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クトゥルフ神話TRPGのシナリオの文章を書くときに気をつけていること③ 文章のキソ・キホン


三度目まして、因幡脩と申します。
これまで第一回、第二回と、それぞれひとつのテーマについてだらだらと記事を書き綴ってきました。
要約すると「読者の想定が大事だよ」ということなんですが……。
今回は目先を変えて、文章を書くうえでの基本的なコツというか、タイトルどおり自分が心がけていることについて、いくつか紹介してみようかなと思います。
「キソ・キホン」なんて大げさなタイトルをつけてしまいましたが、自分はプロの文筆家ではありませんし、ここに書かれていることが正解だというわけでもありません。
どこの鯖の骨かもわからないやつが何か言ってらぁ、くらいの感覚で、ご参考になりそうなところだけをつまみ食いしてください。

常体と敬体を混ぜない

まずはジャブからということで、基本的な事柄を。
「常体」というのは「~だ・である」という文体です。
それに対し、「敬体」というのは「~です・ます」という文体ですね。
これを混在させると、非常に違和感のある文章となってしまいます。
たとえば……

霜田はボックス席を確保しながら探索者を待っています。暖かい店内に人心地がついた探索者は、豊富なメニューに目移りするかもしれませんが、霜田は「ちょっと食欲がなくて」とホットコーヒーだけを注文する。普段通りの態度を装ってはいるが、やや憔悴しているように見えるだろう。その後は昼食を摂りながら他愛ない世間話が続くものの、霜田はどこか心ここにあらずといった様子で相槌を打つばかりです。食事がひと段落すると、霜田は探索者に相談を持ち掛けてくる。

違和感に気づきますか?

このように、リズムがガッタガタで読みづらくなります。
もともと丁寧なお人柄なのか、常体の中にひょこっと敬体が混じるシナリオをちょくちょく見かけるのですが、そこはグッとこらえて統一しましょう。
統一されていればよいので、常体にするか敬体にするかは好みです。
常体のほうが文字数が少なく済むのでスッキリとまとめられます。
公式シナリオなどは紙面の都合があるため、すべて常体ですね。
敬体だと、文字数はかさみますがフレンドリーかつ丁寧な印象になります。
内山靖二郎先生の個人サイト「ひきだしの中身」のシナリオは敬体で書かれていますね。
もちろん、この記事が敬体で書かれているのは、因幡が丁寧かつフレンドリーで親しみやすいお人柄だからです。
ちなみに小説などでは意図して混在させることもありますが、シナリオにおいてはそのようなレトリックは不要かと思います。

霜田はボックス席を確保しながら探索者を待っている。暖かい店内に人心地がついた探索者は、豊富なメニューに目移りするかもしれないが、霜田は「ちょっと食欲がなくて」とホットコーヒーだけを注文する。

【キーパーへのアドバイス】
このお店はステーキやハンバーグを売りにしています。探索者がボリューミーなメニューを注文した後に霜田の様子を描写することで、彼女の食欲のなさを強調できるでしょう。

これはOK

上は「本文」と「補足」という区分を明確にしている例です。
それぞれの区分内で常体と敬体を統一できていれば、混在した印象にはならず、読みにくさもありません。
「本文」と「引用」、「地の文」と「描写例」「プレイヤー資料」なども同様ですね。

一文を短くする

読みやすい文章を書くには、なんといっても「一文一意」を心掛けるということです。
つまり、一つの文につき言いたいことは一つだけにしろ、ということです。
日本語というものは便利な言葉で、その気になればいくらでも文と文を繋げることができます。
たとえば……

本シナリオに参加する探索者は、全員銀座・新橋界隈に居住していることを想定しているが、この物語は作家の永井荷風から依頼や相談を受けるところから始まるので、探索者の一人を探偵や新聞記者などの依頼を受けるにふさわしい職業にするか、もしくは探索者と永井をカフェー仲間であることにするとスムーズに導入することができるだろう。

これで一文です。

上の例は読点を入れているのでまだ読みやすいと思うのですが作者の伝えたいことをとにかく詰めこもうとしたんだろうなあというシナリオにはその思いが溢れるあまりに「一文一意」どころか一文に二意も三意も入れてしまっているような文章が並んでいる場合があって読み手は一読するだけでは意味が通じなくてなかなか理解にまでは至らないというケースもあってキーパーとしては……

言わんとすべきことはご理解いただけたのではないでしょうか。
特に注意しなければいけないのは、文と文を「が」で繋げるときです。
上の例でいうと「想定している、この物語は~」というあたりですね。

A:探索者はお腹が空いていたが、窓から雪が降っているのが見えた。
B:探索者はお腹が空いていたが、何も注文しなかった。

違いがわかりますか?

