給額は、男性より少ない。175
 厚生省(現.厚生労働省)は、出生届を出した妊婦全員に配布する事実上育児の国定教科書といわれる『母子健康手帳』の副読本の内容が、昭和60年(1985年)を境に、母親を育児の主体から子ども主体、つまり、「母親を子どもに仕える存在」と解説が切り替わった。176
 この結果、女性の育児時間は増加したが、女性の育児時間が著しく増加しているのは、近年である。177
 30-40歳代の子育て女性が、小学校入学前の子どもの世話にかける平均時間は、平成7年(1995年)は4時間27分(267分)、平成27年(2015年)年は5時間45分(345分)、令和2年(2020年)は7時間11分(431分)、直近の25年間で1.61倍に増加している。178
 学齢期の(小・中学校在籍する)子どもがいるときには、平成7年(1995年)は36分、平成27年(2015年)年は1時間5分(65分)、令和2年(2020年)は1時間27分(87分)で、実に2.42倍に激増している。179
 また、昭和60年(1985年)5月、『男女雇用機会均等法』を制定する一方で、『第3号被保険者制度』を発足させ、「専業主婦化」を進め、同法を無力化(無機能化)させた日本政府は、昭和61年(1986年)、『労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)』を施行した。180
 いまから39-38年前の日本政府の政策(政治姿勢)が、女性の身分をハードワークの総合職、所得が低く不安定な非正規雇用、専業主婦に分断することになり、いまの女性の経済格差、男女の賃金格差の拡大をもたらす要因となっている(令和6年(2024年)8月31日現在)。181
 つまり、シングルマザーの貧困、6人に1人の子どもが貧困といういまの社会問題の発端は、これらの政策がもたらしたものである。182
 これらの政策を構築したのは、『ポツダム宣言』の受諾から僅か13日後に「進駐軍将兵の慰安所」を開設させた人たちである。183
 『ポツダム宣言』は、米英中3国首脳による日本への無条件降伏勧告のことで、昭和20年(1945年)7月26日に発せられましたが、日本政府がこの『ポツダム宣言』を黙殺する中で、アメリカは、同年8月6日に広島、同年8月9日に長崎に原子爆弾を投下、同年8月8日にソビエト連邦が「対日参戦」を宣言、満州国境を越え攻撃を開始したことを受け、同年8月14日の御前会議でポツダム宣言受諾を決定し、連合国側に通告、「戦局日ニ非ニシテ」が「戦局必スシモ好轉セス」など数ヶ所修正された詔書が、同年8月15日正午、いわゆる「玉音放送」として国民に伝えられた。184
 その無条件降伏(ポツダム宣言)に応じるまで19日間を要した日本政府は、わずか2日で、「米軍相手の売春施設(慰安所)」の設立を決めた。185
 同じ敗戦国のドイツ、イタリア、あるいは、ソ連に占領された東ヨーロッパの国々では、占領軍を相手にする売春婦は大勢いたが、国が号令を発し、莫大な予算を投じ、官僚がプロジェクトを組み、「国体護持」という名目で女性を犠牲にするという“理想”を高らかに掲げた国は、世界の中で日本だけである。186
 「国体護持」とは、天皇制維持のことである。187
 ときの為政者(日本政府)がもっとも怖れたのは、このまま戦争を続けると、ソ連の対日参戦により共産主義の影響が及び、天皇制が崩壊することであった。188
 この「ときの為政者(日本政府)がもっとも怖れた共産主義の影響で、天皇制が崩壊する」ことは、日本海を挟み、ソビエト連邦(社会主義)、中華人民共和国(共産主義)、東シナ海の台湾、資本主義と社会主義で分断された朝鮮半島と南シナ海に面するインドネシア半島(ベトナム)といった地政学上、左翼や新左翼の運動家が参加した反政府・反米運動(安保闘争など)に警戒心を強めたCIA(アメリカ中央情報局)主導の下で、ア)安倍晋三元首相の母方の祖父で、東条英機内閣の商工大臣を務め権力の中枢に位置し、A級戦犯で逮捕、昭和27年(1952年)に公職追放を解除され、「再軍備」「日本国憲法の改正」を目指す「日本再建連盟」を結成、昭和28年(1953年)4月の総選挙で当選して政界復帰を果たし、わずか4年で首相の座に就いたナショナリストで復古主義、極右・超保守の政治家である岸信介首相(当時)、イ)戦後最大のフィクサーと呼ばれた児玉誉士夫、ウ)右翼団体「日本財団」の創始者である笹川良一の3人が創設したカルト教団「統一教会(現.世界平和統一家庭連合)」を母体とする「国際勝共連合(共産主義に勝利するための国際連盟)」の創設につながった。189
 ナショナリズムで復古主義、極右・超保守政党と右翼団体「日本財団」とカルト教団「統一教会(現.世界平和統一家庭連合)」との深い関係はいまに至り、ここに、この安保闘争後に結成された47都道府県に本部を置く、「親学」を主導する日本最大の超国家主義・極右主義団体「日本会議」、この「日本会議」の幹部が役員を兼務する「神道政治連盟」を加えて、例えば、令和5年(2023年)年4月1日に創設した『こども家庭庁』は、「日本会議」が主導し、令和45(2023年)4月1日施行した『こども基本法』は、「日本財団」が成立させるなど、いまに至る日本の国造り(法整備・政策)を進めている。190
 因みに、『こども基本法』の成立と『こども家庭庁』の創設の目的は、「日本再建連盟」を創設した岸信介元首相らの悲願である「日本の再軍備(軍国化)」を進める満州事変・太平洋戦争中の『戦時家庭教育要項』に通じる『家庭教育支援法』の成立である。191
 そして、組閣から10日後、『ポツダム宣言』の受諾(8月14日)から13日後の同年8月27日、RAAは、占領軍の上陸地点に近い品川の大森海岸に「慰安所第1号」として、「小町園」を開店した。192
 このとき、「小町園」に集められた女性は、50人である。193
 日本政府が、『ポツダム宣言』から13日、組閣から10日で、「慰安所」を開店できたことは、戦前の日本の政府や軍部にそのノウハウが蓄積されていたことを意味する。194
 この事実は、太平洋戦争敗戦後の日本を造った政治家、官僚たちがどのような政治思想、信条を持った人たちだったか想像に難くないできごとといえる。195



(「公娼制度」の終わりと『売春防止法』、先進的な「北欧モデル」) 196
 日本独特の「公娼制度」のもとで構築された「遊郭分化」は、女性の自己犠牲ではじめて成り立つ「内助の功」「良妻賢母」で示される武家の女性が男性を慰安する(もてなす)行為が深く関係している。197
 日本の「公娼制度」のはじまりは、鎌倉幕府が、公的な宴席での接待役に遊女を招集し、管理する「遊君別当」を設け、室町幕府は、「傾城局」を置き、宿駅などの傾城(遊女)を統轄しようとしたことで、その後、豊臣秀吉が「遊郭」を設けたのを機に確立した。198
 世界に類を見ない日本独特の遊郭文化、つまり、遊女が歌を詠み(読み書き)、楽曲、歌舞ができたのは、政権交代で、身を落とした公家、武家の女性が遊女になったからである。199
 平安時代の中期にはじまった「武家(軍事を主務とする官職)」の女性に求められたのは、家庭的であると同時に、男性よりも勇敢で、決して負けないというものであった。200
 武家の若い娘は感情を抑制し、神経を鍛え、薙刀を操って自分を守るために武芸の鍛錬を積むことになったが、時代の変遷により、武家の女性たちに音曲・歌舞・読書・文学などの教育が施されるようになった。201
 それは、父親や夫が家庭で憂さを晴らす助けとなること、つまり、武家の女性が担う役割は、普段の生活の中に、女性たちが音曲・歌舞・読書・文学などで“彩”と“優雅さ”を添えることに変わっていった。202
 武家では、儒教思想にもとづき、娘としては父親のため、妻としては夫のため、母としては息子のために、「献身的に尽くす」ことが女性の役割とされ、「男性が忠義を心に、主君と国のために身を捨てる」ことと同様に、「女性は夫、家、家族のために自らを犠牲し、夫、男性をひき立てる役割を担う」ことを求められた。203
 この役割が、武家の女性に求められた「内助の功」「良妻賢母」であり、この「内助の功」「良妻賢母」は、「はじめに。」の86文-88文で示しているように、武家の儒教思想(男尊女卑)にもとづく。204
 そして、この武家の女性が、「家庭で、男性の憂さを晴らす」という役割には、男性を性的に喜ばす行為も含まれるようになり、このことが、武家の妻が夫を「もてなす(待遇する、応対する、世話する)」という意味になり、この考えは、いまも「女性が男性に性的に奉仕する」ということばが存在するように、日本の男女の性的関係にひき継がれ、しかも、アダルトビデオ(AV)で描かれる演出の影響もあり、その傾向は、顕著になっているともいえる。205
 アダルトビデオ(AV)の影響を受け、「女性は男性に性的に奉仕する」との考えを至っている者が、性的行為を目的として、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けたときには、「性的サディズム」にもとづく性的行為に至る可能性が高くなる。206
 その武家の女性が「遊郭」に流れた主な政権交代は、安土桃山から江戸、江戸から明治の2回である。207
 武家の女性に求められた「内助の功」「良妻賢母」は、武家の枠をでた「遊郭」で、女性が、男性をもてなし、喜ばすという「日本特有のおもてなし文化」の礎となっていった。208
 つまり、武家(家父長である男性)の客人を武家の妻と女性がもてなす作法が、「遊郭」で客(男性)をもてなす作法となり、それが、その後、宿屋や店で客をもてなすようになり、倒幕後、武家の女性が、地主や庄屋などに嫁ぐようになると、武家の女性が担ってきた音曲・歌舞・読書・文学などで“彩”と“優雅さ”は、教養として一般市民にも広まり、明治9年(1876年)に華族・士族に与えられていた家禄を廃止し、「武士」という特権的身分を解体した「秩禄処分」から151年経過したいまも、華道(生け花)・茶道・着付け・舞踊(バレエを含む)、琴の代替としてピアノ・バイオリンなど女性のお稽古の定番となっている(令和6年(2024年)8月31日現在)。209
 この世界に類を見ない「遊郭文化」をつくりあげた日本の「公娼制度」は、太平洋戦争(日本の侵略戦争)に敗戦から13年後の昭和33年(1958年)、『売春防止法』の制定でその歴史に幕を下ろしたが、この流れは、トルコ風呂(ソープランド)での“もてなし(接客)”にひきつがれていった。210
 いまでこそ、宿泊先のホテルにコールガールを派遣することが主流になったが、料亭での会食やゴルフの接待と同様に、「トルコ風呂(ソーブランド)」は、取引先への接待として利用されるなど、「遊郭」が担ってきた客をもてなす姿勢という一部の役割はいまも残り、デリバリー型性風俗など、その形態は多様化している。211
 日本では、金品を支払い性行為する買春行為は、『売春防止法』でとり締まることができるが、罰則はなく、逮捕されることはない。212
 唯一の例外は、いまから25年前の平成11年(1999年)11月26日に制定された『児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律』の対象となる児童、つまり、「18歳未満の児童」に対し金銭を支払い、性行為等を行ったときで、同法の『児童買春罪』、『児童福祉法』違反、『青少年保護育成条例』違反などが適用できる(令和6年(2024年)8月31日現在)。213
 また、「18歳未満の児童」を買春し、裸や下着などの写真を撮影したときには、同法の『児童ポルノ製造罪』を適用できる。214
 この撮影には、買春者が撮影するケースに加え、「18歳未満の児童に撮影させ、送信させる」ことも含まれる。215
 また、出会い系サイトやSNSに、18歳未満の児童に対し、売春を促すような書き込みをしたときには、性行為に至らなくても、『インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律(出会い系サイト規制法)』)を適用できる。216
 日本では、買春行為が法的に禁止されているのは、あくまでも18未満の児童に対する買春行為に限定されているが、ヨーロッパでは、スウェーデン、ノルウェー、アイスランド、北アイルランド、フランスが採用している「北欧モデル」の他、イギリスが、買春を禁止し、買う側は罰せられる。217
 「北欧モデル」とは、根本的な人権侵害である売買春の社会的廃絶に向けた法体系で、a)売春店の経営、売買春の周旋、売買春から第3者が利益を得ることなどを禁止すること、b)買春行為をも処罰の対象とすること、c)売春者を処罰せず、離脱(足抜け)に向けて社会的・医療的・経済的等々の支援を提供することという3つの柱にもとづいている。218
 例えば、「北欧モデル」を採用しているフランスでは、性関連サービスに対価を払った者には罰金1500ユーロ(約18万円)、再犯者に対しては最大で3750ユーロ(約46万円)の罰金を科し、性労働者の窮状について学ぶ講習会への出席を義務づけている。219
 また、売春産業から抜けだしたい外国人の性労働者には、半年間の在留許可を与え、売春防止のために補助金を拠出している。220
 人権解釈の乏しく、社会福祉が脆弱な日本では、こうした「北欧モデル」とほど遠い状況である。221
 いまの日本に通じる近代国家としての礎をつくりあげ、儒教思想(男尊女卑)にもとづく「家制度(家父長制)」、軍事国家下で日本の男性が求める「慰安」として、女性や妻は、夫や男性をセックスで満足させるという考え、価値観をつくりあげたのは、いうまでもなく倒幕を果した新政府軍をひき継いだ明治政府で、その流れは、「藩閥政治(反政府軍の薩摩藩、長州藩の主流2藩に加え、肥前藩(佐賀藩)、土佐藩の4藩)」として、いまにひき継がれている。222
 この理解なく、日本の人権問題としての「ジェンダー」認識、人権侵害行為としての差別・排除、DV(デートDV)、児童虐待、性暴力(緊急避妊薬、中絶薬の導入を含む)、いじめ、(教師や指導者などによる)体罰、ハラスメントなど日本特有の人権問題、ジェンダー問題、社会福祉問題を考え、論じることはできない。223
 ソープランドをはじめとする性風俗店でのもてなしをはじめとして、宴会や催しにコンパニオンを呼び接客にあたらせる行為などは、女性の自己犠牲ではじめて成り立つ「内助の功」「良妻賢母」で男性をもてなし、喜ばすという「日本特有のおもてなし」に他ならず、このことは、「セクシュアルハラスメント」、「エントラップメント型の性暴力(性犯罪)」を見え難くする役割(加害者は加害した自覚を奪い、被害者は被害を受けた認識を鈍らせる)を果たしている。224


(赤線廃止とレイプ増加、復員兵の結婚でレイプ減少。レイプは家庭での経緯) 225
 先に「日本の性風俗産業は2兆-6兆円といわれているが、「東京は、タイのパタヤをしのぐアジア最大の赤線地域」として知られ、世界中で、日本への「セックスツーリズム」が組まれている。」と述べたが、戦後にできた「赤線」は、『風俗営業取締法』もとづき、警察(公安委員会)に「カフェ(特殊飲食店)」として許可をもらい、一定の区画で営業を許可されたもので、「特殊飲食店街(特飲街)」とも呼ばれる。226
 「青線」は、『食品衛生法』にもとづき、保健所に「飲食店」として許可をもらい、非合法で売春営業を行っていた区域である。227
 これらの「赤線」「青線」は、戦前にあった「玉の井」のような「私娼街」の名称が変わっただけで、「赤線」は、建前として「(客と従業員の)恋愛は法律で管理できません」とし、「対価を伴う性行為は恋愛による」と、事実上、公認で売春を許可していた。228
 定着しなかった表現として、いまでいうOLなどがアフター5で商売をする場所の「白線」、暴力団が絡んだ場所の「黒線」、電話や紹介所を通して家や旅館などに派遣する「黄線」があり、表現としては定着していないが、いまに残る「性風俗店(無店舗のデリバリー型性風俗を含む)」の形態である。229
 「赤線区域」で働く女性は、労働省がデータをとり、憲兵隊の流れを汲む厚生省(当時)が衛生管理を行っていた。230
 一方の「青線」は非合法で、既成事実のもとで「黙認」されていた。231
 昭和33年(1958年)の『売春防止法』の制定により、この「赤線」が廃止されると、レイプをはじめとする性犯罪が増加した一方で、他国と同様に、帰還兵(復員兵)によるレイプ、殺人、自殺は減少に転じた。232
 そのきっかけとなったのは、その帰還兵(復員兵)が、家庭を持つになった(結婚した)ことである。233
 このことは、家庭を持った帰還兵(復員兵)によるDV・児童虐待行為としての「性暴力」の増加につながった。234
 「帰還兵によるレイプ、殺人、DV(暴力的になった性行為を含む)、児童虐待、自殺の増加」は、ベトナム戦争後、アメリカの深刻な社会問題となり、湾岸戦争、イラン・イラク戦争、アフガニスタン紛争などに派遣されたNATO軍などの兵士が、帰還した国々で同様の様相を示していることから、このことは、国際社会の常識である。235
 つまり、見も知らない第3者からのレイプは、交際相手や配偶者に対するレイプと同様の一方的な性行為(同意のない性行為、意に反する性行為の強要)に置き換わった。236
 その結果、DV行為としての性的暴力、つまり、家庭内で、配偶者である妻に対する同意がない、意に反する夫婦間レイプ(暴力的な性行為)が繰り返され、同時に、家庭内で、子どもに対する性的虐待が繰り返されることになった。237
 しかし、いずれも表面化しないと同時に、法整備がなく、「民事不介入」と理由で、警察の介入はない時代であった。238
 「貧乏子沢山」という表現があるが、この時期の日本女性の多産の背景には、性行為を拒むと殴られ、いやいや応じる性行為で、妊娠と出産を繰りかえざるを得なかった現実がある。239
 つまり、DV行為としての性的暴力(レイプ)の結果として、妊娠と出産を繰り返していた。240
 「はじめに。」の2文で示しているように、1981年(昭和56年)、アメリカの『シアトル・タイムズ』は、「あなたのお嬢さんのクラスにこの次出席するとき、不特定の15人の女の子に目を留めてください…少なくとも1人、おそらく、2-3人は、近親姦の犠牲者であると考えて差し支えありません。」と報じている。241
 アメリカの人口約100万人の区域における近親姦の事例は、1971年(昭和46年)には30件であったが、1973年(昭和48年)3月29日までにアメリカ軍がベトナムから撤退すると、1977年(昭和52年)には、500件以上に増加している。242
 この事実を踏まえると、日本においても、帰還兵(復員兵)の家庭で、相当数の性的虐待が加えられていたことは容易に類推できる。243
 こうした表面化しない家庭内での夫婦間レイプ、性的虐待が増加する一方で、性犯罪としてのレイプは減少していった。244
 帰還兵(復員兵)が家庭を持ちはじめレイプが減少していった一方で、戦災孤児を含め戦時下・戦後の苦しい時代を生き延びた子どもが成長し、高度経済成長を踏まえ職を得て、収入が安定するまでの期間、レイプだけに留まらず、刑法犯罪が多発した。245
 この時期は、生活困難からレイプ(強姦罪)に加え、盗みが加わる強盗強姦罪が数多く発生している。246
 そして、経済復興が進み、国民所得が上昇しはじめると、レイプだけに留まらず、刑法犯罪は一気に減少に転じる。247
 ベトナム戦争反対運動、ウーマンリブ運動とともに、ピッピ―、フリーセックスなどの影響を受けたレイプ犯罪は、少しずつ現代型の性犯罪に様相を変えていくことになる。248
 それは、「はじめに。」の13文で示しているように、いまから62年前、北朝鮮への帰国事業が1シーンとして収められている映画『キューポラのある街(昭和37年(1962年)4月8日公開)』では、いま問題となっている「レイプドラッグ」、つまり、「飲み物に粉末の薬を入れられる集団レイプ未遂」の1シーンも描かれている(令和6年(2024年)8月31日現在)。249
 つまり、経済成長とともに、「やみくもに襲う性犯罪から、狙いを定め、計画的に襲う性犯罪」に変化していった。250
 「レイプドラッグ」の問題は、いまの問題ではなく、60年以上も続く、レイプなどの性犯罪の温床となってきた。251
 この視点に立つと、歴代の日本政府、国会議員、そして、日本の警察は、60年以上もの間、この「レイプドラッグ」の問題を放置し続けたことになる。252
 一方で、過激派、暴力団などの活動資金となったポルノ写真、ブルーフィルムが、生産設備、流通の整備などを背景に大量生産・大量販売が可能となり、1970年代末-1980年第初頭に「ビニール本」、昭和56年(1981年)以降、アダルトビデオ(AV)が市場に出回るようになっていく。253
 「性犯罪は、昭和40年(1965年)辺りから一気に減少傾向を示している」ことから、いわゆる「アダルトビデオ(AV)の普及が、性犯罪の抑止につながっている」との論説には、因果関係は認められない。254
 性犯罪の減少とアダルトビデオ(AV)の普及に10年余りの差異がある、つまり、アダルトビデオ(AV)の普及は、性犯罪の抑止になっていない。255
 一方で、アダルトビデオ(AV)で表現される性描写が多様化、過激化、暴力化する中で、その影響を受け、交際相手や配偶者との性行為そのものが多様化し、過激化し、暴力化していくことになった。256
 未婚男性の7.5%、未婚女性の22.4%が、“避妊法”とはいえない「膣外射精」を選択している日本で、アダルトビデオ(AV)で女性の顔に射精する演出(顔射)は、交際相手や配偶者との性行為の中でも行われるようになった。257
 「避妊に応じないことは性暴力」との認識のない日本は、性知識があまりにも乏しいが、交際相手や配偶者がコンドームを使用せず、避妊に協力しない現実の中で、せめて「膣外射精」で妊娠を防ぐしかない女性の窮状を示す。258
 交際相手や配偶者との間で行使される「DV行為としての性的暴力」における重要なポイントは、a)性行為の強要と性行為の拒否に対する暴力、b)暴力に対する和解の強要としての性行為である。259
 DVの“本質”は、「本来、対等な関係にある交際相手との間、夫婦との間に、上下の関係性、支配と従属の関係性を成り立たせたり、その関係性を維持したりするためにパワー(力)を行使する」ことである。260
 交際相手との間、夫婦との間に、「a」はいうまでもないが、「b」の性暴力が存在するとき、既に、両者には、上下の関係性、支配と従属の関係性が成り立っていることになる。261
 つまり、上下の関係性、支配と従属の関係性が成り立っている中でのa)b)は、交際相手との間、夫婦との間であっても、「エントラップメント型の性暴力」という見方ができる。262
 そして、b)「暴力に対する和解の強要としての性行為」とは、「暴力後の“仲直り”としての性行為」のことで、基本的に加害者の一方的な仲直りである。263
 また、b)とともに、a)拒むと暴力を加えられるので、それを避ける(回避する)ために、被害者自らが率先し、加害者が期待する性的行為に及んでいることが少なくないことである。264
 この問題は、回避行動であると同時に、「エントラップメント型の性暴力」では珍しいことではなく、被害者に非はない。265
 加えて、成育歴で、アタッチメント形成の獲得ができず、「見捨てられ不安」を抱えている人が、「グルーミング」「ラブボミング」を仕掛けられ、性的関係に至っているときには、「機嫌を損ねて、嫌われたくない(別れを切りだされたくない)」との思いで、この「被害者が自ら率先し、加害者が期待する性的行為に及んでいる」ことが少なくないため、自身が性暴力被害を受けていると自覚することは容易ではないことから、被害が長期化し、深刻化しやすい傾向がある。266


(AVの影響。交際相手や配偶者との性的行為が多様化、過激化、性犯罪と区別がつき難い)267
 1970年代前半、ベトナム戦争が泥沼化する中ではじまった「反戦運動」と「女性解放運動(ウーマンリブ運動)」において、社会学者とフェミニストの一定数は、「女性解放」として「フリーセックス」を肯定し、結果、社会学者とフェニミストの一定数は、論文やメディアを介し、アダルトビデオ(AV)による性描写の多様化、過激化、暴力化を肯定する論評で、是認してきた。268
 『AV出演被害防止・救済法(AV新法)』の制定時には、この社会学者とフェニミストの一定数の是認が、同法の解釈で苛烈な対立をもたらし、分断構造をもたらす要因となった。269
 「女性解放」はいうまでもなく「人権問題」で、「フリーセックス」は「性的嗜好」の問題であることから、「フリーセックス」を「女性解放」の象徴としてとり扱うのは間違っている。270
 なぜなら、「フリーセックス」「性的嗜好」という名の下で、「人権侵害行為(多様化、過激化、暴力化の性描写、性行為、そして、契約・販売に至るまですべてのプロセス)」があってはならず、許されない行為に他ならないからである。271
 同時に、アダルトビデオ(AV)における多様化、過激化、暴力化した性描写の影響を受け、真似た性犯罪事件(電車やバス内での痴漢行為、マッサージ師による性的行為(性交に至るレイプ)、レイプドラックなどで意識を失わせたレイプ等々)は、数多く発生している。272
 そして、インターネットの普及に伴い、「ポルノ中毒」の問題も深刻になっている。273
 アダルトビデオ(AV)では、悲鳴のように大きな声をあげ、苦悶の表情を見せ、のたうち回るような動きがないと視覚的にも、聴覚的にも視聴する者の興味を惹かず、飽きられるとの思いが強く、その演出は、必然的に過激になったり、多様化したりする。274
 その過激な反応をもたらす道具が、バイブやローターであり、レイプのような暴力的な性交である。275
 その中で、世界の児童ポルノの8割、世界のポルノコンテンツの6割は日本製であるように、日本のアダルトコンテンツの生産数の多さは、世界的にみても群を抜いている。276
 しかも、日本人が、その日本のアダルトコンテンツの利用数も群を抜き、「ポルノ中毒」となっている人も少なくない。277
 アダルトコンテンツ、つまり、アダルトビデオ(AV)の出演者は、性的に“モノ化”されている。278
 したがって、アダルトビデオ(AV)を思春期後期(15-18歳)・青年期前期(15-18歳)から繰り返し見ていると、現実の性的な対象者に対しても“モノ化”するようになり、“モノ”を支配するための性行為は、過激化し、暴力的になる。279
 そして、現実世界で、対等な関係性のもとで、親密な関係を築くことが困難となり、暴力で支配するしか関係性を構築するしかない状況に陥っていく。280
 警察庁科学警察研究所の調査では、強姦や強制わいせつの容疑で逮捕された553人のうち185人(33.45%)が、「アダルトビデオ(AV)を観て、自分も同じことをしてみたかった」と回答しているように、アダルトコンテンツは、性暴力(性犯罪)と深い関係性があり、性犯罪事件と表面化し難い交際相手や配偶者に対する「アダルトビデオ(AV)を観て、自分も同じことをしてみたかった」に起因する性暴力は常態化している。281
 特に、長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験により、「パラフィリア」としての「性的興奮のパターンを確立」した人が、アダルトビデオ(AV)の演出に、その「性的興奮のパターン」をもたらす性的行為が示されているとき、そのアダルトビデオ(AV)に出演している人物に自身を重ね合わせる(再演(投影性同一視))傾向がある。282
 私が携わった配偶者である夫が欧州人のDV事案で、配偶者である妻を鞭で打ちつけるなどの身体的な暴行を加えていた夫は、日本のアダルトビデオ(AV)を見て、「日本の女性は、顔射されるのを喜ぶ」と認識し、配偶者である妻が「嫌だから止めて!」との懇願を無視し、嫌がる姿に、「嫌がっていても、日本人である妻は喜んでいる」と止めることはなかった。282
 そして、この欧州人の夫が試みたのが、同じ日本のアダルトビデオ(AV)で見た、知人に妻を貸しだし、その知人との性行為を見て楽しむことで、配偶者の妻に承諾させるために、「日本に帰省し、生まれた子どもを日本で暮らす両親やきょうだいに合わせたいのなら、1年間、グループセックスに応じろ!」と交換条件を示し、夫からの性的暴力、身体的暴力、精神的暴力に耐え切れなくなっていた妻は、“1年間耐え、がまんすれば、子どもを連れて日本に帰省できる」と夫の交換条件を受け入れた。283
 その欧州人の夫は、日本人の妻に「源氏名(欧州名)」をつけ、掲示板を利用し、グループセックスの相手を募集した。284
 この欧州人の夫が示した妻が断れない状況下での“交換条件”を承諾させる行為は、海外在住で構築された上下関係、支配従属関係のもとでの「エントラップメント型の性暴力」である。
 その「エントラップメント型の性暴力」が、「源氏名(欧州名)」のもとでのグループセックスであったことから、2年後に帰国を許された被害女性(欧州人の夫の妻)は、無診断であったが、重篤なPTSDだけではなく、性暴力被害者の多くが併発する「解離性障害」を発症していた。285
 出生後6ヶ月の子どもが、2歳4ヶ月に成長するまでの記憶がほとんどなく(解離性健忘)、「解離性同一性障害(多重人格)」の傾向を示していた。286
 人が、性を道具として生きていかなければならないとき(一部、性的自傷を含む)、その苦痛を薬物・アルコールに依存することでとり除こうとすることが少なくない。287
 その性を道具として生きていかなければならず、セックスワークを支えているのが、性的虐待被害者と軽度の知的障害者いわれている。288
 性風俗店(デリバリー型店舗を含む)では「源氏名」が使われるが、この「源氏名」は、「ペルソナ(仮面)」の役割を果たす。289
 「源氏名」は、もうひとつの名前(もうひとりのわたし)を得て、もうひとりの人格を持たせることで、性を道具となっているツラく、耐えがたい時間を切り離し、ツラく、耐えがたい傷みを覚えないですむ重要な役割を担っている。290
 つまり、「源氏名」には、意図的に別人格を持たせ、別人格で生きさせる役割がある。291
 「解離性同一性障害(多重人格)」は、源氏名をつけるように、“もうひとりのわたし”に「名前」をつけ、もうひとりの私として生きることで、ツラい時間を耐え続けている(逃げ込んでいる)状態といえる。292
 問題は、「源氏名」としてツラく、耐えがたい時間を過ごす期間が長くなると、「源氏名」として過ごした時間の記憶がなくなる「解離性健忘」の症状、「離人症」の症状が顕著になり、やがて、「解離性同一性障害(多重人格)」と同じ症状を示すようになる。293
 この視点に立つと、「ペルソナ(仮面)」を被り続ける(「源氏名」のもとで生き続ける)」と、その「私と本当の私の区別がつかなくなるリスク」が高まる。294
 このとき、「主人格」「別人格」の誰かのトラウマ反応を示す琴線に触れると、その人物による苛烈なトラウマ反応を示すことがある。295
 その「別人格」について、性的虐待被害などから心を守るために見つけた「ペルソナ(仮面)」を被っているという視点に立つと、「性同一性障害」と異なる「性的虐待被害などの被虐待体験が、パラフィリアとして、性自認のレズビアン、ゲイ、バイセクシャルをもたらす」と捉えることができる。296
 日本には、結婚すると、「律令制」に由来し、昭和22年(1947年)に廃止された儒教思想としての「家制度(家父長制)」の流れを汲む“世界で唯一の制度”である『夫婦同姓(民法750条、および、戸籍法74条1号)』がある。297
 日本で、一般市民が、「名字」を使うようになったのは、明治3年(1870年)9月19日に『平民苗字許可令』の発令、同4年(1871年)に『戸籍法』の制定、明治8年(1875年)2月13日の『苗字必称義務令』にもとづき、明治31年(1898年)、明治29年(1896年)に制定された『民法』に『家族法』が加わる(公布・施行される)と、『夫婦同姓(民法750条、および、戸籍法74条1号)』となり、「家制度(家父長制)」が構築された。298
 つまり、いまから124年前の明治31年(1898年)以降、女性が結婚すると男性である夫の「家」に入り、その「家」の名字を名乗るようになった(令和6年(2024年)8月31日)。299
 「家制度(家父長制)」が廃止されてから74年経過した令和3年(2021年)に婚姻した夫婦の501,138組のうち「夫の名字」を選択したのが476,088組(95.0%)である。300
 『夫婦同姓制度』を採用している日本は、この世界で唯一、結婚に伴い、結婚したどちらか一方が、生まれてきてからずっと使ってきた名字(人格そのもの)を捨てさせ、別の名字(別人格)で結婚後の人生を歩ませる(生きらせる)。301
 「家」に嫁いだ妻に、女性の自己犠牲ではじめて成り立つ「内助の功」「良妻賢母」として、家父長である夫に尽くさせるには、「自分(己)を捨てさせる」、つまり、「結婚前の姓を捨てさせ、別人として生きさせる」ことが必要であった。302
 女性に「源氏名(夫婦同姓)」を与え、「ペルソナ(仮面)」として別人として生きることを余儀なくさせてきたのが、世界で唯一の制度である『夫婦同姓(民法750条、および、戸籍法74条1号)』である。303
 この「ペルソナ(仮面)」と「源氏名」の視点に立つと、長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験をしてきた女性が、耐えがたい傷み、苦しみ、哀しみから逃れるために、別人としての人生を生きる目的で、新たな名(源氏名)を得られる日本の結婚(夫婦同姓)に救いを求める側面があることを理解できる。304
 同じ視点で捉えると、宗教(新興宗教・カルト教団などを含む)における「洗礼名」、役者や芸人の「芸名」にも同じ役割がある。305
 “もうひとりの私(別人)”を生きさせる役割を果たす「洗礼名」、「源氏名」、「芸名」、「夫婦同姓」は、「1-③マインド・コントロール、洗脳のプロセス」で示しているa)破壊(解凍)、b)変革、c)再統合(再凍結)のプロセスを“充当”することから、「洗礼名」、「源氏名」、「芸名」、「夫婦同姓」のもとで、“もうひとりの私(別人)”として生きている人は、マインド・コントロール(洗脳)されやすい、つまり、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けやすい。306
 282文で、「長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験により、「パラフィリア」としての「性的興奮のパターンを確立」した人が、アダルトビデオ(AV)の演出に、その「性的興奮のパターン」をもたらす性的行為が示されているとき、そのアダルトビデオ(AV)に出演している人物に自身を重ね合わせる(再演(投影性同一視))傾向がある。」と示しているが、その傾向を後押ししたのが、アダルトビデオ(AV)の「映像配信サービス」である。307
 平成19年(2007年)にアメリカの複数のテレビ局が開始した「映像配信サービス」、日本での「SVOD(サブスクリプション型ビデオ・オン・デマンド)サービス」の開始は、平成23年(2011年)9月1日で、2010年代後半に「定額見放題のSVODサービス」が開始されると「アダルト業界」が追随した。308
 例えば、平成28年(2016年)4月2日現在、高校1年生(15歳)だった人が、ネットでアダルトコンテンツの利用、つまり、アダルトビデオ(AV)の視聴をはじめたときには、いま23歳で、アダルトビデオ(AV)の視聴歴は8年となり、その8年間で、現実の性的な対象者に対して“モノ化”するようになると、“モノ”を支配するための性行為は暴力的で、過激な刺激を求めるリスクが高まる。309
 こうした背景は、交際相手や配偶者との性行為において、性犯罪と性犯罪でない性行為の境界線をあいまいにし、その境界線をなくしている。310
 高性能なカメラ機能を備えた携帯電話(スマートフォン)が普及し、高性能なスパイカメラ、アダルトグッズなどが簡単に購入できるようになると、交際相手や配偶者との性行為において、性的な写真や動画をあたり前のように撮影している。311
 アダルトビデオ(AV)での「ハメ撮り」を実生活に持ち込み、その映像をより刺激的に見せるために、交際相手や配偶者の脳の快感中枢に中毒化をもたらすバイブやローターなど強烈な刺激を伴う暴力的な性行為が常態化している。312
 しかも、その映像に対し「すごい」「いいね」を欲し、その映像に写っている交際相手や配偶者の同意なく、自身(男性)の顔にはモザイクを入れ、交際相手や配偶者の女性の顔にはモザイクなしで、掲示板やSNSに投稿しているケースも少なくない。313
 この傾向は、性的に“モノ化”した対象者に対し、支配・管理する(コントロールする)ことを目論む「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛ける者にも顕著に認められる。314
 そして、このアダルトビデオ(AV)に接する年齢も低年齢化し、アダルトビデオ(AV)が、「パラフィリア(性的倒錯/性嗜好障害)としての性的興奮のパターンを確立」させるきっかけとなっている。315
 18歳未満の児童がアダルトビデオ(AV)に接する状況にある家庭環境は、非接触的な性的虐待行為となる。316


