中野亜里・川根眞也の事実婚裁判「夫婦同姓を強制する現行の婚姻制度は、婚姻が「両性の合意のみ」に基づいて成立し、「夫婦が同等の権利を有することを基本とする」とする憲法 2 4条1項に反している」2023年7月14日 神戸地裁215法廷

 「選択的夫婦別姓制度」はすでに1991年に法制審議会で導入検討が始まっていました。川根と中野亜里とは、この年1991年に事実婚カップルとして、共同生活を始めたのでした(結婚パーティーを1991年1月27日開催)。

中野亜里&川根眞也 結婚パーティー 1991年1月27日

 それから、30年、自民党、公明党、他のサボタージュにより、「選択的夫婦別姓制度」の法制化は放置されてきました。川根と中野亜里とは、お互いの姓を大切にし、また、実利の面で、結婚までの姓を大切にしてきました。ハードな事実婚を選択しました。特に中野亜里は、結婚パーティーまでに、すでに日本国際政治学会員、アジア政経学会員でした。また、この時点までに4 冊の本を著していました。

遺作となった、中野亜里訳 フイ・ドゥック著『ベトナム・ドイモイと権力』めこん

 1991年以降、「選択的夫婦別姓制度」ができていれば、私たちは間違いなく、別姓を選んだでしょう。夫婦のままで。

 今回の遺産相続をめぐる訴訟を起こされたのは、日本に「選択的夫婦別姓制度」が30年経っても法制化されていないことが原因です。

 本日、中野亜里・川根眞也の事実婚裁判の第6回口頭弁論が神戸地裁215で開かれます。2023年7月14日(金)10時30分開廷。

 夫婦の一方に氏の変更を強制することとなる現在の法律婚制度は、「両性の合意のみ」によって成立するとし、「夫婦が同等の権利を有することを基本とする」ことを定める憲法24条1項に違反する、主張します。

 以下、被告 川根眞也の第6準備書面です。

令和4年(ワ)第3 8 8号 不当利得返還請求事件
原告中野〇〇
被告川根眞也
準備書面(6)

2 0 2 3〔令和5 ]年7月10日
神戸地方裁判所第4民事部1係 御中

被告訴訟代理人弁護士
紀藤正樹

白倉典武
 
第1 はじめに
被告と亡亞里は、1991年1月27日に婚姻して以来、亡亞里が亡くなった2 0 2 I〔令和3〕年1月9日までの3 0年間以上にわたり夫婦として生活を送ってきた。二人は、それぞれのキャリアなどを尊重し、夫婦別姓を維持するために事実婚を余儀なくされた。
夫婦同姓を強制する現行の婚姻制度は、婚姻が「両性の合意のみ」に基づいて成立し、「夫婦が同等の権利を有することを基本とする」とする憲法 2 4条1項に反している。また、夫婦別姓の夫婦について、婚姻関係を保護するにふさわしい効果を付与しないという点において個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚しているとはいえず憲法2 4条2項に違反している。
そうすると、民法のその他諸規定を合憲的に解釈し、遺言書の効力を認める、死因贈与としての効力を認める、あるいは死別についても財産分与規定を類推適用することにより、夫婦別姓の事実婚夫婦について、憲法の要請にしたがった婚姻にふさわしい効果を付与することにより、事案の解決を図ることが求められるといわねばならない。
第2 夫婦別姓を認めない法律婚制度は憲法違反であること
1  合憲性について厳格審査の対象であること
合憲性の判断にあたって、憲法13条において認められる人権(人格的自律説のように、その保障される人権の範囲を限定する学説の場合。ここで想定されるのは、仮に、憲法13条全体について一般的自由権説を採ったとしても、生命権、身体的自由、人格権に属するものである)や憲法1 4条1項後段列挙事由について厳格に審査すべきとの考えについて異論はないといってよい。憲法2 4条2項は、婚姻や家族に関する事項について 「個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して」法を制定しなければならないとする。個人の尊厳について定める憲法13条と、性別による差別を禁止する14条1項後段に関する現在有力な解釈を踏まえれば、憲法2 4条についても合憲性の判断は厳格に行わなければならない。

