『二階堂家物語』について

ずっと見たいと思っていた『二階堂家物語』。やっとレンタルで見られるようになりました。

個人的には「奈良」という土地の持つ古代から連綿と続く神秘さ、海がなく山に囲まれた土地の神秘さと陰鬱さ(地元の方に失礼だったらすみません)は、まさに「やまとしうるわし」き奈良。
他の地方にはない魅力と、他を寄せ付けない気高さがあると思っています。

本作もそうした奈良の趣が作品の魅力を倍増した作品であるといえます。
山に囲まれた天理の地、田んぼと山の共存。
私も盆地出身なので、懐かしさを覚えるような風景です。

以下、本作の内容に触れます。

二階堂家という、お仏壇には江戸時代からの代々の先祖がすべて記された過去帳が供えられ、現在も会社を経営する=地方の名士である旧家をめぐる親子3代の話です。
主人公は加藤雅也さん演じる二階堂辰也。
妻との間に息子と由子という2人の子供をもうけるものの、後継者になるはずの息子は亡くなっており、それにより妻は二階堂家に嫌気がさし、娘を連れて東京に去ります。娘は東京暮らしに嫌気がさして奈良に帰ってきたという設定で、石橋静河さん演じる由子。あとから見ると嫌気がさしただけではなく恋人がいたから帰ってきたのかなとも思える様子。
「ご先祖様に申し訳ない」と後継者を生すことに精魂をかたむける白川和子さん演じる辰也の母、ハル。

ハルの目下のもくろみは、辰也に再婚させて男の子を設けさせること。
実際にある女性に話をつけています。
その女性は辰也のことを昔から好きだった様子ですが、辰也にはその気がなく、むしろ辰也は秘書に心惹かれて、関係を持ちます。
一方、ハルのもうひとつのもくろみは由子に婿養子をとること。婿養子のターゲットは、由子の幼なじみであり、辰也の会社につとめる町田啓太さん演じる多田洋輔。洋輔にそのことを匂わせ、たきつけます。

結果的には、秘書は子を持てないことを理由に辰也の元を去ります。
共寝のあとに添いながら、辰也から自分たちの間に生まれる男の子の話をされたときに目尻に流れた涙の後が光る場面は圧巻です。
子を持てない、と言われたときに、引き留められなかったにも関わらず、
どうしてもその秘書に執着してしまう辰也の姿にほろ苦さを感じます。

一方、洋輔もまた、由子への思いや、二階堂家の跡取りになりたい野望(があると私はとりました)を抱えつつ、由子がほかに恋人(しかも外国人。自分のほうがふさわしいという思いがあるはず)がいること、自分の父と辰也が衝突することなどの鬱屈を抱え、由子に怒りと嫉妬がない交ぜになった思いをぶつけます。ここの町田さんは圧巻。町田さんて中学聖日記でも思いましたが、怒りと嫉妬がない交ぜになる、という演技をさせるとピカイチなのではないでしょうか。

結局ハルは由子が外国人の彼を連れてきたことにショックを受け、それをきっかけに亡くなります。

それを機に、辰也はハルが話をつけていた女性と関係を持ち、由子は外国人の彼と別れて、辰也に「好きでもない人と結婚する必要はない。自分が、好きで婿養子になってくれる人を探すから」と伝えるところでラストを迎えます。

このラスト。
ふたりは二階堂家の蔵の整理をしています。
蔵の中の遺物、ひな人形…。
連綿と続く二階堂家を象徴するものたちです。
辰也は由子を思って自分が後継者を生す道を選び、由子は由子で辰也を思って外国人の彼と別れる道を選択しているわけですが、ふたりの選択が合致しているところとして、さんざん憎み、足かせに思っていた「二階堂家」を選んでいる、というところに大きく胸動かされます。
そして洋輔も含め、心理的にも物理的にもそう広くはない地元で
生きていかざるを得ないのです。

私も全くたいした家でもないにも関わらず(おじいちゃん、おばあちゃんごめん)、一人娘だったばっかりに、婿をとれと言われて大きくなりました。
私のまわりの一人娘、姉妹ばかりの家は多かれ少なかれそう言われて
育っており、高校時代など、そうしたことについて語り合った記憶なども
あります。
家が古い、とか大きいとか、歴史がある、とかそういう問題とは別個の問題で、名字を残していかないといけないというプレッシャーのようなものが、
まだまだ地方には残っている、そうした自分や友人たちの来し方、
そして、今もなおそうした問題と直面する人たちがいるであろうことを思い出させるような作品でした。
本作は、イランの若手監督であるアイダ・パナハンデさんが監督した作品でもあります。
旧家に、そして地方に生まれ、生き、関わり、とらわれる女性たちの物語を丁寧に紡いだ作品であるともいえます。

奈良の、美しく、そして陰鬱な雰囲気が見る者にまで伝わり、
音楽も美しい作品です。

今まで全く見る手段がなかったので、今年のなら国際映画祭で上映されると知ったときには、真剣に奈良に行きたいと思いましたが、配信の形で見られるようになって本当によかった。
レンタル期間中にもう一度振り返って見てみたいと思います。

#二階堂家物語 #加藤雅也 #石橋静河 #町田啓太 #なら国際映画祭


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