③ マインド・コントロール、洗脳のプロセス 317
 第3者が、人をマインド・コントロール、洗脳するには、a)破壊(解凍)、b)変革、c)再統合(再凍結)というプロセス(型)に添って、人の人格を「焦らず、確実に、変えて」いく必要がある。318
 第3者が、他人をマインド・コントロールしたり、洗脳したりするには、マインド・コントロールや洗脳を仕掛ける者たちだけに都合のいい新たな価値観を植えつける必要がある。319
 そのためには、a)いままで培ってきた価値観や思考パターンをじっくりと時間をかけて、徹底的に「破壊(解凍)」する必要がある。320
 その重要な準備が、心身を弱らせることである。321
 ア)睡眠をさせず、慢性的な睡眠不足状態にし、イ)(金銭を自由に使うことを許さず)食事を制限し、栄養不足・飢餓状態に追い込み、ウ)考える、意思を持つことを許さず、エ)プライバシーを奪い、苦痛を与え続ける。322
 これは、「行動によるマインド・コントロール」と呼ばれる。323
 通常、人に睡眠や食事を制限されるのを受け入れることはないので、このa)の破壊の最初のプロセスとして、暴力による恐怖を与え、逆らえない状況を構築したり、「ラブボミング」を仕掛け、愛する人のいうことを素直に従う関係性を構築したりする必要がある。324
 これらのア)-エ)の過程で、『別紙3』の「2-(3)学習した無力感、囚人実験」で示しているように、散々、話してもムダ、逆らってもムダと思い知らされ、「学習した無力感」に至っている。325
 デートDV(マムズ・ボーイフレンド)・DV事案では、ア)の「睡眠をさせず、慢性的な睡眠不足」は、出産した女性の乳児に対する授乳などで容易に奪うことができる。326
 次に、b)の「変革」では、いままでの肯定的価値観を否定し、新たな価値観を植えつける作業に入る。327
 集団や教団のビデオを長時間、繰り返し見続けることを強要したり、祈祷をし続けさせたりするなど、マインド・コントロール、洗脳を仕掛ける者たちの思想を植えつける(詰め込ませまる)。328
 このとき、重要になるのは、マインド・コントロール、洗脳を仕掛ける者以外の他者とのつながりを遮ることである。329
 この「思想を植えつける(詰め込ませる)行為」は、DV行為では、否定・非難・侮蔑・卑下することばの暴力を浴びせ、すべてのことに詮索・干渉する「精神的暴力」の中で構築し、「他者とのつながりを遮る行為」は、DV行為では、「社会的隔離」という。330
 そして、c)b)の「変革」によってもたらされた新しい価値観をさらに強固なものにするのが、「再統合(再凍結)」である。331
 DV行為では、この「再統合(再凍結)」の結果として、加害行為に及ぶ人に従順で、加害行為に及ぶ人の機嫌を損ねず、意に添うように話したり、行動を示したりするようになる。332
 a)b)のプロセスを通じて、マインド・コントロールや洗脳された者の所有物や財産をすべて没収し、自分たちの活動資金にしていく。333
 この「所有物や財産をすべて没収」は、DV行為では、婚姻前の預貯金などの「特有財産」を奪ったり、僅かな生活費を与えなかったり、就労で得た賃金を没収したりする行為として示される。334
 つまり、DV(デートDV)事案では、マインド・コントロール手法としてのa)破壊(解凍)、b)変革、c)再統合(再凍結)というプロセス(型)で、逃れられない状況がつくられていく。335
 いまから44年前の1980年(昭和55年)にアメリカのミネソタ州ドゥルース市において、地域社会の裁判所や警察、福祉機関など9つの機関が集まり、『DV介入プロジェクト(DAIP)』が組織され、4年後の1984年(昭和59年)、被害女性たちの声をもと、暴力を理解する理論的枠組みとしてつくられたのが、「ドゥルース・モデル」と呼ばれる『パワーとコントロールの車輪』で、このマインド・コントロール手法を以下のように説明している(令和6年(2024年)8月31日現在)。336
 そこで示されている「車輪」は、第1に、暴力は、突発的なできごとでもなければ、つり積もった怒りや欲求不満、傷ついた感情の爆発でもなく、「あるパターン化した行動の一部分」であり、第2に、暴力には“明確な意図”があり、車輪の中心にある「パワーとコントロール」が車輪を動かす原動力となる。337
 車輪の一番外側には、「身体的暴力」と「性的暴力」があり、内側には8つの「精神的暴力」がある。338
 その「精神的暴力」の8つは、①脅し、怖がらせる、②情緒的虐待、③孤立させる、④暴力の過小評価・否認・責任転嫁、⑤子どもを利用する、⑥男性の特権をふりかざす、⑦経済的暴力を用いる、⑧強要と脅迫である。339
 DV被害者は、その外からは見え難い「精神的暴力」によって力を奪われ、無力になり、服従を強いられていく。340
 車輪の外側の「身体的暴力」や「性的暴力」は、他の行動の効果を高めるため、恣意的に使われ、結果として、DV被害者(交際相手や配偶者)の自立する能力を奪っていく。341
 自立する能力を奪うことは、逃げたり、別れたりする力を奪うことに等しい行為となる。342
 この状態を、『父-娘 近親姦』の著者ジュディス・L.ハーマンは、「逃走を防ぐ障壁は、通常目に見えない障壁」と表し、「繰り返し、暴力が反復される中で、恐怖と孤立無援感を感じ、他者との関係における自己という感覚が奪われる」と説明している。343
 つまり、DV(デート)事案では、「身体的暴力」と「性的暴力」でa)破壊(解凍)し、「精神的暴力」でb)変革し、これらを繰り返すプロセスでc)再統合(再凍結)を確立させる。344


④ マインド・コントロールを仕掛ける者の基本となる4つの「型」345
 「1-③」で、a)破壊(解凍)、b)変革、c)再統合(再凍結)というプロセス(型)を『パワーとコントロールの車輪』との関係性を踏まえて示したが、続けて、マインド・コントロール、洗脳を仕掛ける者の基本となる「型」をとりあげる。346
 それは、DV(デートDV)事案はいうまでもなく、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」の理解に不可欠な「思考操作」、「感情操作」、「情報操作」、「行動操作」の“4つの型”である。347
 「思考操作」とは、マインド・コントロール・洗脳を仕掛ける者たちの「リーダーは絶対的な存在である」とすり込むことや、その集団が持つ思想や理念をあたかも唯一の心理で正しい道だと思い込ませることである。348
 「感情操作」とは、例えば、なにかに対して極端に罪悪感を抱かせる、集団の中でのことに最高の喜びを見いださせることなどが該当する。349
 また、教団やリーダーがなにか失敗をしても、それは彼らの責任ではなく、遠まわしにでも自分のせいだと信じ込ませ、深く罪悪感を抱くように持っていく。350
 「情報操作」では、余計な情報を遮断する。351
 マインド・コントロール、洗脳を仕掛ける者たちの主張が唯一無二であり、その他は間違ったものにしなければならないので、テレビやネットなど情報を制限し、親やきょうだい、友人、同僚や上司、教師などと接することを禁じる。352
 つまり、テレビやネットからの情報や親しい人たちに惑わされないように、“俗世”と遮断する。353
 「行動操作」は、誰かと一緒に行動させたり、集団生活をさせたりすることで、行動そのものを手中に入れる。354


⑤ 新興宗教・カルトの勧誘や詐欺商法の「型」355
 新興宗教・カルト、スピリチュアルの勧誘、詐欺商法などでは、a)理想描写→b)理論提供→c)現状把握→d)目標設定→e)支援表明という手順となる「型」を持ち、これを巧みに駆使する。356
 a)は、ターゲットとなる人物に接触し、その人の「夢・理想の世界」をいっしょに描き、われわれと行動すればそれが実現できると訴える。357
 ターゲットが「そんなことが可能なの?」、「なんか胡散臭い」と懐疑的な態度を見せると、すかさず、b)の理想像をとくとくと唱える。358
 「このような理論や法則がある」、「~先生の臨床データでは、…」などと裏づけ・根拠を一つひとつ示しながら話すことで、「こんなに裏づけのあることなんだ」、「第一人者らしい先生が、効果があるといっているんだ」、「あの有名な人(芸能人や文化人)も利用(入信)しているんだ」と安心させ、「それなら、私にもできるかもしれない」、「いまやらなきゃ、損じゃない。私にもきっとできる」と士気(モチベーション)をあげさせる。359
 b)は、最近では、ファミレスなどで説明をしていると、勧誘者の友人や利用して成功した人が偶然を装い、「ここで、なにしているの?」と声をかけてきて、席を囲むように話し続けたりする方法もよく使われる。360
 この役割分担は、オレオレ詐欺にも同様にみられる。361
 そして、ここで一度冷や水を浴びせる。362
 つまり、c)の現状を把握させるのである。363
 「あなたは、こういう問題を抱えている(これまでのこうしたふるまいが悪いとか、スピリチュアル・カルトでは、前世の因果応報(酬い)であるとか脅すことばを交えながら)」と現実を突きつけ、「理想はココ、いまのあなたはココです。」と理想と現実のギャップを示す。364
 ターゲットが、「私には、やっぱり無理なんだ」と落ち込むのを見計らい、勧誘者や指導者たち(洗脳者)が繰りだしてくる“術”が、d)の目標設定である。365
 「小さな階段をコツコツ地道に上っていけば、あなたも理想に到達できる」とあるべき方向性を示していく(ロードマップを敷く)。366
 ただし、その多くには具体性はなく、抽象的でしかない。367
 この話に具体性はなく、なんにでもあてはまる抽象的な表現は、新興宗教・カルト集団の勧誘、詐欺商法だけに見られるわけではなく、DV(デートDV)、児童虐待、いじめ、(教師や指導者などによる)体罰、ハラスメントなどの暴力行為に加え、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛け性暴力(性犯罪)に至る者にも共通する特徴である。368
 そして、だめ押しとして、e)の「私が、あなたを全面的に支援するから、理想を手に入れられるようにいっしょに頑張ろう」と一体感を覚えさせ、さらに、「私たちのトップ(組織のボス)が、あなたの理想を実現するためのすべての後ろ盾となるから安心して欲しい」と心になげかけ、「私たちはあなたが信じるに値する」と思わせていく。369
 人はよく「信じる」ということばは口にするが、人がなにかを信じるとき、そこには必ず、騙される(手玉にとられる)リスクが存在する。370
 信じることと騙されることは背中合わせで、その境界線は、極めて曖昧である。371
 この「4つの型」は、DV加害者の一定数、あるいは、結婚詐欺師が、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛け性暴力(性犯罪)に至る者が、ターゲットにした人をオトス手口(手法)に認められる。372


⑥ 「感受性訓練」の「型」と「手法」 373
 差別・排除、DV(デートDV)、児童虐待、(教師や指導者などによる)体罰、ハラスメント、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛け性暴力(性犯罪)などの暴力行為を加える者の一定数には、「感受性訓練(ST:Sensitivity Training Method)」の要素を組み込んだ手法(論理構成)に酷似する言動・行動パターンが見られる。374
 カルト集団の勧誘、修行として実施される『自己啓発セミナー(感受性訓練)』では、ア)「閉ざされた空間」で、イ)「課題(ゲーム)」とウ)「自己告発(シェア)」を繰り返して“一体感”と“高揚感”を煽り、確実に心の中にとり込ませていく。375
 「自己告発(シェア)」とは、参加者の前で、主催者に思い込まれたメッセージとして「わたしのここが悪い。これからは、わたしはこうしていきます!」と声高々に宣言させ、自分の心にとり込ませていくことである。376
 このプロセスは、マインド・コントロールには極めて有効である。377
 「自己告発(シェア)」は、いうまでもなく「自己反省」を意味し、DV(デートDV)、児童虐待、いじめ、(教師や指導者などによる)体罰、ハラスメント、「エントラップメント」を仕掛けた性暴力(性犯罪)などの暴力行為に及ぶ者の“常套手段”ともいえる。378
 親が子どもに対し、交際相手や配偶者が、一方の交際相手や配偶者に対し、教師や指導者が生徒に対し、上司や部下に対し、頻繁に「反省文」をかかせる行為は、この「自己反省」「自己告発(シェア)」に該当し、ここに「やるべきリスト」の作成が加わるのは、「1-⑤」のd)の「目標設定」に該当する。379
 「感受性訓練」は、例えば、「地獄の特訓」で知られる「自分の気持ちに素直になれる(心の壁(防衛機制)をとり除く)」という名目のもと、“主体的態度の変容”をめざして(自己変革が可能となるとして)、非日常という状況下(合宿形式)でおこなわれる。380
 密室の家庭内、部活動やサークルなどの合宿やキャンプ(同じ屋根のもとで寝食をともにする)で繰り返される支配のためのあらゆる暴力行為もまた、この“非日常という状況下”で行使される。381
 X-JAPANのTOSIが、HOH(ホームオブハート:前身レムリアアイランド)に陶酔し、マインド・コントロールされ、広告塔として利用された挙句、億単位の借金を抱えることになったことは記憶に新しい。382
 『自己啓発セミナー』では、ア)テキストを使った座学などで基本知識を学んだり、確認のための講義のあと(理想描写と理論提供)、イ)できない“わたし”を徹底的に否定し、非難・批判したり、課題をクリアしたときに褒美として優しいことばをなげかけ、褒めちぎったりする(現状把握と目標設定)。383
 さらに、ウ)ハグをし、受け止められた(認められた)感を心に沁み込ませていく(支援表明)。384
 このプロセスは、『別紙3b』の「2-(1)ダブルバインド・セオリー」などで示しているように、典型的なマインド・コントロールの手法である「相反する拒絶と受容のふるまい」、つまり、「ダブルバインド」である。385
 例えば、暴力(拒絶)のあと優しく接する(受容)ものの、命令に背いたり、率先して意図した行為ができなかったりしたときには、再び、恐怖体験(拒絶)が待っていることから、その優しさは、「制限(条件)つきの優しさ」でしかない。386
 日本の家庭で常態化している、子どもにいうことをきいたときには菓子を与え、いうことをきかないときに罰として菓子を与えない行為は、典型的なダブルバインドで、これは、「2-⑤心理的虐待、スケアード・ストレートとエントラップメント」の144文-155文で示している「スケアード・ストレート」という“心理的虐待行為”である。387
 この「相反する拒絶と受容のふるまい(ダブルバインド)」、「制限(条件)つきの優しさ」の繰り返しにより、人は思考混乱を示す。388
 人の支配(コントロール)を目論む者は、この思考混乱に乗じて心(精神)を支配していく。389
 人の支配(コントロール)を目論む者にとって、この思考混乱は、つけ込むことができる心の“隙”となる。390
 「自己告発(シェア)」「自己反省」が厄介なのは、意図的に思い込まされた(あらかじめ用意された)メッセージであっても、「“わたし”のここが悪い。これから、“わたし”はこうしていきます。」と、繰り返し声高々に宣言(自己告発)することで、無意識下で、しっかりと心にとり込んでしまう。391
 この「自己告発(シェア)」は、昭和46年-昭和47年(1971年-1972年)にかけて、共産主義化の理想のもと厳しい統制や教化を敷き、29名の同志のうち12人を殺し合った「連合赤軍の山岳ベースによる凄惨なリンチ事件」を招いた“総括(自己反省)”と同じものである。392
 しかも、この感受性訓練の手法を用いた『地獄の特訓』で実施される50km歩行は、連合赤軍山岳ベースの“行軍訓練”と同じ意図を持ち、参加者を疲労困憊にさせると同時に、βエルドルフィンの働きで、「ランナーズ・ハイ」と同じ爽快感をもたらし、特別な達成感を覚えさせる。393
 このβエルドルフィンの働きで、特別な達成感を覚えているとき、つまり、頭がハイになっているときに(高揚感に満ち、不可能な達成目標が達成可能と勘違いした状況下で)、皆の前で「自己宣言」をさせる。394
 この特別な達成感の下で、達成できない目標を「自己宣言」したあとは、徹底的に否定・非難・侮蔑・卑下することばを浴びせられることになり、自尊感情(自己肯定感)は破壊されていく。395
 つまり、「地獄の特訓」における「感受性訓練」のノウハウは、いうまでもなく、連合赤軍山岳ベースにもとづく。396
 新興宗教・カルト(教団)に勧誘され、傾倒すると、親族を巻き込んだ精神的被害や経済的被害が問題になる。397
 被害者、自身の親族や近親者が自己破産処理を行うなどの現実を突きつけられても、自分がマインド・コントロールされていた(いる)ことに気づけるまで、積極的に家族や友人をセミナーに誘い続ける。398
 そのため、被害者が、無意識下で、加害者になっていることが少なくない。399
 新興宗教・カルトの“運営”の仕組みは、「マルチ商法」と同じ要素を併せ持ちます。400
 こうした「感受性訓練」の要素を都合よくとり入れることで、一見、自己啓発・能力開発のプログラムと思い込ませ、心に課題を抱えている人たちを巧妙に誘い込む仕組みをつくりあげている。401
 「2-⑥」の398文の「被害者、自身の親族や近親者が自己破産処理を行うなどの現実を突きつけられても、自分がマインド・コントロールされていた(いる)ことに気づけるまで、積極的に家族や友人をセミナーに誘い続ける。」は、マインド・コントロール手法のひとつの「型」である「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられた性暴力(性犯罪)被害者にも同じことがいえる。402
 「2-⑥」の398文前段の「被害者、自身の親族や近親者が自己破産処理を行うなどの現実を突きつけられても、‥」を「第3者に、自身が性暴力(性犯罪)被害を受けていると指摘されても、‥」に置き換え、同398文後段の「‥、積極的に家族や友人をセミナーに誘い続ける。」を「‥、自らの意思で、性暴力(性犯罪)を加えている人と接触を試み、性的関係を続ける。」に置き換えると、被害者の回復に必要なことは、「自身のマインド・コントロールを解くこと」であることがわかる。403
 欧州諸国のカトリック施設同様に、「隠れキリシタン(潜伏キリシタン)の流れを汲む一部の地域(その出身者を含む)」では、いまに至るまで、親に絶対服従・親の教えに逆らわない子どもに育てるために、記憶の残らない2歳までに徹底的に傷めつけて(苛烈な虐待(体罰)を加えて)育てることを受け継いでいるが、同じことが、多くの新興宗教・カルト教団でおこなわれている。404
 つまり、「カルト2世・3世」と呼ばれる新興宗教・カルト教団の経典(教え)、スピリチュアル(霊的)や占いに傾倒した親とその影響下で暮らし、育った子どもたちにも同じく、被虐待体験の後遺症としてのC-PTSDに対する治療とともに、この「自身のマインド・コントロールを解く」ためのアプローチが極めて重要である。405


5.被虐待体験とグルーミング・エントラップメント型性暴力(性犯罪) 1
 21日前の令和6年(2024年)8月20日、横浜地方裁判所が懲役2年10月(求刑懲役5年)の判決を下した一般社団法人「除霊ヒーリング教会(当時)」の代表理事が、会員(母親が会員になったことがきっかけで入会)の14歳の女子中学生(当時)に対する「わいせつ事件(「不同意性交等罪」が適用された令和5年(2023年)8月-9月、宿泊を伴うイベント下での犯行)」は、「優位な立場や影響力(宗教団体の教祖と信者に近い立場の優劣)を利用した犯行」、つまり、「グルーミング」+「エントラップメント」を仕掛けた犯行である(令和6年(2024年)9月10日現在)。2
 被害女性(少女)は、「嫌だったが、断るのが難しかった。当時は洗脳され、教えを信じようといいきかせていた」と述べ、PTSDの症状と考えられる体調不良や不眠などに苦しんでいる。3
 「はじめに。」の4文で示しているように、「断るのが難しい」状況に、「抗(あらが)えない」状況に追い込まれる(持って行かれる)のが、「グルーミング」「エントラップメント」を仕掛けられたときの特徴で、「当時は洗脳され、教えを信じようといいきかせていた」は、「グルーミング」「エントラップメント」がマインド・コントロール手法のひとつの「型」であることを示している。4
 マインド・コントロール手法のひとつの「型」としての「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」は、ある目的を達成するために、ターゲット(対象者)に仕掛ける者の“手口(手法)”である。5
 したがって、この被害女性(少女)が述べているように、加害者と被害者の関係性を踏まえると、「被害者は、加害者に「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられ、断ることができない状況の中で、・・の被害にあった(・・の被害から逃れられない状況を意図的につくられた)」となる。6
 こうした「除霊」、「お祓い(厄払い)」、「悪魔祓い」と称した性暴力事件は頻繁に起きているが、「グルーミング」+「エントラップメント」を仕掛けたものであるが、日本人は、世界に類を見ないほど、欧米諸国では“異端”でしかない非科学的な新興宗教・カルト、スピリチュアル(霊的)、占いに極めて脆弱である。7
 日本の政治、日本政府は、新興宗教・カルト教団、スピリチュアル(霊的)を深くつながっている。8
 欧米諸国で「カルト認定」を受けている「創価学会」、「統一教会(現.世界平和統一家庭連合)」に加え、「統一教会(現.世界平和統一家庭連合)」と深くつながっている右翼団体「日本財団」、日本最大の超国家主義・極右主義団体「日本会議」、「日本会議」の役員が兼務している「神道政治連盟」などが、「公明党」、「自由民主党」、「日本維新の会」の支持基盤であり、その「自由民主党」と「公明党」は、日本の政権(日本政府)を担っている。9
 この事実は、『日本国憲法』に定める「政教分離の原則(20条1項後段、20条3項、89条)」は名ばかりであることを示すが、問題は、日本国民の多くが、人権・社会問題と距離を置き、政治に無関心で、こうした政治的な問題に対し、反対の声をあげてこなかったことである。10
 「1-②「管理売春」とグルーミング、エントラップメント、ラブボミング」で示しているように、マインド・コントロール手法のひとつの「型」である「グルーミング」「エントラップメント型」「ラブボミング」を仕掛けた性暴力(性犯罪)、管理売春(性的搾取)、児童ポルノ、児童虐待、いじめ、(教師や指導者などによる)体罰、ハラスメントなどの暴力行為(人権侵害行為)が、世界に類を見ないほど多く、しかも、その対策を講じず、放置してきた“発端”は、新政府軍(明治政府)が、日本神話(建国神話)にもとづき天皇を「現人神(この世に人間の姿で現れた神)」と定め、国造りをしたことである。11
 この「この世に人間の姿で現れた神(現人神)」と崇拝するのは、いうまでもなく、新興宗教・カルト教団と同じである。12
 問題は、日本国民が、この天皇を「この世に人間の姿で現れた神(現人神)」と定め、国造りをした明治政府(日本政府)をカルトと同じと認識することなく、太平洋戦争(日本の侵略戦争)に敗戦後から79年経過したいまもこの路線を継承していることに無関心なことである(令和6年(2024年)8月31日現在)。13
 