2        夫婦同姓を強制する法律婚制度は憲法24条1項に反すること
「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本」とするのである。したがって、夫婦の一方に氏の変更を強制することとなる現在の法律婚制度は、「両性の合意のみ」によって成立するとし、「夫婦が同等の権利を有することを基本とする」ことを定める憲法24条1項に違反する。
夫婦の一方に氏の変更を強制して、婚姻の届出について「夫婦同姓」を要件とすることは、婚姻が「合意のみ」によって成立するとする憲法2 4 条1項に反して別の要件を付加するものであり違憲である。
また、夫婦の一方に氏の変更を強制することは「夫婦が同等の権利を有する」ことに反するというべきである。

3        夫婦同姓を強制する法律婚制度は憲法24条2項に反すること

⑴ 最高裁平成2 7年12月16日判決が述べる同姓を強制する合理性
この判決は、夫婦同姓の合理性について次の点を上げる。
①氏は,家族の呼称としての意義があるところ,現行の民法の下においても,家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位と捉えられ,その呼称を一つに定めることには合理性が認められる。
②夫婦が同一の氏を称することは,上記の家族というーつの集団を構成する一員であることを,対外的に公示し,識別する機能を有している。特に,婚姻の重要な効果として夫婦間の子が夫婦の共同親権に服する嫡出子となるということがあるところ,嫡出子であることを示すために子が両親双方と同氏である仕組みを確保することにも一定の意義があると考えられる。
③家族を構成する個人が,同一の氏を称することにより家族という一つの集団を構成する一員であることを実感することに意義を見いだす考え方も理解できるところである。
④ 夫婦同氏制の下においては,子の立場として,いずれの親とも等しく氏を同じくすることにより利益を享受しやすいといえる。

(2)上記①の理由について
そもそも、この最高裁判決も認めるとおり、夫婦同姓が強制されることとなったのは、旧民法が施行された明治31年のことである。夫婦が別姓の時代でも、家族に関する認識が夫婦同姓制度を導入することにより変わったとは考えられないから、夫婦同姓制度が導入される以前から家族が自然的かつ基礎的な集団単位と捉えられていたはずである。明治維新以前に遡っても、そもそも夫婦同姓(夫婦同氏)は日本の伝統とは到底いうことができない。
夫婦同姓を強制することは、氏という人格権あるいは人格的利益を侵害することとなり、また、事実上両性の本質的平等に反するものである。それ故、この点は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して定められなければならない婚姻や家族に関する事項について合理性を認める理由にはならない。

⑶上記②について
次に最高裁が理由とするところは、対外的な公示ないし識別機能である。特に嫡出子であることを示すために子が両親双方と同氏である仕組みを確保することにも一定の意義があるとする。
しかしながら、これは、夫婦同姓を前提とする議論であって結論をもって理由とするものである。つまり、夫婦同姓制度を前提とするが故に、同じ氏である場合には家族であることが分かり、あるいは両親の同じ氏であることをもって嫡出子であることが示されることになる。令和3年 6月2 3日最高裁判決における草野反対意見も「夫婦別氏とすることが子にもたらす福利の減少の多くは,夫婦同氏が社会のスタンダード(標準)となっていることを前提とするものである。」と指摘するところである。夫婦が同姓でなくとも家族であることを前提とする制度として必要があれば別途公示ないし識別する仕組みを確保すれば足りる。また、現状でも同姓であったとしても家族ではない場合は多数存在するのであり、この公示ないし識別機能は極めて限定的な意味しかもたない。また、この前提には、嫡出子と非嫡出子では姓に関するルールが異なること、非嫡出子として出生することに伴う様々な不利益から嫡出性の徴標を示したいという動機があるのであって、要は非嫡出子差別を是認することで成り立つ制度なのであり、民法9 0 0条4号但書も違憲とされた現在、夫婦同姓制度をさほど当然と考えることはできないものである。
そうすると、このような機能を強調して、夫婦同姓を強制することにより憲法上の利益を侵害することを許容する根拠とはならない。

(4)上記③について
「同一の氏を称することにより家族という—の集団を構成する一員であることを実感することに意義を見いだす考え方も理解できるところである。」との理由に至っては、このような意義を全国民に強制することは到底容認されるものではない。氏が同一であるか否かにかかわらず 家族としての一体性を実感することはできるのであり、なんらの合理性もない理由である。仮にそうであれば、親族の中でも婚姻により姓が変更された者との間では一体感が薄れるべきものと述べたのも同然である。また、法制度が夫婦同姓以外の法律婚を認めない結果、被告のような、事実婚を選択する例は非常に多いのであり、もし、その考え方の通りであるとすれば、頑なな法制度が夫婦や家族の一体感を消し去り、日本全体としてもそうしている矛盾を作り出していると言えよう。

