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死ぬまでにつくりたい100の本と埋名著=my名著 Epi.7 100歳が射程圏内に入った食文化エッセイストが、現役で働き続けるため心がける誰もが実行可能な食生活

御年92歳、永山久夫さんの新刊を編集しました

 NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる!』で、食べもの関連のコメンテーターとしてもっとも登場回数の多い永山久夫先生。長年食文化史研究家として活躍され、著作もたくさんありますが、最新刊『食べて、100歳 サプリメントより滋養食』(きずな出版)を刊行されました。

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 古巣の版元時代から知己を得ておりましたが、ようやく編集のお手伝いをさせていただいたのがこの新著です。今年(2024年)92歳になられた永山先生は、常日ごろより「80の手習い、90の間に合う」と話し、80歳からでも勉強すれば、90歳で花開くことを自ら実践し証明してくれます。

 福島師範学校を中退して、漫画家として東京へ来ますが、もともと古典籍に通じていたこともあり、新聞や雑誌に食べものについてエッセイを書くうち評判になって、いつしか食文化史研究が本業になった永山さん。自分でも古代食の復元をしており、ご自宅へお邪魔するようになった10年ほど前、戦国武将が保存食として縄に味噌を擦り込んだものを賞味しました。もうすでに7~8年熟成させたものだったのですが、恐る恐る口にすると、「これは酒の肴になるな」と思ったものです。

いくつもある曲がり角で迷うのですが、永山先生手書きの表札が遠くからも見え、目印になります
いつもにこやかに「よく来てくれました」と出迎えてくれます

平安時代、江戸時代の食物誌をひもとき、伝統食のパワーに注目

 サラリーマンだった1990年代、バブルが弾ける前後とはいえ、まだイケイケどんどんの余韻があり、いまは死語となりつつある〝午前様〟生活で、打合せと称しては毎晩酒を呷り、タクシーで深夜帰宅。必然的に翌日昼ごろ起きて仕事へ行くの繰り返しでした。一日16時間食事を摂らない「オートファジーダイエット」がブームですが、昼まで寝て午後から食べていた身としては、「オレは昔からオートファジーダイエットをやってたもんね」と嘯いています。
 
 不規則な生活をしていたせいか、健康には留意していて、この甘味料は発癌性の疑いがあり、日本では認められているが、FDA(アメリカ食品医薬品局)では認可されていない、とか、フランス人に心臓疾患が少ない〝フレンチパラドックス〟の謎は赤ワインのおかげ、など、聞きかじりの蘊蓄をひけらかしていました。30代~40代のころ、週に数回は焼肉屋へ行っていましたが「赤ワインとチョコレートでポリフェノールをいっぱい摂っているから大丈夫」と、これまた脳天気に吹聴していました。

 これらの生半可な知識を、きちんと最新の科学的エビデンスを交え体系的に教えてくれたのが、永山先生の著作でした。古典籍に明るい先生の記事を読むと、昔から日本人は普段の食生活から体に良いものを見分けてきたことがわかります。江戸元禄時代に書かれ、あらゆる食材の効能を説いた『本朝食鑑』をはじめ、現代にも通用する秘訣を紹介しながら、古い文献から学術誌、新聞、雑誌まで、いまも日々インプットしている様々な情報を盛り込み、アップデートさせています。

古来より食されたものこそ健康長寿を実現するスーパーフード

 2013年、ユネスコ無形文化遺産に、日本伝統の食文化が登録されました。この本では、長寿王国を支えてきた80種にも及ぶ食材&料理を紹介しています。古い書物からひもとかれる該博な知見は、食についての雑学として読んでも楽しめます。

 また、戦国時代の覇者・徳川家康をはじめ、NHK大河ドラマ『光る君へ』で話題の紫式部や清少納言、世界三大美人のクレオパトラや小野小町、90歳まで現役として活躍し世界にもその名がとどろく浮世絵師・葛飾北斎の好物だったものなど、歴史の偉人たちの食卓にも言及しており、思わず他人に話したくなる面白さだと手前味噌で恐縮ですが断言しておきます(笑)。いつものように、一部を引用します。 

花を咲かせる100歳食のすすめ

 現在の御高齢の皆さんは、発想力も能力も体力もあり、意欲の高い方がたくさんいらっしゃいます。
 これからは、オールドマンが時代をリードする世の中がやってくるに違いありません。なにしろ、経験を積んでいることが何よりの強みです。
 しかも、ウォーキングなどのスポーツのおかげで筋肉もしっかりしていて、いつもニコニコ、親切です。
 高齢者が活躍する世の中に流れる気は、とっても和やかなはずですから、人々の脳に幸せホルモンのセロトニンが出やすくなります。セロトニンは心を安らげ免疫力を強くしますから、病気も少なくなって、皆さんがもっと長
生きするようになるはずです。
 人生のオールド期に、満開の花を咲かせるための食べる知恵をご紹介いたしましょう。
 
