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緑色に光る蛇腹

1996年5月19日(日)
「こころの傷は必ず癒える」を閉じて眠ろうとしたら、後頭部の辺りから、ぐうんと落ちていくような引力をかんじた。
緑色に光る蛇腹が浮かんだ。
イメージが次々に向かってくる。恐いような気がしたけど委ねることにした。
足が冷えきって、顔や胸の辺りは温か過ぎるほどになっていた。
わたしは生まれたとき泣かなかったというから、医者に足をつかまれて逆さ吊りされてぶたれたかもしれない。逆さまじゃ頭に血がいって足が冷えてしまう。
こんなことを考えていたら、どわーっと足に向かって血が流れるのをかんじた。いつの間にかとても気持ちのいい腹式呼吸をしていた。
(1997年5月19日にも緑の光)

「こころの傷は必ず癒える 抑圧された子ども時代に向きあう療法」
J・コンラート・シュテットバッハー著/山下公子訳
新曜社

*あの日は何か用事があったのか? 自転車でふだんは行かない方へ走っていた。知らない本屋さんを見かけて店の中に入った。どんな本があるかなぁと本の間をふわふわ歩いていたわたしの目をある文字が撃った。

❗「アリス・ミラー」❗

「アリス・ミラー」が推薦していると書かれた帯を巻いた本だった。
よく通っていた本屋さんの棚を見上げたとき、「魂の殺人」という題と副題、白地に水色が散った背表紙が目に飛びこんできたときも撃たれたようなかんじだった。震える心、本に手を伸ばした。水色は、血痕のようだった。副題は「親は子どもに何をしたか」

本を買い求め、がつがつ読んだ。
アリス・ミラーが真心から語りかけてくれる。遠い国に住む、わたしにはわからないことばを話すアリス・ミラーの存在を近くにかんじた。
訳者が山下公子さんじゃなかったら、まるで違っていたかもしれない。

いたんだ!!
この人は知ってるんだ!!

この人だけはわたしのこと「おまえはおかしい!」って言わない。
この人だけは味方だ。

そんな人がこの世にいたんた。
いるんだ。

21歳だった。

以来、アリス・ミラーの他の著作を読みたいとずっと思っていた。でも出会えなかった。
「ほんとに必要なものは向こうから来る」
このことばは橋本治の本に出てきた。ああ、そうだな、と腹の底の底から思った。だから時々、本屋さんか新曜社に頼めばいいんじゃない?って思わなくはなかったけど、結局取り寄せなかった。
「魂の殺人」から7年、「こころの傷は必ず癒える」の帯にアリス・ミラーの名を発見した。

「こころの傷は必ず癒える」を繰り返し繰り返しいったいどれほど読んだかわからない。読んで読んで、からだにしみこませたいことばはスケッチブックに書いた。帯はよれよれになってもうない。
この本が呼び水になって、アリス・ミラーの本が次々やって来た。

「魂の殺人 親は子どもに何をしたか」
アリス・ミラー著/山下公子訳
新曜社









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