こうやって並べるとわかりやすいかもしれません。
Bの「が」は逆接ですね。
「お腹が空いていた」「しかし、何も注文しなかった」となって、すんなりと意味が通ります。
Aの「が」はどうでしょう。なんだかもやもやしませんか?
文と文を「が」で繋げると、読み手はまず逆接をイメージして、それから先を読み進めます。
それが逆接になっていないと読み手の予測が裏切られるため、「結局何が言いたいの?」という印象になってしまうのです。
書き手としては「~なんだけどさぁ、それが~」(単純接続)という程度の感覚で「が」を使用してしまいがちです。
ただ、読み手からすると冗長に感じられる原因になってしまうので、思い当たる節がある方はちょっと意識してみるといいかもしれませんね。

文章のねじれに気をつける

いやだいいやだい、一文の長さこそが俺の文体、筆力の証明だぜ!と思われる方がいるかもしれません。
それはそれでよいのですが、一文を長くした場合に気をつけなければならないのが「文章のねじれ」です。
たとえば……

日比谷神社とは、別名「鯖稲荷」とも呼ばれ、虫歯に苦しむ人が鯖を断って祈願すると霊験があるとされるため、その願いが成就した後は鯖を奉納するという習わしです。

口頭だとそれっぽく聞こえますが……

上の文章はどうでしょうか。それっぽく書けていますか?
では、文頭と文末だけを抜き出してみるとどうでしょうか。

日比谷神社とは、習わしです。

え? 神社って習わしなの?

やっぱりおかしいですよね。
一文を長くすると文章の構造が複雑化するため、書いているうちにその構造がねじれてきてしまうことがあります。
それを避けるには、書いた後で「主語と述語を抜き出してみる」とよいと思います。
なんとなく文法の授業みたいで、やーな感じですね。
だとしたら、やっぱり一文を短くした方が楽ですよ。
まあ、短くしても「推奨技能には〈目星〉〈聞き耳〉です」みたいにねじれることがあるので、結局は意識して違和感に気づくことなんですけどね。

同じ文末の連続を避ける

これについては「文章のねじれ」などとは違い、誤りというわけではありません、文章にテンポを与えて読みやすくするためのテクニックです。
……はい、単純接続の「が」ですね。書き直しましょう。

これについては「文章のねじれ」などとは違い、誤りというわけではありません。
文章にテンポを与えて読みやすくするためのテクニックです。
どういうことかというと……

本シナリオに参加する探索者は、全員銀座・新橋界隈の居住者である。また、この物語の導入は、作家の永井荷風からの依頼ないし相談を受けるというものである。探索者の一人を探偵や新聞記者などの依頼を受けるにふさわしい職業にするか、もしくは探索者と永井をカフェー仲間であることにすると、スムーズに導入することが可能である。

「である」ラッシュ!

どうでしょうか。
同じ文末が連続すると、なんとなく文章が一本調子になりますね。
因幡はシナリオを書く際、なるべく同じ文末が2回続かないように意識しています。
もちろん、難しい場合もあります
情景を描写するときなど、「~がある」とか「~している」といった文末が続いてしまうこともあるでしょう
ただ、文末を意識的するというのは、誰でも、すぐにでもできるテクニックかと思います。
“クトゥルフ神話TRPG”のシナリオだと「~だろう」「~かもしれない」みたいに明言を避けるような文末にすることが多いですね。
そうすることで、読み手に「おっ、なんとなく懐の広いシナリオなのかな?」という印象を与えることができます。
ちなみに、上の「あります」「あるでしょう」は、「あります」の連続を避けているところです。
ちょっと強引だったでしょうか。

「の」の連続を避ける

連続繋がりでいうと、因幡はどうしてもやむを得ない場合を除き、修飾の「の」は2回までにしたいと考えています。
どういうことかというと……

話の内容は、霜田の婚約者の氷上の最近の様子がおかしいというものだ。

の、の、の、の……

こういうことですね。
やっぱり3回「の」が続く文章は、読み手にやさしくないと思います。
したがって、「イスの偉大なる種族」などは、早々に「(以下“イス人”)」などとしてしまうのがよいですね(?)

二つの意味に受け取られやしないか?

これは、自分ではなかなか気をつけることが難しいので、因幡もやらかしていないと断言することができません。
どういうことかというと……

霜田は昨日様子のおかしくなった氷上と偶然出会った。

出会ったのはいつ?