⑸上記④について
「夫婦同氏制の下においては,子の立場として,いずれの親とも等しく氏を同じくすることによる利益を享受しやすいといえる。」との理由もまた何らの合理性もない。この考えは、親子の自然の情愛から親子法の基礎が成り立っていることを忘れている。氏が同じかどうかは二の次である。
夫婦別姓であった場合に、同姓の場合と比較して子に不利益があることを具体的に摘示できないのであり、そこに差がないことは明らかである。

第3 夫婦別姓についての国際的動向について

夫婦別姓に関する国際的動向については、最高裁令和3年6月2 3日判決の三浦守補足意見や宮崎•宇賀反対意見が詳しく述べている。例えば、 三浦意見は、次にように女性差別撤廃条約の締約国中、夫婦同姓を婚姻の要件としている国は我が国おいてほかにないことを指摘している。なお、 内閣府男女共同参画局のホームページによれば、2 0 2 1〔令和3〕年2 月現在の女性差別撤廃条約締約国は189か国にのぼり、三浦意見に基づけば、日本は、この中で唯一、婚姻にあたって夫婦同姓を要件としている国ということである。
国際的な動向をみると,昭和5 4年に採択され,昭和6 0年に我が国も批准した「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」 (昭和6 0年条約第7号。以下「女子差別撤廃条約」という。)は,締約国に対し,いわゆる間接差別を含め,女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃を義務付け(1条,2条),自由かつ完全な合意のみにより婚姻をする同一の権利並びに姓を選択する権利を含む夫及び妻の同一の個人的権利について,女性に対する差別の撤廃を義務付けている(1 6条1項(b), (g))oそして,女子差別撤廃委員会は,一般勧告において,各パートナーは,自己の姓を選択する権利を有し,法又は慣習により,婚姻に際して自己の姓の変更を強制される場合には,女性は,その権利を否定されているものとし,さらに,我が国の定期報告に関する最終見解において,繰り返し,女性が婚姻前の姓を使用し続けられるように法律の規定を改正することを勧告している。
昭和2 2年当時は,夫婦が同一の姓を称する制度を定める国も少なくなかったが,その後,女子差別撤廃条約の採択及び発効等を経て,現在,同条約に加盟する国で,夫婦に同一の姓を義務付ける制度を採っている国は,我が国のほかには見当たらない。
そして、国内法化された条約は法律の上位法であるというのが圧倒的通説であり、民法や戸籍法の規定は、憲法だけでなく、女子差別撤廃条約に反することができない。裁判所は、特に安保•防衛問題などの統治行為論的な問題がない限り、「上位法は下位法を破る」との公理に基づき、法令の、条約不適合性を宣言すべきである。

第4  選択的夫婦別性についての社会的許容について

法制審議会では、1991〔平成3〕年から婚姻制度等の見直しについて審議を始め、1 9 9 5〔平成7〕年9月に中間報告を行っている。中間報告では、選択的夫婦別姓について「導入すべきであるとする意見が大半を占め、消極意見はごく少数にとどまっている。」とされている(婚姻制度等の見直し審議に関する中間報告の説明4頁)。

また、国民の意識調査も数多く行われているが、多くは、選択的夫婦別姓導入について積極意見が多数を占めている。例えば、2 0 2 0〔令和2〕 年11月18日に公表された早稲田大学棚村研究所ほかの合同調査によれば、①「自分は夫婦別姓が選べるとよい。他の夫婦は同姓でも別姓でも構わない。」、②「自分は夫婦同姓がよい。他の夫婦は同姓でも別姓でも構わない。」、③「自分は夫婦同姓がよい。他の夫婦も同姓であるべきだ。」、④ 「その他、わからない」の選択肢の中から選択した場合、①と②を選択した者が全体の7割を超えるとの結果が出ている。特に、実際に婚姻を考える世代である2 0から3 0代の女性では①と②を選択した者は8割を超える。