 
① テロリズムとスピリチュアル。「現人神(天皇)」のもとでの「玉砕」「自爆」14
 日本では、紀元前1万年前-紀元前3世紀までとされる「縄文時代」には、縦穴住居で集団生活を営み、蕎麦、瓢箪(ひょうたん)、芋などの植物の栽培(耕作)がはじまり、死者の霊の災いを防ぐために屈葬(人を埋葬するとき、手足を折り曲げた姿勢をとらせる)が行なわれ、魔よけや食料の豊かさを祈る呪(まじな)いのために土偶が使われ、紀元前4世紀(弥生時代)になると、朝鮮半島など大陸から移り住んだ人々が持ち込んだ稲作が、九州北部に伝わり、東日本まで広まった。15
 日本各地には、「縄文時代」にはじまった数多くの農耕と信仰が結びついた祭りが存在し、その農耕と信仰と結びついた祭りは、政(まつりごと)と深くつながる。16
 日本には「政治の前に、祭祀あり(政治を行う前に、神を祀る)」ということばがあるが、これは、『日本書記(720年)』で、天皇が大臣職に「民が喜ぶ政治を行うための方法」を訪ね、「まず神祇を祭り鎮めて、のち政事を議るべきであります。」と奏上した」との記述にもとづく。17
 「神を祀るとは、自分たちの祖先を敬う」ことで、神にお供えをし、祝詞をあげ、神事を行い、政治のことを行った。18
 つまり、日本は、なによりも神事を重視してきた国で、いまに継承されてきた。19
 その日本は、陸続きのない海に囲まれた島国であることから、東南アジアや大陸(中国、朝鮮)から移り住んだ人たち以外に、領土を奪い合う戦い(戦争)に巻き込まれるなど民族の危機を体験することなく、中国・朝鮮の文化を融合させながら独自の文化を構築してきた。20
 その日本の文化的なレベルは、明治2年(1869年)、明治政府は、教育行政官庁(のちの文部省(現文部科学省))のもとで、体系的な学校制度構想として独自に示した「大学」は、欧米の学校制度をモデルにしていたが、英語、フランス語、ドイツ語などではなく、日本語で「大学」のカリキュラムを構築できたことに表れている。21
 つまり、日本は、イギリス、フランス、ドイツの教育(学問)で使われる言語・理論(科学)に相当する言語・理論(科学)を持っていた。22
 明治政府は、教育の近代化(欧州化を進める改革)が進めた一方で、「復古」を進めた。23
 「復古」とは、「情勢や体制などが現在よりも過去の方が優れている」との考えで、「その当時の状況に戻すことにより、社会がよりよくなる」ことから、「復古させよう(昔に戻そう)」という思想・イデオロギーである。24
 明治政府の考えた「復古」、つまり、「その当時の状況に戻すことにより、社会がよりよくなる」と考えた「当時の状況」は、第1に、特権階級であった「武家」が構築される前、つまり、官職や職能が特定の家系に固定化していく「家業の継承」が急速に進展し、軍事を主務とする官職を持った家系・家柄を「武家」と称するようになった平安時代中期((900年ころ以降)/平安時代(794年-1185年))の状況である。25
 それ以前となると、「古墳時代」「飛鳥時代(592-710年)」「奈良時代(710年平城京遷都)-794年)」では、地方の首長層、中央から派遣された在地勢力を「豪族」と呼んでいた時代である。26
 第2は、741年、聖武天皇(701-756年)は、度重なる飢饉や疫病の流行、内政の混乱に対して、仏教による鎮護(ちご)国家を願って国分寺建立の詔(みことのり)を発布し、大仏造立に先駆けて、「仏教」を広めようとしたことである。27
 新政府軍(明治政府)は、「武家」が存在せず、聖武天皇が「仏教」を広めようとする前の史記、つまり、「政治の前に、祭祀あり(政治を行う前に、神を祀る/日本書記(720年))」もとづき、「当時の状況」を架空の話(ファンタジーストーリー)である「日本神話(建国神話)」に解を求めた。28
 その「日本神話」は、「大化の改新(646年以降進められた政治改革)」後、「葦原中つ国を天皇が支配する」ことの“正当性”を示す歴史書としてまとめられた『古事記(712年)』と『日本書紀(720年)』にもとづく。29
 中国の歴史書のスタイルに則り、純粋な漢文でまとめられている『日本書紀』は、 中国をはじめ国外に対して、日本の歴史、つまり、「天地開闢(てんちかいびゃく)」といわれる世界のはじまり、神々の手によって日本の国が築かれていった神代から第41代の天皇に数えられる持統天皇(女性天皇)の時代までの歴史をアピールする意図でまとめられた。30
 「国家の歴史書」としての『日本書記』に対し、『古事記』は、古事記』は、国内の読者を想定した「天皇家のための歴史書」として、変体漢文、つまり、仮名が混じった日本ならではの文章で書かれている。31
 京都御所にあった天皇家の仏壇(御黒戸(おくどろ))には、「日本神話(日本書記/古事記)」に描かれている神武天皇を含む初期の天皇たちの位牌はなく、天皇家の祖先供養の対象になっていなかった中で、イギリスのアヘンマネーを後ろ盾にした新政府軍(明治政府)は、日本神話(建国神話)の神々を統一した神武天皇の時代に復古する「神武創業(神武天皇の時代に戻れ!)」を倒幕にスローガン掲げた。32
 明治政府は、その「神武創業」を「王政復古」としてひき継ぎ、「天皇の神格化(現人神(この世に人間の姿で現れた神)」のもとで、『大日本国憲法』、『教育勅語』を制定し、国造り(近代化として、国民皆兵、富国強兵をはじめとする軍国化、大東亜共栄圏構想)を進めた。33
 「天皇の神格化」に伴い「日本軍将兵」は、日本の建国神話「神武東征神話」で、神武天皇と東征に同行した「武将の大判氏(天忍日命)の子孫」として崇めた。34
 その日本軍将兵(明治以降の日本の戦争・内戦において政府・朝廷側で戦歿した軍人ら)を祀る「靖國神社(明治2年(1869年)6月29日創建の「招魂社」に由来し、10年後の明治12年(1879年)6月4日に社号を「靖國神社」に改めた)」、神々を統一し日本を建国(紀元元年・約2680年前)した神武天皇を祀る「橿原神宮(明治23年(1890年)4月2日創建)」は特別な意味を持つが、創建されたのは、古来ではなく、「天皇を神格化」した明治以降である。35
 明治以降の日本は、教育システムの欧州化(改革)の一方で、神話国家をつくりあげる(復古)というダブルスタンダードを成り立たせた。36
 日本国民が、明治政府の「天皇の神格化(現人神(この世に人間の姿で現れた神)」を受け入れたのは、江戸時代、武家を除く人口の約93%の農民にとって、「天皇」とは無縁であった(知らない存在)こと、一方で、農耕と信仰(神)は結びついた存在であったことである。37
 神々を統一した神武天皇という建国神話は、いうまでもなく、宗教的な経典、儀式と結びつき(神道)、それは、新興宗教・カルト、占い、スピリチュアル(霊的)に通じる。38
 農耕と信仰と深く結びついている日本人は、明治政府の思想・イデオロギー教育(道徳教育)により、「現人神(この世に人間の姿で現れた神)としての天皇」を信じ、崇め、太平洋戦争(日本の侵略戦争)の敗戦からいまに至るまで、「教祖」を神と崇める新興宗教・カルト教団、スピリチュアルの勧誘、占いに極めて脆弱である。39
 「信仰宗教、カルトとはなにか?」「テロリズムとはなにか?」を学ぶと、日本人の多くが好感的な新政府軍による“倒幕のはじまり”は、イギリスのアヘンマネーを資金源とし「神話国家」の建設を目論んだカルト教団(革命戦士/反幕府勢力)が起こしたテロ(暗殺)に対し、幕末期の主に京都で、反幕府勢力弾圧・警察活動に従事した軍事組織「新選組」が、その革命戦士(反幕府勢力)を暗殺するといったカルト教団同士の“せめぎ合い”の末の侵略戦争(革命)であったことがわかる。40
 「新選組」では、いまのイスラム過激派と同様に、意に反する者に対し数多くの粛清(暗殺)を行っている。41
 そのカルト教団が主権を握ったあとの戦争(日露戦争以降)では、「玉砕戦術」と「自爆攻撃」を繰り返した。42
 この40文と42文は、イスラム過激派の戦い方(テロ)と酷似している。43
 大日本国帝国軍は、日露戦争の旅順攻囲戦(明治37年(1904年)8月19日-同38年(1905年)1月1日)、太平洋戦争(日本の侵略戦争)における第1次バターン半島の戦い(昭和17年(1942年)2月)、ニューギニア戦線のゴナにおけるバサブア守備隊(昭和17年(1942年)12月8日玉砕)、ニューギニア戦線でブナの陸海軍守備隊(昭和18年(1943年)1月2日玉砕)、アッツ島の日本軍守備隊(昭和18年(1943年)5月29日玉砕・全滅)といった「玉砕(玉のように美しく砕け散る)戦術」を昭和20年8月14日に『ポツダム宣言』を受諾するまでの3年6ヶ月続けた。44
 日本政府が、アメリカに宣戦布告をし、真珠湾攻撃を仕掛けたのが昭和16年(1941年)12月8日であることから、わずか3ヶ月後には、「玉砕」せざるを得ない戦いに追い込まれていた。45
 にもかかわらず、日本政府は、戦争を止めることなく、「玉砕」し続けた。46
 そして、神風特攻隊、人間魚雷(殊潜航艇)は、イスラム過激派などの自分が死に、仲間も巻き添えにすることを承知のうえ(前提)で、殺人・破壊活動などを行うテロリズムの「自爆テロ」と変わらない。47
 明治29年(1896年)に制定された『民法』は、2年後の明治31年(1898年)に「家族法(1,050条のうち725条以降の第4編「親族編」、第5編「相続編」)」公布・施行し、いまに続いているが、この「家族法」は、「大化の改新(646年以降進められた政治改革)」に強い影響を与えた“中国(唐時代)”の「律令制」に由来しているが、大日本帝国軍の「玉砕」は、同じく中国の“唐時代”に編纂された「東魏(534-550年)-北斉(550-577年)」の歴史を記した正史『北斉書』の「元景安伝」中の記述「大丈夫寧可玉砕何能瓦全(勇士は、瓦として無事に生き延びるより、むしろ玉となって砕けた方がよい)」を語源とする。48
 「儒教思想」が武家の教育の礎であったことから、武士の心得として「玉砕」の教えはひき継がれ、明治政府(藩閥(反政府軍の薩摩藩、長州藩の主流2藩に加え、肥前藩(佐賀藩)、土佐藩の4藩))のもとでの軍部に継承された。49
 日本語訳の「自爆テロ(suicide terrorism kamikaze)」は、英語で「suicide terrorism」、世界共通語で「kamikaze(カミカゼ)」と呼ばれている。50
 つまり、イスラム過激派などの「自爆テロ」は、大日本国帝国軍の「神風特攻隊」に由来する。51
 「日本(天皇)と家族(親やきょうだい、祖父母など)を守る」ためと「自爆テロ」に臨む思想・イデオロギー姿勢は、イスラム過激派などの「自爆テロ」の実行犯と変わらない思想・イデオロギー(姿勢)と変わらず、「日本(天皇)と家族(親やきょうだい、祖父母など)を守る」ために“散った”「神風特攻隊員」を“美化”する物語(書物や映像)は“プロパガンダ(マスメディアなどを通じて(味方につけて)特定の思想に誘導する)”の意味を持ち、本来、とても危険である。52
 テロリストは、ア)ストリートチルドレンなどの子ども、従順で、洗脳しやすい子どもや貧困層に狙いを定め、騙し、自爆テロ(兵士に、荷物(タイマー型爆弾)を手渡ししたところで爆発させる)に巻き込んだり、イ)自爆死したテロリストの家族が、家族の自爆死により精神的なショックを受けている状況を利用し、絶望感と攻撃対象への憎悪を煽るマインド・コントロール手法で、自爆テロ犯に仕立てあげたりする。53
 つまり、自爆テロの実行犯の多くは、マインド・コントロール手法のひとつの「型」である「グルーミング」を仕掛けられている。54
 イスラム過激派などの「テロ組織の実行犯の養成システム」を踏まえると、大日本国帝国軍の「玉砕戦術」、「自爆攻撃」を成し遂げるには、国家として、国民に対し、徹底した思想教育(洗脳)、つまり、国家的なマインド・コントロールを仕掛けが不可欠であったことがわかる。55
 その徹底した思想教育(洗脳)が、『教育勅語』、満州事変・太平洋戦争時の『戦時家庭教育要項』、国のために身を捧げることを求める「皇民化教育」であり、その「皇民化教育」は、「軍官民共生共死思想」として、沖縄戦における集団自決につながった。56
 『戦時家庭教育要項』は、「あるべき家庭教育を国が定め、国家が家庭での教育を統制する」というもので、「皇民化教育」とは、満州事変から太平洋戦争までの戦時中、日本(大日本帝国)の統治地域の朝鮮や台湾などに加え、沖縄で実施した日本語の常用、神社の建設や参拝、日の丸の掲揚、君が代の斉唱など、強制的な同化教育である。57



② スピリチュアル(霊的)と結びつく被虐待体験者の不可思議体験 58
 長期間、慢性反復的(常態的、日常的)被虐待体験をしてきた人は、幼児期からの離人感(解離性障害/離人症)、他の人の声が聞こえたり、見えたり(統合失調症の幻視(幻聴・幻覚))、金縛りにあったりするなどの不思議体験を“幽体離脱”、“神や守護霊との対話(テレパシー)”、“心霊現象”と結びつけたりしやすい。59
 農耕と信仰が生活と結びつき(神事を重視し)、仏教の教えである「輪廻転生(人が何度も生死を繰り返し、新しい生命に生まれ変わること)」を信じている日本では、霊的(スピリチュアル)なできごとに対する心理的障壁(防衛機制)が極めて低い。60
 また、不可思議体験ができる自分を特別な(神に近い)存在と位置づける傾向があることから、この「2」の冒頭2文の「除霊ヒーリング教会(当時)」の代表理事のように、占い(除霊、お祓い(厄払い)、悪魔祓いを含む)・スプリチュアルの指導者的存在になることも少なくない。61
 「祖霊信仰(先祖が子孫を守護していると考える)」が根づいている国や地域では、「守護霊との対話(テレパシー)」を容認しやすい(受け入れやすい)といわれる。62
 長期間、慢性反復的(常態的、日常的)被虐待体験をしてきた人の不可思議体験は、人が幻覚などを見る状態を指す「変性意識体験(ASC:アルタード・ステイツ・オブ・コンシャスネス)」に通じる。63
 そのため、人々の不安や恐怖心につけ込み、人を騙して勧誘するカルト教団やスピリチュアルの指導者は、神秘体験や超能力と称し、意図的にこの「ASC(変性意識体験)」を利用する。64
 この「ASC(変性意識体験)」は、超常体験ではなく、科学的につくりだせる。65
 例えば、ヨガ教室からはじまった「オウム真理教」では、ヨガの呼吸法と称し、座法を組み、眼を瞑った状態で、4秒間空気を吸い、12秒止め、そして、8秒間息を吐きだすことを6時間ぶっ通しで続けさせた。66
 すると、瞼の奥でフラッシュの光が何度も見えてくる症状が表れ、その症状を「神秘体験」とし、その「神秘体験」は、教祖である麻原彰晃のパワー(力)による「超常現象で、超能力獲得に至る萌芽」と信じ込ませた(洗脳していった)。67
 さらに、信者の“通過儀礼(イニシエーション)”として、暗示をかけるために「睡眠導入薬」を使ったり、より強烈な神秘体験を体験させるために、感覚や感情、記憶、時間が拡張、変化する体験をひき起こす幻覚剤(合成麻薬)の「LSD(ドイツ語Lyserg säure diethylamidの略)」、麻酔性があり、色彩の幻覚を生じ、一時感覚を失う作用がある「メスカリン(アルカロイドの一種)」などの薬物を使用したりした。68
 新興宗教・カルト教団、スピリチュアル(霊的)に傾倒させる過程(プロセス)で、マインド・コントロール手法だけでなく、依存性(中毒性)のある薬物が使用されることがあることから、新興宗教・カルト教団、スピリチュアル(霊的)から脱した者に対しては、薬物治療が必要となることがある。69
 「1-②「管理売春」とグルーミング、エントラップメント、ラブボミング」の68文で、「a)の「恋愛感情を利用し、他人との援助交際(管理売春)を強要する」の「恋愛感情を利用」は、「ラブボミング」を仕掛けられることもあるが、その多くは、家庭に暴力(両親間(マムズボーイフレンドを含む)のDV行為、自身に対する児童虐待行為)があるなど、家庭に帰りたくない(子どもにとって、家が安心できる場でない)との理由で「宿カレ」によるデートDV(デートレイプを含む)の延長線上にあり、薬物が使用されたり、・・」と示しているが、デートDV事案では、薬物治療が必要な被害者も少なくない。70
 日本の女性受刑者の約8割が「窃盗(万引き)」と「覚せい剤取締法違反」で占められているが、後者の「覚せい剤取締法違反」で逮捕に至る過程に、この「キメセク」がある。71
 「キメセク」とは、覚醒剤や違法薬物、危険ドラッグなどを使用して変性意識状態になり(キメて)、性交(セックス)などの性的行為をすることの俗称で、強い快感が得られることから、「キメセク」を一度体験してしまうと、薬物なしの性行為ができなくなるリスクがある。72
 つまり、「キメセク」は、覚醒剤や違法薬物、危険ドラックなどの薬物を使用することから、薬物の副作用による心身に異変を生じさせ、同時に、依存状態に陥るなど、深刻なダメージを及ぼす。73
 そして、「2-②」の59文の不可思議体験としての「金縛り」は、「睡眠まひ」と呼ばれる一種の睡眠障害である。74
 つまり、「金縛り」は、霊的(スピリチュアル)とはまったく関係なく、レムとノンレムの睡眠のリズムが大きく関係し、眠りのリズムの乱れが原因である。75
 睡眠中は、ノンレム睡眠という「深い眠り」と、レム睡眠という「浅い眠り」を交互に繰り返す。76
 レム睡眠中は、「脳はおきているのに、からだは寝ている状態」で、そのとき、なにかのきっかけで意識にスイッチが入り、ある程度、脳が覚醒することがある。77
 このとき、からだの筋肉は休んでいるので、脳から「からだを動かせ!」という指令がでても動かすことはできない。78
 脳は、目覚めているので、このからだを動かせないことを認識し、もがき苦しむ状態が、いわゆる金縛りの状態である。79
 夜勤をしていたり、海外出張などで時差のある地域に行ったりする機会が多い人が金縛りにあいやすく、旅行に行った人が宿泊先で金縛りにあうこともある。80
 これは、移動により、からだは疲れているのに、環境の変化や旅の刺激で脳が興奮していることが影響している。81
 さらに、精神的なストレスや運動などによる極度の疲労、寝入りの悪い体質の人、寝る前の大量のカフェインなども金縛りの状態をひきおこしやすい。82
 一方、寝入りばなによく金縛りの状態になるときは、「ナルコレプシー」という睡眠障害が疑われる。83
 「ナルコレプシー」は過眠症のひとつで、日中、強い眠気に襲われ、急に眠り込んでしまったり、寝入りばなに金縛りにあったり幻覚を見たりする。84
 夢は、レム睡眠のときに見るが、金縛りのときは、意識がより鮮明なため、夢の内容を現実のものと認識する。85
 「意識があるのに、からだを動かせない」とき、人は、強い不安や恐怖、危機感を覚えることから、夢や幻覚・幻聴を心霊現象と信じ込みやすくなる。86
 
 レム睡眠では、脳が活発に働いており、記憶の整理や定着が行われている。87
 レム睡眠中は、目がぴくぴく活発に動く急速眼球運動(Rapid Eye Movement)が認められる。88
 一方、REMでないnon-REM(ノンレム)睡眠では、大脳は、休息していると考えられ、脳やからだの疲労回復のために重要とされている。89
 ノンレム睡眠は、眠りの深さにより4つの段階(睡眠段階)に分けられる。90
 眠りは、ⅰ)「ノンレム睡眠」からはじまり、一気に深い眠りに入り、ⅱ)1時間ほど経つと、徐々に眠りが浅くなり、「レム睡眠」へと移行する。91
 その後、ⅲ)再び、「ノンレム睡眠」に移行し、深い眠りに入ったあと、ⅳ)眠りが浅くなって、「レム睡眠」に移行する。92
 成人では、このような約90分の周期が、1晩に4回(6時間睡眠)-5回(7.5時間睡眠)繰り返される。93
 睡眠の前半3時間は、睡眠段階ⅰ)ⅲ)の深いノンレム眠りが多く、後半になるにつれてⅱ)ⅳ)のレム睡眠が増える。94
 なお、睡眠の深さは、脳の表層部の「大脳皮質」で、睡眠時間は、生理機能を司る脳の中枢「視床下部」で制御されている。95
 この「視床下部」は、PTSDの発症と深く関係している。96
 「大脳皮質」の「島皮質」は、不安、不快感、恐怖といった情動に重要な役割を果たし、「島皮質」のセロトニン量が減少は、「強迫性障害」をもたらす。97
 繰り返す悪夢は、うつ病、不安障害、PTSDを発症した者に多く見られる。98
 重要なことは、「悪夢障害」の夢は、明け方のレム睡眠中に多い一方で、トラウマ体験に関連した悪夢が出現する「PTSDの悪夢(侵入(体体験)で、目覚めているときはフラッシュバック、寝ているときには悪夢として示される)」は、レム睡眠だけではなくノンレム睡眠中にも出現するといった違いである。99
 PTSDの重い症状が継続しているときには、悪夢も持続する。100
 
 スピリチュアル性の高い占い(除霊、お祓い(厄払い)を含む)、霊感商法などは、この“不安”“恐怖”“危機感”を起因とする“信じ込みやすい心理”につけ込む。101
 「2-②」の98文-100文で示している「悪夢」は、“不安”“恐怖”“危機感”をもたらすことから、ASD(急性ストレス障害)、PTSD、その併発症としてのうつ病、パニック障害、解離性障害、C-PTSDを発症している人も、スピリチュアル・占いに傾倒しやすい。102
 こうした日本人の信仰的な背景、被虐待体験をしてきた人の傾向である“不安”“恐怖”“危機感”を起因とする“信じ込みやすい心理”をつけ込み(利用し)、ある目的を達成するために仕掛けるのが、「グルーミング」(+「エントラップメント」)である。103
 さらに、信者を騙し、マインド・コントロールにかけ(精神操作により)、他額の献金をさせ、ときには犯罪的なことを行わせたり、結果的に進学や就職、結婚の機会を失わせたりするような宗教を「破壊的カルト宗教」という。104
 その「破壊的カルト宗教」である「聖神中央教会」、「摂理」などの教祖による信者に対する性暴力事件では、女性を宛がう上納(宗教的儀式としての生贄)要素が加わるが、その“手口(手法)”として行使されるのは、「グルーミング」+「エントラップメント」である。105
 京都府八幡市に本部を置く宗教法人「聖神中央教会(キリスト教系新興宗教団体)」代表(主管牧師/創設者)の永田保(在日韓国人)は、主管牧師たる地位を乱用し、信者の少女7人(小学生を含む)に対して計22件の性的暴行を常習的に繰り返したとして、平成17年(2005年)4月6日、強姦、同未遂、準強姦の罪で逮捕された。106
 永田は、宗教的カリスマにより、被害者を心服させたあと、少女たちを教会の牧師室や自宅に呼びだし、「牧師に聞き従う信仰があるかどうかを試す。」、「これは祝福だ」、「拒否すると地獄に落ちる」と称し、性的虐待を繰り返し、「このことを誰にもいうな。いったら地獄に堕ちる」と少女たちを脅迫し、口止めをした。107
 拒否した少女には、「この娘には悪魔が憑いている」と触れ回わることで、精神的に拒否できない状況に追い込んでいた。108
 永田の性暴力(性犯罪)は、ことばでの威圧や借りをつくらせるなどの圧力(パワーハラスメントなど)により、不平等・非対等な関係を巧みに築き、抗(あらが)えない状況に追い込んで、性行為に持っていけるように罠を仕掛ける典型的な「エントラップメント型の性暴力」である。109
 また、「愛天教会」、「明星教会」、「韓国大学生宣教会」、「世界青年大学生MS連盟」、「国際クリスチャン連合」、「JMS(Jesus Morning Star)」、「キリスト教福音宣教会」などと変え、日本では「摂理」と呼ばれるキリスト教系の新興宗教団体の教祖・鄭明析(1945年生まれ)は、韓国や日本の女性信者複数に対し、最初の呼びだしで「(乳がん・子宮がんなどの)健康チェック」と称し、乳房や女性器を触るといった性的虐待を加え、2回目の呼びだしで性的暴行に至っていた。110
 鄭の性的暴行の対象となった女性信者は、信者となって1-2年とある程度の信仰歴を持つ女性であり、しかも、熱心に教えを学んでいる女性を選び、しかも、被害信者たちの指導にあたっているリーダー格的な信者(同じく女性信者)が、鄭の女性信者に対する性的暴行を手助けしていた。111
 教祖の性的暴行の対象となった洗脳が進んでいる女性信者は、これらリーダー格の女性信者から呼びだされ、「教祖から特別な祝福が与えられる。」などの説明を受け、「鄭の待つ部屋に入室するように」と促され、その部屋で、鄭のいいなりだった。112
 性行為中、鄭は日本語で「ダイジョウブ、ダイジョウブ」といい、性行為後は、シャワーヘッドを外したホースで女性器を洗浄し、「他の信者に絶対に話してはいけない。」と指導し、服を着させて退室させ、次の女性信者と交代していた。113
 こうした教祖の性的虐待、性的暴行行為に疑問を感じ、リーダー格となっている女性信者に相談する女性信者がいたが、相談を受けたリーダー格の女性信者は、「これはイエス様がおこなっている祝福である。」と説明し、しかも、「決してこのことを口外してはいけないし、これでつまずいてはいけない。むしろ神様からの愛に感謝すべき。」と口封じしていた。114
 同じ女性信者であるリーダーにありがたいことと諭されることで、一部の女性信者にとって、「性的暴行」が「聖なる儀式」として再認識されることになった。115
 他の信者に話したことがわかると、幹部が他の信者に「あの子は嘘つきだから接触するな!」と指導し、仲間から排除させ、孤立させるなど罰を与えていた。116
 鄭の性暴力(性犯罪)は、鄭を“神格化”した女性信者(性的暴行を受けている)が、ことばでの威圧や借りをつくらせるなどの圧力(パワーハラスメントなど)により、不平等・非対等な関係を巧みに築き、抗(あらが)えない状況に追い込んで、性行為に持っていけるように罠(エントラップメント)を仕掛けた集団性犯罪であり、同様の状況は、「管理売春(性的搾取)組織」で認められる。117
 こうしたスピリチュアル的な儀式の下でのレイプ、新興宗教・カルト教団で繰り返されてきた教祖による信者に対するレイプは、カトリック教会の聖職者による児童への性的虐待に示されるように、いまはじまったことではなく、史実的には、古今東西、共通に認められるもので、しかも、人身売買の温床にもなってきた。118
 古今東西、共通しているのは、戦災、震災、飢饉などで孤児になった子どもが狙われてきた史実で、いまは、「1-②「管理売春」とグルーミング、エントラップメント、ラブボミング」で示したように、家庭が安全でない子ども、つまり、暴力がある家庭環境で暮らし、「思春期後期(12-15歳)」辺りに成長した子どもが、家に帰りたく(居所が)なく、繁華街に集ったり、家出をしたりする子どもが真っ先に狙われる。119
 このとき重要となる視点は、「はじめに。」の28文「人の成長・発達過程において、子どもが、親から良好な「相互グルーミング(社会的グルーミング)」を受けず、アタッチメント形成の確立に問題を抱えていると、第3者に「グルーミング」を仕掛けられると抗う(あらがう)ことが困難になる。」、同50文中後段「‥、長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験と戦争や紛争による被虐殺体験(目撃しやすい生活環境を含む)であり、成育歴で、こうした体験をしてきた子どもは、「相互グルーミング(触れ合い)」を“渇望”する特徴がある。」、同51文「この長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験してきた人の特徴としての「相互グルーミング(触れ合い)」の“渇望”は、「カラカラに乾いたスポンジのような渇望感、心の中にぽっかりと空いた大きな穴のような空虚感、底なし沼のような寂しさ」を示す「見捨てられ不安」を抱えた人が欲する“渇望”のことである。」という被虐待体験をしてきた人が抱える「見捨てられ不安」との関係である。120
 ある目的として、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛ける者は、この「見捨てられ不安」を抱える者を真っ先に狙うが、その判別をするために、親しくなり、苦しみ、ツラさ、哀しみに寄り添うことばと態度を示し(親身になり)、かなり深い内容まで話をききだし、その情報(弱み)にもとづき、行動を仕掛ける。121
 「情報(弱み)にもとづき、もっとも有効で、効果的な行動(かけひき)を仕掛ける」ことができるのは、同じアタッチメント形成に問題があり、「見捨てられ不安」を抱える者である。122
 その行動は、「見捨てられ不安」を回避するために支配するか、「見捨てられ不安」を回避するためにしがみつくかの違いである。123
 この支配としがみつきは、前者のもとから後者が別れを切りだしたときには、支配を強める行動にでたり、後者から逃げだしたりしたときには、執拗につきまとい(ストーキング)、とり戻そうとしたりするので、両者が抱える問題は同じ「見捨てられ不安」であることがわかる。124
 別れを切りだされたり、逃げたりしたとき、執拗につきまとい(ストーキング)、とり戻そうとしない者は、「見捨てられ不安」を抱えていないのではなく、追うのではなく、次の支配対象を探す方が得策であることを学習した行動である。125
 この背景にあるのは、抗えないパワー(力)や状況には、いってもムダ、逆らってもムダ、追ってもムダと思い知らされた成育歴であり、『別紙3b』の「2-(3)学習した無力感、囚人実験」で詳述している「学習した無力感」である。126
 この視点で、「1-①一部のペドファリアの性犯罪と「グルーミング」」の14文の「ジョナサン・エイブルの「未治療の性犯罪者は、・・」の意味を理解できると、長期間、慢性反復的(常態的、日常的)に被虐待体験してきた人が、「見捨てられ不安」などの被虐待体験の人が示す後遺症、特徴・傾向に対し、「未治療」なまま、当事者として支援活動などに至ったり、かかわったりすることのリスクを理解できる。127
 また、被虐待体験に「性的虐待」があるときには、「5-④PTSDの「解離」と「再演」、「性的自傷」に対するケア」で示している解離と「再演」、「性的自傷」がかかわる。128
 女性が被害者になりやすいのは、主に2の理由がある。129
 ひとつは、胎児(妊娠5週目以降)として母親の子宮にいるとき、その母親が、交際相手や配偶者からDV被害を受けると、「コルチゾール」に曝露し、タバコ、アルコール、特定の薬に加え、農薬や環境汚染物質などの曝露とともに、「中枢神経系の発達」が阻害されるリスクが高くなり、しかも、その胎児が女児であるとき、胎児が女児であるときに限り、「扁桃体」が絡む神経ネットワークの結びつきが強くなることである。130
 妊娠5週目以降の胎児期に、神経系の中で多数の神経細胞が集まり、大きなまとまりの領域、つまり、脳と脊髄からなる「中枢神経系」の発達が阻害されると、出生後のうつ病、不安障害、統合失調症などの精神疾患、ADHD、自閉スペクトラム症、LD(学習障害)などの発達障害を発症する高いリスクをもたらす。131
 加えて、胎児が女児であるときに限り、「扁桃体」が絡む神経ネットワークの結びつきが強くなる。132
 つまり、「扁桃体」が絡む神経ネットワークの結びつきが強い状態で生まれた女児は、生まれながら強い不安を抱きやすいことから、「不安障害」を発症しやすく、うつ病の発症と深いかかわりのあるセロトニン神経機能が、この「大脳皮質」の「島皮質」で減少すると、「気になって仕方ない」「不安で仕方ない」といった症状をひき起こす「強迫性障害」を発症しやすくなる。133
 こうした「扁桃体」が絡む神経ネットワークの結びつきが強く、生まれながら強い不安を抱きやすい女性(女児)の特性が、うつ病、PTSDの発症率が、男性より2倍以上高い要因となっている。134
 もうひとつは、人の“従順さ”など後天的に獲得された「形質」や「学習行動」は、遺伝子やRNA(DNAと同じ核酸で、ヌクレオチドと呼ばれるリン酸・塩基・糖から成る基本構造を持ち、ヌクレオチドが連なった構造(ポリヌクレオチド)をとる)を介して、母親から子ども、孫に受け継がれ(遺伝し)、3世代に影響する、つまり、女性の遺伝子が“従順さ”をひき継ぐからである。135
 この遺伝子的な影響は、その国民性、その地域性に顕著に示される。136
 「人と動物を一緒にするな!」と非難する人もいるかも知れないが、犬や猫、馬、牛、豚などの家畜やペットは、野生動物の中で人に慣れた個体同士を何世代も掛け合わせた結果、いまに至っていることを踏まえると、この事実は、遺伝学では常識である。137
 男女の区別なく、日本国民の多くは、いまだに、ア)儒教思想にもとづく「家制度(家父長制)」を背景にした価値観(男尊女卑)、女性の自己犠牲ではじめて成り立つ「良妻賢母」「内助の功」、つまり、“女性は、男性に従順である”ことを支持していることに加え、イ)令和4年(2022年)12月16日施行されるまでの126年間126年間続いた親権行為としての「子どもを懲戒する権利(民法822条)」を認めてきた、つまり、親の子どもに対する「しつけ(教育)と称する体罰(身体的暴力/心理的虐待))」を加えてきたことから、日本人は、親や権力者(自分よりパワー(力)のある人)に対し、従順である傾向が高く、ウ)イ)の影響は、女性にはア)の要素が加わり、従順である傾向が顕著である。138
 つまり、日本は、マインド・コントロール手法のひとつの「型」である「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けやすく、同時に、その「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられたときに抗えない(抗う術を学べない)、つまり、世界に類を見ないほどの脆弱な国である。139


③ 被虐待体験と「パラフィリア」、「性的興奮のパターン」の確立 140
 「2-①」の53文で示しているが、ストリートチルドレンなどの子ども(戦災、震災、飢饉などで孤児になった子ども)、従順で、洗脳しやすい子どもや貧困層に狙いを定め、イスラム過激派などのテロリストに狙われる(勧誘・リクルートされる)ように、戦災、震災、飢饉などで孤児になった子どもの一定数は、寺院、芝居小屋などにひきとられ(人身売買を含む)、ペドファリア(小児性愛者)、贔屓筋(後家(夫と死別し、再婚しないで暮らしている女性(寡婦)を含む)の慰み者になってきた(「贔屓筋にひかれて役者を廃業」などと表現される)。141
 「孤児を慰み者」にしてきた背景にあるのが、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」である。142
 日本には、「役者崩れ」ということばがあり、「落ちこぼれ」「落ちぶれる」という意味であるが、その由来は、慰め者の役割を担わされてきた芝居小屋の孤児が、大人になる兆候が表れる、つまり、第二次性徴がはじまり、髭や腋毛、性毛などが生え、精通(射精)がはじまると、「お役目がごめんになった」ことにある。143
 贔屓筋としての後家(夫と死別し、再婚しないで暮らしている女性(寡婦)には、精通(射精)がはじまると、妊娠のリスクが生じることから、第二次性徴前の男児は都合がいい存在であった。144
 つまり、いまの小学校5年生-中学校2年生で精通(射精)がはじまっていない男児は、性的対象として「お役がごめん」になっていたことになる。145
 一方で、小学校5年生-中学校2年生の男の子で精通(射精)がはじまっていない男児であっても、性的な接触を体験し、「性的興奮のパターンが確立」している男児であるとき、性的行為は十分に可能である。146
 
