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心の剣(つるぎ)

                           雨。
意図的に置かれたその石に向かって今日も祈る……。
父が好きだったマイルドセブンはもうない。
傘を顎と肩で挟み、ポッケからライターとその煙草を取り出し、火をつける。
目線は無意味にその石に向き、何も考えず、雑味の無い時間を少しすごす。

その無意味な石に手を合わせる自分を俯瞰し、何か趣深さを感じ、それに浸る。
煙草の長さが半分になると、いつも通り、香炉に残った半分をおもむろに置く。
「半分やるよ。」
目を落とし、少し細めて口を開く。
煙草の火がなくなり終えるのを見て、その煙草の残りを取り上げ、その場から去る。
「傘は、もういらないよな……。」

雲の間に間から抜けてくる、夕日が顔を赤らめさせる。
少しも動揺せずに表情も変えない。
「俺は大丈夫。」口ずさむ。



                           夢。
俺は最近毎日夢を見る。解像度の良すぎる夢。毎回続きから始まる夢。



                         受験
「おい夢現!!夢現ってばぁ、昨日の、模試どうだったったか?つって聞いてんだよ!!」
金髪のアホ面がそう聞く。
「え?あぁ。まぁ普通にb判定かな??」
「マジかよww〜俺はDだっつーのやるなぁお前は。」
俺は、見栄を張る。そうでないと自我を保ってられない。無能な自分を真正面から見れば、その日俺は発狂してどこかに消えていってしまうだろう。そんなにも弱い人間。成績の欄には、上弦の月。
     
             夢現 排世(ゆうげん はいせ)
父はもう死んだ。過労で。母は俺が浪人した時に、滑り止めの大学に行かない。どうしても、親元を離れてでも都会の良い有名大学に行く。と言いはって、それっきりもう受験の話はしていない。

「親が、子供の進路を狭めんなよ、そんなこと
するなら、子供なんて作るなよ。」

母は寝たっきり。自分が予備校に行っている間に生活している痕跡は見られる。
たまに話す時に吐く、俺の「バイトしろよ」とか、「飯作ってくれよ。」を聞く度に口喧嘩する。俺は母に対して、いや頑張れていない人間に対してはとてもきつく当たってしまう。自分が頑張っているという自負があるからなのだろう。

                          転機
俺はいつも通り授業が終わり、友達に別れを告げて帰りの電車に乗る。俺の家はド田舎にあり、帰るバスは22時で終わる。そして、バス停からも更に10分ほど歩く。ビニールハウスが両脇にある道路を通って帰る。そのビニールハウスには何よけか分からないが、いつもラジオが流れている。
「ザザっ。さて今日は夢についてです!!!夢ってね、この世界とはまた違う平行世界なんですよね。そして、その平行世界があることを起点に交わるんです。そうしたら、夢が現実に、そう、正夢という事象が起こるのです。これは平安時代から、、、、 」
そう、このように、いつも迷信チックなことが流れるラジオだ。昨日は人間の自意識の可否、一昨日は、宇宙からの生命体の話。農業がこの世の神秘と繋がる職業なのを示唆しているのだろうか、、、
そのラジオの真横を通るその瞬間、風鈴の音が聞こえた。今は冬で、この張りつめた寒さに、風鈴はとても耳を劈く。嫌な感じはしないが、季節の違和感によって不気味に感じて、少し早足になって家に帰る。
帰ってみると、母は
「息が苦しい。あぁ死にそう。はっはっはっはっはっ」さすがの俺も、
「おかん!どうしたん!大丈夫?しんどいんか??」
「ごめんなぁこんなか弱な親で、、、」
この言葉が心を劈く。
母が落ち着いて、眠りについたあと、風呂を入っている時にとてつもない罪悪感に苛まれ、発狂しそうになった。でも、発狂すると、母にも影響が及んでしまうので、心に留めた。

                           夢

寝床についても、母が明日死んでしまうのでは、という恐怖で、眠りに付けなかった。


「おい、ゆうげん。起きろ。」
声が聞こえる。目を開けてみると、朝日が目の中に差し込んだ。
森の中にある、大きな穴のような海溝のほとりにいた。
「起きたかよ。待ったよ。まったく。お前ここに来てしまったのかよ。」
少しの沈黙の後、
「お前たしか、こうた、だよな。」
こいつはこうたで、受験に失敗した帰りに、線路に飛び込んで自殺した、俺の幼稚園からの親友だったやつだ。
「え?俺死んだのか??」そうこうたが言う。
「お前、ニュースになってたぞ。」
「嘘つけよぉー俺今生きてるもん!!まぁずっと2次元に逃げたいとは思ってたけど〜w」
こいつと会話しても話がこんがらがりそうなので、一旦整理して見る。

俺は死んだのか?死について1度哲学する必要があるのか?これは?
この世界はなんだ?
全ての感覚はある。
そしてその次の瞬間、その穴の方からとてつもない寒けを感じた。これは霊感か?第六感までも感じる??
そしてそう考えている次の瞬間こうたが思いっきり俺の事をその穴に突き飛ばした。
「は???ふざけんなお前!!!何してんだよ!!!」
こうたは何も答えず、そして、俺と目を合わせず、悲しげな表情で俺が溝に落ちていくのを見送った。

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