なお、内閣府が行った2 0 2I〔令和3〕年12月調査を援用して、夫婦別姓に消極的な意見が多数であるとする見解もある。しかしながら、この内閣府の調査では、選択肢は、①「現在の制度である夫婦同姓制度を維持した方がよい」、②「現在の制度である夫婦同姓制度を維持した上で、旧姓の通称使用についての法制度を設けた方がよい」、③「選択的夫婦別姓制度を導入した方がよい」、④「無回答」の4つであり、このうちから一つを選択するものとされている。そもそも、選択肢②の後半部分である「旧姓の通称使用についての法制度を設けた方がよい」は、全面的夫婦同姓制度 (現行の制度)とも、選択的夫婦別姓制度にも結びつきうるものであり、選択肢として適切であるとは言えない。さらに、棚村研究室の選択肢とは異なり日常の言葉でもって説明された選択肢ではない。また、問い掛けが、あるべき法制度を問うものというより、あなたがどの制度を望むかのような印象のものであり、この点でも適切とは言えない。補足すれば、我が国においては、その国民性からよく分からない場合には「真ん中の選択肢」を選択するか、現状維持を選択する傾向があることも指摘されている中で、 意図的に多くの人が選択的夫婦別姓制度という選択肢を選ばないように誘導したきらいがあり、調査として適切ではないのである。

加えて、この2 0 21〔令和3〕年に行われた意識調査では、選択的夫婦別姓に賛成する回答が前回よりも減っている。これは、選択肢の作り方に問題があることが指摘されている。前回までの選択肢は、①「選択的夫 婦別姓制度の導入は不要(婚姻をする以上、夫婦は必ず同じ名字を名乗るべきであり、現在の法律を改める必要はない)」、②「選択的夫婦別姓制度の導入に賛成(夫婦が婚姻前の名字を名乗ることを希望している場合には、夫婦がそれぞれ婚姻前の名字を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない)」、③「選択的夫婦別姓は不要だが、旧姓の通称使用に賛成(夫婦が婚姻前の名字を名乗ることを希望していても、夫婦は必ず同じ名字を名乗るべきだが、婚姻によって名字を改めた人が婚姻前の名字を通称としてどこでも使えるように法律を改めることについては、かまわない)」であった。これと比較して明らかに意味が分かり辛いことが指摘されている。

このように、2 0 2 1〔令和3〕年の内閣府調査は参照されるべきものではない。

第5 同性婚に関する名古屋地方裁判所令和5年5月3 0日判決について

1 はじめに

2 0 2 3〔令和5〕年5月3 0日には名古屋地方裁判所が、同性婚に関する国家賠償訴訟について判決を言い渡した。名古屋地方裁判所は、同性婚を認めない民法等の諸規定は憲法2 4条2項及び14条1項に反し違憲であると判断した。この判決が、憲法2 4条2項に違反すると述べる内容については、本件において十分に参照されなければならない。

2 名古屋地裁2 0 2 3〔令和5〕年5月3 0日判決

この判決は、まず、憲法2 4条2項の、「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」との定めについて、夫婦別姓裁判大法廷判決を参照しながら、
婚姻及び家族に関する法制度を定めた法律の規定が憲法2 4条に適合するものとして是認される否かは、当該法制度の趣旨や同制度を採用することにより生ずる影響につき検討し、剛体規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるか否かという観点から判断すべきものと解するのが相当である。
として、「憲法2 4条2項は憲法上直接保障された権利とまではいえない人格的利益をも尊重すべきこと等についても十分に配慮した法律の制定を求めるものである。」旨指摘した(3 9から4 0頁)。その上で、憲法2 4条 1項について
婚姻をするかどうか、いつ誰と婚姻をするかについては、当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたものと解され、このような婚姻をするについての自由は、同項の規定の趣旨に照らし、十分に尊重に値するものと解することができる。(再婚禁止期間大法廷判決参照)
と述べた。そして、
上記の婚姻をするかについても自由は、同条2項を通じて、法律により具体化された法律婚制度を利用するについての自由であると解されるが、そのような法律婚制度を利用するについての自由が十分に尊重に値するものとされるべき所以は、婚姻の本質が、両当事者において永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むことにあり、法律婚制度が、その本質に重要な価値を認め、これを具体化し実現し保護しようとしたことにあるためであると解される。そして、このような本質的な人間の営みは、法律婚制度が整えられる以前から歴史上自生的に生じたものと考えられる。したがって法律婚制度を利用するについての自由が十分尊重に値するとされる背景にある価値は、人の尊厳に由来するものということとができ、重要な人格的利益であるということができる(4 0頁)。
このような重要な人格的利益を実現するために制度化された法律婚制度は、…多彩な効果において、とりわけ重要なのは、両当事者が安定して永続的な共同生活を営むために、両当事者の関係が正当なものであるとして社会的に承認されることが欠かせないということである。それゆえに法律婚制度には、様々な効果が付与されるにとどまらず、身分関係を公に認め、これを公示し公証する制度が結びつけられているものと解されるのである。(41頁)
そうすると、永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むという重要な人格的利益を実現する上では、両当事者が正当な関係であると公証され、その関係を保護するのにふさわしい効果の付与を受けるための枠組みが与えられる利益が極めて重要な意義を有すると解されるのであり、単に、両当事者が共同生活を営むのを妨げられなければ事足りるとされるものではないというべきである。
両当事者の関係が国の制度により公証され、その関係を保護するのにふさわしい効果の付与を受けるべき重要な人格的利益であると解される(4I頁)。
••・永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもつて共同生活を営もうとする同性カップルにおいて、婚姻に伴う個々の法的効果が付与されないのみならず、その関係が国の制度によって公証されず、その関係を保護するのにふさわしい効果の付与を受けるための枠組みすらも与えられない不利益は甚大のものである。
したがって、本件諸規定は、同性カップルに対して、その関係を国の制度によって公証し、その関係を保護するにふさわしい効果を付与するための枠組みすら与えていないという限度で、憲法2 4条2項に違反するものである。