 ペドファリアの対象には性別は関係なく、3-13歳の児童で、この第二次性徴が基点となるからである。147
 ペドファリアは圧倒的に男性が多いが、女性も存在し、第二次性徴がはじまって以降の男児(少年)を性的な対象としたり、同女児(少女)を性的な対象としたりするのは、「ペドファリア」とは異なる性的嗜好で、人身売買市場の主ターゲットでもある。148
 
 私がかかわったDV事案では、2歳5ヶ月の男児が、ドラム式の洗濯機から洗濯物をとりだしている母親の臀部に、下腹部を押しつけ、腰を振る性的な動作をし、そのとき、男性器が固くなっていたことを確認している。149
 性的サディズム、性的マゾヒズム、ペドファリア(小児性愛)、窃視症(のぞき、盗撮)、窃触症(さわり魔、痴漢)、露出症などの「パラフィリア(性的倒錯/性嗜好障害)」が示す「性的興奮のパターン」は、第二次性徴を経るなど成長・発達に沿って身につけたものではなく、思春期前の幼児期・学童期の前半、つまり、6-8歳ころに(小学校1-3年生までには)発達を終えている。150
 その「パラフィリア」として、「性的興奮のパターン確立」されると、その多くは一生続く。151
 「パラフィリア」の「性的興奮のパターン」の発達には、①不安、または、早期の心的外傷(トラウマ)が正常な精神性的発達を妨げていたり、②性的虐待を受けるなど、本人の性的快楽体験を強化する強烈な性体験に早期にさらされることにより、性的興奮の標準的パターンが他のものに置き換わっていたり、③性的興奮のパターンとして、性的好奇心、欲望、興奮と偶然に結びつくことによって、そのフェティッシュ(物神崇拝、特殊な細部や部分対象への偏愛)が選択されるなど、しばしば象徴的な“条件づけ”の要素を獲得していたりするといった3つのプロセスが関係している。152
 つまり、「パラフィリア」が示す「性的興奮のパターンの確立」の主要因は、長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験と、戦争・紛争地で生活したり、戦闘に巻き込まれたりすることである。153
 この「性的な接触(身体的接触の有無を問わない)をすることで、「性的興奮のパターン」が確立している」という視点では、この2歳5ヶ月の男児が生活する家庭では、ア)男児の2人の姉とともに、父親との挨拶の一環として父親の性器を握らせたり、イ)男児と姉(次女)と父親との入浴では、浴槽に女児を座らせ、陰部を洗ったり、父親の指示のもとで、きょうだいで性器を洗い合ったりする性的虐待が常態化し、ウ)この男児に至っては、1歳の誕生日を迎えた辺りから、父親といっしょに無修正のアダルトビデオを見るようになり(性的虐待)、エ)この事件が起きた数ヶ月前、この男児は、父親に「お前はおっぱいをやれ!」と命じられ、父親が母親をレイプするのに加担させられている。154
 イ)が明らかになったのは、私がこのDV事案に携わってからであるが、母親がこの事実を目撃し、激怒したとき、子どもの父親で配偶者の夫は、「将来の夫に喜んでもらうためだ!」と意に介していない。155
 この2歳5ヶ月男児の「母親の臀部に、下腹部を押しつけ、腰を性的に振る動作」は、性的虐待にもとづく行為であるが、性的虐待を受けている児童に認められる一般的な「再演」とは異なる。156
 その要因は、アダルトビデオの視聴と父親の母親に対するレイプを見て、聴いて学び、行動に至っている、つまり、「学習」し、身につけた行動である。157
 性的虐待の児童に認められる「再演」は、「5-④PTSDの「解離」と「再演」、「性的自傷」に対するケア」で示しているように、自身が被害を受けた性的行為を他者に投影し、自身が受けた被害を認識する行動であるが、この2歳5ヶ月の男児は、自身が、父親の母親に対するレイプに加担し、同時に目撃した状況が、アダルトビデオの視聴と結びついた(学習にもとづく)行動である。158
 「性的虐待」には、「乳児であっても、子どもの前での性行為」が含まれるのは、乳児であっても母と父・母と交際相手(マムズボーイフレンド)との性行為を見たり、聴いたりする行為が、「学習」につながり、「学習」にもとづく行動に至るリスクを伴うからである。159
 この性行為が、同意のない、意に反するレイプであったときには、乳幼児期の子どもであっても、そのレイプ行為が映像として、嫌がる悲鳴の声や映像は記憶(トラウマ記憶と同じメカニズムで)として刻まれ、「パラフィリア」としての「性的サディズム」を生みだす素地となる。160
 この男児は、2歳5ヶ月で「性的に興奮」し、男性器は勃起している。161
 このことは、この男児は、既に「性的興奮のパターンの確立」に至っていることを意味し、現実的ではないが、2歳5ヶ月で、性交(レイプを含む)は可能であり、「性的興奮のパターン」としての「性的サディズム」の芽ができた。162


④ 126年間続いた「子どもを懲戒する権利」 163
 性暴力(性犯罪)のバックグラウンドには「パラフィリア」の存在があり、その「パラフィリア」の「性的興奮のパターンの確立」の主要因は、「はじめに。」の79文、「2-③」の153文で示しているように、長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験、戦争・紛争地で生活したり、戦闘に巻き込まれたりすることである。164
 日本国民の圧倒的多数は無自覚であるが、日本は、世界に類を見ない児童虐待大国である。165
 「日本が、世界に類を見ない児童虐待大国であることに対し、日本国民の圧倒的多数は無自覚」な主要因は、日本政府が、明治29年(1896年)に制定以降、令和4年(2022年)に削除・施行されるまでの126年間、親権行為として「子どもを懲戒する権利(民法822条)」を認めてきたことである。166
 この主要因に起因して、平成12年(2000年)に制定・施行された『児童虐待防止法』にもとづく児童虐待の“規定(定義)”と日本国民の虐待行為に大きな認識ギャップの存在が影響している。167
 「懲戒」とは、不正・不当な行為に対して「制裁」を与えることで、「制裁」として、子どもを殴ったり、叩いたり、蹴ったりするなどからだに痛みを覚えさせる行為、正座を強いたり、直立不動で立たせたりするなど、からだに苦痛を与える体罰行為などが該当する。168
 つまり、親が子どもに対し、「しつけ(教育)と称し、体罰(身体的虐待、心理的虐待)」を加える行為が、「懲戒」である。169
 国際連合(以下、国連)の『子どもの権利委員会』は、「どんなに軽いものであっても、有形力が用いられ、かつ、なんらかの苦痛または不快感をひき起こすことを意図した罰」を「体罰」として定義している。170
 その「体罰の多くは、手、道具(鞭、棒、ベルト、靴、木さじなど)で、子どもを叩くという形で行なわれるが、蹴ること、子どもを揺さぶったり、放り投げたりすること、ひっかくこと、つねること、噛むこと、髪を引っ張ったり、耳を打ったりすること、子どもを不快な姿勢のままでいさせること、やけどさせること、薬物等で倦怠感をもよおさせること、強制的に口に物を入れること(例えば、子どもの口を石鹸で洗ったり、辛い香辛料を飲み込むよう強いたりするなど)を伴うこともあり得る。」と規定している。171
 つまり、親が子どもに対し、しつけ(教育)と称し、上記のような「体罰」を加える行為が、子どもに対する親の「懲戒」で、これらの「体罰」は、身体的虐待、身体的虐待に該当する。172
 日本で、「親が体罰を加える」ことを認めてきた126年間、つまり、5-6世代にわたり、子育てにおいて、親は、子どもに対し、しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)を加えてきたことは、重要な意味を持つ。173
 それは、日本で暮らし、成長する子どもの多くが、長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験をしながら育ち、その子どもたちが、体罰(身体的虐待、心理的虐待)を加えられて育った後遺症を抱えた人生を歩むことに対し、日本政府は、見て見ぬふりをしてきた(対策を講じることなく、放置してきた)ことである。174
 そのため、日本社会は、子どもに対する長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験が、子どもに対し深刻なダメージ(後遺症)を及ぼし、その後の人生に大きな影響をもたらすことに対し無関心で、無理解である。175
 平成12年(2000年)、国連加盟国として『児童の権利に関する条約(以下、子どもの権利条約)』を批准・締結した日本政府は、『児童虐待防止法』の制定・施行を余儀なくされたが、この『児童虐待防止法』の“適用”は、『民法822条(子どもを懲戒する権利)』が令和4年(2022年)に削除・施行されるまでの22年8ヶ月間、極めて限定的で、機能しないダブルスタンダードの姿勢を貫いてきた。176
 1979年(昭和54年)にスウェーデンが世界で最初に体罰を禁止してから41年後の令和2年(2020年)4月1日、日本政府は、『児童虐待防止法』を改正し、世界で59ヶ国目に「体罰を禁止した」が、『民法822条(子どもを懲戒する権利)』の削除を見送っているので、意味を持たない。177
 つまり、日本政府は、2年8ヶ月間、『児童虐待防止法』で「体罰を禁止」した一方で、『子どもを懲戒する権利(民法822条)』を認めていた。178
 「22年8ヶ月間、極めて限定的で、機能しないダブルスタンダードの姿勢」とは、a)『児童虐待防止法』にもとづき警察や児童相談所が介入する児童虐待事案は、「ネグレクト」と重度の熱傷や裂傷、後遺症の残る脳挫傷などの傷害を負い(強度は関係なく『傷害罪(刑法204条)』を適用し、刑事事件化されたり、病院が同法に準じ、警察・児童相談所に通報したりした「身体的虐待」が“主”で、b)親権者の「懲戒」、つまり、「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」のほとんどは対象外としてきたことである。179
 また、性的虐待は、『別紙1b』の「4-(4)性的虐待・レイプ」の80文中段で「…、ア)「挿入を伴う被害」にあった人で、被害後直ぐに「被害」だと認識できなかった人は6割に及び、被害の認識までにかかる年数は平均7.4年だった、イ)被害時の年齢が6歳までの人では、被害認識するまでに11年以上かかったという人が43%だった、ウ)7歳以上20代未満は10-20%、20歳代は8.79%、30歳代は4.17%の人が、被害認識するまでに11年以上かかった、…」でしめしているように、被害者が、性的虐待被害を自覚できなかったり、訴えられなかったりすることから、『児童虐待防止法』に準じ、警察・児童相談所の介入(児童の保護と治療)はほとんど行われていない。180
 この視点に立つと、「はじめに。」の2文前段で「いまから42年前の1981年(昭和56年)、シアトル・タイムズ紙が、「あなたのお嬢さんのクラスにこの次出席するとき、不特定の15人の女の子に目を留めてください…少なくとも1人、おそらく、2-3人は、近親姦の犠牲者であると考えて差し支えありません。」と報じている(令和5年(2023年)12月31日現在)」と示しているように、日本は、アメリカに比べ、少なくとも40年以上遅れている。181
 日本政府と日本社会は、『子どもを懲戒する権利(民法822条)』が存続する中での『児童虐待防止法』から漏れる(対象外の)被虐待児童に対し、日々、虐待を受けながらの生活を強いてきた。182
 結果、「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、身体的虐待)」は、親権行為であり、児童虐待行為ではないとの認識をもたらし、いまだに、日本人の70%以上が「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」を容認している、つまり。虐待を加えている。183
 しかも、日本の一部の専門家と呼ばれる人たちは、「abusu」と「maltreatment」の和訳を持ちだし、「児童虐待」は、前者の「親の権限の濫用(abuse)」を指し、後者の「親による不適切な子どもの扱い(maltreatment)」は、“児童虐待ではない”との自己解釈を述べ、親の子どもに対する「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」を擁護している。184
 しかし、平成25年(2013年)に厚生労働省が示した『子ども虐待の手引き』では、「諸外国で一般的に使われている「マルトリートメント(不適切な養育)」という概念が、日本の児童虐待に相当する。」と規定している。185
 この「マルトリートメント(不適切な養育)は、児童虐待である」との考えが、グローバルスタンダードな児童虐待の定義であり、日本の一部の専門家と呼ばれる人たちは、「abusu」と「maltreatment」の和訳を持ちだし、「児童虐待」は、前者の「親の権限の濫用(abuse)」を指し、後者の「親による不適切な子どもの扱い(maltreatment)」は、“児童虐待ではない”との指摘は、児童虐待の定義の婉曲で、看過できない(見過ごすことはできない)。186
 「虐待行為」である「懲戒(体罰/身体的虐待・心理的虐待)」で、子どものからだに痛みを覚えさせたり、心理的な苦痛をもたらしたりする行為は、「懲戒(体罰/身体的虐待・心理的虐待))」を受けた子どもの脳に「βエルドルフィン」の分泌をもたらす。187
 「はじめに。」で示しているように、人が痛みや苦しみを覚えたときに分泌されるのが、脳内麻薬「βエルドルフィン」で、この「βエルドルフィン」は、鎮静、気分の高揚、幸福感をもたらし、この特性には、依存性(中毒性)がある。188
 この脳内麻薬「βエルドルフィン」の“特性”が、a)「パラフィリア」としての「性的マゾヒズム」につながり、また、b)ア)リストカット(セルフ・カッティング)、OD(大量服薬)、過食嘔吐などの自傷行為に繰りしたり、イ)アルコール、薬物、ギャンブル、セックス、ポルノなどに依存したり、ウ)性的サディズム、性的マゾヒズムなどの性倒錯、窃視(のぞき、盗撮)、窃触(さわり魔、痴漢)、露出、小児を狙った性犯罪に至ったり、エ)クレプトマニア(窃盗症/病的窃盗)に起因する行為で犯罪に至ったり、オ)交際相手や配偶者、自身の子どもに暴行を加え、傷めつける行為(DV(デートDV)、児童虐待)に及んだりする者が、その行為(b)-ア)イ)ウ)エ)オ))に対し、「罪悪感、嫌悪感を覚え、苦しいから止めたいけれど、止められない」と訴える脳の状態をつくりあげる。189
 
 明治政府が、親に「子どもを懲戒する権利(民法822条)」を与えたのは、「国民皆兵(軍人・国の役に立つ人材)」を育成するためである。190
 明治政府は、「軍国化(国民皆兵、富国強兵)」を進めるために「家」を基軸に制度設計した税制改革にとり組んだ。191
 いまに至る「家」を基軸に制度設計した税制度を構築するには、儒教思想(女性蔑視)にもとづく「家制度(家父長制)」の構築が不可欠で、その家父長に対し、「子どもを懲戒する権利(民法822条)」を与えた(家父長の妻は、家父長の指示・意図を汲み、懲戒を補助した)。192
 つまり、「子どもを懲戒する権利(民法822条)」は、「2-①テロリズム。「現人神(天皇)」のもとでの「玉砕」「自爆」」の55文-57文で示しているように、「あるべき家庭教育を国が定め、国家が家庭での教育を統制する」ことを目的とした満州事変・太平洋戦争時の『戦時家庭教育要項』のもとで、「玉砕」「自爆」できる思想教育の重要な役割を担った。193
 満州事変・太平洋戦争時における「子どもを懲戒する権利(民法822条)」は、「1-③マインド・コントロール、洗脳のプロセス」、「同-④マインド・コントロールを仕掛ける者の基本となる4つの「型」」、「同-⑤新興宗教・カルトの勧誘や詐欺商法の「型」」、「同-⑥「感受性訓練」の「型」と「手法」」で示しているマインド・コントロール手法として、子どもを戦士に育てる洗脳教育(しつけ)として重要な役割を果たしていた。194


⑤ 心理的虐待、スケアード・ストレートとエントラップメント 195
 心理的(情緒的)虐待は、ア)無視(ibnoring)、イ)拒否(rejecting)、ウ)孤立させる(isolating)、エ)恐怖を与える(terrorizing)、オ)腐敗させる(corrupting)、カ)ことばの暴力(verbal assaulting)、キ)過度の圧迫(over pressuring)の7つに分類される。196
 このア)-キ)に示される親の子どもに対する心理的(情緒的)虐待は、子どもをコントロールする(いうことをきかせる/指示に従わせる/罰を与える)目的で行使されることから、マインド・コントロール手法につながる行為である。197
 その中で、マインド・コントロール手法の「型」として、人を騙したり、恐怖を与えたり、立場を利用したりして、物を奪った(ものを買わせるを含む)り、性的行為に至ったりする「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」と深くかかわるのが、エ)の恐怖を与える方法に“嘘”の要素が含まれる「スケアード・ストレート(恐怖によるコントロール)」である。198
 126年間、「懲戒(体罰/身体的虐待、心理的虐待)」を認めてきた日本では、「親(教師、上司)が、子ども(生徒、部下)に恐怖を感じさせる(スケアード)ことで、子どもに正しい行動(ストレート)ととることの必要性を学ばせようとする行為」である「スケアード・ストレート(恐怖によるコントロール)」の理解は重要な意味を持つ。199
 「スケアード・ストレート」の例としては、ア)親が、「早く寝ないとお化けがでるよ!」といい、子どもを怖がらせて寝かしつけようとしたり、「いうことをきかないと、押し入れに閉じ込めるぞ!」、「いうことをきかないと、もう買わないからね!」、「早くこないと、置いて行っちゃうよ!」といい、怖がらせ、脅して、いうことをきかせようとしたり、イ)学校などで、人が交通事故にあった映像を見せ、「道路を飛びだしてはいけない」と教えたり、ウ)教師や指導者などが「いうことをきかないと、レギュラー(配役、採用)から外す(内申点に影響する)」と脅すことばを伴って指導したり、職場で、「いうことをきかないと、査定に響く(他の部署に飛ばす、辞めてもらう)」と脅すことばを伴って命じたりする行為があげられる。200
 この「スケアード・ストレート」は、「ランダム化比較試験」などにより、“意味がない”どころか、“逆効果を生む”ことが明らかになっている。201
 親、教師・指導者などが、幼児期・学童期の成長過程の子どもを怖がらせること、つまり、子どもに恐怖を与えることはプラスに働くことはなにもなく、すべてマイナスに働く。202
 しかも、親が、子どもに対し「いい子にしない(いうことをきかない)と、お巡りさん呼ぶぞ!」といい、いうことをきかせる(コントロールする)ための「スケアード・ストレート」には、“嘘”という側面を伴う。203
 この親の“嘘”という側面を伴う問題は、子どもが成長に伴い、親や大人に嘘をつく習慣をもたらしたり、心理的な問題を抱えさせたりする。204
 親は、子どもが嘘をつくと、「嘘をつくと、エンマ大王に舌を抜かれるぞ!」とさらに“嘘”を重ね、いうことをきかせようとする。205
 つまり、「スケアード・ストレート」を使った生活習慣を身につけさせる行為は、子どもを嘘つきに育てたり、心理的な問題を抱えさせたりする。206
 こうした子どもに恐怖を与え、従わせようとする「スケアード・ストレート」は、「なまはげ」、「鬼退治」などの伝統文化は、「道徳教育」、「昔話」、「童話」などを通じて、日本社会の隅々まで浸透し、これらの社会規範を踏まえて、家庭だけでなく、学校園による教育、部活動などの指導、加えて、職場での指導・教育など、子ども大人にかかわらず、教育・指導が行われるあらゆる“場”や“機会”で、日常的に見られる光景である。207
 「なまはげ」、「鬼退治」などの伝統文化につながる仏教の教えに至っては、少なくとも、江戸幕府が、すべての人々がいずれかの仏教寺院(寺)の「檀家」となることを強制する「寺請制度」を設け、葬祭供養などの場での説話まで遡ることができる。208
 全宗派と寺院を全面的に統制する法度をつくり、住職の資格や寺領の規制に伴い寺檀制度の大綱を定めたのは寛文5年(1665年)とあるので、ここを基準とすると、実に358年経過している。209
 そのため、日本社会は、この「スケアード・ストレート」が問題のあるしつけ・教育法であることに対し無自覚、無頓着であるという実に根が深い問題を抱える。210
 この恐怖によるコントロールの「スケアード・ストレート」は、オレオレ詐欺や投資詐欺、結婚詐欺、占い・スピリチュアルなどの詐欺商法、新興宗教やカルド団体の勧誘活動(詐欺商法を含む)の“常套手段”で、恐怖によるコントロールの「スケアード・ストレート」で育ってきた、つまり、心理的虐待を受けて育ってきた(被虐待体験をしてきた)日本国民は脆弱で、スッと騙されやすい。211
 つまり、恐怖によるコントロールの「スケアード・ストレート」で育った被虐待体験をしてきた人は、人の嘘、つくり話、戯言に対する心理的な障壁(防衛機制)が低く、人を騙したり、人に騙されやすかったりする傾向がある。212
 このことは、日本社会は、マインド・コントロール手法のひとつの「型」であるⅰ)親しさを装い、手懐け、断り難い状況をつくりだす手法としての「グルーミング」、ⅱ)ことばでの威圧や借りをつくらせるなどの圧力(パワーハラスメントなど)により、不平等・非対等な関係を巧みに築き、あらがえない状況に追い込んで、性行為に持っていけるように罠を仕掛ける「エントラップメント」、ⅲ)短期間に猛烈なアプローチをし、まるで、相手が自分のことを「ひとめぼれ」したように見せかける「ラブボミング」に対する心理的な障壁(防衛機制)が低く、仕掛けたり、仕掛けられたりしやすい国であることを意味する。213
 日本で生まれ、育った人は、乳幼児期から、「脅す」ことは人の心をコントロールできる有効な手段(術)であることを、親や近親者、保育士、教師、所属するコニュニティの人たちからの「スケアード・ストレート」で叩き込まれる一方で、「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」を加えたり、「スケアード・ストレート(心理的虐待)」でコントロールしたりしない方法を学び、習得する機会はないに等しい。214
 つまり、日本社会には、令和2年(2020年)4月1日、改正した『児童虐待防止法』を施行し、体罰を禁止したり、令和4年(2022年)12月16日、『子どもを懲戒する権利(民法822条)』を施行・削除したりしても、「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」を加えたり、「スケアード・ストレート(心理的虐待)」でコントロールしたりしない“お手本”がほとんどいない(教えることができる人が存在しない)。215
 この問題は、深刻である。216
 平成29年(2017年)、子ども支援の国際的NGO「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」が全国2万人の大人を対象に実施した「子どもに対するしつけのための体罰等に関する意識調査」と、1030人の子育て中の親と養育者を対象に実施した「体罰等に関する意識実態調査」にもとづき、『子どもに対するしつけのための体罰等の意識・実態調査結果報告書』をまとめ、発表した。217
 実に68.2%の親が、子どもを叩くことを容認し、子育て中の家庭の70.1%が、過去にしつけ(教育)の一環として体罰を加えていた。218
 問題は、「子どもに対して決して体罰をすべきではない」と回答した43.3%の一定数が、お尻を叩く、手の甲を叩く(以上、身体的虐待)、怒鳴りつける、睨みつける(以上、心理的虐待)などの子どもの心を傷つける体罰を容認していたことである。219
 つまり、「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」に対する認識には、大きなギャップが存在し、実際は、「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」を加えているのは80%を超えている。220
 「2-➃」の184文、186文で示しているように、日本の一部の専門家と呼ばれる人たちが、「児童虐待は、“親の権限の濫用(abuse)”を指し、“親による不適切な子どもの扱い(maltreatment)”は児童虐待ではない」と歪曲する“親の権限の濫用(abuse)”に該当する「子どもを懲戒する権利」、つまり、「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」が、5-6世代の子育てで繰り返されてきたことを踏まえ、前者の70%を単純計算すると、調査年度の平成28年(2016年)の日本人の人口は1億2502万人なので、その70%は、8751万4千人が「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」に関係する当事者となる。221
 当事者である8751万4千人とは、日本の一部の専門家と呼ばれる人たちが、「児童虐待は、“親の権限の濫用(abuse)”を指し、“親による不適切な子どもの扱い(maltreatment)”は児童虐待ではない」と歪曲する子どもに「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」を加えたことのある親や養育者に加え、親にその「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」を加えられた被虐待体験者(小児期逆境体験者)の総数である。222
 この深刻な日本を蝕む社会病理について、日本で生まれ、生活する多くの人たちの多くは、自身がその当事者であることに対し無自覚で、無頓着であり、重大で、深刻な問題との認識に至らず、しかも、自身がその当事者であることを否定し、その指摘を激しく非難する。223
 慢性反復的(常態的、日常的)で、苛酷な被虐待体験をしてきた人の一定数に認められる「反応性愛着障害(RAD)」に求められる「不安型(囚われ型)」は、親のそのときの気分(気まぐれ)でかわいがられたり、突き放されたりするなどムラのある接し方をされている「ダブルバインド」「制限(条件)つきの優しさ」に起因する。224
 日本では、10人-8人に1人の子どもや大人が、この「不安定型(囚われ型)」の「反応性愛着障害(RAD)」に見られるような傾向が見られる(問題を抱えている)と指摘されている。225
 「10人-8人に1人」という数字を、小学校の1クラス35人学級にあてはめてみると、1クラスに3.50人-4.38人の児童が該当するが、この「反応愛着障害(RAD)」が示す特徴と傾向が、「ADHD(注意欠陥多動性障害)」の特徴と傾向が酷似し、専門医でもその診断が難しいといわれる。226
 つまり、日本社会では、70%の人が「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」を容認していることを踏まえると、1クラス35人のうち、実に21人-24.5人の児童が、少なくとも、お尻を叩く、手の甲を叩く(以上、身体的虐待)、怒鳴りつける、睨みつける(以上、心理的虐待)などの「しつけ(教育)と称する体罰」を加えられていて、そのうちの3.50人-4.38人の児童は、「反応愛着障害(RAD)」が示す特徴と傾向を示している(慢性反復的(常態的、日常的)で、苛酷な被虐待体験をしている(きた)児童)ことになる。227
 「2-⑤」の221文、222文で示しているように、日本社会が、「平成28年(2016年)の日本人の人口は1億2502万人の70%、少なくとも、8751万4千人が、「懲戒」、つまり、「しつけ(教育)と称する体罰(身体的虐待、心理的虐待)」の加害者と被害者の総数である状況は、日本社会そのものが、差別・排除、DV(デートDV)、児童虐待、性暴力、いじめ、(教師や指導者などによる)体罰、ハラスメントなどの暴力行為(人権侵害行為)に対して鈍感で、寛容な風土(雰囲気)を存在させている背景になっている。221


⑥ いじめ、グルーミング・エントラップメントを仕掛けやすい風土 222
 この日本社会特有の暴力行為(人権侵害行為)に対して鈍感で、寛容な風土(雰囲気)は、所属するコミュニティで、いじめ、(教師や指導者などによる)体罰、ハラスメント、そして、「エントラップメント型の性暴力」を見て見ぬふりをする要因となっている。223
 そして、所属するコミュニティで、いじめ、(教師や指導者などによる)体罰、ハラスメント、そして、「エントラップメント型の性暴力」が発生したとき、その所属するコニュニティが、適切な対策を講じていなかったり、適切な対応をしなかったりしたときには、重い責任を負うことになるのが、グローバルスタンダードである。224
 一方で、所属するコミュニティの対策責任を重視しないが、日本特有のシステムといえる「連帯責任」を避けようとして(とりたくないがために)、発生した問題を隠す力が働く。225
 
 ここで、人のことば、行動に影響を与え、コントロールしたり、されたりする心理など、幾つかの暴力とつながる用語、理論として、「群集心理、集団心理」「同調実験」「権威主義的行動」「プロパガンダ」「ポピュリズム」の5つを説明しておきたい。226
 
(群集心理、集団心理) 227
 群集心理、集団心理といわれるものには、次のようなものがある。228
・匿名性(無名性):大勢になればなるほど、自己の言動に対する責任感と個性がなくなり、しばしば無責任、無反省、無批判な行動になる傾向がある。229
 「赤信号みんなでわたれば」といった心理状態である。230
・被暗示性:暗示にかかりやすくなる。231
 人にいわれたり、その場の雰囲気にしたがった行動をしたりしてしまう。232
 目立つ人、声の大きな人の過激な号令に盲目的に従ってしまうこともあり、また、人の思いがまるで伝染するように、共通した考えや感情を持ちやすくなる。233
・感情性:感情的になります。論理的に考えられなくなる。234
・衝動性:理性のブレーキがきかなくなる。235
・力の実感: 自分達が強くなったような気がする。236
 「社会心理学」では、一人で考えて結論をだすよりも、集団で話し合ったほうが、結論がより過激で危険性の高いものになりやすいことがわかっている。237
 その理由は、「服従の心理」が強く働くからである。238
 
(同調実験) 239
 1951年(昭和26年)、ソロモン・アッシュは、「同調実験」を実施した。240
 この実験に参加したのは大学生で、7人ひと組でおこなわれ、そのうちの6人はサクラで、回答者は1人である。241
 カードAには、1本の線が、Bには長さの違う3本の線が描かれていて、そのうち1本だけがAに描かれた線と同じ長さで、どの線が同じ長さかを応えるものである。242
 3本の線の長さの違いは歴然で、間違いようのない。243
 最初の数回は、全員が正解する。244
 ところが途中から、1番から6番までのサクラの回答者が、一致して間違った回答をしはじめると、7番目の回答者は、なんと3分の1の割合で、明らかな不正解に同調した。245
 アッシュは、この結果に衝撃を受け、実験前の説明の仕方を変えるなど、繰り返し検証実験をしたが、結果はほぼ変わらなかった。246
 地域共同体や職場など、ある特定のピアグループ(Peer group)において意思決定や合意形成をおこなうとき、少数意見を有する者に対して、暗黙のうちに多数意見に合わせるように誘導することを「同調圧力」という。247
 「同調圧力」がかかった同質性の高い集団の中で、ものごとが決められるようになると、「グループシンク=集団浅慮」が起きる。248
 「集団浅慮」とは、「リスクを楽観視する」、「集団の実力を過度に評価する」、「都合の悪い情報を遮断する」、「社会ではなく集団内の規範を重視する」ことなどを指す。249
 「同調圧力」がかかった“同質性”は、不祥事を起こしやすい組織の特徴である。250
 
