十代/銀の町

1997年12月25日(土)
ここではのんびりすることは憎まれ、女であることは屈辱なのだ。みーんな濃いねずみ色の制服。



六助さんがわたしをある家にあずけました。そこの家でうたを習うのです。そこの家の、赤い服の、太った、おっかない化粧のお母さんは嫌がっていました。そこの家のお父さんは白髪混じりの静かなおじいさんで、お母さんは髪が黒くて強そうです。
そこの家のお母さんは嫌がっていても六さんにはよく思われなきゃ困るらしく、渋々引き受けざるを得なかったのでした。

六さんは八月の会でわたしが皆とうたえるようになるはずだ!と一人決めしています。そこの家のお母さんは無理だと思っています。
わたしは、よくわからない。わたしは貧弱な状態で、声もろくに出ません。だけど、うたえたらいいな、と思っています。
うたいたいな。
だから、そこの家のお母さんがあまり好きになれないけれど、習わせてもらいたいと思いました。

円い木の椅子に座っていると、小さな女の子が来て、その子はそこの家の子ですが、わたしに小紋を見せてくれました。それは渋味のある紫色で、竹林の紋様でした。風で竹の葉の鳴る音が聞こえてきそうでした。
それは昔、わたしがつくったものでした。
この子は覚えていてくれたんだ!
とてもうれしかった。
竹には白い短冊がたくさんついていました。文字は書いてありません、小紋をですから。本当は書いてあるのですが。

二着、着物を見ました。そこの家のお母さんとお父さんの作品でした。両方とも水のある風景だったと思います。とてもすてきでした。

三枚の写真を見ました。
銀の町に、行く必要がわたしにはありましたが、縁のない地でした。必要はあっても、まず行かれないと思っていました。でも、銀の町に住む男の人がわたしを好きになりました。わたしはお嫁になったらしいです。面白いと思いました。結局わたしは銀の町に来ることができた。その男の人が好きかどうかはわかりません。でも、まあ、いい、と思いました。わたしは銀の町にいる必要があるからです。

真っ黒の台所で、わたしはピンク色の何かに着いてしまっている油を落としていました。青い容器の洗剤をシュッ、すぐに黒い油が浮きました。
赤い服のその家のお母さん、義母が来ました。狭い台所ですから、電気製品のコードをどかせてわたしもよけていました。
ところがお義母さんはコードに足をとられそうになって、わたしをひどく非難しました。なんて非道いんだ!と、まるでわたしが転ばせようとしたかのように言い募るのでした。顔も、さも恐ろしそうにして。
苦しくて悲しくて、わたしは後ずさってしまいましたが、変だと思ったので言いました。
「お義母さんは、わたしが非道いことをしたように言いますけれども、わたしは何もしていませんよ。
お義母さんの目はわたしの向こうを見ています。
お義母さんに非道いことをした人は、わたしではありません。
お義母さんが怒っている相手はわたしの向こうにいる人です。
お義母さんの目は、わたしではない他の人を見ています」


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