【その1】チャレンジ精神を高めるブタ肉のショウガ焼き
 肉を食べると男性ホルモンのテストステロンの分泌が高まり、チャレンジ精神、つまり意欲が高まります。ショウガには、体を温め、男性ホルモン効果を高める作用があります。
 
【その2】納豆には酢を混ぜる
 納豆に酢を少量たらしてからかき混ぜると、ふわふわになってとっても美味に。納豆アミノ酸の若返り作用やナットウキナーゼの血液サラサラ効果を、酢の酢酸やクエン酸などがいっそう高めてくれます。 
 
【その3】カツオ節茶は幸せホルモンがたっぷり
 幸せホルモンのセロトニンの原料はトリプトファンというアミノ酸で、カツオ節にたっぷり。ちょっと大きめのコーヒーカップに、お好みの量のカツオ節を入れて熱湯を注ぎ、2~3分置いてから飲みます。刻みネギを入れてもよし、醤油や味噌などで味をつけてもよいでしょう。一服、二服 ……。いつの間にか、セロトニン効果でニコニコしているはず。
 
【その4】もっと美しくなるための味噌汁
 美人ホルモンと呼ばれ、高齢になっても若さを保つ上で欠かせないのが、女性ホルモンのエストロゲン。その分泌には大豆に含まれているイソフラボンが効果的なことは、よく知られています。
 大豆を発酵させて作ったのが味噌ですから、味噌汁にもたっぷり含まれ
ています。豆腐を多めに用いたワカメ汁が、より美容効果を高めるでしょう。
 
【その5】そば好きは長生き
 不老長寿に役立つのは、そば特有のポリフェノールのルチンという成分。毛細血管の強化作用があり、血液がサラサラになって血行が良くなります。
 ルチンには、記憶力をアップするという、脳との関わり合いでも注目されています。ルチンの毛細血管強化作用は、ビタミンCがあるとさらに強くなりますから、薬味に大根おろしやネギなどを添えるのは理にかなっているのです。
  そばには長生き成分が多く、タンパク質やビタミンB1、ビタミンE、葉酸、マグネシウム、亜鉛、食物繊維などが豊富に含まれています。

【その6】マグロで創造能力アップ
 脂のよくのった新鮮なマグロは美味なだけではありません。記憶力や集中力、学習能力、創造能力などを高める上で、貴重な栄養をたくさん含んでいるのです。
 まず脳の機能との関連で注目されるのがDHA(ドコサヘキサエン酸)です。脳の神経細胞に非常に多く含まれていて、情報の伝達機能を担っています。DHAが不足すると、脳の情報伝達がうまくいかなくなり、記憶能力や判断能力、創作能力などが低下してしまいます。
 歳を取るにつれて、脳内のDHAが減っていくことが判明しており、マグロなどの魚食で、この成分を補給すれば、脳の機能低下だけではなく、認知症などの予防にも役立つ効果が期待されています。
 したがって、花のオールド世代には不可欠の食材といってよいでしょう。
マグロにはDHAばかりではなく、血液のサラサラ効果で注目のEPA
(エイコサペンタエン酸)もたっぷり含まれています。
 
「老木に花が咲く」とは衰えかかったものが再び栄えることのたとえ。オールドになっても花をどんどん咲かすことが可能な時代です。チャレンジが当たり前になりました。
 停滞ではなく、チャレンジの時代。自分で自分の健康を管理する時代の到来が、新しい食文化を生むことになると思います。
 これから始まるのは、「美味しい、長生き、スマイル」の時代なのです。
 外食するにしても、より美味しくて、その料理を食べると長寿効果もあり、食べ終わった時に、思わず会心の「スマイル」が浮かぶ食事です。
 街にも家にも、常に満足感にあふれた「スマイル」があったら、これ以上素晴らしいことはありません。

【その7】鶏の胸肉料理を食べて長生き美人 38
 鶏の胸肉には、カルノシンという細胞の酸化を防ぐ抗酸化成分が多く含まれています。酸化とは、言ってみれば細胞のサビで老化が進むこと。その老化を防ぐのがカルノシンで、若返り効果を高めて長寿にも役に立ちます。胸肉に含まれるアンセリンという成分も脳内の血流を良くして、脳の働きを活発にする作用をしています。

【その8】麦めしは新時代の長生きごはん
 麦めしが、健康に良い主食として流行しています。さっぱりしていて食べやすく、満腹感が持続して、過食を防ぐ効果があるからです。麦にはビタミンB1が多く、疲れ解消に働き、脳力アップに役立つ点がスマホ時代に合っているのかもしれません。また水溶性食物繊維が多く、腸内善玉菌の餌となって免疫力を高める作用をしています。
 