いかがでしょうか。
霜田さんが氷上さんと偶然出会ったのは、昨日なのでしょうか?
それとも、氷上さんの様子がおかしくなったのが昨日なのでしょうか?
この場合は「霜田は昨日、」などと読点を入れてあげれば解決しそうです。

その追跡者に気づくためには、ハードの〈目星〉もしくは〈聞き耳〉に成功する必要がある。

7版では「ハード」(1/2でロールする)というルールがあります。

これはどうでしょう。
〈目星〉はハードでロールさせればよいことはわかりますが、では〈聞き耳〉はハードでしょうか、それともレギュラーでしょうか?
レギュラーを意図している場合、「〈聞き耳〉もしくはハードの〈目星〉に成功すれば」と技能を入れ替えるだけで解決しますよね。
こういった点は本人ではなかなか気づかないものです。
こまめに読点を入れるようにして、書き上げた後に意識して精読するか、あるいは誰かに読んでもらうとよいかもしれませんね。

代名詞に注意する

「これ」「あれ」「彼」「彼女」といった代名詞を使う場合にも注意が必要です。
文章中、特定の何かを代名詞によって言い換える場合、それが何を指しているのかを読み手がちゃんと理解できなければいけません。
たとえば……

ジェニーとナンシーは、ともにミスカトニック大学の二回生である。彼女はカスタードクリームをたっぷり使ったパイが大好きだった。

ジェニー? ナンシー?

この場合、「彼女」は誰のことを指すのでしょう。
ジェニー? ナンシー? どちらともとれそうですよね。

また、登場人物が「山田」「田中」だとしたらどうでしょう。
二人の性別がわからないから、「彼女」と言われてもどちらを指すのかわかりませんね。
代名詞は省略のために用いるわけですから、読者にとって「ご存じ!」という状況(それ以外に指すものが考えられない状況)のみに使うべきなんです。

もちろん、「シナリオをちゃんと読めば性別はわかるようになっている!」という見方もあるかもしれません。
でも、「ちゃんと読めばわかる」ということは、「一読しただけではわからない」ということであり、読者に負担をかけているということなんです。
ほとんどの場合、読み手はシナリオの頭から順番に読んでいきます。
代名詞に限りませんが、シナリオはできるだけその流れに沿ってきちんと意味が通じるように(シナリオの後ろまで読んで、また前に戻って……といったことにならないように)してあげるのが望ましいです。
それが難しい場合、(後述)とか(「8.イベント」参照)といった指示を入れて補ってあげると、読み手のストレスをかなり軽減できるかと思います。

階層を揃える

シナリオを書く際、章立てをしたり見出しをつけたりすることがほとんどかと思います。
その階層化のレベル感が揃っていないと、読者は混乱してしまいます。
たとえば……

■おにく
 ○ぎゅうにく
 ○ぶたにく
 ……
■おさかな
 ○まぐろ
 ○さば
 ……
■ばなな

ばなな!?

いかがでしょうか。ばななもずいぶん偉くなったものですね。
このように、大見出し、小見出しで階層化するのなら、それぞれの粒感がきちんと揃っていないと、読み手は違和感を覚えます。
大見出しで粒感が揃わないことはあまりないでしょうが、中見出しや小見出しといったところまで意識すると、美しい構成になるかと思います。

凡例を揃える

最後ですね。
同人シナリオを読んでいると、あるページでは「●」マークで補足が書かれていたかと思うと、次のページでは「■」マークが使われていて、別のページではフォントを変えて書かれていたかと思うと、別のページではフォントの色を変えていて……といった表記を目にします。
作者さんにとっては「行頭のマークなんてどうでもいいじゃん」「とにかく目立てばいいの!」という感じなのでしょうが、読み手にとってはそうではありません。
「●」と「■」で何か使い分けているのだろうか、フォントの色はそれぞれどういう意味なのだろうか……と、その違いを解釈しようとするからです。
意味に違いがないなら箇条書きには同じ記号を使い、必要であればシナリオの頭に凡例を入れるとよいですね。

ちなみに“クトゥルフ神話TRPG”のシナリオの場合、括弧の使い方は定められています。
〈技能名〉[計算式]《呪文関連》『魔道書や書籍など』“ゲーム用語”といった具合です。
これは暗黙の了解というわけではなく、ルールブックの冒頭に凡例が示されています。
したがって、それに沿ってシナリオを書くのであれば、わざわざシナリオ側で凡例を繰り返さなくてもよいのです。

いかがだったでしょうか。
インターネットでいくらでも出てきそうな記事であるうえ、だらだらと書き綴っていたら現時点で5,800字程度の長文となりました。
いったい誰が読むんだという内容ではありますが、何かの参考になりましたら幸いです。

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