(権威主義的行動) 251
 『別紙3b』の「2-(3)-②囚人実験(監獄実験)と拘禁反応」、「2-(3)-④ミルグラムのアイヒマン実験(服従実験)」で詳述しているように、ミルグラム、ジンバルドーらが示した“同調”“服従”は、「権威主義的行動」ということができる。252
 「権威」とは、特段に優れた能力、技能を持つ人の影響力のことで、「権威主義」とは、そうした裏づけなしに、権威をいわば偽装して圧迫、支配を及ぼそうとするものである。253
 「権威主義的支配」を支えるのが、“同調”“服従”といえまる。254
 つまり、「支配と同調はコインの裏表の関係」にある。255
 この権威主義的行動が暴走すると、「アイヒマン実験(服従実験)」「囚人実験(監獄実験)」で明らかなように、凄惨な事態を招く。256
 問題は、同調、服従が、人の生存に必要な能力でもあることから、服従、同調などの権威主義的行動をなくすことは不可能なことである。257
 生物としての人の最大の武器は、集団行動である。258
 この集団行動で、もっとも重要となるのがコミュニケーション能力である。259
 人は、言語を発達させてきた。260
 そして、同調、服従など「場の空気を読む」能力は、非言語としてのコミュニケーション能力のひとつである。261
 集団を統括するには、従わないメンバーを排除しなければならない。262
 人は、文明として、コミュニティの中での秩序をもたらすための「ルール」「法」をつくってきた。263
 部族社会や農村、ギルドなどの共同体は、権威主義的傾向が強い集団の方が生き残りやすかった。264
 こうした部族的な集団は、数10人、多くて100-200人という小規模であった。265
 これらの小集団は運命共同体で、リーダーの判断が誤っていれば、集団自体がなくなってしまい、一方で、その集団以外には被害は拡大することはなかった。266
 しかし近代になり、国家や企業など、1万人を超える大集団が形成されると、リーダーたちやひとりの突出した権威者(権力者)の判断が誤ると、その被害やリスクは飛躍的に増大した。267
 近代では、新しい概念として、「モブ(群衆)」という社会集団を捉えることが重要になった。268
 社会心理学的には、「モブ(群集)」と「グループ」は異なる存在である。269
 グループは、成員ひとりひとりの名前、属性などを互いに知っている、記名性の集団ですが、「モブ(群集)」は、隣にいる人が誰かもわからない匿名の存在である。270
 重要なことは、この「モブ(群集)」は、過度の同調などの暴走を起こしやすいことである。271
 現代では、テロ行為などいき過ぎた同調、服従が生じないよう、法を整備するなど、チェック・監視する必要でてきている。272
 また一方で、先に「同調、服従が、人の生存に必要な能力でもあることから、服従、同調などの権威主義的行動をなくすことは不可能である。273
 “いじめ”の問題は、長年にわたりさまざまな対策が講じられながら、解決の道筋をみいだすことができていない。274
 しかも、いじめる側には、集団への同調性が低いとみなした者の排除、制裁、つまり、主観的には、「正義感情」にもとづいていることが少なくない。275
 ここには、「集団の維持」という人の生存条件と強く結びついている。276
 ホロコーストに携わった人々に、臨床心理学的な面接をおこなったテオドール・アドルノたちのグループは、権威主義的人格の特質として、「教条主義(ひとつの信条、主義がすべての善悪の判断基準となる)」「ファシスト傾向」「因習主義(前例、古い価値基準に固執する)」「反ユダヤ主義」「自民族中心主義」「右翼的傾向」「形式主義(手続きへのこだわり)」をあげている。277
 このことは、権威主義と保守的な傾向は結びつきやすいことを示している。278
 問題は、これらと一見正反対に思えるリベラルや左翼的な立場の人々が、往々にして「権威主義者」となることである。279
 イデオロギーという教条の絶対化、トップダウンの組織づくり、異分子の排除など、旧ソ連などの共産主義国家は、まさに典型的な権威主義体制であった。280
 こうした状況は、企業などでもあてはまる。281
 若いころには、当時の権威者に異議を唱え、前例を排し、多くのイノベーションをおこなってきた者が、組織のトップに立つと、「権威者」として下に強い同調、服従を強いるようになる。282
 そのうちに、新たな権威者やり方についていけない部下は、会社を去り、新たなワンマン体制がつくられ、その弊害が表面化するころには、同調性の高い人(イエスマン)しか残っていない状況がつくられる。283
 人には、どのような優れたシステムをつくっても、過度の同調、服従に走ってしまう特性がある。284
 人は、なんらかの意図を持って、人の心をコントロールしようとする特性を持っていることから、暴力的なふるまいを使わずに、人の心をつかむ手法、特に、群集心理をコントロールする手法として用いられる「プロバガンダ」と「ポピュリズム」の理解は不可欠である。
 ことから、以下、触れておきたいと思います。285
 
(プロパガンダ) 286
 特定の思想・世論・意識・行動へ誘導する意図を持った宣伝行為のことを「プロパガンダ(propaganda)」といい、あらゆる宣伝や広告、広報活動、政治活動が含まれる。287
 利益追求者(政治家・思想家・企業人など)や利益集団(国家・政党・企業・宗教団体など)、中でも、「人々が支持しているということが自らの正当性である」と主張する者にとって、支持を勝ちとり、維持し続けるためのプロパガンダは重要である。288
 対立者が存在する者にとって、プロパガンダは武器のひとつである。289
 自勢力やその行動の支持を高めたり、敵対勢力の支持を自らに向けたり、敵対勢力の支持やその行動を失墜させたりするためにプロパガンダは使われる。290
 本来のプロパガンダという語は中立的なものであったが、カトリック教会の宗教的なプロパガンダが、敵対勢力からは反感を持って語られるようになったことから、プロパガンダということばそのものが“軽蔑的”に扱われ、「嘘、歪曲、情報操作、心理操作」と同義と見られるようになった。291
 J.A.C.Brownは、宣伝の第1段階は「注意を惹く」ことであるとしている。292
 具体的には、激しい情緒にとらわれた人間が暗示を受けやすくなることを利用し、欲望を喚起したうえで、その欲望を満足させ得るものは自分だけであることを暗示する方法をとる。293
 また、L.Lowenthal.N.Gutermanは、煽動者は不快感にひきつけられるとしている。294
 アドルフ・ヒトラーは、宣伝手法について、「宣伝効果のほとんどは人々の感情に訴えかけるべきであり、いわゆる知性に対して訴えかける部分は最小にしなければならない。」、「宣伝を効果的にするには、要点を絞り、大衆の最後のひとりがスローガンの意味するところを理解できるまで、そのスローガンを繰り返し続けることが必要である。」と、“感情に訴える”ことの重要性をあげている。295
 ヨーゼフ・ゲッベルスは、「十分に大きな嘘を頻繁に繰り返せば、人々は最後にはその嘘を信じるだろう(=嘘も百回繰り返されれば真実となる)」と述べている。296
 そして、杉野定嘉は、「説得的コミュニケーションによる説得の達成」「リアリティの形成」「情報環境形成」という3つの概念を提唱し、敵対勢力へのプロパガンダの要諦は、「絶妙の情報発信によって、相手方の認知的不協和を促進することである」と述べている。297
 
(ポピュリズム) 298
 葛藤、悩み、苦しみ、哀しみ、不満、憎しみ、怒りなどの思い(感情)を秘めている人は、短く、わかりやすく、力強いことばでその思いを訴えられると、そのメッセージは、心に響き、共感しやすいという傾向がある。299
 この傾向を巧みに利用するのが、政治指導者、政治活動家、革命家が、不満を募らせていたり、利得を求めていたりする大衆に対し、大衆の不満や利得など一面的な欲望に迎合して大衆を操作する方法である「ポピュリズム(populism)」である。300
 ポピュリズムとは、「大衆迎合主義」ともいわれ、一般大衆の利益や権利、願望、不安や恐れを利用して、大衆の支持のもとに既存のエリート主義である体制側や知識人などと対決しようとする政治思想(政治姿勢)のことである。301
 「大衆を操作する」とき、不満を募らせていたり、利得を求めていたりする大衆に対し、短く、わかりやすく、力強いことばで訴えることで、聴衆の心を捉えることだけにフォーカスする。302
 このとき、正しいことを選択する理性よりも、気持ち(感情)に響き共感できること、つまり、承認欲求が満たされることが優先される。303
 そのため、その訴えの内容や実現のための方法が正しいかどうかは問題ではなく、大衆の欲望に沿うことができれば、聴衆の心を捉え、聴衆が大挙を成してシュプレヒコールをあげることを扇動することができる。304
 短くわかりやすいメッセージ(ことば)は、大衆に対してではなく、特定(特別)のひとりに対しても有効である。305
 新興宗教やカルト教団、スピリチュアルの勧誘、結婚詐欺師や詐欺商法の実行者の接近、DV加害者との出会いでは、甘く優しいことばで囁き、独自の考えを雄弁に語る。306
 その人に惹かれるかどうかは、正しいかどうかではなく、自尊心が擽られ(承認欲求が満たされ)、夢(空想)を膨らますことができる(現実逃避できる)ことが優先される。307
 この数年間で、国家や民族のトップが民衆の「怒り」を刺激し、扇動するポピュリズムが増えてきた。308
人の「怒り」の表出に影響を及ぼす要因は、「個人的性質」と「怒りを覚える前の精神状態」という2つである。309
 「怒り」とは、人類の生存に欠かせない感情である。310
 食べ物がなければ、飢餓感とともに怒りの感情を覚え、その感情を、食べ物を欲する意欲に変えてきた。311
 コニュニティで生きることでしか生存が保証されなかった時代では、本意ではないことを「怒り」という形で他のメンバーに伝えることで、集団生活を維持する役割を果たしてきた。312
 それは、やがて怒りのままリンチで殺害するのではなく、集団生活を維持するための役割として、ルールや法(規制)で裁くようになっていった。313
他人の悪事に腹を立てずに見逃したり、容認したりしていたら、社会は成り立たず、一方で、差別や貧困などに対する「怒り」が、多くの革命(旧来の秩序の破壊)を生む強烈なエネルギーとなってきた。314
 ここで、重要なことは、「怒りを生む土壌」である。315
 心に巣食う別のネガティブ感情、例えば、「心配」「不安」「苛立ち」「憤り」「寂しさ」「恐怖」「恥ずかしさ」「疲れ」「痛さ」といった「一次感情」が土台にあり、それがなにかのきっかけに「怒り」として爆発してでてきる。316
 つまり、「怒り」は、「二次感情」とされる。317
 極限の飢餓や生命の危機といった状況を脱し、衣食が足りているときにも、一方で、「マズローの欲求段階説」で示されるように、求める欲求や求める期待値があがり、それが、怒りのひきがねとなることもある。318
 また、他者と比べて、少しでも満たされていないと感じるとストレスを感じ、憤りや怒りの感情を抱くこともある。319
 現代の生活は、(収入)格差の拡大、地球環境の悪化、残業、リストラクチャリング(リストラ)、交通渋滞、将来への不安など、メディアだけでなく、インターネットを通して、不愉快なできごとが次から次へと耳に、目に入ってくるなど、「怒り」の一次感情を招くストレス要因に満ちていると考えることもできる。320
 「怒り」の一次感情を招くストレス要因に満ちている社会こそが、ポピュリズムを生みだす土壌となる。321
 脳には、二重の意思決定回路がある。322
 ひとつは、「速いシステム=直感的に解を導きだす」もので、普通は目の前の情報に対して、迅速に対応するため「速いシステム」がメインに働く。323
 しかし、「速いシステム」は、迅速に対応するがゆえに粗っぽく、間違いを検出する作業は不得意である。324
 “直感”というのは、単なる脳の習性にもとづく判断でしかないことから、基本的に粗っぽいものである。325
 その“感覚”には、そこに矛盾があっても、迅速なシステムによって一度は受け入れるという性質があることから、確信に満ちた人の態度を見ると、一度は納得して受け入れてしまうことになる。326
 一度納得して受け入れたのちに、もうひとつの論理的、理性的に判断し検証する「遅いシステム」が発動する。327
 「あれ? なにかおかしいな?」、「よく考えるとなんか変だぞ!」という感覚は、「遅いシステム」が、一度納得して受け入れたものを「遅れて」検証をして、警告を発したものである。328
 したがって、自分の話に巻き込むことに手慣れた者、そして、マインド・コントロールを仕掛けるカルト集団の指導者や詐欺師に騙されないためには、論理的、理性的に判断し検証する「遅いシステム」を働かせることが重要になる。329
 直ぐにその気になったり、騙されたりしないためには、「遅いシステム」が発動するのを待って、判断を下すこと、つまり、心を落ちつけて、自分を内省する時間を持つことが必要である。330
 「遅いシステム」を発動させるには、子どものときから、忍耐力の必要な問題にとり組んだり、粘り強さが必要になる課題にチャレンジしたりすることを習慣づけていなければならない。331
 しかし、戦争や紛争地で暮らす子どもたち、飢餓や貧困のある地域で暮らす子どもたち、そして、暴力のある家庭で暮らし、育った子どもたちは、論理的、理性的に判断し検証する「遅いシステム」を発動させることなく、体験(生存システム)に裏づけられた“直感”という「迅速なシステム」で、すべてを受け入れてしまう傾向が顕著である。332
 人は、暴力のある環境では、暴力を学び、すり込み、人とのかかわりとしての暴力の行使と回避の方法を身につけるだけで、暴力のない環境で生きる“術(すべ)”を身につけることができなかったり、論理的、理性的に判断し検証する「遅いシステム」を発動させることなく、体験に裏づけられた“直感”という「迅速なシステム」で、すべてを受け入れてしまう傾向が高くなったりする。333
 その結果、人とのかかわりにおいて、トラブルを起こしたり、トラブルに巻き込まれたり、あらゆる人とのかかわりを避けてしまったりするなど、葛藤、悩み、苦しみ、哀しみ、不満、憎しみ、怒りなどの思い(感情)をコントロールできず、生き難さを抱えたり、さまざまな心身の後遺症に苦しむ人生を歩まなければならなくなる。334
 
 マインド・コントロールの手法のひとつとしての「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」の理解には、この風土(雰囲気)の視点が不可欠である。335
 この所属するコミュニティで生じるハラスメント、「エントラップメント型の性暴力」を仕掛けやすい日本社会の風土(雰囲気)をもたらしているのが、第1に、儒教思想(女性蔑視)にもとづく女性の自己犠牲ではじめて成り立つ「内助の功」「良妻賢母」である。336
 日本では、いまだに、男女の違いはなく多くの人が、女性の自己犠牲ではじめて貼り立つ「内助の功」「良妻賢母」を支持し、そこから外れる女性に対して、「女らしくない」「生意気だ」と侮蔑・卑下し、嫌悪感・敵対心を抱く者も少なくない。337
 つまり、日本社会は、「ミソジニー(女性に対する憎悪、嫌悪、差別意識)」による加害行為が生まれやすい社会的な風土(雰囲気)が備わっている。338
 この女性に向けられるこの嫌悪・性差別(ミソジニー)がいきつくと、女性を狙った殺人「フェミサイド」になるが、この「フェミサイド(女性を狙った殺人)」を「女性を狙った性暴力(性犯罪)」と置き換えると、そこには、「エントラップメント型の性暴力」の存在が見えてくる。339
 第2は、同じく儒教社会の日本は、1年の歳の差で先輩・後輩という上下関係が生まれることである。340
 この1年の歳の差で先輩・後輩という上下関係が生まれる日本社会は、多くの日本人は無自覚であるが、学校や塾、職場など所属するコニュニティには、なにもしなくても、「エントラップメント」を仕掛けたり、仕掛けられたりしやすい風土(雰囲気)が備わっている。341
 先輩と後輩という関係性には、心理的障壁(防衛機制)が働き難い。342
 この心理的障壁(防衛機制)が働き難いことが、被害を認識し難くし、先輩は敬う存在という認識は、被害を訴えるのを躊躇する大きな心理的要因となっている。343
 さらに、「エントラップメント」を仕掛けやすい風土(雰囲気)を備えているのが、仕事のとりひき、職や役を得るなど、上下の関係性、支配と従属の関係性が生じやすく、支持に従わなければならかったり、期待に応えなければならなかったりする状況である。344
 例えば、就職活動中の大学生に対し、個別に面接指導などを実施すると誘いだし、「強制性交」や「強制わいせつ」に至った大林組(平成31年(2019年)2月)、住友商事(同年3月)、リクルートコミュニケーションズ(令和2年(2020年)12月)などの社員が起こしたレイプ事件は、「エントラップメント型の性暴力」であるが、“採用側の買い手市場(企業の求人数<求職者)”であるとき、つまり、採用者と求職者に上下関係が生じやすい状況下では、表面化しないだけで、これまでも、パワーハラスメント・セクシュアルハラスメントに加え、「エントラップメント型の性暴力」は繰り返されてきた。345
 性暴力被害者支援の草の根活動のスローガンとしてはじまった「♯Mee Too」は、2017年(平成29年)10月5日、『ニューヨーク・タイムズ』が、性的虐待疑惑のあった映画プロデューサーのヴェイ・ワインスタインによる数十年に及ぶセクシュアルハラスメントを告発したことをきっかけに世界中に広がったが、このレイプ事件は、役を与える決定権を持つ権威者による「エントラップメント型の性暴力」の典型例といえる。346
 こうした視点に立つと、暴力被害者が、被害を認識し難く、認識できるまで多くの時間を要したり、被害を訴えられなかったりする要因(原因)には、生活している国、地域、所属しているコニュニティの風土(雰囲気)が深くかかわっていることが理解できる。347



⑦ 「いじめの4層構造」で読み解く「ジャニーズ性的虐待事件」348
 この社会の持つ“風土”、社会が醸しだす“雰囲気(空気感)”の視点として、「2-⑥」で補足説明している「群集心理、集団心理」「同調実験(同調圧力)」に加え、例えば、「いじめの4層構造論」の理解が役立つ。349
 文部省(当時)が「いじめの定義」を提示したのは昭和60年(1985年)で、その定義作成に携わった森田洋司氏が、「いじめのある学級には、いじめの被害者、加害者、観衆、傍観者の四層があり、この状況がいじめを助長している」と指摘したのが「いじめの4層構造論」である。350
 その「いじめの4層構造論」では、「観衆」「傍観者」は、加害者に加担していると捉えている。351
 「観衆」は、自ら手を下さないが、ときに、はやしたてたり、おもしろがったりして火に油を注ぐ役割を担い、加害行為を是認する後ろ盾の役割を果たす。352
 加害行為を知りながら通報を躊躇ったり、見て見ぬふり(知らないふり)をしたりする「傍観者」は、加害行為に対する“暗黙の指示”となり、さらに、加害行為を助長する(加害行為を再び犯したり、加害行為を繰り返したりする)役割を担う。353
 いじめ、(教師や指導者などによる)体罰、ハラスメントなどの暴力行為(人権侵害行為)が生じやすい風土(雰囲気)のある学校園、職場、コニュニティには、仲間意識が高く、権威者の意に添う傾向が顕著である。354
 この「権威者の意に添う」という思考・行動習慣は、問題が起きたときには「権威者を擁護するパワー(力)」となるだけでなく、「権威者を擁護する」ことで得をする(立場を維持できたり、昇給したり、自分に危害が及ぶのを回避したりするなど)ことがモチベーション(動機づけ)となる。355
 つまり、暴力行為(人権侵害行為)を見て見ぬふりをして、事実を隠蔽し、事実をなかったことにする、つまり、事実を握り潰す。356
 この「権威者の意に添う組織」として事実を隠蔽し、事実をなかったことにする、つまり、突出した事実を握り潰してきた「エントラップメント型の性暴力(性犯罪)」が、ジャニー喜多川氏による「ジャニーズ性的虐待事件」である。357
 「グルーミング」「エントラップメント」を仕掛けた“捕食者”のジャニー喜多川氏の性的虐待事件について、この「いじめの4層構造論」で、「そのレイプ(性的虐待)を見て見ぬふりをしてきた関係者の役割を見ていく」とわかりやすいことから、以下、以前にまとめたレポート(“捕食者”のジャニー喜多川氏は、常軌を逸する「好みの獲物を自由に選べる“狩場”としてのジャニーズ事務所」をつくりあげ、そのシステムは55年間続いた!)の一部を引用する。358
 “捕食者”の故ジャニー喜多川氏に対し、“狩場”であるジャニーズ事務所が、獲物を集める役割を果たしたのがオーディションであり、そのオーディションに参加する子ども、子どもを参加させたい親に対する重要な宣伝活動を担ったのが、ジャニーズ事務所に加え、ジャニーズ事務所からデビューを果たしたグループ、そのバックダンサーを務めるジャニーズJr.のメンバーに加え、メディア、ジャニーズファンなど、ジャニーズ事務所とその所属グループとかかわったあらゆる関係者である。359
 あらゆる関係者は、「いじめの4層構造」の「観衆」「傍観者」に該当し、“捕食者”の故ジャニー喜多川氏に加担したことになる。360
 「観衆」は、自ら手を下さないが、ときに、はやしたてたり、おもしろがったりして火に油を注ぐ役割を担い、“捕食者(加害者)”故ジャニー喜多川氏の性加害行為を是認する後ろ盾の役割を果たした。361
 デビューを果たしたアイドルグループのメンバーが、テレビ番組などのメディア媒体で、故ジャニー喜多川氏の独特な表現である「ユー、……。」を使い、逸話を武勇伝的に、面白おかしく話す行為は、新興宗教・カルト教団、暴走族、多くの体育会系の部活やクラブ、一部の会社(営業)組織などと同様に、故ジャニー喜多川氏が唯一無二、特別な存在であると“神格化”することに大きく貢献している。362
 こうした行為も「観衆」に該当し、歴代のアイドルグループが重要な広報活動を担ったという意味で、明確に、“捕食者(加害者)”故ジャニー喜多川氏の性加害行為を是認する後ろ盾の役割を果たしている。363
 “捕食者(加害者)”故ジャニー喜多川氏の性加害行為を知りながら通報を躊躇ったり、見て見ぬふりをしたりする「傍観者」は、“捕食者(加害者)”故ジャニー喜多川氏の性加害行為に対する“暗黙の指示”となり、さらに、“捕食者(加害者)”故ジャニー喜多川氏の性加害行為を助長する(性加害行為を再び犯したり、性加害行為を繰り返したりする)重要な役割を担っている。364
 1970年代には、故ジャニー喜多川氏が所属タレントに性加害を加えていたことは、ジャニーズ事務所内では広く知られ、申し送り事項として、「寝るときは、脱がせ難いように下着ではなく、海水パンツ(水着)がいい。」、「ベルトを3本巻いて寝る。」など具体的な防御策が伝えられていた。365
 つまり、1970年代には、ジャニーズ事務所内で、故ジャニー喜多川氏による所属タレントに対する性加害行為は、“暗黙のルール”となっていた。366
 「暗黙のルール(暗黙の了解)」とは、「ここではこうすべきである」という規範であり、組織においては、組織文化や組織風土に近く、不文律ともいわれる。367
 「不文律」とは、明言されていない、あるいは、明文化されていないが守らなければならない規則のことである。368
 1970年代のジャニーズ事務所内では、既に、故ジャニー喜多川氏による所属タレントに対する性加害行為は“暗黙の掟”として、「ここではこうすべき(求められたら、応じなければならない)」という企業文化、企業風土がつくられていた。369
 そして、1970年代以降、ジャニーズ事務所、ならびに、すべての関係者は、この“暗黙の掟”として、故ジャニー喜多川氏の所属タレントに対する性加害行為を容認する(見て見ぬふりをする)ことが求められてきた。370
 これらの情報を知り得た、伝え聞きした人たち、伝承としての“暗黙の掟”に応じた人たちすべてが、「傍観者」である。371
 また、「傍観者」は、“集団圧力(世間の眼、組織の責任)”となり、「止めに入る者」を躊躇させ、時に、「告発する者」の足をひっ張り、黙殺する重要な役割を担っている。372
 この視点に立つと、「傍観者」も加害者側に位置する。373
 “捕食者”故ジャニー喜多川氏が、獲物を自由に選べる“狩場”であるジャニーズ帝国をつくりあげることができたのは、あらゆる関係者が、「観衆」「傍観者」として“暗黙の掟”に従い、加害者擁護の役割を担い続けたからである。374
 このことは、故ジャニー喜多川氏による所属タレントに対する性加害行為を見て見ぬふりをして、事実を隠蔽し、事実をなかったことに黙殺することで、この常軌を逸する“異常なシステム”としての「ジャニーズ事務所」を成り立たせた(存続させてきた)人たちすべてが、故ジャニー喜多川氏の性加害行為に加担していたことを意味する。375
 そして、ジャニー喜多川氏による所属タレントに対する性加害疑惑については、今回、2023年(令和5年)3月7日イギリスで、BBCのドキュメンタリー『捕食者:Jポップの隠れたスキャンダル』が放映される前に、少なくとも、いまから59年前の1964年(昭和39年)、いまから35年前の1988年(昭和63年)、いまから24年前の1999年(平成11年)10月(以降14週)の3回にわたり問題になっている(令和5年(2023年)5月15日現在)。376
 1964年(昭和39年)、故ジャニー喜多川氏が、「ジャニーズ(4人グループ)」のデビューに伴い、在籍していた「新芸能学院」の未払いの授業料、スタジオ使用料など270万円の支払いを求められた裁判があった。377
 この裁判では、「金銭トラブルよりも、少年野球チームに在籍時から続いていた性行為」が注目された。378
 しかし、注目されたのは、ジャニー喜多川氏の性加害ではなく、“男色”であり、被害にあったジャニーズのメンバーも“男色”とし、被害者と捉える(認識する)ことはなかった。379
 「ホモセクシュアル(homosexual)」は、男性、女性それぞれの同性愛の総称であるが、日本では、「ホモ(ホモセクシュアル)」は「男色(だんしょく)」の意味として侮蔑・卑下することばとして使われる。380
 このとき、故ジャニー喜多川氏は、33歳である。381
 「2-⑦」の365文「1970年代には、故ジャニー喜多川氏が所属タレントに性加害を加えていたことは、ジャニーズ事務所内では広く知られ、申し送り事項として、「寝るときは、脱がせ難いように下着ではなく、海水パンツ(水着)がいい。」、「ベルトを3本巻いて寝る。」など具体的な防御策が伝えられていた。」、同366文「つまり、1970年代には、ジャニーズ事務所内で、故ジャニー喜多川氏による所属タレントに対する性加害行為は、“暗黙のルール”となっていた。」と示しているように、この1964年の裁判から10年後の1970年代には、故ジャニー喜多川氏の性加害は常習化し、ジャニーズ事務所では“暗黙のルール”となっていた。382
 裁判から19年後の1988年(昭和63年)、元フォーリーブスの故北公次氏は、暴露本『光GENJIへ-元フォーリーブス北公次の禁断の半生記』を出版し、故ジャニー喜多川氏による性加害を告発した。383
 出版から11年後の1999年(平成11年)10月以降、週刊文春は、故ジャニー喜多川の所属タレントに対する性加害疑惑を14週にわたり報道し、この記事をめぐる裁判(掲載直後の同年11月、文藝春秋社に対し、名誉棄損による損害賠償を求めて提訴した控訴審(高等裁判所))では、2003年(平成15年)、「記事の重要部分を真実」と認定した。384
 つまり、控訴審(高等裁判所)において、故ジャニー喜多川氏の所属タレントに対する性加害は、疑惑ではなく、事実と認定されている。385
 にもかかわらず、故ジャニー喜多川氏、ジャニーズ事務所は、沈黙を続けただけではなく、メディア、ジャニーズファン、一般大衆は、その事実を黙殺した。386
 このとき、故ジャニー喜多川氏は、65歳である。387
 1964年(昭和39)年から1999年(平成11年)10月の32年間で、「ジャニーズ事務所」から21組90人がデビューし、1999年(平成11年)10月、性加害疑惑を報道から2019年(令和元年)にジャニー喜多川氏が亡くなるまでにデビューを果たしたのは12組57人(以上、目算)、ここにバックダンサーなどを務めるジャニーズJr.(2023年(令和5年3月現在、約200人が在籍。総数不明、1998年(平成10年)から2002年(平成14年)ことは、番組名に「ジュニア」「J」の名を冠にした番組多数放映、3大ドームや武道館でコンサートを行う)が加わる。388
 こうした人たちが、“暗黙の掟”に従い「傍観者」になることは、仕事を得ること、仕事を続けることに必要不可欠な要素となっていた。389
 令和6年(2024年)9月7日、旧ジャニーズ事務所の元所属タレントらでつくる「ジャニーズ性加害問題当事者の会」は解散されたが、これまでに、「SMILE-UP(旧ジャニーズ事務所)」による補償で合意に至っているのは約500人である。390
 対人関係に上下関係を持ち込む儒教社会の日本は、権威者・上に立つ者に対し甘く(擁護し、支持なくとも意に添う(忖度する))、「加害者に更生機会を」、「加害者にも将来がある」とのことばで、被害者の訴え(声)を黙殺するパワー(力)が働きやすく、そのため、暗黙裡に「被害者責任」を問い、その動きが、2次加害となり、被害者を苦しめる。391
 性的行為を目的に、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられた被害者を苦しめるのは、性犯罪を規定する日本の『刑法』とその『刑法』にもとづく捜査機関である警察、そして、日本社会の無知で(知らないこと)、無理解が招く、加害的な反応である。392


4.刑法改正で加えられた「グルーミング」を意図した規定 1
 令和5年(2023年)6月16日に成立(同年7月13日に施行)した「刑法改正(性犯罪規定の見直し)」による『不同意性交等罪(刑法177条)』、『不同意わいせつ罪(刑法176条)』の成立要件の説明(国会質疑)などでは、この「グルーミング」を「性的グルーミング」と表現しているが、これは、『グルーミング罪』の新設を求めた人たちが、“ある目的”を「性犯罪に限定したグルーミング」として捉え、使用した表現で、一般的な表現ではない。2
 その令和5年(2023年)6月16日に成立(同年7月13日施行)した「刑法改正(性犯罪規定の見直し)」の“主”は、6年前の平成29年(2017年)6月2日(同年7月13日施行)の110年ぶりの「刑法改正(性犯罪を厳罰化)」で、日本政府が成立を見送ったア)「性交同意年齢」の変更、イ)「強制性交等罪」から「不同意性交等罪」への変更である。3
 このア)イ)の変更を主とする「刑法改正(性犯罪規定の見直し)」に至ったのは、日葡政府が、ア)イ)の変更を見送った直後の2018年(平成30年)4月、「欧州評議会(CoE)」が『イスタンブール条約(女性に対する暴力と家庭内暴力の防止と撲滅に関する条約)』を締結し、性暴力を「同意にもとづかない性的行為」と規定し、欧米諸国の法改正が進み、アジア諸国においても「性交同意年齢」の変更が進むなど、国際情勢として購えなくなったからである。4
 