3 名古屋地裁判決の意味

名古屋地裁判決は、婚姻の本質について「両当事者が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むところにある」としている。これは最高裁判所昭和6 2年9月2日大法廷判決においても述べられているところである。そして、名古屋地方裁判所は、この婚姻の本質について「重要な人格的利益」であるとしている。そして、この「重要な人格的利益を実現する上で両当事者が正当な関係であると公証され、その関係を保護するにふさわしい効果の付与を受けるための枠組みが与えられる利益が極めて重要な意義を有する」のであり「両当事者の関係 が国の制度により公証され、その関係を保護するにふさわしい効果の付与を受けるべき重要な人格的利益である」としている。
すなわち、永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営もうとしている両当事者について、国の制度によってその関係を公証し、その関係を保護するにふさわしい効果を与えないことは憲法2 4条2項に違反すると述べているのである。
夫婦別姓の夫婦もまた、「両当事者が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営む」者たちである。そして、夫婦別姓を選択する事実婚夫婦に対して、国の制度によって公証せず、その関係を保護するにふさわしい効果を付与しないことは、「個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して」いないものとして憲法2 4条2項に違反すると考えなければならない。同性の事実婚について法律上の夫婦に匹敵する権利保障がなされるのであれば、異性の夫婦別姓夫婦についても、同性の夫婦に対して国の制度によって公証しその関係を保護するにふさわしい効果 を付与すべきことが求められることと、同様であると考えなければならない。本件の異性の夫婦別姓夫婦が法律婚を選択しなかったのは、それぞれのキャリアを尊重し、それぞれの人格を尊重しあえばそれしかなかったからのものであり、同性の事実婚と同様、国の定めた狭い制度によるやむにやまれぬことなのである。
名古屋地方裁判所の判決は、このようなものとして理解すべきなのである。
第6 まとめ
上記のとおり、夫婦同姓を強制する民法7 5 0条は憲法24条1項、2 4条2項に反し違憲である。同性婚に関する名古屋地裁判決の憲法2 4条2項に関する判断部分は、夫婦同姓を強制する民法7 5 0条についても該当するものである。国際的動向や我が国の社会情勢を見ても、夫婦の権利利益を侵害して夫婦同姓を強制する制度を許容することはできない。
被告と亡亞里は、憲法に違反する婚姻制度によって、互いのキャリアについて断絶を避け、あるいはアイデンティティを守るために夫婦別姓を維持するために事実婚を選択せざるをえなかった。我が国の婚姻制度は夫婦同姓を強制するものであったから、被告と亡亞里は事実婚を選択せざるを得なかったのである。
被告と亡亞里はやむなく事実婚を選択した関係であったから、亡亞里が亡くなる直前に残った体力を振り絞って書き記した本件遺言書には、被告に対して配偶者としてふさわしい地位を与えようとする意思が表れていることは明らかである。
また、違憲の法律婚制度の故にやむなく事実婚を選択した被告と亡亞里には、夫婦としての関係を保護するにふさわしい効果を付与されることが求められる。そうすると、少なくとも本件においては民法7 5 0条を適用違憲とし、亡亞里が作成した遺言書を有効とすることにより、あるいは死因贈与契約であるとすることにより、あるいは民法7 2 8条(財産分与規定)を類推適用することにより、被告と亡亞里に対して夫婦としての関係を保護するにふさわしい効果を付与し、憲法に適合するよう解決を図ることが求められるといわねばならない。
以上

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?