【その9】ショウガ味噌、ニンニク味噌で免疫力を強化
 どちらも昔から作られてきた健康強化に効果の高い、現代のサプリメントのような即効性のある、味のよい焼き味噌です。
 まずショウガ味噌から。
 味噌にすりショウガと砂糖、日本酒少々を加えてよく混ぜ、フライパン
にごま油をたらして加熱、練り上げて出来上がり。ショウガの辛み成分には、発汗や殺菌、免疫力の強化作用があり、ご飯のおかずにしたり、熱湯に溶かして用いると体が温まり、免疫力強化に役立ちます。
 ニンニク味噌の作り方もほぼ同じです。ニンニク特有の臭気もほとんど無く美味。疲れを防ぎ、免疫力、抗酸化力をアップするアリシンという成分がたっぷり。血栓やガンの予防などでも期待されています。男性ホルモ ンのテストステロンを増やして、意欲を高めて長寿力を高めます。 
 
【その10】とろろ昆布を食して長寿
 とろろ昆布は、サプリメントに引けを取らない、長寿力強化に役立つ実力派の即席フード。ご飯を包んだり、お椀に調味料と一緒に入れて熱湯を注げば、そのまま食べられるのですから簡単です。
 とろろ昆布の3分の1は食物繊維で、水溶性のアルギン酸とフコイダンが多く含まれています。これらは、とろろ昆布を食べた時に感じるヌルヌルの正体です。
 どちらも体内の水分を吸収してふくらみ、腸内でかさを増やして、排便を促進する作用はよく知られています。抗酸化ビタミンのCとEも豊富で、老化を防いで長生きする上で、とっても頼りになる食材です。
 とろろ昆布をそのまま食べても美味なのは、出汁にも用いられる昆布に、うま味成分のグルタミン酸が多いからに他なりません。短く切ったとろろ
昆布とカツオ節を、アツアツのご飯にのせて天地返しをして蒸らし、醤油をたらしてワサビを添えると、美味で健康によい「とろカツ飯」になります。
 
【その11】クルミを食べてぐっすり安眠
 クルミの約15%はタンパク質で占められていて、その中にアミノ酸のト
リプトファンがあります。幸せホルモンのセロトニンの原料で、夜になるとセロトニンは安眠をもたらすメラトニンに変化。したがって、クルミは〝安眠フード〟でもあるのです。
 
【その12】腸の環境を整えるゴボウ
 ゴボウの黒っぽい皮の部分には、強い抗酸力を持ったクロロゲン酸が多
く、若返り作用に加えて疲労回復効果も期待できます。また水溶性と不水 溶性、両方の食物繊維が多く含まれていて、腸内環境を整える上で理想的 な食材といってよいでしょう。

『食べて100歳、サプリメントより滋養食』(2024年、きずな出版)

サプリメントに頼らない和食中心の生活で100歳をめざす!

 この本には、健康長寿に欠かせない成分が随所に出てきます。幸せホルモンのセロトニンを作りだすアミノ酸・トリプトファン、やる気が起こる男性ホルモンのテストステロン、美人ホルモンと呼ばれるエストロゲン、血行が良くなるポリフェノールのルチン、認知症予防効果が期待できるDHA(ドコサヘキサエン酸)、血液がサラサラになるEPA(エイコサペンタエン酸)、細胞の酸化を防ぐカルノシン、脳の働きを活発にするアンセリン、強い抗酸力を持つクロロゲン酸……。どうですか、これらが身近な食材で摂取できるのです!

ご自身の絵に囲まれた部屋。会話の合間は「ワッハッハ」と大声で笑い、元気をいただきます

世界に誇れる新たなライスタイル〝長寿力〟を輸出する時代

 永山先生の目標は、次のステージ「90の手習い、100の間に合う」に入りました。技術大国として優れた工業製品を輸出してきた日本ですが、〝失われた30年〟を経て国際力が衰退。GDP(国内総生産)もドイツに抜かれ、来年(2025年)にはインドにも抜かれ世界第5位になる見込みです。

 日本人の平均寿命は男女合わせて84.3歳(世界保健統計2023年版)で世界第1位です。永山先生は、「これからは〝長寿力〟こそが、新たな産業として世界へ輸出する時代だよ」と力強く語ります。

 先生に触発されっぱなしなのですが、この投稿のタイトルも「死ぬまでにつくりたい10の本~」などとしみったれたことをいわず、今回から目標数を増やし、〝100の本〟にします。100冊達成するために長生きしなくちゃ!
 

 



 


 
 

 


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