 令和5年(2024年)7月13日施行の刑法改正(性犯罪規定の見直し)に伴う『不同意性交等罪(刑法177条)』、『不同意わいせつ罪(刑法176条)』などへの変更・統合に伴い、『強姦罪/強制性交等罪(刑法177条)』では、「暴行または脅迫を用いること」、『準強姦罪/準強制性交等罪(刑法178条2項)』では「人の心身喪失もしくは抗拒不能に乗じること」としていたものが、「3」の9文-13文、同15文、同17文、同19文の「1号-8号」に示している「8つの行為や原因(成立要件)」により、被害者が「同意しない意思を形成し、表明し、もしくは、全うすることが困難な状態にさせる」、または、「その状態にあることに乗じて性交した場合」と変更された。5
 「形成するのが困難」とは、睡眠薬やアルコールの影響等で意思決定が困難なケースなど、「表明するのが困難」とは、急に性行為を求められ、恐怖のあまりフリーズして動けなくなってしまったケースなど、「全うするのが困難」とは、Noと意思表示を示したのに、相手が無視して無理やり性行為をしたケースなどが該当する。6
 再三の国会質疑で、「困難であれば、その程度は問わない」と確認されている。7
 この条文に記述されていないが、「国会質疑」で確認された重要なフレーズ(キーワード)「困難であれば、その程度は問わない」は、加害者、ならびに、加害者である代理人の弁護士が繰りだす「いい逃れ」の言動が、被害者にとって2次加害となり得ることから、前もって釘を刺す意味でも重要である。8
・1号 暴行、または、脅迫を用いる(暴行、または、脅迫を受ける) 9
・2号 心身の障害を生じさせる(心身の障害がある) 10
・3号 アルコールや薬物を摂取させる(アルコールや薬物の影響がある) 11
・4号 睡眠やその他意識が明瞭でない状態にさせる(意識が不明瞭な状態にある) 12
・5号 同意しない意思を形成・表明・全うするいとまがない 13
* 不意打ちの状態を想定し、「いとま(暇)がない」とは、「時間のゆとりがない」という意味である。14
・6号 予想と異なる事態に直面させて恐怖させる、または、驚愕させる(恐怖し、または、驚愕している) 15
* 恐怖やショックでからだが硬直してしまう、いわゆる「フリーズ」状態を想定 16
・7号 虐待に起因する心理的反応を生じさせる(虐待に起因する心理的反応がある) 17
* 長時間にわたり性的虐待を受けることで、拒絶する意思すら生じないケース、いわゆる「学習した無力感」に陥っている状態を想定 18
・8号 経済的、または、社会的な地位にもとづく影響力によって受ける不利益を憂慮させる(憂慮している) 19
* 教師から生徒、スポーツの指導者から選手に対する行為などを想定し、これは、性的な行為を目的に子どもを手懐ける「性的グルーミング(チャイルド・グルーミング)」に対する処罰規定としている。20
 この「性的グルーミング(チャイルド・グルーミング)」に対し、別途、『面会要求罪(刑法182条)』を設け、16歳未満の子どもに対し(13歳以上16歳未満の者に対する行為については、行為者が5歳以上年上の者)、a)わいせつ目的で、偽計や威迫・強制の手段を使ったり、金銭その他の利益を交付する約束をしたりして面会を要求する行為、b)オンライン上でのグルーミング行為を想定し、性交や性的な部位を露出した映像をSNSなどで送るよう求める行為を対象としている。21
 この「性的グルーミング」は、本来、異なる意味の『面会要求罪(刑法182条)』は、「援助交際」、「パパ活」などをとり締まる意図が強く示され、「お金をわたす」との約束がないなど、多くの一般的なペドファリアの子どもを手懐ける手口としての「チャイルド・グルーミング」は、事件化(立件し、起訴する)できない可能性を残す。22
 つまり、性的な行為のあとに、口止め料として「お金をわたす行為」には、『面会要求罪(刑法182条)』は適用できない可能性さえある。23
 しかも、この『面会要求罪(刑法182条)』は、教師から生徒、スポーツの指導者から選手に対する行為などを想定していながら、金銭の授受の約束のない、恋愛感情につけ込むなど「グルーミング」「ラブボミング」を利用した学校の教職員や塾講師、指導者などによる性暴力が加えられたとしても、『面会要求罪(刑法182条)』は適用できない可能性がある。24
 なぜなら、「性的グルーミング」を意図した『面会要求罪(刑法182条)』も、被害者が13歳以上16歳未満のときは、行為者の年齢が5歳以上歳上であることが適用の条件としているからである。25
 「性交や性的な部位を露出した映像をSNSなどで送るよう求める行為」には、「未成年者のセクスティング被害」を防ぐ意味はある。26
 「セスクティング」とは、「sex(性的な)+ texting(メッセージのやりとり)」からの造語で、スマートフォンなどを介し、性的なメッセージや画像をやりとりする行為のことである。27
 出会い系サイトで知り合った異性とのセスクティング、恋人同士のポジティブなコミュニケーションの中での「セクスティング」は、リベンジポルノ、無許可(盗撮・隠し撮りを含む)の性的動画・写真のSNS投稿、いじめ、ハラスメントまでさまざまなリスクを伴うが、「年齢制限内の出会い系サイトで知り合った相手や交際相手との「セクスティング被害を防ぐ」という意味では、まったく無力、意味を持たない。28
 一般的なペドファリアの子どもを手懐ける「チャイルド・グルーミング」に対して、この『面会要求罪(刑法182条)』は、実態に沿っていない。29
 この「表現の置き換え」のもとでの「金銭の約束」、「年齢制限」などの「適用条件」がある限り、児童に対する性犯罪を防ぐことはできないだけでなく、性犯罪を助長しかねないといえる。30
 なお、この『面会要求罪(刑法182条/16歳未満の者に対する面会要求等)』の成立要件は、「3」の21文のa)については、ア)威迫し、偽計を用い又は誘惑して面会を要求すること、イ)拒まれたにもかかわらず、反復して面会を要求すること、ウ)金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をして面会を要求すること、同21文のb)については、エ)性交、肛門性交又は口腔性交をする姿態をとってその映像を送信すること、オ)前号に掲げるもののほか、膣又は肛門に身体の一部(陰茎を除く)又は物を挿入し又は挿入される姿態、性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下この号において同じ)を触り又は触られる姿態、性的な部位を露出した姿態その他の姿態をとってその映像を送信することである。31
 加えて、令和5年(2024年)7月13日施行の刑法改正(性犯罪規定の見直し)では、性暴力の被害申告の難しさなどを踏まえ、性犯罪に関する公訴時効はいずれも「5年」延長された。32
 『不同意性交罪(刑法177条)』の公訴時効は、『強制性交等罪(刑法177条)』の10年から15年に、『不同意わいせつ罪(刑法176条)』は、『強制わいせつ罪(刑法176条)』の7年から12年になった。33
 そして、被害者が18歳未満のとき、18歳に達するまでの期間がこれに加算される。34
 つまり、18歳未満ときに、『不同意性交罪』、『不同意わいせつ罪』が適用される性暴力を受けたときには、公訴時効の起算点は18歳となる。35
 また、『強制わいせつ罪(同176条)』と『準強制わいせつ罪(同178条』も統合され、『不同意わいせつ罪』になった。36
 ただし、法改正に伴う法の適用には、「遡及性(過去に遡って適用する)」はなく、そのため、犯罪が行われた時点の法が適用される。37
 つまり、刑法の改正(施行日)以前に、法が適用される事件が起きているときには、改正法や新法を適用するのではなく、旧法が適用されるので、「公訴時効が延びたので、事件化できる」とか、「より重い量刑で罰することができる」というわけではない。38
 したがって、性犯罪に対しては、①平成29年(2017年)7月12日以前のときは、『強姦罪(刑法177条)』、『強姦致傷罪(刑法181条2項)』、『準強姦罪(刑法178条2項)』、『強制わいせつ罪(刑法176条)』、『強制わいせつ致傷罪(刑法181条1項)』、②平成29年(2017年)7月13日-令和5年(2023年)7月12日は、『強制性交等罪(刑法177条)』、『強制性交等致傷罪(刑法181条2項)』、『準強制性交等罪(刑法178条2項)』、『強制わいせつ罪(刑法176条)』、『強制わいせつ致傷罪(刑法181条1項)』、『準強制わいせつ罪(刑法178条)』、③令和5年(2023年)7月13日以降は、『不同意性交等罪(刑法177条)』、『不同意性交等致傷罪(刑法181条2項)』、『不同意わいせつ罪(刑法176条)』、『不同意わいせつ致傷罪(刑法181条1項)』が該当する。39
 そして、ⅰ)主な刑事事件の公訴時効は、ア)『強姦罪/強制性交等罪(刑法177条)』は10年、『強制わいせつ罪(刑法176条)』は7年、イ)『不同意性交等罪(刑法177条)』は15年、『不同意わいせつ罪(刑法176条)』は12年、ウ)『暴行罪(刑法208条)』は3年、『傷害罪(同204条)』は10年、ⅱ)主な民事事件(損害賠償金・逸失利益の請求など)の公訴時効年数は、『強姦罪/強制性交等罪/不同意性交等罪(刑法177条)』、『強制わいせつ罪(刑法176条)』、『暴行罪(刑法208条)』、『傷害罪(刑法208条)』のいずれも、被害者が事件とその加害者を知ってから3年、または、事件が起きたとき(行為が継続されていたときには、行為が終わったとき)から20年である。40
 ただし、「3」の40文のⅱ)について、平成29年(2017年)の民法改正(民法724条の2)で、「生命・身体に対する不法行為(殴るなどの暴行を加えたり、薬物を混入したりしてレイプするなど)」のときには、被害者が事件とその加害者を知ってから「3年」が「5年」になる規定が新設された。41
 
 「3」の37文-40文に示したように、令和5年(2023年)6月16日)に可決、成立(同年7月13日に施行)した「刑法改正(性犯罪規定の見直し)」による『不同意性交等罪(刑法177条)』、『不同意わいせつ罪(刑法176条)』、同法改正により新設された『面会要求罪(刑法182条)』は、遡及されないので、令和5年(2023年)7月12日以前の性犯罪に対しては、旧法の『強姦罪/強制性交等罪(刑法177条)』、『強制わいせつ罪(刑法176条)』が適用される。42
 つまり、「グルーミング」を意図した成立要件を示した『不同意性交等罪(刑法177条)』、『不同意わいせつ罪(刑法176条)』、『面会要求罪(刑法182条)』は、令和5年(2023年)7月13日以降の性犯罪に対して適用され、令和5年(2023年)7月12日以前の性犯罪に対しては、「3」の39文、42文で示している旧法が適当となる。43
 令和5年(2023年)7月13日以降の性犯罪に対して適用される『不同意性交等罪(刑法177条)』、『不同意わいせつ罪(刑法176条)』の成立要件は、「3」の9文-13文、同15文、同17文、同19文に示しているように、『不同意わいせつ罪(刑法176条)』に「1号-8号」として示されている(『不同意性交等罪(刑法177条)』は、「前条第1項各号に掲げる行為又は‥」ではじまっている)。44
 その成立要件としての「8号」は、「3」の19文で示しているように、「経済的、または、社会的な地位にもとづく影響力によって受ける不利益をさせること又はそれを憂慮していること」とあり、この成立要件としての「8号」は、「3」の20文のとおり、「教師から生徒、スポーツの指導者から選手に対する行為」などを想定し、規定されたものである。45
 つまり、この成立要件としての「8号」が、性的な行為を目的に子どもを手懐ける「性的グルーミング(チャイルド・グルーミング)」に対する処罰規定となるが、令和5年(2023年)7月13日に施行の「刑法改正(性犯罪規定の見直し)」には、「3」の20文-30文に示しているような問題(懸案事項)が残されたままである。46
 また、成立要件としての「8号」が“想定”している「教師から生徒、スポーツの指導者から選手に対する行為など」は、性交同意年齢に達する16歳以上(令和5年(2023年)7月13日施行の法改正前は、性交同意年齢は13歳以上)の者であっても、18歳の成人年齢に達した者であっても、短期大学・大学・大学院、スポーツなどの指導者と選手や生徒の関係性は存在する。47
 つまり、「性的グルーミング」を意図した『不同意性交等罪(刑法177条)』『不同意わいせつ罪(刑法176条)』の適用要件の「8号」、『面会要求罪(刑法182条)』は、正確には、「チャイルド・グルーミング」を踏まえたものではなく、極めて限定的なものである。48
 とはいえ、成立要件としての「8号」、あるいは、「援助交際」、「パパ活」などのとり締まりを目的とした『面会要求罪(刑法182条)』の適用に対し、「3」の20文-30文に示しているような問題(懸案事項)があるとしても、令和5年(2023年)7月13日施行の刑法改正前の成立要件、つまり、「3」の5文で、「『強制性交等罪(刑法177条)』では「暴行または脅迫を用いること」、『準強制性交等罪(刑法178条2項)』では「人の心身喪失もしくは抗拒不能に乗じること」としていたものが、「3」の9文-13文、同15文、同17文、同19文に示している「1号-8号」の「8つの行為や原因」により、被害者が「同意しない意思を形成し、表明し、もしくは全うすることが困難な状態にさせる」、または、「その状態にあることに乗じて性交した場合」と変更された」と示しているように、成立要件として、「暴行・脅迫要件」がなくなった、つまり、「不同意」という概念が採用され、「性交同意年齢が13歳から16歳にひきあげられた」ことで、『不同意性交等罪(刑法177条)』、『不同意わいせつ罪(刑法176条)』、『面会要求罪(刑法177条)』を適用し、事件化(逮捕・起訴)することは、かなり容易となった。49
 一方で、令和5年(2023年)7月12日以前の性犯罪に対しては、「不同意」という概念がない、つまり、成立要件としての「暴行・脅迫要件」があるので、これまで通りに、事件化(逮捕・起訴)には高い壁が立ち塞がる。50
 ただし、性暴力(性犯罪)に及ぶ者の主な手口(手法)としてのa)親しさを装い、手懐け、断り難い状況をつくりだす「グルーミング」、b)ことばでの威圧や借りをつくらせるなどの圧力(パワーハラスメントなど)により、不平等・非対等な関係を巧みに築き、抗(あらが)えない状況に追い込んで、性行為に持っていけるように罠を仕掛ける「エントラップメント」、c)短期間に猛烈なアプローチをし、まるで、相手が自分のことを「ひとめぼれ」したように見せかける「ラブボミング」は、「3.マインド・コントロール手法としての「型」とグルーミング」で示しているように、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛ける過程(プロセス)の中で、「暴行・脅迫」が行使されていること少なくないことから、ていねいに「プロセス」に説明し、性暴力は「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられた結果であるとの根拠(裏づけ)のある因果関係を示すことで、立件(起訴)は十分可能である。51
 
 「3」の32文-35文、40文で示した「公訴時効」は、ア)『強姦罪/強制性交等罪/不同意性交等罪(刑法177条)』、『強制わいせつ罪/不同意わいせつ罪(刑法176条)』などの法が適用される性暴力(性犯罪)被害後にPTSDなどの後遺症を発症したとき、イ)別途、『傷害罪(刑法204条)』が適用でき、ア)が公訴時効に至っていても、イ)が公訴時効に至っていない可能性がある。52
 そこで、以下、ア)が公訴時効に至っていても、イ)が公訴時効に至っていないケースを踏まえ、そのとき重要となる「公訴時効の起算点(日)」について、判例を踏まえて説明する。53


5.暴力被害の後遺症に適用できる『傷害罪』、「公訴時効」の起算点 1
 差別・排除、DV(デートDV)、児童虐待、性暴力、いじめ、(教師や指導者などによる)体罰、ハラスメントなどの暴力行為(人権侵害行為)で、ASD(急性ストレス障害)・PTSD(心的外傷後ストレス障害)、その併発症としてのうつ病、パニック障害、解離性障害などの後遺症を発症したときには、別途、『傷害罪(刑法204条)』を適用できる。2
 しかし、暴力被害を受け、その暴力被害で後遺症を発症し、後遺症の症状に苦しんでいる被害者に対し、この重要な(もっとも必要と思われる)情報は伝わり難かったり、正確に届かなかったりする。3
 その大きな理由は、第1に、条文ではなく、判例(事件に対する判決文)にもとづく解釈であり、警察官(刑事)、ワンストップセンター、女性センター(婦人相談所、男女共同参画センター)・児童相談所・市区町村役場の相談窓口の職員などが、この判例そのものを知らず、条文の知識に留まっていること、第2に、警察官(刑事)や弁護士であっても、ASD(急性ストレス障害)・PTSD(心的外傷後ストレス障害)、その併発症としてのうつ病、パニック障害、解離性障害などの後遺症に対する深い知識がなく、しかも、暴力行為と後遺症の発症の因果関係を示す論理展開に不慣れであったり、費やす労力に見合わないと判断したりするなど、この問題を避ける心理が働くことである。4
 そこで、以下、暴力行為(人権侵害行為)で、ASD(急性ストレス障害)・PTSD(心的外傷後ストレス障害)、その併発症としてのうつ病、パニック障害、解離性障害な炉の後遺症を発症したときに適用できる『傷害罪(刑法204条)』の公訴時効の起算点について、判例を踏まえて説明する。5
 「3」の39文に示しているとおり、性犯罪に適用できる法律は、①平成29年(2017年)7月12日以前のときは、『強姦罪(刑法177条)』、『強姦致傷罪(刑法181条2項)』、『準強姦罪(刑法178条2項)』、『強制わいせつ罪(刑法176条)』、『強制わいせつ致傷罪(刑法181条1項)』、②平成29年(2017年)7月13日-令和5年(2023年)7月12日は、『強制性交等罪(刑法177条)』、『強制性交等致傷罪(刑法181条2項)』、『準強制性交等罪(刑法178条2項)』、『強制わいせつ罪(刑法176条)』、『強制わいせつ致傷罪(刑法181条1項)』、『準強制わいせつ罪(刑法178条)』、③令和5年(2023年)7月13日以降は、『不同意性交等罪(刑法177条)』、『不同意性交等致傷罪(刑法181条2項)』、『不同意わいせつ罪(刑法176条)』、『不同意わいせつ致傷罪(刑法181条1項)』が該当する。6
 加えて、『軽犯罪法違反』、『強要罪(刑法223条)』、被害者が18歳以下の児童であるときは、『児童福祉法違反(34条1項6号、60条1項)』、『リベンジポルノ被害防止法(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律)』、都道府県の『迷惑防止条例違反』などがあり、また、被害者が勤務している企業と関係あるセクシュアルハラスメント事案では、『労働契約法5条(名誉、プライバシー、生命・身体の安全等の保護)』、『男女雇用機会均等法11条(職場における性的な言動による不利益や就業環境の侵害がなされないような配慮)』、『民法709条(働きやすい職場環境で働く権利の侵害)』、雇用主(使用者)の責任として、『民法715条(使用者責任/415条;職場環境調整義務違反)』が関係してくる。7
 そして、「3」の40文に示しているとおり、ⅰ)主な刑事事件の公訴時効は、ア)『強姦罪/強制性交等罪(刑法177条)』は10年、『強制わいせつ罪(刑法176条)』は7年、イ)『不同意性交等罪(刑法177条)』は15年、『不同意わいせつ罪(刑法176条)』は12年、ウ)『暴行罪(刑法208条)』は3年、『傷害罪(同204条)』は10年、ⅱ)主な民事事件(損害賠償金・逸失利益の請求(民法709条(不法行為による損害賠償請求))など)の公訴時効年数は、『強姦罪/強制性交等罪/不同意性交等罪(刑法177条)』、『強制わいせつ罪(刑法176条)』、『暴行罪(刑法208条)』、『傷害罪(刑法208条)』のいずれも、被害者が事件とその加害者を知ってから3年、または、事件が起きたとき(行為が継続されていたときには、行為が終わったとき)から20年である。8
 「4」の8文のⅱ)の『民法709条』の「不法行為による損害賠償請求」とは、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」ことを規定したものである。9
 ただし、「3」の40文で示しているとおり、ⅱ)の損害賠償金・逸失利益などの支払いを求める「民事事件」では、平成29年(2017年)の民法改正(民法724条の2)で、「生命・身体に対する不法行為(殴るなどの暴行を加えたり、薬物を混入したりしてレイプするなど)」のときには、被害者が事件とその加害者を知ってから「3年」が「5年」になる規定が新設された。10
 「3」の39文、「4」の6文に「・・致傷(罪)」という表記があるが、それは、性的暴力行為で、裂傷や骨折、頚椎捻挫などの「加療を要する傷害を負った」ときには、一般的な暴行行為による『傷害罪(刑法204条)』ではなく、『強姦致傷罪/強制性交等致傷罪/不同意性交等致傷罪(刑法181条2項)』、『強制わいせつ致傷罪/不同意わいせつ致傷罪(刑法181条1項)』を適用することを意味する。11
 つまり、『強姦罪/強制性交等罪/不同意性交等罪(刑法177条)』+『傷害罪(刑法177条)』が『強姦致傷罪/強制性交等致傷罪/不同意性交等致傷罪(刑法181条2項)』で、『強制わいせつ罪/不同意わいせつ罪(刑法176条)』+『傷害罪(刑法177条)』が『強制わいせつ致傷罪/不同意わいせつ致傷罪(刑法181条1項)』という意味である。12
 『傷害罪(刑法204条)』では、「人の身体を傷害した者は‥」と規定し、この「傷害」には、ア)暴行による傷(熱傷、頚椎捻挫、脳挫傷などを含む)を負わせる、イ)真冬に薄着や裸で家の外に追いだし(閉めだし)風邪をひかせたり、性病に罹患していることを知りながら性的行為に及び、性病を罹患させたりする、ウ)許可なく、髪を切り落とすなどが該当する。13
 つまり、『傷害罪(刑法204条)』に規定される「人の身体を傷害」とは、「暴力行為などで、健康状態を損なった」と解釈できる。14
 この「傷害」「健康状態を損なう」ことの解釈に対し、いまから30年7ヶ月前の平成6年(1994年)1月18日、名古屋地方裁判所は、「障害について、人の生理的機能を害することを含み、生理的機能とは精神的機能を含む身体の機能的すべてをいうとし、医学上承認された病名にあたる精神的症状を生じさせることは傷害に該当する。」との判断を示した(令和6年(2024年)8月31日現在)。15
 この判決以降、暴力被害の後遺症としてASD、PTSD、うつ病、パニック障害、解離性障害などの精神疾患を発症し、加療を要するケースでは、『傷害罪(刑法204条)(『強姦致傷罪/強制性交等致傷罪/不同意性交等致傷罪(刑法181条2項)』、『強制わいせつ致傷罪/不同意わいせつ致傷罪(刑法181条1項)』を含む)』を適用し、起訴したり、民事事件では、賠償、逸失利益を認め慰謝料の支払いを命じたりするようになっている。16
 つまり、暴力行為(人権侵害行為)後に発症した後遺症としてのASD、PTSD、うつ病、パニック傷害、解離性障害などの発症、病気の罹患、疲労倦怠などの外傷を伴わないものでも、『傷害罪(刑法204条)』を適用することができる。17
 例えば、「性被害から14年後に診断のPTSDを傷害と認定」し、『強姦致傷罪(刑法181条2項)』を適用したレイプ事件に対し、実刑判決が下されている。18
 それは、平成17年(2005年)7月、神奈川県厚木市で高校1年生(当時16歳)の女性に性的暴行を加えたレイプ事件である。19
 被害女性が、性被害から14年経過した「平成31年(2019年)1月、PTSDと診断された」ことを受けて、警察は「性的暴行により、PTSDを負わせた」として起訴に踏み切った。20
 この起訴は、公訴時効(15年)の成立直前のことであった。21
 そして、横浜地方裁判所小田原支部は、『強姦致傷罪(刑法181条2項)』などに問われた被告(43歳)に対し、懲役8年の判決を下した。22
 また、「4」の15文で示した『傷害罪(刑法204条)』に対する判例にもとづく「傷害」の定義では、「3」の52文で示しているように、「ア)『強姦罪/強制性交等罪/不同意性交等罪(刑法177条)』、『強制わいせつ罪/不同意わいせつ罪(刑法176条)』などの法が適用される性暴力(性犯罪)被害後にPTSDなどの後遺症を発症したとき、イ)別途、『傷害罪(刑法204条)』が適用でき、ア)が公訴時効に至っていても、イ)が公訴時効に至っていない可能性がある。」と示しているように、「暴行事件として適用できる法が公訴時効に至った」としても、その「暴行事件」後に発症したASD、PTSD、うつ病、パニック障害、解離性障害などで発症した後遺症に対し、別途適用できる『傷害罪(刑法204条)』が、公訴時効に至っていない可能性が残る。23
 性暴力事件でなくとも、傷害事件、児童虐待事件(身体的虐待、面前DVを含む心理的虐待を含む)においても、同様である。24
 そこで、重要になるのが、『傷害罪(刑法204条)』の公訴時効の起算点、つまり、ASD、PTSD、うつ病、パニック障害、解離性障害などの後遺症を発症が確定した日である。25
 なぜなら、PTSDなどの後遺症を発症が確定した日、つまり、公訴時効の起算点は、損害賠償を請求できなくなる“除斥期間”の開始時期の解釈に影響を及ぼすからである。26
 この“除斥期間”を明確に示したのが、「幼児期に性的虐待を受けた30歳代の被害女性が、控訴時効後に加害者のおじを提訴した民事事件」に対し、いまから9年11ヶ月前の平成26年(2014年)9月25日、札幌高等裁判所が、「損害賠償を請求できなくなる「除斥期間」の開始時期を、精神障害の発症時期と解釈する」と下した判断(判決)である(令和6年(2024年)8月31日現在)。27
 この民事事件は、近親者(おじ)による性的虐待被害を受けた被害女性(提訴時30歳代)が、PTSD、離人症性障害、うつ病などを発症し、最後の性的虐待被害を受けた小学校4年生の夏休みから20年以上を経過した平成23年(2011年)4月、30歳代(提訴当時)の女性が、おじに対して約4,170万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審ですが、「4」の8文のⅱ)で、「主な民事事件(損害賠償金・逸失利益の請求(民法709条(不法行為による損害賠償請求))など)の公訴時効年数は、『強姦罪/強制性交等罪/不同意性交等罪(刑法177条)』、『強制わいせつ罪(刑法176条)』、『暴行罪(刑法208条)』、『傷害罪(刑法208条)』のいずれも、被害者が事件とその加害者を知ってから3年、または、事件が起きたとき(行為が継続されていたときには、行為が終わったとき)から20年」と記しているように、一審の提訴時点で、既に、民事事件としての公訴時効に至っている。28
 札幌高等裁判所の岡本岳裁判長は、一審の釧路地方裁判所の河本昌子裁判長が認めた「加害男性(叔父)による性的虐待行為や姦淫行為の事実」と、肯定した「PTSDなどとの因果関係」を採用したうえで、「30年前の性的虐待の損害を認定」し、加害者に対して治療費(性的虐待行為により被った過去及び将来10年間の治療関連費)919万余円、慰謝料2,000万円他の支払いを命じる判決を下した。29
 この札幌高等裁判所が下した判断(判決)は、平成27年(2015年)7月8日、最高裁判所第2小法廷が、加害者の上告を退ける決定をし、確定している。30
 この判決は、子どもの人権や(性的)虐待被害者を救済するもので、長年、自分の心に封印し、声をあげることを躊躇い、悩み続けてきた被害者たちにとっても、勇気を与えてくれるものとなった。31
 
 物的証拠をほとんど示すことができないDV(デートDV)、児童虐待、性暴力、いじめ、(教師や指導者などによる)体罰、ハラスメントなどの暴力事件では、その暴力行為(暴力被害)の事実を時系列にていねいに整理し、文書にまとめることで、十分な証拠とすることができる。32
 そして、加害者とやり取りをしたメール文、やり取りを録音した(留守電に記録された)音源データ、写真、診断書などがあれば、それらを文書としてまとめた「事実」の裏づけ(根拠)としていく。33
 では、証拠として、「事実経過を時系列にていねいに整理し、文書にまとめていく重要性」を理解していただくために、「4」の27文-31文で示した「幼児期に性的虐待を受けた30歳代の被害女性が、控訴時効後に加害者のおじを提訴した民事事件」に少し踏み込んで説明していきたい。34
 以下の文中に、文中に『準備書面』という文言がでてくる。35
 「準備書面」とは、民事訴訟において、訴訟の当事者が、次の口頭弁論で陳述する事項をあらかじめ記載して裁判所に提出し、同時に、相手方に送達しておく書面のことで(民事訴訟規則79条)、口頭弁論は、書面で準備しなければならない(民事訴訟規則79条)との規定にもとづいている。36
 以下、この性的虐待事件の事実経過の要約に、私が解説を加えたものである。37
 昭和53年(1978年)1月上旬、祖父母宅において、叔父は、3歳10ヶ月の被害女性の体をなで回すなどの行為に及び、以降、叔父は同宅において、毎年1月上旬と8月の2回、被害女性へのわいせつ行為を繰り返し、行為をだんだんとエスカレートさせていった。38
 昭和57年(1982年)8月中旬、叔父は同宅において、8歳5ヶ月の被害女性を布団の中にひき込み、着衣の上着を脱がせたうえ、わいせつ行為に及び、昭和58年(1983年)1月上旬には、叔父は同宅において、8歳10ヶ月の被害女性に対し、布団の中にひき込み、着衣を脱がせて裸にし、わいせつな行為をおこなったうえで、姦淫するに至った。39
 同年8月、被害女性は、再び、姦淫被害を受けることになった。40
 つまり、被害女性が正月や盆に親の実家に帰省するたびに、被害女性は、叔父から性暴力被害にあっていたことになる。41
 これに対し、被告の叔父は、原告の被害女性の身体を触るなどの行為が平成56年(1981年)1月から平成58年(1983年)1月までの4回程度あったことは認めたものの、姦淫行為については否認した。42
 「準備書面(21頁)」には、『虐待行為のたび、加害者は被害者に対して「他の人にはいってはダメだよ」等といい、口止めをしていた。43
 その結果、被害女性は、「親や祖父母などに知られたら何か大変なことになるんじゃないかとか、家族や親戚中がもめたり、ぐじゃぐじゃになったりして、すべてが崩壊してしまうんじゃないか、自分さえいわれるままに黙っていれば何事もなかったように進むんだろうか、自分さえがまんすればいいということなんだろうかというふうに思いました。」と、当時の苦しい心内(心情)を述べている。44
 現に、大人になった被害女性は、父親に哀しい体験を打ち明けようとしたとき、父親は耳を傾けることなく、「聞きたくない」と拒絶している。45
 被害女性の弁護団は、子どもに対する性的虐待については、「損害賠償請求権の除斥期間の起算点を成人時と解すべき」と主張し、その理由を「準備書面(1)(38頁)」で、『性的虐待が親族間でなされた場合、その性質上、未成年者の法定代理人が、未成年者を代理して損害賠償請求権を行使しうることは困難である。権利行使によって、犯罪行為という身内の恥をさらす結果となり、親族関係を破壊する結果を招くからである。』と述べている。46
 つまり、子どもが親族から受けた性的虐待については、子ども本人が訴えることも、親が代わりに訴えることも難しいことから、被害者が成長し大人になってから権利を行使できるようにすることが必要である。47
 この札幌高等裁判所判決では、この点については認められませんでしたが、今後、被害者救済の政策や法改正を考えるうえで重要なポイントになってくる。48
 さらに、「準備書面(2)(5頁)」では、『そして成長するにつれ「小学生のころから早く死にたい、消えたいと考え、にやにやして近づいてくる加害者であるおじの顔が急に近づいてくるような気がして、フラッシュバックを週に何度も起こし、悪夢にうなされながら生きてきた。』と、昭和58年(1983年)1月、小学校3年生の冬休みに姦淫被害にあって以降、被害女性はフラッシュバックに苦しむことになった状況が示されている。49
 さらに、被害女性は睡眠障害、回避症状、離人体験に悩まされ、高校生になると摂食障害、自傷行為に苦しむことになる。50
 被害女性は、小学生から死を願い、悪夢にうなされながら生きていた。51
 そして、平成18年(2006年)9月ころから、被害女性(31歳)は、著しい不眠、意欲低下、イライラなどの症状に悩まされ、うつ病の疑いと診断され、平成20年(2008年)ころになると、仕事がまったくできない状態が続くことになる。52
 平成23年(2011年)3月11日の東日本大震災の報道をきっかけに、自らが苦しんできた諸症状がPTSDによるもので、その原因が性的虐待にあることを自覚するに至り、同年4月、医師から「心的外傷後ストレス障害・抑うつ状態」と診断されている。53
 1審で、被告の叔父側は「自らが行為をおこなってから25年以上が過ぎ、原告の女性がうつ病やPTSDと診断されたのもごく最近である。」として、「原告の症状は、いまの結婚生活など、これまでの生活状況がストレスになっている可能性が高い。」と主張しているが、札幌高等裁判所の判決では、精神科医の尋問を踏まえ、原告(被害女性)は被告(おじ)から性的虐待行為を受けたことにより、昭和58年(1983年)ころ、PTSD及び離人症性障害、高校在学中に摂食障害を発症し、平成18年(2006年)9月ころ、うつ病を発症した」ことを認定している。54
 一方で、PTSD及び離人症性障害、摂食障害を発症したことを理由にした損害賠償請求権は、被害女性(原告)が訴訟をおこした平成23年(2011年)4月には除斥期間が経過していたが、「平成18年(2006年)9月ころに発症したうつ病は、PTSD及び離人症性障害、摂食障害にもとづく損害とは質的にまったく異なるものである。また、うつ病の損害は、性的虐待行為が終了してから相当期間が経過した後に発生したものと認められるとして、除斥期間の起算点は、損害の発生したとき、つまり、うつ病が発症した平成18年(2006年)9月ころというべきだ」と指摘した。55
 「PTSDは昭和58年(1983年)ころに発症しており、20年が経過しているが、うつ病は平成18年(2006年)に発症したもので、20年は経過していない。そして、そのうつ病の発症の原因は性的虐待にあったことを本人が知ったのは平成23年(2011年)2月であり、訴訟を起こした平成23年(2011年)4月の時点で3年も経過していない。したがって、時効・除斥期間は成立しない。」との考えを示し、被害女性の損害賠償請求を認めた。56
 そして、「控訴人(被害女性)が、被控訴人(加害者の叔父)から本件性的虐待行為を受けたことで、極めて重大、深刻な精神的苦痛を受けたことは、当該行為を受けてから、子供時代、就職、進学、結婚といったライフステージを通じて、…生活上の支障、心身の不調に悩まされたほか、妊娠、出産、育児に対する不安感、恐怖感を感じていたことから容易に想定できる。また,控訴人(被害女性)は、本件性的虐待行為を受けた後、…生活上の支障、心身の不調に悩まされながらも、…やりがいを持って働いていたが、うつ病を発症したことにより、…勤務だけでなく、身の回りのこともできなくなったものである。…現時点では症状が軽快したものの、辛うじて日常生活が営める状態になった程度にとどまるものであり、発症から約8年が経過しても、いまだ相当期間の治療を余儀なくされる状況で、寛解の見通しも立っていない。このような事情のほか、本件性的虐待行為の内容、期間及び頻度、平成23年(2011年)3月17日における話合い以降現在に至るまで何ら謝罪の姿勢を示していない被控訴人(加害者の叔父)の対応など、本件訴訟で現れた事情を総合考慮すると、控訴人(被害女性)の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は、2000万円とするのが相当である。」と損害賠償額の根拠を示している。57
 さらに、この釧路地方裁判所と札幌高等裁判所の判決で重要なことは、被害女性の供述は、「性的虐待行為の具体的な時期、及び内容について、その記憶のとおりに述べたものとみるのが相当である。」とし、一方の加害男性(叔父)の主張は、「その正確性に疑いを入れざるを得ない。」とし、「概ね被害女性が主張するとおりのものであった。」と、3歳10ヶ月-8歳10ヶ月のときの記憶を間違いのないものと認定していることである。58
 このように、「準備書面」で示したことをもとに、口頭弁論が実施され、それにもとづいて、事実認定をするか、しないかが判断される。59
 その判断が、判決につながる。60
 
