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読書記録 |くもをさがす

普段から、店頭で気になった本はとりあえず図書館で検索する。話題のこの本は、予約待ち件数が半端なく、これでは私の手元に来るのは1年後くらいになりそう。そう思うと、ますます読みたくなるもの。気がついたら購入ボタンをポチッとしていました。

読み始めるまでは、表題にある「くも」は「雲」だと勝手に思っていたけれど、実際は「蜘蛛」。黄色い表紙をよく見ると、確かにいる。しかもけっこう大きく。真ん中に雲もあるけれど、エッセイの中に雲は出て来ないよなあ…少なくとも象徴的な感じでは…。

そうこれは、作家の西加奈子さんの小説ではなくエッセイで、著者が海外で癌と戦った経験をまとめたもの。「戦った」というと壮絶な感じがしてしまうけれど、登場人物のセリフが関西弁に翻訳されていることや、著者自身の関西弁によるツッコミなどもあり、重さの中にも軽快さがある。コロナ禍と重なったこともあり帰国が難しく、カナダのバンクーバーで癌の治療をすることになる、というのが大筋なのだが、読みながらいろいろなことを考えさせられた。時々織り交ぜられた他作品の引用もアクセントになっていて、深い思考へと導かれる感覚もあった。

昔に比べて治る確率がどんどん上がってきているとはいえ、いまだ死を連想せずにはいられない癌という病。実際に罹患した人でないと分からない不安、戸惑い、怒り。生き方とは関係ないと頭では理解しつつも「どうして私が…」と思ってしまう瞬間など、西さんの心の動きが赤裸々に語られている。そんな西さんを支える友人や家族の連携がすばらしい。こんなふうに支え合って生きていけたらと思う。そして、日本とは違うスタンスで西さんに寄り添う医療関係者たち。そんな周りの人たちへの西さんの感謝の気持ちが文章から溢れ出ている。

私自身は、遠方に住む母が昨年癌を患い、今も治療を受けている。だが時々帰省すると、少し痩せて、動きがゆっくりではあるものの、これまでとあまり変わらないようも思える。心配かけまいと大丈夫なふりをしているのかもしれない。その辛さや不安は、やはり当事者にしか分からない。こちらは想像力を働かせて気持ちに寄り添うしかない。だから、当事者である西さんが、治療の成り行きや気持ち素直に語っているこの本は、見守る側の「どうしてあげたらいいか分からない」気持ちに道筋を示してくれるものにもなると思う。



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