見出し画像

お月見どろぼう

この辺りでは仲秋の名月の夜、子供たちがお菓子の泥棒にくる、と聞いた。
月の見える場所にお菓子を置いておくと、子供たちがこっそり取っていくそうだ。
もともとは日が暮れてから月にお供えしている里芋をススキに刺して盗んでいくからどろぼうさん。今は日暮れまでにお菓子をとっていくらしい。

面白い事に、私の子供の頃いた岐阜にも同じ行事がある。
これは「おひなさま」と言われていて、3月3日に行う。
小学生以下の子は、速攻で家に帰りビニール袋を持って各戸を回る。
「おひなさま見せてください」
こう言って玄関に入れてもらうと、土間か、新築でも玄関に面した和室がある造りなのでそこに見事な雛飾りが飾ってあった。

雛飾りにそれほど興味がなかった私でも、「キレイ」と言って一通り眺める。そしてお菓子をいただいて次へ行く。

日暮れまでの限られた時間だけど、高学年にもなると半年分くらいのお菓子は集めていた。稀にある100円クラスのお菓子をくれる素敵なお家は、自宅から結構遠い場所だったので一度しか手に入れれなかった記憶。

中学生になると、今度はお菓子を渡す側になる。
「ゆっくり見ていってね」
と言って、人数分用意するのだ。

お雛飾りのなかった我が家は、「うちはお雛様ないの。ゴメンね」も言っておく。

今は少子化でそもそも子供がおらず、子供のいる家庭同士でやっていると聞いた。かなり残念だ。あれは一生の記憶に残る土地の行事だった。
行ったことのない土地へ行き、道を覚え、そこの方達と言葉を交わす。
初めは上級生に連れられて。今度は自分達が連れて行く。

ここ奈良も、この辺りだけの行事だと言われた。
そもそも新興住宅地なのだけど、なんでも古来から(神武天皇と長髄彦の戦いの頃以前!)この山あいに住んでる方達の行事だったのを面白い!と取り入れたそうである。
山間部と違い回収率が高いこの住宅地は、楽勝だろうな。
なんて思いながら私も用意した。

一体おいくらくらいのお菓子が妥当か皆目見当がつかなかったので、78円から30円くらいまで色々買って並べてみた。
結果、78円から飛ぶように消えた。お目が高い。

顔は見えない小窓から声を聞く。

「ウオっ、めっちゃいいやん!!」  (!!💖)
「どれにする?どれにする?」

ルールは1人一個だそうで、これは100%守られている感じだった。
更に嬉しかったのは、全員、誰もいないのに
「ありがとうございます」
と言って去っていったこと!

結局我が子に追加買い出しに行ってもらったりで3回追加した。
日もとっぷり暮れたので、そろそろ引き上げかな、と玄関に出たら自転車の音がした。姿が見えたら取りにくいだろうと思って隠れてみたら、通り過ぎようとした自転車が急ブレーキをかけ、「あった!」と言っている。
もうみんな片付けてるんだろうな、良かった、しばらく置いておいて。
なんて思いながら隠れていたら、「ありがとうございました!」と言って数人の男子が自転車に乗って走り出した。

「あー!小学生の頃思い出すなあ!」

、、、って、アンタ中学生かよ!!

自分が中学生になった時、あの行事に2度と参加できない淋しさを感じていたのをそっと思い出して、来年も遅くまで出しおこうって思った。
空は冴え渡る満月。
何百年かもっとか、きっとこの辺りの子の心に映る仲秋の名月は一生ものなんだろうと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?