 では、この判決の重要なポイントを整理する。61
 札幌高等裁判所は、「PTSDは昭和58年(1983年)ころに発症しており、20年が経過しているが、うつ病は平成18年(2006年)に発症したもので、20年は経過していない。」、「そして、そのうつ病の発症の原因は性的虐待にあったことを本人が知ったのは平成23年(2011年)2月であり、訴訟を起こした平成23年(2011年)4月の時点で3年も経過していない。」、「したがって、時効・除斥期間は成立しない。」との考えを示し、被害女性の損害賠償請求を認めている。62
 また、慢性反復的トラウマを起因とするC-PTSD(複雑性心的外傷後ストレス障害)では、C-PTSDと診断され、治療をしたけれども、これ以上よくなることはない(症状固定)と判断されることが少なくない。63
 この場合、医師が、「症状固定」と診断した日時が、一般的に、時効の起算点になる。64
 先の札幌高等裁判所の画期的な判決の他に、性的虐待事件しては、東京地方裁判所が、平成17年(2005年)10月14日、被害女性が、「両親が離婚後、同居していた父方の祖父(産婦人科医)に小学校6年生から8年間にわたり強制わいせつ、強姦被害にあい、重度のPTSDに罹患し,回復まで長期間かかり、就労できない」という医師の診断書、証言を採用し、行為障害等級5級2号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができない」ものに該当するとして、20年間にわたり労働能力喪失割合79%として逸失利益3,463万円余、性的虐待行為にもとづく慰謝料1,000万円の他に、PTSD罹患の後遺傷害慰謝料として1,000万円を認容した判決を下している。65
 近親者による性的虐待事案には、マインド・コントロール手法のひとつの「型」としての「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」の幾つもの要素が絡み、しかも、近親者であることから心理的障壁(防衛機制)を壊すアプローチは不要である。66
 加えて、加害者以外の同じ立ち位置の近親者に対し、性的虐待被害をうち明けるには、同じ年代の暴力被害としての同級生や上級生からのいじめ被害を親やきょうだいにうち明けられない以上に、近親者からの性的虐待被害を誰にも話すことができない状況が、性的虐待被害の長期化、深刻化をもたらす。67
 加害者以外の同じ立ち位置の近親者に対し、近親者からの性的虐待被害をうち明けることは、一瞬で、家族・親族関係を破壊するパワーを持つ。68
 幼児期・児童期、思春期(前期10-12歳/後期12-15歳)、青年期前期(15-18歳)の児童が、一瞬で、家族・親族関係を破壊しかねない自身の性的虐待被害を抱え込む葛藤、苦しみ、その残酷さを十分に理解する必要がある。69
 そして、性暴力被害によるPTSDの発症で『暴行罪(刑法208条)』、『傷害罪(刑法204条)』を適用したケースは多々ある。70
 最近であれば、令和3年(2021年)7月、「部下の女性職員にパワーハラスメントやセクシュアルハラスメント行為を続け、PTSDを発症させた」として、男性職員を傷害と暴行の疑いで書類送検している。71
 この事件は、「被害女性と加害男性がともに勤務する職場などで、女性が、上司の男性に手や腕をつかまれたり、複数回にわたり「デートしよう」、「水着の写真を送れ」といったメッセージを送られたり、帰り道にストーキングをされたりしてPTSDを発症した」というもので、加害男性は、勤務先で減給の他、課長から係長へ降格する処分を下されている。72
 また、令和2年(2020年)12月、中学生-大学生(15-19歳)とき、通学していた中学校の教師から受けた性的行為はずっと恋愛だと思い込んでいたが、37歳のとき性暴力だったと認識し、その後、PTSDを発症した女性(43歳)は、教諭らに損害賠償金の支払いを求め、東京地方裁判所に提訴した事件では、「公訴時効が成立しているとして、損害賠償金の支払い請求は棄却」した一方で、「性的行為の事実を認定」している。73
 この「性的行為の事実認定」を受けて、被害女性から「教諭の懲戒処分を求められていた」が応じてこなかった教育委員会は、この教諭を懲戒解雇した。74
 先のおじからの性的虐待事案と同様に、民事事件の公訴時効20年を経過した「小学校の担任教師から生徒に対する性的虐待事案」では、公訴時効の起算点を「精神科をはじめて受診し、うつ病と診断した日」と認定している。75
 その性的虐待事案(強制わいせつ罪(刑法208条))は、30年ほど前の小学校4年生-6年生の3年間、「男性の担任教師の自宅のマンションで、別の同級生とともに入浴させられたり、椅子に座っている担任教師の膝の上に座らせ、下着の中に手を入れてきて、陰茎を触られたりする性的虐待」を受け、平成16年(2004年)、精神科を受診し、はじめて被害事実を打ち明け、「うつ病」との診断を受けるなど、重篤な後遺障害を抱えた男性(現在40歳)が、公訴時効を経過後に提訴したが、一審は「証拠不十分として敗訴」した「公訴審」である。76
 一審後、「文藝春秋 電子版」に、“実名・顔出しの告発記事”がきっかけとなり、男性の担任教師から性的虐待被害を受けていた複数の同級生が名乗りでて、「控訴審」で証言した。77
 令和6年(2024年)3月26日、東京高等裁判所は、後遺症の損害賠償金と利息を合わせて約4,000万円の支払いを命じた(同年9月20日、最高裁判所が被告の上告を棄却し確定)。78
 除斥期間(法的権利が消滅する期間)の起算点について、判決文には、「本件わいせつ行為によって精神疾患を発症して後遺障害を負ったことによる損害賠償請求権については、その損害の性質上、加害行為が終了してから相当期間が経過したあとに損害が発生するものと認められるから、除斥期間の起算点は、加害行為である本件わいせつ行為のときではなく、損害の発生のときと解するべきであり、その時期は、その後遺障害の原因である精神疾患による精神的・身体的な症状が医師の診療を受ける程度に悪化した時期と認めるのが相当である。」と記されている。79
 この判決を伝えたメディアは、「除斥期間(法的権利が消滅する期間)の起算点」に対する東京高等裁判所の判断を、札幌高等裁判所判決同様に、「画期的」と評したが、「画期的」であった平成26年(2014年)9月25日の札幌高等裁判所判決から9年6ヶ月経過していることは、この期間、ほとんど前に進んでいない。80
 1日も早く、「画期的」という枕詞を消え、あたり前になることを切に願う。81
 しかし現実は、a)警察官、女性センター(婦人相談所、男女共同参画センター)・児童相談所・市区町村役場の相談窓口の職員、医師や看護師には、PTSD、その併発症としてのうつ病の発症、パニック障害、適応障害の発症で、『傷害罪(刑法204条)(・・致傷罪を含む)』を適用できることを知らなかったり、b)ア)弁護士の中には、先のような札幌高等裁判所の判例解釈(重要なのは、認定解釈の経緯)を知らなかったり、イ)判例解釈は知っていたとしても、ASD、PTSD、うつ病、パニック障害、解離性障害などの後遺症に対する深い知識がなかったり、ウ)暴力行為と後遺症の発症の因果関係を示す論理展開に不慣れであったり、費やす労力に見合わないと判断したりするなど、この問題を避ける心理が働くことも少なくなく、結果、相談した暴力被害者が泣き寝入りせざるを得ない状況をつくられることが少なくない。82
 差別・排除、差別・排除、DV(デートDV)、児童虐待、性暴力、いじめ、(教師や指導者などによる)体罰、ハラスメントなどの暴力被害者の方々には、この暴力行為後に発症した後遺症に対して『傷害罪(刑法204条)』を適用でき、状況によっては、公訴時効の壁を崩す“術(すべ)”があることを知って欲しいと考える。83
 「4」の76文中段の「男性の担任教師の自宅のマンションで、別の同級生とともに入浴させられたり、椅子に座っている担任教師の膝の上に座らせ、下着の中に手を入れてきて、陰茎を触られたりする性的虐待」を受けていた男性は、その男性の担任教師について、「スポーツができて、男子生徒と距離が近く、スキンシップが多い」と認識し、性的虐待を受けたあと、「スキンシップの延長で、気に入ってもらえたのかな」と受けとった。84
 男性の担任教師が生徒を自宅のマンションに呼ぶとき、パソコンの入力作業を手伝わせるなどの機会を増やしていることは、親しさを装い、手懐け、断り難い状況をつくりだす「グルーミング」である。85
 また、「4」の73文前段の「ずっと恋愛だと思い込んでいた」は、中学校の教師が、女子生徒に対し、マインド・コントロール手法のひとつの「型」としての「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けていたことを明確に示す表現である。86
 つまり、恋愛に伴う性行為ではなく、性暴力被害である。87
 しかし、「教師や指導者と生徒、上司と部下、先輩と後輩などの関係性での性暴力被害が、スキンシップではなかった、恋愛に伴う性行為ではなかった」と認識するのは、「2-④」の180文で、「『別紙1b』の「4-(4)性的虐待・レイプ」の80文中段で「…、ア)「挿入を伴う被害」にあった人で、被害後直ぐに「被害」だと認識できなかった人は6割に及び、被害の認識までにかかる年数は平均7.4年だった、イ)被害時の年齢が6歳までの人では、被害認識するまでに11年以上かかったという人が43%だった、ウ)7歳以上20代未満は10-20%、20歳代は8.79%、30歳代は4.17%の人が、被害認識するまでに11年以上かかった、…」で示しているように、被害者が、性的虐待被害を自覚できなかったり、訴えられなかったりすることから、『児童虐待防止法』に準じ、警察・児童相談所の介入(児童の保護と治療)はほとんど行われていない。」と示しているように、簡単ではない。88
 それだけ、マインド・コントロール手法のひとつの「型」としての「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられた性的関係性から逃れ、囚われ(精神的な支配)から解放されるのは難しい。89
 高等学校勤務する男性教師が、女子生徒と結婚に至るケースは少なくなく、この背景に同じ問題があり、その多くは、結婚後も教師と生徒の関係性、つまり、上下の関係性、支配と従属の関係性が継続される。90
 この本来対等な関係である男女の関係性が、交際相手や配偶者との間に上下の関係性、支配と従属の関係性を構築したり、その構築された関係性を維持したりするのにパワー(力)を行使するのが、DV行為の本質である。91
 マインド・コントロール手法のひとつの「型」としての「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられた性暴力のもとで、妊娠などをきっかけに結婚に至るケースでは、その後の結婚生活において、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられた状況が継続され、DV行為が常態化、日常化する高いリスクがある。92
 DV(デート)事案には、“偶然を装って出会いの機会”を演出された「ストーキング(つきまとい)」が交際のきっかけとなっていることが少なくない。93
 この「偶然を装って出会いの機会」を演出するのは、「グルーミング」「ラブボミング」の一種であり、この演出(2人の出会い)を“運命論”と結びつけられ、その恋愛に酔いしれ(恋愛幻想のもとで、有頂天になる)、その関係性に「なんかおかしい」と違和感を覚えたときに、「エントラップメント」を仕掛けられてとどめを刺され、逃げる(離れる)ことができなくなっているというパターンである。94
 デートDVにつながる偶然を装う出会いでは「運命的」と表現し、新興宗教・カルト、スピリチュアルでは「お導(みちび)き」「導かれた」「ひき寄せられた」「招かれた」と表現される。95
 こうした「グルーミング」「ラブボミング」「エントラップメント」のパターンで結婚に至っているDV事案では、DV被害者自身は、この事実(出会いから交際・結婚に至るプロセス)に無自覚で、慢性反復的(常態的、日常的)にDV行為としての暴力を受け、その被害は、長期化、深刻化する傾向がある。96
 a)同じ人物から繰り返しレイプ被害を受け、しかも、その加害者と同じ家での生活を余儀なくされるのが、性的虐待事案とDV(デートDV)事案で、b)加害者が勤務したり、通学したりしている同じ学校や会社に、被害者が通学したり、働いたりしなければならない。97
 しかも、その性的関係の継続を強いられるのが、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられた性暴力(性犯罪)事案である。98
 そして、「4」の93文-96文のDV事案と同様に、自身が「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられた性暴力(性犯罪)被害にあっていることを自覚できていないときには、「その関係の継続を強いられている」との認識はなく、被害は長期化し、深刻化しやすいのが、この被害の特徴である。99
 レイプ被害者の多くが、トラウマ反応としての侵入(フラッシュバック・悪夢)のトリガー(ひきがね)となり得るレイプ被害を受けた家、土地(市区町村+県、東北・関東などエリア単位)から離れた生活を強いられる中で、レイプ加害者と同じ家で暮らしたり、同じ学校に通学し続けたり、同じ職場で働き続けたりしなければならない異常さ、被害者の心痛さ、苛酷さを理解する必要がある。100


6.深刻な後遺症をもたらす性的サディズムにもとづく性被害 1
 -快感中枢が覚えた「うま味」。手放せない暴力行為で得られる「うまみ」と「苦痛」に分泌される脳内麻薬「βエルドルフィン」の働き- 2

① 加害者属性の11分類と「エントラップメント」の性的サディズム 3
 「2.被虐待体験とグルーミング・エントラップメント型性暴力(性犯罪)」の各節で示しているように、マインド・コントロール手法として、性的行為を目的に、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛ける者に共通しているのは、人を自分の思い通りに支配するための思考・行動で、その思考・行動はパターン化された「型」となっている。4
 私は、『別紙3b』の「3.DV加害者の考え方の特性、傾向、行動パターン」、「4.『加害者更生プログラム』の受講効果の真意」で詳述しているように、DV事案(デートDV/デートレイプを含む)において、レポート『被害の事実と後遺症、その経過』をとりまとめる過程で、a)当該加害者のストーキングリスクの判断と、b)当該加害者の『加害者更生プログラム(性犯罪者処遇プログラムを含む)』の受講、『レイプ防止プログラム』の受講の有効性を判断するにあたり、「加害者属性による暴力行為」を“11”に分類している。5
 その「加害者属性による暴力行為」の“11分類”は、ⅰ)衝動的な暴力(易刺激性、易興奮性)で、いわゆる「破壊的行動障害(行為障害)」「反抗挑戦性障害」と診断し得る特性による暴力行為、ⅱ)(主に、戦地・紛争地からの帰還兵による)PTSDの覚醒亢進(過覚醒)の「攻撃防御の機能不全」、「侵入」の幻視(幻覚・幻聴)に伴う錯乱的な暴力行為、ⅲ)自己愛が高く、反社会性が高いサイコパス的な特質(サイコパス(精神病質者、反社会性人格障害/自己愛性人格障害)、MNPD(悪性の自己愛性人格障害)、パラノイア(偏執病、被愛妄想))を持ち、支配性の高い暴力行為、ⅳ)ボーダーライン(境界性人格障害)の感情の激しさ、人やものごとを白か黒かにわける極端さ、自己否定と他者不信、怒りと恨みの激しさがトリガー(ものごとをひき起こすひきがね)となり、執着する暴力行為、ⅴ)パラフィリア(性的倒錯・性嗜好障害)を背景とする性的サディズム、性的マゾヒズム、ペドファリア(小児性愛)、窃視症(のぞき、盗撮)、窃触症(さわり魔、痴漢)、露出症にもとづく暴力行為、ⅵ)統合失調症の幻視(幻聴幻覚)、双極性障害の躁状態(性的高揚)にもとづく暴力行為(性的暴力)、ⅶ)ADHD(“2次障害”としての自己正当化型ADHDを含む)の「多動性」や「衝動性」、アスペルガー症候群などの「コミュニケーション・社会性の障害」による“特性”が、結果として、DV(デートDV)やハラスメントなどとなる暴力行為、ⅷ)交通事故や脳梗塞などの後遺症としての高次脳機能障害、難治性疾患のジストニア、レビー小体型認知症、ピック病(大脳の前頭葉や側頭葉が萎縮し、発症する認知症)、レム睡眠行動障害、肝硬変による肝性脳症、更年期障害、ペットからも感染するトキソプラズマ感染症、農薬・PCBなど汚染化学物質、覚醒剤や違法ドラックなどの薬物、アルコールの摂取による神経障害、低血糖症(ペットボトル症候群)などを起因となる暴力行為、ⅸ)儒教思想にもとづく家制度(家父長制)を背景にした価値観(男尊女卑)、女性の自己犠牲で成り立つ「良妻賢母」「内助の功」を強いる保守的な価値観を背景にもとづく暴力行為(懲戒(しつけ(教育)と称する体罰))、ⅹ)(外国人との交際、結婚であるとき)人種や国に対する偏見、差別、侮蔑・卑下意識(価値観)にもとづく暴力行為、ⅺ)アメリカの保守基盤である「キリスト教的家族主義」の信仰、イスラム教の厳格な戒律などの宗教観(信仰)、新興宗教やカルト集団の教え(教義)に準じる暴力行為などである。6
 例えば、「2-⑥」の338文、339文で示した「ミソジニー(女性に対する憎悪、嫌悪、差別意識)」の背景(成育歴)には、ⅸ)ⅹ)ⅺ)が深くかかわり、ここに、ⅲ)の「支配性の高い暴力行為」に至る自己愛が高く、反社会性が高いサイコパス的な特質(サイコパス(精神病質者、反社会性人格障害/自己愛性人格障害)、MNPD(悪性の自己愛性人格障害)、パラノイア(偏執病、被愛妄想))を持ち、支配性の高い人が、ある目的を達成するために仕掛けるのが、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」である。7
 ここに、ⅳ)のパラフィリア(性的倒錯・性嗜好障害)を背景とする性的サディズム、性的マゾヒズム、ペドファリア(小児性愛)、窃視症(のぞき、盗撮)、窃触症(さわり魔、痴漢)、露出症が加わると、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛ける「目的」は、性的行為となる。8
 ⅳ)ⅹ)ⅺ)を背景(成育歴)にした「ミソジニー」で、ⅲ)を基軸に、ⅳ)の性的サディズム、性的マゾヒズム、ペドファリア(小児性愛)が目的とする「性的行為」は、苛烈な暴力を伴ったり、凌辱的な行為を伴ったりする、つまり、サディスティックな性行為(性暴力)に至ることがある。9
 「性的サディズム」は、自身の性的興奮やオルガスムを刺激する目的で、性的行為に及ぶ相手に対し身体的、心理的な苦痛(屈辱、恐怖など)を与える。10
 ⅲ)の「サイコパス(反社会性人格障害(パーソナリティ障害))」に「パラフィリア」の「性的サディズム」が併存しているときには特に危険で、あらゆる形態の精神医学的な治療に対し著しく抵抗し、効果は見込めない。11
「サイコパス(psychopath)」とは、精神病質者(その人格のために、本人や社会が悩む、正常とされる人格から逸脱している者)のことで、反社会的人格の一種を意味する「精神病質(psychopathy;サイコパシー)」は、主に、異常心理学や生物学的精神医学などの分野で使われる。12
 サイコパスは異常であるものの、ほとんどの人々が通常の社会生活を営み、日本では、「反社会性人格障害(パーソナリティ障害)」と呼ばれ、その根底には「反応性愛着障害(RAD)」が存在し、成長に伴い「行為障害」、その一部が「サイコパス(反社会性人格障害(パーソナリティ障害))」と経過していく。13
 その「反応性愛着障害(RAD)」の発症は、「はじめに。」で示している「相互グルーミング(触れ合い)」が影響する「アタッチメント形成」と深くかかわり、その特性は、自己正当化型ADHDやアスペルガー症候群の障害の“特性”と類似していることから、正確な診断は難しいとされる。14
 この「正確な診断は難しい」との視点に立つと、サイコパスの人の“特性”は、「自己正当化型ADHD」、「アスペルガー症候群」の“障害の特性”の多くと重なる。15
 サイコパスは、アスペルガー症候群と同様に、その多くが男性で、脳の共感性を司る部分の働きが弱く、健常者の脳波とはまるで違う脳波を示す。16
 アメリカでは25人に1人(約4%)が「サイコパス」とされ、アメリカ国内の刑務所に収監されている受刑者の15%は、「サイコパス」だと考えられている。17
 犯罪心理学者のロバート・D・ヘアは、「サイコパス」の特徴として、ア)良心が異常に欠如している、イ)他者に冷淡で共感しない、ウ)慢性的に平然と嘘をつく、エ)行動に対する責任がまったくとれない、オ)罪悪感が皆無である、カ)自尊心が過大で自己中心的である、キ)口が達者で表面は魅力的であることをあげている。18
 オクスフォード大学の心理学専門家ケヴィン・ダットンは、「サイコパス」の主な特徴は、ア)極端な冷酷さ、イ)無慈悲、ウ)エゴイズム、エ)感情の欠如、オ)結果至上主義をあげている。19
 つまり、「サイコパス」は、ア)他人に対する思いやりに欠け、イ)罪悪感も後悔の念もなく、ウ)躊躇なく社会の規範を犯し、エ)平然と人の期待を裏切り(嘘をつく)、オ)自分勝手(自己中心的)で、欲しいものは奪いとる、カ)人の気持ち(感情)を理解できないが、人をコントロールするのに長けている人である。20
 こうした特性を持つ「サイコパス」は、ある目的を達成するために、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けることに対し、躊躇せず、罪悪感を覚えることもなく、冷徹にふるまえる。21
 
 問題は、この「暴力的であったり、凌辱的であったりするサディスティックな性的行為(性暴力)」を一定期間、慢性反復的(常態的、日常的)に加えられると、その支配関係から脱したあと、PTSD、うつ病、パニック障害、解離性障害などの後遺症だけでなく、サディスティックな性的行為(性暴力)による強烈な刺激の記憶が、被害者を苦しめる要因となる。22
 なぜなら、脳の快感中枢が反応する「暴力的であったり、凌辱的であったりするサディスティックな性的行為(性暴力)」による強烈な刺激には、中毒性(依存性)があるからである。23
 
 
② 暴力行為。依存性(中毒性)をもたらす高揚感、征服感 24
 交際相手や配偶者、子ども、教え子、部下などをパワー(権力を含む)やマインド・コントロール手法を行使して人を屈服させ、絶対服従下におく行為は、アルコール、薬物、ギャンブル、セックス、ポルノと同様に、中毒性を伴う。25
 「中毒性」とは、脳の“快感中枢”が、パワー(権力を含む)やマインド・コントロール手法の行使で得られる「うまみ」を覚えてしまうことである。26
 パワー(権力を含む)やマインド・コントロール手法の行使で得られる「うまみ」とは、自身のパワー(権力を含む)や影響力を誇示することで得られる支配欲(征服欲)、絶対的な存在感となる。27
 絶対的な存在感(支配者、権力者)であるときの高揚感は、脳の“快感中枢”では快感(強い刺激)・うまみとなる。28
 中脳には、神経細胞の集まる「A10神経核」がある。29
 なんらかの行動などで、「A10神経核」が活性化すると、「前頭前野」「運動野」「海馬」、「側座核」の神経細胞にまで伸びる「軸索」の末端から神経伝達物質「ドーパミン」が放出され、それぞれが活性化する。30
 「側座核」は、人が快感を覚えるときに血流が増す。31
 これらの領域すべての活性化が、再び、「A10神経核」を活性化させ、さらにドーパミンを分泌させるという「快感循環」をもたらす。32
 人の中脳の「A10神経核」が活性化し、「快感循環」をもたらす、つまり、「快感中枢」が刺激に反応するすべての行為には、一度、その「うまみ(快感)」を覚えると次の刺激を要求する、つまり、繰り返す特性がある。33
 しかも、脳の“快感中枢”が覚えた中毒性のある「うまみ」に対する“快感中枢”の反応は、血圧や脈拍、トラウマ反応によるホルモン物質の分泌を自分の意志でコントロールできないように、自分の意志、つまり、前頭葉(前頭前野)ではコントロールできない。34
 つまり、一度覚えた「うまみ(快感)」が渇望すると、脳の“快感中枢”は、その「うまみ」を強く要求し、次の刺激を求め続ける。35
 結果、中毒・依存状態がつくられる。36
 レイプ、窃視(のぞき、盗撮)、窃触(さわり魔、痴漢)、露出、体液をかけるなどの性暴力は、性的欲求からの行為ではなく、「その瞬間、対象となる人物を支配している」という高揚感、恍惚感を得て、満足感を覚える(承認欲求を満たす)ための行為であるが、同様に、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛ける者は、ターゲット(狙った人)を自分の思いどおりにコントロール(支配)している状況に対し、高揚感、恍惚感を得て、満足感を覚える。37
 この支配欲、独占欲を満たす行為、つまり、マインド・コントロール手法のひとつの「型」である「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」は、仕掛けた者に対し、強烈な承認欲求をもたらす。38
 こうした「支配のための暴力行為」で得られる高揚感、恍惚感、満足感が、中毒・依存をもたらす「うまみ(快感)」となる。39
 この「うまみ(快感)」は、自分の暴力行為により痛がったり、苦しんだり、怯えたり、苦しみ悶えたり、嫌がったり、迷惑がったり、恥ずかしがったり(恥ずかしいことばをいわせたり、過去の性的行為を話させ、その状況を再現させたりするを含む)、助けを懇願したり、悲鳴をあげたりする表情や声、態度、姿勢により強化される。40
 自身の支配のための暴力行為が、相手にどれほどの脅威を及ぼしているか(自分の力を誇示できているか)を確信できた瞬間に、強烈な高揚感、恍惚感を覚え、そして、満足感(征服感)に浸る。41
 この強烈な高揚感、恍惚感を覚え、そして、満足感(征服感)に浸ることができる支配のための行動の目的が、性的行為であるとき、それは、より強い刺激が得られる暴力的であったり、凌辱的であったりするサディスティックなものになる。42
 例えば、アダルトビデオで、女性のあげる声が痛みに対する悲鳴であるにもかかわらず、快楽に浸っているように錯覚させる演出により、その暴力(凌辱、残虐)性を覚えなくなり(自覚できなくなり)、麻痺し、より暴力的、凌辱的、残虐的な刺激(演出)を求めるようになる。43
 自身の暴力性、凌辱性、残虐性を自覚できず、麻痺した人は、交際相手や配偶者との性的行為で、アダルトビデオで演出される激しく、暴力的な性交を試みたり、多種のアダルトグッズを持ち込み、過剰な刺激を与えたりするようになり、その暴力性は、犯罪との境界線が曖昧になっていく。44
 この時点で、この人は、性的対象者を意思のある人ではなく、自分の意思はない「モノ」として見ている。45
 例えば、いじめやハラスメントが問題となったとき、加害者は、よく「相手は喜んでいたと思っていた」、「相手は喜んでいたので、無理やりではない」と述べる。46
 アスペルガー症候群の特性のひとつに、「人の表情がどのような感情を示しているのかを読みとることができない」があるが、この「5-②」の34文の加害者の発言の背景にあるのは、同様に、「人の表情がどのような感情を示しているのかを読みとることができない」ことである。47
 つまり、加害者の多くは、自身の加害行為により、相手が喜んでいるのか、気持ちよくなっているのか、痛がっているのか、苦しんでいるのかの区別がつかない。48
 これは、『別紙2b』の「3-(11)-①-c)被虐待体験により、顔の表情を読みとれない」」の38文「被虐待体験にもとづく「情緒の発達はものの見え方に影響」を及ぼす。」、同39文「それが顕著に表れるのが、人の顔の見え方である。」、同49文「情緒の発達が損なわれた子どもは、こうした感情と表情を一致させることができない。」と示している。49
 長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験(小児期逆境体験)をしてきた子どもに対するプログラムとして、この顔の見え方を確認するアクションがある。50
 それは、紙に「6つの顔の輪郭」を書いておき、その傍らに、以下のような“感情表現”である「幸福感」、「驚き」、「怖れ」、「哀しみ」、「怒り」、「嫌悪」を書く。51
・幸福感..喜ぶ、得意になる、嬉しい、安心する、心地いい 52
・驚き..驚く、焦る、慌てる、たじろぐ、呆れる 53
・怖れ..怖い、不安、危険、焦燥 54
・哀しみ..絶望、孤独、寂しい、嘆く、落胆、不幸 55
・怒り..苛立つ、怒る、反感、叱る 56
・嫌悪..不機嫌、不満、無関心、恥ずかしい、憎む、不快、敵意 57
 そして、「この・・って、どんな表情かな?」となげかけ、その表情を描いてもらう。58
 情緒の発達が損なわれた子どもは、こうした感情と表情を一致させることができない。59
 苛烈な暴力のある家庭で育ってきた子どもは、目を吊りあげた顔しか描けないことが少なくない。60
 この原因は、同「3-(3)-②-a)視覚野の萎縮と聴覚野の肥大」の64文で、「性的虐待や面前DV(心理的虐待)により「視覚野」が萎縮すると、他人の表情を読めず、対人関係がうまくいかなくなる。」と示しているように、成育歴で、長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験の後遺症である。61
 その「視覚野の萎縮の程度」は、同62文「幼少期に性的虐待を受けると、視覚を司る大脳後方の「視覚野」が約18%萎縮する。」、同63文「幼児期の子どもが、両親間のDV行為を見たり、聴いたり、察したりしている(面前DV=心理的虐待)と、視覚野の一部が約16%萎縮する(平均4.1年間DVを目撃して育った人の平均値)。」、同65文「この面前DV=心理的虐待による「視覚野」の萎縮は、身体的暴力の目撃では3.2%の萎縮だったのに対し、幼児期の子どもが、「ことばの暴力(心理的虐待)」に接してきたときには19.8%の萎縮が認められている。」、同66文「後者の19.8%の萎縮は、前者に比べて、6.19倍もダメージが大きくなっていることを意味する。」となっている。62
 「視覚野の萎縮の影響」は、同67文「面前DV経験者は、右脳の視覚野にある“舌状回”と呼ばれる部分の容積が20.5%小さく、血流量の調査では、同じ視覚野にある“中後頭回”だけ、面前DV経験者は平均で8.1%多く、DV目撃経験のない人より活発に動いていることがわかっている。」、同68文「長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験をしてきた人が、トラウマの追体験(侵入)にもとづくフラッシュバック・悪夢が起きているとき、脳では、「視覚野」が必要以上に活動し、脳の伝達物質が過剰放出され、脳細胞が悪影響を受けている。」、同69文「例えば、性暴力被害者の「昼間にカーテンの隙間から光が差し込んでくるのに耐えられない。だから、昼間に外出することができないし、1日中、カーテンを閉め切って過ごしている。」などの訴えは、「視覚野」が必要以上に活動しているからと考えられている。」など、現在、PTSDの症状は、脳のどこの場所が萎縮した影響なのか、どこの箇所の血流量が増えたり、どこの箇所の神経回路が細くなったりした結果なのかが、解明されてきている(同70文)。63
 人の感情がわからず、人の顔の表情で、その人のいまの感情がわからないと、頼るのは、「声の大きさ(声からも感情を読みとることはできない)」「からだの動き(態度や姿勢)」となる。64
 つまり、暴力を加えたとき、その相手が、大きな反応(悲鳴や声など)があるかどうかがモノサシ(判断基準)となる。65
 例えば、いじめやハラスメント、性暴力事件では、加害行為に至った人は、よく「相手は喜んでいたと思っていた」、「相手は喜んでいたので、無理やりではない」と述べるように、その行為により、相手が喜んでいるのか、気持ちよくなっているのか、拒んでいるのか、痛がっているのか、苦しんでいるのかの区別はついていない。66
 被虐待体験という成育歴で、「人の表情を読みとることができない人」が、多様化、過激化、暴力化した性描写を演出するアダルトビデオ(AV)で、「悲鳴のように大きな声をあげ、苦悶の表情を見せ、のたうち回るような動きを示す=喜んでいる、幸せに満たされている」と学ぶ(認識する)と、交際相手や配偶者との性行為において、相手の反応が、拒絶、嫌み、苦痛を表す悲鳴や態度であっても、その声やふるまいが大きければ大きいほど(過激であればあるほど)快感の声と解釈する。67
 人の発声は、息を吐く呼吸に伴う。68
 呼吸を整える間がないほどの激しい性行為では、呼吸が激しくなり、その激しい呼吸とともに声(音)が発せられる。69
 その激しい呼吸と声(音)の大きさが、快感を与えている尺度(モノサシ)となる。70
 同様に、人を恫喝したり、怒鳴りつけたりするときに、大声を発するのは、相手を威嚇し、力を誇示するためであるが、声が大きければ力が強い、声が小さければ力が弱いとの判断基準(モノサシ)であるからである。71
 その性行為は、暴力的、凌辱的、残虐的なものになり、その苛烈な性行為は、快感をもたらすと勘違い(ご認識)したまま、実践し続ける。72
 しかも、脳の快感中枢が、一度覚えた刺激について、より強い刺激を求める特性が、より苛烈な性行為を求める。73
 支配欲・征服欲を起因とし、性的行為を目的に、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛ける人に共通しているのは、そのターゲット(獲物/性的対象者)は、意思のある人ではなく、自分の意思はない「モノ」として見ていることである。74
 交際関係、上下関係、主従関係を構築(利用)し、暴力的で、凌辱的で、残虐的なサディスティックな性的行為を繰り返す。75
 「性的サディズム」にもとづく性的行為の典型例は、ア)平らな物や平手で臀部を叩く「スパンキング」、鞭で叩いたり、縄で縛ったりする(緊縛)SM行為、イ)屋外、家や車の窓やカーテンを開けたり、ベランダにでたりして、人に意図的に裸体や性的行為を見せたり、見られるように仕向けたりする「露出行為」、「グループセックス(輪姦を含む)」である。76
 ウ)ア)イ)の性的行為において、「2-②」の72文、73文で示しているように、強烈な快感をもたらす覚醒剤や違法薬物、危険ドラッグなどを使用して変性意識状態になり(キメて)、性交(セックス)などの性的行為をする「キメセク」は、深刻な薬物依存の問題が絡む。77
 さらに、「性的サディズム」には、エ)首を手やタオルなどで締めて低酸素状態をつくりだす危険な「窒息プレイ」がある。78
 性的目的の「窒息プレイ」でなくても、交際相手や配偶者に対し、柔道などの武術、プロレスの練習と称し「締め技」でオトす危険な行為は、自身の力の誇示(支配)し、オチる瞬間に高揚感、爽快感、満足感を覚えることから、「性的サディズム」にもとづく。79
 エ)の性的行為中に、手やタオル(縄)などで首を絞める「窒息プレイ」は、身体的暴力に該当するが、性的興奮を得るために意図的に脳への酸素供給を停止させ仮死状態になる行為で、精神的にも身体的にも重度の危険が生じたり、死に至ったりするリスクを伴う。80
 心臓から脳へ酸素の豊富な血液を運んでいる(首の両側にある)頸動脈が圧迫されると、絞殺や絞首刑のように脳への酸素供給が突然止まり、二酸化炭素が蓄積することで「めまい」、「意識朦朧」の症状だけではなく、「喜びの感情」を増大させ、そのすべてが、性行為、自慰の興奮を高める。81
 脳が酸素を奪われるとき、低酸素症と呼ばれる明確な“半幻覚状態”をひきおこし、それは、オーガズムと結合される。82
 重要なことは、「窒息プレイ」で得られるオーガズムは、「コカインと同程度に強力」で、「非常に強い習慣性(依存性)がある」ことである。83
 また、慢性的な低酸素症によってもたらされる幻覚状態は、登山者が高地で経験する幻覚と類似しているとの報告がある。84
 そのため、注意をしていても危険で、多くの事故死が起きる。85
 アメリカでは、年間250-1000人ほどが死亡しているといわれている。86
 一歩間違えば命にかかわる「窒息プレイ」であるが、その強い習慣性(依存性)から、「ひとりSM」と呼ばれる危険な行為に陶酔する者も少なくない。87
 それは、「窒息プレイ」の相手であった交際相手や配偶者と別れた(離婚した)あと、「低酸素状態」でもたらされる“半幻覚状態”下でのオーガズムを求め、「ひとりSM」に至る。88
 それは、「自ら首をタオルなどで締めて低酸素状態をつくりだし、薄れていく意識を楽しみつつ、ギリギリのところで昇天すると想像を絶する気持ちよさがある(頸動脈を絞めて意識が遠くなる瞬間と、射精感が合わさると想像を絶する快感が得られる)」とする「窒息オナニー」と呼ばれる行為で、加減がわからなくなり、危険な状態を脱することをより難しく、加えて、常習性(依存性)を伴う。89
 日本国内では、救急車で運ばれたり、家を全焼させてしまったりするなど、「窒息プレイ(ひとりSM)」による死亡事故が、年間300件ほど起きている。90
 また、「失神ゲーム(気絶遊び、チョーキング・ゲーム)」は、他人、自己を意識的に失神させ、酩酊状態を観察したり、体験したりするもので、小・中学生を中心に、いじめの一環や罰ゲームなど遊び半分でおこなわれる極めて危険な行為である。91
 親の身体的虐待として首を絞められたり、あるいは、親に柔道などの武術、プロレスの練習(遊び)と称し「締め技」でオトされたりするときに覚えた「低酸素状態」でもたらされた“半幻覚状態”が、「パラフィリア」の「性的興奮のパターン」として、「マスターベーション=ひとりSM」となっていることも少なくなく、この行為は、「4-➃」で示している「再演」であり、「性的自傷」である。92
 また、自身の体験をもとに、交際相手や配偶者に「窒息プレイ」を行ったり、友人や知人に「失神ゲーム」を行ったりするのは、自身の体験の「再演」である。93
 同様に、「パラフィリア」の「性的サディズム」にもとづく性的行為(性的興奮のパターン)の典型例として、「4-②」の36文で示した「ア)平らな物や平手で臀部を叩く「スパンキング」、鞭で叩いたり、縄で縛ったりする(緊縛)SM行為、イ)屋外、家や車の窓やカーテンを開けたり、ベランダにでたりして、人に意図的に裸体や性的行為を見せたり、見られるように仕向けたりする「露出行為」、「グループセックス(輪姦を含む)」」などは、自身の体験にもとづく「再演」であり、「性的自傷」である。94



③ 苦痛を和らげる「βエルドルフィン」が幸福感をもたらし依存性に 95
 一方で、人は、耐えられない苦痛を覚えると、「はじめに。」で示しているように、親による「グルーミング(触れ合い)」で子どもの脳に分泌される「βエルドルフィン」が分泌され、自分自身でその苦痛を和らげる。96
 この「βエルドルフィン」は、脳内で麻薬(脳内モルヒネ)のように働き、幸福感や爽快感をもたらす。67
 「βエルドルフィン」は、脳内で働く神経伝達物質で、その構造は31個のアミノ酸からなり、高揚、鎮痛、抗ストレス作用を担う。68
 厄介なことは、長期間、ある一定期間、慢性反復的(常態的、日常的)に繰り返される差別・排除、DV(デートDV)、児童虐待、性暴力、いじめ、(教師や指導者などによる)体罰、ハラスメントなどの暴力被害において、「危機・危険」に対するストレスホルモンの「コルチゾール」、攻撃ホルモンの「アドレナリン」とは別に、その苦痛を抑えるために、「βエルドルフィン」が分泌されることである。69
 つまり、長期間、ある一定期間、慢性反復的(常態的、日常的)に繰り返される暴力被害に伴う「苦痛」に対しても、高揚感、爽快感、幸福感がもたらされる脳がつくられる。70
 わかりやすい例をあげると、「ランナーズ・ハイ」と呼ばれる状況である。71
 「ランナーズ・ハイ」は、マラソンなどの長距離走で苦しい状態が一定時間以上続くと、脳内でその苦しいというストレスを軽減するために「βエルドルフィン」が分泌され、その苦しいは鎮静し、一転して、気分の高揚、幸福感がもたらされる状況を指す。72
 厄介なのは、脳の特性として、からだが傷み(痛み)を覚えたのか、精神的に苦しい、ツラいと苦痛を覚えたのかを区別をすることができないことである。73
 自身の行為に対し、背徳感、罪悪感、嫌悪感を覚えると、脳は「苦痛」と認識し、「βエルドルフィン」が分泌する。74
 つまり、自分が背徳感、罪悪感、嫌悪感に押しつぶされそうな「苦痛」を覚える行為、犯すと罰せられる行為においも、「βエルドルフィン」が分泌され、幸福感、爽快感を覚える脳がつくられる。75
 これが、ア)リストカット(セルフ・カッティング)、OD(大量服薬)、過食嘔吐などの自傷行為に繰り返す人、イ)アルコール、薬物、ギャンブル、セックス、ポルノなどの依存症の人と同様に、ウ)ペドファリア(小児性愛)、性的サディズム、性的マゾヒズム、窃視症(のぞき、盗撮)、窃触症(さわり魔、痴漢)、露出症などの「パラフィリア(性的倒錯/性嗜好障害)」に起因する行為、エ)クレプトマニア(窃盗症/病的窃盗)に起因する行為(犯罪)に至ったりする人、そして、オ)交際相手や配偶者、自身の子どもに暴行を加え、傷めつける行為に及んだりする人が、口を揃えるように、「背徳感、罪悪感、嫌悪感を覚え、苦しいから止めたいけれど、止められない」と訴える脳の状態である。76
 この同じ脳の状態が、交際関係、上下関係、主従関係を構築(利用)し、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けた性的行為(性暴力/性犯罪)、つまり、長期間(あるいは一定期間)、慢性反復的(常態的、日常的)に、暴力的、凌辱的、残虐的なサディスティックな性的行為(性暴力/性犯罪)を繰り返されてきた被害者の脳で起こる。77
 つまり、a)マインド・コントロール手法のひとつの「型」といえる「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられた関係性において、b)暴力的、凌辱的、残虐的なサディスティックな性的行為があり、c)b)が長期間(あるいは一定期間)、慢性反復的(常態的、日常的)に繰り返されていたときには、ア)脳の快感中枢が強烈な刺激を求めること、イ)この「苦痛」に対し、「βエルドルフィン」が分泌され、一時であっても苦痛を忘れさせてくれることから、「5-②」の77文のア)イ)、78文のウ)、79文のエ)のような性的行為、つまり、「サディスティックな性的行為」、「暴力的、凌辱的、残虐的な性的行為」を自ら求めてしまう。78
 この状況に絶望する被害者も少なくなく、このことが、「エントラップメント型の性暴力被害」で、自尊感情を破壊された被害者の自死率が高くなる要因のひとつとなっている。79
 長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験をしている児童(してきた人)が、睡眠導入剤や精神安定剤が手放せなくなっていたり、アルコール、薬物、ギャンブルセックスに依存したり、リストカットやOD(大量服薬)、過食嘔吐などの自傷行為に及んだりするなど、自分を傷つけることで得られる一瞬の幸福感、心の安定、リラックスは、援助交際やパパ活を繰り返したり、「管理売春」で得た金でホストに入れ込んだりする「再演」「性的自傷」にも認められる。80
 そのため、「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられた性的関係(性暴力/性犯罪)後に、自ら、(不特定多数の)他者に「5-②」の77文のア)イ)、78文のウ)、79文のエ)のような性的行為を繰り返し求めているときには、この「再演」「性的自傷」の理解と、その理解にもとづく治療が必要になる。81
 そして、ある目的を達成するために、マインド・コントロール手法のひとつの「型」である「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けられた被害者とかかわる人すべて、つまり、警察官、弁護士、ワンストップセンター、女性センター(婦人相談所、男女共同参画センター)・児童相談所・保健センター・市区町村役場の相談窓口の職員、医師、看護師、カウンセラーなどは、この『レポート』の記述内容はいうまでもなく、「再演」「性的自傷」の理解は不可欠である。82


④ PTSDの「解離」と「再演」、「性的自傷」に対するケア 83
* 以下の記述は、『別紙2b』で示しているASD・PTSD、その併発症としてのうつ病の発症メカニズムに加え、PTSDの症状としての「侵入(再体験)」「覚醒亢進(過覚醒)」「回避」「狭窄(感覚鈍麻)」「解離」、侵入としてのフラッシュバック・悪夢によりもたらされるパニックアタック、身体化障害(身体表現性障害)などの基礎知識の理解を“前提”としている。84

 「再演(エナクトメント)」は、「再犠牲者化」「投影性同一視」ともいわれ、自身が受け止めきれない自身の嫌な部分や認めたくない感情を、他者に“投影”することで、嫌な自分と向き合うことを回避する行動である。85
 この回避行動は、「防衛機制(適応機制)」のひとつである。86
 「防衛機制(適応機制)」は、人が危険や困難に直面し、受け入れがたい苦痛や状況にさらされたとき、不安、体験を減弱させて精神的な安定を保って生きていくという無意識に作用する心理的なメカニズムのことである。87
 トラウマ(心的外傷)による「再演」は、長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験の後遺症として、PTSDの主症状である「覚醒亢進(過覚醒)」に加え、「解離症状」により、本人が自覚できないか、あるいは、行動を制御できない間に、からだが自動化され、特定の行動パターンをもたらすと考えられている。88
 長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験を起因とする問題行動を繰り返す人は、この「2つの意識状態を持っている」ことが少なくなく、「覚醒亢進(過覚醒)」により、本当の自分は凍りつき、「解離」し、突然、もうひとつの意識状態に切り替わる。89
 トラウマ(心的外傷)の中核部分は、瞬間冷凍された状態で生々しく保存されており、それは消えることがなく、長期にわたり、脳に記憶・蓄積されている。90
 トラウマ体験とつながる外部刺激がきっかけ(トリガー)となり、凍りついていた感覚、情動、光景、臭い、音、声がフラッシュバックとして表出(自動再生)し、その恐怖(トラウマ)の追体験(侵入)により、感覚が麻痺(感覚鈍麻)し、自分で自分を統制できない中で、トラウマ体験を「再演」することがある。91
 PTSDが重篤化し、トラウマが固着すると、トラウマの追体験(侵入)により、固着したトラウマが瞬間解凍されて覚醒(覚醒亢進(過覚醒))し、トラウマとなり得る体験をした脳とからだと支配する。92
 このとき、主人格が自身のトラウマに気づかない状態で、トラウマのトリガーを踏んでしまうと、固着したトラウマが泣き、嘆き哀しみ、苦しむ一方で、強い意思を持つようになると、勝手に行動するようになり、トラウマ体験を「再演」させる。93
 ユング派のトラウマ臨床家カルシェッドは、「心理的トラウマの犠牲者は、繰り返し再外傷を受ける状況に陥る。」と指摘し、ジュディス・ハーマンは、著書『心的外傷と回復』の中で、「児童期虐待に被害を受けた者は大人になったいまも、外傷体験を記憶の中だけでなく、現実の生活において再体験するという悲しい運命にある。」と述べ、フランク・W・パトナムは、著書『多重性人格障害』の中で、治療にあたっている患者の話を踏まえ、「性的に虐待された多重人格者の大部分の中には、性的放縦(乱交者)人格がいて、患者(主人格)に性的な外傷体験をするようにお膳立てをする。」、つまり、「別人格は、主人格の子どもが幼少期のときは性的虐待の苦しみを身代わりになる一方で、主人格の子どもに同じことを味わわせてやりたいと考え、そのお膳立ての結果が「再演」となる。」と述べている。94
 長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験が苛烈であればあるほど、怖ろしいほどの圧倒的なパワー(力)に打ちのめされた恐怖は、脳やからだにインプットされる。95
 その脳やからだにインプットされたトラウマ体験を想起させる場面やできごとにあうと、過去と現在が重なり、その捻じれた感覚はひとつになる。96
 それは、冷凍保存された記憶が瞬間解凍され、からだごと過去に瞬間移動したかのように、あのときの光景が鮮明に蘇り、脳が制御できない恐怖に襲われ、からだも恐怖反応(パニックアタック)を示す。97
 このPTSDの特性を踏まえ、PTSDは“時間の障害”といわれている。98
 その恐怖に対するトラウマ反応は、生存システムとして、「扁桃体」が過剰に働き、警戒態勢をもたらす。99
 現実では、まったくあたり障りのないようなことばや態度に接しただけで、戦うか(破壊するか)、逃げるか(回避するか)、気を失うかの選択となる(HPA(視床下部-脳下垂体-副腎皮質)機能)。100
 この状況下で、人と接しなければならないときは、緊張が高まり、恐怖を覚えるだけではなく、被害感が強まる。101
 緊張が高まり(過緊張)、恐怖を覚えると覚醒亢進(過覚醒)状態となり、ことばでは表現し難い「底知れぬ不安感」に襲われ、体調が悪くなったり、怒りが込みあげてきたり、頭が真っ白になり、なにを話しているのかがわからなくなったりする。102
 「誰も助けてくれなかった」との被害感と怒りが重なると、その無関係な人さえ、叩きのめしたいとの衝動に駆られ、ちょっとしたことで激怒する(覚醒亢進(過覚醒)としての攻撃防御の機能不全、易刺激性)。103
 からだが警戒態勢となり、感情を抑えられなくなると、自身の行動が、これからの対人関係にどのような影響をもたらすのかを考えることができず、衝動的な行動として、トラウマ体験を「再演」することがある。104
 また、性交を伴う性的虐待やレイプなどの被害を受けた人が、その直後の一定期間、不特定な複数の人と性的関係を持ったり、身体的虐待(しつけ(教育)と称する体罰を含む)を受けている児童が、同級生などに粗暴な行為を繰り返したり、教師や大人に対し、反抗的な態度を示したりするのは、(性的)暴行を加えられ、自尊感情を破壊された無力な自分から自分の主体性をとり戻そうとする試みである。105
 自分に危害を加えた同じ行動(やり方・手口)で、狙いを定めた相手をコントロールしたい衝動に駆られる。106
 トラウマの「再演」としての「自分に危害を加えた同じ行動(やり方・手口)で、狙いを定めた相手をコントロールしたい衝動に駆られた行動」が、狙いを定めたターゲットに対し、ある目的を達成するために仕掛ける「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」である。107
 この他人を使い、トラウマ体験を「再演」することで、自身に起きたトラウマ体験に対する理解を深め、その状況を乗り越えようとする試みで、その瞬間、無力な自分から解放される。108
 このとき、アドレナリンとドーパミンが分泌され、高揚感、爽快感を覚え、この高揚感、爽快感を求め、行為を繰り返すようになり、脳は依存化(中毒化)する。109
 ただし、不特定な人との性的関係では、破壊された自尊感情、自分の主体性をとり戻すことができないだけではなく、倫理的な考え(自分は穢れた)が心理的障壁となり、逆に、自分を傷つける行為として、不特定多数の人とセックスを繰り返したり、性暴力を加えた同じ人から繰り返し性暴力を受けたり、性暴力体験を違う人に求めたり(違う人に性暴力を受けるように仕向けたり)、性風俗店(無店舗のデリバリー型性風俗を含む)で働いたり、AV(アダルトビデオ)に出演したり、ホストに入れあげ、支払いが滞り、管理売春(性的搾取)をさせられたりすることである。110
 これらの行為は、「性的自傷」と呼ばれる。111
 その背景にあるのが、長期間、慢性反復的(常態的、日常的)な被虐待体験をしてきても、子どもにとって、親が、自身に虐待行為をしている事実(現実)を受け入れることは簡単ではないことである。112
 自分は傷ついていない(からだだけでなく、心も)ことを示すために、明るく、活発にふるまったり、感覚を麻痺させたり(感覚鈍麻)するなど、変性意識状態の中で、親との愛着形成(アタッチメント形成)を試みる。113
 「変性意識状態」とは、「2-②」の63文で示しているように、カルト教団やスピリチュアルの指導者は、神秘体験や超能力と称し、意図的に、人が幻覚を見る状態、つまり、「変性意識体験(ASC:アルタード・ステイツ・オブ・コンシャスネス)」を利用したり、同72文で示しているように、覚醒剤や違法薬物、危険ドラッグなどを使用して性交などの性的行為(キメセス)でキメた状態をもたらしたりするように、目覚めてはいるが、日常的な意識状態とは異なった意識状態のことである。114
 子どもが、被虐待体験下で、親との愛着形成(アタッチメント形成)を試みるには、親に愛されない(虐待を受ける(拒絶される)のは親に愛されていないと認識)のは自分に非(責任)がある、つまり、自分が悪い(悪い子ども)からと自分を憎むようになったり、新興宗教・カルト教団の教祖や指導者に対し崇拝するように、その悪い自分を正しく導くために虐待してくれていると理想化したりする。115
 しかし、現実では、親は、自分に対し残虐な虐待行為を繰り返しているので、親を崇め、理想化している自分と、親を憎むもうひとりの自分との間で深い“分裂”が起きる。116
 解離したもうひとりの自分にとって、自分が愛する親は憎く、殺してやりたい存在であることから、憎しみの対象を信じ、崇める自分のことが許せなくなる。117
 そのため、もうひとりの自分にとって、自分は迫害される(厳しく罰せられる)べき対象となり、もっとも自分が傷つくやり方でトラウマ体験を「再演」させる。118
 性的虐待やレイプ被害者が、この「もっとも自分が傷つくやり方でトラウマ体験を再演させる行為」が、不特定多数の人とセックスを繰り返したり、性暴力を加えた同じ人から繰り返し性暴力を受けたり、性暴力体験を違う人に求めたり(違う人に性暴力を受けるように仕向けたり)、性風俗店(デリバリー型を含む)で働いたり、AV(アダルトビデオ)に出演したり、ホストに入れあげ、支払いが滞り、管理売春(性的搾取)をさせられたりすることである。119
 苦しみ続けるもうひとりの自分は、本来の自分に痛み・苦しみを負わせようと、異性を誘惑し、不特定多数の人と同意のもとでセックスに至っているが、本来の自分はまったく同意していないセックスであることから、この絶望的な状況を回避したいと考えるが、苦しみ続けるもうひとりの自分がそれを許さず、トラウマ体験を「再演」し続ける。120
 結果、その人の人生は蝕まれ、この「絶望的な状況」に絶望したとき、自死のリスクが非常に高まる。121
 この「5-④」の119文-120文は、マインド・コントロール手法のひとつの「型」といえる「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けた性的暴力(性犯罪)の問題と深い関係がある。122
 また、成育歴に、被虐待体験があり、「凍りつき」、「学習した無力感」に支配され、無気力が優位な人は、嫌なことをされても、なすがままであったり、やり返したりしないことから、頻繁に、(性的)暴行被害(再被害)に合いやすく、トラウマが幾層にも積み重なっている。123
 交際の有無は関係なく、日常生活(学校・職場などを含む)のあらゆる場面で接する人が、威圧的で、言動が乱暴であるとき、暴力のある家庭環境で、生き延びるために身につけた“術(思考・行動習慣)”で接する。124
 なぜなら、対人関係で、それ以外の方法を学ぶ機会がなかったからである。125
 つまり、従順で、常に顔色をうかがい、機嫌を損ねないように気を配り、意に添うようにふるまう。126
 そのため、威圧的で、言動が乱暴であったり、搾取(騙したり、利用したりする)など悪意があったりする人から、繰り返し、トラウマ体験を追体験したり、新たなトラウマ体験をしたりする。127
 もう一方に、自分に虐待を加えたり、自分を騙したり、利用したりする人の思いどおり(よくぼうのまま)にされていることに嘆いているという側面があり、同じ人物の中で、同時並行的な解離が起きていることがある。128
 この同時並行的な解離が起きているとき、まるで、解離した人格に乗っとられた、誰かに操られているように感じたり、意識が消失し、そのときの記憶がなかったりする。129
 そこまで深刻な解離でなくとも、性的虐待やレイプの被害を受けた人にとって、安全な環境であっても、交際相手や配偶者など親密な人とのデートや性的行為(手をつないだり、キスをしたりするなどの行為すべてを含む)は、当時の怖ろしいトラウマ体験(脅威・恐怖から逃れられず、暴行を回避するために応じるしかなかったセックス)と結びついている。130
 そのため、その人の内的世界には、いまも鮮明で、未解決な傷み(痛み)、苦しみ、哀しみ、やるせなさが継続し、交際相手や配偶者など親密な人とのデートや性的行為(手をつないだり、キスをしたりするなど行為すべてを含む)が、毎回、トラウマの追体験となり、その多くは、心身の不調として表出する(PTSD症状としての身体化、身体表現性障害)。131
 こうしたことが要因となり、異性と交際そのものができなくなったり、加害行為に至った人と異なる性の人を恋愛や性的行為の対象としたりすることも少なくない。132
 そして、どこかのタイミングで心の折り合いをつけられなくなり、頻繁にパニックアタックを起こしたり、診断されていない(C-)PTSDの症状が重篤化し、その併発症としてのうつ病、パニック障害を発症したりする。133
 一方で、自身に起きたトラウマ体験に対する理解を深めるための「分析・検証対象」が、自分に危害を加えた相手に向くと、自分に危害を加えた人と似通った雰囲気の人に近寄ったり、敢えて、探しだしたりして、一緒にいようとする。134
 この自分に危害を加えた人に対する興味・関心、好奇心は、無意識下で、恐怖と分断されている。135
 そのため、自分に恐怖をもたらした人に似通った雰囲気の人に対しても、無防備である。136
 しかも、親(あるいは近親者)からの性的虐待(レイプ)であっても、「お前を愛しているから(好きだから)」と繰り返し聞かされてきたことから、「人が性的行為に及ぶのは自分に好意がある(人が性的行為に及ばないのは、自分を嫌っている)」からと認識していることが少なくなく(間違った考え方の癖=認知の歪み)、結果、自分に危害を加えた人と似通った雰囲気の人は、自分に好意を持っていると認識し、躊躇することなく、急激に距離を縮め、性的関係に至る。137
 このことが、再び、(性的)暴行被害(DV(デートDV/デートレイプ)など)を受けたり、逆に、ストーキング(つきまとい)に及んだりする要因となる。138
 このケースの「ストーキング(つきまとい)」の背景には、「カラカラに乾いたスポンジのような渇望感、心の中にぽっかりと空いた大きな穴のような空虚感、底なし沼のような寂しさ」と表現できる「見捨てられ不安」があり、この「見捨てられ不安」は、「ボーダーライン(境界性人格障害/パーソナリティ障害)」の特徴であるが、この「ボーダーライン(境界性人格障害/パーソナリティ障害)」の発症は、「解離症状」「強迫性障害」の発症をもたらす「脳梁」、大脳皮質の「島皮質」の萎縮に起因する。139
 以上のようなトラウマ体験の「再演」「自傷行為」の背景には、未解決なトラウマがあり、その未解決なトラウマは、日常生活のちょっとした刺激により、突然表れて、激しく暴れ、怒り、哀しみ、人格をも破壊し、絶望的になり、死にたがる。140
 そのため、この未解決なトラウマが表にでてこないように、なりふり構わず、傷つけたり、殺そうとしたりする。141
 この「未解決なトラウマ」を理解できると、ア)「C-PTSD」は、「PTSDの主症状」を包含し、「不安障害」、「うつ状態」、「双極性障害(躁うつ病)」、「解離性障害」、「身体化の障害(身体表現性障害)」、そして、「自己愛の欠落」、「各種の人格障害(パーソナリティ障害)」のすべてを網羅すること、イ)慢性反復的トラウマが固定化(固着)すると、「解離性障害」や「身体化障害(身体表現性障害)」、「疼痛」や「不定愁訴」などの症状に加え、一定数が「ボーダーライン(境界性人格障害/パーソナリティ障害)」などの「人格障害(パーソナリティ障害)」のかたちをとること、ウ)「攻撃防御の機能不全」「悦刺激性」による怒りを自分に向けるのが、リストカット、OD(大量服薬)、過食嘔吐などの自傷行為であること、エ)その自傷行為が、トラウマ体験の「再演」として示されるのが「性的自傷」であること、オ)アルコール依存や薬物依存は、(C-)PTSDの覚醒亢進(過覚醒)状態における自己投薬であることを理解することができる。142
 日本でもっとも遅れている分野のひとつといえるのが、このa)マインド・コントロール手法のひとつの「型」といえる「グルーミング」「エントラップメント」「ラブボミング」を仕掛けた性暴力に、b)暴力的(凌辱的、残虐的)なサディスティックな性的行為があり、c)b)が長期間(あるいは一定期間)、慢性反復的(常態的、日常的)に繰り返されてきた被害者が、自ら中毒・依存的に、暴力的、凌辱的、残虐的なサディスティックな性的行為を求めることに対する治療、つまり、「性的自傷」に対する治療である。143
 もっとも重要な理解は、自ら中毒的(依存的)に「暴力的(凌辱的、残虐的)なサディスティックな性的行為」を求めてしまう行動は、「5-③」で示しているように、脳の働きの特性、つまり、「βエルドルフィン」の働きによるものであり、自分の意志ではコントロールできないということである。144
 例えば、長く常用していた薬は、いきなり薬を止めるのではなく、少しずつ使用料を減らしていく(減薬)のと同様に、強烈な性的な刺激を求める脳に対し、時間をかけて、性的な刺激の強度を少しずつ下げていくことで、強烈な刺激を求め難くする脳につくり替えることが重要となる。145
 しかし、日本の医師、カウンセラーなど治療者の多くは、この視点に欠け、結果、性暴力の後遺症としてのPTSD、うつ病、パニック障害、解離性障害などに対する治療とは別に、「再演」「性的自傷」に対するアプローチ、薬物に対する依存治療、加えて、マインド・コントロールを解く治療が必要となることを理解していない。146


20240914
(改訂版)20140925
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